哨戒ヘリのキャビンは、ローターの轟音と振動で満たされていた。
金属の壁に反響する音が鼓動のように身体を揺さぶり、シートに固定された刀使たちは黙って御刀の柄を握りしめていた。赤いランプが揺れるたびに、これから迎える死地の気配が否応なく胸に迫る。
その時、無線から流れた雑談めいた言葉が、緊張に縛られていた空気を一瞬ほどいた。
――「女版の沖田艦長だよww」
衛藤可奈美がヘルメット越しに首を傾げ、隣の姫和を見やる。
「ねえ、ひよりちゃん。さっきの無線……“沖田艦長”って、なに?」
姫和は目を瞬き、すぐには答えられなかった。彼女の知識には軍事や歴史は多いが、どうやらその名前は範疇になかったらしい。
「……私も、聞いたことはあるけれど詳しくは……」
代わりに声を上げたのは、腕を組んだまま壁にもたれる益子薫だった。
「おいおい、知らないのかよ。沖田艦長ってのは“宇宙戦艦ヤマト”の艦長だ。国民的アニメで、ジジイからガキまでみんな知ってる英雄さ」
「アニメ……の艦長?」と舞衣が目を丸くする。
薫は顎で頷き、言葉を続けた。
「そうだ。地球が滅びかけてる時に、ボロボロの身体で最後まで艦を指揮して戦った男だ。退路を断ってでも敵を叩き潰す覚悟を見せた、伝説の提督像ってやつだな」
キャビン内に沈黙が落ちた。
エレンが目を輝かせ、「スーパーヒーローみたいな人ね!」と声を上げる。
沙耶香は無言のまま瞳を伏せたが、その小さな手は御刀の柄をさらに強く握っていた。
「女版の沖田艦長……ってことは、さっきの山口司令官のこと?」可奈美が呟く。
薫は鼻で笑った。
「そういうことだろ。短魚雷まで撃たせるなんて、普通の指揮官じゃできねえ。あれは徹底的に敵を弱らせて、俺たちが安全に戦えるようにって覚悟の現れだ」
姫和が小さく息を吸い、静かに言葉を重ねる。
「……祖父譲りの血と、今の時代を背負う覚悟。その両方があるからこそ、あの人は“沖田艦長”と呼ばれたのね」
舞衣は複雑な表情で、ヘルメット越しに仲間たちを見回した。
「山口司令も……私たちも。未来を守るために戦う、同じ立場なんだね」
ヘリは激しい揺れの中を進み続ける。
可奈美は笑顔を取り戻し、皆に聞こえるように声を張った。
「だったら私たちは――御刀を持つヤマトの乗組員ってことだね! 一緒に戦えば、絶対に勝てるよ!」
エレンが「イエース!」と拳を突き上げ、薫も苦笑しながら「やれやれ、乗せられたな」と肩をすくめる。
沙耶香は顔を上げ、小さく呟いた。
「……必ず倒す。彼女が託した未来のために」
キャビンに再び赤い警告灯が点滅する。機内放送が「降下準備」と告げる。
誰もが御刀を握り直し、それぞれの心に“沖田艦長”の姿を重ねていた。
外の海はまだ荒魂の呻きを響かせている。
だが今や刀使たちの心には恐怖よりも、伝説の艦長と現代の指揮官に並び立つ誇りが燃えていた。
彼女たちが降り立つ瞬間、この戦いは刃によって決着する。