刀使ノ巫女 護国の御刀   作:山さん

8 / 13
刀使達の戦い

 

哨戒ヘリのドアが開かれ、夜の海風が怒涛のように吹き込んできた。

 下方では、艦隊の一斉射撃により弱体化した荒魂が、なお巨大な身をくねらせて海面を叩き割っている。鋼鉄の艦隊が削り取った外殻の隙間から、禍々しい瘴気が滲み出し、空気を震わせていた。

 

 「降下準備!」

 機内のランプが赤から黄へ、そして緑へと変わる。

 刀使たちは制服の上から纏ったストームアーマーのバックルを確かめ、胸元に吊るした御刀の鞘へと手をかける。

 

 可奈美が笑みを浮かべ、仲間たちに叫んだ。

 「行くよ! 私たちの出番だ!」

 

 舞衣が頷き、沙耶香は無言で瞳を燃やす。

 薫は軽口を叩く代わりに深呼吸し、エレンは「イエース!」といつも通りの明るさを見せた。

 姫和は最後に静かに言った。

 「……御刀で、この戦いを終わらせる」

 

 「Go!」

 パイロットの号令と同時に、六人の少女は次々と夜の闇へ躍り出た。

 

 降下ロープが伸び、彼女たちは一直線に荒魂の頭上へと降りていく。

 その途中で――一斉に御刀を抜いた。

 

 「――写シ!」

 

 六人の身体が光に包まれる。制服の上に装着されたストームアーマーが共鳴し、御刀の霊力が彼女たちの姿を刀使の真の姿へと変える。

 可奈美の白刃が風を裂き、姫和の御刀が夜を照らす。舞衣の大刀は力強く輝き、沙耶香の刃は冷たい光を放つ。薫の斧のような刀は重々しく唸り、エレンの双剣は稲妻のように閃いた。

 

 その光の柱は、艦隊の甲板からもはっきりと見えた。

 「写シ、発動!」 CICのオペレーターが報告し、乗員たちが息を呑む。

 神谷一佐が目を細め、口元で呟く。

 「……いよいよ本番だな」

 

 六人は海面ぎりぎりでロープを離し、荒魂の甲殻の上に着地した。

 巨体の表面は硫黄のような熱気を放ち、霊的な瘴気で肌を焼くようだったが、ストームアーマーがその侵食を防ぐ。

 

 「荒魂――ここで祓う!」

 可奈美が叫び、仲間たちが呼応する。

 

 荒魂の眼がぎらりと光り、触手のような腕が六人へと振り下ろされた。

 「来る!」姫和が声を上げ、全員が御刀を構える。

 

 刹那、鋼鉄と霊力が交錯した。

 可奈美の刃が最初の触手を真っ二つに裂き、舞衣が続いて巨大な突起を叩き落とす。沙耶香は背後に回り込み、鋭い一閃で瘴気の核を刻む。

 薫は重い一撃で甲殻を砕き、エレンが双剣を回転させながら切り裂いた。

 姫和は最後に前進し、御刀を振り下ろす。

 「――これが、私たち刀使の力!」

 

 光が荒魂の体を裂き、禍々しい瘴気が爆ぜ散った。

 艦隊の攻撃が切り開いた道を、今度は刀使が御刀で突き進む。

 この瞬間、鋼鉄の艦隊と刃の巫女が一つになった戦いが始まった。

 

荒魂はもはや瀕死だった。

 第1護衛隊群の徹底的な攻撃で外殻は砕け、無数の裂け目から瘴気が噴き出している。それでもなお、本能だけで蠢き続けるその巨躯は、海そのものを揺らす脅威を保っていた。

 

 「ここで終わらせる!」

 衛藤可奈美が叫び、御刀を構え直す。背中に熱が走り、八幡力が全身を包んだ。蒼白の光が御刀を通してあふれ出し、刃が震えるように輝く。

 

 「可奈美!」姫和が横に並び、迅移の構えを取る。

 「一気に核を斬るわよ!」

 「うん!」

 

 次の瞬間、二人の身体が空を裂いた。

 姫和の迅移は矢のように荒魂の甲殻を駆け抜け、可奈美の八幡力を帯びた一閃がその軌跡に重なる。

 「――っ!!」

 荒魂の核を守っていた瘴気の壁が一瞬で裂け、中心に脈打つ紅の光が露わになる。

 

 「今だ!」

 舞衣が大刀を振り下ろし、薫が重い斬撃で核の外殻を砕く。

 沙耶香の刃が迷いなく突き刺さり、エレンの双剣が閃光のように核を刻んだ。

 最後に姫和と可奈美が同時に振り下ろす――御刀が交差し、轟音と共に核は粉砕された。

 

 荒魂は悲鳴を上げ、全身を震わせて崩れ落ちる。

 海が白く泡立ち、暗い瘴気が霧散していく。

 

 

---

 

 「……終わった」

 舞衣が息を吐いた。だが、すぐに冷静な声がCICから無線で響く。

 「こちら刀剣類管理局回収班。ノロ回収に入る」

 

 直後、回収用の特殊ポッドを搭載した無人機が降下し、海面に漂うノロを迅速に吸収・封印していく。

 「回収完了……安全圏に移送します」

 

 刀使たちは互いに顔を見合わせ、御刀を納めた。制服の上に重ねられたストームアーマーはまだ微かに光を放っていたが、その輝きも次第に落ち着いていく。

 

 「全員、よくやった!」

 ヘリから降下索が再び下ろされる。

 六人は順番にフックを掛け、揺れるロープを登り始めた。海面から次第に遠ざかり、黒々とした荒魂の骸を眼下に収めながら、彼女たちは上空へと引き上げられていく。

 

 キャビンに戻った時、可奈美は大きく笑った。

 「みんな、おつかれ! やっぱり私たちで決められたね!」

 薫はため息をつきながらも、口元を緩めた。

 「はぁ……全く、お前はどこまで能天気なんだか」

 

 姫和は窓越しに夜の海を見下ろし、静かに呟く。

 「……荒魂を祓うのは、やはり私たち刀使の役目。海自の力と共に戦えたこと、忘れないわ」

 

 ヘリのローター音が再び轟く。

 東シナ海の夜は静けさを取り戻しつつあったが、そこに残されたのは――鋼鉄の艦隊と刃の巫女が共に刻んだ新たな戦史だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。