ローターの轟音が東シナ海の夜空を切り裂く。
第1護衛隊群の上空を旋回していた哨戒ヘリ三機が、任務を終えて帰還を開始した。機内では刀使たちが御刀を納め、制服とストームアーマーに身を包んだまま、互いの顔を見合わせていた。
可奈美は大きく息を吐き、笑みを浮かべる。
「……ふぅ! やっぱりみんなで力を合わせれば負けないね!」
隣の姫和は無言で頷いたが、その眼差しは柔らかく、確かな信頼を込めていた。
ヘリは次々に「いずも」の甲板に着艦した。
クルーが駆け寄り、索具を外す。甲板の灯火が刀使たちを照らし出すと、見守っていた乗員たちから自然と拍手が湧き起こった。
「よくやったぞ!」
「刀使の皆さんに感謝!」
その声は歓喜と敬意の入り交じったものだった。
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同刻、艦内CIC。
赤く照らされていた照明が通常灯に切り替わり、張りつめていた空気が少しずつ解けていく。
司令官席に座る第1護衛隊群司令官・山口鈴花は、ヘッドセットを外し、深く息を吐いた。
「……状況終了」
静かな声が回線に響く。
「全艦へ通達。対潜・対水上戦闘用具納――」
各艦から次々と返答が返ってくる。
「こちらむらさめ、用具納完了」
「こんごう、同じく完了」
「まや、弾薬残数報告に入ります」
戦闘の名残を確認するその報告は、同時に「生還」の証でもあった。
鈴花は手元の状況盤を見渡し、すべてが静かに収束していくのを確認した。
艦隊は健在。刀使は無事帰還。
任務は完遂された。
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CICを出ると、鈴花の耳にローター音が届いた。
艦橋を抜け、甲板へと足を運ぶ。海風はまだ荒魂の瘴気を微かに含んでいたが、夜空にはもう清浄な星が瞬いていた。
甲板中央には、哨戒ヘリから降り立った六人の刀使が立っていた。制服の上にストームアーマーを纏い、戦いの汗に濡れながらも堂々と御刀を抱えている。
衛藤可奈美が一歩前に出て、はにかんだ笑顔を見せた。
「ただいま戻りました!」
その声を聞き、鈴花は歩み寄った。
甲板に集まった艦の乗員たちが、自然と道を開ける。司令官の足音が夜の静寂に響き、刀使の前で止まった。
鈴花は一人ひとりの顔を見渡し、静かに、しかし力強く言葉を紡いだ。
「……お疲れ様」
その声には、母が娘に向けるような温かさと、指揮官が兵に示す誇りが同居していた。
「よくやってくれたわ。あの荒魂をここまで弱らせても、最後に祓えるのは御刀を持つあなたたちだけだった。……私たち海上自衛隊にできるのは、あなたたちが戦える舞台を整えること。だが、その舞台で命を賭けたのは、あなたたちだ」
可奈美は「えへへ……」と笑い、舞衣は「そんな……私たちは役目を果たしただけです」と首を振った。
だが姫和は真っすぐ鈴花を見つめ、静かに答えた。
「……私たちが戦えたのは、あなた方が守ってくれたからです。だから、これは一緒に勝ち取った勝利です」
鈴花は一瞬だけ目を細め、口元にわずかな微笑を浮かべた。
「……そうね。一緒に勝った。だからこそ、意味がある」
その瞬間、甲板に再び拍手が広がった。
乗員たちと刀使たち。鋼と刃。異なる役割を担いながら、同じ戦場を駆け抜けた仲間としての拍手だった。