ロボット学園惑星にて ー目指せ剣豪、番狂わせな近接特化ー 作:明田川
ロボの絵もあります。
人類が宇宙へと生息圏を広げて幾星霜、地形に左右されず活躍出来る人型兵器こと、バトルドレスが陸戦の花形として運用されていた。
しかし主戦場は宇宙であり、本当の主役は宇宙艦隊だった。陸戦は星への被害を抑えるために行われることは殆どなく、バトルドレスの戦闘に関するノウハウは失われつつあった…
「さあ此度の決闘は注目の御二方、いざ入場です!」
そこでパイロットの育成過程にて、積極的に戦い合う方式を取ることにした。学生や訓練生を複数の団体に分け、団体間で競わせるのだ。学生はパイロット、整備士、オペレーターと志望する役職に振り分けられ、全員で課題をクリアしていく。
「北ゲートから現れたのは第三校舎所属、ケイト・ターナー。そして駆るのは同校舎所属機、白騎士とも称されるエーリスだァ!」
今期の課題は一対一での模擬戦において、勝敗によって振り分けられるポイントをより多く稼いだ順に成績がつけられるというもの。北ゲートから対戦相手より一足先に入場した機体は連勝を重ね、注目の的となっていた。
「エーリスは第三校舎以外でも広く採用されている汎用教習機ですが、元々が実戦用の機体であることもあり、決闘形式の模擬戦でも非常に高い性能を発揮しております。特に狭い競技フィールドで頻発する近接戦において、見かけ以上に分厚い装甲が役に立っていますねぇ!」
エーリスは軍においても多数の採用実績を持つ優秀なバトルドレスだ。シルエットは絵に描いたような人型で、奇抜な面も少ない。少々ヒロイックな見た目から人気も高く、整備もしやすい部類に入る。
「ケイト氏はこの装甲を上手く使うことに長けていますね、特に前回の試合では防御を一度も失敗しないという鉄壁っぷりを見せてくれています」
「特に彼女は機体左側面の装甲に改造を施し大型化させています、右手に銃を持って構えれば正に隙なし!完璧な防御姿勢を取れるというわけですよ!」
実況席は盛り上がっている、ケイトと呼ばれるパイロットがどれほどの腕かを証明するかのようだ。そして一通り語り終わるのを待っていたかのように、南のゲートが開いた。
「すまない、少々調整に手間取った」
パイロットの一言と共に現れたのは、刀を携えたバトルドレスだ。エーリスよりも一回り背が高く、肩幅は更に二回りは大きい。鋭角的な装甲は防御力よりも機動性を重視したことの現れで、頭部はセンサーの塊であることを示すかのように、レンズが露出している。
「南ゲートから現れたのは第二校舎所属、ミナミ・カネシロのアローヘッドだぁ!」
「ハンマーヘッドを元に、近接格闘戦に特化させた改修機ですね。最新ブロックのエーリスと比べると30年も前の機体ですが、単純な機体性能であれば劣ってはいません。特に推進器の推力で言えば1.5倍、十分な強みはあります」
「大柄な機体に見合わぬ高い機動性をこれまでの決闘で見せつけてくれてますからねぇ、なんとあのブレードを受け切れるパイロットはこれまで現れていない!」
「問題は連戦続きで機体側に無理をさせているという点ですね、装甲も損傷が目立ちます」
第二校舎はエースと呼べるパイロットに恵まれず、近接戦に特化したアローヘッドとそれを唯一操れる一人の男に頼っているのが現状だ。大量に流通しているエーリスと違い部品の確保も難しく、今回の決闘では中々苦しい状況にまで追い込まれている。
「貴方のアローヘッドがそこまで傷付くとは、中々見れない姿でのご登場ですね」
「駆動系にダメージはない、腕が動けば十分さ」
パイロット二人は言葉を交わし、位置につく。決闘のフィールドは円形で障害物は少ない、そして広くもなく、直径は10キロ程度だ。特別なギミックもなく、純粋に実力のぶつけ合いとなる。
「双方が位置につきましたねぇ、では合図を!」
『カリキュラム12に則り、模擬戦を行います。開始まで5、4、3…』
実況席からの指示で始まった人工音声のアナウンスが響く中、二機は相対する機体のことを考えていた。二人のどちらがより深く思考を巡らせていたかというと、ケイトの方だった。
「ロングブレードは流石に補給済み、替え刃切れは狙えないか」
アローヘッドの主兵装は鞘に収められた片刃の剣、ロングブレードだ。本来ならバトルドレスの装甲であっても容易に切り裂くが、訓練仕様はなまくらだ。機体の重要区画に設置された分厚い複合装甲や、強固な機体フレームを切断するだけの性能が無い筈だった。
「目の前に居るのが例外でなければ、あのような玩具…」
だがミナミ・カネシロの技術は、フレームの両断を可能にする。複合装甲は無理でも、それは機体のコックピットを含めた一部にしか存在しない。競技用のなまくらではやれて数回だが、彼はそのために替刃を用意していた。
───忌々しい、彼さえ居なければ
ケイトの心には彼の技術に対する純粋な賞賛と共に、憎しみや嫉みに近い感情が渦巻いていた。何故そう思うのかは分からないが、即座にそう感じた以上、それが彼女の本心なのだろう。
『…2、1、開始』
合図と共に二機が動き出し、最寄りの障害物へと身を隠す。障害物は巨大な人型兵器すらも影に収められるだけの大きさを持ち、形は縦に長い四角柱だ。ある程度の耐弾性を持ち、大抵の攻撃手段では裏に隠れる機体に届かない。その中で先攻を取るのはケイト、使い慣れた武器を相手に向けた。
「先手は頂くぞ、頭は抑えさせてもらう!」
「なんだよ熱くなっちゃってさァ、そうカッカする理由でも?」
「軽口を叩く暇があるか、まだ余裕だな」
ケイトの愛機であるエーリスだが、主兵装として指向性エネルギー兵器を搭載している。所謂荷電粒子砲であり、より馴染み深い言い方をすればビーム砲だろうか。加速されて飛び出した粒子は膨大なエネルギーを抱え、触れた大気をプラズマ化させながら直進する。
「おっと」
しかしアローヘッドはそれをひらりと避け、反撃の姿勢へと移る。両手にはエーリスのようなビーム砲は装備されていないが、この機体には背中に武装コンテナを背負っていた。四つあるハッチの一つが開き、中から連続してロケット弾が放たれた。
「弾頭は小さい、牽制用か!」
「だからって直撃を喰らってもいいのか?」
「チッ…」
エーリスが横に跳び、最小限の動きで飛来物を避けようとする。しかしミナミは最初から直撃させる気などなかったらしく、ロケット弾は避けられる前に弾頭を炸裂させた。時限信管か、ケイトは二度目の舌打ちをしつつペダルを踏み込んだ。
爆炎と破片がエーリスを襲うが、装甲の分厚い左腕を楯にして強引に前へ出る。この程度で損傷するような作りではない、それよりもアローヘッドを近付けさせないことが重要だ。この攻撃は接近するための布石であり、それ以上のものでは無い。
「やっぱり効かないか、まあ一瞬でも時間を稼げたから…」
「花火で遊ぶなんて、まだそんなお年で?」
「良しとするよと言いたかったけど、キレてるなぁ」
ビーム砲はアローヘッドの装甲を一撃で破壊出来る性能がある、しかしそれは一定の角度で直撃した場合のみだ。この機体がエーリスと比べて装甲を薄く出来たのは、優れた対ビーム防御技術によるものであり、角度が付けられた機体形状もそのためだ。
ミナミは慣れたと言わんばかりに機体を動かし、肩でビームを受けた。貫通することはなく、粒子はそのエネルギーを装甲に伝える前に上へと逸れて散ってしまう。類稀な機体制御技術の成せる技だ、彼はこれでビーム砲頼りのエーリス乗りを何度も狩って来た。
「並のパイロットなら今頃穴だらけですが、まあ撃たれるのばかり上手くなって」
「お褒めに預かり光栄だね、そっちもわざと弾き易い弾を撃ってくれてるのかい」
「あら、弾き難い弾を混ぜてるんですけど…お気付きにならない?」
距離を詰めるアローヘッドは全てのビームを弾いて凌いでいたが、遂に直撃を受けた。損傷箇所は左肩、辛うじて駆動系にまでは被害が達していなかった。ビームの照射時間を絞り、僅かに銃口をずらしての射撃。一発目が弾道に残すプラズマを目隠しに使い、装甲を撃ち抜いたのだ。
「…久しぶりに見たな、その手の撃ち方は」
「このままその機体を解体して差し上げます、取り外す順番くらいは聞いてあげてもいいですよ」
「へぇ、それはどうも」
アローヘッドが前進し、エーリスが後退する。単純な推進力と速度は追う側が勝るが、逃げる側は射撃による妨害で相手の速度を殺す。しかし追う側の方が段々と距離を詰めている、ビームへの対処もキレが増した。
「対応された、この一瞬で!」
「久しぶりに見たと言った筈だ、二度目はないさ」
ビームを弾きながら障害物を蹴り、重心から遠い脚部の推進器で機体を回す。ミナミの機体は宙を舞い、三次元的な軌道で攻撃を避けた。ビームは機体を捉えられず、ケイトは火器管制システムの自動照準を切った。そして自らの感覚を頼りに銃を構え直し、操縦桿のトリガーを引いた。
「終始堅実な立ち回り、やり難いよ」
「褒め言葉として受け取っておく」
ミナミが手慣れた手つきで操作するのは、エーリスよりも使い難そうな形をした操縦桿だ。明らかにボタンやスティックといった入力装置が多いが、その中の一つを押すとコンテナのハッチが再度開いた。
中に納められていたのは火薬式の機関砲で、コンテナに収めるために切り詰められた銃身からは派手な発砲炎と共に砲弾が打ち出された。
「実弾兵器!」
「時代遅れの、ね」
火薬式の兵装はビーム兵器と違い、莫大な電力を必要としない。主兵装として使わないのであれば機体への負担が少なく、今でも限定的だが使用が続く。それに砲弾が敵に命中した際、与える衝撃も馬鹿にはならないものだ。
「照準が定まらない、あんな立体機動中に当ててくるなんて…」
「やっと間合いだ、長かった」
推進器への負荷を抑えるためにして来なかった全力噴射、それを眼前に迫る今こそ使う。アローヘッドはその名の通りに加速し、空中から地上に居るエーリス目掛けて突っ込んだ。だが、それに対して無策で応じるケイトではない。
「私が、この私が大人しく斬られると思っているのか!」
「思いませんとも!」
左手に握られたのはエーリスが膝の格納ブロックに装備する、折り畳み式のナイフだ。こんなものでも訓練仕様のロングブレードなら使い道がある。機体に刃が触れる前にナイフで傷を与えれば、フレームを切断する際の力に耐えられずに折れる。
「これで!」
シュミレーションだけではなく、実物のロングブレードを調達して実験済みだ。しかしナイフは刃渡りが短い上に強度も低い、少しズレるとマニピュレーターを破壊されるだろう。
「考えたな」
関心と驚き、そんな感情が混ざった声色だった。ミナミはコックピットの中で口角を上げ、お望み通りにと言わんばかりに刀を振り下ろした。想定通りの結果だった、ナイフから受けた傷によって二つに折れた刀はエーリスの首を刎ねることに失敗した。
───浮遊感?
ケイトの想定外はその後だった、機体が浮いたのだ。刀を横薙ぎに振ったかのように見せ、その実本命は回転の力を乗せた蹴りだったのだ。蹴り飛ばされ機体が浮くほどの衝撃、アローヘッドの脹脛に装備された推進器はその推力を遺憾無く発揮した。
「がッ!?」
「硬いな、上手く入ったと思ったんだが」
盾に使っていた左腕が蹴りを受けて損傷したが、動かそうとすると異音が鳴るだけだ。大きなトルクと反応速度を必要とするバトルドレスの関節部だが、エーリスはモーターによる駆動方式を採用している。コンパクトで強力、だが格闘戦においては不向きとされている。
「フレームが歪んで駆動系も損傷…動かしても空転する」
「こっちも無傷じゃないがね、エーリスは無駄に頑丈で困る」
対するアローヘッドは人工筋肉での駆動方式を採用している。これは関節の構造が単純で壊れにくく、多少損傷しても人工筋肉が残っている限り動作する。その代わり内部の容積を駆動系が圧迫する上に全身に筋肉を張り巡らせる必要があるため、拡張性が低い上に整備性も悪い。
「片腕を損傷して重心が狂っても動くか、早く終わらせないとこっちもキツいな」
「終わらせるだと、蹴り一つ入れただけで!」
ミナミは複雑な操縦系統を慣れた手つきで使って見せ、新たな刃を鞘から取り出した。張り付くように距離を詰めるが、片腕でも相手は果敢に立ち向かって来る。特にこの近距離でビーム砲を撃たれると、流石に逸らす時間もない。
「これ以上機体を酷使すると、頼りの整備班が泣くんでね」
「…失策だった、ナイフ一本で対処しようなどと考えたことは!」
「おっとマジか」
片腕を失ったエーリスはビーム砲を投げ捨て、右手で2本目のナイフを引き抜いた。そして新たな刀を携えたアローヘッドと真正面からぶつかり合い、腕が飛んだ。
エーリスの右腕がすれ違い様に肩から切り飛ばされたのだ。しかし飛んだ腕にはナイフが握られていない、固唾を飲んで見守っていた実況席もそのことに気が付く。
「最後にまあ、手痛い一撃を」
そのナイフはアローヘッドの胸部装甲に突き刺さっていた。しかし致命打には程遠く、攻撃手段を失ったエーリスは潤滑油や冷却水を関節部から流しながら振り返った。
そこには刀を上段に構える相手の姿があり、ケイトは3回目の舌打ちをしながら機体の首が刎ねられるのを見届けた。
「…き、決まったァ!アローヘッドがエーリスに対して介錯を決めました!」
全武装喪失及び、機体の損傷率が規定以上。満身創痍となったケイトの機体は安全のため撃破判定を下された。
「双方高度な近接戦闘の応酬となりましたが、非常に見るものが多い試合で動体視力が追いつきませんでした」
「これはこの後の解説・考察も濃い内容になりそうで楽しみですねぇ!」
決闘が終わったことで、実況席からの声が聞こえるようになる。双方に情報を与えてしまうため、試合中は聞こえなくなるようフィールド側が設定しているのだ。
自走出来るギリギリのエーリスは少しふらつきながらゲートへと帰るが、それに対してアローヘッドはその場で膝を付いた。
「…おや?」
「マシントラブルですかね、連戦でしたから無理もないかと」
「回収車両が向かいます、ここまで薄氷の上の勝利だったとは…」
注目の決闘だったが、勝利したのはミナミ・カネシロとなった。下馬評としては堅実で敵を近寄らせないケイトが有利に進めるのではないかと目されたが、それを覆した形となる。
しかしアローヘッドは連戦に次ぐ連戦、そして最後の一撃が祟ってこれ以降の出場を取りやめていた。
「…一ヶ月は無理か、予備機は?」
「パーツ取りに使っちゃって動きません」
汚れが目立つ作業服姿で現れたのは、アローヘッド専属の整備班だ。回収車両によって移送された機体は正に疲労困憊といった状態で、ナイフの一撃によって吸気口のファンが停止、ジェネレータやラジエーターがエラーを吐き、緊急停止したということらしい。
「スポンサーからの支援が無事に届いていれば、ここまで苦戦しなかったんだが」
「ケイトのエーリスをぶった斬っておいてその言い種ですか」
「向こうも本調子じゃないさ。決闘だのなんだのと聞こえは良いが、短い期間に負荷の高い近距離での戦闘を延々とやらされるんだからな」
彼女の強みは中近距離戦だが、今回のフィールドは狭く障害物が少ない。野外に設けられた野戦区画であれば、恐らく相打ちに持っていくのも難しい。エーリスの性能と彼女の特性、それが上手く殺された試合だったというわけだ。
「だが今季のポイント稼ぎはもう出来ないか」
「旧型ブロックのエーリスがあります、頑張って来て下さい」
「無茶言いやがる、俺は一芸と初見殺しでどうにかポイント稼ぎが出来てるような奴だぞ!?」
そう、この男は総合的に見るとそこまで強くはない。限られた環境で特異な技術と才覚を使い、格上を狩ってみせる。ジャイアントキリングに特化した戦闘スタイルで、格下のエーリス乗りに遠距離戦で負けたことなど幾らでもあった。
「あんな打たれ弱いモーター駆動機に乗れと!?」
「十分打たれ強いですよ、装甲の合間を狙って全体重を乗せた蹴りを入れられるのが想定外なんです」
「ポイントは十分稼いだだろ!休ませてくれよ!」
「駄目でーす」
第二校舎はパイロットに恵まれなかった、活躍にムラがありすぎる彼がエースとなるほどに。人類の寿命が2倍ほど伸びたこと、ある程度平和で訓練期間を短くする必要がなかったこと、訓練の場が戦技研究の場となったことなど要因は多々あるが、この学校は卒業までに10年を要する。
「…貴方が良い目で見られていないのは知ってますよね、馬鹿がやらかしたらとっちめるので安全な機内に居てください」
「そんなに!?」
「アローヘッドの部品が届かないのも妨害があった可能性が高いです、引き摺り下ろそうとする輩は多いんですよ」
「なら尚更休ませてくれよ」
「前そう言って休んだ時、散々な結果になりましたよね」
「それに関しては俺悪くないじゃん」
その他大勢のパイロットが戦った結果、まあ散々な負け具合を晒したのだ。有力者の息子が幅を利かせたらしいが、結果カースト上での蹴落とし合いや同校舎内での内ゲバが頻発した。情報を他校舎に売る人間まで出る始末で、協力体制はほぼ崩壊した。
「ここまで腐るとは思わなかったけど」
「ミナミさんの部隊はまだマシですよね」
「俺の真似して刀振る馬鹿ばっかりだぞ、銃を持てや銃を」
「ハンマーヘッドの整備もアローヘッドと同じくキツいのでやりたくないんですけどね、大人しくエーリスに乗れば良いのに」
「うんまあ、それはそうなんだが」
彼の部隊が運用するハンマーヘッドは、アローヘッドほど近接戦に特化しておらず、あくまで近距離での戦闘も可能な機体という立ち位置だ。この機体を用意出来たのは製造元がスポンサーであるためであり、その支援はシェア率が高いエーリスをぶった斬って、宣伝商材に出来るミナミの存在あってこそだ。
「せめてハンマーヘッド貸してくれよ」
「空いてる機体無いんですよ、なんだかんだ彼らも勝率良い方なので忙しくて」
「ギリギリなんだな、俺たちって」
今日も第二校舎は忙しく、そして無駄な足の引っ張り合いに労力を費やしている。
ーーー
ーー
ー
実は校舎の位置は互いに離れており、カリキュラムに必要な訓練場をそれぞれが独自に備えている。バトルドレスが上陸から空挺降下、市街戦に野戦まで行うために必要な面積は莫大だが、それは星一つを丸ごと学園にしたことで賄われている。
「自分の機嫌くらい自分で取らなくては、ああもう本当に…」
「ケイト姉様、どうなされたのですか?」
「あ、ああいえ、前回の反省を少し」
「そうでしたか、声をかけてしまい申し訳ない」
声をかけてくれた学友に一言謝り、格納庫を一望出来る廊下にて再度物思いに耽る。彼女が属する第二校舎は北部に位置し、雪が積もることも多い寒冷地だ。その環境に対応した人型兵器の研究が盛んな地でもあり、試験場では服を着込んだエーリスを見ることもある。
「ミナミ・カネシロ…あの後であっさり負けるとは、本当に不愉快な戦い方を」
彼はエーリスに乗ってポイント稼ぎを再開したが、勝率はアローヘッドに乗っていた時よりも低かった。それでも並のパイロットよりかは強いのだが、まるで模索するかのようにコロコロ変えながら戦うので勝率が安定しない。
「この狭いフィールドで狙撃用荷電粒子砲を持ち出すのは正気の沙汰じゃあ無いだろう、何故それで勝つ!?」
相手の攻撃を避け、近距離から大出力ビーム砲を叩き込んだ。対戦相手のエーリスは上下が分たれることになったが、あれではスクラップ行きだろう。ミナミもコックピットの複合装甲が耐えられる範囲だからと出力を上げたに違いない、彼女はそう結論付けた。
その後の戦闘では火薬式ライフル片手に出撃、ビーム砲の直撃で頭部を損傷して降伏した。貴重な機体を温存したいからだろう、その優しさは一つ前の対戦相手の機体にも向けるべきだったが。兎に角、彼は実況席を楽しませていた。
「あんな男に、姉さんが負けたなんて」
ケイトの姉はこの学園で比類なき連勝記録を築き上げた。通算56勝、それも殆ど損傷を負うことなくだ。歳の差が離れていた彼女は姉から直接手解きを受けた期間は短かったが、パイロット候補生の一年生とは思えない腕前を持つケイト自身からしても、姉は別格だった。
その記録を破ったのが当時二年生、現在五年生のミナミ・カネシロであり、アローヘッドがジャイアントキリングを成し遂げた初めての日だった。
「…認めない」
しかし姉本人がこの敗北をちっとも気にしていないことを、ケイトは知らない。