ロボット学園惑星にて ー目指せ剣豪、番狂わせな近接特化ー 作:明田川
そしてバトル&バトルです。
決闘形式での模擬戦カリキュラムが終了し、ポイント稼ぎもまた終わった。結果として第二校舎は第一、第三、第四に負け、最下位でのゴールとなった。
「ロングボウ中隊、全パイロット集合したであります!」
「ご苦労様、取り敢えずその刀置こうか」
「隊長のためにご用意したのに…手に取っては下さらないなんて」
ハンマーヘッドの系列機のみで構成されたバトルドレス中隊、それがロングボウである。高い機動性と近接格闘能力、そして継戦能力の低さを併せ持つ。校舎間対抗戦では空挺降下や側面に回っての奇襲が主な役割であり、事実優秀な部隊でもある。
「アローヘッドの修理がなんとか終わった、ひとまず整備班に拍手を」
「ありがとう整備班!ミゲル、タナカ、トール、リズ、デイビット、トム、…」
「これお土産です、良ければどうぞ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
整備班全員の名前を叫び始めるヤツ、何処からか取り出した嗜好品入りコンテナを整備班に贈るヤツ、普通に何度も連呼するヤツ。ロングボウ中隊とはこんな奴らばかりである、第二校舎の人材はもうボロボロだ。
「…次の模擬戦形式だが、久しぶりに大規模な実戦形式になった。俺達がどう運用されるかはまだ分からんが機体は温存しておけ、くれぐれも派手な訓練でぶっ壊すなよ」
エースの居ない第二校舎からすれば、ロングボウは懐刀だ。幾ら嫌いでも、下手な使い方はしないだろう。稼働中のエーリスを掻き集めたとして、他校舎の精鋭と殴り合えばすり潰される。有能な指揮官候補生も数えるほどしか居ない、最終的には自分達に頼らざるを得ないだろう。
───本当にそうだろうか?
想像はあくまで想像で、現実というのは得てしてその上を行くものだ。対立関係にあるその他大勢の人々がロングボウ小隊のことをどう考えているのかなんて、他人のことを本質的に理解することなど不可能だったのだ。
ーーー
ーー
ー
「うぉーッ!?」
「第一校舎が使う五型ロケット砲の面制圧かと、多脚車両部隊を連れて来たようであります」
「クソ、まさか俺達をこんな場所の防衛に配置するなんてな!馬鹿なのか!?」
各校舎が割り当てられた土地や拠点を守り、奪い合うのが今回の模擬戦形式だ。各校舎の総合力が試される場だが、こと今回においては第二校舎の分が悪い。内部崩壊の憂き目に遭い、意思の統一が出来ていないというのはよくあることだ。だがそれが少々度を越しており、更に他の校舎が稀に見るほど団結していた。
「俺達の強みは軽さと機動力だってのに、一番不向きな防衛戦に放り込むとは奴ら殺す気だな」
「ですが、まだ戦死判定を喰らった軟弱者は居ないであります」
ミナミと行動を共にするのは、僚機であるハンマーヘッド乗りだ。ロングボウ中隊では彼と同じ五年生であり、名をサヤマという。彼の腕に惚れ込んだ一人だが、その技術の再現に心血を注いでいるとかなんとか。
「時間の問題だっつうの!」
ロングボウ中隊で運用するバトルドレスは主機の出力を推進器に多く振り分けており、ビームを湯水のように使えるわけではない。時代遅れの火薬式兵装と、マガジン式のバッテリーパックを有するビーム兵器がロングボウ中隊の主兵装である。
「レーダーから逆算しましたが砲撃地点は然程遠くありませんね、反撃しますか?」
「ああ、今すぐ叩き込んでやれ」
ハンマーヘッドはアローヘッド同様、背中のコンテナに様々な武装を搭載することが出来る。今回は敵機からの砲撃対策として、反撃するためのロケット弾を装備して来た。とは言ってもこの程度の砲撃、人型兵器にはそこまでの脅威ではない。
「この程度で撃破されるほどヤワではありませぬぞ、これでも喰らえーッ!!」
「本来ならこんなことは俺らの仕事じゃないんだけどな…」
本来なら10mを超える巨人が縦横無尽に駆け回れば、中に乗っている人間はとても無事では居られない。しかし慣性を制御することで、バトルドレスは内部の保護と機動力の高さを両立している。
その慣性制御システムを流用し、質量の小さな金属片程度であれば防ぐことが出来る。無論人型兵器が互いに撃ち合うような砲弾は防御出来ないが、パイロット保護の副産物としては上々だろう。
「工兵隊はどうだ、死んでないか?」
「砲撃が止まないので塹壕から出られないようで、戦死判定者は2%程度であります」
歩兵科はバトルドレスに乗るパイロット科と違い、分厚い装甲と威力を調整された兵器で死なないようには出来ない。そのため全員が遠隔操作式のアンドロイドを使う形で演習に参加しており、バラバラになった彼らを見ることは多い。人と同じ形状と内部構造をできるだけ模しているため、トラウマになるものも居るとか。
「元を断たねば建て直しは無理か、作戦を立てるぞ」
「「了解!」」
「動員可能な全戦力はロングボウの三十二機、車両部隊は?」
「地下に避難してはおりますが、こちらは中隊規模の機甲部隊程度しか頼りになりませんな。砲兵部隊は射撃地点をロケット砲で耕されましたし、補給も届かないので砲弾がないでありますよ」
「…酷い有様だな」
人型兵器の編成としては、最小単位として分隊がある。分隊は二機の人型兵器で構成され、小隊は四つの分隊で構成され、更に中隊は四つの小隊からなる。つまりロングボウ中隊には三十二機のバトルドレスが居ることになる。
しかし比較的小さな基地とはいえ、敵の大部隊を前にしては少々見劣りする数だ。攻守共に優れるエーリスと比べ、ロングボウ中隊の機体は少々尖り過ぎている。攻撃側に回らなければ不利な状況は続く、だがそう簡単に盤面はひっくり返らない。
「第一と第二分隊で強行偵察だ。第一校舎の自称エリート共が何を考えてやがるのか知らないが、鼻を明かしてやるとするぞ」
敵が砲兵部隊を展開させている位置は、この基地から然程離れてはいない。問題は敵と基地の間に巨大な森林があるということであり、その木々は20mを超えるのだ。宇宙開拓時代に遺伝子改造によって生み出された品種であり、効率よく大量の材木を作り出せる。
「基地の防衛は残りの奴らに任せるが、こんな砲撃で戦死判定を喰らうようなら隊員失格だぞ」
かくして、ロングボウ中隊の強行偵察が実行されることとなった。しかし基地と敵本陣を隔てる森の中は視界が悪く、ビーム兵器を使用すれば大規模な火災に発展することもある。その際は戦闘が困難になるため、大抵の場合は時代遅れの火薬式兵装を使う。それ以外の場合となると、ロングボウ中隊の十八番が輝く。
「軟弱者ばかりであります、先手を取られて良いようにやられるとは」
森の中に入った第一小隊は、既に数機のエーリスを撃破していた。ビーム砲を使ってこないのであればやり易い相手だ、経験の薄いパイロットは強力な武器に頼り切りで、こういった状況には弱い傾向がある。
「コイツら入ったばかりの一年生だろ、油断するなよ」
ハンマーヘッドはアローヘッドと違い、替刃式のロングブレードを装備していない。その代わりに耐久性が高く頻繁な交換が必要ない、普及品のロングソードを使用する。切れ味では劣るものの、乱暴に使っても壊れないのは大きな利点だ。
「歩哨を立てているということは、この先に何かありそうな気がしますが」
「そうだとは思うが、今ので通報されたぞ」
「上級生が出張ってくると、腕が鳴るでありますな」
たった四機で森へと入ったわけだが、既に下級生のエーリス四機を撃破した。同数に対してほぼ無傷での勝利、ロングボウ中隊はなんだかんだで精鋭なのだ。
「…このエンブレムは第一校舎の第三大隊か、それなりの規模での参陣と見た」
「第三大隊と言うと、確か大型機動兵器を受領していましたな」
「人型兵器に随伴可能な新型か、厄介だが連れて来ているとは限らん」
大森林はバトルドレスを大きさを超える大型兵器の移動に向かず、通るのであれば伐採が必要だ。それにわざわざ主戦場以外にそれを投入する意義も薄い、要塞に対する攻城兵器として運用されるのが常だろう。ミナミはそう考えたが、大きな損傷を避けて試験的に運用したいのであればその限りでもないと思考を巡らせる。
───既に射程内か
木々はビーム兵器を防ぐ盾にはならない。大型兵器ともなれば出力こそ制限されるものの、人型が使うようなビーム兵器と比べて加害範囲は桁違いだ。赤外線センサーが膨大な熱量を発する何かを木々の向こう側に捉えた瞬間、全員が指示を聞く前に動き出した。
「散開!」
刹那、巨大な砲身から放たれた荷電粒子がプラズマを纏いながら直進した。木々を薙ぎ倒し、地面をひっくり返し、大気すらも押し除けた。照射を終えた後に残るのは弾道に沿ってU字に削り取られた地表と、燃える森だけだ。
「やりがったか!」
「ほうほうほう、データベースに対象のデータなし…完全な新型でありますな!」
そして砲撃によって道が開けたと言わんばかりに、数機のバトルドレスがこちらへと急行する。こっそりと移動出来るのはここまでのようだ、ミナミはライフルを構えて牽制射撃を行う。
「一番詳しいのはお前だろう、何か分かるか?」
「この目で見れば何か分かる筈でありますが、先程の照射で光学センサの感度設定が狂いまして。再調整のため少々お時間を頂きたく」
「よし分かった」
ミナミは思い切りペダルを踏み込み、スロットルを全開にする。吸気口が唸りを上げ、機体はまるで弾き飛ばされたかのように加速した。突っ込んで掻き回すつもりだったが、相手の反応もまた早かった。
「ただのエーリスじゃないな、強襲型か!」
全身を第一校舎のパーソナルカラーである赤色に染めた機体は小柄なエーリスでありながら、アローヘッドに迫る推力を有していた。
「機体を浮かせるだけの推力を持たせた第一校舎の改修機ですな、確か配備されている部隊は…」
「有翼のサンダル、タラリア試験小隊か」
人類が生まれた地球で語られた大昔の神話がモチーフになっている部隊だ、地球至上主義派閥の影響を少なからず受けている第一校舎らしい命名と言える。彼らにとって神話から部隊名を引用出来るのは優秀かつ実績を認められた部隊のみであり、エリートとしての自負は大きい。
「え、エリート部隊であります!」
「四機で相手を出来る部隊じゃない、退くほかないな」
「今センサーの調整が終わりました、すぐに敵大型兵器の観察をば」
ありますありますと五月蝿い彼女だが、ロングボウ中隊の中でも屈指の腕利きだ。アローヘッドを駆るミナミと分隊を組める実力を持ち、人型兵器以外にも詳しく情報分析にも長けている。各校舎の広報で公開された情報や模擬戦の映像から、敵の戦力や被害を割り出すことを趣味とするのは中隊の殆どが知るところだ。
「広範囲殲滅用グンニグル荷電粒子砲搭載型の大型多脚戦車、あの装置は…重力制御ですかな」
「おいマジか、あのタイプは慣性制御も載せてるだろ」
「バトルドレスの比ではない防御力を発揮します、試しに撃ってみては?」
ミナミは機体の手に持つ火薬式ライフルを構え、後退しながら数発発砲した。すると砲弾は不自然な軌道を描いて敵大型兵器から逸れ、命中しなかった。慣性・重力制御装置による防御フィールドだ、それもかなり強力な。
「こりゃ無理だな」
「よそ見をしている暇があるのか、第二校舎の鏃頭!」
「うぉ」
西洋剣を模した形の剣を携え、タラリア試験小隊の一機がアローヘッドへ襲いかかる。それをミナミは後退しながらも、細いロングブレードで迎え撃つ。理想的な姿勢ではないにせよ、彼の操縦技術によりフレーム断ちの一撃は放たれた。
「…ふ、ふふッ!流石だな、ミナミ・カネシロ!」
「中隊長、お知り合いでありますか?」
「まあ…そうだな、知らない仲ではないか」
赤い強襲型エーリスが手に持った西洋剣だが、ロングブレードの一閃を受け刃渡りが半分になった。しかし機体への傷はなく、相手は上手く攻撃を剣にだけ当てたらしい。まるで最初から剣を斬らせることが目的だったかのような動きにミナミはため息を吐き、消耗した刃を切り離した。
「タラリア試験小隊副小隊長、リズだが…まだお仲間に私のことを紹介してなかったのか!?」
「まだも何も、他校の人間以上の関係性が無ェよ」
「今からでも遅くない、転校手続きをしてタラリア試験小隊を中隊にしようではないか!」
「…分かったろ、こう言うヤツなんだ」
「我々に負けず劣らずの方ですな」
「自覚あんのかよ」
タラリア試験小隊の運用する強襲型エーリスだが、推進器の総推力はアローヘッドをも上回る。人型兵器単独による飛行を可能にした機体であり、この機体相手に逃げることは困難だ。しかしここは森の中、その加速力も完全には活かせない。
「木々を盾にしつつ後退だ、コイツは俺が相手するさ」
「了解!」
ハンマーヘッド達は左腕に装備したハンドシールドを構え、背を見せることなく後退した。推進器の逆噴射機構を用いて、後ろ向きに加速しているのだ。
「よく訓練されているな、欲しいぞ君達が!」
「ああそうかい!」
アローヘッドがライフルを発砲し、それを強襲型エーリスが避ける。大型兵器が放った攻撃で開けた通路が一本出来ている、彼らが大挙して押し寄せるのも時間の問題だ。長距離通信の内容を傍受されては困ると、ミナミは信号弾を何発か宇宙へと撃ち放った。基地に残した仲間はこれで防御を固めるだろう。
「ミナミ、君が切った先程の剣はエーリスのフレームと同じ素材で作られたものだ。君のフレーム断ちの芸当を未だ信じない、又は知らない愚か者も居たが、これで黙ることだろうさ!」
「要らないお節介だよ、それは」
彼女は予備の剣を抜き、再度ミナミと斬り結ぶ。耐久性に劣るロングソードは早々に刃毀れして半ばで折れるが、それでもアローヘッド自身は無傷だった。折れた刃を切り離しては手に取り、それを強襲型に対して投擲する。
「このままいつまでも斬り合っていたいなぁ……だが、私も仕事があるのでね」
「おっと、コイツは不味いな」
投擲された刃が強襲型エーリスの胸に傷を付けるが、リズは舌舐めずりをした後でペダルを踏み換え、逆噴射を行った。今までは誤射の危険があるため他の機体からは撃たれなかったが、彼女が距離を取ったことで射線が通る。
「四肢をバラバラにして捕虜にしてあげよう、ミナミ・カネシロ!」
「そうはいかない、俺を舐めすぎだな」
強襲型エーリスの弱点は、主機出力の殆どを推進器に割り当てていることだ。元々出力に余裕があるエーリスであっても、ビーム兵器の運用に支障をきたすほどエネルギーに余裕がない。奇しくもアローヘッド達と同じ特性だが、この森林ではそれが生き残るための大きなチャンスと化す。
「見晴らしは良くなったが、お前達が来た以上2射目は無い。それに巨大樹はビーム兵器には無力でも、実弾なら止められる」
「この森を、後ろ向きで…!」
ミナミがやっていることは部下達と同じだが、練度が違った。回避中に入れるフェイント、木々の間から縫うように放つ砲撃、背部の武装コンテナから放つロケット弾、そしてその速度…兎に角全てが噛み合っている。バトルドレスは周囲の情報を得るために大量のセンサーが装備されているが、そのどれもが人間用ではなく、機体側のシステムが判断を行うためのものだ。人が見て直感的に理解出来るのはカメラからの映像くらいだが、彼は器用にその情報を使い熟している。
「リズ副小隊長、追いますか?」
「非常に惜しいが…誘いに乗る必要はない、それに基地を相手にするのならアレが必要だ」
彼らは大型兵器の随伴部隊であり、その機動力を十分に活かせる立ち位置ではなかった。機体特性と相反する配置となったのには第一校舎の考え方とスポンサーへの配慮があるのだが、ミナミ達がそれを知る由は無かったのである。
こうして威力偵察は成功に終わり、主戦場から遠く離れた場所での局地戦は次の段階へと移る。冷却のために砲身から白い煙を噴き出す大型兵器は、その主砲を向ける先を探していた。