ロボット学園惑星にて ー目指せ剣豪、番狂わせな近接特化ー 作:明田川
偵察からなんとか帰還した第一小隊は、得られた情報を中隊へ共有していた。今後の戦い方を決める上で一番の問題は敵の隠し球、強力な主砲を振るう大型兵器である。
「なんとか割り出せだであります。奴は大型多脚戦車、XW-15トレビュシェットかと」
「想定通り重力・慣性双方の制御装置を搭載、ジェネレータ出力はエーリス比較で21倍の化け物か」
「大昔の攻城兵器が名前の元、第一校舎が好きそうな機体であります」
「…厄介極まりないな、どうするか」
慣性制御装置による防御フィールドの歴史は古く、その祖は宇宙開拓時代に運用された対デブリ用の迎撃設備である。デブリの軌道を逸らし、衝突コースから外す。それが既存の兵器に対する防衛手段に使えない筈がなく、軍事転用されて今に至る。軍事から民間に転用されたと言う説もあるが、何せ昔のことであるためハッキリしない。
「実弾は効かない、ビーム兵器も軌道を変えられる、残りは飽和攻撃とレーザーか」
「レーザーであれば慣性制御の影響は受けませんが、重力制御は受けますぞ」
「光を歪ませるのに必要なエネルギーは莫大だ、防御フィールド全体の対応リソースを大きく削れる」
「教本通りに多方面からの飽和攻撃を試すほかありませんか、なんともやり難い相手でありますな」
中隊からの一斉攻撃なら敵の防御フィールドを突破出来る可能性はある。だが問題は一つ、それが出来れば苦労はしないということである。トレビュシェットの主砲はこちらの基地を簡単に更地にすることが出来る上、火力を集中させようとしても数を減らされてジリ貧になる可能性が高い。
「機動力を活かして接近戦に持ち込みたいが、敵の前衛が邪魔になる」
「タラリア試験小隊に下級生を中心とした大部隊、後者も並んでビーム兵器を構えてくる以上脅威でしょうな」
「対してこちらは接近戦をする以外に勝ち筋がない機体での勝負だ、ただ撃ち合えば負けるだろうな」
防御フィールドに対する対抗手段はもう一つある、それはバトルドレスによる接近戦だ。大質量の物体を操作するのが難しいということ以上に、慣性制御下にある物体は他の慣性制御装置が操作出来ないのだ。
「ドンパチは性に合いませんしなぁ、やっぱり剣を振ってこそであります」
「だな、斬り合うしかないらしい」
ミナミとサヤマは格納庫で補給を受けていたが、その空いた時間に作戦を纏めていたようだ。偵察機は何機か飛ばしたようだが、その全てが撃墜されて大した情報を得られていない。偵察に赴こうものなら敵機と遭遇し、逃げ帰ってくる有様だ。
「…まあ、足掻くしかないってことか」
情報がない、完全に主導権を握られている。大型兵器に対して奇襲をかけるとしても、圧倒的な火力差で即戦死判定…なんてことも。
「中隊長ぉーー!多分敵襲っス!」
「見張り役か、何があった?」
「敵の砲撃が今までの比じゃなくて、どわーっ!?」
間の抜けた声と共に、地面が揺れる。確かに砲撃の密度が違う、遂に第一校舎の部隊が本腰を入れて来たらしい。部下には塹壕に隠れていろと言いながら、機体の戦闘システムを立ち上げ直す。
「第一小隊は防衛用から近接戦用パッケージに換装、残りはそのまま防衛だ」
近接戦用パッケージとは、手に持つ武装と背部武装コンテナの中身を指定したものだ。手に持つのは銃身を切り詰められた火薬式ライフル、腰に佩くのは各々の刀、コンテナにはありったけの欺瞞装置と牽制用の機関砲を一つ。真っ直ぐ行ってぶった斬る、斬ったら煙幕をばら撒いて逃げる、それが彼らの戦い方だ。
「第一小隊だけかよ、不公平だ!」
「隊長の命令だぞ、黙って撃ちやがれ。それに騒がなくても敵が斬れる距離まで来るさ」
「そうは言ってもよぉ、これ重いんだよ」
防衛に当たるハンマーヘッドが担ぐのは、エーリスが持つ物より大型の荷電粒子砲だ。機体側のエネルギー供給に頼らないタイプであり、それ故の大型化だった。格闘戦向きの機体特性を潰しかねない重量と大きさであるため、ロングボウ中隊からの評価は悪い。
「エーリスってやっぱり凄えんだな」
「向こうの採用例が俺らの何倍だと思ってんだ、予算も生産規模も現場からのフィードバックも桁が一つか二つ違うぞ?」
砲撃が粗方周囲を耕し終わった後、閃光がセンサーを焼いた。木々を薙ぎ倒したそれは、偵察の際に発見した大型多脚戦車、トレビュシェットに違いない。第一射は邪魔な障害物を破壊するのに使ったらしいが、二射目はこの基地だろう。
「早い…!」
「こちらAブロック塹壕。中隊長ォ、例のエーリスが携行ビーム砲の射程内に!」
「タラリア試験小隊まで突っ込んで来るとはな、奴ら時間稼ぎのつもりか?」
「恐らく大型兵器に傷を付けないための囮であります、出来るだけ替えの効かない方は今後に備えて温存したいのでしょうな」
「ひとまず今は…第一小隊の換装が終わるまではこっちで持たせる、行くぞ!」
推進剤の補給が終わり、アローヘッドとその僚機が地下格納庫を出る。主戦場から遠いとはいえ人型兵器を運用出来る基地が小さいわけがなく、彼らが身を隠せる塹壕は歩兵達からすればダムか堤防かとでも言いたくなるような威容を放つ。
「Aブロックは森林に近い箇所か、基地の砲台群は?」
「機能していま…」
彼らの頭上を数発のビームが通り、砲台を穿った。人型兵器のものよりも明らかに太いそれは、あっという間に基地の防衛能力を削いでいく。
「…した」
「なんだありゃあ!?」
「いやぁ、分かんないでありますなぁ…新兵器でしょうか……?」
その正体はトレビュシェット、その副砲だった。主砲の長い冷却時間をカバーするべく、新たに装備されているのがこの三連装ビーム砲だ。名をトライデントと言い、調整が難航していたがために今まで一度もその存在は知らされていなかった。格納状態であれば外部にも露出しないため、副砲があるとは誰も考えていなかったのだ。
「前線からの報告によると、トレビュシェットが撃ったとのことで」
「ふざけんなよ、なんだあの決戦兵器」
「こんな基地一つ潰すのに持ち込んで欲しくないであります、適材適所って言葉を知るべきであります」
悪態を吐きながら二人は換装を終えた数機を連れ、Aブロックへと急行する。トライデントによる砲撃は続いており、基地の地上構造物はビームで穴だらけだ。
「人員に被害甚大、待機していた歩兵隊の一つが吹っ飛んだであります!」
「いっそのこと全員地下に下がらせろ、主砲が撃ち込まれればどうせ同じだ!」
塹壕を通って前線に辿り着くと、既に数機のハンマーヘッドが撃破されていた。不得意な遠距離での射撃戦、それに数は相手が何倍も上である。この状況でも損耗率が低いことは賞賛されるべきだが、ジリ貧には違いない。
「…コイツらは奇襲ならエーリスを三機は食ったぞ、上の馬鹿共は算数も出来んらしいな」
「まだコックピットに戦死判定を受けていない機はあります、下がれるよう回収の援護をせねば」
「そうだな」
敵の大多数は下級生、部隊長が中級、一部の小隊が埋め合わせの如く上級生での構成か。全体の練度を見て、ミナミはそう見抜く。下級生は城攻めの経験が少なかったらしく、少なくない数が被害を受けたようだ。
「少し掻き回す、援護を」
「了解であります、小隊は武器を!」
各々が火薬式のライフルを構え、一斉に放つ。そしてそれと同時にアローヘッドが駆け出し、最寄りのエーリスへと狙いを定めた。彼らはビーム兵器と盾を装備しており、堅実かつ強力な組み合わせと言える。
「…まあ、斬れるか」
この程度であれば障害にならない、ミナミはいつも通りだと自らに言い聞かせながら機体を操った。ビーム兵器を避け、弾き、そして刀を振るう。すれ違ったエーリスは盾を構えていたのにも関わらず、それごと胴体を斬られた。袈裟斬りの要領だとでも言いたげな動きの後で、刃に付いた潤滑油を弾き飛ばす。
「あと二回だな」
斬りやすい相手であれば切れ味は落ちにくい、まだ刃を切り替えるのには早いだろうか。
「ハンマーヘッドじゃない、アローヘッドだ!」
「報告は本当だったのか、なんでこんな基地に居るんだよ!」
「撃て撃て、こうなったら撃つしかない!」
下級生達は訓練通り、相手を近付かせないよう火力を集中する。しかしそれはあっさりと掻い潜られ、ビーム砲を突き出すように構えていた一機が腕を根本から切断された。
「えっ」
次の瞬間、下級生のコックピットには撃墜判定という一文だけが表示され、外部モニターは規定に従い外部を映さなくなった。刀で胸部にあるコックピットを狙い、外部装甲の合間を突いたのだ。コックピットを覆う複合装甲に刀が当たった瞬間、安全のため撃墜判定が出るのは何年も前に検証済みだ。
「一つ」
アローヘッドがビーム兵器を肩で受け、下級生が乗るもう一機に近付いた。周囲の機体が援護しようにも、味方機が邪魔で撃つことが出来ない。突きによって正面装甲を貫通し、複合装甲を叩く。これで二機目だ、ものの数秒で次々と機体が地に伏していく。
「二つ」
「な、何が!?」
「奴の近接戦に付き合うな、後退しろーッ!!」
エーリスとアローヘッドを比べた時、推進器の推力は後者が勝る。だがそれ以上に大きいのは腕部の軽さであり、それが剣撃の速さとなる。射撃戦に重きを置くエーリスは腕に分厚い装甲を持つが、それは近接戦においては大きな枷だ。
「ダメです、速度が違…」
見てから対応しようとしても、エーリスがナイフを引き抜くよりロングブレードがコックピットを掠める方が早い。前回の決闘においてケイトがミナミの攻撃に対応出来たのは、彼女が彼の攻撃を熟知していたからに他ならない。機体本来のポテンシャルを引き出せるパイロットとは、この手の人材のことを言うのだ。
「三つ」
「随分と暴れてくれたな、ミナミ・カネシロ!」
「下級生の割には骨のある奴らだ、先輩としては今後が楽しみか?」
「ああ、期待はしているさ」
後輩の窮地に駆けつけたのは、タラリアの強襲型エーリスだ。しかしミナミは相手をする気などなく、ライフルの牽制射だけをぶつけて別の機体へと矛先を向ける。それを許す強襲型ではないが、彼女の相手をするのは別の機体だ。
「ハンマーヘッド、私の邪魔を…」
「彼の僚機では貴女の相手には足りないと、そうお思いですかな?」
「第一小隊の精鋭、OSINTのサヤマか!」
「おや、私の名前をご存知とは光栄でありますな」
西洋剣と板のような剣が触れ、二機が推進力をぶつけ合う。サヤマは目の前の敵に対し、流石は最新型だとその性能を評価した。既にアロー・ハンマー両機が持つような機動性は、エーリスであっても再現可能とでも言いたげな姿に彼女は素直に感心する。
「君はその剣でフレームを斬れるのか?」
「斬れやしませんよ、あんな真似はやろうとしたって…!」
「ハハ、まあ付き合うさ」
二機が斬り合う中、他の強襲型がアローヘッドへと向かう。それに対して換装を終えた第一小隊が当たる、言葉を交わしていないのにも関わらずロングボウ中隊機が一つの生き物かのように、一つの目標に向かって動き出した。
「アローヘッド一機をフリーにするために全機が動くか!」
「これが俺達のやり方さ第一校舎サンよ、お洒落な靴履きやがって!」
「落ちこぼれの第二校舎が、こんな僻地に飛ばされておいてその減らず口ィ!」
「「何をォ!?」」
タラリアとロングボウ、両部隊員が叫びながら武器を交えた。そしてアローヘッドは乱戦となった前線を潜り抜け、長距離狙撃用のビーム兵器を構える後衛に襲いかかった。
「潜り込まれた!?」
「こちらアーチャー、敵中隊長機が…単騎で!」
データリンクシステムによって各機体の位置、情報は全て共有されている。第一校舎の部隊からすれば恐怖でしかないだろう、一機の旧式相手に出していい被害ではない。
「借りるぞ」
「コイツ味方を盾に!」
「馬鹿ッ、近付くんじゃあない!」
下級生が多いとはいえ指揮官クラスは上級生、立て直すのにそこまでの時間は必要ない。しかしそれに勘付いたミナミは、反応の鈍い下級生を盾に使いながら射線を切る。
「敵から距離を取れ、格闘戦は奴の間合い…」
「九つ、十!」
盾にしていた機体と無謀にも接近した機体が串刺しにされた。抜けなくなった刃を切り離し、アローヘッドは次の刃を持ち手に接続する。そしてエーリスの残骸からナイフを奪い取り、投げれば別の機体の頭部を貫く。
「…化け物め、第二校舎ではコイツを持て余すか」
「こちらトレビュシェット、砲撃予定地点へ到着」
「我々への支援は必要ない、前線の退避が終わり次第撃て!」
「了解した、弓に投石機が敵うか見ものだな」
遂に砲撃準備を終えた大型兵器は、冷却を終えたグンニグルを基地に向けた。防衛に当たるロングボウ中隊機が火力を集中しようとしたが、敵は横に滑るように動き出す。トレビュシェットは多脚戦車であるが、その接地部分に装備されたタイヤによる走行機能を有していた。
「退避しろタラリア試験小隊、お前達ごと焼き払いかねない!」
大型兵器のパイロットがそう通信機に対して怒鳴りつけると、強襲型エーリスが蜘蛛の子を散らすかのように基地を離れる。そして残されたハンマーヘッドは砲撃の予兆であることを察知し、その場から離れるべく推進器を吹かした。
「遅い!」
しかし、グンニグルの加害範囲は彼らの想像を超えていた。元から複合装甲を貫ける火力を出してはいけないというレギュレーション上、単純な威力では頭打ちだ。そのため、グンニグルは広範囲を戦死判定クラスの威力で制圧するという思想で設計された。
「…これが、最大出力か」
「アローヘッド、よそ見をする暇が」
「十三!」
襲いかかる敵機を撃破しつつ、ミナミはその威力に目を見開いた。基地の地上構造物はその半分がビームの奔流に飲み込まれ、塹壕に身を隠していた機体の被害も甚大だ。中隊の機体損耗率は約三割、第二射に耐えられるとは到底思えない。
「粘られたな、大型兵器にまで辿り着けないか」
「中隊長、ご無事でありますかー?」
「サヤマか。五体満足だが、そちらはどうだ」
「損耗率3割の通りですな、タラリアと戦っていた第一小隊は現在損害を確認中であります」
「建て直したら予定通りあのデカブツを潰すぞ、俺はこのまま突破口を広げる」
「了解、すぐにでも馳せ参じますぞ」
大型兵器の元に向かうには、大隊規模の人型兵器が構成する陣形を突破しなければならない。アローヘッドの周囲は既に死屍累々といったような状況だが、敵の余力はまだまだ残っている。
「…基地の防衛能力は既に失われた。歩兵隊は地下にて防衛を継続、ロングボウ中隊機は基地を捨て敵部隊との近接戦に移行せよ」
そんな状況で下された命令は、荒唐無稽なものだった。しかしロングボウ中隊にとっては待ちに待った命令であり、彼らは一斉に抜刀した。