ロボット学園惑星にて ー目指せ剣豪、番狂わせな近接特化ー 作:明田川
「…基地の防衛能力は既に失われた。歩兵隊は地下にて防衛を継続、ロングボウ中隊機は基地を捨て敵部隊との近接戦に移行せよ
「普通の部隊なら玉砕命令と変わりませんな」
「最早基地に残っていても第二射で死ぬ、それくらいなら敵を盾にするまでだ」
待ってましたと言わんばかりにロングボウ中隊の機体が塹壕から飛び出し、コンテナに入っていたロケット弾や煙幕を一斉に放つ。閃光弾やデコイがばら撒かれるが効果は一瞬、だが経験の薄い下級生には効果覿面だ。
「良いもん持ってるな、寄越せェ!」
「た、隊長!敵機が基地から一斉に!」
一変した戦況について行けず、下級生の一人がハンマーヘッドの接近を許す。そして思い切りビーム砲で殴り付けられ、腰に装備していた剣を鞘から抜き取られた。
「助かったぜ、俺のはさっきの砲撃で溶けちまってよぉ…」
「た、助け、助けてください」
「なんだよ、死にゃしねぇって!」
新入生は助けを呼ぶが、頼りの隊長は三機のハンマーヘッドによって解体されていた。彼らの剣が振るわれるごとに機体がひしゃげる音が聞こえ、新入生の悲鳴と共に被害と混乱が増していく。
「頼りの隊長も死んだか、脆いもんだなァオイ」
言葉を言い終えるころには新入生の機体は地に伏しており、その上には自らの剣が突き刺さっていた。ロングボウ中隊に接近を許すとこうなる、わかりやすいお手本という名の惨状が今下級生の目の前に広がっている。
「中隊長もサッサと突撃しろと言ってくれりゃ良いのによ」
「馬鹿、このタイミングが最高なんだろうが」
「なんでだ?」
「相手は砲撃でこっちの士気が揺らいで被害も甚大、後は遠くから撃てば終わりだと楽観視してやがった。そこにドンさ、やることが酷え」
既に前線は敵味方が入り乱れ、まさに乱戦といった状態だ。風が弱く煙幕が滞留しているのも悪い、人型兵器のセンサーが幾ら優秀でも視覚的な効果は大きかった。ハンマーヘッド達は数的不利にも関わらず隊長格を優先して狙い、烏合の衆と化した新入生を刈り取っていく。
「チィ、無謀な!」
「あ、ありがとうございます」
「下がりたまえ。エーリスなら修理もすぐに終わる、奴らにはしてやられたな」
しかし少々押される第一校舎の面々も無能ではない、獣の如く襲いかかるロングボウ中隊に対して冷静に対応出来る人材は多く居た。彼らはハンマーヘッドを射撃戦にて制するという、お手本のような戦い方を見せてくれる。
「現戦域における全第一校舎所属機に告ぐ。指定ポイントまで後退せよ、乱戦により支援が出来ない。繰り返す、指定ポイントまで後退せよ」
「無理矢理にでも立て直す気か、司令殿は」
「下級生を連れて下がれるか、こちらは既に中級生への被害により統率に支障が出ている」
「了解した、奴らのやり方に付き合う道理はないな」
第一校舎の上級生らは手慣れた様子で下級生を集め、血に飢えたハンマーヘッドの餌食になる前に後退させ始める。全体的な質で言えばトップの第一校舎だ、すぐに人型兵器達は冷静さを取り戻す。
「流石第一校の連中、このままでは立て直されますぞ」
「今だな、第一小隊はアローヘッドに続け!」
「突っ込むのでありますかァ!?」
「完全に陣形を固められては突破出来なくなる、今しかない!」
損耗率は目に見えて増えている、幾ら格闘戦が十八番だと言ってもそのリスクは非常に高い。曲がりなりにも組織的な抵抗が出来ていて、敵が陣形を整えられていない今が最後のチャンスなのだ。
「吶喊!」
アローヘッドを中心に勢いを取り戻したロングボウ中隊第一小隊に対し、大型兵器護衛に当たるため後退していたタラリア試験小隊がぶつかる。双方の技量はおおよそ均衡、だが近接格闘戦においてはロングボウが勝る。
「中隊長機さえ撃墜すれば!」
「邪魔だァ!」
剣を携えた強襲型エーリスが胴を境に両断され、トドメに撃ち込まれた砲弾が推進剤を引火させる。強力な推進器を装備している以上、弱点は増えているのだ。その後も実弾兵器の衝撃で機体が揺れた隙を狙い、ロングブレードが四肢を斬り飛ばしては奥へと猛進していく。
「なんだ、なんなんだアイツは…止められないぞ!」
「だから言っただろう、普通の中隊一つ潰すのと同じ戦力では足りないと」
動揺するタラリア試験小隊の小隊長だが、それに対して副小隊長であるリズは呆れたと言わんばりの態度でそう返す。実はロングボウ中隊がここまで組織化されたのは近年のことであり、大規模な演習では手薄な基地への奇襲が殆どで、実際に大部隊と戦った際の評価はされていなかった。
「リズ、お前の言った通りか」
「ええ、ええ。そうですとも小隊長殿、死ぬ気で応戦しなければ折角の投石機も危ない」
軽量な格闘戦用機が空挺部隊として組織されたということは、その特性から弱さを推察することは出来た。高い機動力を持つが継戦能力は低い奇襲のための部隊であり、このような防衛戦ではその実力を発揮することのないまま散るものだと思われていたのだ。
「こちらトレビュシェット。基地地表に敵機・敵防衛施設を認めず、砲撃対象の再指定を求む」
「煙幕の中は乱戦になっている。同志撃ちの危険は避けたい、トライデントによる砲撃支援を」
「了解」
「尚、敵機がそちらに向かっている。護衛の部隊が対応しているが、そちらの判断で自衛を頼む」
大型兵器のパイロットは通信を終え、自分の声が指揮官に聞こえないようマイクを切る。そして人型兵器のものよりも広く、計器の多いコックピットで複数ある操縦桿の一つを握った。
「…第一校舎の大隊が聞いて呆れる、中隊相手にこのザマか」
トレビュシェットは車体背部に格納したトライデントを展開し、目視できる範囲の敵に向けて砲撃を開始した。一撃で戦死判定を喰らわせる威力が一度に三発、それも一門一門が別の標的を狙うことが出来る。
「敵予想損耗率5割を突破、このまま鴨撃ちを継続すれば…」
「抜けられた、距離を取れーッ!!」
「何?」
仲間からの通信で振り返る大型兵器をその目で捉えたのは、ミナミのアローヘッドだ。替え刃の殆どを使い切ったが、それでも目標にまで辿り着いた。彼の後方では未だ乱戦が続けられるが、背後から撃たれているのにも関わらず振り向く素振りは見せない。
「大型兵器、相手に不足無し!」
「例の旧式が、刀とライフルで何が出来る!」
トレビュシェットは即座に砲塔を向け、主砲と共に装備されていた兵装を起動する。それは荷電粒子を断続的に発射し続ける代物で、言うなればビームのマシンガンだろうか。大型化してしまう代わりに複数の砲身を備え、ビームの弾幕を形成することが出来る。
「流石第一校舎。湯水の如く、大盤振る舞いだな」
その一つ一つは人型兵器の装甲を貫通するのに十分な威力があり、アローヘッドの対ビーム装甲でもこの数を弾くのは難しい。ミナミは推進器を吹かして横に避け、追従してくる弾幕を目で見ながら距離を詰める。
「大きさの割には動きが軽い、重力制御か」
トレビュシェットの走行速度は速く、アローヘッドでも即座に追い付くことは出来ない。そして移動しながらも自身の主砲を使うため、背後に第一校舎の部隊が居ない方へと誘導しているのだ。
それに乗る、ミナミは口角を上げながら機体越しに大型兵器を凝視した。そのサイズ差は生身の人間と戦車に近く、衝突すれば流石の人型兵器と言えどスクラップになるだろう。しかし気圧されることはなく、ボタンでごちゃついた操縦桿を握り直す。
「こちらサヤマですが…流石に抑えきれないであります!残ったタラリアの強襲型がそちらに向かったでありますよー!」
「ここまで時間を稼いで敵まで引きつけるとはな、お前らは俺が思ったより腕を上げてるらしい」
「それはどうも、では反省会で…」
強襲型エーリスがハンマーヘッドに剣を突き立て、サヤマは目の前に広がる撃墜判定を見て項垂れる。アローヘッドのために道を作った第一小隊の面々は数で勝る相手と互角以上の勝負を繰り広げたが、結局は物理に押し潰された。
「退路は消えた。後は俺が負けて完全に敗北するか、或いは大型兵器を破壊してこの敗北に意味を持たせるか」
既に負けは決まっている、後はどれだけ足掻けるかだ。ミナミはペダルを踏み込み、推進器のスロットルを全開にする。エンジン寿命を低下させるからと設けられたリミッターを外すが、総推力で見れば5%の違いしかない。だがその数%よりも、エンジンノズルの駆動系にかかるリミッターも同時に解除されるのが肝だ。
「機体が軋む、久しぶりの感覚だ」
推力偏向ノズルが今まで以上に機敏に動き、アローヘッドは大型兵器から放たれたビームを避けた。副砲から放たれたそれは掠めただけで装甲を焼くが、お構い無しに刀を構える。銃は捨てた、この相手には役に立たない。
「何故だ、何故止められない!」
「機体が持つのは…10分てとこか、ぶっ壊れる前にカタをつけられるかどうか」
相対する二者は言葉を交わせないが、精神的にはミナミが勝っていた。性能の差は圧倒的だ、大型兵器が放つ攻撃は全て人型兵器にとって致命的な筈。だがアローヘッドはそれらを避け、刀一つを握りしめて向かってくる。
「近接防御システム起動、叩き落としてくれる!」
「レーザーか!」
使用するビーム兵器の出力を下げつつも、本来の状況と同じ損傷を実現するため、訓練使用機は実戦用の機体より装甲が脆い。それでも尚かなりの耐熱性を持ち、宇宙開発により進んだ材料工学の恩恵を受けていた。
「馬鹿め、光速を避けられるかよ!」
数本のレーザーはアローヘッドの肩部装甲に穴を開け、内部にまでその熱量を与える。しかし本来なら胸部を貫く筈だったそれは、盾にされた腕を一本もぎ取るだけに終わる。穴だらけにされた腕が宙を舞うが、ミナミは一瞥もせずに次の手を打つ。
「今!」
「煙幕!?」
アローヘッドの背部兵装コンテナが開き、何かが一斉に飛び出す。スモーク、チャフ、フレア、デコイ、今まで温存していた欺瞞装置のオンパレードだ。レーザーは敵を見失い、人型兵器と同じ反応を索敵センサーに返すデコイへその矛先を向けた。
「敵機の数が増えたということはデコイか、それに加えて古典的な手段を」
「このレーザーなら3秒は正面装甲が持つ、胸部の動力ブロックを貫通するのに2秒、戦死判定には5秒ってところか」
煙幕から飛び出したアローヘッドにレーザーが再度指向され、大型兵器の砲塔に備え付けられたビームマシンガンもまた砲門を開く。既に副砲のトライデントは近距離故に死角、残る攻撃手段は主砲だろう。
「レーザーならば耐えられると思ったか、だがなぁ!」
「グンニグルは冷却済み、ここぞという時に撃ってくる」
ミナミは二つ目のリミッターを外し、視界端に映る赤やオレンジの警告表示を無視した。粒子の加速を終えて砲門の奥から光を輝かせる大型兵器に対し、半ば祈りながらペダルを踏み込んで操縦桿を横に倒した。
「「ここだァ!」」
両者が叫び、大型兵器の主砲であるグンニグル荷電粒子砲が唸りを上げてその火力を見せ付けた。基地を一発で半壊させる威力と加害範囲、この大きさの兵器が持つにはあまりにも強力な代物。第一校舎の誰もがアローヘッドの撃墜を疑わなかった、彼の実力を深く知る者達以外は。
───脚部?
それはトレビュシェットのパイロットが主砲の発射直後に見たものであり、彼の正面にはそれだけが残されていた。アローヘッドはレーザーで脚部以外吹っ飛んだのか、突如としてこんなことが起きるはずがない。
そして次の瞬間に車体を襲ったのは強い衝撃で、大型兵器のコックピットには複数の警告が一斉に表示される。パイロットが車体上部を映すカメラの映像を表示すると、そこには片腕と片脚を失ったアローヘッドが居た。どういうわけか、砲撃を受ける直前にトレビュシェットの上部へと飛び付いたのだ。
「人工筋肉の伸縮力、最大にしてやればバトルドレスの一機くらいすっ飛ばせるさ」
「馬鹿な!」
人型兵器という巨躯を駆動させる人工筋肉だが、フレームへの負荷を最小限に留める範囲でその伸縮力を調整されている。そのおかげで寿命も長く出来る他、鋭敏過ぎる駆動の癖を和らげていた。しかし一度本気で動かせば莫大な膂力を発揮し、フレームを簡単に歪ませ関節部を破壊する。それがこの消えたかのような跳躍と千切れて残された脚の正体、人工筋肉本来の筋力だったのだ。
「悪いが最後にコイツだけは、コイツだけは貰っていくぞ!クソッタレがァー!!」
突き立てられたロングソードは、比較的薄い上部装甲を軽々と貫いた。そして砲塔の粒子加速器を貫通、砲塔の回転機構をも破壊し、動力ブロックに到達した。
「まだだ、まだ副砲が!」
「それを待ってた」
背部から展開したトライデントがアローヘッドへ狙いを定めるが、ミナミは残った脚を副砲の根本へと突っ込んだ。副砲は普段格納されている都合上、その格納部は車体内部へと通じる弱点と化す。
「道連れだ」
「まさかッ!?」
トライデントの発射により機体がビームに飲み込まれ、根元に無理矢理押し込んだ脚部推進器が吹っ飛んだ。あれだけ吹かしてもまだ残っていた推進剤はビームの持つ膨大な熱量により引火し、爆発する。
ロングソードの一撃により内部機構へダメージを負っていたこと、トライデントが調整が終わったばかりで使用例の少ない試作兵器だったこと、大量の武装を搭載していたことで車体内部に十分な安全機構を搭載する容積が無かったこと、主砲の発射直後で冷却が終わっていなかったこと。様々な要因が重なり、トレビュシェットはアローヘッドと共に爆発した。
ロングボウ中隊は中隊長を失い、その損耗率は6割に達する。基地も完全に破壊され、程なくして第一校舎が投入した歩兵部隊によって完全に制圧された。単純に見れば第二校舎側の負けだが、大型兵器トレビュシェットの撃破、ハンマーヘッドの突撃を受けた前衛部隊への被害、アローヘッドの急襲を受けた後衛部隊への被害などなど、結果的には大隊規模の攻略部隊を一時撤退に追い込むことに成功する。
トレビュシェットの主砲の威力を考えれば、遠距離からの砲撃で主戦場の戦況に大きな影響を及ぼした可能性も大いにある。場違いな戦場に送り込まれた彼らは、奇しくも思っていたものとは違う形で活躍したのだった。