ロボット学園惑星にて ー目指せ剣豪、番狂わせな近接特化ー 作:明田川
「…消し炭か」
「まごうことなき全損ですね」
「損耗率6割、稼働可能な機体で考えると何割だ?」
「応急処置だけで動かせるのが2割、時間をかければ治るのが1割、残りはスクラップです」
大規模演習は終わり、第二校舎は本拠地を失って敗退した。トレビュシェットは同型がもう一機投入されていたらしく、それが基地を吹っ飛ばしてKOだ。
「こうなると、部隊は解散か?」
「スポンサーは株価が上がったと大喜びです、機体の補充は可能かと」
「マジか、アレでも良いんだな」
「死なないからって無理した結果ですけどね、見てるこっちはもうヒヤヒヤですよ?」
専属整備士からの視線にミナミはたじろぎ、露骨に視線を泳がせた。アローヘッドのリミッターを外したのも、最初から相打ちに持っていくつもりだったからだ。それでも20年も前の機体が最新鋭の大型兵器を撃破したとあっては、視線が集まらないわけがない。
「それとなんですが…ハンマーヘッドの次世代機、こっちに回すそうです」
「やっとかよ、一年遅延してたよな」
「まあわざわざ装甲と装備を訓練仕様にするわけですから、時間がかかって当然なような気もしますけどね」
第二校舎は今日も負け続き、校舎のバトルドレス格納庫には損傷したスクラップ同然の機体が並んでいる。次の大型演習は不参加に終わるかもしれない、なんとも不甲斐ないことか。
「予備機は…どうにかして調達します、今期の予算内で」
「上から減らされてなかったっけ?」
「来季の予算は馬鹿なことに結果主義的な評価項目で決まるらしく、担当者を縛り上げて正当に評価させました。ギリギリまで使っても首は回ります、いや…回しますので」
虐げられているかと思いきや、案外強かなのがロングボウ中隊の面々だ。校舎内の賭け試合を荒らして金を巻き上げ、校則違反の物資取引所を襲撃し、野戦場に放置されたスクラップを隠れて回収する。何故か部隊で運用していない筈のエーリスを持っていたりするのは、このためだ。
「機体がもう一度揃うまでは大人しくしておきましょう、反省会もありますし」
「教官に何と言われるかって」
「教本に従うなら、この部隊自体が異端ですけどね」
「うんまあ、それはそうだが」
学生達は何も常に模擬戦をしているわけではなく、座学や基礎訓練といったものもカリキュラムに含まれる。身体的な機能は技術の発展により増幅・強化されたが、それを扱う技術は一朝一夕で身につくものではない。人型兵器パイロットの人間離れした反応速度と空間認識能力も、肉体の改造によって得られた後天的なものである。
「はぁ、面倒な奴らに会わなきゃいいんだが」
「中隊長どのー、どこに行くのでありますか?」
歩き出したミナミを見て、サヤマが走り寄って来る。彼女は行き先を聞くが、それが何処であれ最初からついて来る気である。それを知ってか知らずか、彼はぶっきらぼうに返答を返す。
「息抜き、あと食堂」
「ではお供するのであります」
「好きにしな、面白くはないぞ」
校舎は広く、移動には車輌が必要になることもある。安全のために車の類は少なく、張り巡らされたモノレールが主な移動手段だ。移動車輌の搭乗部分はコンテナ型になっており、コンテナを載せ替えることで人を車輌から下ろすことなく乗り換えを行う。
「ここだけの話、ハンマーヘッドの新型について何か聞いてますかな?」
「いや何も」
「現状一強とも言えるエーリスに対抗するべく、アローヘッドのような方向へ機体特性を尖らせたとのことであります。その結果、駆動系と操縦系統の調整に予想以上の時間を費やしたとかで」
「あの会社の操縦系統、共通規格に則ってるとはいえ使い難いんだよな…慣れれば問題ないんだが」
「人工筋肉採用機の性ですなぁ、どうしても特有の癖が出る」
スポンサーからの補給だが、その大部分は旧来通りのハンマーヘッドだ。そしてハンマーヘッドを改造したアローヘッドが三機、話にある次世代機はたったの二機だ。
「使えるもんかね、意向を鑑みるに俺は乗らされるんだろうが」
「まあ次世代機とはいえ、まだロールアウトしていない試作機ですからな。どう転ぶかは来てみないことには分かりませんし」
「だなぁ…」
大規模な演習を終え、少し気が抜けた。しかし精神と肉体の健康を保つため、緩急を付けることは大切だ。やる時はやる、やらない時はとことん休む、それが出来なければバトルドレスのパイロットは務まらない。
「そういえばこのモノレール、何処に向かっているのでありますか?」
「旧校舎の屋上、今は使われてないな」
「10年前までは使っていたという校舎ですな、まだ綺麗とは聞きましたが」
「なんで校舎を急に建て替えたのかは分からないんだけどな。構造的な欠陥でも見つかったのか、当たった予算を使い切りたかったのか…」
彼が伸びをしながらそう言うと、モノレールが目的地を前にして止まった。怪訝な顔をするミナミだが、モノレール側の端末には確かにここが終点だと表示されている。
「…おかしいな、半年前までは使えたんだが」
「老朽化の危険により立ち入り禁止、とか」
「まだ維持管理はしてるし補修予算も降りてる筈だ、一年前には学校祭でも使ってる」
降りた駅には何もなく、二人が空を見上げると巨大な校舎が聳え立っている。モノレールからエレベーターへと乗り換えて直ぐに辿り着ける筈だったが、まさかこうなるとは思わなかったと言いたげな表情をミナミは見せる。
「なあ、今日暇か?」
「暇でありますよ、大規模演習後は数日休みではありませんか」
「じゃあ付き合え、ちょいと歩くぞ」
「徒歩でありますかーッ!?」
駅に放置されていた自転車は持ち主を失って久しいらしく、IDから持ち主の学年を検索すると既に卒業してしまっていた。ならばと盗難防止用のチェーンを蹴り壊し、それに二人して跨った。
「自転車に二人乗りは校則違反ですぞ!」
「誰が見てるってんだよ、漕いでやるから後ろ乗れ」
「…じゃあ、腕を回すであります」
サヤマはなんだか緊張しながら腕を前に出し、サドルに座るミナミの腹に腕を回す。心臓の高鳴りを嫌でも感じる彼女だったが、何処からか折り畳み式のヘルメットを二人分取り出した彼は振り返って口を開く。
「帰り漕ぐのお前な」
「台無しであります!」
ーーー
ーー
ー
綺麗なままの旧校舎だが立ち入り禁止というわけでもなく、エレベーターや校内モノレールは通常通り稼働していた。不良生徒が隠れ家にしているようで、数人と遭遇するもロングボウ中隊だと分かると避けていった。どちらも面倒ごとは起こしたくないと言うわけだ、旧校舎がそれで本格的に閉鎖されても困る。
「…しっかし、なんでモノレールだけ寸断されてんだ?」
「謎が謎を呼ぶでありますな」
「何か知らないか、俺は何も知らん」
「使われていない筈の旧校舎の教室が光ってるとか、その手のよくある怪談しか知りませんぞ。そしてその原因とも先程遭遇したばかりですし」
「確かにな」
エレベーターを通って屋上に辿り着くと、そこからは付近の訓練場を一望出来た。安全のために人型兵器が使う区画はかなり遠い箇所にあり、この辺りは歩兵用だ。演習後の休みということもあり、校舎の周囲は静まり返っていた。
「良い場所ですな、不良も居ないですし」
「雨と風で屋上は荒れるからな、晴れてる日にくればまあこんなもんさ」
ミナミは適当な場所で寝転がり、個人用の端末で本を読み始めた。サヤマもそれを見習い、座り込んで同じように端末を見る。
「なんだか回線が不安定であります、校舎クラスの設備があればこのようなことにはならない筈ですが」
「だよなぁ、十分使えるが普段はこうじゃない」
やはり気になっていては息抜きは出来ない。二人は来たばかりの屋上を離れ、もう一度校内を探索することにした。調子の悪い回線ルーターの子機を探し、各階ごとにそれをリストアップしていく。なんだか途中から楽しくなってきたが、広すぎる校内を前に疲れが見えてきた。
「…休憩!」
「了解であります」
二人は半分以上が品切れとなった自販機から適当な商品を選び、ボトルを手にしながら適当な教室にて休むことにした。集めた情報によると、とある地点を中心に電波障害が発生しているようだ。ここまで分かりやすいと不良の一グループが何かしているのかと勘繰ってしまうが、少し覗きに行くことにした。
「電波障害が発生してる中心はこの少し先、吹き抜け構造のある区画か」
「電気設備系のメンテナンスハッチもありますな、何かあるとすればここで間違いないかと」
「こっそり行こう、な?」
「リンチは御免であります」
二人は恐る恐るその区画へと向かったが、通路の隔壁が閉じられていた。ならばと迂回路を通るが、その全てが封鎖されている。最終的に通気口を通ることにしたが、人が通れる大きさではない。
「ここは探査機を送り込むとしましょう、ちょっとした偵察ドローンを持ち込んでいますので」
「よくそんなの持ってるな」
「まあ情報は部隊の命綱ですので、そういうことで」
ドローンは多少の電波障害をものともせず、通気口の中を進んでいく。そして遂に出口へと辿り着くと、そこには見るからに荒らされた吹き抜けホールが現れた。不良が屯しているとかそういった次元ではなく、重機か何かで床をひっくり返したかのような有様だ。
「これは…なんだ、工事現場って雰囲気じゃあ無いな」
「壊されて荒らされたみたいであります、でもあの場所はそんな…元から荒れていたわけでは」
謎が謎を呼ぶが、ひとまずは一度帰ることにした。この校舎に長居しない方が良い気がしたのもあるが、何故か見られているかのような感覚を受けたからだ。パイロットとして様々な能力を強化した彼らにとって、その感覚は気のせいと片付けるには鋭敏過ぎた。
ーーー
ーー
ー
休暇二日目、ミナミとサヤマは旧校舎の件について調べていた。使える機体が無くて暇とも言うが、なんだかんだで優秀なので必要な報告書や課題は終わらせていた。ロングボウ中隊に割り当てられた格納庫の一室で作業していたが、サヤマがあることに気が付いた。
「…テロ未遂?」
「本学園の在り方に不満を持った軍人によるもので、未遂ということもあり大きく騒がれることは無かったようです」
「いやいやいや、何も聞かされずに終わるなんてことは」
「恐らく騒がれなかったというより、騒がれないようにしたという方が近い気がしますな」
「なんだかなぁ、ここまでの事件があって話題にならないとは思えないが」
「整備用の地下通路を通じて校舎に侵入するつもりが、うっかり辿り着く前に旧校舎の下で爆発。混乱を避けるため、学生には地下に滞留していたガスが照明の発した電気スパークにより引火した…という形で説明をしたとのこと」
「バリバリ隠蔽してんな」
「してるであります、真っ黒であります」
二人はひとまず区切りのいいところまで調べたが、これが真実であるという保証はない。学園側がここまで隠蔽し、学生にもわざと説明をしていないとなると首を突っ込むわけにもいかなくなった。そして電波障害の発生原因がわからない、破損した電気系が何か関係しているのだろうか。
「…これは一旦ここで止めだ、いいな」
「止めるでありますか」
「この惑星ローカルで使えるネットの情報じゃあ学園の手が入ってる、何処かで広域ネットから検索をかけないと無理だ」
「なるほど、道理ですな」
「それに明日からは訓練再開だ、調査で寝不足になるのは不味い」
引っかかるものがあるのは事実だが、それはそれとして学業に励まなければならない。落第なんてすればパイロット失格、ミナミは中隊長を続けられなくなってしまう。なんとも言えない不完全燃焼感からか首を傾げる二人だったが、中隊員が部屋の前に駆け寄る音を聞いて立ち上がった。
「中隊長、お客さんでーす!」
「分かった、すぐに行く」
ミナミはサヤマを連れ、部屋を出る。そして格納庫の入り口へと向かうと、生意気な顔をした学生がそこに立っていた。ゾロゾロと部下を引き連れ、手にはタブレット型の端末が握られている。
「ミナミ・カネシロ、今回の敗北について申し開きは?」
「第二校舎の勝利に貢献出来るよう尽力したつもりだ」
「それでご自慢の機体の過半数をぶっ壊して、お前の機体も吹っ飛んだわけか」
「基地に篭ってたアンタらを吹っ飛ばした大型兵器の同型も仲良く一緒さ。そう言うってことは映像記録あたりを見たか、いい花火だっただろう?」
「相変わらず馬鹿みたいな戦い方だったよ、君達は猿か何かか?」
「言い得て妙だな、じゃあアンタらは…鳥辺りになるのかねぇ」
鳥と言われ、罵っていた男は一瞬怪訝な顔をした。それに対してミナミは少し笑い、答え合わせをしようとでも言いたげな態度で彼の目を見る。
「鳥は天敵がいない環境だと、あっという間に飛べなくなるらしい。アンタらが正にそうだ、他校舎を敵と思わずに戦わず、常に身内争いしか頭にない」
「…それが?」
「最後まで聞けよ。数だけ揃ってるお前らが本気で戦おうとしたのは何年前だ、もう戦えなくなってるんじゃないか〜とわざわざ聞いてやってるんだ、皮肉って分かるか?」
最後に言い返せなくなり、相手が聞くことに回った時点で口論にはミナミが勝っていた。しかしこのような言い合いは不毛なものでしかなく、勝ったからといって何かあるわけでもない。本来なら付き合うべきではないが、仲間を馬鹿にされて引き下がるほど冷たくはなかった。
「お前ッ!」
「先に始めたのはお前だぞ、こんな言い合いに労力を費やさずに本題に入ったらどうだ」
「…そうだな。貴様のペースに乗る必要など最初からなかった、何故なら優位はこちらにある」
「何ィ?」
「貴様らが本当に強いかどうかをこの模擬戦で証明しろ、勝てなければロングボウ中隊を解体する!解・体だ!」
彼はそう言い放ち、資料と思わしき紙を地面にばら撒いた。ミナミは高々に笑う相手に対して、呆れた表情でただ帰る背中を見つめるのみだ。そして背後を振り返ると、話を聞いていた中隊員達が項垂れている。
「どうします中隊長、使える機体なんてないですよ」
「補給が届くまでまだあと二週間以上あるのに!届いてから使えるようにするのに何日もかかるのに!ああッ!」
部隊員達が嘆き叫び、ミナミは神妙な顔をして腕を組んだ。困難にぶち当たったわけだが、第二校舎でやっていくためにはこの手の問題にも対処しなければならない。ひとまず機体の調達からだなとミナミは考えつつ、指示を出すことにした。
「なんでもいい、動く機体を掻き集めるぞ」
「「了解!」」
こうして、ロングボウ中隊の次なる戦いが幕を開けた。今ある予算ではエーリスで頭数を揃えるのは不可能であり、より安く出回っている機体を買わなくてはならない。一世代前か二世代前に多くの校舎で採用されていて、今はエーリスに取って代わられている、そんな機体が理想的だ。
「マーケットで在庫ありそうな機体を探したのですが、この辺りが狙い目でありますな」
「…二世代前の機体か、操縦系さえどうにか出来れば乗れるな」
一昔前によく見た顔、ミナミが新入生だったころにはもう少し稼働している機体が居ただろうか。剥き出しのフレームと駆動系、単純な構造とそれ故の頑強さを持つ。ハッキリ言って今や強くはないが、それでも十分に動いて銃を使えるだけでも儲け物だ。
「M-56ロットマン、懐かしい顔だ」
「取り敢えず発注をかけるであります、整備班とも話をしないと…!」
大慌てで機体を用意して模擬戦に挑むこととなったロングボウ中隊。対戦相手に勝てる見込みはあるのか、まず敵は誰なのか、そもそも模擬戦はいつ何処で行われるのか…。全員が大慌てをする中で、ミナミは大変なことになったとため息を吐いた。
「ええと、模擬戦の日程はいつでありますか?」
「拾うのも癪だが…何々、一週間後?」
「もしや大規模演習の配置もこのためですかな」
「そうなんじゃねえかな、嫌になるぜ」
二人は揃って肩を落とし、憎き相手を追いかけてぶん殴るべきかと悩み始めた。