ロボット学園惑星にて ー目指せ剣豪、番狂わせな近接特化ー 作:明田川
第二校舎のバトルドレス格納庫へ搬入されてきたのは小隊規模のロッドマンであり、時代遅れの火薬式兵装も共に運び込まれる。年季の入った中古機体を前に、パイロット組がそのコックピットに入り込んでは何か作業を始めていた。
「知らねえOSだァー!」
「…これ18年前の機体だな、よく倉庫に残ってたもんだよ」
「書き換えいけるか、というかまず現行のOSで動くのか?」
ひとまず昔の機体に蓄積された操縦データを移行させようとしたようだが、機体が立ち上がると同時に表示された起動画面で全員が固まった。学園で使うOSや操縦系の共通規格化が行われたのは8年前であり、それを知るのは現在の上級生達のみだ。
「まあ待て、こう言う時はだな」
「先輩!」
下級生と中級生が中心であるロングボウ中隊には数少ない上級生だが、彼らが率先して対応に当たる。今回の機体を前にして上級生の整備士は懐かしさを胸に仕事を始め、パイロット達は当時を思い出してコックピットに座り込む。
「…あー、これ無理だな。多分コックピットを載せ替えた方が早いわ、複合装甲ブロックも新品に替えにゃならんし」
「そんなぁ」
「機載コンピュータの性能がまず足らんのさ、共通規格化は普及し始めた新型OSの要求性能が高かったことに起因するからな」
「物知りっすね」
「生き字引と呼んでくれ、新型OS直撃世代だぞ?」
複合装甲で囲われたコックピットは無傷で残るため、彼らは大破した愛機からコックピットを抜き取り、旧式へと載せ替えることにした。旧式なのはハンマーヘッドも同様だが、設計が古いだけで多少のアップデートや共通規格化は済んでいる。それだけで雲泥の差があると言えるだろう。
「エーリスがここまでシェアを伸ばしたのも、最初から新型OS搭載機だったからだ。わざわざ無理して旧来の機体に対応させるよりか、新しい機体を用意した方が安上がりだった」
「大型演習じゃあ機体ごと吹っ飛びますしね」
「贅沢なもんだよな、それだけの生産力を維持してもらわないと困るってのが運営側の意見らしいが」
大量の機体が生産されては損耗していく学園での日常は、戦争のない現在において非常に有益な場となっている。無論訓練仕様という名の大幅なダウングレードはある。しかし装甲以外、とりわけ駆動系や操縦系のフィードバックは製造元が喉から手が出るほど欲しいデータだ。
「我らが中隊長がカスタム機のアローヘッドに乗れるのも、製造元のテストパイロットとして副業やってるからだ。ビーム兵器の実用化で近接戦の優位性は落ちたからな、落ちた株価を学園の活躍で押し戻した英雄なんだよ、あの人は」
「ハンマーヘッドも業界全体で見ると、あんまり売れてないとは聞きますけど」
「ビーム砲運用能力があるのが最近のトレンドだからな」
「入ってくる新しい機体、ビーム撃てるんすかねぇ」
整備士はコックピットの載せ替え、パイロット達は旧式機のシュミレータでの機種転換訓練へ。世間話をしながら各々の仕事に取り掛かり、迫る模擬戦へ向けての準備を進めた。その間に中隊長とその副官が何をしているのかと言うと、非合法の賭け試合に参加していた。
予備機のハンマーヘッドを借り受け、所属が分からないよう塗装をあらためている。安物で塗りたくっただけなので、ステルス性や耐熱性は落ちた。だが今回のような場合であれば、それを気にしなくても良いらしい。
「久しぶりのハンマーヘッドだ」
「あの、何故複座型に乗っているのでありますか…?」
「この試合の参加条件にな、パイロット二名って書いてあってな」
本来なら機体を二機用意するところだが、塗装の手間を考えて一機での参加となった。
「となると、相手は二機で来るのでは」
「来るだろうな」
現在は使われていない地下演習場にて、ミナミとサヤマは賭け試合に参加していた。二対一、分は悪いが賞金は多い。相手は近接戦用にカスタムしたエーリス二機、装甲形状からは少し古い型番であることが見受けられる。
「レギュレーションは撃墜判定が出るまで、そして使える武器は格闘用だけ」
「おあつらえ向きにも我々有利ですな」
「ハンマーヘッドなんて運用してるのごく一部だからな、そう頻繁には出場できないのが難点か」
「金が無いとはいえ、こんな真似しない方が良いに決まってますけどね」
敵機は珍しい機体を前に、油断や遊びは無しで戦うことを決めたようだ。手に持つのは長柄のメイス、剣で打ち合うには少々やり難い。
「…勝てると良いんだが」
「ちょっ!」
「冗談だ」
二手に分かれた敵機に対し、右側に逸れた片方へと狙いを定める。頑丈な打撃武器であるメイスはロングソードでも叩き折られかねない、だがそれは下手な振り方をした時の話だ。
「まあ、こんな試合に出てるような奴の腕だな」
振り上げられたエーリスの腕部には剣での一撃が叩き込まれ、フレームがへし折れる。そしてミナミは敵機に蹴りを入れ、食い込んでしまった刃を引き抜いた。
「左、来るでありますよ!」
「あいよ!」
横薙ぎに振るわれたメイスを一歩後ろに下がることで避け、回避中に上段で構えたロングソードで反撃を放つ。それはエーリスの頭部を二つに分け、更に胸部にあるコックピット付近にまで切り裂いた。
「これ、借りるぞ」
そして敵機のマニピュレーターを片手で抑えた上で、膝で手の甲を叩き割る。それにより握力を失ってメイスを取り落とすが、それを拾い上げて片手を失った機体へと思い切り投げる。
「…ま、こんなもんだな」
数分にも満たない戦闘の後、残っていたのは無傷のハンマーヘッドのみだった。ハンマーヘッドの持つ剣ではフレームを切れないが、別に斬らなくても勝てるのだ。最後に投げられたメイスは片手を失った敵機の頭部を粉砕していた。
一瞬の出来事だったが、観客席に潜り込んだ部隊員はそれをみて小さなガッツポーズを決めた。部隊運営上は表に出せない金を使い、ミナミは自分の方へ賭けさせたようだ。
「さあ帰るぞ、これで機体の修理と改修費が調達出来た」
「こんなやり口、確かに二度目はなさそうでありますな…」
学園の裏側をほんの少し見たロングボウ中隊の面々だったが、これで資金は集まった。試合会場を後にするハンマーヘッドだったが、帰ってきた機体を見て涙を流す塗装担当者が居たことは忘れてはならない。格納庫が慌ただしい雰囲気に包まれる中、臨時収入を手に帰還したミナミはまた何処かへと行こうとしていた。
「…ちょっと行くところがあってな、悪いが留守にするぞ」
「何処へ行く気でありますか、今は手が足りてないというのに」
「第三校舎」
ぽかんとするサヤマに対し、彼は策があると言い残して消えた。
ーーー
ーー
ー
一人の学生が第二校舎のモノレール環状線から乗り換えを行い、第三校舎へ向かう高速リニアに乗車する。持ち物は最低限であり、座席についてもやることは寝るだけだ。これから先のことを考えると休息は出来るだけとっておいたほうが良い、そう考えてのことらしい。
「…久しぶりだな、大陸横断リニアに乗るのは」
人がいない車両の中でそう呟くのは、ロングボウ中隊のミナミだった。格納庫から抜け出して数時間、惑星上に張り巡らされた交通インフラを絶賛活用中である。丁度定期輸送便に同乗出来たため、目的地まではあと一日と言った所だろうか。
「遅いのか早いのか分からんな、星丸ごと一つが学園なのがおかしいんだろうけども」
慣性・重力制御技術の確立により、星と宇宙の物資輸送には革命が起きた。巨大なマスドライバーや軌道エレベーターを建設せずとも、宇宙船が最小限のエネルギー消費で着陸と大気圏離脱を繰り返すことが出来るようになったからだ。
それにより地上の輸送能力はあくまで模擬戦時に行われるバトルドレスと人員、設備の輸送が基準となっており、維持費や整備性の兼ね合いからも必要以上の高速化は求められなかった。結果として宇宙開拓時代の初期から変わらず使われ続ける、リニアモーターカーが採用されていると言うわけだ。
「常温超伝導に感謝…か、この話が出たのは宇宙開拓史Aの講義だったか?」
窓の近くにあるスイッチを押すと、窓ガラスが黒く燻んで光を遮る。彼はハイテクなのは良いが、これならカーテンでいいだろうと思いつつも背もたれを倒した。背後の席に人が居ないのは確認済み、完全に寝る気らしい。
「案外寝心地は悪くないな」
サヤマから貰ったアイマスクには、デカデカと「必殺」の二文字が書かれている。ご丁寧に地球で使用されていた言語の一つで印字されており、ロングブレードの発想はその文化圏からもたらされたものだとかなんとか。
「…」
目を瞑って数分、彼の意識はあっという間に微睡の中だ。輸送用とはいえ殆ど揺れず音もしない車内、模擬戦への準備で疲れた肉体、乗る前に食べた昼食等々、寝られる状況は整っていた。
「だれ」
「誰も何も、学生だ」
「…なんでいるの?」
「第三校舎に行くからだが、というかお嬢さんは誰だい」
ミナミがアイマスクを上にずらして通路側を見ると、見慣れないパイロットスーツに身を包んだ少女が居た。下級生が模擬戦のために移動でもしているのだろうか、ミナミからすれば少々幼過ぎる彼女の姿に首を傾げざるを得ない。
学園で生活する学生達は10年の在学期間を鑑みると、大多数が18から28歳だ。人類の寿命が大幅に伸びたからこそ可能になった教育期間だが、目の前の少女は明らかに18には見えない。15、いやもう少し下なのではないだろうか。
「わかんない」
「わかんないって君、名前とか住んでるところとか、何かないかい」
「いつも居るとこなら、あるけど」
「それだよそれ、一体何処の校舎に…」
彼女は車両の後方へと走り出し、ミナミが座席から身を乗り出して後ろを見ると車両間の扉の前で少女はこちらを見ていた。こっちに来いと言うことだろうか、ミナミは渋々立ち上がった。
「保護者は何してんだ、或いはそういう演技か?」
学園の規模でもミナミはそれなりの有名人だ、こういった悪ふざけに巻き込まれるのも一度や二度ではない。だが学園指定ではないパイロットスーツには違和感を感じるようで、彼女に誘われるままに車両の後方へと進んでしまう。
「お嬢さん、この先は貨物車しかないぞ」
「このおく」
「ちょっ、あんまりこういうことはしない方が良いぞ…?」
貨物車には輸送中のバトルドレスが収まっているが、その中の一つに見慣れない機体が存在した。一般的な大きさのエーリスよりも頭ひとつ抜けて大きく、今ではあまり見ない大型機が輸送車両の中に収まっている。第三校舎で試験運用を行う新型だろうか、それにしては少々突飛な印象を受ける。
「これ」
「これって、バトルドレスじゃないか」
少女は慣れた様子で仰向けに固定される機体へよじ登り、コックピットの開口部を指差した。ミナミも恐る恐るコックピットを覗き込むと、その内装は共通規格とはかけ離れたものだった。最新のものというよりも、旧型のインターフェースに似ているだろうか。
「…規格化される前のコックピットみたいだ、大昔のモーショントレース式?」
「そう?」
「身体を吊り下げて肉体と同じ動きを機体にさせるヤツだろ、どうしてこんな代物が…」
座席とディスプレイに大量の計器が詰め込まれた箱型のものとは違い、この機体のコックピットは球場の空間が広がっている。恐らく内壁はディスプレイなのだろう、待機状態を示す文言が表示されている。
「珍しい機体に乗ってるな」
「うん、いつものってる」
「模擬戦中はコックピットの外には出れないが、この操縦方式じゃあ安全のためとはいえキツいだろ」
コックピットが違う関係でパイロットスーツも変えなければならなかったのだろうか、だからと言って目の前の少女がここにいる理由付けにはならない。首を傾げつつも、彼は彼女と話すことにした。今日一日は暇なのだ、保護者が来るまで面倒を見ても良いだろう。
「一応連絡は入れさせてもらうけどな、この輸送車両のナンバーはっと」
「あれ、あなたって協力者じゃないの?」
「なんだそれ」
「あいことば、は?」
「知らないって、うっかり見に来たのは謝るけど俺は…」
次の瞬間、彼女は彼に飛び付いた。そしてコックピットの中へと突き落とし、腰から引き抜いた何かをミナミの首に押し当てる。
「ギッ!?」
「…確保」
少女は電撃を浴びて気を失った彼を補助座席へと縛り付け、自らは操縦席に乗る。コックピット上部のハッチが開き、四肢を模したアームがパイロットスーツの各所に設けられた固定器具と繋がっていく。垂れ下がったケーブルがあわさってか、宙吊りになった彼女はまるで操り人形のようで、ゴーグルを装着させられたことで視覚も機体に奪われた。
「…作戦開始時刻まであと21時間。パイロットからメインシステム、機体起動権限の譲渡申請」
『メインシステムからパイロットへ。機体起動権限の譲渡を許可、システムを待機状態から戦闘状態へ移行開始、武装の起動準備完了まで30分』
「作戦開始時刻まで待機、武器のエラーは兵装A-1の物以外は音声での報告は必要ない」
メインカメラを始めとした各種センサーが起動するも、肝心な武装に関しては大多数がエラーを吐いてまともに機能していない。唯一動くのは兵装A-1、この機体の主兵装だろうか。古い操縦系、整備が不十分な機体、幼過ぎるパイロット。あまりに多くの不安要素を抱えた人型兵器は、臨戦態勢のまま第三校舎へと向かい続ける。