ロボット学園惑星にて ー目指せ剣豪、番狂わせな近接特化ー   作:明田川

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第七話 騒動と解決と

 リニア鉄道輸送網は地上におけるバトルドレス輸送の8割を担っており、巨大な貨物駅では今日も全自動での荷下ろしが行われていた。貨物車と客車は既に分離しており、ミナミが乗っていた車両は貨物車とは違う場所に停車している。

 

「遅い、まさかまだ寝ているなんてことは…」

 

 第三校舎側の迎えとしてホームに立つのは、彼に一方的な因縁があるケイトだ。この人選には悪ふざけもあったが、ミナミ側に非のない因縁を抱え続ける彼女に思うところがあってのことだろうか。

 

「これで遅刻でもしたら笑い物だ、悪いが叩き起こさせてもらう」

 

 事前に彼が乗る車両は伝えられているため、車両の一つに乗り込んで探すことにしたようだ。車両中央の通路を通りながら座席を見るが、座っている学生は居ない。元々この車両にはミナミ以外が予約を入れておらず、一人だけ居るとすれば目立つ筈だが見つからない。

 

 窓が遮光モードになっている席を見つけ、彼女はどんな寝相だと思いながら席を覗き込む。しかしそこに人の姿はなく、彼の荷物と座席の上に置かれたアイマスクがそこにあった。

 

「…化粧室か?」

 

 トイレは誰も使用していなかった、念のため確認したが他の車輌にも居ない。携帯端末に対して電話をかけるも、繋がる気配がない。完全に行方不明であり、彼女は舌打ちをしてからホームへと戻った。そして再度電話をかけるが、その相手はミナミではない。

 

「サヤマだったか。単刀直入に言おう、奴が荷物だけを残して姿を消した」

 

「そんな馬鹿な」

 

「馬鹿も何もあるか、現に消えたのだからな。タチの悪い冗談で我々第三校舎に喧嘩を売ると言うなら買うが、奴はそのような趣味をしていない筈だ」

 

「その通りでありますな。第三校舎には交渉のために赴いたのであって、そのようなドッキリを仕掛ける気は毛頭ないであります」

 

「…つまり、貴様すら何も知らないと言うわけか」

 

「この星の殆どは通信圏内であります、端末側の定期通信があった位置を見れば見つかるかと」

 

 行方不明であれば学園側に捜索を依頼する他ないが、そうする前にまだやれることは幾つかある。サヤマは自分の端末を使い、学園ネットワークにミナミの端末がアクセスした時間と、その時の座標を調べ始めた。

 

「ありゃ、この近くに居るようでありますよ」

 

「なんだと、荷物を置いて何処に行っているんだあの男は!」

 

「数キロありますが、これは貨物駅ですかな」

 

「貨物車にでも潜り込んだのか、何をしているのや…」

 

───閃光?

 

 呆れたと言わんばかりのケイトだったが、少し離れた位置にある貨物駅からの光に気を取られた。そしてそれは見間違いではなく、光から数秒遅れて届いた轟音によって台詞は完全に遮られる。何故爆発が起きたのかは分からないが、問題は本来無人である筈の貨物駅にミナミがいる可能性があったことだ。

 

「な、何の音でありますか!?」

 

「…貨物駅が爆発した、嘘ではない」

 

「う、うわーッ!中隊長がーッ!!」

 

 電話越しに狼狽えるサヤマだったが、ケイトは爆発の中に何かを見た。何か見たことがあるような違和感、普通の爆発ではないと感じるほどの何かがあった。爆炎や飛び散る破片の動きが違ったのだ、本来なら飛び散る筈の破片や瓦礫が全く飛散しなかった。

 

「慣性制御?」

 

 直後、爆煙の中から一機の人型兵器が現れる。それは周囲を凍らせ、歩いた後には霜を残す。あまりに異様なその光景は、駆けつけた警備ドローンが現れたことで更に騒がしさを増す。

 

「模擬戦でもないというのに、輸送中のバトルドレスが暴走したとでも言うのか?」

 

「ぼ、暴走?バトルドレス?何が起こっているのでありますか!?」

 

「映像を中継する、見た方が早いだろう」

 

 彼女が携帯端末のカメラを向けると、サヤマにも状況が伝わった。しかし彼女が視線を向けるのは被害の大きさではなく、悠々と歩く謎の機体だった。

 

「…この機体、随分と昔に発表された試作機では?」

 

「知っているのか」

 

「小型とはいえ宇宙船舶用の慣性制御装置を載せた機体でありますな、試作機というより実験機に近い気がする代物であります。メディアへの露出が数回あったきりで、後は製造元が潰れるのと同時に何処かへ売られたとか」

 

「売られた結果がこれか」

 

「こんな騒ぎに使うなら外装の一つでも変えた方がいい筈でありますが、まさかそのままこの星に放り込んでくるとは」

 

 敵の進路は間違いなく第三校舎であり、警備ドローンも警告から威嚇射撃に切り替えている。最寄の警備部隊も出動し、訓練仕様ではない実戦用の機体が突如現れた所属不明機への対応に当たり始めている。空気は既に一変した、駅に居るのも危険だろう。

 

「悪いが中継はここまでだ、私は退避させてもらう」

 

「そうした方がいいでありますな、最悪凍らされてしまうであります」

 

「何故ああも凍るんだ、熱を奪うにしては目立った装備が無いが」

 

「慣性制御で分子同士をぶつけて振動を止めているのかと思いますが、中々器用な真似をするであります」

 

「そんなことが可能なのか?」

 

「バトルドレス用ではなく船舶用ですから、正直言って専門外というか…」

 

 そんな化け物を積み込んだ機体がどれだけの無理をしているのか、試作機止まりで終わった理由が分かろうものだ。一見整った外観をしているように見える所属不明機だが、サヤマにはどうにか取り繕っただけの姿が透けて見えていた。

 

ーーー

ーー

 

「うぉ…っと?」

 

 ミナミが目を覚ますと、そこはコックピットの中だった。その中央にはロボットアームによって吊り下げられる少女が一人、機体を操縦しているらしい。

 

「なんだこれは、どうなってる」

 

 立ちあがろうとするも、両腕が動かない。腕は肘置きに紐で縛り付けられているらしく、多少の力ではびくともしなかった。液晶で覆われたコックピットには外部の様子が投影されており、なんとか首を回して周囲を見ると、そこには吹き飛んだ貨物駅があった。

 

「演習中でもないのに、まさか武装を使ったのか!?」

 

 この機体に見覚えは全く無いが、規格化前のコックピットを見るにある程度は推察出来た。うっかり学園側の安全装置を組み込んでいない旧式が暴走した、と言うのが現状考えられる筋書きだろうか。

 

「お嬢さん、聞こえるなら止まってくれ!これは演習じゃない、警備隊に殺されるぞ!」

 

『敵機より攻撃』

 

「なんだこの音声インターフェース…ってマジか!」

 

 警備ドローンは警告射撃を受けても止まらない所属不明機に対し、攻撃を開始した。ドローンの重量的な制限により、武装は火薬式の機関砲である。放たれたそれは有効打にはならず、砲弾の軌道は不自然に逸れた。慣性制御を用いた防御フィールドだ、それも彼が前回戦ったトレビュシエット並みの。

 

「おいおい冗談じゃないぞ、こんな代物を何処から引っ張って来やがった?」

 

 縛られているために話すことしか出来ないが、どれだけ騒いでも少女が反応することはない。恐らく頭に被るようにして装着したゴーグルが原因だろう、目だけではなく耳も塞いでいる。

 

「まだ五年だってのに知らない奴と心中か、頼むから夢であってくれよ」

 

 折り畳み式の補助座席は何処か歪んでおり、最初から使う気がないのに取り敢えず付けておいた…というのが透けて見えた。これ幸いと縛られていない脚を使って蹴り付けるが、人間の脚力では壊せない。

 

「そう簡単じゃないか」

 

『慣性制御システムは過負荷状態での稼働を継続中、稼働限界まであと10分』

 

「おい今なんて…」

 

 機体に警報が鳴り響き、校舎の方向から大量のレーダー・レーザー照射を受ける。どれも照準用のものであり、次の瞬間には大量のビームが所属不明機へ殺到した。しかしそれらはドローンの機関砲と同じく、その全てが命中しなかった。

 

「この数を逸らしたのか、警備隊一個小隊の全力射撃だぞ!?」

 

『警告。慣性制御システム、フライホイール1番、2番、3番の回転数上限突破』

 

「運動エネルギーの逃し先が無いのに、こんな馬鹿みたいな動かし方しやがって。おいお嬢さん、このままじゃ機体が内側から吹っ飛ぶぞ!」

 

 慣性制御システムの本来の機能は、対象が持つ力の方向を変えることだ。しかしシステムの発展とこの手の分野の進歩により、その効力は力の強弱にまで及ぶようになった。今も慣性制御の名を持つのは、慣例的なものだ。

 

 しかし曲げる場合と比べ、力の強弱を操作する際の効率は頗る悪い。その上に力を奪うということは、その力の行き先を決めなければならない。力を無から生み出すことは出来ず、また消すことも出来ない。防御する上で攻撃を曲げきれない時、システムは仕方なく対象のエネルギーを奪うことにする。だがこの機体においてはやり過ぎだ、いつ自壊するかも分からない状態に陥っている。

 

「機外温度まで冷え過ぎだ、一体どんな設定してやがる!」

 

『機外への運動エネルギー投棄を開始』

 

「あっ馬鹿!」

 

 莫大な運動エネルギーを押し付けられた大気は一瞬にしてプラズマと化し、背にまるで光輪のような形を作りながら光り輝いた。神々しく見えるが、この世界においては痩せ我慢の象徴だ。

 

「もう限界ですって言ってるようなもんだ、このまま撃ち殺されるぞ!」

 

 事実、警備隊からの攻撃は苛烈さを増した。紺色と白で塗られた実戦仕様のエーリスが、直撃すれば死体も残らないようなビームを撃ち続ける。警備ドローンは親玉を呼び出し、対地装備に換装した大型戦闘ヘリまで出張ってくる始末だ。

 

「…ヘリまで来やがった、式典以外で初めて見たぜ」

 

『ミサイル接近、妨害…電子戦装備にエラー』

 

「ポンコツがぁ!」

 

 対地ミサイルは慣性制御装置からの妨害を受けながらも、機体の近くに着弾した。コックピットが揺れ、機体は大きく姿勢を崩した。乗員への衝撃は慣性制御装置によって気にならない程度には緩和される筈だが、縛られていた彼は地獄を見るハメになった。

 

 宙吊りになっている少女はまだマシだが、それでも各所から火花が散るのを見るにコックピットを襲った衝撃は相当なものだった。彼を縛る細い紐が制服越しに腕へと食い込み、座席の基部が音を立てて歪んだ。元々歩くだけで中の人が死ぬような兵器なのだが、この程度で済んで良かったと思う他ない。

 

「…死ぬ、死ぬぞこれは」

 

 口から血の味がする、何処か切ったらしい。口内が荒れると集中力が下がるんだと内心悪態を吐きながら、彼はもう一度踵で座席を蹴った。それと同時に二発目のミサイルが爆発し、その衝撃波がコックピットを先程とは違う方向へと揺らす。それが致命打となったのか、補助座席が根本からもぎ取れた。

 

「がぁッ!」

 

 座席が取れたからと言って、拘束が解けたわけでは無い。ミナミは座席ごとコックピットを転げ回り、今度は頭を思い切りぶつけて血を流した。パイロットとして強化され、訓練で鍛えられた三半規管によりどうにか正気は保っているが、それでも垂れた血が邪魔で前が見えない。

 

「…前が見えねえ、何処か折れてないといいが」

 

『信号受信、プランA実行』

 

「今度は何をやらかす気だ、このオンボロ!」

 

 腕部に搭載されていた武装を展開し、手甲から砲門が伸びる。そしてディスプレイの表示を見る限り、その威力にリミッターはかけられていなかった。

 

「攻撃開始」

 

「撃つな死ぬぞ、今の比じゃない攻撃が…」

 

 第三校舎に向け、ビームが放たれた。それは間に入った警備隊のエーリスによって防がれたが、これにより所属不明機への対応は鎮圧から撃破へと変わる。第三校舎側も既に避難を進めており、遠慮は無用だった。

 

「終わったァ!」

 

 容疑者の確保を諦めた警備隊が放つビーム砲の一斉射は、本来受け止め切れるものではなかった。しかしこの試作機はそれを待っていたかのように両手を前に出し、胸部と腕部の装甲を展開させた。そして内側から飛び出たのは複数のフライホイール、奪い取った運動エネルギーを蓄えるための円盤だ。

 

───変形?

 

 フライホイールが火花を散らすほどに回転する中、殺到したビームは全てが軌道を捻じ曲げられた。そして機体を中心に弧を描き、粒子達は内包するエネルギー量を殆ど保ったまま警備隊へと打ち返された。

 

「…こんな芸当、人型に出来たのかよ」

 

 その殆どは警備隊の機体に命中しなかったが、校舎近くの地面を深く抉る。地下へと避難した学生達が不安だが、この程度で貫通される地盤と装甲では無いだろう。そんな人型兵器離れした芸当を見せた所属不明機だが、ついに機体が限界を迎える。機体各所に設けられたフライホイールが回転に耐えきれず脱落し、装甲が内側から弾け飛ぶ。

 

『警告、負荷限界到達、攻撃の回避を』

 

「うっ!」

 

 一発のビームを逸らし切れず、機体の片腕を肘先から吹き飛ばした。遂に被弾したかとミナミは死を覚悟したが、パイロットの少女は自分の腕を握って悶えはじめた。

 

「あっ、あっ…!」

 

「おい大丈夫か!」

 

 まるで機体と痛覚が繋がっているかのように振る舞う彼女だが、ただのモーショントレースではこうならない。恐らく脳波制御の類だろう、それもパイロットへかなりの負担を強いる初期型の。

 

「倒れる、倒れるぞ!」

 

 殺到するビームとそれを撃ち返しながら自壊する機体。そして遂に駆動系までも損傷したのか膝をつき、煙を吹き上げ火花を散らしながら沈黙した。

 

「お嬢さ…ガッ!?」

 

その際には再度コックピットを衝撃が襲い、ミナミは数回宙に浮くことになる。何度もコックピットへ叩き付けられた結果、両腕の拘束は解かれていた。

 

「やっと…やっと動けるか、よぉし!」

 

 幸い骨は折れていない、腕は思い通りに動いた。パイロットとして強化された身体能力が無ければどうなっていたか分からないが、兎に角彼はこの身体に感謝した。そしてコックピット内を見回し、とあるハッチを開いた。

 

「やっぱりな、サバイバルキットはそのままか」

 

 古い型だが、分かりやすい位置にそれはあった。箱を開くとそこにあるのは折り畳まれた短機関銃と、ナイフ一本、それにライトが一つだ。彼は短機関銃に手を伸ばそうとしたが、跳弾の危険性を思い出しナイフを取り出すことにした。

 

 そしてどうにか立ち上がったところで、ポケットへ入れていた携帯端末が震えていることに気がつく。片手をズボンへ突っ込んで取り出してみると、大量の通知が来ていた上にサヤマからの電話が延々とかかって来ている。

 

「こちらミナミ、暴れてる機体の中だ!」

 

「何をしてるんでありますか!?」

 

「俺が聞きたいね。さっきまでコックピットに拘束されててな、今からパイロットを無力化するから撃つのやめてくれって警備隊に言えるか?」

 

「恐らく百も承知で撃ってるでありますよ、携帯端末の位置情報は拾えている筈ですし」

 

「出る死者考えりゃ当たり前だな、だがまあ説得頼むぞ!」

 

「了解であります!」

 

 ナイフを片手にパイロットを吊り下げるロボットアームへと飛び掛かり、そのままよじ登る。流石は元試作機、ケーブルやら何やらが最低限の固定だけを済ませて露出した状態だ。感電して死ぬ可能性はあるが、その時はその時だ。

 

「重要そうなケーブルは…」

 

『警告、コックピットアームの重量増加』

 

「これか、悪いなお嬢さん」

 

 彼女が被るヘッドセットから伸びるのは、ひときわ太いケーブルだった。それを掴み、固定基部のカバーをナイフでこじ開ける。そこにはケーブルのソケットがあり、わざわざ斬らなくとも外すことが出来そうだ。

 

「固ってえ!」

 

「こちらサヤマであります、機体が止まってるので一応撃つのをやめてもいいとのことですが」

 

「学生をテロリストごと蒸発させたくなかったら止めてくれ!」

 

「もう止めてるであります」

 

 ミナミは固定するための金具を外し、全体重をかけてケーブルを引っこ抜く。すると操縦システムがたちまちダウンし、機体がエラーを吐いた。ケーブルを外したことで現れた緊急用レバーを見た彼は、樹脂製のカバーをナイフで叩き割る。

 

「お嬢さん、いやテロリストはこっちで確保する!」

 

 レバーが引かれると、パイロットである少女の拘束が解かれた。思い切り倒れ込みそうな彼女をミナミは受け止め、そっと床へ寝かせる。後は外に出るだけだが、その心配は必要なさそうだ。

 

「大丈夫か、ミナミ訓練生」

 

 ハッチを開ける方法を探す必要はない、警備隊のエーリスがコックピットを無理矢理こじ開けたからだ。中には光が差し込み、乗れと言わんばかりに機体の手が差し伸べられる。

 

「…豪快ですね、助かりました」

 

「早急に脱出しろ、そのバトルドレスは爆発しかねない」

 

「はい!」

 

 彼は少女を肩に抱えてエーリスの手のひらに飛び乗り、火花を散らす試作機から離れる。この状況についてミナミ自身が知っていることなど微塵も無かったが、今ばかりは死ななかったことに安堵していた。

 

「…サヤマ、助かったよ」

 

「ケイト氏にもお礼を言われた方が良いかと、彼女からの連絡がなければ死んでいたかもしれません」

 

「そうか、言っておくよ」

 

 この事件がこれから起きることの発端であったということに気がつくのは、もう暫く先のことになるのだった。




すみませんがこれで一旦終わりです、お付き合い頂きありがとうございました。この先に関しては色々な構想もありましたが、それは他の作品が終わってから形にしようと思います。中途半端な形になってしまい、申し訳ありません。

設定資料として機体の設定とイラストを用意したので、投稿しておきます。
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