擬人化ポケモン世界で私は六股クソ女 作:新時代のみょうが
メモの底で埃被っていた設定を掘り起こして、コネコネしてたら出来ました。
どこに需要があるんだ、この怪文書。
ポケモンという作品が好きだった。
日常の中に彼らが自然と溶け込んでいるその世界観が好きだった。
挫折と成長と友情に満ちた物語のことが好きだった。
魅力溢れるキャラクターや物語を彩る音楽の数々が好きだった。
子供の頃に感じていた冒険心を擽る未知に対するワクワクも、歳を重ねて気がついたバトルシステムの奥深さも、或いは懐かしさを刺激する温かな歴史の重みも。
「好き」の要素を挙げればキリがない。
けれど、敢えて一つを選ぶのならば。
当然のように答えは決まっていた。
格好良くて、可愛くて、綺麗で、泥臭くて、力強くて、儚くて、現実味があって、幻想的で、センス抜群で、ちょっぴりダサくて、それでもやっぱり愛嬌がたっぷりなポケモンたちのことが、私は大好きだった。
初めから物語を追い続けてきたような古参というわけではない。
全ての最新作に向き合う時間を取っていたような重度のファンというわけではない。
アニメを全話見たわけでも、全ての映画を視聴したわけでも、環境ポケモンの種族値を空で言えるわけでもない。
なんなら全てのポケモンの名前を一言一句違わずに覚えられている自信すらない程度の人間ではあるが、それでも私は――確かにポケモンが大好きだった。
✳︎
「……だからと言って、ここまで軽率に引っ張り出されて文句が出ないかと聞かれりゃ、話はまた別なわけなのですけれど」
ねぇ、
聞こえてますかい、
君に言ってるのよ、君に。
どうせ今日も呑気に観測してるんでしょう?
「はぁ……もう終わった話でしょう? いつまで文句言ってるのよ、おバカユズカ」
「全てをその最強メンタルで割り切れるほど、人間辞めたつもりはないの。こちとらただの凡人Cなんですー」
「アンタみたいなのが凡人Cなら世も末よ」
「ひどい暴言を聞いた気がする」
森の中を歩いていた。
だらだらと。一時間と少しほど。
見渡す限りの大自然。
ここしばらくの間、景色に大きな変化はない。
目的地までの道程に大した障害がないことは喜ばしいことではあるのだが、時間の経過で退屈の念が積もりに積もっていくのは仕方のないことなのだろう。
疲れを自覚すると、心の中で鬱屈とした感情が嫌でも首をもたげ始める。
そうなると自然と私の視線は隣を歩く彼女の方へと吸い寄せられていくのである。
緋色の長髪と瞳。白磁の肌。
青を基調としたサマードレスは大胆に背中を魅せるようなデザインでありながら、清楚な印象を崩すことなく、彼女の魅力を引き立てている。
そう、つまり私の隣を歩くのは所謂、絶世の美少女というやつであった。
ミナという名の美少女は私の視線に気がつくと、ため息と共に小さく眉を顰めた。
「……私の顔に何かついてるの? それとも飽きもせずにまた見惚れてたわけ?」
「君はほんとに綺麗だからねぇ。この先、飽きる日が来るかは怪しいかも……?」
「何真顔で恥ずかしいこと言ってるのよ。ドロポンぶっ放すわよ?」
「普通に死ぬからやめようね?」
君、搦手の方が得意な癖に、こっちの世界だとドロポン好き過ぎるの何でなのさ。
お母さん、そんな風に君を育てた覚えないんですけど……せめて『ねっとう』にしときなさいよね。
「世の中、大体殴った方が話は早いのよ」
「蛮族の理論が過ぎる」
二の腕の力こぶを見せるでない。自慢するほど筋肉ついてないし、そもそも物理アタッカーでもないでしょ、君。
まぁ、確かにわかりやすいのは私も嫌いじゃない。暴力的でなければ尚宜しいのは当然のことだけど。
なんて雑談を交わしている間に、目的地へと到着した。
目的地なんて表現をしたが、それよりも本拠点と言ってしまった方が意味としては適しているのかもしれない。
それは旅館だ。
木造建築の年季を感じさせる割と大きめの温泉宿。
それがある日突然この世界に"落とされた"私に与えられた活動拠点であった。
「ただいまー」
「今、戻ったわ」
正面玄関からそのまま中へと入る。
他に客が居るか居ないかについては、お構い無しである。
元より、この旅館の存在意義は私たちの活動拠点としての意味合いが強い。
温泉宿としての役割が二の次であることを理解している相手のみを客として扱っているため、今更私たちのスタッフの態度に文句をつけてくる者はいない。
「……おかえりなさいませ、ユズカお嬢様。ミナもご苦労様です」
受付では白の着物がよく似合う大和撫子的美人さんが読書をしていた。
こちらに気がつくと、彼女はそっと本を閉じて穏やかに微笑みを向けてくる。
「ん、受付ありがとね、シロ」
「ふん、苦労でも何ともないわよ」
「ええ、形だけですとも。お嬢様とのお出かけのどこに苦労する要素があるというのでしょう?」
「……コイツ、本気で言ってるから怖いのよね」
少しばかりピリッとする空気。
それもいつものことだと慣れてしまった自分が怖い。
「今度はシロもお出かけしよーね」
「ぇ、あっ、は、はい!」
ヨシヨシと黒紫の髪を撫でてやると、シロの色白の肌にわかりやすく朱色が差し込む。
ひんやりと冷たさが心地の良い彼女の髪は撫で心地が抜群なのだが、あまりシロばかりに構い過ぎていると隣のお姫様の機嫌が急降下するため、ほどほどにして受付から立ち去ることにする。
「…………」
「ミナも撫でてあげよっか?」
「い、いらないわよ!」
「あら、残念」
倉庫へ移動する途中で冗談半分にそんな提案をしてみたのだが、残念ながら断られてしまった。
6名+αな同居人たちの中では、ミナだけが唯一ツンツンとした気質の持ち主であるため、彼女を甘やかせるタイミングは見過ごせない。
言質さえ取れればこっちのものなのだが、中々隙を見せてくれないのが現状だった。
倉庫についてからは荷物整理を始める。
元々、今日の外出は月に数度の買い出しを目的としたものだった。
しばしの間、容量不明の四次元バック(初期装備)から『きずぐすり』やら何やらを取り出しては仕舞う、を繰り返して、最後に食料品などのナマモノを保存するための氷室(メイドbyシロ)へと向かう。
「うへぇ……さっむい……シロに手伝い頼むんだった……」
「はぁ……貧弱ユズカは引っ込んでなさい。私が片付けとくから」
「あー、限界三歩手前くらいで撤退するから、そこまでは私もやるよ。そこまで量もないし」
寒さに震えながらも作業を終えれば、本日のタスクは全てクリアとなる。
暇だから水浴びをしてくる、と宿の裏手にある川へ向かったミナを見送ってから、私は自室へと戻ることにした。
✳︎
秘密のノートより一部抜粋――
・私は◽️◽️柚架ではなく、ユズカである。
・私は、神様の気紛れでこの世界へと落とされた迷い人である。
↪︎前世での生死は不明。課せられた使命などは特にナシ?
・この世界の基盤はポケモン世界である。
↪︎アイテム、技、種族などの概念は共通しているものが多い。世界としての規格が同じといった認識が近いかも?
・この世界は原作を持たない時空間である。或いは私の知識よりも未来に生まれた作品を原作とした世界である。
・この世界のポケモンは人型である。
↪︎仲間というよりも相棒、パートナーといった側面が強く浮き出ている印象アリ。
・この世界は迷い人を受け入れることで発展している世界である?(要検証)
↪︎現地人や都市の存在は確認済み。他の迷い人については伝聞のみだが確認済み。
・ユズカが過去(恐らく?)より引き継いだ手持ちポケモンは6体である。選考基準は不明(使用頻度、使用期間、思い入れなど?)各々の詳細については後述。
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・
※重要
・この世界の常識について。
ある程度は前世、或いは他の原作ポケモン世界と変わりなし。
一点のみ大きな相違点アリ!
↪︎この世界のトレーナーは、よほど特別な事情がない限り、一人につき一体しか手持ちポケモンを育てないらしい。
理由は明白。
ポケモンが人型を取り、共通の言語で双方向のコミュニケーションが可能となり、パートナーという側面が強まったことで――複数のポケモンと関係を持つことはポケモンに対して誠実ではないという認識が一般的となったからである。
✳︎
ノートを閉じた。
穴だらけのデータと憶測と希望的観測の数々を乱雑にまとめただけの、何の役にも立たない落書き帳から視線を外す。
思考の整理は既に終わっている。
なんだかんだで、私がこの世界にやって来てから早くも数ヶ月が経過していた。
故に、この世界で生きていく決心などは、とうの昔に固め終えている。
正直、前世に対する未練はなかった。
若干の寂しさや申し訳なさはあるものの、後悔をするような生き方ではなかった。胸を張ってそう言い切れる私は、きっと幸せ者だったに違いない。
「現状に対して理解はしてる。納得もしてる。まぁ、実を言えば、本気で気に食わないレベルの不満はないってのが、本音なわけ」
「…………? では、何も問題はないのでは?」
「……そこで素直に『はい』と頷けないのが、人間の面倒くさい所なんだよ。人間初心者のポンコツ君」
「うぎゅ……そ、その、ユズカ? 前から薄々と感じてはいたのですが、ユズカは私の扱いが他の方と比べてとても雑な気がするのですが……それは私の気のせいなのでしょうか?」
「気のせいなわけないでしょ? 聞かずともわかってる癖に。これだからポンコツは」
「ポンコツ、ポンコツ言わないでくださいよ!? 泣きますよ? 恥も外聞もなく大泣きしますからね、私!」
愚痴をこぼす。
大した意味を持たない文句を独りごちると、どうしてか頼んでもいないのに言葉が返ってくる。
つい、と目を向ければ涙目のポンコツ女が視界に映った。自室の押し入れに棲みついている引きこもり女からの抗議を聞き流し、ため息を落とす。
「……ここが原作のどこでもない謎空間だってのは、別に構わないの。何故かポケモンが擬人化してるって現象についても、どうにか目を瞑りましょう」
「……ふむふむ?」
「チート性能の初期装備に、ご都合主義満載の謎拠点、相棒の皆々様が手持ちポケモンとしてご用意されていたことについては感謝の念以外の何物でもないのです」
「うんうん、良いこと尽くめじゃないですか!」
その通り。
このポンコツの言うように、びっくりするほどの好待遇で私はこの世界に迎え入れられている。
自覚はしてるし、感謝もしている。
「……多分、このまま皆と面白おかしくのんびり暮らしていけたら、私は何の不満も抱かないとも思うんだ」
「万事オッケー、悩むことなんて何もなし! というわけですね♪」
愚痴とは、その多くは意味のないものだ。
どうせなら無い方が嬉しいな、程度の認識のあってもなくても問題のないものだ。
或いは、どうにもならないと理解しながらも、悪態を吐かなきゃやってられないという時のストレス解消のためのポーズのようなものだ。
この会話に大した価値はない。
これは生産性のない不毛な雑談の一つに過ぎない。
つまり、今この瞬間の私の発言は、既に提出した結論に変化を与えることはない。だからこそ、愚痴ぐらいは好き放題に吐かせて貰おう。
「…………ユズカ?」
引きこもり女は腹立つぐらいにノー天気な笑顔をこちらに向けていた。余談だが、コイツの特性はノーてんきではない。
彼女の浮かれ具合が最高潮になったところで、私は唯一にして最大の懸念点を口にすることにする。
「まぁ、それはそれとして――私の世間からの評判は全力でオブラートに包んだ上で『六股クソ女』になっているわけだけど」
「――――」
おい黙るな。笑顔を固めるな。早く慰めろ。
「……一応さ、これでも私って思春期真っ盛りのか弱い女の子なわけ。わかる?」
「――え、ええ、もちろん! ユズカはとても可愛らしい女の子で――」
「ふふっ、ありがとう。こんな『六股クソ女』に可愛いなんて言ってくれるのは、君やあの子たちだけだからさ。君の言葉でも嬉しいよ」
「え、笑顔が怖いです、ユズカ! 私には滅多に向けてくれない素晴らしい笑顔のはずが、今はとっても怖いです!」
またまた、君に怖いものなんてないあるわけないでしょうに。
わかっている。わかってはいるのだ。
これは誰が悪いとかの話じゃない。
強いて言えば、運が悪かったというのが
理解も、納得もした。
けれど、それを受け入れられるかはまた別の話でありまして。
極めて常識的な感性を持っている私が、その散々な言われように凹むのもまた当たり前のことだった。
「あぁ……鬱る……ヘラる……だれが無差別女好き貧乳ロリビッチだ。ふざけんなよダボハゼが」
「――は? 何処の誰ですか、そんなふざけたこと抜かしやがったクソ野郎は」
「ステイ。デウスちゃん、ステイ」
「わん!」
ポンコツが剥がれかけた押し入れ女に待てをかけると、綺麗なお手を披露してくれた。満面の笑みを浮かべた美女のお手とか普通に癖が歪みそうになるのでやめて欲しい。
「で、何処のバカです? お望みであれば、私の全力をかけて直ぐにでも滅ぼして来ますが」
「ネット掲示板」
「くぅ……デウスは、無力です……」
「なんて使えないんだ、このポンコツ」
まぁ、簡単に滅ぼされても困るのだが。
はぁ、とため息が重なった。
逃げ出した幸せの数は両手で数えられなくなってからは、数えるのを辞めている。
「使命もない。目的もない。昨日も今日も、明日も明後日も、多分それは変わらない」
デウスが首を傾げる。
キョトンとした顔につい頬が緩む。
愚痴を零す時間とは、その多くが無駄なものだ。
何故ならば、愚痴をこぼしている多くの凡人たちは、逃れたくても逃れられない正解に勘づいている場合が殆どであるからだ。
全ては持論に過ぎないのだけど。
後付けとして言い訳を心の中でつぶやいて、気合を入れ直すために私はその決意を口にする。
「だから、一つの目標を立てるんだ。眠る前に、今日が良い一日だったと思えるように。そんな一日を過ごせるように、程々に力を尽くす」
デウスが大人ぶって頭を撫でて来たので、その手を払い落としてから、彼女の頭をわしゃわしゃと撫で回す。百年早いわ。
「……そんな毎日を数えきれないぐらいに繰り返して――いつの日か、私は『クソビッチ』のあだ名を返上する」
そう、つまり私は――
「世界に対して証明をしてやるんだ。私たちの絆は、情欲だの色恋だのとは掛け離れた、もっと純粋な尊ばれるべき親愛であるのだ、と」
「あ、それは絶対無理ですねー」
だって私、ノンケだし。
手持ち全員女の子だし。
おい、デウス? なんか言ったか?
多分、続きません。
需要があれば、教えてください。