擬人化ポケモン世界で私は六股クソ女 作:新時代のみょうが
「起きなさい、朝よ」
「ぅあい……んぅ…………ん……おきた」
「――さっさと着替えてから食堂!」
「ミナは朝から元気だねぇ……」
自堕落とは悪である。
……ちょっと言い過ぎかな? 少なくとも、善ではないのは確かだろう。
そんなことは理解しているつもりだが、どうにも私は朝に弱かった。
のんびり寝ていると朝食の時間に必ず誰かが起こしに来てくれるから、という現状に甘えているわけではない……ないったらない。
体を起こして、ベッドの上で伸びをする。
適当に着替えを引っ張り出し、着替えてから鏡の前で軽く身支度を整える。
「デウス、朝だよ……私、声かけたからねー?」
押し入れの引きこもり女に声をかけてから、返事が来ないのを確かめてから、サラッと無視して食堂へと向かう。
実にいつも通りの朝であった。
✳︎
私たちが(多分おそらくきっとめいびー)一応は経営している温泉宿は、客に対して宿泊以外のサービスを提供していない。ご自分でご用意くださいませ、を強要するふざけた宿泊施設である。
最終手段として、働かざる物食うべからずという料理その他諸々を手伝うことでスタッフと同じ食事を食べることができるシステムが用意されてはいるのだが、使用する者は滅多にいない。
では、なぜそのような最底辺のサービスしか提供できない我らが温泉宿に足を運ぶ客がいるのかというと、だ。
その答えが、これである。
「エリー、"サイコキネシス"!」
「ミナ、受けきって"じこさいせい"」
少年トレーナーの指示を受け、薄紫を基調とした神秘的な衣装に身を包み、額に宝石を持つ少女が念力をミナへ飛ばす。
それを、彼女は仁王立ちで迎え撃った。
「――ッ! か、たい……!?」
「悪くない腕よ。安心して誇りなさい」
不敵に笑ったミナの身体が僅かに輝いたと思えば、その身体にあった擦り傷の全てが一瞬にして消えて無くなる。
怯んだのは攻勢に出たエリーと呼ばれた少女の方だった。
「……な、なら! エリー、"めいそう"で威力を――」
「――! やらせない。"ねっとう"をぶち当てて、距離を詰めて」
このままではジリ貧となる。
そう判断しての積み技という選択。その対応の早さには正直、かなり驚かされた。
前世視点からするとバトル文化がまだまだ発展途上なこの世界では、変化技を下に見る思想も少なくない。
まだまだ若いトレーナーだと言うのに、柔軟性に富んでいるのには素直に感心する。
同時に、一体しかポケモンを育てることがないという歪な風習によって、ポケモンバトルの文化の発展は前世ほど広がることなく閉ざされてしまうのだろうな、なんて思考が脳裏を過ぎた。
交代なしのポケモンバトルとか、ゲーム性だけならジャンケンと然程変わらないし。
……まぁ、今回のバトルと直接は関係ないのでそれは忘れることにして、目の前に集中する。
指示を受けて、エリーとミナが動いた。
"めいそう"を動きながら行えるポケモンに心当たりが無いわけではないが、アレらは例外レベルの強さをしているため、普通のポケモン相手にそこまでの練度を求めてはいけない。
やはり、相手のポケモンは"めいそう"を積めるだけの僅かな隙が生まれるまで、ミナの攻撃を回避し続ける算段のようだった。
仮に"めいそう"を積まれた場合であっても問題なく対処はできるが、今回のトレーナーは出来る限り本気での勝負をご所望だ。
ならば、ここを叩かない理由はない。
そう考えたらのは彼女も同様のようで。
「私が、外すわけ、ないでしょう!」
ミナが大きく右腕を外に振る。
その動きの中で青く輝く四つの点が宙へと残った。
丁度、瞬き一回分。
一瞬間、目を離しただけでも既に手遅れ。
直後、その点を視点として四本の青の奔流が発生し、エリーの逃げ場所を潰すようにして"ねっとう"がハイドロポンプの如き勢いで放たれる。
「こんなの、どうしろって――くぅ……ッ!」
一本目、二本目と青の槍を避け続け、遂に三本目にて回避を失敗したエリーだったが、四本目に関しては回避を諦め、体を吹き飛ばされながらも"めいそう"を成功させていた。
受け身も上手い。跳ね飛ばされる方向を器用に調整して、後詰めの準備をしていたミナから距離を稼ぐことに成功している。
華奢で幻想的な見た目の割に、泥臭い根性を持った良いポケモンだ。
限界も近いだろうに意地と気合で立ち上がってみせた少女だったが、次の瞬間、全身を焦がすような灼熱がその身体を覆った。
「……やけど、ね」
「大丈夫、エリー!?」
「……まだ、やれるわ」
それに、と言葉を続けた少女の額の宝石が妖しく光る。
「――貴女にも、お裾分けしてあげる」
土壇場にて覇気が強まる。
気配の鋭さが増していく。
ミナの身体に少女が受けたのと同様の灼熱がまとわりついていき――彼女はそれがどうしたと、強気に笑った。
「ふふっ、あははっ! 良いじゃない。おかわりってことね? 滾ってきた。ますます燃えてきたわよ!」
「どこぞの火竜みたいなこと言ってないで、隙があったら"じこさいせい"! 燃えてきた(やけど)がデフォなんだから油断しないの。次で仕留めるよ!」
恐らくは、相手のポケモンであるエリー……エーフィの特性である"シンクロ"の効果により、ミナを"やけど"にして僅かでも怯ませようという心算だったのだろうが、それをするには文字通り相手が悪かった。実力差がどうこうと言うよりも、今回ばかりは本当にツキがなかった。
「どういう、こと?」
「もしかして、相手のポケモンは最初から――」
大正解。
私のような知識チートなしで、この勘の良さ……この子、今まで戦ってきた相手の中でもトップクラスの有望株な気がするけど、だからといって負けてあげる道理はない。
ゲーム時代のようにターン制ではないこのポケモンバトルではアニポケの伝統芸能である「よけろ」が歴とした技術として実在したり、技の応用の幅が異常に広かったり、という現実ならではの自由度の深さが魅力の一つとなっている。
それはつまり、同じレベル同じ種族のポケモンが同じ技を繰り出したとしても練度によって、技の形や最終的な威力が変化することがごく普通に起こり得る世界であるということ。努力値とかの概念が適応されているのかはわからないが。
……ぶっちゃけ、私あの子に"ねっとう"の四連射とか仕込んだ覚えないし。
何が言いたいかというと。
"めいそう"
"じこさいせい"
「エリー、次が最後だ! 全力の"サイコキネシス"をぶつけてやれ!」
「はい! 行きます!」
相手のポケモンがこのバトルで積んだ"めいそう"の数が既に6回分である可能性だってゼロではないということ。
「ミナ、飛び込んで――」
「知ってる。わかってる。アンタならそうする」
動き出しの早さでエーフィを凌駕し、ミナはエリーの懐へと飛び込んだ。
ミナの"すばやさ"は決して高くない。寧ろ、普通に低い方。私の手持ちの中では大差をつけて最下位の座に君臨するあの子に次ぐワースト2位であるのだが、思考と行動までのラグが極端に短いという点においては、相当な「はやさ」を誇るポケモンと言えるだろう。
距離を詰められた少女が驚愕の色を瞳に浮かべる。だが、それも僅かにほんの一瞬だけのこと。
即座にバックステップを踏み、距離を取りながらもエリーは"サイコキネシス"を撃ちだそうと手を向けて。
「――は?」
眼前に広がる黒霧に、思わず舌打ちした。
「――"くろいきり"」
「だって、私もそうする」
視界を潰す。
"めいそう"による状態変化を強制的にフラットへと引き摺り下ろして。
「続けて」
「このタイミングで」
止めの一撃を叩き込む。
「「"はかいこうせん"」」
極光が放たれる。
必然的に、それが試合終了の合図となった。
✳︎
温泉宿「霞草」
それは、とある界隈にて絶大なる知名度を誇る温泉宿だった。
その界隈の人とは当然、温泉に癒されたいという願いを抱えた観光客たち――ではなく、ポケモンバトルを信仰する戦闘狂たちのことである。
宿としてのサービスは最悪。
温泉の質とスタッフの顔面偏差値が最上級であること以外は下の下といっていい。
食事も掃除も寝床の支度さえ、全てをセルフサービスとして客に行わせているのだから「宿」を名乗る資格はないというのが世間一般からの正当なる意見である。
それまでの「霞草」の評判といえば、それはもう最低最悪で、温泉宿の紹介を行っているウェブサイトのコメント欄は閲覧禁止レベルの暴言の数々で溢れかえっていた。
それも単にオーナーである「六股クソ女」の影響が大きかったからなのだが。
ポケモンが人型を取るこの世界において、ポケモントレーナーとは、そのポケモンの人生を背負うという覚悟がなければ、目指すことすら許されない存在である。
そういった常識を、子供の頃から当たり前だと学んでいるのがこの世界の人間だった。
だからこそ、この温泉宿のオーナーであるという少女が、6体ものポケモンを手持ちポケモンとして所有している、ということが明かされた際には途方もない数のバッシングが彼女に向けられることになった。
余りの言われように最初は当然ショックを受けたユズカであったが、手持ちの彼女らが真顔で世界を滅ぼす為の計画を練り始めた所で冷静になった。というか、彼女らを止めるのが大変過ぎて、ネット上の文句など気にする余裕がなくなっていた。
そんな評価が一転したのは、とあるネット掲示板で広まった話題が原因だった。
ある人がネット上に残した「温泉付きのポケモンバトルの合宿所と考えればこれ以上の場所はそうない。オーナーは真性のクズだが」という文章。
その一文は、この世界に存在するありとあらゆるポケモンバトルマニアたちを引き寄せる呼び水となった。
というのも、その"ある人"というのが、そこそこ名のあったポケモンバトルの元プロ選手であり、その元プロがただの温泉宿のオーナーを相手に、6戦全敗したという結果が判明したからである。
更にそのオーナーが全6戦全てを異なるポケモンを使って戦ったという情報が明らかになると、界隈ではオーナーの異常さに発狂するものまで現れ始めたという。
それから数ヶ月は経過した頃、有志たちの協力もあり、その情報は疑惑のものから断定されるべきものへと形を変えていた。
その情報とは単純で。
「あのクズオーナー、追加プランで時間の予約をするか、普通に機嫌が良い時であれば無償で暇なスタッフを呼んで、ポケモンバトルをしてくれる変人(無敗)である」
というものであった。
斯くして、閑古鳥の鳴いていた立地最悪の温泉宿はいつしか、強者との戦いのついでに温泉を楽しみにやってくる変態たちの合宿所としてその地位を密かに築き始めているのである。
✳︎
「よしよし、おつかれ。頑張ったね、ミナ」
「…………ふん」
ポケモンバトルの後だけは、彼女も文句を言うことなく私の褒め言葉や撫で撫でを受け入れてくれる。
ポケモンとしての本能がそうさせるのか、余りにもしつこく絡み続けた私を前に、諦めることを覚えたのか、どちらかはわからないが甘やかせるのならどちらでも構わない。
「もう、いい」
「え、あとちょっと!」
「…………三十秒だけよ」
彼女は誰よりも美しい。
仮に美とは何かと聞かれれば「ミナ」と即断で答えるぐらいの確信が私にはある。
たっぷりと三十秒間、ミナからのご褒美タイムを満喫してから、私は少し悔しそうにしながらも優しい表情で気絶した少女を撫でている少年トレーナーの元へと向かった。
「お疲れ様。良いバトルだったね」
「あっ、はい……とても……とても、強かったです」
「そりゃね、経験値が違うもの」
「経験値……?」
文字通りのレベル差が。
具体的に言えば、多分、60レベルほど。うちの子たち、当たり前のようにレベルカンストしてるからなぁ。
「でも君は多分、才能があるよ。私なんかよりも、よっぽど」
「あ、ありがとうございます」
「わぁ、素直な子。また泊まりに来るといいよ。ミナとの再戦でも、他の子との勝負でも、暇なときは相手してあげるから」
「――はい!」
10歳前後と思われる少年のキラキラとした純粋な目が心地良い。久しぶりにクズを見る目以外の視線を向けられている気がする。
「油売ってんじゃないわよ」
「え、なんか怒ってる?」
「怒ってない」
「……えぇ?」
ちょっと目を逸らしていただけのはずが、何故かミナの機嫌が急降下している。撫で撫でが足りなかったか。
「回復させないとでしょ」
「う、うん。わかってる……じゃあ、君、ボールにその子を戻して着いてきてくれる?」
スタスタと私の前を歩いていくミナの姿に首を傾げつつ、大人しく着いてくる少年が迷子にならないように気をつけて、少し入り組んだ道を通って温泉宿の地下へと向かう。
目的の場所までは5分ほどで到着した。
そこにあるのは台座である。
丁度、モンスターボールが収まるような窪みが六つほどある荘厳でヤケにピカピカとした台座。
「じゃ、ボールを窪みに置いて……ん、そう。ミナは――必要ないのね。じゃあ、このままセットして……」
ボタンをポチッと。
てんてん、てててん。
という呑気な音が鳴れば、あら不思議。
「お預かりしていたポケモンは皆元気になりましたよーっと」
「……えっと、お姉さんと違って、僕のポケモンはエリーだけですけど」
「唐突にいちげきひっさつ!?」
軽率にポケセンお姉さんの真似をしたら、ものすっごいボディブローを叩き込まれた気分になりました。
「う、うぅ……ミナぁぁ!」
「はいはい。まったく、余計なこと言うから」
もうやだ! こんな子供にまでクズって思われてるの普通に泣けてくる!
「あなた、帰り道わかる?」
「は、はい!」
「じゃ、ここでお別れ。私、しばらくはコレの面倒見てるから」
「で、では……ありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げてから、去っていく少年の背が見えなくなった瞬間、私はミナの胸へと飛び込んだ。
「ミナぁ! こんなのって、こんなのってぇ!」
「いつものことでしょ」
「あれをいつものにはしたくないよ!?」
むぎゅり、と遠慮なくミナに抱きついていると、諦めたように彼女は頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「別にいいでしょ」
「よくはなくない!?」
むぅ、と不満を表現するべく、彼女の顔を下から覗き込もうとして、目があった。
「――貴女には、私が居るもの」
「あらやだカッコいい。結婚でもする?」
「――」
「まぁ、冗談だけど」
「死ね」
えっ、ちょ、何で急にガチギレ!? 息苦し、胸で窒息死する誰か助けてぇ!?
・隠す気のないキャラデータ その1
ミナ♀ 種族??? Lv100
持ち物 かえんだま
じこさいせい くろいきり
ねっとう はかいこうせん
余談:手持ち6体の中では最大の種族値。
精神的にも能力値的にも割と大黒柱。
※デウスちゃんは(手持ちじゃ)ないです。