擬人化ポケモン世界で私は六股クソ女 作:新時代のみょうが
奇跡的に続いた。
流石にもう続かない。
「マスターさん、マスターさん! 起きてください、朝ですよー? はい、起きましたね? おはようございます! あなたの親愛なる家族にして、妹風アイドル系マスコット的ハイパー美少女のモカちゃんが、モーニングコールにやってきましたよ! 嬉しいですか? 嬉しいですよね? モカちゃんの魅力に悩殺されちゃいましたか? "メロメロ"を捨てて"はかいこうせん"なんて覚えた脳筋女のことなんて忘れて、テクニシャンなモカちゃんと甘美な一日を過ごしません?」
「…………すごく、やかましい」
「シンプル拒否!? 嘘です! 嘘! 冗談ですから! 朝ご飯の時間なので、お布団被っちゃダメですよ、マスターさん!」
目を覚ますと、イロモノが居た。
別に外見に癖があるわけではない。言及したのは中身の濃さについてである。
妹風アイドル系マスコット的ハイパー美少女って何? 何でも足せばいいってものじゃないのよ?
少なくとも寝起きの一発目に摂取するには、カロリーが高いというのが本音。
まぁ、結局は可愛いから全部を許せちゃうわけなのだけど……多分、私子育てとか苦手だ。
そんなわけで、本日のモーニングコール担当はモカという名前の可愛らしい女の子だった。
薄灰色のボブカット。
ふんわりとした印象を与える白のフレアワンピースの上から、ダボっとしたグレーのニットカーディガンを羽織った小柄な少女。
首元には白を基調にしたコットンストールが巻かれていて、よく見ると小物類にも気を遣っていることが伺えるお洒落さん。
美しさの頂点に堂々と座するミナとは別方向の可愛さという路線における自身の容姿にトップクラスの誇りを持っているのがモカという少女だった。
「きゃっ、マスターさんってば、モカちゃんにそんな熱ーい視線を向けて、どうしちゃったんです? ついに惚れちゃいましたか? ちょっと恥ずかしいですけど、マスターさんならモカのことをぎゅっと抱きしめちゃってもいいんですよ?」
「遠慮しときます」
「断るにしても真顔はやめてくれません???」
泣きますよ? と割と本気で涙目になったモカを横目に布団から這い出る。
「じゃ、私着替えるから」
「最後の最後まで扱いが雑!?」
部屋からモカを押し出して、それからぎゃーぎゃーと騒がしい彼女が黙り込むまでハグをする。
「……ふぅ、やっと静かになった」
「――?!???!」
鼻歌交じりに身支度を整えてから部屋を出て、未だに混乱状態であったモカの手を握り、食堂に向かった。
「おはよう、モカ。今日も可愛いね」
「い、今こっち見ないでください、おバカマスター!」
あ、デウスを起こすの忘れてた。
……まぁ、いいや。どうせ起きないし、あの引きこもり。
にぎにぎと握った手を動かすと、少ししてから遠慮がちに同じ動きが返ってくる。
うん、今日もうちの子が可愛い。
いつも通りの最高の朝である。
✳︎
モカは私の手持ちの中で最も女の子らしい女の子、という表現が似合う子だ。服装自体に元々の外見の特徴を反映しているからか、擬人化ポケモンたちは基本的に服装を変えることがない。不可能というよりは、興味がないという方が意味合いとしては正しいだろう。
ただし、アクセサリーや鞄などの小物類などについてはまた話が変わってくるとのことで。
つまりは、可愛さの追求に余念がないモカのお小遣いは基本的にお洒落グッズに注ぎ込まれているわけなのである。
そんなこんなで、モカのおねだりに負けた本日は、山奥から少し足を伸ばして街の雑貨屋さんにやってきた。
「わぁ……わぁ……! ふぉぉ……何、この楽園……! マスターさん、いつの間にこんな穴場のお店を!」
「雑貨屋程度で大袈裟だなぁ」
瞳をキラキラと輝かせ、雑貨屋に吸い込まれていくモカの姿が微笑ましい。コツコツと彼女の気に入りそうな店に目星をつけおいた甲斐があった。
適当に見て回るかと私も店の中へ入ろうとしたところで、服の裾をもう一人の同行人である彼女に掴まれた。
「まぁまぁ、価値観は人それぞれですし……ところで、この髪飾り可愛いと思いませんか? ほら、どうです、ユズカ? 似合ってますよね? 可愛いですよね? 惚れてしまっても良いのですよ?」
「あ、うん。似合ってる。似合ってる」
「せめて、こっちを見てから言いなさい」
店頭に並べられていた髪飾りを物色していたのは、同行人こと街までの交通手段であるデウスちゃんだった。
「うーむ、流石、私。どれも似合い過ぎて困ってしまいます。ユズカは確か、水色に灰色、紺色やピンクも好きでしたよね?」
「うん、まぁ、便利だし」
「情緒の一欠片も無い発言やめません!?」
ヤケに具体的な差し色を述べるでない。心当たりがあるから困る。
というか、思っていたよりも髪飾りのバリエーションが多いな。どれも結構凝った作りしてるし。お土産に何種類か買っていっても良さそう。
「で、どれが一番気に入ったの?」
「へ?」
「『へ?』じゃなくて。可愛いって思ったんでしょ? プレゼントするから、一つ選んで」
「いやいやいや、急にどうしたんですか!? 熱です? それとも頭でも打ちましたか? ユズカが私にプレゼントなんて――」
「そう。要らないならそれでいいや」
「嘘ですごめんなさい選びます! 選ばせてください、見捨てないでぇぇええ!」
この押し入れ女、ほんとどうしてくれようか。人のことを何だと思っているのだろう。
目つきを変えて髪飾りを選び始めたデウスはしばらく放って置くとして、私も店内を見て回ろう。
実のところ、モカほどではないが小物類や置き物の雑貨なんかを見て回るのは私も結構好きなのだ。
一応、これでも年頃の女の子なわけですし。何もおかしなことはない。
だから――
「……その目は何?」
「マスターさんの趣味趣向の研究を、と」
商品を物色する私を隠れるように観察していたモカに気がついて、疑問を投げた。
「本音は?」
「少女趣味なのを恥ずかしがってるマスターさんが可愛くて悶えてました」
「お小遣い減らすよ」
「揶揄うつもりはありませんよ!? 寧ろ、モカちゃん的には『いいぞ。もっとやれ』みたいな精神で応援したい気持ちでいっぱいなのですが! 具体的には、ふわもこガーリーな趣味全開ファッションのマスターさんを見たくて見たくて堪らないのですが!」
「絶対に着ないから」
見るのが好きと着るのが好き、は別の話だ。
それぐらいモカもわかっているだろうに。
「大体、そういうのはモカみたいな子が着るから可愛いのであって、私みたいな――」
「黙ってください。これ以上戯言をほざくようなら、その口無理やり塞いでやりますよ?」
「えぇ……?」
びっくりするほど怖い顔をしたモカに、私の下らない言い訳はあっさりと掻き消されてしまった。
鼻先が触れそうになるぐらいの距離まで顔を近づけられて、思わず口を閉じる。
ちょっとだけ、心拍が上がった気がするのはきっと恐怖や焦りが原因だ。
大人しく口を閉じた私に、モカは普段よりも三割増しに大人びた笑顔を向けた。
「マスターさんは素敵な女の子です。異論は?」
「いや、その……それは」
「はぁ……マスターさん、流石に往生際が悪いですよ? 異論、ありませんよね?」
「…………モカの方が素敵な女の子だと思います」
「うぐ……う、嬉しいことですが、今はそんなこと聞いてないので、また後で飽きるぐらいに言ってください! それよりも、今はマスターさんの話です! もー! どうしてマスターさんは自己評価になると急に卑屈になっちゃうんですか!」
どうしてと言われましても。
こういう性分なのだというほかにない。
「君たちの見目が整い過ぎてるのも原因の一つではあると思うんだけど」
「あの、マスターさんの容姿でそんなこと言ってると刺されても文句言えませんからね?」
ぐぬ、とつい言葉に詰まる。
確かに、私の容姿は前世のソレよりも遥かに整っていた。
比べる相手が悪い、というのは間違いない。
ミナとか美しさの最高峰も最高峰。まさにトップオブトップである。
「……いいから。私のことは放っておいて。もう……あんまりしつこいと帰るからね、私」
「頑なですねー」
深い理由などない。
ただただ、ソレが恥ずかしいのだ。
自分の『好き』で全身を埋め尽くして、何者でもない『私』で全てを着飾って。
だらしなく、無警戒に、外界にソレを見せつける。
すきだらけの、私を皆の前に晒すのは、情けなくて、恥ずかしくて――あとなんか負けた気がするから、どうしても許容できない。
「あー、でも……そっか。そういうことなら――」
己を鑑みる中で、一つだけモカなら妥協してくれそうなBプランを思いついた。
まだまだ納得していませんよ、という顔をしている私の可愛い愛娘の方へと身体を向けて。
「私の趣味とか全部、度外視で。君が本心から好きだって思えるモノなら、なんだって着るよ? 君たちからの想いなら、恥ずかしいことなんて何もない。ふふっ、私のこと、モカの『好き』で飾ってくれる?」
「――――、ああ、もう……これだから、マスターさんは」
両手を広げて、いざウェルカムと笑顔を見せれば、何が気に入らなかったのか、モカはそっぽを向いて、そそくさと場を離れてしまった。
「あれ、なんかミスった?」
「……度が過ぎるほどの、ぱーふぇくとこみゅにけーしょんでしたね、ユズカ」
何さ、そのジト目は。
ん? ああ、そのイヤリングね。丁度、私も君に選ぶならソレかなって思ってたとこ――ちょっ、なんで脛蹴ったの今!?
✳︎
「………………危なかった、危なかった、危なかったッ! もうっ! もうっ! バカっ! ほんっと、おばか! こんなの、私じゃなかったら、とっくに無事じゃ済んでないんですからね!」
真っ赤に染まった顔は首元のコットンストールでは、到底隠しきることはできず。
どうしたことかと疑問を抱きながらも、初老の店主はその可愛らしいポケモン少女の接客を行った。
「……お会計は?」
「現金で! あと、袋ください!」
これまた可愛らしい財布の中身を全て吐き出して、袋いっぱいの小物を買うと、彼女はどこか据わった目つきのまま、店の外へと駆け出した。
「――ちょっとは、痛い目みせてあげないと」
店主は、ぼんやりと考える。
ああ、アレは時期に捕食されるのだろうなと。
・隠す気のないキャラデータ その2
モカ♀ 種族??? Lv100
持ち物 おうじゃのしるし
スイープビンタ ロックブラスト
タネマシンガン トリプルアクセル
余談:脳筋博打型物理アタッカー。実は本作式バトルではユズカの手持ち内でも上位の強さを誇る。尚、理由はモカ本人の戦闘センスが異常に高いからという理不尽である。