擬人化ポケモン世界で私は六股クソ女   作:新時代のみょうが

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 何故か赤くなってたから、気合いで続けた。
 あるのか、需要……?
 


3話

 

 

「……ユズさま、ユズさま。そろそろ、おはようの時間ですのよ? わたくし、もうお腹が空きました」

 

 柔らかな声で目を覚ます。

 のそのそとベッドの上で身じろぎをすると、くいっと身体を引っ張られる。

 

「ちょっ、それ、落ち――」

「ませんわ♪」

「……ナイスキャッチ。けど心臓に悪いから、次はなしで」

「……? わたくし、ユズ様のことなら何百回やっても、落としませんわよ?」

「それは知ってるけどさぁ……」

 

 私を横抱きに支えるのは華奢な腕。しかして、大樹を思わせるような安心感を覚えさせるのも、またその腕であることに違いはなかった。

 

「ユズ様、おはようですわ?」

「……ん、おはよ、リア」

 

 お姫様がそこにいた。

 レースやリボンに飾られた若草色のドレス。

 榛の瞳、腰まで伸びたサラサラのブロンドヘアには、青々とした翠のメッシュが入っている。

 女性にしては高めの身長に、そこそこ割と、それなりに、いや結構発育の良いお胸。首元には、一枚の葉をモチーフにした深緑のペンダントがかけられていた。

 

 リアという名の少女――例に漏れず、彼女もポケモンであるのだが――は、私の手持ちポケモンの中で、最も『不思議ちゃん』という言葉の似合う、儚げな美人さんだった。

 オブラートを被せないのなら、私の手持ちで最も「黙っていればお淑やか」を体現している子でもある。なお、他に「黙らなくてもお淑やか」な子がいるので、リアにお淑やか系美人枠が当てられる予定はない。

 

 眠気を堪えつつ挨拶を返せば、彼女は上機嫌に私を抱えたまま、部屋を出ていこうとする。

 

「ちょっと、待って!? 一回、着替えさせて!」

「……? パジャマ姿もよく似合っていますのよ?」

「どうもありがとうだけど、そうじゃないんだよね!?」

 

 待って待って待って。

 ちょ、君たちだけならいいけど、お客さん居るなら流石に恥ずかし――

 

「えい」

「リアさん!?」

 

 純度百パーセントの善意で、無理矢理お着替えさせられました。こんちくしょう。

 お嫁には行けないかもしれないが、なんだかんだできっと本日も良い朝です。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「ふふふっ、ユズ様! 見てください、大漁ですよ、大漁!」

「ほー、お見事。すごいすごい」

 

 少女が掴み掲げるは、清流に生息することでも有名な鮎だった。岸に置かれたバケツへと成果を放り込み、彼女は、ばしゃばしゃ、と膝丈ぐらいの深さの川へと戻っていく。

 

 今日のお姫様は大層おてんばのようだった。

 

「ユズ様もどうですか? とっても涼しくて気持ちいいですよー!」

「私はパス。溺れても困るでしょ。一緒に遊びたいなら、せめてミナが居る時にね」

「むぅ、しょうがないですわね」

 

 ドレス姿ではしゃぎ続けているリアを眺めつつ、ぼんやりと思考に耽った。

 

 温泉宿『露草』の裏山には、幾つもの秘密が眠っている。どれもこれもが理外に位置するそれらを、私は神様からの転生特典として深く考えることもなく、あっさりと受け入れているのだが。

 その一つが、ある洞穴だ。

 なんとその洞穴、出入りする度に、そして階層を下るごとに世界が変わる終わりの見えない謎空間だった。

 

「なんて()()()()()()()()()()()()()?」

 

 発見直後、咄嗟に私の口からツッコミが飛び出たのにも無理はないだろう。

 まぁ、ポケモンダンジョン、なんて言ったが、この洞穴にポケモンが出現することはない。私がまだ遭遇していない、という可能性は排除しきれないが。

 現状下せる最終評価は有ったら嬉しいもの、程度の認識である。

 所詮、ガラクタやタカラモノ、食料にわざマシンなどなど、物資が不定期に湧き出る程度のだだっ広い遊び場というだけの存在だ。

 

 そんな謎空間で、うちのお姫様は何を考えたのか唐突に鮎の掴み取りを始めてしまったのである。いや、ほんとになんで?

 息抜きのお散歩で景色の良い渓流に出てきたところまでなら、よかったのだけど。

 

「リア、こっちおいで」

「……!!! はいっ!」

 

 状況の整理を終えて、冷静な思考能力が戻ってきた。見かけによらぬフィジカルのゴリ押しで、ここまでペースを持ってかれていたが、この不思議ちゃんに付き合っていると、そろそろ私の体力が持たない。

 

 一声かけると、彼女はパッとキラキラした笑顔を浮かべると全速力で私の方へと突撃してきた。うん、紛れもない全速力で。

 

「……リア」

「ぁ、ゆ、ユズ様ぁ……!」

 

 天高く上がった水しぶき。

 もはや一種の災害なんじゃないか、なんて言いたくなるようなソレは、数秒後、容赦なく私を押しつぶした。

 先ほどまでの笑顔はどこへやら。

 ぺっしょぺしょに申し訳なさそうな顔をするリアを見て、嗜めようとする気持ちはどこかへ行ってしまった。

 

「もう……そんな顔しないの。仕方ないんだから」

 

 シャツにジーパン。

 無難オブ無難で面白みのない私の服は、今や濡れていない部分の方が少ない状態だ。

 こうなってしまっては、やけである。

 

「んー、鮎ねぇ……私でも捕まえれるかな?」

 

 清流の水は冷たかった。

 流れの勢いは足をとられる、とまではいかないが、水中の苔石を踏めば、尻餅をつくのは目に見えている。

 

「ユズ様? えっと、その手は?」

「ん? 私の可愛いお姫様は、私が無様に転ぶところを傍観していたいの?」

 

 コロコロ、と表情の変わる目の前の女の子を見て、やっぱりお淑やかとは程遠いよね、なんて納得を覚えつつ。

 

「さーて、頑張って一匹ぐらい捕まえてやりますか。お手伝い、よろしくね」

「もちろんですのよ」

 

 今は目一杯に、水遊びを楽しんでやることにした。

 

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 

 

「まぁ、捕まえられるわけがないんだよね???」

「ユズ様ぁ……!」

「いや、そんな声で言われても。頑張ろうとしたよ? でもね、知ってる? 人って川では魚より早く動けないんだよ?」

 

 ひとしきり遊んでから、白旗をあげる。

 リアは私の正論を聞いて、ハッとしたような顔をしていた。この娘、本気で捕まえられると思っていたらしい。素直か。

 

「せめて、ある程度の範囲に閉じ込めた状態だったら、普通の掴み取りなんだけど」

「……? それだけですの?」

「え、だけって――」

 

 何をするつもり? とそんな疑問が音を成すまでの数秒前。

 

「……ん、っと」

 

 ひょいとリアが右足を踏み込んだ。

 直後、清流の中に幾つもの緑の光が浮かび上がる。その光は周囲を囲むように均等に並べられ――

 

「やどりぎましたわ♪」

「変な動詞作るでない」

 

 光からは腰の高さほどの木々が生み出され、一瞬にして自然の檻が出来上がる。

 

 あな恐ろしや"やどりぎのたね"

 前世も前世だったが、こっちの世界のやどりぎって汎用性が凄まじい。

 ……いや、多分、リアの使う"やどりぎのたね"が異常なだけなのだろうけど。寧ろ、そうであって欲しいという願望ですらあるのだけれど。

 

 "やどりぎのたね"

 その技を、かつての私は対象としたポケモンの生命力を、種を植え付けるという手段で自分の元へと吸い寄せる遠距離版の"すいとる"のようなものであると解釈していた。

 

 ポケモン世界ではお決まりの根や蔦を介して生命力を奪い取ることができる、といった化け物じみた概念力からは目を逸らし、尚且つソレを遠隔で行うとかいう無法っぷりにも匙を投げ、まぁ、そういうものなのだろうと強引に納得しかけた私へと、押し入れ在住の真っ白娘はこう言った。

 

『あれ、本質はタネじゃないですよ?』

 

 彼女曰く、いくらポケモンであっても『種』という新しい生命を、ぽんぽん創り出すのは難しいとのこと。まぁ、確かに"やどりぎのたね"を覚えるポケモン全員が新しく生命を産み出せる素質がある、なんて事実があったのなら、どこぞの青い鹿さんも涙目だろう。

 生命力の操作と生命の創造は、似ているようで全く異なる次元の話だというわけだった。

 

『外付けのエネルギー補給を前提とした設置罠、という表現が全てかと。そも、ポケモンの技とは、ある種の概念を模したものに過ぎないのです。宇宙空間でも"かえんほうしゃ"は撃てますし、周りに何もない空中であっても"いわなだれ"は発動できます。であれば、彼女が自在に操る"やどりぎのたね"の正体は極めて単純です』

 

 普段のおちゃらけようが嘘みたいな有能ぶりで、あの引きこもりは断言した。それは「脳筋が過ぎる裏技だ」なんて嘆息を添えながら。

 

『あの子、本来なら外付けとされる分まで自分の力を使って、無理矢理に設置罠を任意起動しているのです。あえて対象の話をするなら、自分に対して"やどりぎのタネ"を撃ち込んでいるようなものですよ、アレ』

 

 脳筋、と称されたお姫様へと視線を投げる。

 目と目が合って嬉しいのか、満面の笑みが返ってきた。とても可愛い。

 

「リア、その檻の維持、疲れない?」

「同時に"こうごうせい"をしておりますわ♪」

「わーお、それは脳筋呼びも待ったなし」

 

 実際、こうげきとぼうぎょが優れているのだし、脳筋と言われても仕方ないとは思うけれど。

 

「じゃ、サクッと掴み取りを成功させますか」

「ふれー、ふれー、ですのよ、ユズ様!」

 

 気の抜ける声援に口元が綻ぶ。

 どうにでもなれ、なんて心持ちで、私は川面でキラリと陽光を反射した小さな影へと飛びついた。

 

 

 ✳︎

 

 

 

「あら、二人ともここにいたのね? やっと見つけたわ……ふふっ、随分とはしゃいだわね。乾かしてあげるから、こちらにいらっしゃい」

「あれ、クロ? どうしてここに」

 

 それは、宿の皆が半匹ずつ食べられるぐらいには私の頑張りが成果となって現れようとしていたお昼過ぎのこと。

 現れたのは、クロという名の唐傘をさした艶やかな黒髪美人。

 黒と朱を基調とした着物に身を包んだ彼女は、傘を置いて、ゆったりと私とリアへ近づくと、

 

「はい、ぎゅーっと」

「――むぎゅ」

「……? ぎゅーなのよ?」

 

 両腕で豊かなお胸へと、ほどほどの強さで引き寄せる。なす術もなく捕獲された私に、コテンと首を傾げながら全力のハグを返すリア。

 三秒ほどの抱擁の後、自身の全身から水気がなくなっていることに気がついた。

 

「もう少し、温まりましょうね?」

「……ハグする必要あった?」

「ええ、もちろん。心が温まるでしょう?」

 

 まぁ、彼女がそれで納得するなら私はいいけど。追加で、五秒ほどの延長を頂いて。

 ぽかぽか気分になった私だったが、お隣の姫様はどこか不満そうな顔である。

 

「クロ、今日はわたくしがユズ様を独占できる日でしたのよ?」

「ええ、知っているわ。ごめんなさいね、リア。あなたの幸せに水を差して……少し向こうの方で面倒なことになっていてね、ユズカを借りたいの。あなたも来る?」

「勿論、ユズ様についていくわ……ごめんなさい、クロ。クロのせいじゃないのに。わたくしの八つ当たりだったのよ」

 

 しょぼん、と眉尻を下げたリアに、クロは困った顔をする。こちらを向いたクロへの助け舟として、河岸に放置されていたバケツの方へと目線を送った。

 

「鮎? ――ねぇ、リア」

「……?」

「私、焼きたての鮎が食べたいのだけど」

 

 パチパチとリアは瞬きを繰り返し、次の瞬間、パッと瞳を輝かせる。迅速にバケツを運ぶと、クロへと差し出した。

 

「コレとコレ、あとコレもユズ様が死力を尽くして捕まえた世界一の鮎なのですよ。クロにだけ、特別にあげます!」

「あら、ありがとう。でも一人だけで食べるのも寂しいわね」

「なら、わたくしとユズ様も食べますわ! 他の皆様には内緒ですのよ?」

 

 次の瞬間「串の準備をしますの!」なんて、竹林探しの旅へとリアが飛び出してしまったので、一先ずクロの用件を聞くことにした。

 

「で、面倒ごとって?」

「ふふっ、久しぶりのアレよ。私たちのご主人様へ愛のない言葉を投げかける困った集団がご来店されて――ブチギレたミナとモカとシロを、コンちゃんが一人で宥めているところですわ」

「よし、今すぐ宿に戻ろう。コンちゃんの胃が保たない」

 

 何やってるんだあの子たち。

 コンちゃん、臆病で尚且つ一番年下なんだから困らせちゃダメでしょッ!?

 

「リアのことは?」

「あの子なら間に合う。君が居るなら尚更だ」

「それもそうね」

 

 駆け足で温泉宿まで戻ることにする。

 くそう、デウスちゃん連れてきてれば、秒でダンジョンの外まで行けたのに! 肝心な時に役立たずなんだから、あの子!

 

『私の扱いが酷くないですか!?』

 

 幻聴が聞こえた気もしたが、気のせいだ。

 馬鹿なこと考えてないで、走ろう。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「で、何? つまりアンタらは、どうしても私たちがあの子に騙されて手籠にされてるってことにしたいのね?」

「ふふふ、面白い冗談ですね。ねぇ、本当に……こちらが冗談と受け取って差し上げている内に、カケラほどもないそのセンスを見直すことをお勧め致しますが」

「シロは寛大だねー? 私、もうさっさと掃除しちゃっていいと思うけど。態々、マスターさんに会わせるまでもないよ、この人たち」

 

 急いで帰ると、宿の玄関先に人集りができていた。

 その中心で殺気をばら撒いているのが、ミナとシロとモカの三人……いや、何やってんの、あの子たち!?顔、こっっっっわ。声、ひっっっっく。ちょっと目が据わりすぎてはいないかい?

 

「ぁ、ぁの、……皆、ちょっと、お、落ち着いて」

 

 と、鬼の形相なんて表現の良く似合う彼女らに、おどおどと話しかける小さな人影が一つ。

 身に纏うは白を基調とし、所々に冷たい青の差す幻想的なドレス。

 見るからに温かなもこもこのポンチョを上から羽織った氷色の髪の女の子。

 

「――頗る冷静よ、見てわかるでしょ?」

「ええ、コンちゃんは下がっていてください。見え透いた挑発などには乗りませんから、ご安心を」

「うん、落ち着いて仕留める。モカちゃんも当然、理解していますから大丈夫です」

 

 対して、三人の鬼は完全に理性を失っていた。

 

「あぅ……そ、そうじゃなくて……うぅ……」

 

 完全に萎縮してしまったコンちゃんが、助けを求めて周囲を見渡して――私を見つける。

 パッと表情が明るくなったと思えば、彼女は私に向かって一直線に走り出してきた。

 

「ご、ご主人様!」

「はいはい、ご主人様ですよー。よく頑張ってたね、コン。待たせちゃってごめんね」

 

 飛び込んできた少女をそのまま抱え上げると、ひんやりと心地の良い体温が伝わってくる。

 

「……ユズカ」

「お嬢様?」

「ま、マスターさん!?」

 

 コンの姿を目で追った彼女らと視線がぶつかる。

 一人は不機嫌そうな顔。一人は何故ここにという疑問の顔。残る一人は、動揺とバツの悪そうな顔をして、目を逸らした。

 

「君たちねぇ、コンちゃん困らせてどうするのさ。態々、クロが伝えに来るなんてよっぽどだよ? どうしたの?」

「あら、その言い方だとまるで普段の私がよっぽどの出不精のようではないですか?」

「間違ってはないでしょ。この、のんびり屋さんめ」

「ふふっ、照れますね」

「どこで???」

 

 隣で唐傘をさしていたクロが、クスリと口元を綻ばせる。どこに照れる要素があったのだ、なんて一々突っ込んでいては話が進まない。

 

「よいしょっと……ふぅ、まぁいいよ。君たちが率先して問題行動を起こすような子じゃないってのは、私が一番知ってるからね。大方、そこの困った団体客さんたちが、引き金を引いたんだろうし」

 

 まずは段々、観衆の面前で抱っこをされていることが恥ずかしくなってきたらしいコンちゃんを、しっかりと抱え直す。

 それから、人集りの中でも、明らかに敵意を剥き出しにしていた団体様へと顔を向けた。

 

 トレーナーと思しき男女が二人ずつと、それぞれの隣にポケモンが一体ずつ。

 見た目からの予想だと、キングドラの男の子と女の子、キノガッサの女の子とダイノーズの男の子、かな?

 それなりに強そうな感じはするけど……まぁ、どうとでも戦える相手ではありそうだ。

 

「出たな、トレーナー界のクズ女!」

「よくもぬけぬけと顔を出せたわね、ポケモンの敵!」

「ポケモンたちを解放しろ! この悪徳オーナー!」

「ちょっとは宿らしいことをしろー! 宿泊客のご飯ぐらい用意しやがれー!」

 

 うんうん、はいはい、なるほどね?

 要するに「いつもの」だ。

 今月はまだ平和だったんだけどなぁ……あと、最後のは普通にごめんね? 直す気とかサラサラないけど。

 とはいえ、今更、この程度の暴言に傷つく私ではない。努めるまでもなく冷静に、論理的な物言いで問題の解決を図ってやろうと口を開きかけたその瞬間――

 

「……ねぇ、ユズカ。裏山って何してもいい空きスペースでいいのよね?」

「氷漬けでよろしいですか?」

「灰に還すのが一番、手間が少なくて良いと思うけれど」

 

 一触即発の空気が場に満ちる。

 

 うちの子たちの煽り耐性が低過ぎて、ユズカさん心配かもです。

 というか、クロまで向こう側に行っちゃったよ。灰に還すとか怖い事言わないの。

 

「も、モカちゃんは、冷静ですからねー?」

「私、君の可愛くないところも普通に好きだから、落ち着きなさい。そんな風に失敗したって顔しないの」

「ほんっとそういう所ですよ、マスターさん! いい加減にしてください!」

 

 可愛げしかない灰髪の少女に言葉を投げつつ、周囲の気配を探る。

 人集りといったが、多くはただの野次馬で。

 この温泉宿にやってくるような人間は、基本的にはバトルジャンキーでしかなく。

 

 要は、その場に居た誰もが、敵味方入り乱れる集団戦がいつ巻き起こるかを期待していたのだろう。

 

 だが、そんな未来は訪れなかった。

 文字通り、片がつくのは一瞬だった。

 

 ()()を視界に捉えた時点で、少し前まで隣で唐傘を広げていた女性はその傘を畳み終えていた。

 

 ――日差しが、強い。

 

 翠緑の閃光が疾る。

 華やかで軽やかな洋装とは縁遠い一振りの刀は、新緑を思わせる淡い翠の輝きを纏っている。

 

「喧嘩はダメよ」

 

 遅れて聞こえた、忠告の言葉。

 観衆から、ざわめきが上がる。

 続いて、どさりとまるで人が倒れたかのような音が四つ重なった。

 

「きん、ぐどら?」

「う、そでしょ」

 

 そのお姫様は、魚の入ったバケツを片手に堂々と渦中に飛び込むと、自らの手でその渦を踏み潰す。

 

「だから――もう斬ったの」

 

 誰もいなかったはずの空間に、リアが立っていた。

 それは特定条件下においては、ミナすらをも正面から圧倒する爆発力をもった物理アタッカー。

 

「早々に、お帰り願うわ。わたくし、今から鮎を焼くのに忙しいのです」

 

 事情を知らぬ者からすれば、何を言っているのかわからない脅し文句だが、理不尽なまでの制圧力を前にした団体様たちは、自分のポケモンをボールに仕舞うと蜘蛛の子を散らすように宿から去っていってしまう。

 

 その後ろ姿を眺めつつ「出入り禁止」にしてやればよかったか、なんて呑気に考える。

 いつのまにか近づいてきていたリアに、とんと肩をぶつけられて――

 

「……?」

「……るいの」

 

 珍しく、もごもご、となにやら少し恥ずかしげな様子。

 

「えっと……どうかした? クレーマー対応の感謝とか? それとも、どっか痛めた?」

「……ずるいの」

 

 ずるとは……?

 一体、何のことだろう、と思索に耽ろうとして。

 

「……コンちゃんだけずるいの。わたくしも、ユズ様に抱っこして欲しいのよ?」

 

 聞こえたのは余りにもいじらしい不思議なお姫様からの我儘だった。

 しょうがないなぁ、とすぐに我儘を叶えてみせれば――パチパチと周りから拍手の音。

 

「流石、オーナーは堂々としてるなぁ!」

「あそこまでやられると清々しいよね!」

「ああ、びっくりするほどのクズだな!」

 

 喧しい野次馬たちだった。

 

「君たち、三日はバトルフィールド使用禁止ね」

「「「ごめんなさい」」」

 

 手持ちのポケモンを甘やかしているだけで、奇特なバトルジャンキー共にまで、平然と暴言を吐かれる始末だ。

 

 やっぱ、この世界おかしいよ。

 こんちくしょうめ。

 

「ふふっ、ユズ様、ユズ様! 大好きですの!」

「はいはい、私も大好きだよ」

 

 まぁ、世界なんかよりも素敵な女の子が腕の中に居るのだから、どうだっていいんだけどさ。






 隠す気のないキャラデータ その3

 リア♀ 種族??? Lv100

 持ち物 ピントレンズ
 
 ソーラーブレード やどりぎのたね
 つるぎのまい こうごうせい

 余談:本文のみだと多分、1、2番目に正体が分かり難い子。元はやどりぎ、こうごうせいを、石火とバトンタッチにしてましたが、世界観と書きやすさ考えて変更。正直、石火は残した方が使い勝手良さそうな気もしますが。


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