ようこそうろ覚えな世界の教室へ   作:無名の誰かさん

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「分からない」も立派な判断材料である

(何か漫画やアニメみたいだなぁ……)

 

 入学式が終わり、配属されたクラスの教室で担任から学校のルールを聴いた一番の感想はそれだった。

 

 三年間の寮生活、はある意味定番として、敷地外への出入りや連絡すら制限をかけられる。

 代わりに、学校の敷地内にはコンビニやカフェはもちろん、カラオケ、ゲームショップ、映画館といった娯楽に関する施設も大抵完備している。最新のものが入ってくるのなら、流行に遅れて卒業時には浦島太郎状態、という事も無さそうだ。

 

 だがいくら国が主導しているからといってこれだけの規模となると、現実感がどうしても持てずに前述の感想を持ってしまうのも仕方ないだろう。それこそこれが漫画やアニメの類なら売買はここでしか使えないポイントを使うことになり、ポイントを巡って争い合うみたいな展開になったり──

 

「そして買い物には学校側から支給されるポイントを使ってね」

 

「…………ん?」

 

 そんなまさかな展開が担任の口から告げれた──こともあるが、頭の隅がチリチリとするような気持ち悪い感覚に思わず声が出る。

 これは──そう。十年前に祖母の病室を訪れた時と同じような、当時ほど強烈なものではなくとも確かに、何かを知っているのにその何かを言語化出来ないもどかしさ

 

(ポイントの利用は端末を経由。1ポイントは1円と同価値)

 

「ポイントは配布された学生証端末を通して利用できます。ポイントは1ポイント1円と考えてもらっていいよ」

 

 担任がこれから話すであろう言葉を、先ほどのように漫画の類ならと茶化す意味ではなく、それでもほぼ確信を持って先を予測する。

 そうだ、そうだ。俺は『知っている』。この学校を。この学校のルールを。

 

(初回の配布ポイントは、高校生が一月に貰えるには充分するぎる量。5万、いや──)

 

「そして、みんなには既に──」

 

 

「…………10万」

 

「今月分の10万ポイントが支給されています」

 

 思わず口に出た声は被った担任の声量によってかき消え、取り繕えなくなった表情は、教室内に響く十人十色のどよめきの中に隠れた。

 

「振込は毎月一日。ポイントがあれば何でも(・・・)買えるから何に使うかは個人の自由だけど、あんまり()()()()()()()()()()()()

 

(今月分が10万なだけで『毎月10万』とは明言せず、更には『何でも』に『無駄遣い』。つまり日用品の購入や娯楽施設の利用以外にも有用な使い道があることへの示唆……)

 

 この思考がノーヒントで出たのなら今頃名探偵を名乗っているだろうが、知っているからこそ言い回しの違和感に気付けただけだ。

 似ているだけの世界、という可能性はある。だが約十年間。違和感や疑問をそのままにする免罪符として使ってきた『転生』という常識外れの経験が、別の常識外れを肯定させる材料となる。

 

 

 ───創作物世界の転生。それが俺に起きた『転生』の本質だ。

 

 

(確か……ラノベ。ラノベだ。タイトルは……『実力主義の教室』とかそんな感じの)

 

 前世の事を思い返す機会も減っていたので何もかもが曖昧だが間違ってはない……はずだ。前世の好みはファンタジーやバトル方面の傾向にあったから、開拓していなかった「学園頭脳バトル」の面白さを印象付けさせてくれた作品。だから序盤の要素で気付けた。

 

 気付けたはいいが、

 

(最後に読んだの何十年前だと思ってんだ!細かいとこまで覚えてねぇよ……!)

 

 試験の一環で無人島に行く、くらいの大雑把な物はアニメ化されていた事もあって映像として覚えているが、最新刊が出る度に真っ先に買いに行く熱量があったほどハマっていたわけでもない。が、この作品に限らず、創作物の鑑賞から離れていた期間の方が長い。大雑把な所でも記憶があるだけマシだ。

 

「──ぃ、お──!」

 

 だが学園、しかも頭脳バトル系統ならあまり原作の流れとか気にしすぎる事もーーいや、確か主人公が特殊な出自だったはずだ。そこが何かしらの異常事態にーーいや、待て。そもそも、

 

 

「おい!おい!!大丈夫か!?」

 

「……ぇ?」

 

 肩を揺らされ、頭上から聞こえる声が自分に向けられたものだと気付き顔を上げる。俺を心配するような真剣な表情をする初対面のクラスメイトがいた。

 

 隣の席から呼びかけている形でもない。おいおい、こんな時に席立っていいのか?と、言葉を選びながら伝えようとして気付く。

 

 ──先ほどまで話していた担任がいない。教室内はクラスメイトがあちこちで談笑しており、廊下にも生徒の姿。

 

(まさか、HR終わった……?いつ……?というかこの後何がある!?10万ポイント以降何も聴いてねぇ!?)

 

「………考え事に夢中になってた。大丈夫だ、ありがとう。ところでこの後って何が……?」

 

 我ながら取り乱すことなく状況説明を求められたのは奇跡だろう。

 だが声が震えていたか、表情が大丈夫に見えなかったか、あるいはその両方か。心配して声をかけてくれた優しきクラスメイトの表情が晴れることはなかった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 幸い、初日からの授業や追加の行事は無く、残りは自由時間。クラスでは親睦会の話が出ていたが、体調不良に見られている事を利用し、寮に帰らせてもらうことにした。

 高校生活のスタートとしては控えめに見ても失敗だが、とにかく今は一人で頭の中をまとめる時間が欲しかった。

 

「先輩とのルームシェアも想定してたが一人一部屋か。改めてとんでもないがありがたい」

 

 端末の地図アプリを利用して少々迷いながらも無事寮の割り振られた部屋に到着する。

 今にもカバンを投げ出してベッドに倒れ込みたくなる衝動に駆られながらも、当初の目的の為に机に向かい、新品のノートを開く。

 

 

 そして出た一つの結論としては───

 

 

「来月にならんと分からん!!」

 

 

 これだった。

 

 何が分からないか。何もかもだ。

 

 クラスのシステム。A〜Dは単なるクラス分けではなく、Aを上位とした実力順のクラス。俺が所属してるBクラスは上から二番目ということになる。

 

 ただこれは三年間固定ではなく、三年間の試験や行事成績。つまるところ『実力』によって変動し、Aクラスでの卒業をかけたクラス間対決がメインだったはずだ。そうなると、学校側が大々的に掲げている高い進学率、就職率の恩恵にあずかれるのはAクラス、になるはずだ。

 

 だがBクラスでもAクラスほどでなくとも恩恵はあるのかは不明。そこら辺は担任から改めて説明があるはずなので放置しても問題ないはず。本音としてはこんな曖昧な情報でクラスを混乱させたくないので、ちゃんとした説明を俺が聴きたい。

 

 次に今この時間軸が原作通りなのか。

 

 この高校は三年制。当然、主人公が入学した際にも上級生の存在がある。

 作品がどういう結末を迎えたのかは分からないが、この世界の出来事が創作物として描かれた以上、主人公の学年が一つの特異点にはなるはずだ。

 

 後輩として入学してくるなら少なくとも学園内で受ける影響を抑えられる。一番マシ。

 先輩として既に在籍してるなら、上級生の情報にも警戒せざるを得なくなる。勘弁して欲しい。

 最後に同級生だった場合。一番困る。どう立ち回るのが正解か分からない。静観してモブの一人になるのがマシなのか、半端な知識による介入というリスクを負ってでも積極的に関わった方が良いのか。

 

 だが作品名すら朧気な知識では今の時間軸の判断は不可能だろう。俺の知識で確定している部分といえば、主人公はDクラス。暴力支配のクラスがある。Aクラスにラスボスみたいなロリっ子がいる。くらいか

 

 ただ、『今すぐに』とはいかなくとも、同級生かどうかの可能性を探る手段がある。

 

 来月一日のポイント振込。確か、実力主義の学校というインパクトを強めるために主人公のクラス、つまりDクラスの配布ポイントがゼロになっていたはずだ。

 毎年Dクラスは5月にポイントがゼロになるのが恒例。となっていた場合はもう探るのは無理と諦めもつくが、今の段階でそれを探るのは悪目立ちするのでやっぱりこれも本格的に動けるのは来月以降。

 

 ひとまずこの一ヶ月は過度な浪費にさえ気をつければ、原作云々を気にせず普段通りに過ごして問題なし

 

 ある意味では問題の先送りとも言えるが、時間的な猶予を生んだ結論は混乱していた頭と精神を落ち着かせた。

 

 そうと決まれば、前世今世含めても恐らく一番贅沢な高校生活だ。しっかり楽しむとしよう!

 

 

 

 

「はじめまして。1年Aクラスの坂柳 有栖と申します」

 

 

 マジで勘弁してほしい




・主人公

Aクラスのロリっ子。ツーアウトってところか


今まで前世との違いを、転生という大きな経験の元スルーしてきたツケを支払うことになった。

転生した世界が創作物であったという混乱から、以降の担任の話を全スルー。声をかけてもらえなければ、翌日以降の時間割等の確認も出来ないまま、Bクラス最速のクラスポイント減少に貢献していたかもしれない。


・坂柳 有栖

入学したてとはいえ、万が一華のJKをロリっ子などと口走ろうものならどうなるかは想像に難くない
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