時空序章~カーレッジ・黒影/たくっちスノーZEROラグナロク~   作:黒影時空

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一応、多重クロス作品ですが物語における1週目であるハジマリア編は基本的に第六猟兵を由来としながらもオリジナル系の世界観で進むので該当エピソードである第1話~第5話をセリフや地の文を再編集した上で総集編にしました。
しかし1話7000文字近くなので合わせた結果今回特別長く、2週目『メイドウィンワールド編』から本格的にクロスオーバー系二次創作として始まります、ご了承ください。

第六猟兵をよく知らない、やったことない人は『イティハーサ』というラスボス格が原作では完全に死亡しているがもしも生きていたら…?みたいなものということを頭に入れておいてください。


時空外伝カーレッジ・黒影 ハジマリア編~メイドウィンワールド編
カーレッジ・フレインが神に至り、世界を滅ぼすまで


 すべての物語には終幕が訪れる。巨悪を討ち、世界を救い、華やかな大団円で幕を閉じる──物語に限らず、命も、世界も、あらゆる存在には必ず終焉が訪れる。どこかで、必ず、何かが途絶えるのだ。

 だが、その普遍の真理を拒絶し、永遠に完結しない物語を紡ぎ、神の領域にまで昇華した存在がいた。

 その名はカーレッジ・フレイン。かつては平凡な若者に過ぎなかった彼が、なぜこの世全ての物語を繋ぎ合わせて終わりなき物語『時空』を創り上げたのか──その発端は、驚くほど些細なきっかけに過ぎず、ありふれた物語に根ざしていた。

 


 

 カーレッジは中世のような雰囲気のまだ文明が進んでいないようなそんな世界で生まれた、この世界に名前はあったはずだが後のカーレッジは正式な名称を忘れたので後に便宜上として『ハジマリア』と呼ぶようにした。

 物語はカーレッジがまだ6歳の頃、村一番の富豪で生まれ愛を注いでくれる両親のもとに育てられカーレッジ・フレインと言う男の幸福は約束されたも同然、村の誰もがその人生を夢焦がれた存在だった。

 

「足りない」

 

 カーレッジは幼いながらも、どこか冷めた眼差しを湛えた少年だった。富豪の両親に惜しみない愛情を注がれ、望むものすべてを与えられても、彼の心は満たされることなく、ただ空虚で退屈な日々を重ねていた。

 

(つまらない……玩具も宝石も、この屋敷ではありふれた飾りに過ぎない。両親の愛情も、心からのものとは思えない。ただ産んだという義務感、薄っぺらな血縁のしがらみのために、俺を甘やかしているだけだ)

 

「俺は一生こんな広いだけの家で一生を終えるのか!? そんなのは嫌だ! 俺はもっとでっかいことして、好きなように生きたい! どこにでも行ける家のない貧乏人や褒めてもらえるのにハンデも無い孤児が羨ましい!!」

 

 カーレッジの気持ちを満たすにはあまりにも世界はつまらなさすぎた、彼の人生は決まりきっている、普通に勉強されて大人になったらその辺の顔がいいだけの女性と結婚されて、何をしているかも曖昧な家を継がされる……。

 こんな物の何が良いのだろうか、贅沢な願いなんて言う者も多い、妬む者も当然いる。

 しかしそんな奴らの顔が余計にカーレッジの神経を逆撫でする。

 彼らは本当に心から自分を見ていない、見えているのは肩書きのみ……。

 心から自分のことを尊敬して凄いと思ってくれる人に会って、誰もやったことのないようなことをしたい……それがカーレッジの夢だった。

 だが幼い彼にそんな大それたことは出来ない、いつもの様に燻ってるように目覚め、何も記憶に残らないくらい虚無に過ごしていた時のこと。

 その日は突然訪れた、今までに無い違和感……朝起きたら窓の外から聞き慣れない声がしていた。

 

「女の子……?」

 必死に体を伸ばして声の先を確認する、黒い髪で赤と青の2つの色を持つ不思議な目、年は自分くらいにも関わらず小さなナイフを持った綺麗な女の子。

 今まで村で一度も見たことがないその子にカーレッジは不思議と目を離せないでいた。

 会いに行きたい……そう思った頃にはもう既に家を出て彼女の目の前まで来ていたほどだ。

 


 

「うーん、あと必要なのは……」

 

「……あの、ちょっといいか」

 カーレッジが自ら人に声をかけたのは、これが初めてだった。これまで他人との会話は不快な感情を呼び起こすばかりで、関わる価値すら感じなかった。だが、この少女はどこか異なる──心の奥底で、そう直感していた。

 

「誰……って、まあ僕もこの村ではよそ者だから同じようなものだよね。あなたはここの人なの?」

 

「やっぱり、村の者じゃなかったんだ。俺はカーレッジ・フレイン。君の名前は?」

 

「黒影剣。イーストルー地方の名前の響きらしいんだけど……ここではツルギ・クロカゲ、と呼べばいいのかな?」

 

 国によっては苗字が先に来る命名の人物も存在するとカーレッジも聞いたことがある、しかしイーストルー地方というとこの村から何百キロも離れた場所にある。

 見た所親らしき人物もそばに付けず簡単なサバイバル道具だけ用意してきたようだが……。

 

「あんな遠いところからどうしてこんな何も無い所に?」

 

「家出してきたんだ」

 

「え!?」

 

 自分と歳も違わない女の子が家出となるとあの使い込まれた痕跡のナイフも納得がいく、だがそれ以上に……カーレッジは羨ましかった。

 

「凄いんだな、君……俺だって何回も家出しようと思って上手くいかなくて……」

 

「君も家出を? どうして?」

 

「誰も俺の事を心から凄いと思っていないんだ、そりゃ俺だって褒められる為に良い子として振舞ってみたけど奴らはそれが当然として特別扱いどころか関心すら向けないのさ……だから俺はこんな奴ら見捨ててデッカイことしてやるんだ! そうすればみんな俺の事を見直してくれるはず」

 

「でっかいことって?」

 

「……それはいつの間にか決まってるものだろう、つるぎちゃんと呼べばいいのか? なんで家出を?」

 

「僕はみんなに馴染めなかったんだ、その……怯えられて」

 

「怯える? こうして話してても怖いところなんて無いように見えるんだけどな」

 

 カーレッジが疑問を投げかけると、剣は持っていたナイフを地面に当てて地面を軽く削るように何かを描き始める、それは記号のようでもあり図形のようにも見えるが暇つぶしに色んな本を見てきたカーレッジでも見た事のない形状だった。

 

「何だこれ……?」

 

「少し離れてて」

 

 剣はカーレッジを離し、ナイフを図形の真ん中に突き刺すと深く呼吸する、その瞬間カーレッジもすぐ分かる異変、空気が揺れて今この場所が狂ってしまいそうになるほどの違和感……。

 

「ぶれぶれ・ぶれっど!!」

 

 剣が力強く呪文を唱えた瞬間、図形が眩い閃光を放ち、轟音とともに爆発が巻き起こった。周囲は砂煙に包まれ、カーレッジはあまりの衝撃に地面に叩きつけられるように尻もちをついた。

 

「今のは……一体!?」

 

 あっけに取られるカーレッジの顔を見て剣は微笑を浮かべ、静かに答えた。

 

「驚いた? この図形を描き、言葉を紡ぐだけで、こんな不思議な現象が起こるんだ。僕はこれを……魔法と呼んでいる」

 

 剣は色々教えてくれた、何気ない日常の中でふと頭の中にあの図形のようなものと言葉が浮かんで試しに書いてみたら地面を吹き飛ばし……魔法という未知の存在を人々から恐れられて1人で逃げて、ここまで来た……それがちょうど1年前とのこと。

 

「僕……自分のことも怖くて、これをちゃんと使いこなせるようになりたくて人が居なさそうなところを目指してるんだ、ここもすぐ出ていくつもりだよ」

 

「つるぎちゃん以外に魔法を使える奴はいなかったのか?」

 

「残念なことにね、まあ大っぴらにすることでもないから仕方ないことなんだけど」

 

 魔法の事を話す剣はどこか寂しげだった、自分と同じ歳なのにここまで壮大で苦労をしている……なんて羨ましいのだろう。

 ……とても凄い、それがカーレッジの感想だった。

 

「さっきのヤツはあの図形のようなものを書いて言葉を言えばいいのか?」

 

「え、うん……僕がやった時はそうだけど」

 

 カーレッジは魔法を試してみたかった、案外自分にも出来るかもしれない、そしてそれが出来たら……とても面白いんじゃないか? この爆発させる力……なんでも出来そうだと。

 何故出来そうと思ったかなんて自分は特別になれる素質があるから、その方が面白いから意外に考えるまでもない。

 カーレッジはその辺の木の棒を使い剣が見せたものより図形を大きく描いて、見たとおりにあの呪文を唱える。

 

「ぶれぶれ・ぶれっど!!」

 

 眩い閃光が魔法が成功したことを示し笑みがこぼれるカーレッジ、しかも地面は大きく抉れて周囲の草花は焼け焦げている……規模は段違いだ。

 

「す、凄い……!」

 

「魔法って……面白いね、そして君も」

 

 この日カーレッジは初めて少し納得のいく褒められ方をして心から楽しい物に出会えた、そして何より……こんな不思議なことが出来る女の子、黒影剣の事が好きになった。

 絶対に手離したくないという気持ちでいっぱいのカーレッジは、剣に近付く。

 

「ここに残ってよ、友達になろう」

 

 こうしてカーレッジに初めての友達が出来たのだった。

 


 

 それから剣は村に残っていた、同じく魔法を使えるカーレッジの近くに居た方が安全と思った……ということになっているが、2人は友達だから当たり前である。

 カーレッジは日課のように家からこっそり外に出て剣に会い、魔法を見せ合う仲になっていた。

 自分が魔法を見せると剣が褒めてくれる……今まで味わえなかった快感、人生が何段階も色づくような気分になれるのはこの瞬間だけだった。

 剣はあまり人に関わろうとせず、カーレッジにとって剣以外の人間は理解者でも無いので必然的に2人だけの空間が出来ていた。

 

「あっ……」

 

「また何か閃いたの?」

 

 剣は脈略も無く魔法を思いつく、『ぶれぶれ・ぶれっど』の呪文は変わらないが見たこともない図形が脳裏に宿る、それをカーレッジが正確に書き記して魔法図鑑を作る……これが現在の楽しみであり日課だ。

 これまで剣が思いついた魔法は爆発の他にも転移、空中浮遊、氷など……使えるようで使えないような類ばかりだが、それをカーレッジはたやすく使いこなしてみせた。

 

「俺以外に魔法を教えた人間っているのか?」

 

「一応この1年で色んな人にも教えてみたけど、使えたのは僕とカーレッジだけ……どうして使えたのかも分からない」

 

「そうか、俺は特別なのか……」

 

「まだ分からないよ? 世界の隅々まで行けば、もしかしたらもっと魔法使いがいるかもしれないんだ、そしたら……僕は寂しくない」

 

「俺がついているじゃないか」

 

「カーレッジだけじゃ嫌だ」

 

 剣はまだ寂しさを感じている、一人から二人になっても気持ちが晴れるかどうかは別の問題らしい。

 カーレッジは考えた、他に自分に出来ることはあるのだろうかと実行に移した。

 これまで自分に与えられてきた金や道具を持ち出して一通り剣に贈ってみた、どうせ自分は使わないものだしこれで友人が喜ぶなら安いものである。

 更には書庫に籠もり剣の気に入る情報を探すために今まで以上に無数の本を読んだ、剣の助けとなるためスキルを磨く本も無理矢理にでも頭に入れて活用した。

 しかし剣の気持ちは変わらないままだった。

 仕方ないのでカーレッジはついでにこの経験で覚えた技を人々の為に使ってみた、本の見よう見まねで覚えた裁縫やスポーツの技といったなんの変哲もないものだが……。

 人々はカーレッジを褒めた、剣も笑ってくれた。

 これは同じだ、皆が本当に俺の事を凄いと思って頼ってくれている。

 

(これだ……やっとみんな俺の事を心から……!)

 

 しかし剣は未だに心から喜んでくれない……自分がそうだったからこそ敏感にそう感じられる。

 

(やっぱりつるぎちゃんは俺以外に魔法使いが必要だというのか……いや仕方ない、つるぎちゃんの為になることをするのが俺なんだ)

 

 カーレッジは仕方なく自分以外の魔法使いを増やす方法を模索し始める、まず最初に村の人々に魔法図鑑を見せて魔法の詳細を隠しながら1人ずつ図形を書かせて呪文を言わせた、しかし成功したのはカーレッジ一人のみ、何の反応もしないし何か変わった様子もない。

 カーレッジ自身も何回も魔法を試して分かったことは魔力は必要とせず、やりたいという気持ちの問題。

 しかし突拍子もない力を魔法というおとぎ話じみたモノとして広めるのも難しく、カーレッジの魔法使い増やしは難航した。

 更には物が少なくなったり不可解な行動にカーレッジの親も最近の行動を怪しむようになり、監視の目が広がるようになって、少しはマシだったかもしれないと思っていたあの親が余計に煩わしく感じてきた。

 

(あんな奴らよりつるぎちゃんだ……さて、本気で魔法使いを増やすにはどうすればいいか)

 

 的には徹夜したり、身を隠して背後から護衛を殴りつけたり、剣の魔法陣を研究してみたり……。

 


 

 それから時は経ちカーレッジと剣が7歳になり、剣が生活の中で50番目の魔法を思いついた時のこと。

 

「カーレッジ、カーレッジ! これ……」

 

 剣はいつになく慌てた様子でカーレッジを呼ぶ、作られた図形は今までにないほど複雑で歪、異様な形をしながらもシンメトリーが整ったこれまでの魔法陣とは全く違う特殊なもの……こんな物が出来た以上、カーレッジも異常性に驚くしかない。

 しかもこの魔法陣は何の魔法かも分からない、剣が手順を変えて試しても何回呪文を唱えても何も起きないのだ。

 

「カーレッジ、僕いったい……」

 

「焦るなつるぎちゃん、俺がやってみる」

 

 少々異なる形のため苦労したがなんとか大きく完成し、魔法を唱えてみる。

 

「ぶれぶれ・ぶれっど!!」

 

 確かに唱えてみても反応がない、こんなことはお互い初めてだった、もう一回カーレッジが唱えようとしたとき野ウサギが魔法陣に入ろうとした。

 

「あっお前……!」

 

 その時、魔法陣は閃光を放ったかと思えば……その先には、ウサギがもう一匹増えていた。

 ウサギは何が起きたかもわからずお互いを眺めるのみ。

 

「魔法陣を踏んだウサギが増えた……? ってことはこの魔法は物を増やす魔法?」

 

「いや、違うぞつるぎちゃん……これは」

 

 カーレッジは再度唱える、再び魔法陣は光り現れたのはネズミ。

 何もないところから小さな野鼠が魔法人を通して現れたことになる。

 

「これは……まさか、召喚魔法!?」

 召喚魔法──それは物体や生命をその場に呼び寄せ、あるいは創造する秘術。わずか一年で、剣とカーレッジは常識を超越する力を手に入れてしまったのだ。

 それからカーレッジは試行錯誤の為に召喚魔法を何回も試して実験した、来てほしいと願えば何でも来た、今欲しい道具すら出てきた……それはつまり、カーレッジ達はもうどんな物でも手に入るのと同然、とんでもない物を手にしてしまった。

 とはいえ多少の精神力は使うのか、20回以上連続で魔法を使用した剣は疲弊していた。

 

「はあ……はあ……僕、こんな魔法を……覚えてしまったの?」

 

 剣は息を切らし、驚愕と疲労の入り混じった声で呟いた。 カーレッジの目は輝きを帯び、興奮を抑えきれなかった。

 

「つるぎちゃん、めっちゃ素晴らしいぞこの魔法! 俺たちはもう、何だって成し遂げられる……!」

 

 その瞬間カーレッジに一筋の閃き、予測不可能な程大規模な魔法が一つの空論を実現に変える……。

 カーレッジの書斎にある大きな本、誰も読んではいけないと伝えられた真っ黒な書物をカーレッジは当たり前のように読んでいた、そこには全知全能と言われ世界を思うがままに作り変える神が存在していたと書いてあった。

 召喚魔法ならもしかすれば神すら呼び出せるかもしれない……好奇心はカーレッジの腕を独りでに動かして巨大な魔法陣を作成させていく。

 

「か、カーレッジ!? 一体何を……」

 

「つるぎちゃん! 魔法使いがもっと欲しいと言った願い、叶うかもしれないぞ!! ぶれぶれ・ぶれっど!!」

 

 全身全霊で力を込める、今まで味わったことのない覇気に押し潰されそうになりながらも集中力を途切れさせないようにする、息を吞み目を開かせて一世一代の代魔法を唱える。

 

「いでよ!! 幻朧帝イティハーサ!! この世界を魔法で染め上げろ!!」

 

 その想いに応えたのか、ほんの一瞬魔法陣の中で煙に包まれた白髪の老人のような物が見えた気がした、そしてこうつぶやく。

 

「──儂はイティハーサ、汝の世界に望むものを全て与えよう、そして生まれ変わる……」

 

 そして意識は途切れ、世界は創り変わる。

 


 

「…………カーレッジ! カーレッジ!! 起きて!!」

 

 剣は必死の形相でカーレッジを揺らしていた、どうやら魔法の衝撃が強すぎて気絶していたらしい。

 

「つるぎちゃん、召喚魔法はどうなった? 成功したのか?」

 

「それどころじゃないんだよ!! 周りを見て!!」

 

 カーレッジは剣に起こされ周りを見る、そこは辺り一面が火の海と化していた……逃げ惑う人々、崩れる家、燃え上がる炎の他に雷鳴や氷の柱……、どこから見ても地獄絵図。

 

(これは……やった! 魔法の世界! 願いが叶ったぞ!)

 

 こんな状況にも関わらず、カーレッジは召喚魔法が成功し神に望みを叶えてもらった事に喜びを隠せないでいる、もうあの頃のつまらない自分とは違う、なんでも出来るのだ。

 だが浸っている場合じゃない。

 

「凄い……って言ってるどころじゃなかったな、行こう」

 

「う、うん……!」

 

 カーレッジは剣を連れて駆け出した、どこもかしこも大惨事、魔法が突然概念として生まれた結果魔力が暴走した人間が続出し事故の原因となっているのだろう。

 もう村は助かることはないだろう、子どもでもわかる。

 

「さて、こんな状態になったかどこから向かうか……北か西か……」

 

「どこって……助けるんじゃないの!? カーレッジの家族は!?」

 

「もう誰も助からないだろこんなの! 子供の俺たちに何が出来るんだ、今は生きることを考えるんだつるぎちゃん」

 

 断言するとここで覚えていた魔法を使えば少しは彼らの助けになって英雄になれた、しかしカーレッジは都合よく子供という立場を使い人々を見捨てた、召喚魔法を覚えた以上誰かの助けもなく生きられるし、これまでの人生から考えると不自由な思いをさせてきた彼らは煩わしいだけ、死んでも何も悲しくない、人に認められたいといいながらも区別してしまった。

 カーレッジの人生は黒影剣さえいれば充分なのだ、彼女も裏切らない限り。

 

「これから……どうするの?」

 

「旅に出よう、どこか遠くに俺達を必要としている人がいるかもしれない……そしてこの変化した世界を見通すんだ……」

 

(ぶれぶれ・ぶれっど)

 

 カーレッジが手を掲げて脳内で魔法を唱えると、ちょうど同じタイミングで村全体が大爆発を起こす、人生の起点となった一番最初の魔法……これで完全に村の人々は木っ端微塵になり、誰も原因には気付かない。

 我が家に近づいたとき助けを呼ぶ声が聞こえた気がするがどうとも思わなかった。

 こうして、カーレッジ・フレインと黒影剣の長い長い冒険の旅は始まった、もう引き返すこともない。

 カーレッジは最高にワクワクしていた、これから一体どんな事が起きるのか、どれだけ自分は凄い存在になれるのか。

 これは村に抑えられていた少年が神に至るまでの物語である。

 

 

 そして別の所では。

 

「何故……何故だ! 何故世界を救う科学がこんな目に遭わなくてはならない! 許さん……俺は魔法を許さん!!」

 


 

「つるぎちゃん、できたよ……といっても召喚魔法だけど」

 

 カーレッジと剣が村を出て早くも3日、これまで覚えてきた魔法のおかげで何一つ不自由ない生活をしながらアテもなく魔法使いを探す旅をしていた。

 召喚魔法で呼び出した肉や野菜を魔法によって調理して食べながら夜空を眺める、だが剣は手を付けず自分で果物や野草を採取してすりつぶしたものを食べている。

 カーレッジは毎日のように食べているが特別感があって普段口にしていた高級な料理よりずっといい。

 

「いつも手を出さないよね、せっかく魔法があるのに」

 

「カーレッジ、僕はむやみに魔法を使いたくないんだ、常日頃から頼っていたらもしもの時に何もできなくなるよ」

 

「もしもなんてありえない、俺も事前に100回以上は試したが枯渇した様子とか疲れた感じもしない、俺たちの魔法は特別なんだ」

 

「だからって……でも、本当に栄養が欲しくなったときにはカーレッジに頼むかもしれない」

 

 頼まれるまでもなく剣が寝ている時にカーレッジは食べ物を口の中に突っ込んでいる、毒がないことはわかっているので遠慮なくなんでも突っ込んで剣の生殺与奪の権を自分が握っているという優越感に浸れる。

 

「カーレッジ、一体あのとき本当に……神様を呼び出して魔法の世界に変えたの? アレは何?」

 

「ああ、あの時召喚したのはイティハーサっていう俺の家に遺されていたどんな世界でも作ることが出来るっていう伝説を持つ大昔の神様だ、なんかの戦いで古い人類とかを滅ぼして世界を作り替えたみたいなことが書いてあった、それしか読めなかったけど不思議と惹かれて……呼びたくなった」

 

 信じ難いがイティハーサは本当に世界を丸ごと変えてしまったらしい、まだ村から少ししか離れていないはずだが見慣れない植物や生物が奇怪にうごめいて現実離れした光景が絶えず視界に映り、正確な魔法陣が必要だった剣の呪文も脳内で唱えるだけで楽に発動出来る、いい時代だ。

 

「さて、明日にはまた別の村に行けたらいいんだが」

 

「うん、おやすみ……カーレッジ」

 

 朝起きてすぐカーレッジは召喚魔法で日誌を作成した、これから先長い冒険になることを見越して旅の内容を記そうというつもりだ。

 更に上を見上げると箒に乗って空を飛ぶ魔女のような人影が見えた、本当に御伽噺のようにあの道具に跨って移動するらしい。

 

「あんな便利なものがあるなら俺たちにも必要だよな」

 

 カーレッジは魔法で木を改変させて箒に作り替えて乗るが、召剣は自分に合う物を見つけると言って調達するまで箒に乗ることはなかった。

 村に辿り着くと子供二人だけの旅に住民は手厚い応援と支援をしてくれた、まだ魔法の世界になって慣れていない所もあるのか魔法を見せつけると驚いたり称賛してくれたりとカーレッジをいい気分にさせてくれる。

 そしてその道中……。

 

「僕も一緒に連れて行ってくれないか?」

 

 ロズムント・トレザードという同年代の少年が旅に同行した、カーレッジは何があっても魔法があるし死んでも自己責任と思っていたので受け入れは早く、すぐに三人旅になった。

 このロズムントという男、かなりの不幸体質であり後に彼の周りにいるだけで数多くの事件を巻き起こすが、これがカーレッジをなかなか楽しませてくれるのだった。

 しかし旅は良いことばかりではない、鋼鉄の円盤状の物体に乗った男が剣達に襲い掛かってきたこともある。

 どう見ても魔法使いではないその男は敵意剝き出しで事あることに襲い掛かってきた。

 

「あれは君らの知り合いかい!? あの人にどんな恨みを買った!?」

 

「あんな奴覚えてたらすぐこの手で殺してるよ! つるぎちゃんもさっさとあんなの始末すればいいのに!」

 

「なんでそんな発想するのカーレッジは!!」

 

「魔術を使うものは根絶やしにしてやる!!」

 

 男はドクター・ジルトーと名乗り、科学者という魔法とはまた違う異質な技術を開発する存在らしい。

 魔法が台頭して科学が迫害された為、復讐のために魔法使いを襲っている。

 つまりカーレッジ達が世界を変えたことによる変異の被害者であり、後に剣もこの重さを理解することになるのだが所詮カーレッジにとっては発展のために弱者が犠牲となるのは当たり前の事であり、ジルトーは魔法より上になれることもないことを理解出来ていない負け組のゴミとしか思っていない。

 

(俺らが世界を変えたことが悪いんじゃない、その科学というものが魔法に負けたのが悪いんだ)

 

 こうして剣、カーレッジ、ロズムントは世界各地を飛び回り、数多くの事件を迎えジルトーと戦いながら数々の冒険譚を刻み、数多くの仲間と出会いと別れを繰り返して思い出を増やす。

 以下ハジマリアの歴史をカーレッジの日誌から抜粋。

 

 

『赤い歯車事件』当時カーレッジ9歳。

 空に落ちてきた赤い歯車と空中都市ラビコン、カーレッジ達は魔法古代文明の民と共に空中都市破滅の未来を食い止めた。

 

『刃天流道場』当時カーレッジ11歳。

 魔法に負けない大陸を作る為の人里離れた道場に足を踏み入れていた、剣ちゃんはこの場所で魔法使いとそれ以外の差別を知り、底辺達の有り様を見て黒魔術を覚える。

 その一方カーレッジも料理と戦いを両立する大任流を会得していた。

 

『ギャギャの一族』当時カーレッジ16歳。

 ギャギャという未知の文明を持つ存在がジャングルに生息していた、カーレッジはなぜかギャギャ神の怒りに触れてしまうが、魔法の力でなんとか絶滅させることが出来た。

 この辺りからジルトーの話を剣は理解できるようになり、暗い顔をするようになった。

 

『魔法反逆戦争』当時カーレッジ19歳。

 魔法使いと非魔法使いの格差から生まれた革命戦争、カーレッジ達の旅の知り合いも何人かこの戦争に参加して戦死、史上最悪の戦いとなった。

 最終的にカーレッジが遠隔操作で魔法兵器を作り出し、魔法使い、非魔法使いまとめて数万人以上が無差別に虐殺されたことで自然に終戦した。

 

 そして……時は経ち、長い旅と戦いと冒険の中で気がつけばカーレッジ達3人は20歳になっていた。

 カーレッジの幼気のあった顔は激戦を超えて凛々しくなり修羅場の中で筋肉が付き、見違えるほど成長した、子供の頃に比べて笑みも増えたが

 剣の方も胸は大きくならなかったが黒髪や非対称の瞳が美しいカーレッジ目線では誰もが目を奪われるような絶世の美女となっている。

 しかし今は魔法反逆戦争の終戦からまだ間もない頃、どの勢力も疲弊し大地は荒れ果てて明日の晩御飯を用意出来るかも分からない、誰かを気遣う余裕もなく皆生きることに精一杯……それが今のハジマリアだ。

 

「晩御飯だよつるぎちゃん、君にはステーキとか食べてもいいんだけど雰囲気に合わせてひき肉缶詰出してみたよ」

 

「……いらない」

 

 しかし綺麗になっても剣に子供だった頃の面影はない、最近まで喪失感でも感じるのか上の空になることが多くまともに食事も取らなくなりカーレッジが寝ている間に無理矢理突っ込んでるとき以外栄養も摂っていないし口数も少なくなった、カーレッジも空気は読めるので無理強要はせず缶詰を開けて机に置いておく。

 

「カーレッジ! 今は法が定められて無許可による魔法は禁じられているんだ、もし見られたらどんな罰を……」

 

「召喚魔法は大っぴらには知られていない、この魔法だって召喚というよりは何もないところから望みのものを作り出すんだ、いくらでも誤魔化せる」

 

 終戦後には二度と差別を生まないために魔法その物が規制され大半の物が禁止化、それ以外も協会の特別な許可が無ければ使用することも許されなくなっていた、それは剣達とて例外ではないがカーレッジはこの通りなのでロズムントの小言が絶えない。

 

「それに魔法を抑え込んでどうするんだ? この荒れ果てた今にこそ俺達の支援が必要で、そのために魔法を使う以外に解決のしようがないだろうに」

 

「何も分かってないのかカーレッジ、そうやって誰にでも出来ることじゃないことをひけらかすような真似をしてきたのが……本当にそんな気持ちは無かったとしても、それが原因であの悲劇が起きたんだ」

 

「ひけらかすも何も強い者が自己満足の為に弱者を助けるのは当たり前のヒーロー的な常識だ、それでも助けられたくないのならそもそもそんな立場にならない努力をするか誰とも関わらなければいい、避けられない結果ならそれを受け入れてしまえばいい」

 

「君は善意で人を助けようと言うくせに命を簡単に見捨てられるのか……!? そんなもの人助けじゃない、ただの傲慢だ!」

 

「もういいよロズムント」

 

 最近は繰り返し、口喧嘩は絶えないしそれを剣が無理矢理終わらせるのもいつもの流れになってきた、月日が経つにつれて考えが合わなくなっていき旅の雰囲気は沈む一方。

 カーレッジはというとあの日から変わらず日誌に冒険を書き続けてもう八冊目に到達、未だ飽きる様子も無く次はどんな物語が始まるのか期待に胸を膨らませながら再起の時を待っている。

 

「……まさか、こんなことになるなんて小さい頃の僕は思いもしなかっただろうな」

 

「あれから何年経ったっけ? つるぎちゃんもすっかり大きくなったよな……俺からすればちょっと痩せすぎだけど、目のあたりもな」

 

「それに引き換え、カーレッジの方はず──っと元気そうで」

 

「当然だ」

 

 このメンバーの中で生き生きとしているのはカーレッジだけである、それもそのはず目は煌めいて今か今かと次に何が起きるか待ちわびて旅の支度をする、その瞳は閉じているもののまるで映画前の予告を見ているような気分、明日にはまた旅を再開して今度は荒れ果てた街を助けて祝福されよう……そんな風に考えていた、だが……。

 

「つるぎちゃん、まずどの方角から行く? ここから近いところだとガイゼルのいるムキョーの街だが……確かあいつの所の冬華がそろそろ開花しなかったか?」

 

「もう、どこへも行かない」

 

 剣の声は静かだったが、その言葉は鋭い刃のようにカーレッジの胸を貫いた。

 

「何?」

 

 カーレッジの瞳が揺れる。驚愕と困惑が混じり合い、彼の声はかすかに震えた。

 

「もう旅は終わりだ」

 

 剣は繰り返した。彼女の黒髪が風に揺れ、かつての無垢な少女の面影はそこにはなかった。

 

「こんなことを続けている場合じゃない。僕も、カーレッジも、ロズムントも……もう、子供の遊びを卒業する時なんだ」

 

「本当に……旅を終わらせるんだね?」

 

 ロズムントも理解しているようであり声色は重く、まるでその言葉がカーレッジ一人に現実を刻みつけるかのようだった。

 

「どうして……?」

 

 カーレッジの問いは空に溶け、答えを求めるように剣の瞳を見つめた。しかし彼女の視線は硬く、決意に満ち、かつての仲間を遠ざけるようにそらされた。

 楽しかった旅が終わる、唐突に終わりを迎える。

 何度考えても脳が理解出来ない、何かの間違いか冗談だと思い剣の目を見るが、彼女はそんなカーレッジを見て目を反らしている。

 

「ロズムントは分かってたの?」

 

「少し前からね、君は必ずそう言うと思っていた」

 

「カーレッジは……まあ、その様子となると考えもしなかったんだろうね」

 

 剣は本気だ、こうなってしまえばカーレッジが何を言ってもやっぱり旅を続けようという流れにはならない。

 

「僕は決めた」

 

 剣の声は低く、しかしその内に秘めた決意は揺るぎなかった。

 

「僕達はとんでもない過ちを犯してしまった。あの頃魔法使いが世界中に溢れた所から始まり、誰もがその力を手にすれば素晴らしい未来が訪れると信じていた。純粋な夢だった……でも、それはあまりにも愚かなやり方だった」

 

 しかしカーレッジは未だに姿に見合わぬ幼い子供のような不気味な笑みを浮かべ、まるで過去の栄光を誇るように言い続ける。

 

「でもこうして世界を見てみたろう! 俺たちの夢は現実になったじゃないか! 世界の半分以上が魔法使いだ! 君が望んだ仲間が増えたんだぞ!」

 

「その仲間たちはついこの間、戦場で散った」

 

 それでも彼女の声は冷たく剣の瞳が暗く沈む、その奥には抑えきれぬ悲しみが滲んでいた。

 

「魔法反逆戦争だけじゃない。あの赤い歯車の夜も、魔王の炎に焼かれた街も……すべて、私たちが招いた災厄の果てだ。魔法が、この世界をこんなにも残酷に変えてしまったんだ!」

 

「この世界が酷いだと? そんなわけない! それじゃまるで俺達がやってきたことが……!」

 

 カーレッジの声は熱を帯び、まるで自分が育ててきた世界そのものを擁護するかのようだった、しかしその態度は世界の為というよりは自身の振る舞いが間違いではないという無垢だった子供の発想に成熟した大人の傲慢さを混ぜたような振る舞いである。

 

「想像もつかない出来事、壮大な事件、見たこともない生き物たち……この旅は、胸を躍らせる夢の連続だった! 悪いことばかりじゃないだろう? ほらこれを見てよ!」

 

 彼は日誌を掲げ、まるでそこに刻まれた思い出が彼の信念と満足感を証明するかのように叫んだ。

 

「俺たちの10年以上に渡る冒険の記録だ!」

 

「旅の……記録? こんなものをまだ……」

 

 剣の声は冷たく、まるでその言葉自体を拒絶するかのようだった。彼女の手が日誌を力強く叩き落とす。ボロボロの一冊目は地面に落ち、ページが風に散らばった。

 

「気にしないさつるぎちゃん、ちょうど魔法で修復しようと思ってたところだ」

 

 カーレッジは微笑み、まるで何事もなかったかのように手を振った。

 ただの紙束だったものが気分一つであっという間に買ったばかりの新品のように綺麗な状態に作り替えられて再度懐にしまう、きっとどんなに言ってもあの魔法が表すように解釈を作り替えるのだろう。

 

「……カーレッジはあんな事になってもまだ魔法を使う気なの?」

 

「もちろんそのつもりだ、法なんて無益な奴らが弱者気取りで足を踏むために勝手に言ってるだけだからね」

 

 悪いのは魔法じゃない、こんな事で騒ぎになり手を増やすより出来なかった才能が無い物に合わせて規制することで解決した気になる人々であり何も関係ない、どうしてわざわざ不便な生活をする側を憐れむことはあっても寄り添わなくてはいけないのか。

 カーレッジはそれを剣に伝えると、溜息を吐かれた気がしたが彼の眼には見えなかった。

 

「さて剣、なんとなく察してきたが旅を辞めたとして、これから君はどうするんだい?」

 

「責任を取る……すべてを公表する。僕たちが何故この魔法の世界を生み出したか、長い歴史の中で各地で引き起こした災厄の真相を明らかにする。それがこれまで歩いてきた中の罪の清算だ」

 

 剣の声は静かだが、まるで鉄のように堅固だった。

 彼女の瞳にはかつての純粋な輝きはなく代わりに覚悟の炎が宿っておりロズムントもその思いに応えるように肩を持つ。

 

「この先に何が待っているかはわからない。過酷な道になるだろう……僕自身が無事では済まないことも、わかっている」

 

 彼女の言葉は、まるで自らを贄とする宣誓のようだった。

 カーレッジ達はこれまで自分たちが世界を変えたことを周囲に話していたこともあった、その時は2人の子供が世界を丸ごと書き換えたなど常識内では信じられることではないので誰も相手をしていなかったが、次第に年を取ることに事の重みが増してくのが分かった。

 元を辿れば何歳になってもカーレッジが自慢話のように大っぴらに話していたのもあるが。

 

「となるとつるぎちゃんはあの中央街……マジナに行くつもりなのか?」

 

「……何か勘違いしてない? カーレッジも行くんだよ」

 

「え? なんで俺も……俺はこれから東の方へ行って貧しい国の支援でもしようと考えてるんだけど」

 

「何言ってるの? 僕が魔法使いを欲しいと言ったのもある、でも世界を作り変えたのはカーレッジだよ、僕じゃなくて僕ら2人の責任なんだ」

 

 確かに元はと言えばカーレッジがイティハーサを召喚して何の迷いもなく世界改変を望んだ、その結果故郷が滅んでもいる…… しかしカーレッジは何が言いたいのか分からない。

 滅んでいるというか、見捨てたのだから。

 

「まだ君は分からないのか、もう一度その神様とやらを召喚して願いを叶えるんだ、元の世界に戻すとね」

 

「イティハーサの本は手元にないし今更元に戻すってなんだ? 何がどう変わるのか俺でも分からない……それに俺達はただのきっかけでそこまでする道理はない! 世界が突然変われば混乱も起きる、だがそれは時代の流れによる弊害……当たり前じゃないか!」

 

「僕は誰かの避けられた不幸を時代の流れなんて言い訳で見捨てたくない! 当たり前であってたまるか! あんな戦争がなければ、みんな……皆死ぬことは……魔法なんてものがなければ!!」

 

「そういうのはあのふざけた科学者みたいな地位と見せかけの人望だけある人間が現状維持か上手く生きれるように活動している、真に人々を救う俺達の役目じゃない! 旅を辞める理由なんて……」

 

 話がまとまらない、カーレッジも剣と喧嘩や口論なんてしたことがない、というよりなるべく機嫌を損ねるような事は避けていたので焦っているが話が噛み合わない。

 それもそのはずで剣はカーレッジも一緒に責任を取る為に連れていく話をしており、カーレッジはあれだけ言われてもまだ旅を続けることを諦めていない、気付いていないが剣はもうカーレッジが知っている時ほど幼い存在ではない。

 

「あのね、カーレッジ…………はっきり言うよ、もう僕達は旅なんてしてる歳じゃない、今年で20歳になるんだ……普通の人だったら好きな人を見つけて結婚したりお仕事して、親孝行もするんだ」

 

 剣はカーレッジと話している内にもう何を言っても無駄だと分かった、剣はカーレッジが思ってる以上に変わったがその反面カーレッジは剣が思っている以上に昔のままだった。

 

「小さい頃から今まで、僕は君に色々と助けられてきた……ずっと頼っていくうちに僕は君に甘えていたと思っていたがどうやら本当に甘えているのは君自身だ、もう僕らは幼稚じゃない、責任を果たす存在にならないといけないんだ」

 

「なんなんだその言い方……さっきから俺達の思い出を子供の遊びみたいに言うじゃないか」

 

「何の目的もなく歩を進めて責任も関係もないのに他所の問題に首を突っ込んでいくなんて、もうこの年でそんな事すれば落伍者と何も変わらない……剣はそう言いたいんだ」

 

「ロズムント……お前までそんなこと言うのか、ただ慣性でついてきただけのくせに」

 

「それに君は言い方からして自分が楽しみたいだけだろう? 案外私たちとこうしてついて行くのも悪くない体験になるはずだ」

 

「なんでわざわざお前のせいだと怒られる為に行かなくちゃならない! ちゃんと人助けするんだからいいじゃないか!」

 

「それはいつでも出来るって剣も言ってるじゃないか! 勝手にやる自己満足は今では逆効果になる可能性だってあるんだぞ!」

 

「やっぱりもういいよロズムント、もう無駄だ」

 

 剣はいよいよ諦めて荷物をまとめ、カーレッジを置いて歩き出した。

 こんな様子では連れて行ったところで何かしてくれるわけでもないと判断したのだ、ロズムントも彼と少し話しただけでそれを実感し、もう相手にしないことにした。

 きっといつかこんなことが起きたのだろうと考えが理解できないことを悟る。

 

「じゃあカーレッジ、本当に人助けするつもりなら頑張ってね、お互い上手くいくか分かんないけど」

 

「どうしてこんなことに……」

 

 カーレッジだけが理解出来ていない、避けられなかった別れと考えの不一致。

 語るまでもないがここから数日後、黒影剣は宣言通り自らの行いを明かした後に行方が分からなくなり、同行したロズムント・トレザードもまた失踪して一説では死亡したといわれている。

 カーレッジはいつか剣に再会することを夢見て、予定通り世界を回り直して魔法の力で戦後の人々を支援することにした。

 その一方、剣に見切られた事で自分の限界を悟り新しい力を得ようとすることも検討するようになる。

 1人になったカーレッジは日誌を見てこれまでの思い出を鮮明に振り返る、実に楽しかった日々……だがもう戻ってこない、前を向くしかないのだ。

 カーレッジには召喚魔法があるので生活は問題ない、今は1人でどうにか人々を助けよう……そう決心するのだった。

 まさかこの時はこれが全く思い通りにならなくなるとも知らずに。

 


 

 カーレッジ・フレイン22歳。

 剣から魔法の世界に改変する責任を取るため旅の終わりを告げられた彼だったが、剣たちと別れて1人で旅を続けていた。

 カーレッジはまず海と繋がる街【海面橋】に到着した、10歳の頃に訪れた海に一番近い街でありエビ漁が盛んだったが海底の宝を狙う海賊達の被害に困っていた、そこを剣とカーレッジの活躍により海賊騒動は解決したのだが、更にそこから海鳴りの海老王の問題が起こり……と全部説明すると長くなるので省略するが、とにかく思い出深い所の一つだ。

 あれから10年以上経って更に発展しており、橋の下には大きな船が何隻も待機していた。

 

「確かここには遊覧船のバーゼルさんが居たはずだが……あれ」

 

 知り合いを探してひとまず飲食店に入ると店主の顔に見覚えがある、向こうもカーレッジの事を知っていたようで数秒間お互いに目を合わせて硬直してしまった。

 

「海賊……バーリー?」

 

「カーレッジ・フレイン!」

 

 カーレッジの声は驚きと懐かしさに震え、カウンターの向こうから、鋭い声が返ってくる。

 そこに立っていたのは、かつて海を荒らし回った女海賊バーリーその人だった。だが今の彼女は戦いの日々を遠くに置き去り、エプロンを身にまとい、皿を手に穏やかな店の一角に溶け込んでいる。

 カーレッジの胸に過ぎ去った時間の重みが魔法にかけられたように蘇る。あの頃の海賊騒動、剣と共に解決した海鳴りの海老王の事件……思い出が鮮やかに甦り、彼は名物のエビ料理を貪りながら、懐かしさに浸った。

 

「なんでこんなところに?」

 

「あんたに言われたかねえよ。ここはアタシの店だ。もう八年もやってる。海賊なんて稼げやしない時代なんだよ」

 

 カーレッジの問いは軽やかだが、どこか探るような響きを帯びている。

 バーリーは鼻を鳴らし、 皿を磨きながら答えた。

 彼女の声にはかつての荒々しさと今を生きる誇りが交錯しているような様子がする。

 

 

「ふーん、寂れてはいるけどずいぶん活気あるね反逆戦争とかやってたばかりなのに」

 

「こんな時こそ船引っ張って物品運んでアタシらも元気だして各地を支えなきゃならんって状態、つまり他と変わんないよ」

 

「じゃあやっぱり困ってるんだ、今俺も各地を支援しようと思って一人旅さ」

 

「いらんいらん、アンタの手を借りるほど落ちぶれちゃいない」

 

 バーリーはカーレッジを追い出そうとしてさっさと別のテーブルに料理を送ろうとしたが、彼の素振りを見てある事に気付く、バーリーの目が鋭く光りカーレッジの手から翡翠色の硬貨を奪い取った。

 

「まだこんなマジックコインを使ってるのか? こいつはもうただのガラクタだ。協会が定めた新紙幣が今の通貨だよ」

 

「え? マジックコイン使えないの?」

 

 カーレッジの声には信じられないという色が滲む。彼の財布には魔法で生み出した硬貨しかなかった。それが今、ただの飾りにすぎないというのか。

 

「妙な考えはよせよ」

 

 バーリーの声は低く警告の響きを帯びていた。

 

「何年も前から魔法で金を作るのは禁じられてる。あんたみたいな魔法使いが硬貨を無尽蔵に生み出したせいでインフレが止まらなかったんだ、白金貨でもなけりゃ飯一膳すら買えない時代になるくらいにはねぇ」

 

 彼女の言葉は、まるでカーレッジの無垢な過去を切り裂く刃のようだった。

 今となっては魔法使いの立場や過去の行いなどとても称賛を得られるような振る舞いではなくなってしまった。

 

「つまり?」

 

「財布以外にも有り金全部出してみな」

 

 しかし先ほども言ったようにカーレッジの財布にはマジックコインと呼ばれる魔法で作った魔法使い達の硬貨しかない、そもそもカーレッジは召喚魔法で好きなものを出せるため買い物には興味がなく、その場の空気に合わせるため何個か持ち合わせているぐらい。

 それが今ではお菓子を買う価値もない紛い物の硬貨が世界中に出回ってるせいで買い物もろくにできない、ある村でパンをどんなに作っても利益以下の少ない金でしか買い取ってくれなかったりもする。

 新紙幣とやらを見せてもらい魔法で複製することも考えたがその読みはお見通しとでも言いたいのか頑なに取り出すことはない。

 

「それで、こういうときは働いて返せとか言うんでしょ、結果的に俺がこの寂れそうな助ける理由が出来たことになるよ」

 

「……ま、これくらいなら3日も働けば返せるだろ、それまでの辛抱だ」

 

 カーレッジにどうにか出来るわけもないため、仕方なくバーリーはこの店で働かせて払わせることにした、再会したが奢るなんて一言も言ってないし見逃せるような状況でもない、それにすぐ終わる……そう考えていたが、甘かった。

 まさかこの歳になって一人で生きていける人間が最低限のことも出来ないなんてことあるはずが……。

 だが3日後どころか1週間後、カーレッジはエビを剥くだけの作業を延々と続けていた。

 手で剥いた生エビを皿に並べてそれをバーリーが回収して油に放り込む、これを朝から晩で続けてこれ以外に何もやらせてもらっていない、皿洗いさえもだ。

 

「ねえ、いつになったらエビ剥き以外の仕事をやらせてくれるんだ? もう1週間エビ揉めエビを揉めなんだけど」

 

 カーレッジは露骨に苛立ちを隠さず、皿に並べた生エビを指差した。

 カーレッジが一番嫌いなことが単純作業、特にこれといって独自性があるわけでもなく出来たからと言って特別褒めてくれるわけでもない、以前からこういう役割はロズムントに押し付けて自分にしか出来ないことを率先して行っていたのだが今回はそんなことも言ってられない立場である。

 

「俺だって料理と護身術を両立する大任流を会得してる。料理くらい朝飯前というやつなんだけど」

 

 

 

「料理ができるだと? そんな大口は、ヤマエビフライをまともに作れるようになってから叩きな!」

 

 その言葉を聞いてバーリーの目が燃えるように光った。彼女の声は厨房を震わせ、まるでカーレッジの軽薄な自信を打ち砕く雷鳴のようだった。

 しかしその発言を全く気に留めずカーレッジは廃棄されたエビの山を眺め、呟いた。

 

「もったいないな……」

 

「もったいないだと? なら、ちゃんと指示通りヤマエビフライを作ってみせな! 勝手にメニューを書き換えやがって! この店の味を、客を、街を馬鹿にしてるのか! 本当に迷惑なんだよ!」

 

 バーリーは怒りに震え、カウンターを叩いた。

 

「アンタは雑食生物の海賊だからいいエビの味を知らないんだよ、いいか? ヤマエビフライに使われるイシコロエビはな、中がスベスベしてるから刺身にして捌いたほうが美味しいし、エビフライにするならこんなしょぼい形のじゃ……」

 

 カーレッジが話してる途中だが顔を力強くビンタされ無理矢理会話を終わらせる、バーリーの目と右手は溢れ出したものが抑えられないかのように震えていた。

 バーリーの声は静かだったが、その奥には抑えきれぬ怒りが滾っていた。

 

「アンタにとって、アタシはまだあのピンクダイヤを追い求めた野蛮な海賊のままなのか? このヤマエビフライは、街の人々が長年愛し汗と苦労で支えてくれた味だ。もはやアタシの店はただの料理じゃない。この街の魂なんだ」

 

 カーレッジは笑みを浮かべ、軽やかに答えた。

 バーリーも感じたが彼は常に子供じみた笑い方をする、筋肉質で引き締まってるにも関わらず幼気なつもりで振る舞う彼の姿は親交の少ないバーリーからすればなんとも気持ち悪さを感じてしまう。

 こいつ、20歳を超えても子供のままなのか? と。

 

「なら、俺が海を揺らして最高のエビを調達してあげようか? そんなに心意気だけは達者ならもっと美味い料理を作って、客の舌を鍛え直すのが料理人の本分というものだと俺は思うけどね?」

 

 

「もういい、金なんかいらない。さっさと消えな」

 バーリーの目が凍りついた、彼女の言葉は鋭くまるで刃のようにカーレッジを切り裂いた、こいつ何回も切り裂かれてるなそろそろ服とかボロボロになってそう。

 その声には、かつての仲間への僅かな情すら消え去っていた。

 

 

「うん、正直お前のせいで長居しすぎたし別の所で……」

 

「アンタの助けを求めてる所なんてどこにもないよ、剣から何も聞いてないのかい」

 

「え? 何か言った?」

 

 余計な時間を食ってしまったとばかり考えてるカーレッジは重要な聞き逃していたが、とにかく離れたかったのでさっさと出ることにした。

 どんなに言われてもカーレッジの耳には何も届かない、何故ならカーレッジにとって昔からバーリーは自分にとって『格下』であり、

 

「剣……お前、なんて奴に絡まれてたんだ、そんなんだからさ……」

 

 バーリーの呟きは、風に溶けるように消えた。

 その後、カーレッジは生き残っているかつての仲間たちの街を巡った。だが、どこを訪れても冷たい視線と拒絶が彼を待っていた。

 かつての笑顔は色褪せ仲間との絆は知らぬ間にすり減っていた。召喚魔法で生み出した缶詰を齧りながら、彼は苛立ちを「みんなくそくらえだ」。と吐き出すのみ。

 だが、その言葉の裏には、言いようのない寂しさが滲んでいた。

 黒影剣は今、どこで何をしているのだろう。あの決別の日、責任を取ると言い残して消えた彼女の姿が、脳裏に焼き付いて離れない。

 それでもカーレッジは立ち止まらなかった。この荒れ果てた世界で、誰かに喜ばれる何かを見つけたい──彼はそう心に誓い、孤独な旅路を歩み続けた。だがその先に待つものが、かつての冒険のような輝きを放つかどうかは、誰にもわからなかった。

 

 


 

 カーレッジは根気強く世界各地を回って現在は喫茶店、昔に何かとカーレッジ達の旅で力を貸してくれた新聞記者のサビレットが連絡をくれたので駆けつけたところだ。

 久々の再会にお互いこれまでの事を語り合いながら終戦後の近況を語り合う。

 

「せっかく世界中を飛び回って助けてやってるのに、誰も感謝してくれないんだ……困ってるのは一目で分かるのになんなんだろうねあの冷たい態度は!」

 

 カーレッジの声には苛立ちと困惑が混じり、喫茶店の薄暗い光の中で彼の顔は一層疲れて見えたるが、それに対してサビレットはコーヒーを手に静かに微笑む。

 

「ふっ……俺たちも年を取った。お前が思う以上に、誰もが弱さを抱えたまま強くなったんだよ」

 

 その声は穏やかだが、どこか遠い過去を振り返るような響きを帯びていた。

 サビレットの変わらぬ態度に、カーレッジの胸はほのかな安堵で温まった。かつての冒険の日々、剣やロズムントと共に笑い合った記憶が蘇る。

 だが今、仲間は去り世界は彼を拒む。サビレットだけが昔と変わらず彼の不満を聞き受け止めてくれる存在だった。カーレッジは堰を切ったようにこれまでの旅の苛立ちも喜びも、すべてを吐き出した。

 新しい始まりの為にこれまでの人生を振り合るような道筋だったはずだが、大人になった剣を始めとして名前だけ同じの別人に成り果てたような感覚でつまらなさを感じていたのだが、サビレットはあの時から何も変わらず自分を受け入れてくれる側だったので安心感を覚えていたのもある。

 

「本題に入る前だが1つ聞きたい、お前は支援の為と言って各地を飛び回ったことは聞いたがよく無事で済んだな……まあ長い付き合いだが、お前が怪我しているところなんて見たことないのは確かだ」

 

「なんで?」

 

 

 

「お前、本当に何も知らないんだな。魔法使いは、苦労もせず優雅な生活を送り、貧しい者に上から目線で施しを与える傲慢な存在だと──そんな偏見が世に蔓延している。それが積もり積もって、あの魔法反逆戦争を引き起こしたんだ」

 サビレットの目が一瞬鋭さを帯びたがカーレッジは肩をすくめ、軽く笑い友達との世間話感覚で答える。

 

「そういう連中のこと? ああいうのは本当に困ってるのに、それを認めず我儘を言ってるだけだろうって。俺の素晴らしいアイデアを受け入れたらいいのに文句を言う資格なんてないさ」

 

「なるほど、あくまでお前はそう思ってると……」

 

 彼の声は軽快だったが、その裏には軽率な傲慢さが滲んでいた。

 サビレットは軽くメモを取りながらカーレッジの発言を聞く、カーレッジは相変わらず魔法を使っているため空間が一時的に遮断されて発言が外部に漏れるようなことは無いがカーレッジは剣に並ぶ原初の存在であるため、その為に他の魔法使いのように使っていることを見抜かれることはありえないと思っている。

 メモを取ったサビレットはコーヒーを飲み干して静かに本題を切り出した。

 

「お前の好きな『人助け』について相談だ。まだ持ってるか? あの冒険日誌」

 

「日誌? もちろん、全部揃えて持ってるよ」

 

 カーレッジは誇らしげに微笑み、魔法で分厚い日誌の束をテーブルに呼び出した。10年以上の冒険が刻まれた8冊は、まるで彼の謳歌した人生そのものを象徴するかのようだった。

 

「その日誌……ここで写しを取らせてくれ。仕事でどうしても必要なんだ」

 

「仕事? 俺の旅の記録が?」

 

 カーレッジは怪訝な顔をしたが、サビレットは続ける。

 彼の声色は落ち着いていたが、その瞳には何か大きな企みを秘めた光が宿っており、言葉は静かだがまるで歴史を書き換える決意を秘めているかのようにも感じ取れる。

 

「今回は特別だ。成功すれば、俺はお前の言う『世界を震撼させる』ような偉業を成し遂げることになる」

 

 会話しながらサビレットは日誌に書いてある出来事を目にも止まぬ勢いで模写してはページを開いて次の模写を始める、昔から文字を書くことだけは速かった人物なのでこれだけの量でも1時間で終わらせてしまうだろう、待っている間カーレッジは暇なので何か世間話でもしようと話題を絞り出してみるがここ最近は本当に良いことが無かったので口にする気もしなかったので話題は一つしかない。

 

「あちこち顔を覗いてみたら俺の支援は必要なさそうだからさ、また冒険に出かけようと思ってるんだけどつるぎちゃん今どうしてるか知らない?」

 

「剣か、もうお前とは会わないんじゃないか?」

 

「なんで?」

 

「この仕事が終わったらまた教えてやるさ……おっと、インク切れか」

 

 カーレッジは魔法でサビレットのペンを新品に作り変えようとしたが手が止まる、手を出すより先にサビレットがペンを上下に振った後、紙に当てるだけでインクがまた出てきたのだ、こんな力は魔法でもこれまでの旅で起きたことでも見たことない。

 カーレッジの目がサビレットの手に握られたペンに釘付けになった。

 

「それ……何だ?」

 

「これか? 理論上無限に使える、環境に優しいボールペンだ。先行体験で手に入れたばかりだが実に便利だ」

 

 サビレットは軽く笑いペンを振って見せた、インクが紙に滑るように流れまるで魔法のような滑らかさだった、しかしその合理的な側面しか見えない完璧さはとても不気味に思えるが心当たりがある。

 

「それって……まさかジルトーがよく言ってたマシンってやつか?」

 

 カーレッジの声には、驚きと懐かしさが混じっていた。かつての宿敵、ドクター・ジルトー。あの科学者が作り上げたものだとすれば──。

「その通りだ」

 

 サビレットは頷き、静かに続けた。

 

「向こうの国では科学文明が花開いている。機械化が進み、誰もが使える技術が広がっているそうだ。カーレッジ、これからの時代は科学の時代だ」

 その言葉は、魔法の終焉を告げる鐘のようだった。

 

「科学によって戦争になることもあるんじゃないか?」

 

「あの男も無いとは言い切れないと言っていたな……だが少なくともこんな過ちの中生きてる奴らだ、また戦争しようとは思わないだろう……話は終わりだ」

 

 話している間にサビレットは作業を終えて日誌全てを完全に模写した、カーレッジも全部見せてもらい確認してみたが一字一句正確にそのまま書き写されていた、それどころか何かしらの脚注が加えられており仕事に必要になると推測される文章が追加で書き殴られていた。

 本当に日誌全てを提出する気らしい。

 

「じゃあそっちもお仕事頑張ってね、なんでそれが必要になるのかわからないけど」

 

 模写日誌をこれまた科学で作られただろう大きな鞄にしまったサビレットはお代を支払い、一瞬のうちに完全に姿を消して残ったのはカーレッジのみ、周りを見てみると他の客もいなかった。

 

「……例の科学の国行ってみるか、どこかでまた面白いことが起きるのかもしれないし」

 

 自分が手を出すまでもないと分かったカーレッジはまた新たな発見を求めて次は一気に西の方へ、箒を全速力で飛ばしてジルトーの根城とする方へ旅立っていった。

 さながら気分は悪の親玉の本拠地へ乗り込む最終決戦のようだった。

 


 

 あの日から再び日記を読み返し、子供の頃から続けてる旅を思い起こす、考えてみれば長い時の中で自分達を見る他の目が随分変わった気はする。

 子供の頃は誰もが旅をして活躍する自分たちを凄いと褒め称えてくれていたが、最近では目を合わせることもなくなった、声をかけようとしてもそそくさと去ってしまう。

 せっかく面白そうな事を求めて砂漠まで来たというのにこれでは盛り上がりに欠ける、やはり剣やロズムントもいない一人旅では限界があるのだろうか。

 

 

「俺は働いて金稼ぐなんて普通の生き方は昔から嫌いで、通して凄い楽しくも偉大な成果を残したいと願って……実現したはずなのにまだ物足りないんだよな」

 

 カーレッジは魔法で作った砂嵐に入り新しい場所まで空を飛ぶ、次に来る場所はもう少し楽しい雰囲気になることを祈りながら。

 だが上空から大陸を見て妙な物が見えてきた、色合いの良い鉄のようなもので出来た物体が辺り一面に広がっており、かつて見た古代文明のような空飛ぶ乗り物が飛び天まで伸びるガラス状の棒があちこちから生えている異様な雰囲気の場所、あれはなんだろうか? 

 転送魔法を使ってみても何故か入れず、高速で突進してみても景色が変わらずいつまでたっても近寄れない。

 あの場所が気になって仕方なかったが1つ思い当たるものがあった、サビレットが言っていた『科学』の新しい国、あそこにジルトーが居る。

 

「ジルトーはあんな所で何しようとしてるんだ? まあいいや……入る手段はまた新しい魔法で考えておこう」

 

 砂嵐が止まり落ちて辿り着いた場所はどこか見覚えがある……焼け落ちて何年も経ったような形跡、何年も経ったような焦げの跡……そしで見覚えのある古いシンボル。

 ここはカーレッジが生まれ、剣と出会い、決別の為に全てを見捨てたあの故郷だ、偶然にもこの場所にまたやってきてしまったらしい。

 

「すっかり誰もいなくなったな、まあ魔法の世界になってそうなったんだけど」

 

 10年以上ぶりに故郷を眺めてみる、実家も年月が経つと何の懐かしさも感じない、骨すら残っていないのはむしろありがたいぐらいだが……。

 瓦礫はそのまま残されている、誰もこんな辺境の地に訪れようとも思わないのであの時のままずっと放置されていたようだ。

 

「ん?」

 

 カーレッジの足が止まった。

 崩れ落ちた故郷の瓦礫から強い魔力の脈動が響いてくる。かつて感じたことのある、懐かしくも畏怖すべき力──イティハーサの召喚に用いた禁断の書を思い出した。

 彼は息を呑み瓦礫の山に手を伸ばした。

 そこには業火と破壊の爪痕に埋もれながら、まるで時を拒絶するかのように無垢な輝きを放つ書物があった。汚れも劣化も一切なく、かつての世界を変えたあの禁断の本が静かに彼を待っていたのだ。

「すごい……こんな奇跡が、本当にあり得るのか!」

 

 カーレッジの声は、興奮と畏れが入り混じり、かつての少年の輝きを取り戻していた。

 今ならイティハーサの本も完全に解明できると思い、幼い頃を思い出しながら読み返した。

 するとそこには想像と期待をはるかに超えたハジマリアの歴史の全てが記されていた……。

 


 

 この空の先にある失われた過去……かつて『骸の海』と呼ばれていた物から古い人類を滅ぼし新しい世界を作ってきた神、イティハーサ。

 しかしイティハーサは猟兵(イェーガー)と呼ばれる更なる外から来た存在の戦いで深手を追い、骸の海の中に更に世界を作ることで次元を分担して新たな空間を作り出した、それこそがハジマリアである。

 骸の海から漏れ出した世界の過去が受肉した生物をオブリビオンと呼び、ハジマリアの生き物はオブリビオンから未来に進み進化した新世代の生物。

 作られた我々はいずれ勝利し猟兵に牙を剥く、儂に作られた者こそが正しい……その事からハジマリアの生物達はオブリビオンを超越した存在……『創勝者(メイドウィン)』と呼んでいる。

 そしてメイドウィンは遂にイティハーサとの介入に成功、猟兵への逆襲の時近き。

 全ては我が綴られた歴史に還る。

 


 

 まるで最近書き足されたように綺麗に記された文章、あるいはこうしてカーレッジが触れたことで本当に書き足されたのだろう、猟兵、メイドウィンとオブリビオン、35の未知の舞台と戦い……。

 つまりはイティハーサと呼ばれる存在がある目的の為にハジマリアを作り出して大規模な戦いの為にカーレッジや剣達を育て、経験を積ませるために数々の試練を与えてきたと理解した。

 

「つまり……俺たち、いやこの世界に生きる全てが『オブリビオン』って存在なのか! まるで壮大な物語の幕開けだ! これぞ冒険の頂点ってやつだ!」

 

 カーレッジの声は抑えきれぬ興奮に震えていた。

 彼の心はかつての少年の頃のように燃え上がっていた。イティハーサの書に記された真実──ハジマリアの創生、猟兵との戦い、メイドウィンの逆襲。それは、彼の旅が無意味ではなかった証だった。

 

「旅はまだ終わっちゃいない! 急がなきゃ! つるぎちゃんに再会して新しい世界のために冒険を始めなきゃ!」

 

 カーレッジは書を握りしめて箒に飛び乗り、空を裂くように急発進した。

 星々の下、彼の目は新たな物語の輝きに満ちていた……それから5分後、大きな街で人探しを始めようとしてすぐに関所に止められる。

 

「カーレッジ・フレイン……! 間違いない、ここは通さん!」

 

「なんで? そこに行きたいんだけど、とんでもない冒険が始まるかもしれないんだよ! 神の思し召しだよ!」

 

「おい、そこのもの」

 

「あっ、ダイガゼット!」

 

 門番に阻まれて困ってる所にまたしても知り合いと遭遇、ハジマリアで2番目に大きな地域であるガゼット王国の王子様もとい現国王である。

 今のカーレッジにとっては世界規模の出来事を抱えているため剣の次に話をしたかった人物であり、関所で見張りをしてきた兵士達は国王を前に深々と頭を下げる。

 

「ちょうどいいところに来てくれた! 凄いもの見つけちゃったんだよ世界揺るがしそうなもの!」

 

「世界などお前のせいでとっくに揺れっぱなしだ、まあ用件はあるからさっさと入れ」

 

「しかし国王様……!」

 

「こいつはこういう奴とお前達も理解したはずだ」

 

 ダイガゼットはカーレッジを案内して国に案内する、特等席で話がしたいと言い出すのだが……案内された先はどう見ても断頭台、まあカーレッジは魔法でなんとかなるとたかをくくっているので問題ないと入る、命の危機なんて幾度となく経験してきた上に自分は決して。

 

「最近変わったことはなかったか?」

 

「あるよ! 是非とも聞いてほしいんだがこの世界その者は神が大きな戦いのために意図的に作られたことになる、つまり俺達は選び抜かれた戦士というわけでね!」

 

 カーレッジが意気揚々とイティハーサの古文書を見せようとすると、先にダイガゼットが別の本を見せつけてくる、それは日誌の内容と似ているようで全く異なる異質なものであんなに分厚く何冊もあった日誌に比べて人並みな大きさの辞書のようだ。

 

「それ何?」

 

「ハジマリアの真実が記された書物だ、お前の旅による冒険が実際はどんな事が起きてどんな風に都合よく解釈されて覚えているかという内容になっている」

 

「誰がそんなの思いついた? ジルトーか?」

 

「サビレットに見せたんだろう? 例の日誌を……そこから完成して即座に完売したのがこの本だ」

 

「確かに見せたがその時は丸写ししてただけだ、注釈ついてただけだよ」

 

 サビレットは丸写ししたものを周囲に提出し、彼の中の出来事と現実で置きた出来事を比較して添え書きし冒険という名の騒動は何故起こったのかという本を作ったとすぐ分かりそうな事が理解できないことにダイガゼットは頭を抱える。

 

「お前はこの長い人生の冒険の末に様々な騒動を解決して世界を救ったと解釈している、実際は余計に引っ掻き回して周りを混乱に陥れていただけだったがな……抜粋しよう」

 


 

『赤い歯車事件』当時カーレッジ9歳。

 空に落ちてきた赤い歯車と空中都市ラビコン、カーレッジ達は魔法古代文明の民と共に空中都市破滅の未来を食い止めた。

 真実:空中都市の破滅はカーレッジが赤い歯車を全て抜いて機動力を無くし都市が地面に落下したことで破滅を免れた、魔法でルビコンは破壊されなかったが衝撃は逃げず周囲が大地震で現在も周囲の一部は壊滅状態となり、魔法古代文明の技術は自然に馴染まず民は狭い神殿の中で細々と生きるしかなかった、今になってみればエネルギーさえ入れておけば何の犠牲も出ず解決した事例である。

 

『刃天流道場』当時カーレッジ11歳。

 魔法に負けない大陸を作る為の人里離れた道場に足を踏み入れていた、剣ちゃんはこの場所で魔法使いとそれ以外の差別を知り、底辺達の有り様を見て黒魔術を覚える。

 その一方カーレッジも料理と戦いを両立する大任流を会得していた。

 真実:大任流は半ば無理矢理教えるように頼み込んだ上に魔法を使ったイカサマがバレて破門になっている(本人は卒業したと思っている)

 

『ギャギャの一族』当時カーレッジ16歳。

 ギャギャという未知の文明を持つ存在がジャングルに生息していた、カーレッジはなぜかギャギャ神の怒りに触れてしまうが、魔法の力でなんとか絶滅させることが出来た。

 この辺りからジルトーの話を剣は理解できるようになり、暗い顔をするようになった。

 真実:ギャギャの民や神が怒りに触れたのはカーレッジが神の石像を魔法で作り替えたから、そもそも勝手に土足に上がり込んで都合が悪くなったら絶滅させた以外の何物でもない。

 

『魔法反逆戦争』当時カーレッジ19歳。

 魔法使いと非魔法使いの格差から生まれた革命戦争、カーレッジ達の旅の知り合いも何人かこの戦争に参加して戦死、史上最悪の戦いとなった。

 最終的にカーレッジが遠隔操作で魔法兵器を作り出し、魔法使い、非魔法使いまとめて数万人以上が無差別に虐殺されたことで自然に終戦したことを確認した。

 


 

 本は即座に閉じられてダイガゼットの声が雷鳴のように轟いた。

「魔法反逆戦争の魔法兵器……これは一体どういうことだ、カーレッジ!」

 カーレッジは肩をすくめ、軽く笑った。

 

「ああ、魔天輪ステラピアのことか? 戦争が長すぎてなんかちょっと疲れちまってさ……両方が痛い目見りゃ静かになるだろって思っただけだよ、なかなかよく出来てるだろ?」

 

 その言葉は、まるで遊び半分の悪戯を語るかのようだった。

 ダイガゼットの目は怒りに燃え、声は震えた。

 

「戦争を『疲れた』で片付け、あの兵器で何万人もの命を奪っておきながら、知らん顔だと!?」

 

 彼は分厚い書物を突きつけた。『はじまりの書』──そこには、カーレッジの冒険が引き起こした真実の歴史が刻まれていた。

 

「魔法の世界が生まれてから、戦争が終わるまでの壮絶な歴史……我々はそれを『カタストロフ暦』と呼ぶ。そして、その大半の元凶はお前だ! お前は英雄ではない。誰の救いにもなっていない。ただの……大罪人だ!」

 


 

 何故こんなことになってしまったのだろうか。

 冒険を続けて魔法の力で人々を助けて凄いと思われたくて、困ってる人のために自分しか出来ないことでなんでも解決してあげて各地で自分の名前を広めてきた。

 そうやって過ごしたはずの男、皆から愛されて満足しながら生きていると心から思っていたカーレッジ・フレインは今。

 全人類から今すぐにでも処刑を望まれてこの場所にいる。

 ダイガゼットの声は、断頭台の冷たい石に反響し、怒りと絶望を帯びていた。

 

「それで許されるとでも!? お前がまた何か企むと思うだけで、人々は恐怖に震え夜も眠れぬのだ!」

 

 ダイガゼットの声は雷鳴のように轟き、周囲の民の怯えたざわめきを掻き消した。

 しかしカーレッジは言葉を無視して禁断の書を握りしめた。その瞳にはかつての冒険の日々の無垢な輝きが宿っていたが、今は狂気じみた決意に歪んでいた。

 彼の声は天を裂き、禁断の呪文が響く。

 

 

「言葉じゃ駄目なら行動で見せるしかない! 再び我が元に出でよ、イティハーサ! 今度は世界の改変など小さなことじゃない! 俺自身にお前の全能の力を授けろ!」

「黒影剣は己の罪を償うため、責任を果たした! なのに、彼女以上の戦犯であるお前は、未だ英雄気取りで何の悔いも持たぬのか!」

 

「今度のは本物だ! 俺たちは選ばれた存在なんだよ! イティハーサをもう一度召喚すれば、死んだ奴らだって蘇らせられる! 俺ならできる、ちょっと自信ないけど多分な!」

 

「それで許されると思うのか! お前がまた何か起こすと思うだけで人々は厄日に巻き込まれたくないと夜も眠れない!」

 

 何を言っても聞き入れてくれないと判断したカーレッジはもう言葉より実物を見せるしかないと本を開き、あの時の呪文を唱える。

 次はもっと上手くやってみせよう、おそらくは広まったものが魔法だったから駄目だったんだ……ここまで僅か数秒で結論づけてこれまでの世界に見切りをつけてイティハーサ召喚の儀を行う、ただしもう世界には期待しない。

 信じられるのはここまでの偉業を成し遂げられる自分自身、自分だけが世界を導ける立場になればいい。

 

「魔法を使おうとしている……! 止めるんだ! 全身全霊をかけて奴の首を跳ねろ!」

 

「再び我が元に出でよイティハーサ!! 今度は世界そのものを改変なんて小さいことは言わない! 俺自身の身体にイティハーサの持つ力をくれ!!」

 

 本は今も尚、効力を保ち続けていた、神が目覚めて魔法の世界に変わった時と同じ感覚……人々が怯え悲鳴が各地で飛び交い意識を失う。

 前と違うのは、より鮮明に実態が姿が見えるようになったことだ。

 天地が震え、空が裂ける。そこに現れたのは、イティハーサ──『世界を創造するもの』。その姿は蜃気楼のように揺らめき、灰色の肌に宿る命の灯は、生命を超えた超越的な輝きを放っていた。

 

「儂はイティハーサ……。望むものあらば、これまでの歴史(イティハーサ)から如何なる世界も創り上げてやろう、儂に、新世界を望む『意志』を寄越すのだ」

 

「どつやら魔法の力だけじゃ力不足なんだよ、もっともっと色んなことができるようになったほうが面白いし……そちらの願いも叶えられる!」

 

 カーレッジはイティハーサと会話まで出来るようになっていた、神自身、報復の為の使徒がここまでの領域に早い段階で到達するとは思ってなかっただろう、ただ心から喜ばれて楽しみたいという感情でここまで……!

 

「良かろう。貴様の醜くも唯我独尊たる魂を、儂は気に入った。世界をこの手で創り、壊す力を握ってみるがよい。すべての生命は、やがて冷めゆき……オブリビオンへと還るのだ」

 

 神の手がカーレッジの口に伸び、その身体が光に飲み込まれる。銀色の髪が風に舞い、無数の知識が洪水のように脳に流れ込む──サムライの舞う『はいから』の世界、銀河を渡る宇宙船、竜巻に荒廃した終末の大地。ハジマリアを超えた無限の物語が、彼の魂を塗り替えた。

 こんな素晴らしいものがハジマリアの先にあるというのだ。

 ……彼は完全に生まれ変わり、やるべきことが決まったような気がした。

 

「約束するよイティハーサ、俺はもっと壮大な物語にするためさ、数多くの世界を俺のものにしてみせる!」

 

 目が覚めると断頭台だったところは崩れ落ちて周囲は廃墟になっていた、恐らくダイガゼットも近くの人間も即死したのだろう。

 魔法の世界に変えた時も村が一瞬のうちに火の海となった事も魔法使いが突然現れたのではなくカーレッジ自身が変化したことによって周囲が木っ端微塵になっていたのかもしれないが、もはや考えるだけ野暮だろう。

 今のカーレッジは考えるだけで空を飛ぶことも動かずに周りを見ることも出来る気がする、遂にカーレッジは何でも出来る神のような存在になったのだ。

 

「ひとまずイティハーサの記憶にあった宇宙ってものを作ってみようか? それともアイドルという概念をこの世に作ってみるか?」

 

 カーレッジは念じるだけで空の先に宇宙を創造、複数の惑星まで作ることが出来るようになった、もはや誰も止められない。

 

「さて、戦争でどうこう言ってましたしまずは魔法反逆戦争で死んだ人たちの復活だな」

 

 カーレッジは先ほどの衝撃に加えて自分のせいで死んだと言うのでこれまでの旅で死んだ人間を指を鳴らすだけで一気に全て蘇生させる、ただし実際はこれまで気に入らなかった相手は何も手を加えていない。

 それでもこれだけ進化した力を見せつければもう文句も言ってこないだろう、あとは剣に会いに行くだけ……前に近づくことも叶わなかった機械の街も今なら容易に入ることが出来る、何もかもがカーレッジの思いのままなのだから。

 

「よし、ではつるぎちゃんの新天地へ出発しようかな」

 

 カーレッジは箒を魔法やその他の道具で混ぜ合わせて改造し、他世界にあったバイクという乗り物のような形にして空を飛んで行った。

 その姿を見ていた民は絶望しながら各地にこの情報を巡らせようと一斉に駆け出していく、それは逃走のようにも見えるし抵抗かもしれない。

 

「なんてことだ……奴は、奴は悪魔になった! もう誰も止められない!!」

 

 


 

「よっこいしょっと」

 

 派手に着地してバイクを神の力で消失させ、機械の街に足を踏み入れる。

 この風景には朧気ながら覚えがある、イティハーサの与えた知識にあった『UDCアース』という世界の大都会のようだ……あの空を飛ぶ乗り物も高い鉄の棒も全てあの知識の中で同じ物を見た、人間の理解を超えた奇怪な生物は存在しないようだが。

 

「もしかしてジルトーもイティハーサを得て同じ物を見たのか? まあいいや、つるぎちゃんはきっとここだな」

 

 機械の街を歩き剣の生体反応を探りながらコンクリートで出来た地面を踏みしめる、今までとは一風変わった雰囲気の場所を満喫しながら心臓の鼓動を頼りに一歩一歩足を進める、あっという間にワープしてもいいがそれではカーレッジにとって面白くない。

 

「あったな……ここか」

 

 歩き続けて遂に目的の場所に辿り着いた、形状が特殊な上に光っており見たこと無い文字だが一瞬で解読して確認するとムゲンダイ科学研究所とある、これはジルトーがよくアジトとして使用していた名前だ。

 

「ここジルトーの居るところだったのか……まいったな、分かっていたが顔見知り相手、面倒だしつるぎちゃんだけ持っていきたいんだけど」

 

 カーレッジは考えた末に自分が会いに行くのではなく剣を引っ張り出そうと思いつく。

 カーレッジは研究所の頂上に立ち、渦巻く魔力で剣を引き寄せた。

 これまで日常的に幾度となく使ってきた召喚魔法は進化を遂げて遂にここまで出来るようになったのだ。

 

「2年ぶりだな、つるぎちゃん。ずいぶん変わったな」彼の声は懐かしさに震え、かつての冒険の日々を呼び起こした。

 だが、剣は無言だった。彼女の身体は鉄と機械に置き換わり、心臓だけがかろうじて生身の鼓動を刻んでいる。カーレッジの神の力は、彼女が黒影剣であることを一瞬で見抜いたが、その瞳はかつての輝きを失い、冷たく虚空を見つめていた。

 思えば自分も彼女もあれから随分人間からかけ離れた姿となっていることだろう。

 

「あ、ごめん! 俺だよ、カーレッジ・フレイン!」

 

 彼は笑顔で手を振ったが、剣の視線は動かない。

 

 

「元に戻してやろうか? 俺ならできるよ」

 剣は答えず、微かに震える瞳だけが、彼女の心の波紋を物語っていた。

 その時、背後から静かな声が響いた。

 

 

「剣に何か用でしょうか? 話を通すなら、アポイントをお願いします」

 カーレッジが振り返ると、そこには見知らぬ青年が立っていた。眼鏡をかけ、整った服に身を包んだ男──恐らく剣の新たな関係者とされる人物は、冷ややかな視線で続けた。

 

「誰? といってもこっちから自己紹介したほうがいいか、俺はカーレッジ・フレイン! 最近は酷いこと言われてるけどつるぎちゃんと長い付き合いである大親友さ!」

 

「そうですか、剣の大親友? 生憎、剣の友人リストに貴方の名は見当たりません。彼女には86名の友がいますが、貴方はその中にはいない」

 

「それはついさっきこの都市に来たばかりだしさ! 前もこの機械の世界入ろうとしたけどなぜか入れなかったし!」

 

「ああなるほど……セーフティロックが掛けられている人物が存在すると博士が言っていましたが貴方の事でしたか、でしたら大人しくお引き取り下さい……と言葉で通用しない事もこの会話の中で把握しています」

 

 男は光線銃を構えて狙撃してくる、カーレッジは光が通り抜けても痛くないがせっかくなので人差し指で飛んでくる光の筋を跳ね返してみたりして遊んでみる、魔法を抜きにしても自分もここまで強くなったものだ。

 男は眉一つ動かさず静かに眼鏡を直し、淡々と告げた。

 

「自己紹介が遅れました。私はシュウ・ヒストリー、ジルトー博士の助手です。そして……昨年、黒影剣と結婚しました」

「え?」

 

 カーレッジの声は凍りつき、時間が止まったかのように彼の瞳が揺れた。

 思わず飛んできたビームを一本の糸のように掴んで指で絡め捕る、どうやら自分が1人で旅をしている間に剣は結婚していたらしい。

 

「つるぎちゃんが……結婚!?」

 彼の心は混乱の渦に飲み込まれた。10年以上の冒険を共にした剣が、知らぬ間に新たな人生を歩んでいた。その事実に、彼の無垢な自信は初めて砕け散った。

 全然知らなかったし誘われる気配もなく、再開した知り合い達も全く教えてくれなかった、知ってたなら間違いなく自分に教えてくれるという確固たる自信があったぐらいだ。

 

「そんな! ひどいよ! 俺やサビレット、ダイガゼットに何も言わないなんて! 俺たちはあんなに長い付き合いだったのに!」

 

「サビレット様もダイガゼット様も、結婚式に出席していましたよ」

 

 シュウはカーレッジが考えている間に剣を引き離して傍に置くと足元が丸く開いて自動的に下の方まで下がっていく、科学は魔法よりも複雑な工程を挟むことにより長期的に異様な行為を確立出来るらしい、シュウは剣を眺めて命に問題が無いことを確認。

 

「剣……機能が止まっていますね、彼を見たショックで一分タイマーで機能を切ったのですか、ではこれで失礼します」

 

「ちょい待ちシュウくんだっけ? ジルトーの助手なんだって? アイツと話すこと出来ないか?」

 

 完全に下に降りる前にそれを聞いたシュウは小さな端末を出して耳に当てて通信を行う、あれもカーレッジは情報の中で似たようなものを見たことがあるが脳に直接信号を送ったほうが手頃なように感じてしまう。

 

「博士は入り口で待ってるとおっしゃってました」

 

「了解、また後で冒険に誘うから!」

 

 カーレッジはジルトーの鼓動を探そうとするが見つからないのでとりあえず入り口でジュース作ってくつろいでいると、ジルトーが荷物を用意して現れた。しばらく見ない内に随分老け込んだものである。

 

「顔が汚くなったね」

 

「お前は体は成長しているのにあの頃のまま何も変わらん、出会ったときからずっとそうか」

 

 


 

「で、何があったのか説明してくれる?」

 

 客人という立場を理解していないのかソファでまだジュースを飲みながらくつろぐ姿勢でジルトーと話をするカーレッジ、言ったところで話が進まないしこういった振る舞いにも慣れているのでジルトーはそのまま話を続ける。

 

「お前も別れの際に剣が魔法の世界を作った責任の話は覚えているはずだ、その結果奴は……よくあれでまだ生きようとしたものだ」

 

 ジルトーが見せたのは数年前の剣の診断書、数十本ものの骨折に加え片目はぐちゃぐちゃに潰されて臓器の大半は完全に喪失し今も心臓が動いて脳に異常がないのは奇跡の賜物……というような内容だった。

 カーレッジも見ているが現在の剣は大半が科学による義体、再生魔法が完全に『生きている』と判断するにはあまりにも取り換えすぎているがこの体を選んだのは剣自身である。

 

「俺はそんな剣を偶然発見し、科学の力でなんとか生かした」

 

「皮肉抜きで意外だね、あんたって悪を自ら名乗るくらいにはこの世界や俺たちのこと嫌いじゃなかったっけ」

 

「いつの話をしていると言って済むようなものではない事は俺も同じだな、ただ……」

 

 ……

 

「お前……なんだ、その姿は」

 

「……あれ? その声ジルトーさん、かな……ごめん、上手く見えなくて……」

 

「その右目は、体は……一体、何が……」

 

 

「…………言う通り、だったよ」

 

「魔法は……幸せにするだけじゃない、大勢を不幸にもしている……」

 

「ジルトーさんも……僕が、魔法なんか、願ったせいで家族が……」

 

『違う!!!』

 

『オレは……オレはただ、魔法が科学を奪ったことを許せなかっただけだ!!』

 

『お前にこんなことをさせるつもりはなかった!!』

 

 

『最終的な結論で魔法がお前を不幸にしたなら俺が科学で幸福を与える!』

 

『俺がお前がもう傷つかなくていい世界を作ってやる!! その為ならどんなことだってやってやる!!』

 

 ……

 

「ふーん……あのシュウって男は何?」

 

「助手というのは本当だ、数年前から働いている……堅物だが剣のことも何かと気にかけてな、この間結婚した」

 

「それ! それなんだって俺が言いたいのは……ひどくない? 俺長い付き合いだし、皆を支援してた時期に近いんだからさ!」

 

「支援だと? 自分が特別扱いされたいばかりで本質を見ず魔法で安直に解決したの間違いではないか? 現に剣がお前の日誌から真実を公表した時には非難轟々だったはずだ」

 

「え?」

 

 今ジルトーは聞き捨てならないことを言った気がする、気になるあまり持っていたジュースは蒸発してコップは粉微塵に砕けてしまう。

 分かりやすい反応をしたと思いジルトーは話を続ける、昔から余裕綽々みたいな態度をとるが悪の天才科学者からすれば盲目的な分予想外な方向に転ぶことはあっても誘導は楽だ。

 

「俺が言った通りだ、お前が責任を取るつもりはなくても社会や剣はそうですかと言うわけがない、奴からサビレットという記者に頼み情報源と成りうる日誌をコピーさせた、その結果がアレだ……死んだかと思ったのに平然と生きていることには剣も動揺を隠せんだろうと」

 

「なんでって言っても俺イティハーサ……魔法の世界に変えた神様の力を手に入れたし何でも出来るよ、今度は妖術にする? 錬金術ってのも興味あるんだよね」

 

 いつまでも楽しそうに話すカーレッジにジルトーは話を終わらせるためにボタンを押す、押すとカーレッジのソファーが跳ね上がってカーレッジを吹っ飛ばす。

 

「剣はもう旅どころではない、二度とこの地に踏み入れられぬように新たな防衛ラインを開発しなくてはな」

 

 


 

「あっ、またここか」

 

 ふっとばされたカーレッジはまた砂漠に落とされる、あそこまで無理だと言われると余計に誘いたくなるのが彼、剣が今まで見たこと無いほど寡黙で冷たい目線を送っていたことはもう忘れている勢いである。

 

「イティハーサや新たな世界の為! そして猟兵を倒してあるべき場所に帰る為にもつるぎちゃんと壮大な旅をするんだ! ロズムントは死んだままでいいか」

 

 こうしてカーレッジはあれから毎日毎時間、どんな手を使ってでも雨の日も風の日も黒影剣に会いに行った。

 剣はカーレッジと関係ないところで新しい友達を作り、既に冒険とは程遠い生活をしていたのだが彼には届かず毎日のように連れ出そうとしては断られる。

 太陽が沈み月が昇りそれが何回も繰り返される、剣はいつの日にかカーレッジを観ることもなく視線が合う事もない、彼はそれに気づかず。

 気がつけば数十年の歳月が流れていた。剣は新たな仲間と共に穏やかな人生を歩み、思い出を胸に老いて静かに永眠した。

 彼女は二度とカーレッジの旅に同行することはなかった。

 カーレッジは、ただ剣を追い求め時間を空費した。だが、その執着が皮肉にもハジマリアに平穏をもたらした。

 彼が新たな破壊を起こさなかったがゆえに、人々は剣に感謝し彼女を称えた。

「どうしてこうなったんだ……俺はただ、つるぎちゃんと新しい冒険を、最高の物語を一緒に作りたかっただけなのに」

 

 カーレッジは独り荒涼とした砂漠の果てで呟いた。

 もはや彼の声は、かつての輝きを失い虚無の風に溶けていった。

 神の力を手に入れた彼は、永遠に若く、変わらぬ姿で世界を彷徨った。だが、誰も彼を求めず、かつての仲間は去り、新たな友は生まれなかった。カーレッジ・フレインは、ただの伝説──いや、邪悪なる神話として、人々の恐怖に刻まれた。

 やはりカーレッジには剣しかいない。

 

 しばらく見ない間に世界はまた大きく変化した、魔法文明と科学文明は両立されて発展し本当にカーレッジの手助けなど必要なく人々は立て直し想像以上の発展を見せた。

 そしてさらに時は流れ現在、カーレッジは同じことを繰り返そうとして邪教徒とみなされ牢屋に幽閉され厳重に抑えられている、最終的に自分が一番嫌いな生活に逆戻りしてしまった。

 冒険どころか何にをするのも縛られて暇を持て余している最中である。

 

「……冒険は後回しだ、やろうにも俺にはつるぎちゃんがいないとつまらない」

 

 今のカーレッジはなんでも出来る、皆が自分に関わりたくないというのなら自分一人で全てやってみせよう。

 作ろう、理想の冒険譚を。

 カーレッジが主人公で剣がヒロイン、今度は最高完璧で永遠に終わることのない物語を君と一緒に続けよう。

 カーレッジには時間は山ほどある、技術だっていくらでもある。

 どんな技を使ってもどれだけ年月を掛けてでもあの頃の自分に優しかった黒影剣を作り直そう。

 牢獄はいつしか研究室と化し、カーレッジはイティハーサから授かった無限の技術を駆使して、黒影剣の復活を追い求めた。黒魔獣、錬金術、妖術、忍術、改造手術、呪術、医術──ありとあらゆる知識を注ぎ込み、理想の彼女を再創造しようとした。だが、何を試みても、剣の魂は彼の手には戻らなかった。

 絵の具を混ぜすぎれば、濁った黒にしかならない。ハジマリアもまた、カーレッジの狂気と執着によって形を失いすべてを飲み込む漆黒の奈落へと溶け落ちた。

 世界はもはや存在すら曖昧になり、かつての輝きは影も残さず消え去った。

 カーレッジは永遠の若さと神の力を持ちながら、ただ独り、滅びゆく世界の中心に立ち尽くした。

 彼の冒険はついに自らを主人公とする物語すら破壊し、虚無だけを残して終わった。

 

 カーレッジ・フレインは、己の果てなき欲望のために世界を滅ぼした。ハジマリアは、彼の狂気の果てに飲み込まれ、新たな歴史の幕が上がる──だが、それは破滅の序曲にすぎなかった。

 

 




どうにも振り返って見てみると地の文の文章力、表現力に物足りなさを感じたので一度修正した上で試しにgrokに一部分の改訂を頼んでみました。
単語の表現の仕方で言えばやはりAIは普通に書くより上手くなった感じはしますが、普通に自力で修正するかこれからも一通り書いたうえで最後にAIに一部シーンの改訂を頼むかどうしたものかといったところです。
そこで1~3週目ごとに書き方を変えていきます。
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