時空序章~カーレッジ・黒影/たくっちスノーZEROラグナロク~   作:黒影時空

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『ツガイモノ』と『メガイモノ』はきっといつか出てきます。

リメイクで天色歩兵が出てくる予定の作品もあったのですが、その話を書く前にここに移転することになりましたので…


第5試合〜最強無敵の偽物VSメイドウィンの偽物〜

 

「はあ……ツガイモノにメガイモノか、えっまだバリエーションあるの? ちょっと理解追いつかない所から新用語をどかどか詰め込むのやめてくれない? サムライ8でももうちょっと脈略あったよ」

 

 たくっちスノーは黒影の所で見たものをネカフェでミリィに報告する、たくっちスノーは自分をマガイジンにする気だったかもしれないだけで怪しいのに、あんなものが突然出てくる理由も分からない、しかし彼女の顔を見た途端得体のしれない怖さを感じた、どんなに黒影に叩きのめされても挫ける気もしなかった彼にとって初めての体験であった。

 

「甘色歩兵はどっちを見ても他人の気がしなかった……1つ分かるのは黒影は今ノリにノッて飽きの感情はなくなったことぐらいだろうか、ただゼロ・ラグナロクへの関心はなくなっただろうな」

 

 ここまでのゼロ・ラグナロクの連続大被害はまだ序の口だったことかもしれない……戦慄するわけにもいかない、マガイモノの王であり時空監理局副局長として時空の均衡を保たなくてはならない。

 ゼオノイドはともかく葉天文時とデンジャーポールは未だ行方不明、フレアブーストは成分を抜き取る際なかなか面倒なことになりミリィも引くほど研究所がスプラッタ映画じみた光景になったらしい、しばらく血の匂いが鼻に染み付いたとか。

 

「あの爺さんって手術とかも出来るのか? おまけに人じゃないぞあいつ」

 

「人間の大部分の人工臓器とか作ったことあるらしいし……俺の知り合いでバイオテクノロジーに詳しい人が居るんだ、光景こそグロかったけど今は片手で新作のポケモンやってるくらい元気だから心配しないで」

 

「メイドウィンってマジでたくましいな……」

 

 途中で終わらせようという気分は完全に黒影の中で忘れたネタになり、今まで寝てばかりでいたのがマガイジンや複数の世界を作れるようになった楽しさからぶっ通しで研究に励んでいるらしい、こういう時ばかり精を出して監理局の仕事は速攻で切り上げてしまうのもいつもの事だ、たくっちスノーは何の情報も貰っていないのでズルいと思っている。

 

「この時空ネカフェ経営も時空監理局の援助で出来てるんだよな?」

 

「ネカフェだけじゃない、バトルコロシアムを貸した世界不動産やインフラも時空に関することは全て監理局が関わってるということになっている、監理局が時空の全て管理しているってのもあながち間違いじゃないからタチ悪いんだよな……だからこそ黒影もちゃんと監理局局長としてちゃんとしてほしいっつーか……黒影ちゃんと頑張ってるんだから常にそれを意識して……」

 

「どういうことだ黒影!」

 

 たくっちスノー達が新作の漫画片手に雑談をしていると揉めている声がする、こっそり見てみるとその人物はバトルコロシアムでも観客席で見た覚えがあるのでメイドウィンであることは確かだ、時空犯罪者の癖でこっそり盗み聞きを行うとどうやら抗議中らしい。

 

「はじまりの書に従って物語と世界を作るのがメイドウィンの使命であると我々に広めていたはず……ならば何故! 私にはじまりの書に従うなと言うのです!」

 

 たくっちスノーはその話を聞いて驚いた、メイドウィンは世界を管理する上で皆はじまりの書の通りにしているものかと思ったが……黒影は渡しておいてその本の通りにするなと言っているらしい、確かにこれでは何の為のメイドウィンか分からないので苦情が出るのも分かる。

 横で見ていたミリィも驚いているのがこの異質さを表している、はじまりの書に従わないなんて可能なのか? 

 

「ミリィ、あのメイドウィンが管理してる世界ってこんな感じなんだけど何の作品だっけ」

 

「これは確か『龍とカメレオン』だよ、確かポチによると大物漫画家と新人漫画家の身体が入れ替わって……みたいな話だったかな?」

 

 はじまりの書に従わず物語を進めないということは、恐らくあの作品で言えば一生入れ替わり事件も起きず停滞したまま物語が進んでいるようで進んでいないような形になる、ゴッドイベントを避けるためだろうか? そもそも止められるのか? 疑問は尽きない。

 

「とにかく、貴方は間違ったことをしていると判断しました! 私たちメイドウィンが物語や世界を創造するのが役目であることをあのお方に伝えさせてもらいます」

 

 たくっちスノーとミリィが物陰からコソコソしている間に、そのメイドウィンらしき女性はもう怒りながら店から出て行ってしまったようだ、バレないように後ろ姿を確認したり写真を撮ってポチに渡すための資料を作る、たくっちスノーにも言ってないがポチはミリィにお願いをしている。

 このゼロ・ラグナロクを利用してなるべく多くのメイドウィンの写真を手に入れてほしいと。

 

「たくっちスノー、あのお方って誰か分かる??」

 

「あー……もしかしてランキング2位? 監理局で言う自分みたいな奴がいるんだよね、ラグナロクにも参加してないし会ったことないけど」

 

 メイドウィンランキングの上位のうち1位の黒影以外では2位から10位までの者はたくっちスノー程の存在でも顔を見ることもままならない、よほど世界の管理で忙しいのかあるいはそれほどの自由が許されているのか……。

 どんな世界、どんな作品なのかすらわからない、元々メイドウィンランキングが長すぎる上に判別する手段も少ないというのに誰が上で誰が下かも把握しきれてない、ポケモンは現在1000種類以上らしいがその場で全員言えるか? それと同じである。

 

「ああ……なんとなく2位は真面目な人なんだろうなって俺でも分かったよ、1位があの調子だし」

 

「まあなぁ……だって2位の奴が管理してる世界ってよっぽど過酷って話だぞ? あのインフレ合戦を世界として成り立たせているぐらいだからな……」

 

 気がつけば詳細も分からない2位の話になっていた、メイドウィンについてはまだまだ知らなくてはならない事が多いことを実感するミリィだった。

 ミリィはメイドウィンの事をもっと知るために彼らが管理している世界の元になったマンガを探そうとたくっちスノーを呼びかけるが、黒影には盗み聞きしていたことがバレていたらしくよそ見してる間に2人は話をしていた、混ざるわけにもいかないので仕方ないので先に帰り、たくっちスノーにはメールで一言返事をしておいた。

 

『今度の試合は俺が出るから』

 


 

「なんかメール来てるけど」

 

「ゼロ・ラグナロクの話だよ、今度アイツが出るんだって」

 

「ああ例の君の身代わりのこと? よくそんなの作ったね、君にしてはクオリティ高いし」

 

「うるさいな、アンタのせいで自分にも影武者が必要になったんだよ、まあ雑用ばかりさせて悪いとは思ってる」

 

 かつては時空の英雄と最悪の時空犯罪者、今では時空の全てを監理する組織の一番と二番、この二人が普通に店で対談することも昔ではありえない光景だったがたくっちスノーの方から先導して仕事の話をしてくれるのでスムーズにトラブルなく進行する。

 黒影にとって漫画喫茶は変質したはじまりの書を確認できる憩いの場、特に覚醒した今となってはネタの宝庫のようなものだ。

 

「盗み聞きしたのは悪いと思ってるけどさ……さっきのどういうこと? はじまりの書を与えてその本の通りに世界を管理するのがメイドウィンの役目だろ? そりゃ苦情も出るよ、何のためにあいつ雇ったんだ」

 

「別にあの子に限った話じゃないよ、こっちにも物語が進んだらまずい事情があるんだ、ゴッドイベントはまだ未知の領域だからね」

 

「それを研究したり説明すればいいのでは? ……っていうか入れ替わりくらいは許してやれよ、あのマンガは新人と大物が入れ替わっても諦めず対決するのが熱いそうじゃないか、まだミリィに読ませてもらってないけど」

 

「……じゃあさ、俺忙しいから代わりにあの子に会えたら伝えておいてくれる? 深山忍は派手に動いたらまずいってね」

 

 黒影はコーヒーが空になった紙コップを捨てて店から出ていった、自分も同じくらい忙しいんだがと言いそうになったがここ最近の黒影は本当に姿も見せたくないくらいには没頭しているので仕方ない、大量の本を担ぎ殆ど独占する勢いで奪い取っていったのでたくっちスノーもやることがなくなり帰還する。

 

「自分がメイドウィンのお使いとかどうしろと……まぁ、明日ラグナロクの試合だしその時に話せばいいか」

 


 

 そしてゼロ・ラグナロク5戦目、気がつけば早いようでもう半分を切っていた。

 1戦目の時にはメイドウィンにさせてもらえるかもと乗り気だったたくっちスノーも知っていくうちに生殺与奪の権を握られてそうになっていると冷や汗者であるが、今はじっくりミリィを応援することにした、アプデは出来ないが自分の身の事は自分がよく分かっているだろう

 

(……そういえばあいつこの短い間に何かと助けてもらったけど、戦闘能力は分かってないんだよな)

 

 表向きはたくっちスノーが作った身代わりということになっているがどんな奴なのかはさっぱり分かっていない、博士からは自分みたいに変身能力を持っていないことは聞いたが何かとたくっちスノーを助けてくれた彼が何も出来ないとは思えないので少し不安はある、そんなことを考えているうちに試合が始まる、会場は以前の試合までががらんとしていたのが不思議なくらい多種多様のエンターテイナーや特撮ヒーローで溢れていた……が、今回はピンク髪の少女も同時に居た。

 その全てが見覚えあるがすぐに気付く、黒影が仮想世界で作ったキャラクターだろう、見覚えがあるのは明確に元ネタがあるからだ。

 

「ミリィ! 大丈夫なんだろうな!」

 

「俺だってたくっちスノーなんだ! お前ぐらいは活躍しないとダメだってことぐらい分かってるよ!」

 

 ミリィは始まって早々右腕を鞭のようにして相手を牽制、寄せ付けないようにした後に両肩を作り替えてバルカン砲を作り出す。

 

「ブラックガトリング!」

 

 撃ち出されているのは自分の成分、あの要領で弾として打ち出せばすぐに世界を成分で染められるとたくっちスノーも参考になる。

 どうやらミリィは特定の存在に変身出来ないとはいったがマガイモノ成分を表面的に作り替えて自在に技を使えるらしい、バイクに乗る仮面のヒーローっぽく言えば技の偽物と力の本物ということだ。

 

(なるほど……成分を広げて盾にするブラックシールドに成分を武器にするブラックアタック、成分そのものを作り変えるのは自分も試してなかったな、成分自体を武器にするとはよっぽど高度な訓練をしたとみた!)

 

 マガイモノ成分は普通の生物が触れれば溶解するほどの力を持っている、変身を使わなくても攻撃にも防御にも転用出来る事を再確認して改めてマガイモノという種族の恐ろしさを感じ取る。

 問題はミリィの対戦相手だが……監理局に入ってからメイドウィン達の事は大体把握していたつもりだったが見覚えがない、金髪で緑色のパーカーを被った少女、情報を集めてきたミリィでもあんな人物は見たことないのだ。

 

(誰だ……? デンジャーポールのように新人のようにも見えない、いくら黒影が大雑把でも意図的にメイドウィンじゃない奴を連れていくなんてミスはしないはずだ……まさか、たくっちスノーの言っていた……)

 

 まだ一つ可能性があった……次世代型のたくっちスノーを継ぐ悪役の天色歩兵、奴が作り出したツガイモノやメガイモノの試用テスト、この事を知っているのは自分だけなので告発も出来ないとよく考えられている。

 

「アテネはどっちでもないよ」

 

「うおっ!?」

 

 まるで考えを読んでいたかのように黒影が話かけてくる、黒影も1万の技を持っていると言うがそれとは別でテレパシー能力でも持っているんじゃないかと邪推してしまう。

 これまでずっと寝ていたのとは真逆で徹夜で脳をフル稼働させていたのか目はバキバキに冴えているものの不健康さは感じられないエネルギッシュな顔をしている。

 

「あのメイドウィン……アテネを知らないのも無理はないよ、経歴としては俺から見ても特殊なタイプでね……あいつの後釜だ」

 

「後釜? そんなのよくある……あれ? アテネって奴知ってるぞ?」

 

 メイドウィンではないがどこかで聞き覚えがあるので頑張って思い出してみると候補が一つ出てきた。

 実はメイドウィンの中にはゲームやアニメ作品ではなく自ら世界を作成している者も僅かながら存在しており、他所ではその姿は動画配信者として世間に広まっている、そして自ら作るほどの技量があるためか戦闘力などは通常よりも上回っている。

 たくっちスノーがボディの参考にしたのも2人の動画配信者であるメイドウィン、天色歩兵もモデルはそうだろう、そしてアテネといえば……参加者の1人だったアベルというメイドウィンの動画の相方にそんな名前の女の子が居たではないか。

 

「要するにアベルからメイドウィンの権限を継いだのがその子ってわけね……変えたなら監理局に申請とかしてほしいんだけど、あの人そこを怠るような性格じゃなかっただろ?」

 

「だから言ったでしょ? 特殊なタイプって」

 

 どんな存在かは分かったものの必殺技は継承されて配信者由来ということは戦闘力も高い、今でこそ圧倒しているがどこからでも逆転される可能性はあるのだ。

 

「ミリィ! あいつ特別なメイドウィンだ気をつけろ!」

 

「そんなもの百も承知だ! 俺だってこの能力だけで勝てるとは思ってないよ!」

 

 ミリィは腹の中に手を突っ込んで小さくて平べったいものを作り出して地面に貼ると、爆発したり煙が出る。

 まるでシールのように小さくカラフルなそれは貼り付けられるだけで効力を発揮する。

 

「SEAL! 貼るだけで様々な効果を引き出す博士お手性の特別品だ!」

 

「……道具の持込ってルール上ありなのか? 黒影」

 

「まあ勝敗に関係しないからねあの程度、それでいったらこれまでもアウトな事例何個かあったよね?」

 

 そしてもう1つ、ミリィは特別な物を持っているが決して見られてはいけない、黒影はもちろんこれだけはたくっちスノーにも……黒影にとってかなり都合の悪い代物になるかもしれないとんでもない爆弾を抱えている。

 

(……博士もまたとんでもない物を作ったものだな)

 

 


 

 時は遡り黒影とたくっちスノーが話していた時、ミリィは一度研究所に戻ってドクター・ジルトーにこれまでの件を報告していた。

 天色歩兵の事を説明するとジルトーは急いで解析をしながらも頭を抱えていた、たくっちスノーや松山ともまた異なる成分で構成された彼女、更にペットの犬やきぐるみも性質がバラバラときたものだから信じられない。

 

「奴が人工生命体を作ったのはこれで4度目……ハカイモノからはじまりお前のようなマガイモノ、そしてツガイモノとメガイモノか」

 

「どんどん奴は厄介な方向に舵を切っている……たくっちスノーは問題ないけどこのまま好き勝手させたらまずいだろ」

 

「だかワシも奴とは長い付き合い……対策手段くらいは考えておる」

 

 ジルトーは厳重に塞がれていた金庫の鍵を開けて七色に輝く合金を取り出す、鉱石はカプセルの中で密封されており手で触れることも危ない代物なのが分かる。

 眩い光が全体を埋め尽くし、米粒のような大きさにも関わらずとてつもないほどの禍々しさを感じる。

 いかにも悪の天才科学者がエネルギー源にしそうな合金だ。

 

「博士、これヤバい石とかなんですか? 例えば光を浴びたらアレみたいな……」

 

「安心しろ、直接触れても人体に害はない……ただし使い方を間違えると破滅を安易に招くのはそういった類と変わらんがな」

 

 そう言うとジルトーは慎重にその石を取り出し、ミリィの中に埋め込む、今のところ自分の身体に異常はなく何かしら強くなった感じもしない、だがあんなに厳重に隔離していただけに怖さが勝つ、ただのエネルギー源ということでもあるまい。

 

「説明が欲しいという顔をしているな……シャドー・メイドウィン・黒影、本名カーレッジ・フレイン……時空という空間で数多くの物語を束ねる存在、奴を止めるには奴をもっと知らねばならん」

 

「奴の言葉を借りるならこの時空という話の主人公で全てを解決させる存在……とは言うがこのままでは全てのお話は余計に酷いことになる……俺もそれで生まれたんだもんな」

 

「ワシらこれまで直接カーレッジを潰す方も考えていたが、それ同じくらい別の方法も模索した……例えば奴よりもよっぽど主人公に相応しいやつを作るとかな」

 

 黒影を100年以上前から知る人間は彼が主人公に相応しくないと理解している、しかしそれで安易に黒影を消してしまえば都合が悪いからと数多の主人公キャラを殺してきた昔の彼と変わらない、残される時空の為に素晴らしい英雄が必要になってくる、この戦いは残された主人公だけで解決させるには時間がかかる、後始末は早急に終わらせてこそだ。

 それにはジルトーが作り出したこの虹色の鉱石『スター』が鍵を握っている。

 

「スターはこの時空に流れメイドウィンから生まれるエネルギーの塊、そしてカーレッジのような主人公を目指す者に最も必要とされるもの……それは」

 

「『光』だ」

 

 


 

 ミリィとアテネの戦いは熾烈を極めていた、スターの実験も兼ねていたこの戦い、それに加えてミリィにとっては本格的な初戦闘。

 相手は死なないとはいえ加減が分からないので能力を片っ端から

 

(でもあの石が埋め込まれた時から身体が軽い気がするな……!)

 

 ミリィのマガイモノとしての基本である、ブラックアタック、その真価はこの鉱石によってより高度な性質の成分へと作り変わったことにより硬度も精密度も並外れ、盾で攻撃を防ぎながら相手の隙をついて攻撃する、スターが身体をみなぎらせて創作で言うところの主人公補正か、あるいはただのプラシーボ効果か……ミリィは想像するだけでなんでも出来る気がしてきた、今まで以上の自分になれる、やりたいことが全て出来るまさしくカーレッジの力だ。

 

「ブラックシールド! からのブラックマガム!」

 

 使いたいと思った新しい必殺技もすぐに使える、成分をガムのように粘着させてアテネを引っ張って振り回すことも出来る。

 圧倒している……しているが妙だとミリィでも分かる。

 あまりにも差がありすぎる、仮にも配信者のメイドウィンならこの状態からでも少し本気を出せばデータ上は突破出来るはずだ、たくっちスノーのモデルになった2人も戦闘力でいえば際立つものがある。

 そうならない理由は一つ……アテネは何かを狙っているか戦おうとしていない。

 このまま攻め続けていいのだろうか? ひとたび疑問や不安が脳裏に浮かぶと解決するまで一生ついて回り、手を止めさせる。

 

「……ミリィのやつ、アテネがあまり手を出してこないんで警戒し始めたな」

 

 たくっちスノーもどうアドバイスすればいいか悩んでいる所にジルトーから電話がかかってくる。

 

「どうじゃアイツの様子は」

 

「あまりにも都合良く流れが進みすぎて俺もミリィも逆に怪しんでるところだ、ミリィ自体は強いことは良くわかってるんだが……あいつなかなかやるな?」

 

「ふむ……スターが上手く作用しているのは分かる、元々強い方ではあるがミリィに貸して正解じゃったな」

 

「スター……爺さんまたなんか作ったのか」

 

「ほっほっほ、自慢のとっておきをな」

 

 ジルトーは作った経緯や目的などは話さずスターの事をたくっちスノーに説明した、まだ黒影と接点のある彼に話したら何が起こるかわからない、ジルトーにとってはまだたくっちスノーは信用しきれない相手だ、たくっちスノーも何かを隠していることは分かるが深入り

 

「つまり博士が作ったなんか凄い超合金? 何がどう凄いんだ? ただのドーピングじゃないんだ……?」

 

「夢のような技術……本来ワシのような科学者がこんな突拍子もない言い方をしてはならんのだが……ワシが作り出したスターの理想形、それは事象をその場で改変しどんな願いでも叶えられる物体」

 

「は?」

 

 たくっちスノーは一瞬困惑したが、確かにジルトーが言う通り科学者がこんな絵空事で非科学的な物を言うのはてんでおかしな話だ、だが口ぶりからして大真面目にこんな事を目指しているのだ、馬鹿らしくもあるがロマンを感じていた。

 

「願いを叶える道具って、あの他世界で有名なの挙げるとドラゴンボールとかアラジンの魔法のランプみたいな……叶えて欲しい願いを言うだけでなんても!?」

 

「ああ、それでいて猿の手のように危険でデメリットがあるわけでもない、ドラゴンボールのように神の領域を超えた力も不可能ではないぞ」

 

 科学者がそんなものを作るのは科学以外にも色んな物を冒涜しているのではないだろうか、しかしジルトーは科学者であると同時に一人のロマンチスト、その2つを両立している、作りたいと思えばつい実行してしまうのだ、たくっちスノーにもマガイモノ作りで覚えがある、物作りをする人間は大抵ロマンチストの傾向がある。

 

「現状ミリィの中にあるスターもそれらと同じで願いをなんでも叶えられる、ただしそれはミリィ自身が強く願わないとダメなんじゃ……つまりは」

 

「ミリィがスターを自分のために使わないといけないって訳か?」

 

「そうじゃ、とにかく他人のために働こうとする真面目なアイツには厳しいこと……ミリィにはそれを使いこなす器になってもらいたいと思ってる、成長につながるからな」

 

「それって親バカだろ?」

 

「はっはっは、そうかもしれんのう」

 

 ジルトーはたくっちスノーとの通信を一旦切り、ミリィの様子を伺う。

 

(スターよ、お前は本当に主人公に相応しい存在なのか? ミリィを通して成長しろ、お主は第5の人工生命体……ネガイモノとなるのじゃ!)

 

 しかし黒影もまた狂った主人公でありながら詰めは甘くない、そして時空は彼のための物語であり、誰かにとっての都合が良いを決して認めない。

 スターという自身の地位を揺るがすもの、今の彼には想像だにしなくてもそれがどんな変化を引き起こすか……。

 ミリィとアテネの戦いは現在もミリィが優勢だが、手の内が見えてこないアテネが不気味で迂闊に動けず技の勢いは落ちていく一方だ。

 

「ミリィ! 本気出さないならそれでいいだろ! さっさとお前の必殺技なり作ってやっつけちまえよ!」

 

「簡単に言うなよぉ! 俺だってやれるものならやりたいけどさ!」

 

 一体何を考えているのか分からない、たくっちスノーも指示出来ないしアテネもどんなメイドウィンか分からない……不本意だが黒影を揺さぶって情報を掘り出すことにした、気付かれないようにミリィにメールを通して『情報を集めるから時間を稼げ』と伝える、気軽に言ってくれるなぁと思ったが

 

(……時間稼げと言われても本当に動かないんだよなコイツ、不気味すぎる)

 

 アテネは周囲を爆発して牽制してくるが直接狙ってくることはあまりない、何の作戦か本気じゃないのか、あるいは奇策を狙っているのか。

 ……そもそもアテネの様子もらしくない、ミリィはメイドウィン達の情報を得るためにポチの力を借りて一通り管理している世界由来の作品は見せてもらった、もちろんアベルの動画もだ。

 動画の中の彼女は話を盛り上げる相方として明るくツッコミ気質でコントのように話を繋げていく人物だったが、このコロシアムで初めて対面した時の彼女からは闇しか見えない、トークどころか放送事故物で動画に出しちゃいけない雰囲気出している、虚無のような目は見ているだけで冷や汗ものだ。

 

(早く情報集めてくれたくっちスノー……!)

 


 

「黒影、試合を有利にしたいから2つ質問ある、アンタには聞く権利しかない」

 

「正直に言うね君、ならこの場合俺もたくっちスノーに1つ条件を求めるべきかな?」

 

「……あー分かったよ、黒影とも長い付き合いだ、何を求めてるのかなんて分かる……マガイジンの研究を自分にやれって言うんでしょ、むしろ知りたいところだ、糧にするためにな!」

 

「やれっていうか実験台だね、これから先どんな物語になるかも分からないからさ!」

 

 勝つためなら仕方ない、今の自分の立場的に非道な実験は行いたくないが何かあれば責任おっ被せられるのは分かっているがそもそもマガイモノの方も作れるのは自分しかいない……あわよくば自分のようなマガイモノメイカーも増やすとしよう。

 マガイモノ

 

「とりあえず自分の条件は呑む、だから質問に答えてくれよ」

 

「ああもちろん、何を聞きたいの?」

 

 この質問は単にアテネを倒すだけではなく今後の残り半分の試合にも響いてくる……中でも自分は三連戦の為軽はずみ無ことは聞けない上、しかし黒影といえど素直に自分が不利になることを話すことはないだろう、暇つぶし感覚とはいえちゃんとした勝負であり負けに繋がるようなことは何一つあってはいけないと思っているから。

 

「まず1つ目にアベルからアテネに引き継いだ際の特殊な状況の説明、2つ目は……そうだな、黒影はどうやって9人のメイドウィンをスカウトした? 何かしらのメリットの為に参加しているはずだ、フレアブーストも葉天文寺もアンタに従ってるようには見えなかったからな」

 

「お、なかなか鋭いね! 1つ目と2つ目はほぼ繋がってるからまとめて答えるよ、2つ目から……どうやってメイドウィン9人を見つけてきたのかだけどもちろん相応のメリットを用意したよ、例えば……願いを叶えるとか」

 

「えっ」

 

 たくっちスノーも一緒になって聞いていたミリィも驚いた、普通に考えて時空という空間全ての創造主でありメイドウィンのトップなら何が出来てもおかしくないが今ミリィは同じ性質を抱えたスターを詰め込んでいるので似たようなものを感じざるを得ない、メイドウィン達の事情を知るためにもたくっちスノーもカマかけてみることにした。

 

「それってドラゴンボールみたいな?」

 

「あの程度はメイドウィンからしたらまだまだ石ころみたいな物だよ、なんか要望があったから応えようと思って」

 

「あいつらメイドウィンが何を叶えたいとかは?」

 

「俺もそこまでは聞いてないね、ちょっとした口約束みたいなものだし」

 

 それは本当だろう、もし知っていて参加させたなら葉天文寺の戦いの際食事メニューの不満を出した時にあそこまで面倒な素振りを見せる必要がない、葉天文寺が参加した理由は間違いなく食事改善の願いを叶えてもらうためだろうし、ゼオノイドがバックれたのは黒影では叶えてくれないと見切りをつけたのだろうか? だがそれでも問題はある、フレアブーストやデンジャーポールに見当がつかない、前者はまた完治した際に話を聞けばいいがとても願いを求めて参加しているようにも見えない。

 

「実際それ何人来たの?」

 

「ぴったり9人だけどなんで?」

 

「いやいやいや、そうなると逆にメリットがデカすぎるだろ……タイマン組むだけで大なり小なり望みが叶うなら誰だって参加するでしょ、多くて数百人来ても不思議じゃないだろ、どんな願いでも叶うんだぞ? メイドウィン以上の範疇で!」

 

 なんでもありなら逆に食いつかない方がおかしい、メイドウィン達は各自自分の世界で好きに出来るとはいえ知能のある生き物である以上叶えたいものの一つや二つはある。

 たくっちスノーがメイドウィンになれるチャンスとして始まった企画だ、確かにメイドウィン達も何かしらのチャンスがなければ不平であるのでこの絵は分かる、それにしてはメイドウィン達は無関心すぎるのだ、何より……叶えてもらうはずだったメイドウィン達が試合の後に次々と被害が出ている、これでは他の参加者達も一斉ポイコットしそうなものだが。

 

「メイドウィンって思ったより欲がないのか?」

 

 たくっちスノーはこの言葉で話を切り上げているが頭の中では絶対にそんなことはない、真の意図があると踏んで記憶に留めておくことにした、曖昧なところは多いものの間違いなく有意義な情報を掴めたことだろう。

 

「じゃあもうもう片方の答えを聞かせてくれ、これがそのメイドウィンの願いにも関することなんだろ?」

 

「いやぁそれがさぁ……君信じられる? 俺としてもちょっとよく分かんないんだけど」

 

 黒影はいつになく困った様子で答えようとする、普段は何も考えてなかったり適当なだけにこの様子は珍しい、よほど特別な形なんだろうと思ってると……。

 

「なんか消滅したんだよ、アベル」

 

「えっ?」

 

 消滅、これは本当に理解出来ない単語が出てきた。

 不老不死のメイドウィンでも特定の条件下では死んでしまう可能性があると聞いたことはあるがそれでもないらしい、この形で聞いておいて良かったと心から思った、別の状況だったらはぐらかされて終わっていたかもしれないから、黒影も焦った顔をしているためこればかりは正真正銘想定外らしい。

 

「消滅って何? ちゃんと説明しろよ」

 

「まあそうだろうね、話す前にミリィが倒されるかもしれないけど?」

 

「お……俺のことは心配するなたくっちスノー! まだ俺だって本気出してもいないから! というか消滅って何むっちゃ気になる!!」

 

「らしいけど」

 

「……たくっちスノーもいずれ知るべきことかなとは思ってたんだよ、でもまだ原理もよくわかんなくてさ」

 

 観念したように黒影はアベルの世界で起きたことを話す、消滅……黒影はこれを【退場】と名付けており、物語から外れた存在はメイドウィンに限らずキャラクターも舞台から外れる……つまり退場してしまうことがあるという、要するにオブリビオンとしての完全な消滅、基本的に彼らは死んでも歴史から再構築されるが宿敵によって打倒されることがある、イティハーサも運が悪ければ【退場】の危機だったがなんとか生きていたおかげで現在の物語がある。

 黒影が関与したものではない為ただ死んだり消えたりするのとはわけが違う、【退場】としても特殊らしい。

 

「それで結局なんでそんなことになったのかの説明をだな!」

 

「ああそうだね……なんでもタブーだったみたい、アテネをメイドウィンにした際自分は降りようとしなかった、というよりはそのまま続けようとしたんだね、俺その申請を受け取ったから分かる」

 

「ああ……2人一緒にメイドウィンをやりたかったってわけね、誰でも思いつきそうだけどダメなのか?」

 

「どうやらダメみたいだ、実際あの後俺も同じこと考えて双子に1つの世界を任せたことはあるけど片方が消えてなくなった、記憶自体はあるけどまるで存在が消えたみたいに……全ての事例で前例者が消滅した」

 

「マジで!?」

 

 黒影は証拠として資料を見せる、それはメイドウィンの過去の所属データだがこの全部が複数人でメイドウィンになろうとして消滅した前任者らしい、それは双子はもちろん親子だったり仲のいいコンビだったりする、その内の1人が消えてなくなり残される方のショックは想像に難くない。

 消える理由ももちろん調査していた、仮想実験も繰り返してみたが消える方はエネルギーとして分解されてしまうという判断に落ち着いた。

 

「監理する世界からすればメイドウィンってただのバッテリーだからね、古いものはリサイクルされるのはどの業界でも同じみたいだ」

 

 それからのことは言わずともわかる、アテネは黒影に頼み込んだのだ……アベルを生き返らせることを条件にゼロ・ラグナロクに参加したのだ、動画内ではツンケンしているがやはり心に来るものがあったのだろう……事情を知ってみると魂が抜けていたような顔にも実感がある、こんな恐ろしい仕様があるなんて……。知れば知るほどメイドウィンに対する幻想が

 

(いやまて、おかしい……おかしいだろ!?)

 

 だが戦っているミリィは納得出来なかった、メイドウィン達の仕様に関しては本当かもしれないしアベルを直接黒影が始末する理由もないのは事故だったことは事実だろう……しかしこの事故は未然に防げたのではないか? 

 何人分も資料があり仮想実験もした、ならば2人同時にメイドウィンになってはならないくらいの注意喚起はしていたのか? すぐに分かるのでは? そもそも他の人をメイドウィンにする上で何かしらのトラブルの種は想定してないのに勧めたのか? 

 いくらアベルという人物が仮に動画内のようなおバカキャラだとしても自分のエゴで禁則事項を破るほどリテラシーの無い人間ではないだろう。

 そしてこんな事があって……黒影は本当に生き返らせてくれるのか、そもそも黒影に出来ることなのか? 

 ミリィは情報を得るどころか余計に怖さを感じていた、この辺りはたくっちスノーと比べまだ精神年齢が低い弊害だろう。

 ……もしスターが実用化したら自分が彼女の願いを叶えられるのだろうか? 死人を生き返らせる、呼び戻すというのは奇しくも黒影、いやカーレッジが長年躓いている課題だ。

 

(どうすればいい? これが俺だけの試合ならすぐ終わらせてスターを使いたいけど、これはたくっちスノーがメイドウィンになれるかどうかの数合わせ試合……! 俺一人が勝手に動いちゃいけない、でももし試合後にアテネまで消えたら間に合わなくなるかもしれない……)

 

(まずいな……やっぱアイツまだ子供だな、勉強こそ上手くやってるがまだ本番慣れしていない、たくっちスノーの身代わりとして社会勉強にはなるが精神的にまだ未熟……焦りが隠しきれてない)

 

 たくっちスノーはピンチを感じ取ってジルトーに電話をかける、本来こういった手助けは野暮であることは分かっているが巻き込ませた以上余計なものまで背負わせたくないという情が勝っていた。

 

「爺さん、今回の仕事はミリィには刺激的すぎる……頭冷やさないとまずいことになるぞ」

 

「うむ……善意が暴走したときほど厄介なことはない、元々時空の経験を積ませるためにお前さんの所に送ったが暴走した奴は手がつけられん、お主のメイドウィンになる戦いを裏切ることになるが……」

 

「これまでの情報会得を考えれば合格点って後で伝えておくさ! 今はミリィと……余裕が出来ればアテネの事で話がしたいしな」

 

「よし、ワシもお前とミリィを会わせた責任がある、前もって話していたとはいえドッペルゲンガーと遭遇させただけでも相当なプレッシャーがかかる……やむを得ん、替え玉作戦を実行するぞ!」

 

「か……替え玉作戦!?」

 

 なんとジルトーは本来たくっちスノーが遅刻などで来れなくなった時を想定しておりそっくりのメカを開発していたらしい、名前はそのまんま『メカっちスノー』。

 たくっちスノーからすればこれで偽物の偽物が2人目出し勝手にそんなもの作られていたのは若干引いたが背に腹は代えられないので隙を見てミリィとメカっちスノーを入れ替えて戦闘を続行させるつもりらしく、折角なのでそれに乗ることにしたが……。

 

「問題はそれでミリィが納得するかなんだよ、あいつ体はピンチなのに無理して大丈夫ですとか言って体ぶっ壊すような努力の怪物だ」

 

「スターのデータは取れたから一旦取り除く、後は解明に協力してくれと言っておく」

 

「それだと代わりに疑問を持つだろ……と、とりあえずメカっちスノーとやらを手配してくれ、脱出に関してはこっちでやっておくから」

 

 たくっちスノーはジルトーとの通話を切りマガフォンを操作する、マガフォンの改善したくてついつい改良していたら余計なものまで付けてしまった、研究者の性である。

 その内の1つが簡易系一方通行型ワープ装置、住所さえ知ってれば好きな所に一方的に行けるが戻れない、身も蓋もない言い方をするとどこでもドアの劣化版である。

 あの転移砲は大きくて露骨すぎる上に二度も同じ手は使えないと判断して用意したのがこの機能。

 ひとまず時空監理局に落としてジルトーに合流してもらい、理由を話してもらおうと作戦を立てる。

 今回はアテネが自身の能力で戦闘時に爆発を繰り返して煙まみれの為、ちょっと落とし穴を作る感覚でいけば上手くいくだろう。

 

「よし今ぐらいか」

 

 たくっちスノーが操作すると穴の中に一人墜ちた感覚がする、レーダー機能も付いているため間違いない。

 後はメカっちスノーを手配する……はずがおかしい、煙の中の人影はまだ動いている、よーく見てみると……。

 

「げっ!!」

 

 落としたはずのミリィ、どうやら間違えてアテネの方を別次元に落としてしまったらしい。

 コレに関しては完全にミスなので黒影にバレたらとんでもないことなる……たくっちスノーはマガフォンのさらに別の機能で10秒間だけ時を止めてマガイモノ成分で咄嗟にアテネのガワを作ることで5分間の制限時間をなくして行動可能、代わりに戦闘に参加する……これが後にたくっちスノーの象徴であり負ミリィからの逆輸入技『ブラックイリュージョン』の始まりだった。

 

(いや咄嗟に変身したけどどうすんだよコレ! これ俺が負ければいいのか!? でもあんま露骨だとこいつにバレちまう……)

 

 アテネになるまではいいがこんな事誰にも想定しているわけがないので完全にテンパっている段階、そもそもアテネってどんな攻撃すればいいか分からないままだし、マガイモノと戦ったこともないのでどこまでやればKO判定かも分からない、たくっちスノーもまたミリィほとではないが焦りが出てくる。

 

(ええいこうなりゃヤケだ! さりげない流れでスターを奪い取ってそのまま……いや待て急にスター奪おうとしたら怪しまれ……つーかどこ!? 成分のどこに隠した!? やりすぎて壊すかもしれないよな!? デリケートなもの!? つーか触って大丈夫!?)

 

「おいたくっちスノー、脳内うるさすぎ……バレバレだから」

 

「えっ」

 

 自分思考盗聴されすぎではないか? ミリィもテレパシーぐらい使えそうだが後々聞いてみると普通に口に出てたらしい、まあなにはともかく事情を説明して戦うフリをすることにした、茶番劇なら慣れっこなので問題はない。

 

「もうしばらく戦った後に自分がやられた感じになる、その後すぐに帰ってスターを博士に返してこい」

 

「……アテネのこと、なんとかならないかな? 俺やっぱり全時空皆に幸せになって欲しいよ」

 

「やっぱりか、アイツに同情したな? 気持ちは分かるけど今は落ち着け、先を急ぎすぎるな」

 

 なにも今じゃないと解決出来ないことではない、後回しにするわけではないがタスク管理は時空で生きていく上では重要なことだ、まず最初に何が出来るかを考えて後から出来る物は少しずつ、こうしてパズルのように連鎖的に解決してすっきりさせていくと説いた。

 スターもまだ未完成の為願いを叶えるには無理がある可能性がある、そもそも願いを叶える実験はまだ行ってないとか。

 

「……分かった、その……お前には悪いんだけどさ、俺を負かしてくれないか?」

 

「それってつまり……アテネの願いを叶えさせるのか」

 

「……実はさ、ちょっとだけ打ち明けるけど……博士も俺もなんというか黒影の事をよく思っていない、本当に勝ったらメイドウィン達の望みを叶えてくれるかも怪しい、けどさ……信じたい、俺はまだ何も知らないからほんの少しでも信じてみたい気持ちがあるんだ」 

 

「……そうだな、自分もこういう時の黒影なら約束を守らないこともない、悪意がなかったし事故みたいなもんだからな」

 

 これは2人のたくっちスノーが願った黒影の信用、どんなに教えられてもどんなにだらしないところを見て過ごしても、彼の中にある善性とヒーロー気質を信じたかった。

 2人の思いは一致して、アテネになりすましたたくっちスノーの全力の爆破攻撃でミリィが壁までふっ飛ばされて松山から教わったガチの死んだフリによって完璧な逆転勝利を演じる、こうして初めてゼロ・ラグナロクにおけるマトモな決着を迎えた。

 

「あっやっべ……スター壊れてない?」

 

「あっうん、お腹は大丈夫っぽい、急いで博士の所に帰る」

 

「自分も急いで爺さんに連絡して急いでミスの事報告しないとな……exeとローレンに後始末も頼まないと」

 

 たくっちスノーとミリィは大急ぎでコロシアムから撤退、大目立ちしないように走って鍵を閉める。

 ローレンがまかないで作ってくれた天ぷらそばを食べた後にジルトーのムゲンダイ研究所(表向き)に足を運ぶ。

 

 

 

「ふむ……貴様、肝心なところで失敗した時はどうするかと思ったが」

 

「すみません……」

 

 反省会も兼ねながらミリィはジルトーにスターを返却する、傷1つなく問題はないどころか少し大きくなって輝きが増しており再び厳重にカプセルの中に入れる。

 

「博士、その……アテネの件なんだけど」

 

「まあお前さんの気持ちもわかる、何もかも1人で全部一気に背負うことはない……ワシもやれることはしよう」

 

「あ、そういえば今日exe見てないけど知らない?」

 

「……ああその話じゃがこっちに来い、ミリィは予定通り使用後のスターのデータを調べてくれんかの」

 

「了解!」

 

 研究室の留守番をミリィに任せ、たくっちスノーとジルトーは金庫のような重い扉の中に入る。

 

「……それでここまで来るってそんなやばい話なの? 監視カメラとかないし」

 

「実は例の奴が黒影の言ったことを怪しんでな、望みを叶えるか裏取りを取っていたんじゃ」

 

「へー、大人しいexeがそんな仕事なんて珍しいな、それで結果は?」

 

「ゼオノイド、葉天文寺、デンジャーポール、フレアブースト、そして今回から来たアテネ……こいつら全員黒影のやり方に不満を持って集まった連中じゃ、そして……黒影を怪しんでいた連中でもある」

 

「まあ葉天文寺が実際そうだったし納得は出来る、だがエビデンスは?」

 

「忘れとらんか、ワシのラボでマガイジンを意地で直しているんじゃぞ」

 

「……そうか、フレアブーストから直接聞いたのか」

 

 フレアブーストは黙る事でもないので正直に白状したらしい、全員黒影の振る舞いに嫌気がさして文句の1つでも言ってやろうとした際にスカウトされたという、望みを叶える為といった黒影の話とは違うではないか……メイドウィンたちの失踪もこれを悟られない為? そう思って望みの話について聞いてみると、確かに叶えてくれるなら叶えてもらいたいが、何も聞いてないという。

 それでは……。

 

「メイドウィン9人の共通点って……まさか黒影にとって邪魔なメイドウィン? でも黒影がそんなことする理由は分かんないだろ」

 

「邪魔だけでいい理由など、昔から反対意見を力で封殺してきたんじゃ」

 

「けどよ……」

 

 たくっちスノーは思い出した、アテネは落された後どうなったのだろうか、黒影を信じたい為にアテネを勝たせたが、この様子では黒影も何がしたいのかよく分からない段階にある。

 自分たちの判断は正しかったのか? そう思う最中突如警報が鳴り、ミリィから連絡が入る。

 なんと……アテネと一緒にスターが突如反応を消したのだ、まるであるべき所に帰るように光を追って、消えていった。

 同じ頃、甘色歩兵は黒影から存在を隠蔽されて監禁されていたが突如として開放され姿を消す。

 

「女の顔に男の人格……? 誰?」

 

「オレは……オレの名はスターアベネス、ネガイモノの王だ」

 

 まだ誰も知らない5番目の人工生命体『ネガイモノ』の手によって。




スターアベネスも前回のようにゆっくり実況者が元ネタですが中身は大きく異なりました。
『スターアイランド』と『アベル(+アテネ)』でスターアベネス、リメイク前はアテネがアベルを作り直そうとした結果生まれたなり損ないで『ベル』と『テネ』の二重人格でしたがリメイク後はこれまた別の設定となっております。
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