時空序章~カーレッジ・黒影/たくっちスノーZEROラグナロク~   作:黒影時空

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2週目である『メイドウィンワールド編』の総集編です。


ここは夢の世界、メイドウィンワールド!

 カーレッジが黒影剣を作り直すべく様々な手段を用いてから、そしてハジマリアがその余波で滅んでから三百年が経過。

 

「これで5万体の失敗作だな」

 

「いちいち数えるな、イティハーサ」

 

 カーレッジの神としての技術はめきめきと上昇し取り込んだはずのイティハーサの声が聞こえるどころか会話出来るようになっていた、人間は孤独になると精神に異常が起こるとは言うがそれの応用なのかもしれない。

 これで朝昼晩も年月も把握出来ているのだから文句は言えないが……。

 

「いつまで黒影剣を作ることに執着している、そこまで失敗して……」

 

「うるさいな、あんなのつるぎちゃんなんかじゃない、つるぎちゃんはもっと優しくて俺のやること凄い凄いと褒めてくれて、ずっと俺のそばにいるようなそんな奴なんだ」

 

「後ろを振り返ってみろ」

 

「後ろ?」

 

 カーレッジはイティハーサに言われて後ろを向き、もともと檻だった研究室から数百年ぶりに外の景色を眺めるつもりだった。

 鉄格子の先には外なんて無かった、見渡す限り真っ黒な闇しか見えない。

 

「何も見えない?」

 

「ハジマリアは滅んだ、空も陸も生命も何もかもが消え去り骸の海のみが残った」

 

「これが骸の海? 真っ黒な物しか見えないけど」

 

「黒い物と認識している限り骸の海はお前の視界の中でそうあり続ける」

 

「ふーん……しかしいつの間にかこんな風になっていたなんて」

 

 今になって見れば眼中にない連中だったとはいえ、いつの間にか生き物と呼べるものすら誰一人いなくなっていた。

 剣と冒険するはずが冒険の舞台がとっくに失われていたとは想像だにしなかった、これでは剣を作るどころではない。

 

「こいつは驚いた、旅の舞台の方も消えてなくなっていたのか」

 

「どうする?」

 

「どうするってそりゃ作るに決まってるでしょ、俺とお前の力があるんだから」

 

 とは言えどこれまでの世界改変は既に存在していたものを上から貼り付けるように改変したもの、イティハーサの能力自体既に存在しているものからかき集めてオリジナルのように見えるだけで無から有を作り出す力はお互い持ち合わせていない。

 頭の中にある曖昧な記憶の中から世界という壮大なものを作り出すのは無理があった、足元から世界を作ろうとしても出来るのは自分の目に見える周りだけの狭い世界。

 

「う──ーんなんか違う」

 

 カーレッジは頭を悩ませながら世界創造を進めようとするが、何をやろうかも考えていなかったので平凡でつまらない世界になってしまう。

 

「なんかこう……俺好みの子とかいないのか、つるぎちゃん程じゃなくても俺のやることを凄い凄いと褒めてくれてなんでもありで、それでいて面白いやつ」

 

「ふむ……それが貴様の理想か」

 

 曖昧な表現の無茶苦茶なリクエストにも応えられるのがイティハーサ、カーレッジの願いを聞いた彼は目を光らせると前に起きた眩い光を放ち始める。

 

「うっ」

 

 3回目なので目が慣れてるしリアクションも薄いカーレッジ、見えた先には……あまりにもゴチャゴチャしすぎている世界。

 機械も魔法もそれ以外も全てあり、昔御伽噺で読んだような生物も空を飛んでいる。

 なんてことはない、タネをバラすとイティハーサは自分の持っている全ての世界の情報をミックスジュースのごとくゴチャゴチャに混ぜただけなのだ。

 

「3回目の願い、随分面白い世界を作ったね」

 

「なんてことはない、骸の海をかき集めて擬似的なものを作っただけだ」

 

 しかしこんな世界でも歩いてみると面白い、滅茶苦茶な物を例える時におもちゃ箱をひっくり返したかのようなとは言うがまさにひっくり返したものをかき集めて塊にしたような雰囲気で、怪獣に魔法少女に戦闘機、思いついたものが手当たり次第に出てきては消えていく。

 これならどんな冒険でも出来そうだった。

 

「一応聞いておくけどこれすぐ消えるってわけじゃないよね?」

 

「意志次第だ」

 

「了解そういうことね、なら永遠に大丈夫だ」

 

 ちょっと散歩したら改めて剣の作成を再開しようとしたカーレッジだったがまた新たな問題が発生する。

 カーレッジの中にもやもやとした感情が心底で疼き始めた、求めていたものはなんでも手に入る、食事も睡眠も不要で趣味感覚で三大欲求を満たすことができる。

 それでも何かが足りない、その答えは孤独だ。

 何百年も黒影剣作成に没頭していたので世界が滅ぶほど気付かなかったが、改めて振り返ってみるとカーレッジのそばにいるのは何か難しいことを言ってくる憑依してきたジジイのみ、人付き合いの少ないカーレッジは寂しいという感情に気付いてないのだ。

 世界を歩いて見ても誰も自分を見てくれない、これではハジマリアと何も変わらない。

 

「どうしてみんな俺の方を見ないの?」

 

「儂の作った世界にお前は含まれていない」

 

「なんでそこ融通効かせてくれないのかな、そんなんだから猟兵に負けたんじゃない?」

 

 せっかく作った夢の世界にカーレッジの介入する余地はない、また何か改変して自分を割り込ませようと思っても他にやりたいこともない。

 というよりは誰か1人でもいてくれればいい、自分に都合のいい存在、自分と剣の物語を盛り上げてくれる持ち上げ役が……!

 そんな無意識の願望が世界に影響を与えていく、今やカーレッジの気分でアドリブのように思いのままに舞台を変えられる。

 帰り道からどんどん変化していく、より都合よく……より楽しくなるように。

 

 黒影剣作成計画を始めてから400年が経過した。

 相変わらず完璧で都合のいい黒影剣作りに進展なし、バストサイズが特に気に入らない。

 

「遺伝子操作に厄災術まで試したんだがな……次はどういう方向性でやってみようかな」

 

 何回失敗作を捨ててきただろうか、ダメになった物をコネコネして暇潰しをしていた時もあったがそれも飽きてしまった、背伸びをしたカーレッジは百年前に世界を作り直したことを思い出し、様子を確認するために檻を出ることにした、昔は不本意で入れられていた場所だが今となっては居心地のいい場所になっていた。

 

「カーレッジ、聞こえるか」

 

「イティハーサ?」

 

 百年ぶりにイティハーサの声を聞いた、より鮮明に聞こえるどころか目を閉じれば顔すら見えるような気がしてくる。

 

「一体貴様は何をした、骸の海に変化が起きている」

 

「骸の海に? 俺はよくわからないけど何かあったの?」

 

「骸の海が……どんどん広がっているではないか、猟兵達の居る35の世界以外、何千何万の世界や物語が取り込まれオブリビオンと儂の力が次々と宿っていく」

 

「え、そんなことあるの? じゃあそれ上書きさせてよ」

 

「儂の力はお前の力、言われなくとも脳に宿っていく」

 

 イティハーサがそう言うと確かにまだ見たことのない要素や世界の情報が頭に宿っていく。

『ONEPIECE』『ドラゴンボール』『NARUTO』……見たことがある、日本という世界で物語として作られていたものだ、この数百年で骸の海は向こうではお話として作られている物を世界に変えて骸の海に呑み込みルフィや悟空のオブリビオン化にも成功してしまったらしい、グリモアとやらのせいで35の世界は未だ無事らしいが、それ以外のアニメやゲームと呼ばれるものは皆オブリビオンになってしまったとも言える。

 恐らくハジマリアで剣たちが冒険していたのと同じ頃に彼らもまた冒険し、同じように滅んだのだろう。

 

「そして、それによって生まれたものがアレだ」

 

「ん?」

 

 イティハーサが指を指した先で声がする、耳を澄ましてみると所々会話が聞き取れた。

 

『よう黒影! 相変わらず汚ぇ髪してんな!』

 

『余計なお世話だっての松山』

 

「なっ……く、黒影だと!?」

 

 聞き間違いではない、今確かに会話の相手は『黒影』と呼ばれていた。

 剣の子孫なんてあるわけがない、あの頃の剣は生殖機能を失っており養子も取っていない記憶がある、子供なんて彼女の人生の中で一回も見ていないのだ。

 だが気になってしまう、その相手が赤の他人のように思えなかった……確信はないが魂がそう感じている。

 

「イティハーサ、これはお前が?」

 

「儂は最早お前の力に過ぎん」

 

「じゃあ俺がこれを……!」

 

 気が付けば声の方向に向かって走り出していた、あの世界は百年でまた変わり果てていた、草原のように広い空間に大量の本に大きな家、そしてカーレッジによく似ている白髪の青年と目つきの悪い茶髪の青年、会話をしていたのは彼らのようだ。

 

『おい黒影、さっさとピクニック連れてけよ』

 

『お前ピクニックって柄じゃないだろ?』

 

『うっせぇ黙ってろメイドウィン、お前こそそんな風貌じゃないだろバーカ』

 

『はー!? 俺はそういう風貌ですー! チンピラとは違いますー!』

 

『なんだとてめぇぶっ殺すぞ!』

 

『喧嘩はやめなよ2人とも、みっともないよ』

 

『あ……すまん、ルミナ』

 

「!」

 

 会話に紛れて現れた少女……見間違えるはずがない、赤と青のオッドアイに足りない身長、真っ黒な髪にあどけない表情、そして魔法の杖と頼りなさそうなイメージ……!

 これまでカーレッジが作ってきたなり損ないよりもよほど黒影剣に似ている少女が一緒に存在していた。

 

「これだ! これだよ俺の望んでいた世界は!!」

 

「ん、そこの! 何してるんだ?」

 

 2人の白髪の青年が目が合った、この時また新たな歴史が始まろうとしていた。

 


 

「君とその女の子の名前は?」

 

「え? シャドー・メイドウィン・黒影だけど」

 

「メイドウィン……? それって確かイティハーサの本にあったオブリビオンが進化した存在……それにやっぱり黒影って」

 

「まあ俺は婿入りなんだけどね、この女の子が俺の妻のシャドー・ルミナ・黒影、こう見えても俺より年上」

 

 メイドウィンと名乗る青年から色んな話を聞いた、カーレッジからすれば最初から彼が主軸で物語が始まっていたかのように世界は進んでいるようであり、メイドウィンを中心に世界が再構築されたようだ。

 

「イティハーサ、この世界はなんなんだ?」

 

「世界ではない、骸の海が内部に影響を及ぼし軸となった空間……言わば骸の海の浅瀬だ」

 

「つまり骸の海そのモノにどっぷり浸かってるってことか、グロテスクな物をイメージしてたけど意外と綺麗なんだな」

 

「骸の海……? 何の話をしてるんだ?」

 

「ん? お前は見えてないのかイティハーサ」

 

 どうやらメイドウィンにはイティハーサは見えないらしい、説明するのも少し大変なのでカーレッジは神様のような存在と話が出来るとだけ説明した、そしてその神が言うにはこの辺りは『骸の海』と呼ばれる物から世界を一望できる……というよりはどこでも行ける中間地点らしいことを話した。

 

「ふーん、でもなんか名前が気に入らないな」

 

「まあ骸なんて世界に名付けるものじゃないしな……世界じゃないけど」

 

「そうだよ! ここは俺の世界なんだから今日からここはメイドウィンワールドだ!」

 

 骸の海の浅瀬改めメイドウィンワールドの様子を調べるためカーレッジはメイドウィンが居るところ以外の景色を眺めるが、だだっ広い草原だけで何もなくなっていた。

 

「少し寂しいな、名所とか無いのか?」

 

「いいや、これから作るところさ!」

 

 メイドウィンは指を鳴らすと真っ白な本が右手に現れる、カーレッジが受け取り開いてみると中身がぎっしりと詰まっており開けば開くほど中身が出てくる、試しにイティハーサにも見せてみる。

 

「これは世界そのモノの記録……奴の見方で言うと1つのアニメやゲームと呼ばれた媒体作品其の物だ」

 

「つまりイティハーサから見た世界そのもので作るための素材……さしずめ『はじまりの書』ってことか」

 

「この本に手を伸ばせばこの中にあるキャラクターや設定を引っ張り出す事が出来るんだ、そこにいる松山も俺がそうやって持ってきたんだよ、ちなみにその本は『スーパーマリオ』っていうんだ」

 

「そんなの俺もやったことないぞ……!?」

 

 メイドウィンはカーレッジと違い世界の改変ではなくキャラクターや設定を直接持ってきて、次々と手中に収めていく、これは使い方次第では今は何もなくてもハジマリアよりよほど面白いことになりそうだ。

 

「ところでメイドウィンははじまりの書を使って何をするつもりなんだ?」

 

「さあ? 特に何も考えてないよ、なんか使えるものが沢山あってなんでも出来たら面白そうだなって思っただけさ」

 

「なるほど」

 

 話を聞きながらはじまりの書を確認する、本で言うところの原作という奴だろうか、物語が始まってから終わるまで、生きてから死ぬまで、冒険してから救われるまで……とにかく全部がこの中に記されていた。

 

「こいつらって引っ張り出しても本の通りなのか?」

 

「まさか、お話そのまんまだったらつまらないでしょ、やるんだったらもっと好き勝手したいよね!」

 

「ふむ」

 

 カーレッジは考える、このシャドー・メイドウィン・黒影という男は思想まで自分に類似している、もし自分にもあんな力があれば間違いなく同じ事をやって同じ事を言っただろうという確信があった、メイドウィンがこうしてはじまりの書としてアニメやゲームを手中に収めたことで骸の海も発展して広がったことを考えるとイティハーサの利害とも一致する。

 

「メイドウィン……でよかったか?」

 

「うん、どうしたのカーレッジ」

 

「その本を出すやつって何個作った?」

 

「さっきのマリオと、松山が出した寄生ジョーカー……あとルミナを作る際にちょっと参考にしたけど消えたやつが何個か」

 

「よしメイドウィン、今からはじまりの書を一万冊は作るんだ」

 

「い……一万冊!?」

 

「そうだ、それだけあればほぼ全部だろ、俺は訳あって面白い物語を作りたいんだ」

 

「いやいや何言ってるの、それなら一万じゃ全然足りないよ! まだまだ少なすぎるくらいだから!」

 

「え?」

 

 もっと沢山はじまりの書が欲しいという要望に対してメイドウィンは力を全力で解放、地面に向かってエネルギーを込めると渡り鳥が飛び立つように本が大量に作られていく、一瞬で大型図書館も埋め尽くすようなサイズだ。

 

「一十百千万億兆京垓! とりあえずニ兆種類の世界の物語を本にしてみたよ! こういうのはひたすら数盛っとけばウケるからさ!」

 

 しかしあまりにも多すぎである、綺麗だった草原は本まみれでカーレッジは埋め尽くされるがなんとか顔を出して答える。

 

「メイドウィン、お前……最高だな」

 

 黒影剣の製作は現状行き詰まっている。

 ならば少しは休んで冒険の舞台を整えてからにしてもつるぎちゃんは怒らないだろう、そう考えたカーレッジはメイドウィンを利用してメイドウィンワールドをハジマリア以上にとんでもない世界にしようと決めたのであった。

 ここに剣を招き入れたらどんなにドキドキワクワクの体験が出来るだろうか、きっと満足するに違いない。

 

「そういえばカーレッジってどこから来たの?」

 

「ん? ハジマリアって世界からだけど」

 

「ハジマリア……? あれ、俺が知ってる作品にそんなのが舞台の話あったかな?」

 

 そもそも何故メイドウィンははじまりの書の舞台となる作品を知っているのかという疑問は一切無視していた。

 メイドウィンは一気に出した本の中身を確認しては好きなものを引っ張り出して、カーレッジはイティハーサの力で直接中に入り込んでネタを回収する。

 

 今ここにメイドウィンワールドが始まろうとしていたが、先ほどからメイドウィンが連れていた松山がよくない顔をしていたことには気付いていなかった。

 


 

「形になってきたな!」

 

「といっても10個くらいから引っ張り出してきただけだが……」

 

 メイドウィンワールドが作られて3日、メイドウィンが連れてきて改変したキャラクター達は何の疑問も持たずこの中で過ごし、物語の為に軽いトラブルを巻き起こす。

 

「そういえば気になっていたんだ、メイドウィンはルミナと結婚して黒影の苗字になったと言うが、そのルミナはどう出会った?」

 

「うーん、なんかいつの間にか居た? って感じ、俺もよく覚えてないんだよね、ルミナのこと……いつの間にか結婚してていつの間にかそばにいた、それだけ」

 

 何故剣にそっくりな子孫らしき者が現れたのか二人にも分からずじまいであった、カーレッジも色々考察してみたのだが後から唐突に兄貴も登場したので考えるだけ無駄という結論に至った。

「形になってきたな!」

 

「といっても10個くらいから引っ張り出してきただけだが……」

 

 メイドウィンワールドが作られて3日、メイドウィンが連れてきて改変したキャラクター達は何の疑問も持たずこの中で過ごし、物語の為に軽いトラブルを巻き起こす。

 

「そういえば気になっていたんだ、メイドウィンはルミナと結婚して黒影の苗字になったと言うが、そのルミナはどう出会った?」

 

「うーん、なんかいつの間にか居た? って感じ、俺もよく覚えてないんだよね、ルミナのこと……いつの間にか結婚してていつの間にかそばにいた、それだけ」

 

 何故剣にそっくりな子孫らしき者が現れたのか二人にも分からずじまいであった、カーレッジも色々考察してみたのだが後から唐突に兄貴も登場したので考えるだけ無駄という結論に至った。

 

「面白いなぁ! カーレッジの冒険日誌!」

 

 メイドウィンはかつてカーレッジがハジマリアで過ごした冒険の数々を大絶賛してくれる、現実ではボロクソだったがこれがカーレッジの望んでいた評価、これが正しいのだ。

 

「メイドウィン、この世界ならお前も同じような本を作れるんじゃないか?」

 

「え? 俺に出来るかな?」

 

「ああ、はじまりの書で連れてきたキャラクターや物語を元にシナリオを作るんだ、やりたいことを決めて設定を混ぜ合わせれば……お話が生まれる」

 

「ここに連れてきた松山達でそんな事が出来るのか! ……でも俺にそんな複雑なこと出来るかな?」

 

「その辺は俺とイティハーサの力がある、大雑把にお前が話の筋やどういう冒険をしたいかを考えれば後は俺が書いといてやる」

 

「よし!」

 

 メイドウィンはざっと構想を練ってキャラクターを役に当てはめて、事件の内容を軽く決めた後に導入を全部地面に書き始める。

 

「ぶれぶれぶれっど!」

 

 カーレッジが呪文を唱えると文字が光る。

 地面から空に浮かび上がって混ざり合い、はじまりの書に似た形の本が生まれる。

 

「凄い! 本当に俺たちが新しい冒険の始まりを作っちゃった!!」

 

「といっても中身は薄いな……後は俺に任せておけ、それっぽい物を作る」

 

 本を貰ったカーレッジは離れた所で能力を使い、続きを作り始める。

 

「お前は物語を作ったことがあるのか」

 

「無いよ、けど俺は冒険してきたから分かる、こういう奴はね……ちょっとそれっぽくしておけば形にはなるんだよ」

 

 カーレッジは魔法でその場しのぎになるように出来事を増やしていき、最終的になんやかんやでいい感じに終われるように仕向ける。

 普段の旅だってこんな感じだったのだ、問題などないだろう、完結と書き終えるとメイドウィンワールドにもオーラが宿り少し世界が変化する。

 

「もしかしてメイドウィンワールドにも影響を及ぼした? 後であいつにも説明入れておくか……」

 

 改めて完成した本を持っていきメイドウィンに見せた後、メイドウィンが作ってカーレッジが続きを書いた物語はメイドウィンワールドにも強く影響を及ぼすことを説明した。

 

「それはそれとしてこのお話面白いね!」

 

「こいつ結構のんきだな……」

 

「でもこいつがあればどんどん俺の世界は発展するんだろ? じゃあこいつはメイドウィン小説だ!」

 

 こうしてメイドウィン小説は誕生した、歴史が作られるたびに小説は作られ、そのほとんどが面倒になって投げ出されて代わりにカーレッジが書いている。

 カーレッジが書いた自分の活躍は殆どメイドウィンの功績となり、カーレッジは物語に登場しない。

 これで満足だった、カーレッジのもう一つの望みは裏方……主人公が目立つ活躍を出来るのは自分のおかげという、言わばコイツは自分が居なけれは本当は何も出来ないという名分を求めていたのだ。

 

「しかし面倒になって辞めたメイドウィン小説が多くないか? これ全部続き書くのは面倒だぞ」

 

「真剣に物作りをしているわけでもないが」

 

「黙れジジイ」

 

「うーんなんというかさ……めんどくさいんだよね、いちいち事件起こしても呼べる世界やキャラクターは1、2作品程度だし」

 

 メイドウィンワールドははじまりの書から持ってきてメイドウィン小説で改変した作品を吸収して発展していく、骸の海が上質なオブリビオンを学習して進化しているというわけなのだがメイドウィンが言う通り物語一個でたったの1作品や2作品しか呼べないのでは効率が悪く、物語の視野も狭くなる。

 

「もっとこう滅茶苦茶出来たら良いのに……沢山呼び出す方法!」

 

 メイドウィンは考えて何かを思いつき、いつもより文字を大量に書き始める、行数も多めだ。

 

「スポーツを作ればいいんだ、それも複数の世界……10子以上は跨ぐような大規模なやつ! 1回やるだけで複数の世界と知り合いになったことになるぞ!」

 

「複雑なルールだと時間がかかるからシンプルにそれでいて分かりやすく、そして選手が白熱するような奴を!」

 

 メイドウィンは競技を思いつき、ひたすらそれを開催することで大量のキャラクターを仲間に引き入れようと計画、カーレッジに見せてみるとメイドウィンワールドに無数の穴が開いてゴミを捨てるかのようにまるてどこかのSF作家の有名作品のように生き物が落ちてくるではないか。

 

「鬼ごっこをスポーツにしたのか」

 

「うん! サッカーとか野球だと参加できる数が決まってるし描写が面倒だからね、走らせてそれっぽく本格的にするだけでお話になるからコスパやタイパもいいんだ、名前は……『逃走中』! 後はカーレッジよろしく!」

 

 逃走中を作り出したことによって一度に三十人あまりのキャラクターを仲間に引き入れる事が出来るようになり、世界の発展力は格段に上昇した。

 物語の数が減った以上にメイドウィンの言う通り基本走らせて会話劇を並べておくだけで物語として完成するようになった為、カーレッジの労力もかなり減った。

 

 この辺りになってくると、カーレッジはメイドウィンを利用していたつもりが本当に友達と呼べるような物になりつつあると思い始めていた。

 もっともそれは、彼がカーレッジのやることなすこと全肯定で激しく称賛してくれる上にひたすら頼ってくれる、その上で優れた存在という都合のいい存在でいてくれるからもあるのだが……。

 そしてまた新たな問題が生まれる。

 

「俺1人で動かしたり思いつくにも限界があるんだよ、なんとかして〜」

 

「書いているのは殆ど俺でお前は何もしていないが……まあいい、頼られるのは悪い気分じゃない……ぶれぶれぶれっど!!」

 

 カーレッジは呪文を唱えるとメイドウィンに魔法を当てる、するとメイドウィンの身体は5つに分かれて全く別の四人のキャラクターが生まれた、イティハーサの世界融合を参考にしてメイドウィンに別世界の設定を注ぎ込み、身体を切除して人の形にしたものだ。

 

「これもっと作れない?」

 

「作れるがそんなに欲しいのか?」

 

「ううん、なんかカラフルだしレインボーに沢山のメイドウィン増やしたいんだよね」

 

「そんな理由か……まあいい、望むならいくらでも増やしてやる」

 

 こうしてメイドウィンは無限に増え続けて、『メイドウィン』はそれが種族であり個性となった。

 その中でも黒影は原点にして頂点、一番最初にして最強の存在としての地位を確立し名実ともにメイドウィン小説で一番偉くて凄い存在になっていった……。

 


 

「へっ、いい気なもんだなアイツらも」

 

 一方、カーレッジとメイドウィンに連れてこられたキャラクター達はいい顔をしていなかった。

 松山やルイージなどの一方的に住民にさせられ物語の登場人物になっていたキャラクター達は裏で集まっていた。

 

「この世界の生活はどう? 一番昔から滞在してるのは君だよね松山」

 

「どうも何も最悪だよバーロー、俺たちはアイツらの妄想に付き合わされるだけに存在している駒……楽しいのは彼奴等だけだ」

 

 物語の登場人物として厄介な付き合いをされ、時に殺され、身の丈に合わない力を持たされる……いつしかキャラクター達は何もない日はメイドウィンワールドには入りたくないと各地で物資をかき集めてスラムを作成し、その中で暮らしていた。

 メイドウィンワールドに比べると非常に寂れているが快適に感じている。

 本来は悪役の松山もここでは古参仲間のルイージと部屋でピザを食べる仲だ。

 

「あの逃走中って奴でまた何人か増えたな、もう少しスラムを広げる必要がある」

 

「うん、皆ここに住んでるくらいだからね……バレないのが不思議だ」

 

「カーレッジもメイドウィンも可愛いのは自分だけだ、俺たちの事なんて仲良くしてるようで実際はなんとも思っちゃいねぇ」

 

「僕たちの存在って一体なんなんだろうね」

 

「俺たちはモノなんかじゃねえ、と言う奴もここには何人かいるが……俺達は本当にモノなのかもしれねえ」

 

「え?」

 

 松山は自室からアルバムを取り出してルイージの所に見せる、メイドウィンが作った紛い物の思い出が全部ここに詰まっているが、ここにあるのは物語の為の物で本心ではない。

 

「こうしてみると随分長いことやってるんだね」

 

「メイドウィンは上っ面だけ思いついてすぐ飽きてカーレッジに押し付けてるだけだから、俺達の思い出としても中途半端だがな……でだルイージ」

 

「お前、これ以外に何か思い出話はあるか?」

 

「もちろんあるよ、クッパと戦ったのもあるけど、兄さんの誕生日も祝ったりしたね、ホテルに招待されたこともあったっけ」

 

「ガキの頃の思い出はあるか?」

 

「うん、赤ちゃんだった頃コウノトリに運ばれて家に来たこととか……さらわれたりもしたけど、この時代の僕と宇宙人と戦ったりとかしたね」

 

「それ以降は? 8歳とか12歳とか、配管工になるまでだよ」

 

「…………あれ?」

 

 ルイージは考えてみると幼いときの記憶が殆どない、過ごしてきた感覚はあってもそれがなんなのか思い出せない、クッパとの戦いが印象に残りすぎているのか……?

 

「俺はこれでも23歳ということになってる、年齢で言えばお前と同じくらいだ……なのに俺の中にある正確な記憶はあの島で任務を行っていた時しかねえ」

 

「え? 本当に他に何もないの?」

 

「お前と違って俺にはガキの頃どう過ごしてたかも親の顔も……下手したらいつ組織に入ったのかも覚えてない、俺にあるのは寄生体を入れられてからと死ぬまでしかない、今の俺はメイドウィンのありもしない設定のみで成り立っている、つまり俺たちは本当にアイツらのためだけに存在する道具なんだよ」

 

 松山達キャラクターは話の中で描写された要素しか自身の記憶や体験にない、これにもちゃんと理由がありメイドウィンははじまりの書から参考にするときに世界からその場のキャラクターを引っ張り出してきた為に物語として目に見える範囲しか実体化出来てないのだ、これは能力の欠陥というよりはそこまで考えていないといったほうがいい。

 もしも世界丸ごと創造することがあれば彼らの認識も変わったのかもしれないが。

 

「俺たちどころか全員がそうだ、いつまでもアイツらの都合のいい操り人形のままでいいのか?」

 

「でも僕らに何が出来るの?」

 

「俺たちがスラムでコソコソして何もしていないと思うか? 俺やお前をはじめとして各方面のスペシャリストが揃ってんだぞ」

 

 布団の下に隠しておいた報告書をこっそりと取り出す、中にはカーレッジ・フレインの資料がある。

 

「この人ってメイドウィン小説には顔を出さない裏方みたいな人……」

 

「そう、表には出ないが実は色んなこと全部コイツのおかげっていう、影が薄いアピールをして実際は承認欲求の塊みたいなカス、こいつを医者とかスパイのキャラに調べさせてもらった」

 

 調査結果はこうだ、趣味、好み、話題、好物と何から何までカーレッジと一致している上に話が合う、仕事もメイドウィン小説も殆どカーレッジ頼りで物語によるチートスペックな要素はほぼ裏でカーレッジがやったことの行い、シャドー・メイドウィン・黒影の存在其の物がカーレッジ・フレインを満足させるための娯楽といってもいいくらいだ。

 

「それどころかDNAや魔力反応、クセから特技まで一致してるときた」

 

「なにそれ……まるで2人が同一人物みたいだ」

 

「同一のようで同一じゃねえ……歴史の本も見たがメイドウィンもあの世界も唐突に現れたとしか思えねえ、だかカーレッジはずっと前から居るって言いやがる、そして……一度メイドウィンに触れたことがあるが、実態を感じなかった」

 

「実態を? それってどういう」

 

「幽霊みたいに触れられなかった、生き物って感じがしねぇみたいな感じだ、物語の時以外はそんな感じだ」

 

 つまり、その場しのぎの存在のような塊で表向きの設定以外は影も形もないのはメイドウィン自身も同様、そこから1つの結論を導き出した。

 

「メイドウィンはカーレッジに作られた存在だ、あいつは神にも近い力を持っていると言ってたしな」

 

「イマジナリーフレンドなんて言葉もある、あれだけ都合の良い存在が突然現れるなんて自分自身を鏡合わせにした物でも出さなきゃ筋が通らねえだろ」

 

「でもそれって……」

 

「空想のオトモダチにしてもかなり気持ち悪い物だな」

 

 カーレッジ・フレインが無意識に神の力で作り出したイマジナリーフレンドを超越した都合のいい友人、それこそがメイドウィンの正体、自分たちを好き放題操っていた存在もまた操り人形だった、まるで物語のクライマックスである。

 

「……ルイージ、お前は解放されたいか?」

 

「解放って言われてもどんな感じなのか見当つかないよ」

 

「案はある、そしてこれを通すには全員の団結が必要だ……お前以外には全員通してある」

 

「全員!?」

 

 メイドウィンが呼び出したキャラクターは万を有に超える、それを少しずつ説得してきたということなのだが時間だけはあったのでルイージは納得出来た、驚いたのはもう既に終わっていることと自分が最後ということだ。

 

「ここまでやったなら僕も覚悟決めるよ、何をすればいい?」

 

「簡単なことだ……俺たちは一斉にキャラクターとして使い物にならなくなる……この歪んだ物語から一足早く退場するんだ、その為にお前という火種が必要なんだよ」

 

「……え」

 

 ◇

 

 そして迎えた『ある日』。

 メイドウィンとカーレッジがキャラクター達に気付くまでの短い間に起きる出来事。

 

「燃えろや〜燃えろ〜」

 

 松山がルイージに頼んだこととは焼却処分、こっそり持ち寄せたはじまりの書と一緒にキャラクターたち全員が燃えてなくなる……それが松山達の考えた計画だった、その為にルイージのファイアボールを使うという贅沢な真似をした。

 スラムが火の海になっていく、まるで火葬のようにキャラクター達は燃え上がる住処の中で眠りにつきはじまりの書と共に焼失していく。

 骨や灰が残るどころか黒いカスとなって消えていく様は本当に自分たちは生き物ですらなかったと実感していく。

 身体が消えていくのに不思議と痛みや恐怖心はなく、自然と解放感に満ち溢れていた。

 

「俺は最初のくせに最後なんだな……」

 

 松山はキャラクターや設定が燃え尽きていく度にメイドウィンワールドが剥がれるように消えていくのを確認した後、最後に自分が消えるために火の海の中へと足を運んだ……。

 

「楽しくなかったぜクソ野郎、やりたきゃてめぇらで勝手にやるんだな」

 

 ◇

 

 そしてカーレッジが目覚めた頃には草原すら残さず消え去り、メイドウィンが立ち尽くしているのみであった。

 

 

『メイドウィン‥‥‥‥?』

 

『ああ、お前はまだ生きていてくれたか、よかった‥‥‥話したいことがあるんだよ』

 

『いや、そんなことよりルミナは!? 世界はどうなった!?』

 

 

『ルミナは死んだよ』

 

『えっ』

 

 

『寿命‥‥‥ほら、俺不老不死だからさ、誰よりも勝っちまう』

 

 

『ルミナもヘレンもジュラもジャークも死んじまった、ラミスも俺の子とはいえハーフじゃ限界があったみたいだ』

 

『ルミナだけじゃない、紅夜も琴子も黒斗も、乙羽もクロエもマリオも、沢山のキャラクターが、みんなみんな死んじまった‥‥‥‥』

 

『俺と同じ立場のやつも、どんどんいなくなって‥‥‥‥俺一人が残された』

 

『‥‥‥‥だから、そんなに悲しい目をしているんだな』

 

 メイドウィン達は気付かない、これが松山達の総意であり反乱であることを、決してタイムリミットなんかではないことを……しかしカーレッジは見事に勘違いしてまた自業自得な形で旅の終わりを迎えてしまった。

 作り上げてきたメイドウィン達もコントロールを離れるほど進化して役に立たない。

 

『もう一回キャラクターを呼び出すことは出来ないのか?』

 

『無理だった……はじまりの書が真っ黒に塗り潰されているんだ、手を伸ばそうとしても何も出てこなくなって……』

 

『…………ふざけんなよ』

 

『まだまだ読み足りないのに、勝手に終わる物語なんて認められるか!! どこの誰が物語はいつか終わるなんて決めた! 面白いなら永遠に続けたってバチは当たらないさ!』

 

『俺も認めたくないんだよ! でも、もう本は閉じられた……後は俺の物語が終わるのを待つだけ』

 

『お前……』

 

 その時カーレッジはメイドウィンが可哀想に思えていた、自分と同じ目にあっている……準備は整ったのに、人を助けていい気分になりたかっただけなのにそれを後から台無しにされる、おんなじものを見てきたじゃないか。

 それにカーレッジにとってもつるぎちゃんと盛り上がるための舞台が整ってきたところにこの仕打ちである。

 

『メイドウィン、約束するよ…………つるぎちゃんの物語もお前と俺の物語も、あそこで終わらせない』

 

『絶対! 何百万年掛けてでもつるぎちゃんとルミナを取り戻す!』

 

 

 

『…………俺とお前の力があれば、それが出来るんだよ!! 一生あんな暮らしが出来る! だからさ、メイドウィン…………俺に物語を作る力をくれ』

 

『…………わかった、カーレッジ、俺の力と夢を君に託したよ』

 

 こうしてシャドー・メイドウィン・黒影はイティハーサのようにカーレッジに取り込まれた、元々カーレッジの願望から生まれたものがあるべき姿に戻っただけでもある。

 こうしてメイドウィンワールドは消えてなくなり、カーレッジはまた1人孤独になった。

 そして黒影剣を作る他に、理想の物語をいくらでも永遠に作れるメイドウィンワールド再起という新たな目的が出来たのだった。

 

 

 

「……消えた、消えた、はっははははは!! 消してやったぜ!! 見えねえよなみんな!!」

 

「なのに、なのによ!! なんで俺は!? なんで俺だけは生きてんだよ……俺は!!!」




第1話でも話しましたが修正の際どれがいいか検討している段階であり、2週目はほぼ無修正で公開しました。
一切書き加えないでそのまま貼り付けたものとなっております。

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