金返せニコ 作:SAMU
「待てゴラボケがぁぁ!!!」
「やばいやばいやばい――もっと飛ばしてぇぇ!!」
現在、車で逃走中の“
俺は自転車をこぎながら必死に奴らを追い掛ける。
今日という今日は許さねぇ。
絶対に俺から借りた金を回収する。
仏の俺が今度こそ払うという言葉を信じて十日待ってやったんだ。
それなのに、アイツらはこの俺を嵌めやがった。
『これこれ! これね、純金なのよ! あ、お金はこの袋の中ね! あ、いいのいいの! これはほんの気持ちだから、ね?』
『んー怪しいなぁ。なんかメッキのような気が……金の入った袋も妙に重い気がするなぁ。やっぱ此処で確認して』
『あぁダメダメ! こんな大金をこんなところで確認したら危ないじゃない! 治安官に見つかったら、怪しい取引現場だと思われるんじゃない? 私もアンタも、あんまりアイツらにつつかれたくないでしょ? ……まぁ? どうしてもって言うなら、見てもいいけどぉ?』
『……うし! じゃ見るぜ! どれどれぇ――お!? な、何だこの煙、は…………』
金の入った袋を開けてみれば、睡眠ガスが噴き出し。
俺はそのまま眠りについてしまった。
起きた時には夜であり、利息分だけが入った袋と「もうちょっと待って♡」とニコの字で書かれた紙。
そして、謎の金の置物だけが残されていた。
すぐに置物については知り合いに鑑定に出した。
すると、やはり純金には程遠い偽物で、買取り金額はたったの千ディニーで……俺はブチ切れた。
奴らの住処は知っている。
が、俺が行く時は決まって誰もいやしない。
居留守では無く完全に留守であり。
奴らは俺が来る事を事前に察知して逃げるのだ。
巧妙な手口であり、まるで鼠のような奴らだ。
だからこそ、俺は徹夜で奴の家の前に張り込み――ようやく奴らを見つけた。
こっそりと帰って来た阿呆ども。
俺はすぐに奴らから金を奪い返す為に襲い掛かった。
ダメでも、身柄を確保して借金返済その体でさせてやる。
そういう気持ちで行けば、ニコは防犯グッズの唐辛子スプレーで俺の目を潰し。
まんまと車に乗り込んで逃げていきやがった。
俺はすぐに復活し、止めてあった自転車に跨り。
奴らを追い掛けて行った。
加速する車は、次々と車を追い越して進んでいく。
俺もそんな車を避けながら、必死に叫びペダルをこぎ続けた。
「クソニコぉぉぉぉぉ止まれぇぇぇ!!!!」
「あああ、アイツ何なのよ!? 本当に同じ人間なの!?」
「おおおおお親分やべぇよ!!? 今時速八十キロだぜ!!? アイツ超人かよ!?」
「流石は伝説の金貸し。世界の果てまで借金を取りたてに行った噂は本当みたい」
「そんな呑気な事言ってる場合じゃ――きゃああ!!?」
俺は自転車からダイブする。
そうして、ニコたちの乗る車にしがみつく。
奴らは動揺しながらもハンドルを動かして俺を振り落とそうとして来た。
「逃がさねぇぇぞぉぉぉああああぁぁ!!!?」
車は交差点を突っ切り、それでも止まる事は無い。
俺は必死にしがみつくが、奴らは態とゴミ捨て場などに突っ込んでいく。
空き缶や瓶などが顔面に当たり、額が割れて血が噴き出す。
が、俺は手を動かしてニコの乗る助手席へと移動する。
「にぃぃこぉぉぉかねかえせえぇぇぇぇ!!!」
「ひぃぃぃ!! あ、悪魔ぁぁぁ!!?」
「中々に鬼気迫る表情。迫力があるわ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!? て、うわ!!?」
「なぁぁ!!?」
運転席に乗っていたビリーが声をあげる。
瞬間、奴はブレーキを踏んで車は激しく回転した。
俺はその回転によって振り落とされて地面を転がっていき――何かに当たる。
「いでぇぇぇ――え?」
頭を摩りながら周りを見る。
すると、にっこりと微笑む――盾持ちの治安官たちがいた。
ガチャリと手に手錠は嵌められる。
治安官たちは車でバリケードを作っていて。
ニコを見れば……にやりと笑っていた。
「暴走運転の共犯者を一名確保。主犯格たちは」
「――ふふふ、それじゃ永遠にさようならぁ! アディオス、間抜けなカルロさぁん!!」
「あ、待ちなさいッ!! 犯人グループが逃走!! 繰り返す!! 犯人グループが――な、何をして!!」
奴らは突然立ち上がった俺に慌てる。
手には既に手錠が嵌められていたが――引き千切る。
「……さねぇ」
「き、貴様!! 抵抗」
「――許さねぇェェ!!!!」
「うわぁ!!?」
俺は怒りを爆発させる。
そうして、襲い掛かって来た治安官たちを投げ飛ばした。
奴らは無線を使って増援を呼んでいる。
が、俺はそんな奴らを無視して全力で走り出した。
風となり走っていく。
奴らの逃走ルートは分かっている。
だからこそ、先回りをする。
狭い路地裏に入り、ゴミを蹴散らして。
邪魔な壁を拳で破壊し、そのまま茶の間で食事をしていた爺さんと婆さんの間を突っ切る。
走って走って、視界に映った歩道橋を駆けあがっていき――見えた。
奴らは車の中でケラケラと笑っていやがる。
よく見れば、あの一瞬で車の塗装を変えていやがった。
抜け目のない女狐であり、完全に油断している奴らに――飛び掛かる。
「きぃぃぃええぇぇぇぇ!!!!」
俺は奇声を発しながら空を舞う。
そうして、そのまま頭を突き出して――奴らの車のフロントガラスを突き破る。
「「ひゃああああ!!?」」
「ふふふふ、はぁいにこぉぉ!!!」
俺は血だらけになりながら笑みを浮かべる。
奴らは顔面蒼白でガタガタと震えて、互いに体を抱きしめ合う。
後ろに座るアンビーだけは呑気にジュースを飲みながら、ビデオを回していた。
「さぁぁぁ金返せやぁぁぁぁ!!!!」
「「いいやぁぁぁぁぁ!!?」」
##
「……それで?」
「いや、だから。俺はただ、貸した金を」
「――で?」
「い、いや、その…………はい、反省しています」
ニコとの追いかけっこが終わり。
奴らはまたしても俺から逃げ切りやがった。
俺は全身ボロボロになりながら、何とか家に帰り……知り合いの治安官に捕まった。
現在は、取り調べ室にて拘束されている。
美人の女性に笑みを向けられるのは普段なら嬉しいが。
悪さをした俺に“朱鳶さん”が向けるそれは、堪らなく怖かった。
俺は全身を生まれたての小鹿のように震わせて……彼女がため息を零した。
「……被害総額はざっと数えて……これだけです。勿論、全額お支払い頂きますが……はぁ、もういいです。“今回”は、罰金と修繕費用の全面負担。それと、新エリー都での一月の奉仕活動のみにしておきます……ですが、またあんな事をしたら」
「し、したら? へ、へへ」
「……これ、ですから」
彼女は笑みを浮かべながら首を斬るジェスチャーをした。
俺はだらだらと汗を流しながら、ただただ恐怖した。
街中で暴走していたのは俺ではない。
ニコたちであり、俺は奴らに騙された被害者だ。
が、そんな事を言っても信じてくれるのは朱鳶さんだけだ。
奴らはアウトローであり、隠れて動くのが得意なのだ。
あんなに派手な逃走劇をしても、奴らの証拠はほとんどない。
逃走に使った車のナンバーを変えて、色も変えて。
まるで、手品師であり……だが、俺は諦めねぇ。
必ず、この手で奴から金を取り返す。
それが金貸しの一族に生まれた俺の願いだ。
必ず、借金王と呼ばれた女から取りたてる――そう、必ずだ。
「ふふふ、待ってろよ。ニコ、俺は絶対に諦め」
「――話、聞いてましたか? 檻の中の入りたいんですか? ん?」
彼女は青筋を立てながら笑う。
机に置いていた手を中心に亀裂が走り、今にも机を破壊しそうだった。
俺はだらだらと汗を流しながら、彼女に対して許しをこう。
「ご、ごめんなさぁぁぁいぃぃぃ!!!」
俺の謝罪が響き渡り。
そこから始まる朱鳶さんからの御説教。
俺は滝のように涙を流しながら。
今頃ほくそ笑んでいるニコを想像し、怒りの炎を燃やした――