金返せニコ   作:SAMU

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10:金で結ばれた縁(side:ニコ→カルロ→汚い方のニコ)

 広く薄暗い――作戦室内。

 

 多くの優秀な人間が集まって、巨大なモニターを見つめていた。

 そのモニターに映るのは――黒い靄に覆われた何か。

 

 真っ赤な眼光であり、頭には天使のような光輪。

 人間でもなければ、エーテリアスとも呼べない。

 不思議であり、凶悪であり、恐ろしいほどに――強い。

 

 私は体を縄で縛られながらごくりと喉を鳴らす。

 すると、今回の作戦の指揮を執る女兵士が此方を向く。

 

「……さて、今見て貰った通り。現在、新エリー都には謎の敵性生命体が闊歩しているわ。我々、防衛軍はそのエネミーを――Kと名付けたわ」

「ちょっと!! カルロのKじゃない! 安直すぎんのよ!! 真面目に考えなさい!!」

「「「……」」」

 

 私が叫べば、ほとんどの人間がため息を吐く……な、何よ。

 

「……Kは元々は善良な一般市民よ。でも、そこにいるニコ・デマラのしでかした事によって突然変異し。今の暴走状態になったと考えるべきね。防衛軍の上層部は緊急非常事態を宣言し、市民たちは既に安全なシェルターに避難させたわ」

「ひ、避難って……まさか、形振り構わず……あ、アレは!?」

 

 私は驚いたようにモニターを見つめる。

 すると、その先には横断歩道を渡る杖を突くおばあちゃんがいた。

 完全にカロルの進路を塞いでいて、私は危険だと思って――カルロはおばあちゃんを優しく誘導していた。

 

「……え?」

「……Kには理性が残っているわ。何故かは知らないけど、一般市民や攻撃してこない存在には手を出さない。寧ろ、困っている人や動物を助けてから真っすぐに此方を目指しているわ」

「……あのぉ、それって……そこの人を差し出せば済むって事じゃないですかねぇ? 僕らの話は聞いてくれそうですし」

「はぁぁぁぁ!!? ちょ何言ってんのよ!! 頭おかしいんじゃないの!!? ふざけんじゃないわよ!!」

「「「……確かに」」」

 

 この場にいるほとんどの人間が優男の言葉を肯定した……冗談じゃないわよ!?

 

 対ホロウ六課で、あのお武家キツネの部下か何だか知らないけど。

 言って良い事と悪い事がある。

 私は口汚く奴を罵ってやったが、奴は面倒そうな顔をして耳を指で塞いでいた……こ、このぉ!

 

「待て。それで解決するとは思えない。別の手を考えるべきだ」

「お、お武家キツネ! あ、アンタ!」

「……課長には何か考えがあるのですか?」

「あぁ、ある。先ずは私がアイツの元へ行き、拳にて」

「――却下ですよ! そっちの方がダメじゃないですか!? 大怪獣バトルも真っ青な惨状になっちゃいますよ!」

「……? 何故だ」

「な、何故って……この人、力で分からせるジャイアニズムの権化でしたっけ?」

「……浅羽隊員。あまり課長の事をそんな風に……兎に角、それは最終の手段です。そこの方を差し出すという案も今は保留に」

「保留ぅぅぅ!!? 永久に採用するんじゃないわよ!! サドメガネ女!」

 

 私は叫びながら必死に縄を解くように言う。

 が、私の事は無視でそのまま作戦会議は進んでいく。

 

「……それで、何か有効な手立ては?」

「無いわ。あらゆる手を尽くして、防衛ラインも築いたけど……全て突破されたわ」

 

 ゴーグルの女兵士は説明する。

 手始めに高圧電流による無力化を図ったが失敗。

 その次に強力な酸による攻撃も行ったが謎のバリアによって防がれた。

 戦車の主砲でもびくともせず。

 おおよその現代兵器では傷一つつかないのではないかって……人間?

 

 私はアイツの異常性に震える。

 真っすぐに此処を目指していて、辿り着けば確実に――(私が)死ぬ。

 

 何とかしなければならず。

 私はあの車を用意するべきだとすぐに伝えた。

 が、同じものを作るとなれば少なくとも五時間はかかると言われた。

 

 残り時間でいえば、三時間ほどで……何とか時間稼ぎを……。

 

 私たちが口を閉ざして考えていれば。

 女兵士は持っていた棒で手を叩いた。

 全員が視線をアイツへ向ければ、アイツはにやりと笑う。

 

 

「――策なら、あるわ」

「……それは、一体……?」

 

 

 会議室の扉が開く。

 入って来たのは……謎のフルフェイスだった。

 

 そいつは私たちを無視して女兵士の横まで歩いていく。

 そうして止まってから、静かに敬礼をした。

 

「紹介するわ。彼女は、我々防衛軍の英知を結集して作られた対K交渉用特殊構造体――Nよ」

《初めまして! よろしくお願いします》

「……今の声は……ニコ?」

「「「……?」」」

 

 紙袋を被った状態のアンビーがぼそりと呟く。

 私はわなわなと震えて――叫んだ。

 

「ちょっと!! どういうつもりよぉぉ!? こ、この私の……コピー品!?」

「コピーではないわ。貴方のDNAをベースに此方でリプログラミングを施した事によって生まれた新たな存在よ」

《私はN! Kの説得は私に任せて!》

「は、はぁぁぁ!!? 説得ですって!? 何生ぬるい事言ってんのよ!! あんなのは速やかに排除よ!! 排除!」

《ダメよ!! Kは怒りに囚われているだけ!! 暴力での解決では誰も幸せにはならないわ!!》

「ほあああぁぁぁ!!? バッカじゃないの!! こいつポンコツよ!! 私のコピーどころか、廃棄品じゃ――」

「……もしかしてなんですけど……そのNさんは、そこの人の……良い部分だけで作られたり?」

「……まぁそうね。悪い要素は徹底的に排除したけど……それが?」

「「「……あぁ」」」

 

 私が叫んでいれば、全員が納得したような声を出す……何よ!?

 

「……ニコが行けば逆効果になる。でも、ニコの分身であり、誠意を感じられる存在であれば注意を引く事も対話を試みる事も出来るかもしれない」

「……覆面ガールの言う通りよ。Nにはデコイとしての役割と交渉を行うという役割がある……ただし、もう一つの役割もあるわ」

 

 女兵士は映像を切り替える。

 すると、そこにはごてごてとした白いパワードスーツとそれに見合う長大なライフルがあった。

 

 

「もしも、交渉が失敗した場合……これを使ってKを排除する事になるわ」

「……まさか、例の新型ですか?」

「えぇそうよ。対大型エーテリアス用エネルギーマグナムライフル……発射可能なのは現状では一発。でも、如何に強固なバリアを展開できるKであろうとも、これがあれば……使用できる場所はホロウ内に限られる。先ずは、Nは彼をホロウ内にて誘導してもらうわ」

《分かったわ! 必ず、Kと分かり合って見せるわ!》

「……甘いわね。殺す気でいかないと……アンタ、死ぬわよ?」

「「「……」」」

 

 私が玄人のような雰囲気で忠告してやれば。

 全員が私を見て「どの口が言う?」と言いたげであった……はっ!

 

「……では、Nは速やかに作戦を開始。対ホロウ六課には、Nのバックアップを任せるわ……そして、元凶である貴方にも……協力してもらうわよ?」

「な、何を……この私に、一体何をさせようって……う、うぅ」

 

 私は震える。

 女兵士はにやりと笑うだけだった。

 そうして、会議は終わり。

 室内は明るくなって、全員が立ち上がって行動を開始した。

 

 

 〇

 

 

「ニゴォォォニゴォォォ――ニゴォォォォォ!!!」

 

 俺は叫ぶ。

 そうして、街を破壊――は、しない。

 

 ただ叫びながら、ニコがいるであろう場所を目指す。

 途中途中で邪魔が入ったが無視。

 そのまま進軍しながら真っすぐに奴の場所を目指し――!!

 

 違う方向から奴の気配を感じた。

 此方を目指して進んできており――姿が見えた。

 

 白を基調とした装甲のパワードスーツ。

 その手には俺を殺す気なのか人間には使わない武器を携行していた。

 双眼のレンズを青く光らせながら、それは言葉を発した。

 

《ついてきなさい!!》

「ニゴォォォォォ!!!!」

 

 奴の声、奴の言葉――瞬間、俺は飛ぶ。

 

 奴はギリギリで俺の攻撃を回避。

 そのまま何処かを目指して飛んでいった。

 俺はニコを追いかけるように、空中を高速で飛行した。

 

 街の景色が勢いよく流れて行く中で。

 奴は速度を上げながらも、後方の俺を確認しながら前を飛ぶ。

 誘っている、何かを企んでいる――関係ない。

 

 殺す。殺してやるぞ――ニコ・デマラ!!

 

 俺は叫びながら奴を追う。

 すると、奴は目の前に展開されているホロウの中へと飛び込んだ。

 俺も同じようにホロウ内へと突入すれば、周りの景色が僅かに変わる。

 

 開けた場所。

 大通りのような場所であり、俺は静かに地に降り立った。

 

 腕を広げれば、複数の黒い靄のビッドのようなものが現れた。

 それを動かしながら、口を大きく開いて――特大の光線を放つ。

 

 真っすぐに進む極太のレーザーが全てを焼き尽くす。

 あらゆるものを焼きつくし破壊していった。

 が、ニコはひらりと宙を舞って俺の攻撃を回避した。

 

《……ッ!! カルロ!! 聞いて!!! 私が悪かったわ!! 心から謝罪をする!! 一生かけても償う!! だから、話を》

「ふざけるなぁぁぁ!!!! 何度も対話して、それでも裏切り続けたてめぇが――何を懸けられるって言うんだ!!!」

 

 俺の怒りと殺意が更に噴き出す。

 瞬間、ホロウ内にいたエーテリアスが集まって来た。

 奴は空中にて俺に危険を知らせる。

 が、俺は浮遊するビッドへと光線を放ち――それが周囲に広がっていった。

 

《――なんて威力!?》

「クソニコがァァァ!!!」

 

 俺の怒りによって周囲のエーテリアスは塵も残さず滅ぶ。

 奴だけは器用に俺の攻撃を避けていた。

 

《カルロ!! 止めて!! こんな事をしてもアンタには》

「感謝するぜぇぇぇ!! ニコォォォォ!!! これで積年の恨みを晴らせるんだからなァァ!!!」

《カルロ!! ダメよ!! 恨みを晴らしてもアンタには何も》

「御託は良い!!! テメェも抗う為に来たんだろ!! さぁそいつを使え!!! 俺を殺してみせろ!! 債務者(ニコ)ッ!!」

 

 俺は怒りのままに笑い――暴力を振りまく。

 

 周囲一帯へと俺の怒りが放たれて。

 周囲の地形が歪んでいった。

 奴は真面に俺の怒りを受けて狼狽える。

 が、何とか耐えながら地に降り立った。

 

《カルロ!! お願い!! こんな事を続けていたら、アンタの心が……人間としての感情が消えてしまうわ!!!》

「黙れッ!!! 俺の親父も爺さんも……債務者どもに苦しめられてきた!!」

《……っ!》

「信じて金を貸して、ずっと待ち続けて……裏切られて、涙も流すまま骸になった……俺は金貸しとして此処にいる!!! 金が回収できなくてもいい!! 回収するよりも、先祖の無念を晴らす事が俺にとって……俺たちにとって意味がある事なんだよォォ!!!」

《ダメよ。それはアンタの願いじゃない。アンタは誰よりも優しくて、誰よりも弱い存在と向き合ってきた……囚われないで、見失わないで!! アンタはカルロよ!! 他でもない私が信じている!! 信じて!! 今度こそ私はアンタに償いを……っ!!》

 

 ニコの心ある真っすぐな言葉に――俺はぶちりと切れた。

 

 

「“偽物”がァァァ――そこを退けッ!!!!」

《――うぁ!?》

 

 

 俺は叫ぶ。

 理解した――こいつはニコではない。

 

 ニコ・デマラはこれほどに綺麗な言葉を並べはしない。

 ニコ・デマラはこれほどまでに正しくない。

 アイツはアウトローであり、計算高くずぶとく――歪んでいようとも信じるものがあった。

 

 俺の怒りが頂点に達し。

 周囲へと広がってビルもなにもかもを破壊していった。

 奴は必死に耐えている。

 が、それも時間の問題だ。

 

《ダメ、ダメよ……怒りも殺意も、振りまき続ければ、それが別の人を狂わせて、新たな恨みを……っ!! 上!?》

「……!!」

 

 俺はニコの気配を感じて――空を見上げた。

 

 何かがホロウ内に侵入し、此方を目指していた。

 小さな点のようなそれは金属で出来た何かで――まさか!!

 

《……そうね、カルロ……それがアンタの答えなら――私は変わるわ》

「ニコッ!!」

 

 奴だ。奴があの中に――いる。

 

 装甲の一部が剥がれ落ちて、何かの手が出て来た。

 ゆっくりとニコが纏う何かが出ようとしていた。

 

《変えて見せる。邪兎屋も……断ち切って見せるわ。金貸しと債務者の関係も、膨らんだ借金の事も……私を狂わせたアンタの事も》

「ニゴォォォォ!!!」

 

 俺は咆哮し光線を放つ。

 それは奴が入っている飛翔体を貫き――爆散。

 

 

 やったか――否、違う。

 

 

 奴は爆炎の中から飛び出し。

 間髪入れずにミサイルを放って来る。

 俺はそれら全てをバリアで防ぎ、空を舞う奴を睨んだ。

 

 俺は意識を集中させて奴らの会話を盗み聞く。

 

《コピー女!》

《私! カルロを止めないと彼の怒りが!》

《えぇ分かっているわよ! でもね、アイツにはもう私たちの言葉は届かないのよ。殺すしか道はないわ!》

《……人の心は無いんですかねぇ?》

 

 知らない若い男の声だったが激しく同意した――本物だなッ!!

 

 俺は怒りのままに奴へと攻撃する。

 しかし、流石は本物でありゴキブリのように生き汚く逃げていた――クソォ!!

 

《どうしてよ!? 力で分からせたって何の解決にもならないわ!! カルロは私に……いえ、債務者たち(ワタシたち)に囚われているの!! 本心な訳ない!! 私が絶対に止めて見せる!!》

 

 綺麗なニコが一歩前に出る。

 眩しいほどに美しさを感じた。

 俺は一瞬攻撃の手を止めて狼狽えた……違う、違う、違う違う違う違う……まやかしだ。

 

《……そうよ、囚われているのよ。決して解けない金で結ばれた縁という鎖にね》

 

 汚いニコの言葉に俺は血の涙を流す。

 すると、綺麗なニコは両手を広げて俺に言葉を送って来た。

 

《聞いてカルロ!! これが、こんな事が、本当にアンタがしたかった事なの!? 本当のアンタは、それで納得できるの!! ――答えて、カルロッ!!》

 

 綺麗なニコの真っすぐな言葉。

 それに俺は両手で顔を覆って声を震わせた。

 

「俺には、もう、何が正しい事か、分からない……こうするしか、こうでなければ……怒りの矛先が、殺意が、全ての人間に……ニコが、金を返してくれないのなら、ニコが、俺を裏切り続けるのなら……こうする以外に、道は――ねぇッ!!」

《ぐうの音も出ないですね。全部、あの人が悪くないですか?》

《しゃぁぁぁべるなァァァ!!!》

《ちょ!!? 人にバルカン砲撃つって頭おかしいいんじゃああああぁぁ!!?》

 

 空を舞うニコが遠くに向かって頭部のバルカン砲を放つ。

 ノイズが激しく、汚いニコの汚さが俺の心を怒りで塗りつぶしていき――“綺麗な想いが伝わって来た”。

 

《見つけましょう!! 私は本当のアンタを知っている!! 強くて怖くて……でも、純粋で優しくて……私が心から信じるアンタはただの金貸しなんかじゃない!! 憎しみや怒り、そんなものに囚われて生きるなんて……哀しいじゃない!!》

「怒りも殺意も、人を動かす根源だろッ!! 俺も他の奴らも仏にはなれねぇ!!」

《――それでもッ!! 私はアンタにそんな生き方をして欲しくないッ!! 私の人生を全てあげたって良い!! だから》

《勝手に人の人生をあげるんじゃないわよォ!! 何を言っても無駄ァ!! 殺すの、殺してやるのよッ!! 私を――新エリー都を守るにはそれしかないのッ!!》

《……いや、アンタ一人の命で何とかなるんじゃ》

《しゃああぁぁぁべるなぁぁぁぁ!!!!》

《わぁぁぁぁ!!?》

 

 倒壊したビルの一部にバルカンを放つニコ。

 俺は血の涙を流す。

 

 

《……それでも、私は……ニコ・デマラの意思は!! カルロを止めたい!!》

「……綺麗な、ニコ……っ!」

 

 

 俺は目を見開く。

 瞬間、綺麗なニコの纏うパワードスーツが光り輝く。

 

《止めて見せる。絶対に、この命を懸けてでも……ザンダム、私に力をッ!!》

 

 綺麗なニコの機体が青く光り輝き。

 その思念のオーラ俺へと迫る。

 俺は内包する怒りや殺意を赤いオーラとして放つ。

 互いに思念がぶつかりあい混ざり合っていく。

 

「俺の居場所は……俺の意思は――これだけなんだよッ!!! 死んでくれッ!! ニコ・デマラッ!!!」

《ぐ、うぅぅ――それ、でもッ!!!》

 

 俺が手を向けて汚いニコを殺そうとすれば。

 綺麗なニコの思念がそれを阻む。

 

「邪魔を――するなッ!!! 思い知れッ!!! 俺の、先祖の――痛みをッ!!!!」

《呑まれないで、カルロッ!! まだ、やり直せるッ!! 一からゼロからッ!!》

「子が親の思いを受け継ぐのは当たり前だッ!! 俺は先祖の願いを背負っているッ!! 親父も爺さんも、何世代も前からの思いもッ!!! ニコの、クズ共の、借りた分を――取りたてなきゃならねぇんだッ!!」

《それは願いじゃないッ!! 呪いよッ!! アンタ自身の願いは、弱き人を、救いを求める存在たちを――その手で温めてあげる事だったじゃない!! 私は偽物でも、本物と同じ記憶を持っている!! 何どでもでも言うわ!! 一緒に戻ってカルロッ!!》

 

 奴の思念が勢いを増す。

 一歩後退するが――先祖の声が聞こえて来た。

 

 

 取りたてろ、取りたてろ――取りたてろ、と。

 

 

「俺は間違って、いない……成すんだ。金貸しとして、俺が受け継いだのなら、思いも願いも苦しみも……それが子として、受け継いだものの――果たすべき誓いなんだよッ!!!」

《ぐ、うぁぁ!!?》

 

 綺麗なニコは俺の思念に苦しみの声をあげる。

 俺は血の涙を流しながら叫んだ。

 

「お前も、そのスーツも、お前を生み出したものが与えたんじゃねぇのかッ!! 果たすべき事があるのなら果たして見せろッ!! 此処が、この瞬間が――俺のぉぉぉ取り立てだァァァ!!!」

 

 怒りのままに口から光線を放つ。

 それらは全ての障害を焼き尽くし。

 綺麗なニコすらも消滅させようとして――汚いニコが救った。

 

 奴らは空を舞いながら、狂ったように泣き叫ぶ俺を見下ろす。

 

《コピー女ッ!! このまま奴の狙いをブレさせるッ!! トップスピードで奴の隙をつくわよッ!!》

「金、金、金、金、金……返せ、返せ、返せ、返せ――カエセェェェェェ!!!!」

《正気に戻ってッ!! お願い、カルロォォ!!》

《諦めろって言ってんのよォォ!!》

「アアアアァァァァ!!!!」

 

 俺は叫びながら、周囲一帯に光線を放つ。

 砂塵が舞い、視界が潰れて――正面の煙が晴れた。

 

 俺は口を大きく開けて光線をチャージし――

 

《撃てッ!!! 可能性に殺されてたまるかァァァ!!!》

《ああぁぁぁぁ!!!》

《そんなもん――捨てなさいぃぃぃ!!!》

《あああああぁぁぁぁ――ッ!!!》

 

 スローモーションの中で、綺麗なニコがライフルを構える。

 俺はその姿を見て――笑みを浮かべた。

 

 

 

「ニコ――――ありがとう」

 

 

 

 俺は狙いを逸らして――綺麗なニコが叫ぶ。

 

 

 

《――撃てませんッ!!!!》

 

 

 

 俺が放った光線はニコたちの下を抜ける。

 汚いニコは綺麗なニコからライフルを奪い――引き金を引く。

 

 眼前が真っ赤な光に覆われて、俺は――――

 

 

 〇

 

 

「あ、あぁ、そん、な……カルロ」

「……ふぅ」

 

 

 真っすぐに続くビームの跡。

 その真ん中で、膝をつきながら涙を流す偽物。

 私はパワードスーツを脱いでから、ホロウの地面に降り立った。

 見れば、ホロウが崩壊している。

 アレだけの攻撃で、耐えられなかったんでしょう……カルロ、侮れない男だったわ。

 

「カルロ、アンタは良い奴だったわ……私の借金と共に眠りなさい」

「「「……」」」

 

 私は敬礼をして、この世から消えたカルロに祈りを捧げる。

 すると、後ろから何か言いたげな視線を複数感じた……気のせいね。

 

「……さて! それじゃ、今日は疲れたからお風呂に入ってベッドに……ちょっと、何よ?」

 

 誰かが私の肩に手を置く。

 まるで、まだやる事は残っているといいたげだ。

 分かっている。これだけの事を起こしたのなら色々と手続きがあるんでしょう。

 面倒だとは思うけど、付き合う他ない。

 まぁカルロとはそれなりに長い付き合いだったし、花くらいなら添えても……痛い。

 

「ちょ、ちょっと痛いわよ! ゴリラみたいな力でこのかよわい乙女の肩、を…………へ?」

 

 私は振り返る。

 すると――目があった。

 

 肌は煤だらけで、辛うじて股間の辺りは布があったが。

 ボロボロであり、髪はちりちりアフロヘアーになっていた。

 面白い姿の筈なのに、私の顔には笑みは浮かばない。

 

 光が消えた闇のような瞳。

 ガチガチと歯を鳴らして震える私に一言も発する事無く――カルロが見下ろしていた。

 

「あ、あぁ、ぁあ……や、やっぱりねぇぇぇ!! アンタならあれくらいでくたばる筈が無いって私は信じていたわ!! さ、流石は金貸しのカルロさんじゃない! いやぁ、男前に磨きがかかって」

「――殺すしか道はない、だったか?」

「へ、へぇ? にゃ、にゃんのことかにゃぁぁ?」

「……アイツにはもう私たちの言葉は届かないのよ。殺すしか道はないわ……だったな、確か」

「ふ、ふへ、ふひ……うぷ……き、記憶に、ないかにゃぁぁ、あは?」

「ふぅん、あ、そ……じゃ、行こうか」

「え、ど、何処に……あ、ああぁ、ああああ、あああぁ嫌ぁぁぁ誰か誰かぁぁぁ私を助けなさいぃぃぃ!!」

 

 カルロは近くにあった標識を持つ。

 そうして、それを折り曲げて私の体を拘束した。

 そうして、そのまま買い物バッグのように私を持つ。

 私は必死になって助けを求めた。

 が、頼りの人間たちは目を逸らしていた……こ、このぉぉぉ!!!

 

「……カルロ!! 良かった、生きて……っ!!」

 

 カルロは足を止める。

 そうして、偽物に視線を向けて……微笑んだ。

 

「ありがとう。お前の言葉は……確かに、届いたよ」

「……っ!!」

「私は!!? 私の言葉はぁぁ!! あ、アレは私みたいなものだから私も許されたっていやぁぁぁぁ!!」

 

 カルロは私を無視して歩いていく。

 私はガタガタと震えながら、これからどんな目に遭うのかを想像して――

 

 

 

 ##

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……み、水」

 

 私はタンクトップ一枚で必死になって斧を振っていた。

 これで六十八本目であり……まだある。

 

「休むなよ。まだ仕事は山ほどあるんだ」

「と、土地開発って……それも、私一人って……で、出来る訳が――あぐ!?」

 

 ヘルメットをかぶったカルロ。

 奴が鞭を振るって地面を叩いた。

 奴は道端に落ちたうんこを見るようなめで私を見つめる。

 

「出来るか、出来ないかじゃない――やるんだよ、ニコ」

「お、鬼!! 悪魔!! カルロ!!」

「好きなように言えばいい。が、休みはまだ先だ。何年掛かってでも、この島は開発してもらうからな……覚悟しろよ?」

 

 カルロは鞭を引っ張りながら邪悪な笑みを浮かべる。

 私はぷるぷると震えて、天を仰ぎ見て――

 

「どうしてこうなるのよぉぉぉぉぉ!! うわぁぁぁぁん!!」

「……おもろ」

 

 大声で泣き叫べば、カルロは私を慰めず。

 デジカメで写真を撮るだけだった。

 その所業に更に大声で泣きながら、私はカルロとの縁はそう簡単には断ち切れないのだと悟った。

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