金返せニコ   作:SAMU

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11:kill the fight(転売ヤーは滅ぶ)

 XXXX年、新エリー都は――未知のウィルスに汚染された。

 

 突如発生したパンデミックに、人々は混乱する。

 一部の上流階級の人間のみがこの事態を事前に察知し。

 市場にあったマスクや消毒液を買い占めていた。

 政府は緊急事態を宣言し、この未知のウィルスを――“ムーンウィルス”と命名した。

 

 

 ===

 

 

「……はぁ」

 

 街を歩く。が、人は疎らだった。

 政府からの命令で不要不急の外出が要求されちまった。

 誰しもがウィルスを恐れて部屋に閉じこもっている。

 が、働かなければ飯は食えない。

 だからこそ、俺を含めた労働者たちは今日もマスクをつけて仕事をしていた。

 

 ウィルスの蔓延もそうだが。

 最近はやたらとついていない。

 血走った目の市民たちに家を襲撃されたり。

 今まで仲良くしてくれた企業の方々から塩をぶん投げられたり。

 何処に行っても親の仇のような扱いをされて……俺が何をしたって言うんだよ?

 

「はぁ、たく……あぁ?」

 

 煙草を吸おうとしてマスクを外せないからと手を引っ込める。

 すると、駅の方で騒がしい声が聞こえて来た。

 

「あぁあん!? テメェマスクはどうしたぁぁ!?」

「え、い、いや、す、すぐそこなので、へ、へへ――うべぇ!?」

「すぐそこだぁぁ!!? テメェの勝手な判断で人が死んでもいいってのかぁこのクズ野郎がぁぁ!!」

「ひ、ひぃぃぃ誰かぁぁ!!?」

 

 声のした方向を見る。

 すると、明らかに治安官ではないガタイの良いモヒカン共がマスクのしていなかった一般人を棒で殴っていた。

 最近になって街で見かけるようになった“マスク治安官”であり。

 あぁやってマスクをつけていな輩を見れば袋叩きにしている。

 本物の治安官がいれば多少の注意で済むが、あぁいう輩に見つかれば最後だ……嫌だねぇ、全く。

 

 俺は哀れな一般人を無視してそのまま仕事に行こうと――

 

「だがぁテメェは運が良いぃ。今ならこの――邪兎屋印の高性能マスクが何とたったの3000ディニーで買えちまうんだからなぁ!!」

「――は?」

「さ、3000って1枚でそんな値段あああぁぁ買います買いますぅぅぅ!!」

 

 サラリーマン風の男はマスクを1枚貰って金を渡す。

 そうして、逃げるように去っていった。

 俺は足を止めて、今さっき聞こえたワードに震える……ま、まさかな?

 

 俺は頭を振る。

 そうして、何も聞かなかった事にして去ろうとし――また声が聞こえた。

 

 見れば、布の切れ端を口にあてた子供たちで。

 彼女たちはあのマスク治安官共に対してマスクを譲ってくれと言っていた。

 すると、奴らはあくどい顔をして金を要求する。

 

「お、お金は無いです。で、でも、邪兎屋さんは、一杯、マスクがあるって、だ、だから少しでいいので、譲って」

「あぁぁああん!? 金がねぇのに貴重なマスクを譲れだぁぁぁ!!? 親の教育がなってねぇぇなぁぁあ!! どれ、俺たちが教育してやろうかぁぁ!!」

「ひゃっはーーー!!! 気合入れろやぁぁ!!」

「「「わ、わぁぁ!?」」」

 

 奴らは棍棒を振りあげる。

 俺はそれを見て駆けだす。

 そうして、子供たちの前に立ち。

 奴らの棍棒を体で受け止めた。

 

「あぁ!? テメェは――っ!! や、やべぇ!! に、逃げるぞ!!」

「あ、兄貴ぃぃぃ!? ちょ待ってくださいよぉぉ!!」

 

 奴らは俺の顔を見るなり逃げ去っていく。

 俺は静かに息を吐き、後ろで震えるガキ共に声を掛けた。

 

「……大丈夫か?」

「あ、は、はい……あ、血が」

「大した事はねぇよ……なぁ、アイツらの事、何か知らねぇか?」

 

 俺は邪兎屋……ニコについて聞く。

 

 瞬間、ニコの名前にガキ共は震え出す。

 暫く待てば、ガキ共の中では年長そうな少女が口を開き――

 

 

 

「……此処か」

 

 俺は本気モードのジャケットを羽織り。

 悪のドンであるニコ・デマラが占拠した高層ビルへとやって来た。

 建物の前には屈強な男たちが立っていたが。

 俺はそいつらを無視して建物へと入ろうとした。

 

「あぁ? おいテメェ此処が何処だか――うげぇ!?」

「て、テメェ!! よくも――あべしぃ!?」

 

 俺はカス共をぶん殴る。

 そうして、自動ドアを破壊して中へと入る。

 瞬間、ガラの悪い奴らが武器を構えて俺を盛大に出迎える。

 奴らは汚ねぇ唾を出しながら俺を威嚇してくる。

 俺は静かな怒りを放ちながら、拳を鳴らし――

 

「死にてぇ奴から――前に出ろ」

「……! テメェらやっちまえぇ!!」

「「「ひゃっはーー!!!」」」

 

 

 #

 

 

 エレベーターの扉が開く。

 俺はボコボコにしたクズを投げる。

 そうして、豪華な椅子に座って足を組む女――ニコ・デマラを睨んだ。

 

「あら、誰かと思えばカルロさんじゃない……どう? 最近の景気は」

「――御託は良い。謝罪か死か。選べよ、クズ野郎」

 

 俺は奴の姿を見て怒りのボルテージを上げて行く。

 奴はこの危機的状況でも静かなもので。

 足を組むのを辞めて椅子から腰を上げた。

 

「謝罪? 私は何もしちゃいないわよ。お金だってちゃぁんと返すわ――ほら」

 

 奴はそう言って、胸元から札束を取り出す。

 それを俺の前に投げ捨ててから視線で拾えという。

 

「好きでしょお金。利子も含めてあるわ。遠慮しないで受け取りなさいよ」

「……俺がこの汚ねぇ金を受け取ると?」

「あら? お金に綺麗も汚いもないんじゃなかった? それとも、怒りで仕事が出来ないのかしらぁ」

 

 奴は俺を煽って来る。

 俺はびきりと青筋を浮かべながら拳を鳴らす。

 

「テメェだろ。俺の名前を勝手に使って、こすい真似をしたのは……お陰で、俺の世間からの信頼は地の底だ。死ぬ覚悟は出来てんだろうな?」

「死ぬ覚悟? いいえ、そんなものは必要ないわ。何故なら、私は今日ここで――アンタを地獄へ葬るんだからね」

 

 奴はそういって指を鳴らす。

 瞬間、足元から何かが出現し。

 一瞬にしてニコの体を包む。

 何が起こったのかと確認すれば――銀色のスーツを纏っていた。

 

「とあるテロリストたちが対虚狩り用に作らせた戦闘用パワードスーツ……これを纏った私の戦闘力は――あの星見雅に匹敵するのよ」

「……面白れぇ。そんな玩具で喜ぶテメェの面――ひっぱたいてやるよ!」

 

 俺は拳を構えて走る。

 ニコはそのままの姿勢で片手を上げる。

 俺は腕を振りかぶり、奴の顔面を殴ろうとし――指一本で止められた。

 

「……!?」

「はは、その程度なの?」

「ほざけ!!」

 

 俺は奴の腕を払う。

 そうして、連続攻撃を仕掛けた。

 が、全て片手で払われてしまう。

 俺は全力でパンチを放ち――腹に強烈な衝撃を感じた。

 

「うごぉ!?」

「……哀れね。金貸しのカルロ」

 

 俺は後ろに後退する。

 とんでもない破壊力であり足が震える。

 俺はニコを睨むが、奴は涼し気な顔で……奴がふっと笑う。

 

「冥土の土産に教えてあげるわ。えぇ、そうよ。貴方の名前を使って、お金を借りたり企業からの支援を取り付けたのは――私よ」

「……! やっぱり、かぁ!」

「ふふ、でも、まだあるわ。例えば、貴方が大事にとっておいたお酒、あれ実は隠れて私がこっそり飲んでたわ。全部飲んじゃったから、適当な安酒に変えたのも――私よ」

「……は?」

「ふふふ、まだあるわ。そうね、アンタが見たかったって言ってた映画。私が持って来るって約束してたじゃない? でもね、面倒だったのとアンタが支払った額以上でしか取引できそうになかったから、私全く別の映画を持って来てね。アンタが面白いって言ってたアレを低コストで作らせたのは――私よ」

「……は、はは」

「もうこの際だから全部言うわね? 後は――」

 

 奴は自らが優位であるからとべらべらと罪を得意げに語る。

 俺はそれを聞きながら、怒りのボルテージを限界を超えて跳ね上げて行く。

 そして、怒りにより体の痛みは全回復し、肉体が極限を超えて強化されていくのが分かった。

 奴は全てを語り終えるとスッキリした顔になる。

 

「さて、これでお終いよ! まぁまだあったかもしれないけど、どうでもいいし。じゃ、ちゃちゃっと終わらせて……あれ?」

「……ニコ、はは――テメェの血は何色だッ!!」

「ひぎ!? そそそそそそんな怖い顔したってこっちにはスーツが!!」

 

 奴は高速で動く。

 そうして、死角から迫って来て拳を撃ち込んできた。

 奴が笑ったのが見えて――奴の腕を掴む。

 

「これはテメェが飲んだ――酒の分だァァ!!」

「きゃあああぁぁぁ!!?」

 

 俺はニコのアホを全力でぶん投げる。

 瞬間、奴は窓を突き破って彼方へ吹き飛ぶ。

 俺は床を蹴り、奴を追いかけた。

 

 一瞬にして回転する奴に追いつき。

 そのまま奴を下へと拳で叩き落す。

 すると、廃ビルにぶち当たり奴は瓦礫の中に埋まる。

 俺は静かに床に着地し、冷めた目で奴を見つめる。

 

「出て来い。生きているだろ、ゴミ女」

「く、うぅ……は、はは、だったら見せてやろうじゃない。真のスーツの力をッ!」

 

 奴は瓦礫から飛び出す。

 そうして、抜刀の姿勢で固まり――腕を振るう。

 

 瞬間、見えない刃が放たれて。俺の体を抜けて行った。

 ぶしゅりと鮮血が噴き出し、奴は手応えを感じて笑っていた。

 

「はは! ざまぁみなさい! これこそこのスーツの真の力! お武家狐の抜刀術にも匹敵するこの切れ味が……へ?」

 

 俺は胸の傷に触れる。

 そうして、軽く付着した血を舐めてぺっと吐き捨てる。

 

「これが、星見雅の抜刀術に……笑えねぇ冗談だな」

「う、嘘。そ、そんな、ば、馬鹿な……あ、あぁぁあり得ない!! あり得ないんだけど!?」

 

 ニコは震える。

 そうして、勝手に言い訳を始めた。

 

 マスク商売は違法ではないと。

 ただ少し高い金額で売っているだけで。

 俺の信用を損なったが、すぐにこの商売の成功で取り戻せると。

 だからこそ、怒りは収めて一緒に利益を追求しようと……はは。

 

 

「ニコ、金で――テメェの罪は消えねぇんだよ」

「う、ぅう!! こ、この野郎!!」

 

 

 奴は近くに落ちていたコンクリの柱を掴む。

 そうして、自暴自棄になってそれで俺を殴って来た。

 コンクリは砕け散り、奴は泣きそうな顔で笑って――絶望する。

 

「う、嘘、よ。に、人間じゃ、な、ない」

「……」

 

 俺は奴へと近づく。

 奴は歯をガチガチと鳴らしながら震えて――奴の頬をビンタした。

 

「うべぇぇ!? い、いぐ、な、殴った、わねぇ!?」

「……どうした。使えよ」

 

 奴はちらりと近くに落ちていた鉄の棒を見る。

 俺が使えと促せば、奴は息を荒くしながらそれを掴み――絶叫する。

 

「ひぎゃぁぁぁぁ!!? あ、あぁ、ま、まさか、アンタ、こ、この、私の、体に!?」

「あぁ使った。お前の体の秘孔の一つを突いた……今、テメェの体はむき出しの神経状態だ」

「う、うぐ!? こ、この、外道めぇ……あ、あ! ご、ごめんなさい! 嘘嘘! じょ、冗談ですよぉ! わ、私がカルロさんの事悪く言う訳ないじゃないですかぁ? も、もぉ、あ、きょ、今日もかっこいいですうきゃぁあぁぁ!!?」

 

 俺は無言で奴の頬をつく。

 瞬間、奴は絶叫し体をのけ反らせた。

 奴は俺の怒りを受けて必死になって逃げて行く。

 俺はゆっくりとした足取りで奴を追っていった。

 すると、ニコのアホは出口が塞がれている事に気づき。

 近くのダストシュートへと突っ込んで……間抜けにもデカいケツを揺らしていた。

 

「ひぎぃぃ!!? は、はまったぁ!? う、嘘よ!? え、そんなに太ってた!? え、え!? ちょ!?」

「……無様だな、ニコ・デマラ……今のテメェにはお似合いの姿だぜ」

「か、カルロさぁん! ゆ、許してぇぇ! ね、ね! 長い付き合いじゃない! あ、お金! 稼いだお金全部あげちゃうわ! た、足りないなら私が体で返すから! す、好きにしていいのよぉ! 胸もおしりも、ね、ねぇ♡」

 

 奴はふりふりとでかいケツを振る。

 俺はそれを見て、ゆっくりと手を上げて――奴のケツを叩く。

 

「ひぎぃぃぃぃぃぃ!!?」

「……好きにしていいってか。なら――遠慮なくッ!!!」

「ちちがうぎぃぃぃぃぃぃ!!?」

 

 俺は奴のケツをまたぶったたく。

 奴のケツからマシンガンの音でも聞こえるほど震えていた。

 俺はそれを見ながら、奴が汚濁の混じった声で謝罪を始めたのを聞く。

 

「ご、ごめんなひゃい、お、お願い、だから、ゆ、ゆる、じで」

「最後だ。この一撃は、お前によって全てを失ったこの俺の、俺自身の」

 

 俺は殺気と怒りを右手に込める。

 ビル全体が揺れる中で、ニコが必死にケツを揺らし――

 

 

 

「俺のぉぉぉぉ怒りだァァァァァ!!!!!」

「いぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

 

 

 爆弾のような音が響き。

 ニコ・デマラの汚い声が世界に響く。

 そうして、じょろじょろという水の音を聞きながら、俺は静かに目を閉じて――

 

 

 

 #

 

 

「ま、マスク、マスク、いりませんかぁ? い、今ならたったの500ディニー!」

「けったけぇんだよ! 今時マスク何て200ディニーで買えるんだよ! くたばれ転売ヤー!」

「う、うぐ! わ、私のマスクビジネスがぁ! こ、この在庫、どうすればぁ!!」

「お、親分」

「……まさか、ウィルスの特効薬がすぐに作られるなんて……今日も夕飯はもやし炒め」

「う、うぐぅぅ!!? カルロのせいでお尻がまだ痛いし――責任とりなさいよぉぉぉぉぉ!!!」

「はぁ……うめぇぇ」

 

 俺は事務所の中で煙草をふかせながら阿呆の声を聞く。

 事務所の前で嫌がらせのようにマスクの販売をやっているが。

 アンビーとビリーに免じて許してやっている。

 

 きゃんきゃんと騒ぐ阿呆の為に。

 俺は煙草を灰皿で消し、窓を開けてから笑みを浮かべる阿呆を――ぱしゃりと撮る。

 

「へ?」

「良い面じゃねぇか――負け犬」

「……!!? この野郎ぉぉぉぉぉ!!!!」

「お、親分!? 暴力はダメだって!!! ただでさえ治安局にマークされてんのに今はぁぁ!!?」

「放せェェェ!!! アイツを殺して私も死んでやるぅぅぅぅぅぅ!!! 地獄までついていってやるぅぅぅぅ!!!」

 

 阿呆は涙と鼻水をぶちまけながら騒ぐ。

 ビリーはそんな阿呆を必死に羽交い絞めにしていた。

 

「アンビー、疲れたろ? ハンバーガー買ってるから上がって来いよ。ビリーも、オイルあるぜぇ」

「――すぐに行く」

「え、マジかよ! 俺も――てぇ無理だぁぁ!!?」

「私も誘えやぁぁぁぁボケナスぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「はは、おもろ」

 

 俺はまたパシャリと撮ってから窓を閉める。

 事務所の前で破壊音が聞こえるが無視。

 今日も今日とて平和だと思いながら、カメラの写真を見て口角を上げた。

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