金返せニコ   作:SAMU

3 / 11
3:地獄に仏

「……」

 

 モニターに映る画面を見ながら、俺は妙な違和感を抱いていた。

 そこに映るのは我が最大の宿敵――ニコ・デマラ。

 

 奴はここ最近、妙に羽振りが良くなっている。

 金払いが良くなっており、利息の支払いと此方が定めた金を納めて来る。

 完済には程遠いものの、何時もの奴とは思えない羽振りの良さだ――だからこそ、違和を感じる。

 

 奴の金払いが良くなる時、決まって良くない事が起こるのだ。

 何時もそうであり、これは嵐の前の静けさだ。

 俺は奴の行動パターンを分析しながら考える。

 かれこれ三日ほど考えており……ん?

 

「今のところ、巻き戻せるか?」

「え、あぁ、はい」

 

 部下に指示をし、映像の巻き戻しを要求する。

 そうして、此処だと指示したところで映像を止めさせた……なるほど。

 

 奴は道を歩いていた。

 が、鞄から何かが落ちて、それを凄まじい速度で拾い上げていた。

 顔はポーカーフェイスであるものの、確実に動揺していると俺には分かる。

 

 

 ――恐ろしく速い動き……奴の羽振りの良さはあれか。

 

 

「あの紙にズームを。解像度を上げろ……決まりだな」

 

 それは一枚の紙切れだ。

 が、ただの紙切れではなかった。

 アレは宝くじであり……奴は確実に当選している。

 

 それも高額当選だろう。

 奴の事だから誰にも言わず。

 換金が出来る当日まで肌身離さず持ち歩くつもりだ。

 

 俺は端末を取り出す。

 そうして、全ての金貸しに指示を送る。

 

「ニコ・デマラが大金を隠し持っている。すぐに確保しろ」

 

 このまま奴を野放しには出来ない。

 奴であれば、大金が手に入ればどういう事になるかは想像に難い。

 散財し、豪遊し、仲間たちに大盤振る舞いし――素寒貧だ。

 

 そうなる前に、その大金は此方で確保する。

 部下たちに指示をし、ニコの現在位置を特定する。

 

「……どうなりますかね」

「さぁな……だが、あの女が素直にくじを渡すわけがない……“特戦隊”に連絡をしておけ。俺も出る」

「了解しました」

 

 部下に指示をし、俺は部屋を出る。

 ニコ・デマラを甘く見た事など一度も無い。

 今までも。そして――これからもだ。

 

 

 ##

 

 

「――A班並びにC班、反応ロスト」

「B班はどうした」

「……通信が繋がりません。恐らくは」

「……」

 

 運送屋のトラックに偽装したトラックの中。

 耳に通信機を当てた部下が悲痛な声をあげる。

 俺はそんな奴らを見ながら、流石はあのニコだと感心した。

 

 ニコの確保の指令を出してから約三時間。

 奴は既にこちらの動きを察して自宅から逃亡。

 追手を振り切り、新エリー都内の廃ビル内に潜伏していた。

 此方も特戦隊を呼び出動を命じたが、既に三チームが奴によって排除された。

 

 奴は誰よりも金にがめつい。

 一枚のコインであろうとも、自分の手から零れる事を許さないのだ。

 そんな奴が自分の手に収まった大金を奪われようとすればどうなるか。

 

「獣だ。本能のままに獲物を喰らう獣だよ。お前は」

「ぼ、ボス……ど、どちらに?」

「……俺以外に、誰が奴の相手をする? 行ってくる」

 

 俺はトラックの扉を開けて外に出る。

 そうして、歩いて行けば目の前には大きな廃ビルが聳え立っていた。

 俺はそれを静かに見上げてから、開け放たれた扉を潜って中へと入って行く。

 

 

 

「……」

 

 ビル内を散策する。

 窓ガラスの破片や水に濡れた紙が散乱していた。

 歩いて、歩いて、歩いて……見つけた。

 

「……キース」

 

 そこにはパンツ一枚で倒れる特戦隊Aチームのリーダー・キースが倒れていた。

 顔はパンパンに腫れていて、うるしか何かのトラップにやられたとすぐに理解した。

 賢い奴であり、武器は勿論の事、金目になりそうなものは全て奪っていやがった。

 流石は邪兎屋のニコであり……だからこそ、読みやすい。

 

 俺はディニーがパンパンに詰まった袋をポケットから出す。

 それをこれ見よがしにふりジャラジャラと鳴らせば。

 建物内に金の音が響いていった。

 

 クマよけには鈴だが、ニコを引き寄せるのなら金の音だ。

 

「ニコ、いるんだろう。出て来いよ。話し合おう。此処にはお前の好きなディニーしかないぞ」

 

 じゃらじゃらじゃらと鳴らす。

 すると、僅かにだが物音が聞こえた……来たな。

 

 扉を開けて中に入る。

 そこは広い会議室であり、長い机と椅子が等間隔に設置されていた。

 破れたスクリーンに、壁には落書きがされていて。

 俺は周囲を見ながら、ディニーを一枚取り出し――床に落とす。

 

「……!」

「――そこだ!!」

 

 俺はホルスターから拳銃を出す。

 そうして、奴の気配がした方向に放つ。

 すると、俺のスタン弾は壁に当たりバチリとスパークした。

 影のような動き、床に落ちたディニーを掬い上げる。

 連続して引き金を引いて銃弾を放つが、掠りもしない。

 影はそのまま扉を抜けて、奥の部屋に逃げていく。

 

「クソ! 待ちやがれ!!」

 

 俺は銃を握りながら追いかける。

 走って走って――ッ!?

 

「ぬあああ!!?」

 

 廊下を曲がった瞬間、俺の顔面に何かが当たる。

 俺はそのまま後方に吹き飛んで置かれていた棚を吹き飛ばした。

 がばりと起き上がり見れば、それはボンプの銅像だった。

 ぶらぶらと揺れており、ワイヤーなどによる――トラップだ。

 

「あの野郎……マジみてぇだな」

 

 俺は警戒心を強める。

 あのニコが本気で俺を消しに来ている。

 それが表すのはマジで宝くじに当選したということで。

 死んでもあの大金を俺たちに渡さない気でいる。

 

 俺は足を動かし、奴を追っていった。

 廊下を進み、奴の足跡を辿る。

 泥の足跡がくっきりと残っているが……違うな。

 

 廊下を進んでいけば、狭い通路に切り替わる。

 両側には合計で四つの扉があった。

 

 右側手前の扉の先で泥が消えている。

 本来であればこの扉の奥に入ったと考えるだろう。

 が、それはブラフだ。

 俺は壁に背を預けながら、ドアノブを握り――開け放つ。

 

 瞬間、部屋の中から勢いよく煙が噴き出す――クソッ!!

 

「……っ」

 

 片手で口を押える。

 奴め、俺がブラフに気づくと睨んで敢えてガスを選んだのか。

 恐らくは催涙ガスの類であり、俺はすぐに前の扉にタックルをして破壊する。

 滑るように中に入り――なぁ!?

 

「うああぁぁぁ――ッ!!」

 

 先の床が抜けていた。

 途中までの床には油が塗られていた。

 だからこそ、止まる事が出来ず体が穴の中に吸い込まれそうになり――銃弾を穴の近くにあった消火器に当てる。

 

 瞬間、消火器の凹みから勢いよく消火剤が噴き出した。

 俺はその威力を利用し、ギリギリで体の進行方向を変える。

 穴の縁を滑り、そのまま空き箱の中に突っ込んだ。

 

「はぁはぁはぁはぁ……クソ、ゲリラ戦じゃねぇんだぞ」

 

 全身が汗と油に塗れていた。

 俺は上の服をその場で脱ぐ。

 そうして、レザーを滑り止めとして靴につけて利用する。

 

 部屋から抜け出す時に穴の中を見れば。

 その下には水たまりと漏電したケーブルが垂れ下がっていた。

 

「……ニコの野郎。俺を殺す気か……上等だ。そっちがその気なら、俺にも考えがある」

 

 

 

 

 無数のトラップを突破していく。

 抜け目のない奴であり、此方の裏を読む事に関しては一流だ。

 が、奴が俺の思考を読めるように、俺も奴の考えがある程度は分かる。

 だからこそ、ニコが俺に対してどういう作戦を取るかを考えて行動し……遂に奴を追い詰めた。

 

 建物内の最上階に位置する場所。

 元々は社員たちの息抜きとして作られたアスレチックゾーンだったらしいが。

 人の手が消えた事によって薄暗く、不気味な空間になっていた。

 

 全身汗まみれであり、擦り傷も目立ってきた。

 頬の血を指で撫でて舌で舐めとり唾と共に吐き捨てる……感じる。

 

 ニコの気配であり、奴が使う香水の匂いが漂っていやがった。

 俺は拳銃を持ちながら、ディニーの袋を動かし――投げる。

 

 袋は宙を舞い、部屋の中心にぽすりと落ちて――そこだ!

 

「……ぬぁ!?」

 

 乾いた銃声が響く。

 それは俺の銃から発せられたものじゃない。

 敵の銃弾であり、俺は肩を撃たれた。

 思わず銃から手が離れてしまい、俺の愛銃はそのまま穴の中に落ちてしまった……やられた。

 

 「はぁはぁはぁ……うぅ」

 

 ゴム弾であるが痛みはある。

 俺は肩を押さえながら、ニコの射線から身を隠す。

 呼吸を落ちつかせながら奴の気配を探り――ニコの声が響く。

 

「……いい加減にしなさいよ。アンタたち、そんなにこの私からお金を絞り出したい訳?」

「……借りた金は返すものだ。学校で教わらなかったのか? えぇ?」

「返すわよ。えぇ、この私の名に懸けて借金を踏み倒したりはしないわ……でも、今すぐには無理よ」

「――宝くじに当選してもか?」

「……! やっぱりね……えぇ、そうよ! このお金は別の使い道があるの! アンタたちに返すよりも先に、しないといけない事が私にはあるの!! 分かったのなら、とっととお家に――え!?」

 

 奴が驚いたような声を上げた。

 何故ならば、奴の背後に――俺が忍び寄っていたからだ。

 

 俺は奴に手を伸ばす。

 そうして、奴の腰のポーチ――ではなく、胸の谷間に手を突っ込んだ。

 

「ひゃああ!!?」

「――頂くぜ!」

 

 思った通りだった。

 奴であれば、俺が絶対に手を出さない所に宝くじを仕込む。

 それを読んだうえで賭けに出て――俺は勝った。

 

 宝くじの紙を持ちながら奴を見る。

 すると、奴は顔を赤くしながら目に涙を溜めて俺を睨む。

 

「爪が甘いぜ、ニコさんよぉ」

「……アンタ、ただで出れると思わないでよ。私の胸を触った代償は高くつくわよ」

「ふん、テメェの脂肪の塊なんざどうでもいいんだよ。これさえありゃ……あぁ?」

 

 俺は暗い部屋の中で手に持った宝くじを見つめる。

 薄っすらと番号が見えている。

 確かに当たりの番号ではあった。

 が、すぐに俺は文字の横の分かりにくい汚れに気づく。

 奴の汗で少しだけ消えた汚れの下には…………え?

 

「隙ありッ!!」

「あ、おい」

「――おーほっほっほっほっほ! 間抜けなカルロさん! 最後に勝利を掴むのはやっぱりこのニコだったようねぇ!」

 

 奴は俺の手から宝くじをかすめ取っていく。

 そうして、高笑いを浮かべていた……あぁ、うん。

 

 奴は宝くじをポーチに仕舞う。

 そうして、やる気満々の顔で拳を固めていた。

 俺はぽりぽりと頭を掻いて……。

 

「……分かった。諦めるよ。俺は帰る。仲間たちにも手を引くように言っとくよ」

「…………何のつもり? あのハイエナのカルロが、あっさりと手を引くなんて……アンタ、まだ何か企んでいるんじゃ」

「いや、何も? お前の勝ちだ。それも当然のお前のもんだ」

「……そう、まぁいいわ……ふふふ、まぁ今日は縁が無かったかもしれないけど。お金はちゃぁぁんと返すから、ね?」

「あぁはいはい。そんじゃお疲れさん」

 

 俺は踵を返して去っていく。

 歩いて、歩いて……足を止めて奴に対して忠告する。

 

「一応、言っておくぜ……それ、汚れは取っておけよ」

「……? 汚れって何よ。確かに、ちょっと汚れてるけど……ふん」

「……言ったからな?」

 

 俺はそれだけ伝えて去っていく……はぁ、本当に金に縁のねぇ奴だな。

 

 

 ##

 

 

「……………………何見てんのよ」

「……はぁ」

 

 道路を歩いていれば、知り合いを見つけた。

 ピンクの頭に、気が強そうな言動の女。

 が、今は看板を持ちながら大人しく立っているだけだった。

 

 ルミナススクエアでおかしな奴らがいるとインターノットで見つけて来てみれば。

 やはり、悪名高い邪兎屋の連中であった。

 アンビーとビリーも同じように看板を持って必死で営業をしていた。

 

 可哀そうな奴らだと思いつつ。

 俺は煙草を吹かせてニコを真正面から見つめる。

 すると、奴はみるみるうちに眉間に皺を寄せて――キッと俺を睨みつけてきた。

 

「えぇそうよ!! 当たったと思った宝くじが実はミニの方で!? 番号が違うからそもそも何も当選していなかったけどぉ!? 当たったつもりで散財して、馬鹿を見たのはこの私だけどぉ何か文句がありますかぁ!!? えぇ!!?」

「……でけぇ声出さなくても聞こえてるよ。間抜け」

「……! う、うぅ……私は、私はぁ……う、うぅぅ!!」

 

 奴はその場にへたりこむ。

 そうして、泣きまねを始めた。

 それを見ていた通行人はひそひそと話し始める。

 完全に俺が悪人であり、中にはお金を奴の近くに置いてあった帽子に入れる馬鹿もいやがる……抜け目ねぇなぁ。

 

「……テメェが泣こうが喚こうが、俺にはくそほどどうでもいい事だ……さぁ払えよ。取りたての時間だ」

「……! ま、待ちなさいよ! 今月の利息……と、確か目標分は払った筈でしょ!? 何でよぉ!?」

「何でってそりゃ当然、テメェが先々月の目標分を払ってねぇからだボケ。さぁ払えよ。無いなんて言わせねぇぞ」

 

 俺は真顔のまま片手を向ける。

 奴は泣きまねをやめて野良犬のように唸り声を上げ始めた……はぁ、たく。

 

「……上等じゃない。アンタがその気なら、この前、私の……む、胸を触った事で訴えてやるんだから!」

「……好きにすりゃいい。誰もテメェの言葉なんざ信じねぇだろうよ。ほら吹きニコさんよ」

「うぅぅぅ!! 言わせておけばこの――うべぇ!?」

 

 俺は襲い掛かってきそうだった奴の顔に紙を張り付ける。

 奴は地団駄を踏みながらも紙を引っ剥がして書かれている内容を見る。

 

「仕事をやるよ。それで目標分は払った事にしてやる。経費だって出してやるよ。好きなものを買って、好きなものを食って、好きなように過ごせ」

「…………アンタ、これ…………ふざけないでよ。どういうつもりよ…………一体、何処で、これを!」

 

 奴は肩を震わせながら俺を睨む。

 俺は煙草を吹かせながら、何の事かさっぱりだと言ってやる。

 

「俺はただ孤児院のガキ共に良い夢を見せてやれって言ってんだ。リゾートで遊ばせて、たらふく飯を食わせて、好きなもんを買ってやれってな。簡単な事だろ?」

「私はそんな事を言ってるんじゃないわよ!! 私は、私は……これは、私がアイツらとの、約束で……っ!」

 

 ニコ・デマラは金にがめつい。

 が、それは何も全てが私利私欲によるものじゃない。

 こいつは気前がよく、仲間や家族を大切にする。

 それが例え、金の価値を良く知らないガキであろうとも。

 こいつは一度した約束を果たそうとする。

 

 散財していると思っていれば、それが全てガキが喜ぶもので。

 サプライズなんかを計画し、ガキのようにはしゃいで。

 周りには話さずに、一人でこそこそと動いてやがった……けっ。

 

「テメェに拒否権なんかねぇ。テメェはその仕事を受けるしかねぇんだよ。分かったらとっととそんな無様な真似は止めて、家に帰って支度をしろ。誰かさんがプランを考えてくれたお陰で、俺は金を払うだけで良かったからな。あぁ楽できたぜ! これで社会貢献が出来て、また金を借りに来るカス共が増えるってもんだ」

「……この、大嘘つき……本当に、馬鹿なんだから…………ありがとう」

「……聞こえねぇな。あぁ聞こえねぇ……楽しんで来いよ」

 

 俺はそのまま踵を返して去っていく。

 見れば、ビリーとアンビーが頭を下げていた。

 俺はひらひらと手を振り、後ろですすり泣く馬鹿を見る事はしなかった。

 

 貸した金は必ず回収する。

 それは絶対であり、慈悲何てねぇ。

 が、回収する日は俺が決める。

 

 今日はその日ではない。

 払えねぇってんなら仕事をやる。

 例え利益がほとんどなくたって、俺が満足できりゃ十分だ。

 どうせ、あの女との付き合いはまだまだ続く。

 

 煙草を片手で掴み煙を吐く。

 

「死ぬまでには……回収してやるさ」

 

 俺はそう呟き、雑踏の中を進んでいった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。