金返せニコ 作:SAMU
今朝、堪らなく嫌だったけど……カルロに連絡をした。
色々と手は尽くしたけど、どうしても出費がかさんだのだ。
まさか、車が急に壊れるなんて誰も予想できないじゃない?
そりゃあ、ホロウに突入したり。
荒くれものたちから銃弾をしこたま撃たれながらも逃げたり。
建物から建物へと飛ぶなんて事もしたけど、それでも予想何て出来ないわよ!
その事を十五分たっぷりと使ってから説明した。
そして、私の色気をむんむんに使ってカルロを丸め込もうとして――恐怖を感じた。
『たくよぉぉ仕方ねぇなぁぁ今回だけだぞぉぉ?』
『……は?』
『あ! そういえば車が無いって言ってたよな? どっか行きたいとことかあったんじゃねぇか? 良かったら乗せてってやるよ!』
『え、いや、べ、別に』
『――良いっていいって! じゃ、今から迎えに行くからなぁ。家にいろよぉ』
奴は私の言葉も聞かずに通話を切った。
私はすぐにアンビーとビリーを叩き起こして緊急会議を開いたわ。
様子が変であり、気持ちが悪いほどに親切だったと。
にわかには信じられないといった顔をしていた二人だけど。
私があのカルロに対しての情報を渋る事はない。
そう説明すればすぐに納得し、二人は自らの考えを明かした。
『ぶち切れてるね。確実に、俺たちの息の根を仕留めにくるんじゃねぇか? はは、終わった!』
『偽物かもしれない。アブダクションされて、脳を弄られたか成り代わられたのか。今は繁殖できる存在を求めて――』
『……』
それぞれに考えを聞いて頭を抱える……いや、ビリーの考えが一番正解だと思った。
ぶちぎれている。
心当たりがない方がおかしい。
それほどまでに心当たりしかない。
今日が年貢の納め時かと思って夜逃げも考えた。
しかし、そんな事をしても寿命が僅かに伸びるだけだ。
そう思ったからこそ――覚悟を決めた。
私はこういう日が来ると考えて買っておいた黒いスーツに着替える。
そうして、バリカンを持ち……ここまでする必要は無いとやっぱりやめた。
取り敢えず、スキンヘッドに見えるかつらを三人でつける。
そうして、事務所の鍵を開けて置き玄関の前で正座した。
今か今かと待っていれば、チャイムが鳴る。
カルロの声であり、私たちを呼んでいた。
私はすぐに返事をし、入室を許可した。
入って来たカルロは私たちの姿を見て目を丸くしていた。
私は一瞬だけ顔を背けて目に目薬をさし。
あたかも心を痛めている風を装って土下座をし――カルロは腹を抱えて笑っていた。
『……怒ってないの?』
『あぁ? 別にぃ? 今に始まった事じゃねぇだろ……ほら、来いよ。いいもの見せてやるよ』
『『『……?』』』
かつらを取り、外へと出る。
暫く歩いてパーキングへと行けば――確かに凄いものがあった。
『どうだぁ!!? すげぇぇだろぉぉ!!? ぐふふふ!!』
カルロは子供のように目を輝かせる。
そうして、聞いてもいないのに“新車”の説明を始めた。
ア〇ファロメオ2600スパイダー。
生産台数が少ないお高いビンテージカーらしい。
カルロであっても手に入れるのに苦労したもので。
値段は張ったが、それなりに状態は良いらしい。
これほどのものはこの先でもお目に掛れないとアイツは言っていた。
嬉しそうに話すカルロを見て……ちょっとだけ私も楽しかった。
アイツはそうして、私たちを車に押し込み。
勝手にドライブを始めて――今に至る。
現在は、ハンバーガーショップの駐車場にいる。
食事は勿論中で取って、現在はカルロの自慢話に付き合っていた。
「……と、すまねぇな。俺ばっかり話してたな。退屈だったろ? 次は何処に」
「――別にぃ? アンタが子供みたいに話してる姿を見るの……私も好きよ?」
「……あっそ。だったら、いいや……ふっ」
「……何でカルロは私たちを新車に乗せたの?」
「お、確かに気になるなぁ……こう言っちゃなんだけどよぉ。アンタにとって俺らは……」
アンビーとビリーの言葉にカルロはへらりと笑う。
「それは仕事の話だろ? ……まぁなんだ。付き合いだけはなげぇからな……偶には、悪くねぇさ……それに、元々この車はニコが」
「……ん? 何?」
「……何でもねぇよ……覚えてねぇか」
「何よぉぉぉ教えなさいよぉぉぉ」
私は助手席からアイツの脇腹を小突く。
すると、奴はやめろと私に言う。
後部座席のビリーとアンビーは――くすりと笑う。
「「……ふっ」」
「……チッ、言うんじゃなかったぜ……おい、何笑ってんだ」
「んー? 別にぃぃ……ふふ」
私は笑う。
カルロを見れば、頬を赤くして口をそっぽを向いた。
こういうところは可愛……ふん。
「……と、電話か……ゲッ」
「どうかしたの?」
「あ、いやぁ……相手がなぁ。中々に厄介な客でなぁ。兎に角、話が長くて……多分、一回出たら三時間はぶっ通しで話すからな」
「さ、三時間って、すげぇ奴だなぁ」
「私だったら用件を聞いて切るわね」
「出たくないなら無視すれば?」
「……いや、そうもいかねぇんだわ。多分だけど、くそなげぇ話の上に郊外まで来いって言うと思うから……しゃあねぇ。部下を呼んで、別の車で……はぁぁ……ニコ、今日だけこの車を貸してやるよ。ガソリンだって使い放題にしてやる。用事が終わったら、俺の家のガレージに入れておいてくれねぇか? これ、ガレージの鍵な」
「え!? いいの!? 実は、ちょっと用があって困ってて」
「――ただし!! 絶対に傷つけるんじゃねぇぞ!! もしも、傷つけたら……弁償させるからな。分かったか?」
「わ、分かってるわよぉ。こんな高級車の修理代何て今の邪兎屋には払えないし。車はありがたぁぁく安全運転で使わせてもらうわ♡」
私は持ち前の愛嬌でカルロを安心させようとした。
が、カルロは目を細めて私の事を心から疑っていた……失礼な奴ね。
「ほ、ほら! いいから電話に出なさいよ!! 怒らせちゃうわよ?」
「……誘ったのは俺だし、迷惑かけちまうし……信じてるからな? マジのマジで、頼むぞ? な?」
「あぁもう分かってるわよぉぉ!! ほら、いったいった!」
私は手で払う様に動かす。
カルロは舌を鳴らして慣れた手つきで最初に誰かへとメッセージを飛ばし。
そのまま電話に出てから、車の扉を開けて外に出る。
私はアイツの姿が見えなくなってから運転席へと移動し、高級車のハンドルを握る。
「ふふ、良い手触りね。このニコ・デマラに相応しい握り心地じゃない……どれ、手始めに高級フレンチの前でも通ってみましょうか」
「……中に入れねぇのが、俺たちって感じだな」
「お黙り! さぁ行くわよぉ。何れ、私だってこんな車の一台や二台、買ってやるんだからねぇ。今のうちに慣れておかないと。ふふふ!」
「「……」」
私は何か言いたげな二人の視線を無視して駐車場から出る。
心地の良いエンジン音を聞きながら、私は鼻歌を歌って新エリー都を――
「ふぅ、高級車の中から眺める街の景色ってのも中々におつなものねぇ。これがお金持ちが見る景色なのかしらぁ? ふふ」
「……なぁ、ニコの親分。そろそろ車、返した方がいいんじゃ」
「いいえ! まだよ! アイツはガソリン使い放題って言ったのよ! タダで高級車を乗り回せるんだったら、今日の内にやるべき事は全てやっておくべきよ!」
「……荷台は荷物でパンパンよ?」
「……残りは郵送にしてもらうわ! 勿論、カルロの支払いでね! アイツが誘ったんだから文句は言わせないわ!」
「……何だろ。俺。すげぇ嫌な予感が」
「奇遇ね。私もよ」
「おーっほっほっほっほ!! 行くわ……!!」
「「……!?」」
私は急ブレーキをする。
二人は驚き何事かと聞いてきた。
私はビリーに指示を出して、治安局が出している指名手配のリストを開かせた。
ビリーは何が何だか分からないと言った様子でリストを開いた端末を渡して来る。
私はそれを開いて、リストを一枚ずつ確認し……やっぱり!
「ちょっと見なさい! これ、この男……アイツに似てない?」
「……確かに……ていうか、瓜二つじゃんかよ」
「……マリオ・カステーロ……懸賞金八千万ディニー」
「そう、そうよ!! 八千万ディニーよ!! その大物が今、私たちの前に! これはチャンス……う、で、でも、そ、そうよね」
「「……ほっ」」
私は考え直す。
流石に、カルロが苦労して手に入れた車を乱暴にするのは良くない。
如何に大金が掛かっていても、それは……でも。
《マリオ・カステーロのせいで家庭が崩壊しました。妻も娘も、もう二度と》
《アイツの情報を渡した友人が報復で……クソッたれ》
《アイツらのせいで、妹は人生を……誰か、アイツを捕まえてくれ!!》
「……っ」
インターノットで見た書き込み。
そして、邪兎屋を頼って来た人間の中にもそういう依頼をしてきた人間はいた。
が、どれだけ探しても尻尾も掴めなかった。
半ば諦めていて、無理だと思っていた……そいつが確かに、目の前にいる。
指名手配犯であるマリオ・カステーロ。
裏社会の大物であり、薬物の売人たちの元締めだと記憶している。
治安局があの手この手で奴の居所を探っても。
アイツはのらりくらりと治安局の捜査から逃れて。
今でも違法な薬物を売買しているらしい。
ついたあだ名が“灰鼠のマリオ”だ。
どんなに探しても尻尾すら見せない大物。
そんな奴がコートと帽子で姿を隠してはいるが。
バッチリと顔が見えていて、今まさに車に乗り込んだ。
捕まえて治安局に渡せば、依頼を持ってきた人間たちの無念は晴れる。
その上、八千万が私のものに……汗が頬を流れて、私はハンドルを強く握る。
「……親分? まさか……う、嘘だよな?」
「ニコ、その選択の未来が私たちには見えているわ……私はまだやり残した事が」
「――アンタたち、簡単な計算よ。この車の“修理代”が例え三千万だったとしても……おつりがくるのよ!!」
私は叫ぶように言ってアクセルを踏む。
瞬間、ビリーは泣き叫びアンビーは合掌する。
見える。未来で、更に良い新車を買い直し喜ぶカルロ。
もしくは、買った時以上に状態が良くなったこれに泣いて喜んでいるアイツの姿が。
余った大金で私たちも良い車に乗って札束の風呂を泳いでいる姿が。
「ウィンウィンよ!! それに、このニコの運転技術をなめるんじゃないわよ!! 形くらいは残せるわ!!」
「ひぃぃぃぃ!!」
「……大金を前にしたニコは誰にも止められない」
「待てやこらぁぁぁぁ八千万ディニぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
アクセルをべた踏みし。
私たちに気づいて逃げる八千万を追いかける。
信号も無視であり、ビンテージの馬力をフルで活かす。
角を曲がれば、私もドリフトし。
細い道に逃げ込めば、私も無理矢理に突っ込む。
ガリガリと装甲が傷つく音がすれば、ビリーは絶叫していた。
「問題ないわ!! 八千万があればおつりがくるのよ!!! そう、アイツさえ捕まえれば――死んでも逃がさないわ!!!」
「……こうなったら、捕まえる以外に生きる道はない。ビリー、腹を括って」
「何でこうなるんだよぉぉぉぉ!!?」
「までごらぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ゴミ箱を跳ね飛ばし、民家の壁を破壊する。
クラクションを鳴らして、驚いて逃げまどう市民を避けて。
それでも逃走をやめない八千万の車に接近し――体当たり。
「――!」
「観念しなさい!! 逃げ場何てないのよ!!!」
「俺たちもだけどな!?」
「お黙り!! くそ!! まだ逃げる気ぃ!!? こんのぉぉぉぉ!!」
大通りに出る。
そうして、私は更にアクセルを踏んで八千万を追う。
捕まえられるか逃げられるかじゃない。
生きるか死ぬかであり――地獄まで追ってやるわ!!!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ど、どんなもんよ! こ、これが、邪兎屋の、力、よ……おぇ」
「く、くそぉぉぉぉ」
「「……」」
私は花屋から借りたホースでぐるぐる巻きにした八千万を見つめる。
奴は悔しそうな顔をしていた。
そんな奴の表情にほくそ笑みながら、私は高笑いをした。
すると、通報を受けて治安官たちが駆けつけて来る。
私はすぐに事情を説明し、指名手配犯を捕まえた事を伝えた。
「色々と危険な事はしたけど、指名手配犯の逮捕に協力したから……ね?」
「……話しは後だ。それで、マリオ・カステーロは……ん?」
「こいつよ。ふふ、それで? 八千万は? ちゃぁぁんと用意してよね? こいつを捕まえる為に私たちがどれほど苦労したか」
「――違う」
「「「……え?」」」
指名手配の顔を確認した治安官。
違うとはどういう事かと聞き返せば。
専用の端末で指名手配犯の顔をスキャンし――赤い光がつく。
「こいつはマリオ・カステーロの……影武者だ」
「か、影武者……え? あ、え?」
「そ、そんな話、聞いてねぇぞ!? どういう事だよ!?」
「……マリオは我々の捜査をかく乱する為に、全く同じ顔の人間を何名か用意しているんだ。表舞台には立たず、裏で売人として活動はしているが……影武者なら、懸賞金は百万ディニーだ……まぁ影武者でも、有益な情報は持っているかもしれない。お手柄だな」
「は、え、は、え、ぇ、ぁ……え? う、嘘」
私は口から魂が抜け出そうになっていた。
そんな私たちを無視して、治安官は何処かへと連絡を繋いでいた。
何か話しているが何も聞こえない。
私はゆっくりとカルロの新車を見る。
柵へと突っ込んだ状態で、辛うじて原型を留めている元新車。
今にも海へと落ちそうだけど、ギリギリでそこにある。
修理費なんて想像できない。
が、まだ原型があるのなら何とかなるんじゃないかと考えて――小鳥が車の先頭にとまる。
「チチ、チチチ? チ……!」
「「「……ぁ」」」
車がゆっくりと動き出す。
小鳥は驚いて飛び立ち。
車はそのまま――海へと落ちて行った。
ぶくぶくと泡が出ている。
それが段々と小さくなっていき……消えた。
私は血の気が失せて行くのが分かった。
すると、そのタイミングで端末から音が鳴る。
見れば、カルロであり……私は出た。
《あ、ニコか? さっきは悪かったな。思ったよりも早く用事が片付いてな。もう車はガレージに戻してくれたか?》
「……ふへ」
《ふへ? 何笑ってんだよ……あ、さてはお前ぇ、まだ乗り回してるのかぁ? たくよぉ……ま、乗り心地が良いからなぁ。ふふ、気に入ったのならまぁ、また乗せてやらん事も……ニコ?》
「……カルロ……ごめんなさい」
《………………お、お前、ま、まさか………………じょ、冗談、だよな? だ、だって、さっき、さっき、な、なぁ? え、あ、え? ふは、へ、あ、あぁ? ちょ、今どこ》
私は通話を切る。
そうして、治安官たちの目を盗んで――走り出す。
「あ、おい!!」
「お、親分!? ど、何処に!?」
「何処って――此処じゃない何処かよぉぉぉぉぉ!!!」
「さらば新エリー都。永遠に」
「冗談じゃねぇぇぇよぉぉぉぉぉ!!?」
私は走る。
狂ったように笑い、狂ったように泣きながら。
現実から目を逸らし、刻一刻と迫る絶望を感じながら――ただ走った。
〇
雨が――降っていた。
ざぁざぁと雨音を聞きながら。
傘もささずに、ただただ雨に打たれていた。
そして、目の前でレインコートを着て悲し気な表情をする朱鳶さんの話を聞く。
「……」
「――以上が今回の被害になります……その、えっと……お、お気を確かに……か、カルロさん?」
俺は朱鳶さんから連絡を受けて――“カトリーヌ”が引き上げられる姿を見つめる。
車体はボコボコの上に、錆びだらけで。
エンジンルームや車体から海水が流れ出し海藻や貝が見えていた。
グリルがぽろりと剥がれ落ちて、パラパラとガラスの破片が落ちて行く。
チャーミングだったミラーは揺れていて……ぽろりと落ちた。
死んだ――完全に死んだ。
修理は不可能で――あぁ、どうしてだ。
俺は何を考えていた――否、“何を勘違い”していた。
邪兎屋というものを、ニコ・デマラという存在を――“信用してしまったのか”。
金にがめつく、欲深く。
野心家であり、不遜で傲慢で……が、情に熱かった。
子供に優しく、アイツなりの正義があった。
そう思っていたからこそ、俺は信じて託し――こうなった。
苦労して手に入れたカトリーヌは、もう二度と俺に声を聞かせてはくれない。
カトリーヌは俺の呼びかけに応じてくれない。
アイツは逃走し、最後のメッセージで待ってくれと言ってきた。
《必ず!! 必ず!! 同じ車を用意します!!! 今日中!!! 今日中に返すから!!! 信じてください!!!! 命懸けます!!!! 死ぬ気で調達します!!!!! 絶対に!!!!!》
「……はは」
命、命か――――安い言葉だ。
“
“
アイツはそういう奴だ。
そういう奴だからこそカトリーヌは死んだ……あぁ、そうだな。
全身から――“赤黒い殺意と怒りが噴き出した”。
「……ッ!! か、カルロさん!? お、落ち着いて――皆さん!!! 今すぐ退避を!!! 急いで!!!」
「――――ッ!!!!!」
俺は天を仰ぎ見る。
魂の咆哮を上げれば、天を覆う雲は一瞬で消え去る。
迸る怒りのエネルギーが俺の体を宙に浮かせる。
殺意が赤い光となり、眼から迸る。
頭上では俺の怒りが光輪を創り出し、俺は感情のままに――ニコの元へと向かう。
「ニコぉぉぉぉぉニコぉぉぉぉぉぉ――ニゴォォォォォォォッ!!!!!」
終わらせよう。
怒りも、殺意も、悲しみも――全てにケリをつける。
俺はお前を許さない。
俺はお前を逃さない。
もう二度と待つことはしない。
カトリーヌを殺したお前を――“俺は許さない”。