雇った傭兵がチョコの怪物になって戦うんだが?   作:かな餅

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記録⑧「雑談に近い診察」
場所:医療部診察室・定期検診
記録担当:医療部オペレーター(要約)

「血液検査、問題なし。源石融合率も変化なし。……君の体質は、本当に医者泣かせだな」
『問題がないなら、それでいいだろう』
「医者というのはな、“分からない”と言い続けるのが一番のストレスなんだ。君を見ていると、自分の未熟さを突きつけられているようで不愉快になる」
『それでも、診るのをやめないのか』
「当然だ。“不愉快だから放り出す”ような医者は、ここにはいない」
『そうか。なら、俺も勝手に死ぬのはやめておく』
「最初からやめておけ。患者が医者に気を遣うな」
『……あんたに気を遣わない患者は、生き残れなさそうだからな』
「それはどういう意味だ?」
『本気で怒らせたら、治療より説教が長そうだって意味だ』

(数秒の沈黙の後、小さくため息)

「……否定はしない。ベッドの数にも、私の時間にも限りがある。だからこそ、無駄な負傷は減らしてくれ」
『了解。説教されない程度には、手加減しておく』

医療メモ:
互いに“仕事”の枠を崩さずに話しているが、
やり取りにはすでに余裕と信頼が見られる。
ケルシー医師は彼を特別扱いすることなく、
あくまで「厄介だが見捨てる気のない患者」として接しているようだ。


episode 10 咆哮 Awakening

――龍門:スラム街

 

 

 

 

 

 

 近衛局には偽の情報を伝え、グロンギがいる場所とは真逆の方向に行かせた。

 

 

 

 

 

 

 不用意に犠牲者を出す必要はない、それに俺は鼻が効くようだ……これなら1人でも探せる。

 

 

 

 

 

 

 グロンギは言うなれば化け物だが、人類に極めて近い戦闘種族でもある。

 

 

 

 

 

 

 だから普段は人間の姿でこういう場所に潜んでるはずだ、見分け方は……そうだな血の匂い。

 

 

 

 

 

 

 それか身体のどこかにある刺青、尖った牙……あとは――。

 

 

 

 

 

 

「……あっ!たすけて!たすけて!たすけッ――」『この都市じゃ日本語は喋らねぇ』

 

 

 

 

 

 穿鉄機(銃撃仕様)で頭をぶち抜く、無論こいつは人間じゃない――人間の姿になったグロンギだ。

 

 

 

 

 

 

 別の世界でこうやって言葉は通じなくても、必死に言えば自ずと近づく奴はいるが……まあ。

 

 

 

 

 

 

 人の気配あまりにもなさすぎる、死人の匂いは一箇所に集中してる所から……この辺り。

 

 

 

 

 

 

 この辺をこいつらは根城にしてゲゲル(殺人ゲーム)を楽しんでいる、嫌な匂いだ。

 

 

 

 

 

「!?"オオカミにバレた!"」「"ここで殺すか?"」「"こいつ面白くない!"」『……"嫌な匂いだ"』

 

 

 

 

 

 

 下っ端か……当ては外れたか?――いや、そもそも妙だな、こいつらゲゲルをやっているのか?

 

 

 

 

 

 無差別に人を殺さない程度には掟に縛られてる筈だ、別世界だからか?……いや関係ない。

 

 

 

 

 

 

 

 だとすればこいつらは俺が知っているグロンギとは違う――いや、違うのはゲゲルの目的か。

 

 

 

 

 

 

 記憶を引っ張り出せ……グロンギについてここまで知ってるんだ、何かある筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

「"お前なんてあのリントの子供みたいに引き裂いて――"』『"逃げろ!殺される!"』『"隠れろ!"』

 

 

 

 

 

 逃げる背中に照準を重ねる。路地の闇が揺れて、血の匂いだけがまっすぐ鼻を刺す。

 

 

 

 

 

 

 

 引き金ひき穿鉄機(銃撃仕様)が乾いた音を立て、弾丸が後頭部を抉る。また一体倒れる。

 

 

 

 

 

 

 動きが人間のそれじゃなく獲物を連れて走る獣のように角を曲がるがまあ狙えはする。

 

 

 

 

 

 

 もう一発――骨が砕ける鈍い感触が距離越しに伝わる……脳裏のどこかが痛い。

 

 

 

 

 

 

 でも……思い出してきた、士と出会って間もない頃だ……俺はそこで初めてゲゲルに――いや。

 

 

 

 

 

 

 "ゲギバスゲゲル(聖なるゲーム)"に俺が巻き込まれたんだ、それで5つの森で王者を倒す。

 

 

 

 

 

 

 異なる動物の群れのボスを殺すことで……王が復活する(究極の闇)、それでそれは確か失敗――。

 

 

 

 

 

『……そうか、こいつらはもうゲゲルをやる意味がない』『"お前なんて、あのお方にッ――"』

 

 

 

 

 

 

 

 そのあとはどうしたんだか……そうだ、士と俺で戦って倒した――いや、倒したんじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げる影の輪郭がぶれるたび、記憶の断片が噛み合っていく――恐らく、"アレ"が居るな。

 

 

 

 

 

 

『面倒なことになるな、あの世界のグロンギ族だとしたら奴は――』見つけたぞ、"狼の倅"

 

 

 

 

 

『ああ、完全に思い出した。"究極の闇"とか言う……そうだ――"ン・ガミオ・ゼダ"だったな』

 

 

 

 

 

 

 

 えらく達者な日本語……前はこいつを倒そうとしたがトドメを刺す前に何処かに消えた。

 

 

 

 

 

もう2度と会えないと思っていたがここで会えたのは奇跡に感謝しよう――所でそのままか?

 

 

 

 

 

 

 

『あ?』その姿のまま、私と闘うのか?『お前……何の話をして――』

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間まで、俺はちゃんと立っていたはずの身体が背中から壁に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 肺の空気が潰れ、喉の奥で息が鳴る。石の冷たさが服越しに伝わって遅れてじんわりと痛む。

 

 

 

 

 

 

 

 肩と背骨に鈍い痺れ。口の中に鉄の味。視線を上げようとして、首が思うように動かない。

 

 

 

 

 

 

 身構える前にまともに食らったせいで受け身が全く取れなかったのか、幸い……治りは早い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 違和感が背中の痛みより先に広がる――ガミオの名を口にした途端からだ。

 

 

 

 

 

 

 思い出せそうでどうにもその“形”だけがぼんやりとして思い出し切れない。

 

 

 

 

 

速くあの姿になって私と戦え……それともそのまま私に嬲り殺され――「見つけたぞッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『……何で来た龍女』「色々言いたい事はあるが……まずはその手を離してもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 抜けている、俺の中で重要な手順が。戦うための絶対に外してはいけない何かが

 

 

 

 

 

 

 

闘うリントの女か……私の知っているリントとは少し違うな――『よそ見してんじゃねぇよ。』

 

 

 

 

 

 

 至近距離からの発砲、怯みはするが威力は足りていない……やはり何処かおかしい。

 

 

 

 

 

 

 こいつ(穿鉄機)の火力はこんなものじゃなかった筈だ、記憶が足りない……俺は何を忘れた?

 

 

 

 

 

 

貴様も私の知っている頃とは大きく変化している「投降しろ、龍門で好き勝手してくれたな」

 

 

 

 

 

 

 

私はゲゲル(殺人ゲーム)をするつもりなどない、死にたくなければ失せろ「……貴様。」

 

 

 

 

 

 

 龍女はやる気か……不味いな、あいつが殺される前に俺が何とかしねえと……俺は――。

 

 

 

 

 

――お前は何者だ?――

 

 

 

 

 

 わからない、何も思い出せない……旅をしていたんだ、俺は……士と■■■■■で。

 

 

 

 

 

 

――何の為に旅をしていたんだ?――

 

 

 

 

 

 違う……旅じゃない、居場所が、自分の世界がなかったから彷徨い続けてたんだ。

 

 

 

 

 

――助けてくれるっていったよね――

 

 

 

 

 

『……ああ、言った。でも救えなかったんだよな。何もしてやれなかった』

 

 

 

 

 

 

 

――ううん、仕方ない。だって私病気だし……でも貴方といてとっても楽しかったの!――

 

 

 

 

 

 

 

『……俺も、多分そうだった――なぁ、俺は誰なんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

――わかんない、でもガウちゃんに似てる――

 

 

 

 

 

 

 

――ガウちゃんはね、綺麗な白い毛並みの狼でずーっと1人でいたの――

 

 

 

 

 

 

――でもあの子は具合が悪くなってからずっと……ううん、ずーっと遠いところへ行ったんだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

『……何の為に?』「えーとね、自分の居場所を探す為に……私もね、そろそろ遠くへ行くんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』「でも、もしかしたら最後に会いに来てくれたのかな」『……?』「人の姿になって――」

 

 

 

 

 

 

「私の前に現れて、最後にまた、一緒に散歩してくれたのかな――ガウちゃん、また遊ぼうね」

 

 

 

 

 

 誰かの手が、そっと額に触れたような錯覚がする……いつの記憶だ?これ……俺は。

 

 

 

 

 

 

―― 遠い、遠い場所でもきっとまた逢えるから ――

 

 

 

 

 

 

 

『……あぁ?』ヴー……ガウ!ガウガウ!『……食べろって?何だお前。』ガウ!ガウガウ!

 

 

 

 

 

 腹の下から1匹2匹と……どんどん出てくる、何だこのちっこいのは――いや、知ってる。

 

 

 

 

 

 

 俺はこれを知ってる、"VANARGAND"俺はずっとこいつを探してた――俺はだから、これで。

 

 

 

 

 

『……唸れ穿鉄』ガウッ!!!

 

 

 

 

 

 

―― ビースト ――

 

 

 

 

 喉の奥に残っていた鉄の味が、ひと息ぶん遅れて甘さに侵される。

 

 

 

 

 

 無機物であるはずの銃身が、熱を帯びた喉みたいに微かに脈を打つように震え始めた。

 

 

 

 

 

 

ガウガウ!ガウガウ!ガウガガウ!『穿鉄咆哮』 ガウガウ!ガウガウ!ガウガガウ!  

 

 

 

 

 

 次の瞬間――白いチョコが弾けた。砕けたチョコの欠片が、不規則な形の破片として宙に散る。

 

 

 

 

 

 

 甘い香りは一瞬で消えて湿った獣の匂いが鼻腔を満たした。血の匂いが濃い――飢えの匂いだ。

 

 

 

 

 

 

 欠片は溶け込むように俺の皮膚の下へ滑り込んでいく感覚が走り――包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 生体組織だ。薄い膜が指先から手首、肘へと素早く這い上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 粘液のようで触れるとザラつくクランチの粒が織り込まれた膜が、筋肉の線をなぞって締まる。

 

 

 

 

 

 

 

 筋肉と鎧を皮膚越しに縫われるような感覚、俺の視線は少し高くなり頭の形すら変えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 肩が、重くなる。骨の位置が微かにズレる錯覚。背中の痛みが別の痛みで上書きされる。

 

 

 

 

 

―― ヴァナルガントカスタム ――

 

 

 

 

 

 白い膜が胸を覆った瞬間、内側から黒鉄の装甲が生えてくる。

 

 

 

 

 

 

 最初は薄い板みたいに見えるのに、すぐに硬さが増してクランチの荒々しい凹凸を帯びていく。

 

 

 

 

 

 

 白い粒が黒へ染まり、噛み砕いた歯触りのまま固まったみたいな質感だ。

 

 

 

 

 

 その上を、朱い裂け目が走った。模様じゃない。血管だ。装甲の隙間を縫うように。

 

 

 

 

 

 

 朱色の脈動が一筋、二筋……裂傷の跡みたいに広がって、全身に張り巡らされる。

 

 

 

 

 

 

 呼吸に合わせて、朱が明滅するたび、喉の奥が獣みたいに唸り声を上げる。

 

 

 

 

―― ヴェイグラント ――

 

 

 

 

 

 首元から顎へ、膜がせり上がる。口元を覆う直前、冷えた膜の内側で、熱い息が反響する。

 

 

 

 

 

 ヘルメットが形成される瞬間、視界が噛み砕いたクランチのように割れて再構成された。

 

 

 

 

 

……ほう、やっとやる気になったか?さあかかってこい……私と――……チェン

 

 

 

 

 

 横目で龍女の位置を測る――かなり近いな、この距離じゃ巻き添えは避けられない。

 

 

 

 

 

「……お前なんだその姿は」〖動くな〗「は?」一応、"今は"色々思い出してるが……

 

 

 

 

 言葉を吐いた瞬間、喉の奥で獣の唸りが鳴り損ねて歯を噛む。

 

 

 

 

 

 視界は研ぎ澄まされている……ただし冷静じゃない、目の前の獲物を逃さないためだ。

 

 

 

 

 

 

 ガミオの重心。足の向き。肩の開き。呼吸の癖。嗅覚で身体の輪郭を捉えられる。

 

 

 

 

 

 

 記憶の中でこいつのフルスペックを“冷静に”扱えたことがない。

 

 

 

 

 

 

 当然だ。この姿は……理屈で戦うための形じゃない。

 

 

 

 

 

 

もう俺は狩りのことしか考えられない敵を前には貴様は本当に――ッ!?

 

 

 

 

 

 足が動いた――筋肉の線がきしみ、装甲の内側で血管みたいな朱が脈を打つ。

 

 

 

 

 

 

 肘から先を叩きつける。クランチの粒が擦れる音が骨の奥でジャリッと響く。

 

 

 

 

 

 

 しぶとい生命の塊を殴った感触、手応えは硬いがさっきよりも確実に効いている。

 

 

 

 

 

 

 奴の身体が宙に浮いた瞬間、腕を振り切って――獲物が、路地の向こうへ吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 唸りが漏れる。鼻腔に血の匂いが満ちて、その匂いに身体が”追え”と反応しかける。

 

 

 

 

 

 

 だめだ――本能のまま動く事でしか戦えない。この姿は、生物兵器になる為の手段だ。

 

 

 

 

 

……おい、お前一体――……ああ?……ああ。

 

 

 

 

 何言ってんのかわかんねえ、誰だこいつ……まあいいか。

 

 

 

 

――■■■■■■■■■■――

 

 

 

 

 

ここから先は、俺がやる――いつも通りだ

 

 

 

 

 一瞬目を離しただけだが奴の姿が消えた、逃げるタチじゃないだろう。

 

 

 

 

 

 身体は勝手に動く、自分ですら次に何を仕出かすのか分からない。

 

 

 

 

 

 その内この思考すら消えて、次にいつ正気に戻るのかさえわからない。

 

 

 

 

 

 

 匂いより音より先に、気配を感じる――銃身を左右に展開、カートリッジを装填。

 

 

 

 

 

 

 ”穿鉄撃機”言わば近接戦の仕様で生身では基本扱う事はない。

 

 

 

 

 

 

 突く――つまり殴る以上の使い方はないが直撃すればどんなものでもぶち抜ける。

 

 

 

 

 

前に聞きそびれたことがあった、貴様は何故戦う?……

 

 

 

 

 

人間を守る為か?それともただ強さを求める者のか?――……そんなに大事なことか?

 

 

 

 

 

それよりも重要なことがあるだろ――お前が俺の敵なのか、俺がお前の敵なのか……何?

 

 

 

 

 

 

 

―― ビースト アインス ――

 

 

 

 

 

 装填の手応えと同時に杭が回転を始める。掌の奥から振動が立ち上がり腕がわずかに震える。

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、死角から影が飛び込んできた。反射的に一歩踏み込み――狙いを合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 息遣いが、心音さえ聴こえる……肌に刺さるような視線――この感覚、気分が良い。

 

 

 

 

 

 

 

 杭が射出、回転しながらガミオの拳にに噛み付き、硬い皮膚と骨を削り取って中へ貫通した。

 

 

 

 

 

 

 衝撃が腕に返りガミオの身体が浮く。次の瞬間、路地の向こうへ弾かれるように飛んでいった。

 

 

 

 

 

―― 穿鉄撃機:轟穿撃 ――

 

 

 

 

 

 

 

 杭が射出され、回転しながら拳へ食い込む。硬い外殻が削れ骨に当たり抵抗が増していく。

 

 

 

 

 

 

 

 血も骨も肉も巻き込み、肩まで到達したそれは蓄えた膨大なエネルギーと共に爆散する。

 

 

 

 

 

 

 

 肩から先が耐えきれず、肉と骨ごと裂けて散る。片腕が吹き飛び、血が路地へ飛び散った。

 

 

 

 

 

 

……喋れるうちに聴いておいてやる、今、ここで選べ

 

 

 

 

 

 

 

―― 闘いをやめて大人しく生きるか ――

 

 

 

 

 

――このまま俺に殺されるか ――

 

 

 

 

 

 

 

"バゲゴセパレザレダ(なぜ俺は目覚めた)"――2度と目覚めぬはずだった

 

 

 

 

 

 

 

 黒い霧が奴の身体にまとわりついて吹き飛んだ腕が再生していく……あいつの能力か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 たしか……毒みたいなもので俺は平気だったが吸ったら普通は死んじまうらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 近くにあるいつ死んだかわからないグロンギの死体から出ているところから見るに――そうか。

 

 

 

 

 

 

 

 何処かで見たことあると思ったら……こいつか、あの街の人間、森の動物達を大量に――。

 

 

 

 

 

 

――この子は元々長くない、だけど……あまりにも早すぎる――

 

 

 

 

 

 

 

 テメェのせいか……あの子が、◼️◼️◼️が死んだのは――。

 

 

 

 

 

 

――ごめんね、ガウちゃん――

 

 

 

 

 

 

だが、俺は目覚めた。目覚めたからには世界に"究極の闇"を齎さなければならない……

 

 

 

 

 

 

 

貴様を見るまでは……そう思っていた――狼の倅よ、貴様も本来そこに存在しないはずだ

 

 

 

 

 

 

貴様は何者だ、なぜ"どの世界"でも破壊者(■■■■■)の側に現……いや、そうか……貴様こそが

 

 

 

 

 

 

 

―― ビースト ツヴァイ ――

 

 

 

 

 

 

テメェのせいかッ!!!奴と同じ世界の破壊者ッ!!!

 

 

 

 

 

 穿鉄銃機――穿鉄機の標準仕様、並の装甲車両でなら容易に装甲を貫通し数発で無力化できる。

 

 

 

 

 

 

 穿鉄撃機よりも威力は劣るが狩には充分適している、撃機は警戒して何度も通じないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 こいつは“例外”として目覚めた例外――世界が課す役割がある。だったらこいつの役割は何だ?

 

 

 

 

 

 

 

 俺が破壊者だとして世界を脅かす存在が退ける?笑わせる――こいつ自身こそが災いだ。

 

 

 

 

 

 

てめえが目覚めなけりゃ、あの子は死にはしなかった……てめえが――言っただろうッ!

 

 

 

 

 

 乾いた音を鳴らして弾丸が肉を抉り、骨を削って穴を穿つ――穴は二発、三発と増えていく。

 

 

 

 

 

 

 だが空いたそばから黒い霧が傷口の縁を舐めてるように穴は塞がっていく。

 

 

 

 

 

 

 不死身じゃない、奴には限度がある――と言っても俺にできるのは奴を限界まで削ること。

 

 

 

 

 

俺は2度と目覚めぬはずだったが――貴様がいた、お前は存在するべきではないあぁ?

 

 

 

 

 身体から熱が立ち上がってきた。黒い霧の毒とは違う。皮膚がじりじりと――炎か?

 

 

 

 

 

 

 いや、同時に跳ねる痛みに重なって多少痺れる感覚も感じる……電撃か。

 

 

 

 

 

 

 他のグロンギを取り込んで回復してるだけじゃない力も蓄えてるのか……厄介だな。

 

 

 

 

 

あの世界で俺はお前を殺さなければならなかった――いや、今もそれは変わらない

 

 

 

 

 

 

そんなこと、どの世界でも何度も言われて――おかしいと思わないのか?

 

 

 

 

 

貴様が行く先々で厄災が起きることを疑問に思ったことはないのか?……は?

 

 

 

 

 

 何言ってる……俺は行く先の世界で起きる問題を――解決するのが役目で……役目?

 

 

 

 

 

 それは士やナツミカンが勝手にこじつけた理由で……それでも世界に呼ばれてるのは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 歪みを正すために、放り込まれて。長居すれば歪みになるから、また放り出されて。

 

 

 

 

 

 

『いつ記憶が消えたのかは知らないが、貴様は元々世界の破壊者になりえる存在だった』

 

 

 

 

 

……行く先々で災いを振りまき、破壊の種を咲かせているのは貴様自身だ

 

 

 

 

 ……違う、俺は何もしてない――そんなことしたいなんて思ってない。

 

 

 

 

 

 

 俺が世界の破壊者?……違う、それは士のはずで――でもあいつは、違った?

 

 

 

 

 

 

 俺とは違って世界を守ろうとしてた、だからあいつは絶対に違う。

 

 

 

 

 

 

 俺だって違うはずだ、俺は……俺は、そうだとしたら?……あの子は――。

 

 

 

 

 

因果だ、繰り返される戦い。世界線が複数あり、貴様を中心に同じような終わりが何度も回る

 

 

 

 

 

 

――運命に身を委ねて自分を見失った存在こそが暴走して"本物の悪魔"になる――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もういい加減眠れ、狼の倅よ――■■■■■を継ぐ者よ、お前の闇は晴れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違う……俺は、悪魔(破壊者)じゃない――ただ、生きたいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 ただ生きたいだけなのに俺のことを――そもそもお前らが存在するせいで。

 

 

 

 

……立ったまま絶命したのか?いや、奴に限ってそんなあっけなく――

 

 

 

 

 

―― 銑鉄機:穿烈弾 ――

 

 

 

 

 乾いた音が先に走り、衝撃は遅れて奴の腹に届いた――炎で俺の動きが見えなかったのか?

 

 

 

 

 

 それとも弾速が速すぎたのか――ここまで来たら確実に仕留める。

 

 

 

 

ッ……私の知っている威力ではない、強くなっている――違う、本来これが。

 

 

 

 

 ぶち抜いたのは肺と胃袋のあたり、そこをぶち抜かれてまともに動ける奴は普通は居ない。

 

 

 

 

 

 

 すぐ治るにしても背骨が砕ければ立つだけでもやっとだろ……喰らわせるなら今しかない。

 

 

 

 

 

 

―― ビースト ドライ ――

 

 

 

 

 

 

 

やはり俺では殺せぬか……狼の倅よ〔〔〔ガウガウガウッ!!!〕〕〕

 

 

 

 

 

 装填されたヴァナルガンド達が一斉に暴れだし、吠えるたびに装甲の朱が脈を打つ。

 

 

 

 

 

 

 身体に纏う生体組織は皮膚の下へ滲み込み、筋肉の線をなぞり、骨の位置さえ書き換えてくる。

 

 

 

 

 

 

 それは鎧となり、時には杭や弾丸にと必要な形へ変わる……“形”は俺の意思より先に決まる。

 

 

 

 

 

 

 最大出力のそれを不定形のまま放つ、ガミオの身体へ白い膜が吸い付くように纏わり浸透する。

 

 

 

 

 

 細胞と絡みつくそこまでは同じだ。違うのは細胞も巻き込んで装甲を形成し身体を硬直させる。

 

 

 

 

 

 

 筋肉の収縮を止め、関節のやわさを奪う。動こうとする力が行き場を失って空回る。

 

 

 

 

 

 

 直すべき腹の風穴も周囲の細胞が固まってしまえば再生も阻害される――十分だ。

 

 

 

 

 

 

 足に銑鉄を装着、同時に銃身が左右へ展開し、内部で杭が飛び出す準備を整え回転を始めた。

 

 

 

 

 

 

 路地の石段が砕け身体が跳ね上がる。空中で作った姿勢で繰り出すのはいわばただの飛び蹴り。

 

 

 

 

 

 だが足の裏より先に接触した杭が反応して体に食い込んだ――だが、簡単には貫けない。

 

 

 

 

 

 

 白い膜で細胞を硬質化している。ほとんど俺の装甲と同じ硬さだ。

 

 

 

 

 

 穿鉄の杭を同じ強度へ捩じ込むことになる。そして打ち込んだ杭は――爆ぜる。

 

 

 

 

 

 

 捻じ込まれた身体の内側から俺の装甲すら削れる威力で。

 

 

 

 

 

 

 穿鉄機の最大出力を確実に通すための一工程。

 

 

 

 

 

 

 面倒で、手間で、狩人には似合わない――だが、それだけ価値はある。

 

 

 

 

 

 

―― 銑鉄機:穿烈轟破 ――

 

 

 

 

 杭を捻じ込まれた衝撃が遅れて身体の芯まで届き、ガミオの躯体が路地の奥へ弾かれた。

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間――薄い光が輪郭をなぞる。

 

 

 

 

 

 

 

 まばたきほどの間に、光は内側から膨れ上がり――爆ぜた、黒い霧が爆心へ吸い寄せられる。

 

 

 

 

 

 風に散るのではなく、何かに引っ張られて戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 炎の中で霧が凝り、腕、胸、首――ガミオの“形”を作りかける。

 

 

 

 

 

 

 だが輪郭が定まるたび、焦げた紙のように脆く崩れ、また霧へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 再生じゃないが……“立ち上がろうとする意思”だけが、何度も形を取っては朽ちていく。

 

 

 

 

 

 

 穿鉄機から外れたカートリッジが弱々しく唸る、装甲の鼓動も静かになった。

 

 

 

 

 

〔〔〔ガゥ〜……〕〕〕がぅ……使い捨てのカートリッジか、不便だな』

 

 

 

 

 言葉を吐いた瞬間、喉の奥で獣の唸りが名残を鳴らしかけて歯を噛んで止める。

 

 

 

 

 

 

 鼻腔には、まだ濃い血と焦げが残っている……本当に嫌な匂いだ。

 

 

 

 

 

 

 

……狼の倅よ

 

 

 

 

 

 

 炎の向こうでかろうじて形を結んだ影が揺れた。声だけが霧の隙間から抜けてくる。

 

 

 

 

 

 

 恨みでも怒りも籠ってない。疲れてるような乾いた声だ。

 

 

 

 

 

輪廻から抗い続けるのなら、貴様を縛る闇を祓ってみせろ『……とっととくたばれ。』

 

 

 

 

 

 

 炎の揺らぎの中で霧がもう一度だけ輪郭を作りかけたのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「……終わったか」『そうだな』「何処に行く?」『報酬を貰いに行く』

 

 

 

 

 

 龍門が残した最後の仕事、俺が受けた最初の仕事はこれで終わった。

 

 

 

 

 

 もうこの場所にいる義理はない、もうすぐ別の世界に行くことになるだろ。

 

 

 

 

 

「この後始末は我々にやれと?」『命を賭けるよりは簡単な仕事だろ』「はぁ……もういい」

 

 

 

 

 

 呆れたような顔を横目にフミヅキの元へ向かう、確か特定の場所に車を止めてくれてるらしい。

 

 

 

 

 

「行ったか……はぁ、聞こえるかホシグマ」〈はい、どうされましたか?〉「……まあ、なんだ」

 

 

 

 

 

 

「近衛局に手に負えない事件の為に我々はその専門家を雇ったんだよな?」〈はい?そうかと〉

 

 

 

 

 

 

「……本当に間違いなんだな?フミヅキ夫人が直属に派遣した"傭兵"は?」〈恐らく……〉

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ、ホシグマ。馬鹿みたいな話なんだが――」〈はい、なんでしょう?〉

 

 

 

 

 

 

――雇った傭兵がチョコの怪物になって戦うんだが?――

 

 

 

 

 

――人喰い都市アラストル:貿易エリア

 

 

 

 

―― INVISIBLE JELLY! ――

 

 

 

 

 

 空気が粘ついている。油の匂いと砂塵、ここを“人が食われる都市”にするわけにいかない。

 

 

 

 

 

 

 心臓を酷使しすぎたか?……呼吸をするだけで喉の奥が嫌に乾く。

 

 

 

 

 

 ググナは速い。飛べる上に、間合いの詰め方が獣じみている。

 

 

 

 

 

 

 コーサスは丈夫で力がある。正面から受け止めたら、俺の骨が先に悲鳴を上げる。

 

 

 

 

 

 

 最悪の組み合わせだな――と思った瞬間、壁の向こうから嘲る声が滑り込んできた。

 

 

 

 

 

『おーい?隠れてばかりかい?もしかしてカッコつけておいて逃げ出したのかなぁ?』〖……〗

 

 

 

 

 

 コーサス。余裕の調子――余裕があるように見えてるだけかもしれないが、嫌になる。

 

 

 

 

 

 

 俺は返事をしない。返事をした瞬間に位置が割れる。上を見るとググナが見張ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 俺が姿を晒したら、突っ込んでくるつもりか――良い仕事だ。腹立たしいくらいに。

 

 

 

 

 

 

―― VLAM SHOOTING ――

 

 

 

 

 

 乾いた衝撃。腕から先に伝わる、撃ち出す感触。矢は飛び宙へ静止する。

 

 

 

 

 

――JELLY OVER――

 

 

 

 

ぶねっ!?……そこかッ!クヴァレっち!『さっきから逃げ回ってばかり……全く』

 

 

 

 

 ググナが空を掻くように旋回して、俺の“今いる場所”を見た、予想通り。

 

 

 

 

 

 矢はただ外れたと思わせることができたみたいだな……さてコーサスの声は苛立ってる。

 

 

 

 

 

 

 俺の居場所は分かった、となれば次の行動は俺を捕まえに来る。

 

 

 

 

 

 

 どうせ拘束するなら、近い方が楽だろう――だから俺は、わざと近接に持ち込んでやる。

 

 

 

 

 

『何か企んでる?まあいいさ――にしても随分とあのグラニュートハンターを信頼してるね?』

 

 

 

 

 

 

 

〖これでも修羅場を一緒に潜り抜けた仲だからな、信頼も生まれるだろ〗『よく言うよ』

 

 

 

 

 

 

 

『元々あいつの抹殺を命じられていた癖にね?』〖相変わらず嫌味ばかりだ〗

 

 

 

 

 壁から何か突き出た――角だ。コーサスが壁越しに角を伸ばして狙ってきた。

 

 

 

 

 

 普段ならしない動き……ググナがいるから隙を許容してるな?ありがたい。

 

 

 

 

 

 俺が動くと同時に視界の端で、ググナが突っ込んでくるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 絆斗の戦い方を思い出すな……あいつは頭がぶっ飛んでた。

 

 

 

 

 

 

 

 この世界に馴染むため、人間のふりを徹底してきた俺の隣で――あいつだけが平然と。

 

 

 

 

 

 

 

 絆斗の戦い方を思い出すな、あいつは本当に頭がぶっ飛んでた。

 

 

 

 

 

 傷だらけになって、死にかけても、いつも戦場で勝った。

 

 

 

 

 

 自分より一回り大きい敵を引きずり回し、縦横無尽に戦場を駆け巡った。

 

 

 

 

 

 その姿は止まることを知らない騎兵隊の如く――鉱石病を恐れない異常者。

 

 

 

 

 

 

 強い傭兵ほど高価で、高価な傭兵ほど危険で、危険な傭兵ほど死地へ放り込まれる。

 

 

 

 

 

 

 なのにあいつは死ななかった。価値がありすぎて、殺しづらい傭兵になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 別世界から来たにしては、孤独からすぐに抜け出して順応した。

 

 

 

 

 

 

 俺は遠くへ行くあいつに必死について行って、自分立場も忘れるくらいに――。

 

 

 

 

 

 

 はは……そうだな、俺も馬鹿程無茶をした――絆斗、今度は俺も、お前と同じように。

 

 

 

 

 

〖今度はお前のように……1人でもッ!!!〗『ググナッ!』隙だらけだぜぇ?!クヴァッ――

 

 

 

 

 

 声が重なった瞬間、接近したググナに咄嗟の判断のブレイカーを投げつける。

 

 

 

 

 

 

 手持ちの武器を戦いの最中投げ捨てるなんてそうそうしないが、お陰でググナの軌道が逸れた。

 

 

 

 

 

『武器を捨ててまで突っ込んでくる?……奇襲攻撃は十八番じゃなかったのかいッ?!』

 

 

 

 

 

 腕よりも先に触手を伸ばし食い込ませる。コーサスの胴を締め上げ、力で引きずり寄せる。

 

 

 

 

 

〖得意だからやってるわけじゃあねえよッ!〗『このッ……力比べのつもりかいッ!?』

 

 

 

 

 

 コーサスはグラニュートの中でもかなり怪力な方だ、変身してても力負けする――が。

 

 

 

 

 

 

 当然それはこいつが万全な状態だったらの話だ、恐らく絆斗との戦いでかなり弱ってる。

 

 

 

 

 

 

 絆斗との戦いで削れている。羽を切られて地面に叩きつけられて、無事なわけがない。

 

 

 

 

 

 

 それにこいつらの目的は人プレスだ。都市を落とすだけならググナに邪魔をさせればいい。

 

 

 

 

 

 

 でもこの都市に眠るのは何数万人と言った数の量だ……是が非でも確保したいだろう。

 

 

 

 

 

 

 だからここに残ってググナと戦う道を選んだ、その在処を吐き出させる為に。

 

 

 

 

 

 俺達が抱えてるリミットはコイツらも同じように抱えてる、時間がないのは一緒だ。

 

 

 

 

〖俺は聞かねえぞッ……〗『あぁ?――ッ!?』〖聞く余裕なんてねえからなッ!〗

 

 

 

 

 触手をさらに巻きてコーサスの体を持ち上げる。

 

 

 

 

 

 何とか間に合った――来る、さっき打った矢だ。

 

 

 

 

 

 外れたと思わせた矢。透明化し分裂したまま空中で静止していた時間差で降り注ぐ雨。

 

 

 

 

 

 

 

―― VLAM SHOOTING ――

 

 

 

 

 

 

 正直こんな自殺行為、やるんじゃなかったと思う……でも、もうこれしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 時間がない中で泥仕合を続けても何も進まない、だったら。

 

 

 

 

 

 

 

 命かけてでもこの馬鹿ども(闇菓子中毒者)の数を減らしてやる……。

 

 

 

 

 

 

 矢が落ちて肉が抉られる鈍い衝撃。鼻腔に血の匂いが濃く満ちるてコーサスの体が跳ねる。

 

 

 

 

 

コーサスッ!!!〖お前そんな度胸あったのかッ……〗捕まえたぜググナっち……

 

 

 

 

 

 矢の雨が降ってくる中突っ込んでくるか、正直逃げるかと思ったんだけどな。

 

 

 

 

 

俺達にはどうしても闇菓子が必要なんだよッ!!!……それを邪魔するってならもう――ッ!?

 

 

 

 

 

 

 ググナに取り押さえられたと思ったら背中が軽くなった……味方の仕業ならまさか――。

 

 

 

 

 

 

闇菓子、闇菓子……全く五月蝿い奴らだ〖イジーク!?……お前、生きてたのか〗ふん

 

 

 

 

 

 

俺だって上級グラニュートだ、あの程度の奴らどうって事ない……それより、どう言う状況だ

 

 

 

 

 

 

 イジーク・プルト――ニエルブがいたグラニュート界から来たらしいニエルブの実質的な側近。

 

 

 

 

 

 

 

 以前起きたミューターの襲撃で皆んなが逃げる時間を稼ぐ為に単騎で……あれから何をしてた?

 

 

 

 

 

 

 正直、こいつも闇菓子派の一員だと思ってたんだが……杞憂だったのか?――それとも。

 

 

 

 

 

 

〖……ミューターの襲撃だ、厄介な事にググナのような闇菓子派も何体か――〗分かった

 

 

 

 

 

 

 

先に動力炉へ向かえ、俺じゃ周囲に被害を出し過ぎる……代わりに、闇バイトの残党は任せろ

 

 

 

 

『全く、やっぱり今日はついてなかった』〖……コーサス、お前いつから裏切るつもりだった〗

 

 

 

 

 

 

『最初からって、訳じゃない――でもね、舌の肥えた僕達にとってこの日常は味気なかった』

 

 

 

 

 

 明後日の方向に吹き飛ばされたググナから落ちた、2つの人プレス……ループスの親子か。

 

 

 

 

〖……だからって、闇菓子がお前を満たせたことはあるのか?〗『満たされないからこそ、さ』

 

 

 

 

 

 

 グラニュートを虜にする闇菓子――俺も買ったことだけはあるが食欲がなくて食えなかった。

 

 

 

 

 

 

 妹を失ったばかりの頃だったからな……何かに縋る余裕すらなかった時期だ。

 

 

 

 

『……逃げた方がいいよ、この都市はもう終わりさ』〖絆斗達はまだ諦めてない〗『いいや』

 

 

 

 

 

 

 

『もう、間に合わない。今回の天災は今までとは比べ物にならないものだって僕は聞いてる……』

 

 

 

 

 

 

 

 天災が始まってどれだけ時間が経った?突発的な天災――本来ならもっと事前に動きたい。

 

 

 

 

 

 

 枯渇していく燃費、構造が理解できない異世界の技術――整備士の不足。

 

 

 

 

 

 

 それでも、みんなの明日を紡いできたったのに……こんなところで終わらせて――。

 

 

 

 

 

『意味あるのかい?ミューターに渡しちゃえばいいじゃないか、後先短い人間(鉱石病患者)なんて』

 

 

 

 

 

 

 

―― SET ――

 

 

 

 

 

〖"意味があるとか、ないとかじゃないんだ"――ってある奴はそう言ってた。〗

 

 

 

 

 

―― VLAM SLASH ――

 

 

 

 

 

 これでコーサスは倒した、動力炉……いや、ニエルブの元に向かった方が良いんじゃないか?

 

 

 

 

 

 

……どうした、早く行け〖ああ、悪い。〗

 

 

 

 

 

 

 ニエルブは自分で何とかするだろう……相手がただの闇バイトだけだったらの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

――最層部:動力炉区画

 

 

 

 

 

 

 配管の唸りと金属の焦げた匂い。足元の黒い痕は触れなくても嫌な気配が伝わってくる。

 

 

 

 

 

「シンドラーッ……これ、キリないよなッ?!」「……見たらわかる、手を動かして。」

 

 

 

 

 さっきまで通路は空だったのに……急に夥しい数が現れてた、今のところ全て同じ個体。

 

 

 

 

 

 動きもかなり単調だけど、倒しても倒してもまた増えていく――そもそもいつから潜んでたの?

 

 

 

 

 

 ロドスの情報じゃ人を攫うグラニュートとは何処からともなく現れて、忽然と消える。

 

 

 

 

 

 

 空間移動の技術が敵が持ってるってならしっくりくるかも……でもそれが分かって――。

 

 

 

 

「……分かっただけで、この現状は変わらない」「ぁあ〜……絆斗ーッ!!!」「!?」

 

 

 

 

 

「シンドラーがお前の武器持ってきてるんだッ!!!今から届けに行くからなッ!!!」

 

 

 

 

 

 突然聞こえてきた叫び声に思考が掻き乱される……最悪――敵に道標を立てたのと同じだ。

 

 

 

 

 

 

 私は胸の中にあるものを抱え直し、体の前で固定した。落とせない。壊せない。

 

 

 

 

 

「ちょっと何でそんな大きな声――」「ニエルブさんが言ってたんだ、この都市には人が少ない」

 

 

 

 

 

「人手不足を補う為にニエルブさんの眷属が大量に出してるんだってよ……それは主に――」

 

 

 

 

 視界の端で何が動いた、また――いや違う。歩き方が整ってる、引きずる音もしない。

 

 

 

 

〘保持物を提示しろ〙

 

 

 

 

 

 声は平坦、命令口調……意思疎通が取れる。私がためらうより早くオスカーが武器を見せた。

 

 

 

 

 

 

 私もヴァレンバスターを掲げると暫くじっと見つめた後、何か納得したように頷いた。

 

 

 

 

 

〘各位、集積所以外の持ち場を離れ動力炉へ集まれ……ロドスを援護のオペレーターを護衛する〙

 

 

 

 

 

 黒い衣装を見に纏った眷属が2体、4体、8体……こっちもこっちでかなりの数がいる。

 

 

 

 

 

 

 これがニエルブの眷属……?ヴァレンさんとは随分と違う……まるで人間みたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

〘貴様ら我々の背後に続きは酸賀絆斗の元へ前進しろ、振り返るな道は必ず開く〙「……はい」

 

 

 

 

 

 

「……動力炉に集まってるって話だから、多分いっぱい居ると思う。」「……それ最初に言って」

 

 

 

 

 

 

 彼らは会話ができてお互いに連携も出来る、数は足りてないかもしれないけど……これなら。

 

 

 

 

 

 

「……オスカー、突っ切るよ」「わかった!」

 

 

 

 

 

 

 この先は――動力炉区画の中でも、使われていなかった空間……正確には立ち寄らなくなった。

 

 

 

 

 

 

 資源不足で途中の設備が剥がされ、空間だけが無駄に広くなってる。

 

 

 

 

 

 

 天井の配管は腹の底で唸り続け、金属が焼けた匂いが喉の奥に貼りついてくる。

 

 

 

 

 

 

 足元の黒い痕は、見ただけで嫌な気配が皮膚を撫でてくる……ほんとに最悪。

 

 

 

 

 

 

 何もないはず空間に立ちはだかるようにしてミューターが増えていってるし。

 

 

 

 

 

 さらに奥から、やけにうるさいチェーンソーの音。

 

 

 

 

 

 耳の奥まで震わせる回転音が、壁や床を伝ってこっちまで響きすぎている。

 

 

 

 

 

 ブレイズさんがいることは確定、ヴァレンさんは妙だけど約束に誠実だから……。

 

 

 

 

 

 

 監視役の傍で戦うことはできる範囲でやろうとするはず、例えこの状況でも。

 

 

 

 

 

 

 オスカーと肩を並べたまま、私は胸の中の保持物を抱え直す。落とせない。壊さない。

 

 

 

 

 

 

 この金床みたいな重さが、今の私の心臓を外側から締め付けてくる。

 

 

 

 

〘あの先に居るはずだ!走れ〙「シンドラー!先に行け!」

 

 

 

 

 槍持ちの影が一斉に重心をこっちに向けた。囲みに来る――そう思った瞬間、眷属が動く。

 

 

 

 

 

 ひとつが前へ踏み出し、もうひとつが横へ。角度を変え、私たちの背中の左右を塞ぐ。

 

 

 

 

 

 さらに後方の眷属が一体、床に手をつくような動きで黒い影へ突っ込み、槍の軌道をずらす。

 

 

 

 

 

 

 刃先が空を切り、次の一撃が出る前に、別の眷属が反撃して押し返した。

 

 

 

 

 

 

 左右でミューターが膨らみかけるたび眷属が一歩だけ角度を変え、影の進路を塞いで押し戻す。

 

 

 

 

 

 

 囲ませない。囲まれない――それだけを繰り返して、前へ。

 

 

 

 

 

 

 チェーンソーの音が急に近くなる……向こうの空間まで辿り着けたんだ。

 

 

 

 

 

 黒い侵食の痕。配管の裂け目。その中で――赤い炎が跳ね、音の中心にブレイズさんがいた。

 

 

 

 

 

 ここまで来ているのがブレイズさんだけだったら本気で末代まで祟ってやるッ……。

 

 

 

 

ん?!シンドラー!?こっち来てるの!?「ヴァレンさんにお届け物で――すッ!?」

 

 

 

 

 

 

 足が何かに触れた。地面を這いずり回る黒い線。ミューターの残骸……?分からない。

 

 

 

 

 

 分かるのは――足を取られた、という事実。胸の前で固定していた重みが、ふっと軽くなる。

 

 

 

 

!……おっけー!そこのイカしたプリンマン!ヴラムだッ!何だ?!これ!君の!

 

 

 

 

 私の手からすっぽ抜けたものをボールみたいにブレイズさんが受け取ってくれた。

 

 

 

 

 

 私が落とさないために抱えてきた重さを軽々しく――そして彼女は躊躇なく投げる、一直線に。

 

 

 

 

 

 

あぁ……?こんな時になん――まじか、1日も立たず直しやがったのかニエルブ……!

 

 

 

 

 

〔ブシュッ!〕〔ザク!〕〔ロルっ!〕三者選択、初手はこいつでいいな

 

 

 

 

 

―― CAKE ――

 

 

 

 

 

 

「終わったら早く逃げなきゃッ」「シンドラーッやばい後ろからガンガン来てるッ!」

 

 

 

 

 

 無理に通った後のことは考えてなかった……当然道中の敵は私達を追ってくる。

 

 

 

 

 

 今の戦力で真正面からやり合える?……私は指揮官じゃない、今指揮ができる人なんて――。

 

 

 

 

 

 ―― LOLLAXE GURU GURU――

 

 

 

 

 

 

……やっぱこっちの方がしっくりくるな、気分がいい――ブレイズ

 

 

 

 

 

ん?火くれ、とびきり熱い奴だ!……オッケー!いくよッ!

 

 

 

 

 ヴァレンさん姿が変わった、ロドスがまだ観測していない形態。

 

 

 

 

 この状況を打開できる何か……?でも見たところただ近接戦に特化した――。 

 

 

 

 

―― CAKE SECOND DECORATION FUWAFUWA ――

 

 

 

 

 

 目の前の景色が突然炎に包まれた、これはブレイズさんのアーツ……ヴァレンごと?

 

 

 

 

 

 いや、重なるように聞こえた爆音――ヴァレンさんは既に上へと飛び上がってる。

 

 

 

 

 

 巻き込まれたのは2体の化け物……炎に悶え苦しんで身体が変質し始めた。

 

 

 

 

 

 有効打ではあるけど決定打にはなってない、でも遠目から見えた動きとかなり比べて鈍ってる。

 

 

 

 

 ―― CAKE FUWA FUWA THE CHOP ――

 

 

 

 

 

 

―― LO - LLA - XE ――

 

 

 

 

 

 

 聞こえた爆発音はヴァレンさんの武器――斧の背面から聞こえてくる音?

 

 

 

 

 

 爆発で下の加速したヴァレンさんが化け物の胴体を真っ二つに叩き割った。

 

 

 

 

そのまま殴れば不定形化、熱で炙ると硬質化――倒さず凌ぐなら前者のままでいい

 

 

 

 

 背後から怪物がもう一体、分かりやすい直線的な機動――でも速い。

 

 

 

 

倒すなら後者だが、ヴラムじゃパワーに欠ける――やっぱり俺にはヴァレンだな

 

 

 

 

 斧の峯から爆発し怪物が怯んだ、その勢いで回転し横腹に刃を押し込む。

 

 

 

 

 

 そのままの勢いで振りかぶり胴体を切断した。

 

 

 

 

 

 ―― CAKE FUWA FUWA THE CHOP ――

 

 

 

 

 

 

―― LO - LLA - XE ――

 

 

 

 

 

さて……次は這いずり回る蛆虫野郎と雑兵かガツ!〔ぴゃあッ!〕

 

 

 

 

 

GUT(ガット) FEELING(フィーリング)

 

 

 

 

 

―― CRUNCH CHOCO GATUGATU ――

 

 

 

 

 

BREAK LIMITS!!!

 

 

 

 変身音が動力炉区画の広い空洞に吸い込まれた。  

 

 

 

 

 

 焦げた匂いに混じって、甘い欠片みたいな匂いが一瞬だけ立ち上がる。    

 

 

 

 

 

 装甲の表面は粒の細かい凹凸で、光を均一に返さない。  

 

 

 

 

 

 

 姿勢は肩から腕が垂れ下がって余計な力みがない――落ち着いてる。

 

 

 

 

〘陣形を固めて奴らを前方に押し返せッ!耐えれば援軍が――〙

 

 

 

 

 

 破壊途中の扉から黒いものが這い出してきていた。  

 

 

 

 

 

 配管の影から形が浮き出るようにそれは増えてくる。  

 

 

 

 

 

 背後の通路の奥から前方の扉からもきりがないほどに――数が多い。

 

 

 

 

―― STONECHOCO SECOND DECORATION GOROGORO ――

 

 

 

 

 

 その中で彼はほんの少しだけ首を動かした、彼だけが何の音も発さない。    

 

 

 

 

 

 そして次の瞬間――ただ銃口の向きが変わった。角度が、ほんの数度。

 

 

 

 

 

―― CRUNCH GOROGORO THE ONSLAUGHT ――

 

 

 

 

 

 

 

 

CRUNCH TIME !!!

 

 

 

 

 

 理解が追いつくより先に、銃声――3発の銃声が聞こえた。  

 

 

 

 

 

 

 弾丸は正面の敵に真っすぐ放たれたわけじゃない、ただ光が動いた。    

 

 

 

 

 

 

 

 扉の縁、剥がされた設備の残骸、露出した配管の曲がり――金属に当たる硬い音?  

 

 

 

 

 

 

 違う、光が見えた付近に何か浮かんでいる。連鎖するようなこの音は――跳弾。  

 

 

 

 

 

 

 

 弾丸が跳ね返る音――偶然のそれじゃない、意図的な物だ。  

 

 

 

 

 

 

 光に遅れて音が聞こえるたびに扉から這い出した影の列の“頭”が抉れ形が崩れた。  

 

   

 

 

 

 一本の線が何かに当たっては跳ね返り続けている、これは……彼の仕業だ。  

 

 

 

 

 

 

 目にも止まらず制御ができない弾丸の軌道を反射を介して操作している。  

 

 

 

 

 

 視線は背後から迫っていた列へ――槍を持つ腕が落ちる音はしない。    

 

 

 

 

 

 ただ、踏み込む音が聞こえない……代わりに何体かが同じ方向に倒れ込んだ。    

 

 

 

 

 

 

 転んだんじゃない、”倒れた”。数発の弾丸で数十体の敵が足を止めた――ううん。  

 

 

 

 

 

 

 

 もう既に這いずる音も何かを引き摺る音も同時に止まった。  

 

 

 

 

 

 

 撃って当てるという行為が異常なほど速く、正確で、次の角度まで決まっている。  

 

 

 

 

 

 

 それを可能にしているのは……たぶん——本人の時間感覚がこちらと違う。    

 

 

 

 

 

 

 私が”危ない”と思ってから身構えるまでの隙間で、もう三つ先の危険まで処理している。

 

 

 

 

 

 

 実際にやっていることはひどく単純だ。撃って、当てて、倒す――その繰り返し。

 

 

 

 

 

よし……これであらかた片付いた、後は扉だな〘……化け物め〙

 

 

 

 

 

 淡々とした声だった。息も乱れていない――冷静すぎる。    

 

 

 

 

 

 

 事実として。誰よりも早く、誰よりも静かに、“前と後ろ”を同時に片付けてしまった。

 

 

 

 

 

中に弾ぶち込んで暴れさせてるが、静かだな――まあいい。ぶっ壊す「……終わり」

 

 

 

 

 

 まだこの時に潜む問題が解決したわけではないけど峠を越えられたはず……後は――。

 

 

 

 

 

〔ぴぁ、ぴぃ……〕……不味いな

 

 

 

 

 

 

―― CAKE SECOND DECORATION FUWAFUWA ――

 

 

 

 

 扉が内側、恐らく扉の向こう側から破壊された――でもヴァレンさんの様子がおかしい。

 

 

 

 

 

 

 さっきと違ってどこか緊張してるような――まだ何かくる?何処から?扉はもう――。

 

 

 

 

 

 

『やっと、会えたな――”酸賀絆斗”』「なに……この匂い。」……

 

 

 

 

 

 腐った卵みたいなこの酷い匂いは何?呼吸をする度に舌にも伝わってくる。

 

 

 

 

 

 

 気持ち悪い……今すぐここから離れたい――元凶はあの目の前……人?

 

 

 

 

 

 

 

『お前に敗北したあの日から己の傷を癒す時間でずっと考えていた』

 

 

 

 

 

 

 

ブレイズ、合図を出したら炎の壁を作れ。俺より前に絶対にでるな

 

 

 

 

 

 

あいつの事、知ってるの?黙って聞け、この状況はかなり不味い

 

 

 

 

 

 

 

『何故お前と同じ遺伝子を持つ俺が、多彩な力を持ち合わせなかったのか』

 

 

 

 

 

 

 

〘ニエルブ様、ミューターの幹部が内部に――〙『感情だった、俺に足りなかったもの』

 

 

 

 

 

 

 

『自分内にあるものに目を向けた、怒り、憎しみ、死への恐怖――お前への敬意』

 

 

 

 

 

 

―― TELLER ――

 

 

 

 

 

 

『感謝しよう、お前のおかげで俺はさらなる高みへと到達した――変身〗

 

 

 

 

 

 

―― HORROR VIOLENCE ――

 

 

 

 

 

 

 

〖冥土の土産にこの都市をお前の墓場にしてやる、オリジナル(酸賀絆斗)

 

 

 




記録⑨「割とまじめな勧誘期~ちょっと砕けてきた勧誘期」
場所:執務室、人事書類の山の向こう

「ヴァレンさん。改めてのお願いになるんですが……ロドスの正式なオペレーターとして契約していただけませんか?」
『前にも言ったはずだ、“仮拠点”としてならいくらでも協力するが、俺は外から来て、外に帰る身だ』
「それは、分かっています。でも、今のままだと、あなたを完全には守り切れません。“外部協力者”より、“ロドスのオペレーター”の方が、私たちは堂々とあなたを庇えるんです」
『書類の上で守れる程度のもんなら、俺はいらない』
「……いえ。書類の一行で、動かせる人と予算と権限は、驚くほど変わるんですよ?」
(少し沈黙)

『それでも、今は“外”に立っていたい』
「……そう、ですね。分かりました。今日のところは、これ以上は言いません」



 場所:食堂、ゴチゾウ付きの休憩中

「ヴァレンさん、最近の出撃回数、正式オペレーター並みですよ?」
『呼ばれたから行ってるだけだ』
「それ、ほとんどオペレーターです。あとは書類が一枚足りないだけです」
『その一枚を増やしたくないから断ってるんだが』
「……もし、オペレーター契約してくれたら、技術部に“ヴァレン専用ラボ”を公式予算で作れます」
『それは少し魅力的だな』
「じゃあ──」
『だが断る』
「今の“間”は、期待させましたよね!?」
『交渉の基本だろ。食いつく前に、餌を見るだけ見てやる』
「ぐ……つ、次こそは……」


――次の日

「ヴァレンさん、出撃前に一つだけお願いがあります」
『なんだ』
「今すぐこの場で“ロドスの正式オペレーターになる”と──」
『却下だ』
「ですよね!」

――人事部メモ
あの二人のやりとりは率直に言えば少し笑った。アーミヤさんが真面目に積み上げた理屈を、ヴァレンが真面目に受け止めて、きっちり断っている。悪意の拒否じゃない。本人なりの誠実さだ。

ただ、「専用ラボ」にだけ一瞬食いついたのは重要。欲があるのはこちらの提案が刺さる余地がある。とはいえ、直後の「だが断る」は交渉を半分遊び始めている気配もあるので、勧誘担当が“遊び相手”にされないよう注意したい。

結局、彼が嫌がるのは契約書より“帰れなくなる匂い”。なら、所属を迫るより先に「帰還を妨げない」「研究環境を保障する」文言を積んだ方が早いだろう。それかいっそ契約で縛るより、帰る日まで生きていられるよう周りが勝手に支える――彼がみんなを守ってくれていることへのささやかな仕返しとして。


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