雇った傭兵がチョコの怪物になって戦うんだが?   作:かな餅

11 / 11
【記録⑪:家族の話】

場所:食堂隅・休憩時間
記録担当:オペレーターL

以前、ヴァレンに家族はいるのかと尋ねたことがある。

特に深い意味はない。ただの世間話だったのだが、彼は意外にも素直に「親ならいる」と答え、少し考え込んだ後に「……兄弟もいるな」と付け加えた。

今にして思えば、彼が自分の身の上について話してくれること自体、かなり珍しいことだったように思う。

せっかくなので、どんな兄弟なのかと尋ねてみたところ、意外なことに本人もそれほど詳しく知らないらしい。

そもそも存在を知ったこと自体が彼の体感ではつい最近の出来事であり、実際に関わった期間も一ヶ月に満たないという。

もっとも、その短い付き合いの割には随分と思うところがあるようだった。

話している最中、彼の口からは記録に残すことを躊躇うような罵詈雑言が、実に静かな口調でぽつぽつと飛び出してきた。

嫌いなのかと尋ねれば、別に嫌いではないという。

ただ、そいつのせいで自分だけでなく大勢の人間が散々な目に遭ったらしく、どうやら最初の出会いは最悪だったようだ。

それでも、その兄弟がいなければ今の自分は存在していなかったのだと彼は語る。

詳しい事情までは教えてもらえなかったが、単なる血縁以上に深い関係があるらしい。
彼にとっては、ある意味で自分の半身とも呼べる存在なのだろう。

そうしてしばらく話を聞いた後、最後に一つだけ質問してみた。

二人のうち、どちらが兄なのか。

彼は少し考えるような素振りを見せた後、何ともふてぶてしい顔で「……しっかりしてんのは俺のほうだろ」と答えた。

なるほど、少なくとも本人は兄のつもりらしい。

もっとも、普段の彼を知っている身としては、その言葉を素直に信用してよいものか少々悩ましい。

もし今後、彼の言う「ショウマ」という人物に会う機会があれば、ぜひ同じ質問をしてみたいものだ。

果たして、どちらが兄だと答えるのだろうか。

――オペレーターL


episode 11 覚醒 Roar

〖あ〜、菌だらけのきったねぇ顔。除菌してやるよ、てめえの面はまた見てえと思ってたんだ〗

 

 

 

 

 明らかに前とは違う、肝が座ったな。前と同じ技は通用しないだろうし、ここじゃ使えない。

 

 

 

 

 ガルムも死角からの跳弾を何発かぶち込んでんのに貫通しねぇときた、個体として進化してる。

 

 

 

 

 ガルムの超高速弾も朽ちさせる蝕む身体、相性は最悪か……近づくのも億劫だな――億劫だが。

 

 

 

―― SNACK ――

 

 

 

―― SET SNACK SET SNACK ――

 

 

 

 

〔WAO‼WAOWAO!!!〕〖ブレイズ、やってくれ〗〔WAO‼WAOWAO!!!〕

 

 

 

―― ZAKUZAKU CHIPS ZAKU ZAKU ――

 

 

 

 後ろは炎の壁に……こいつ相手に意味があるかは知らんがこいつの眷属は足を止めるだろう。

 

 

 

〖その姿は……ふざけているのか?〗〖大真面目だ、現状お前に抵抗できるとしたらこれだ〗

 

 

 

 これは賭けでしかない、今日得た情報と今ある手札を擦り合わせて結果がこの形態だ。

 

 

 

 

 触れられたら一発アウト、それは前回と同じだ。違うのは進化したこいつと俺が知る弱点。

 

 

 

 

 振り回した腕の伸び――いや、身体の不定形化を使いこなして形を鎖鎌に変化させている。

 

 

 

 

 間合いが広いな、掠っただけでもアウトだろう……だが蝕む力とはまた別の能力だ。

 

 

 

 

 蝕まれるまで受け流すだけの猶予はある、十分な隙だ……直には触れられんが問題ない。

 

 

 

〔ザクッ、ザクッ、ザクッ……!〕〖実験を始めようか〗

 

 

 

 大振り、だが腕は変形し複数の鎌となって俺を襲う。

 

 

 

 

 パワーもスピードも手数も全て上回ってる――だが、超えてきた修羅場の数が違う。

 

 

 

 

 前なら躊躇せず俺に接近してきたはずだ、なのに今回は控えめ。

 

 

 

 

 前の反省を生かして慎重になったか?案外間違ってないかもな。

 

 

 

 

 ヴァレンシステムはスペックこそ低いが手数が多い。

 

 

 

 

 こいつとしては俺がこの形態であるうちに仕留めたいんだろう。

 

 

 

 

 だが明らかに近接戦を主とした形態には近づきたくない。

 

 

 

 

 真正面から勝てないからじゃない、俺が搦手によって相手の調子を挫くからだ。

 

 

 

 

 何もさせずじわじわと削る、賢いやり方だが慣れてないはずだ。

 

 

 

 

 俺なら慣れない戦い方はハッタリでしか使わない。

 

 

 

 

 自分に嘘を付いてじれったいまま戦うなら俺は、真っ向勝負を仕掛ける。

 

 

 

〖血迷ったか。〗〖お前こそどうした?調子でも悪いのか?風邪か?〗

 

 

 

 こいつの何に身体を変形させても切れ味は俺の剣が上らしい。

 

 

 

 

 恐らく装甲もザクっと切り裂けるはずだ――問題はその後だ。

 

 

 

 

 自分の不定形化を生かした捨て身の戦い方は変わってないな。

 

 

 

 

 防御を捨てて攻撃に走る、大してこっちはカウンター狙いだ。

 

 

 

 

 何処を切ってもかすり傷にすらならない――こいつ自身が思ってる。

 

 

 

 

 俺が血迷ったと思い始めてる、そう思ってくれ……思ってくれるなら。

 

 

 

〖俺はお前に勝てる〗

 

 

 

 

 ―― SNACK SECOND DECORATION HIRIHIRI ――

 

 

 

 

〖待ってたよ、お前が一瞬でも押し切れると錯覚して身体を前に出してくるのを〗

 

 

 ポテトチップスの刃は奴の胸を貫いた、それだけじゃ何の意味もない。

 

 

 

 

 だが、俺にはゴチゾウと酸賀が作ったおもちゃがある。

 

 

 

 

 やっぱ俺にはヴァレンだな、格上相手でも手札さえそろえば何とかなる。

 

 

 

〖ッ?!……お前ッ一体何を――〗〖この前お前を爆破した時に気付くべきだった〗

 

 

 

 突きさした刀身から燃え上がる、ノリスケ亜種固体の力だ。

 

 

 

 

 ミューターには炎が効く、わかり易く単純な弱点で逆に気づけなかった。

 

 

 

 

 決定的な致命傷を与えられるわけじゃないが、確実な効果は期待できる。

 

 

〖お前が何故、真っ黒こげのままあの技から生き残れたのか――俺も未熟だな〗

 

 

 

 それが身体の硬質化、炎から身を守る手段としてそうなるんだろう。

 

 

 

 身体に刺さった刃が燃えて居られるのはざっと10秒程度――十分だ。

 

 

 

〖レンガを砕けるヨーロッパのパンを知ってるか?あれ硬くて好きなんだ〗

 

 

 

 じわじわと炙ってこいつの全身をレンガのように固くして捕らえる。

 

 

 

 ロドスならこいつを研究してミューターに対する特効薬も作れるかもしれない。

 

 

 

 

 チップスの剣は脆く砕けやすいが何度でも素早く生えてくる。

 

 

 もう切るだけじゃない柄から刃を着脱してこの空間を炎で満たす。

 

 

 俺が持つかどうかも懸念だが少なくともこいつよりは我慢強い。

 

 

 

〔ひりひりチップスファイヤー~ッ!!!〕

 

 

 かなり動きが鈍くなった、これなら押し切れるか?いっそここで――。

 

 

 

〖……そういえばこの前、ショウマとかいう男と会った〗〖……あぁ?〗

 

 

〖中々手ごわい男だったよ〗〖しゃべるな、黙れ……お前俺の世界にも――〗

 

 

 

 

〖平和そうで良い世界だったな?――所で、”酸賀”だったか?お前の家族は〗

 

 

 

 

―― CAKE SECOND DECORATION FUWAFUWA ――

 

 

 

 

〖その汚い口を閉じろ。〗

 

 

 

 火で硬化した身体を内側から爆散させた影響でこいつの身体は散乱した。

 

 

 ミューターの眷属やグラニュートと違って塵になって消えないらしい……まあ都合はいいか。

 

 

 

 

 この破片を持ち替えれば何かしら研究ができる、後の懸念はこいつの様な存在があと何人――。

 

 

 

〖……本当に死んだのか?こいつは。〗

 

 

 

 あの挑発的な発言に狙いがあるってなんで考えなかった?そもそもこいつを殺せるなんて。

 

 

 

〖お前は案外衝動的だ、一度怒りに触れればトドメを刺しにくると踏んでいた〗〖……ダル〗

 

 

 

 散らばった破片が引き合うように集まって身体を形成している……硬化も解けた。

 

 

 

 

 内側から炙ったんだぞ……ガヴごと身体も吹っ飛ばした、何故変身を保ててるんだ……?

 

 

 

〖俺自身はともかくガヴも再生する事が不思議か?このガヴは今や俺の身体の一部でな〗

 

 

 

 以前から随分進化しやがった、ほぼ不死身……生憎こいつを倒す手段を俺は持っていない。

 

 

 

 

 俺に何が出来る?こいつをどうにかする方法はもう――いや、考えろ。

 

 

 

 

 不死身の化け物は既に一度相手にしたことあるんだ……いいや、不死なんて存在しない。

 

 

 

 

 こういう奴を殺す為に――不味いッ……。

 

 

 

〖お前はキングの計画に邪魔だ、消えてもらおう〗

 

 

 

 防御が間に合わない……それにチップスの剣は受け止めるっていう点については向いてない。

 

 

 

 

 吹き飛ばされた先は?炎の壁か、だったらブレイズ達と体制を整えるしか無い。

 

 

 

「あれ!?」〖あぁ〜……ブレイズ、後方に下がるぞ、今の装備じゃ厳しい。』

 

 

 

 わかりきってた事だが……一撃で変身が解けるのか、幸い硬化しているお陰で蝕まれてない。

 

 

 

 

 ニエルブに会いたいがあいつは今逃げてるかも知れないな、そもそも天災が――。

 

 

 

『こんな所でぶっ倒れてるのか――グラニュートハンター』『ッ……まじかこの状況で』

 

 

 

 グラニュート……ミューターで手一杯なのにこんな状況で――いや、違うのか。

 

 

 

『早く立てよッ!お前ならあいつぶっ倒せんじゃねえのか!』『……あぁ、悪い』

 

 

 

 そういえば……ただの"グラニュート"が多いんだったな、変な気分だ。

 

 

 

 

 散々狩り尽くしてきた種族にこうやって腕を貸されるなんて、もしかしたら夢でも見てんのか。

 

 

 

〖おい、グラニュート。選ばせてやる、そいつを差し出せば楽に死ぬか……それか天災で――〗

 

 

 

 

『残念ながら――2つの問いに答えは2つ』

 

 

 

 

『……は?その頭……お前。』

 

 

 

 

――みんなでお前を倒す――

 

 

 

――天災からも生き残る――

 

 

 

 

『両方やらなきゃいけないってのが下っ端バイトの辛いところだあ……なぁ、相棒?』

 

 

 

 

 

『そうだなぁ、兄弟?』『今でも統一してねえのかよ。てか、何でいるんだ……?お前ら』

 

 

 

 この世界でもタコかよ……で、もう一体は――キノコ、まじか、こいつらも来てたのか。

 

 

 

「もしかして、俺達の味方……!?」「普通ならそんなわけないっていう所なんだけど」

 

 

 

 

『まさかグラニュートハンター助ける時が来るなんてな?あの時は世話になったぜ?』

 

 

 

 

『わからねえな、何でお前らがこの都市に残って戦う?闇菓子がほしくてお前達は……』

 

 

 

 

『例えどんなに旨くてもいつ食えるかわからないお菓子より』『人間と並んで食う石の方が良い』

 

 

 

 

『俺達は気づいた時から闇バイトで腹を空かせて石を齧ってた、人間を騙して攫ってな』

 

 

 

 

『ニエルブを追ってこの世界に来てから彷徨って、人間に渡された菓子を食って思ったんだよ』

 

 

 

 

――ニンゲンで作る菓子は美味いらしい――

 

 

 

 

――だが人間が作る菓子も美味い――

 

 

 

 

『……だから人間に闇菓子より美味い菓子を作らせようって?――なんか、こうもっとあるだろ』

 

 

 

 

『ねえよ、だって俺達が最初に知ってたのは闇菓子が美味いってことだけだぜ?』

 

 

 

 

『まあ、元々使い捨てのバイトだからそれ以外のことなんて知る必要無いんだろうけどなぁ』

 

 

 

 

『……そうか、"それしか"知らなかったのか。バウエルの闇バイトは。』

 

 

 

 そりゃ人間を襲うなって言っても、何でか分かんねえわけだ……誰も教えようとしなかった。

 

 

 

 

 バウエルはクソだがそれは間違いだった――もっと碌でもねぇクソだってわかったよ。

 

 

 

「……やぁ、酸賀さんの坊や何だか不味い事態だね?」『……なあ、ニエルブ。』

 

 

 

 

「何?」『バウエルってやっぱ碌でもねぇんだな』「うん、知ってる」『……お前は――』

 

 

 

 

「僕は赤ガヴに殺された家族(ストマック家)を取り戻したかった、でも自業自得だし僕は彼を恨んでないよ」

 

 

 

 

『……』「その結果が高橋翔馬の悲劇に繋がったんだけどね、許してくれとは言わない」

 

 

 

 

「人間がどうでも良いのも本心だし、望むがままに死んだ家族を取り戻そうとした」

 

 

 

 

『……なあ、翔馬と居たのは、罪悪感からか?』

 

 

 

 

「好奇心、弟と似た面影を持った君達に情が湧いたんじゃない……面白いと思ったからそうした」

 

 

 

 

『……偽物の家族と居るよりは楽しいだろうな』「うん、血の繋がりのない赤の他人だしね」

 

 

 

 

〖……おしゃべりは終わったか?〗『ああ、こんな状況で仲直りまでとは言わないが、十分だ』

 

 

 

 奴への有効打はブレイズ、ただし真正面から戦わせてられない――それはニエルブもだな。

 

 

 

 

 だがニエルブの頭脳ならこの状況を打開……ミューターへの対抗手段を考えているはずだ。

 

 

 

『今から一つ聞くが俺って言うなよ』「うん、多分君って言うね」『……ならここで終わりか』

 

 

 

 

「ごめん、話についていけないんだけど」『気にするな』「気にするよ?」

 

 

 

 

「もっと詳しく言うなら君のゴチゾウについてだ」

 

 

 

 ニエルブの眷属が時間稼ぎをやってくれてるが、話にならないな……。

 

 

 

「君は思い出に味覚を感じたことはあるかな」『……思い出?んなもん記憶の中の――いや。』

 

 

 

  市販のケーキが手作りされたケーキの味になってたことはあったか?

 

 

 

「いつかは敵に戻る君に塩を贈るのは嫌なんだけどさ……」『勿体ぶらず早く言えよ』

 

 

 

 

「君は人の想いを味覚に変えて力に変えることが出来る、なら人との思い出も君の力になり得る」

 

 

 

 思い出が、力になる?……いや、そんな都合のいい話があるか?それならもっと早く――。

 

 

 

〔ロル?ロルぅ?〕『……だとして、今あるヴァレンの形態にあいつを倒せる能力はない』

 

 

 

 

「確かにただのヴァレンシステムじゃダメかも知らない、だけどいつだって君は乗り越えた」

 

 

『お前はこう言いたいのか?俺が過ごしてきた時間そのものが俺の力だと』

 

 

 

 

「それもそうだし……何より君には、帰るべき場所があるんでしょ」『……ああ』

 

 

 

 ホワイトチョコ……普通ならただのチョコゾウが生まれて終わりだ。

 

 

 

 

 指で割ると、ぱき、と乾いた音……欠片を口に放り込む――最初は、軽い。

 

 

 舌の上で体温に負けて、角がすぐ丸くなる。

 

 

 

 

 カカオバターの脂が、ぬるっと広がって、上あごの裏に貼りつく。

 

 

 

 

 ミルクの甘さが遅れて追いかけてきて、鼻に抜ける匂いがやたら柔らかい。

 

 甘い。優しい。腹立つくらい、無抵抗な味。噛むと、歯が沈む。

 

 砂糖が粒になってほどけるような、しゃり、という微かな音がする。

 

 溶けた脂が歯の隙間を埋めて、口の中がぬくい膜で覆われていく。

 

 甘さの中に、粉っぽい何か。

 小麦でも、砂糖でもない。

 

 俺は舌を動かす。

 溶けかけた白の膜の中に、ほんのわずか、ざらつく粒が混じっている気がした。

 

 それがやけに懐かしい、そんなはずない。

 これはただの、ホワイトチョコだ、あいつが作った物じゃない。

 

 なのに。

 

 甘さが、じわりと変わる。

 ミルクの白が、口の中で少しだけ濁って――。

 

 

 

「……幸果の作る菓子はいつだって美味かったな」

 

 

 

 

――はーい、ハンティのお菓子!……え?絆斗君だからハンティだよ?――

 

 

 

 甲高い声。紙袋のがさがさ。

 

 砂糖の粉が舞って、指先が白くなって、俺はそれを気にせず舐めてた。

 

 

 

――ハンティ毎日くるね?そんなにうちのお菓子美味しい?――

 

 

 

 笑いながら言う声。

 店の奥から漂うバターの匂い。

 焼き立ての熱が、頬に当たる距離。

 

 

 

――ハンティ見て!お菓子の妖精をイメージして作ったお菓子なんだけど……試食お願い!――

 

 

 そんな、馬鹿みたいな感覚。

 

『……頭の中でもうるせぇよ』

 

 

 

 溶けたホワイトチョコが、舌の上で伸びる。

 

 

 甘さが喉へ落ちる 甘いのに、渇く。

 

 

 渇くのに、落ち着く。

 

 そうだ……チョコばっか食いすぎて喉乾いて幸果にジュースもらって毎回、笑ってくれた。

 

 

 

〔チョウっ!……ダートチョコ!〕『そうだ、そうだった――幸果の菓子で俺は強くなれた』

 

 

 

 

『……ブレイズ。』「何?」『一緒に戦ってくれ』「うん、勿論!」

 

 

 

 

「さて、僕はお手並み拝見だ」

 

 

―― CHOCO THE STARTING ――

 

 

 

〔WAO……WAO……WAO WAO WAO!!!〕

 

 

 

 

『ああ、そうだ……変身』

 

 

〔WAO……WAO……WAO WAO WAO!!!〕

 

 

―― DIRT CHO CO !!! GRITTY !!!(踏みしめろ) ――

 

 

 

 

〔 GRITTY(踏みしめろ) !!! 〕

 

 

 

―― BEYOND BIO LOGY ――

 

 

 ―― PHASE 3 VALEN ――

 

 

 

 

〖何だその形態は少しは楽しめそうだが……しかし残念だが俺の体は――ッ!?〗

 

 

 

 

 

 ダートグミより遅くて良い、ただ走り続けろ。

 

 

 

〖こいつは加速に特化した形態……だが、それだけじゃない。〗

 

 

 

 

 拳を叩きつけろ、奴の頭を蹴り飛ばせ――戦い始めた日から人間にはならないと決めたんだろ。

 

 

 

「彼の不定型化と攻撃は同時に出来るほど器用じゃない、タイミングさえ合えば物理的な打撃も」

 

 

 

 

 明日のことなんて考えるな、未来なんて見なくて良い――俺は走り続けるんだ。

 

 

〖……"音を超えろ"〗〖ッ!?……貴様ッ!〗

 

 

 

 加速しろ、更に――走り続けろ、常に。

 

 

 

 

 全身が軋む、遠心力で内臓がひっくり返りそうだ――だからどうした……更に加速しろ。

 

 

 

「加速してる、更に……いや、加速以前に――あれは」

 

 

 

 骨が揺れる感覚……身体中が常に振動するな、脳まで揺れるが……問題ない。

 

〖まだだ……更に速くッ……〗〖ッ……身体がッ〗〖こいつを仕留められるだけの衝撃をッ〗

 

 

 

「……なるほどね、継続的にダメージを与え続ければ彼を炙らずとも形を維持させられる」

 

 

 

 

「それ……何現象?」「彼の世界だとタイラタンシーが近いのかな?」

 

 

 

――何でも屋:【助っ人酸賀さん!】

 

 

 

 

 翔馬と絆斗が消えてから幸果はあまり笑わなくなった、もう一週間だ。

 

 

 

 

 あれからグラニュートが東京に集まってきて、被害を食い止めるのも一苦労。

 

 

 

 幸い、絆斗が所属していた組織ってところからは増援がかなり送られてる。

 

 

 

「……だけど、絆斗はハントしかいない。あいつ、どこ行ったんだよ。」

 

 

 

 酸賀絆斗、先代ヴァレンらしい”辛木田絆斗”のヴァレンシステムでヴァレンに変身する。

 

 

 

 

 半分人間で半分グラニュート、それ以外にも色々ややこしい話はあるが……とにかく。

 

 

 

 

 今の俺達にとって欠かせない奴だった、もしこのまま帰ってこないなら――。

 

 

 

「酸賀のおっさん、ちゃんと飯食ってるか?」「……あ~置いといて~」

 

 

 

 

「あんたこの前からまともに寝てないだろ……風呂にも入ってない。何やってんだよ」

 

 

 

 

「ごめんごめん……ちょっと、気分じゃなくてさ」「……はぁ、まだそれやってるんだな」

 

 

 

 画面に表示されているのは突然俺達の前に現れた”ヴァナルガンドゴチゾウ”。

 

 

 

 

 酸賀はハントが消えて以来ずっとあれを研究している、成果は分からない。

 

 

 

「やっぱり、クランチガルム君と似た性質だけど個体としてはずば抜けた出力だねぇ」

 

 

 

 

「それ一体どんなゴチゾウなんだ?」「きっぱり言って分からない、出自も謎だし……」

 

 

 

 

「なんならこの子どうやってこの世界に来たのかも謎……だけど、手掛かりはこれだけ」

 

 

 

 

「……ちゃんと寝ろよ」「あ、でも関係ないけど面白い発見はしたよ?ダートチョコの」

 

 

 

 ダートチョコ、ハントの周りにうろうろしてる白いゴチゾウ。

 

 

 

 

 いつも変身に使ってるチョコドンゴチゾウとは違って、特別なゴチゾウらしい。

 

 

 

 

 確か偽酸賀と戦った時にハントがそれを使ってフェーズ……3になってたな。

 

 

 

「絆斗君は新たな壁を超えた、正直ねPHASE3以降は予測がつかない」

 

 

 

「……あんたが作ったシステムだろ?」「それなんだけどね……実は……」

 

 

 

 高橋翔馬、元々の絆斗の身体の持ち主で今は人間の身体を持っている。

 

 

 

 

 絆斗は元々翔馬のクローンであり、肉体を取り換えるためのドナーだった。

 

 

 

「絆斗君の身体は脳を入れ替えてから適応を超えた進化を始めてる」

 

 

 

 

「難しいことは分からない」「そのまんまの意味だよ、進化と言うのは遅い」

 

 

 

 生物と言うのは進化をする、それは今もゆっくりとしたスピードで続いている。

 

 

 絆斗のそれは、簡単に言えば他の人よりも更に早いという話らしい?

 

 

 

「遺伝子組み換えやゲノム編集を無自覚にやってる……すごいねぇほんと」

 

 

 

 今思えば、絆斗は結構不思議な奴だ。無くなった腕が生える再生力。

 

 

 

 

 味覚で相手の気持ちを受け取れる能力、それから――ゴチゾウ。

 

「あのショウマ君とは大違い……あ、あの”翔馬”君じゃないよ?井上ショウマ」

 

 

「誰だよ」「一番最初の仮面ライダーだよ、そういえば彼にも連絡とらないと」

 

 

 

「初代?……それって赤いガヴをつけた奴か?兄貴が助けてもらったって」

 

 

 

「そうそう?君のお兄さんと知り合いなんだ?あ、で話は戻るけど」

 

 

 酸賀が調べた結果によるとダートチョコの能力は”加速”。

 

 

 

 

 単に言えば動けば動くほど早くなってついでに強くなる。

 

 

 

 

 一度止まればそれがリセットされるらしいが、それでもスペックは高い。

 

 

 

「あのゴチゾウは面白い点は二つ、まずは潜在能力を更に引き延ばすこと」

 

 

 

 

「……つまり?」「限界以上に強くなれるってこと」

 

 

「あれのお陰で絆斗君の強さに理論上は限界が無くなった、それが一つ目」

 

 

 もう1つは”衝撃の蓄積”これはダートチョコのもう1つの能力らしい。

 

「強靭な脚力で足の裏から身体の内に蓄積させて大技の時は相手にぶつける」

 

 

「ああ、実際に見てすげえ威力だった、あの偽酸賀の――」「まった」

 

 

 

 

「俺が注目したのはそれが自分だけの物じゃないってこと」

 

 

 

 衝撃の蓄積。それが相手にも起こり得るなら……まず、まともに動けるのか?

 

 

 「これは絆斗君が故意にやってることじゃなくてゴチゾウの力」

 

 

 

 

「絆斗はなんで動ける?」「多分装甲に蓄積してるんじゃない?知らないけど」

 

 

 

「あ、でそうそう……最近グラニュートも多くなってきたし君の強化も――」

 

 

 

――人喰い都市アラストル

 

 

「やっぱり面白いね、酸賀さんの坊やは……」「言ってる場合?こいつらまた……」

 

 

 

 扉は確かにすべて破壊した……こいつが出しやがった物を省いてな。

 

 

 

 

 どれだけ殴っても一向に仕留められる気配がない……そもそも死ぬのか?

 

 

 

 

 こんなところで気絶させて眠らせたところでどこに捕えておくんだ――扉。 

 

 

 

〖……こいつをこの状態ままにしてやれるか?〗〔ちょう!〕〖いつまでできる?〗

 

 

 

 

〔ちょう?〕〖ならいつ解ける?〗〔……ちょぶ〕〖やるだけやるか〗

 

 

 

 あの扉の向こうへこいつを押し戻す、衝撃を蓄積させたまま……。

 

 

 

〖ブレイズッ!ニエルブッ!絶え間なくこいつを攻撃しろ俺は……準備する〗

 

 

 

 

「え?ちょっとそんな暇――ねぇ?!どこ行くの?!」「……何か狙いが?」

 

 

 

 

〖ふざけるな……俺は確かにッ強く……〗「……酸賀さんの坊や、信じるよ」

 

 

 

 身体が揺れて姿勢が崩れる……ロシュアガルドがなかったら転んでたな……。 

 

 

 

〖ニエルブ!〗

「クヴァレくんじゃないか、ちょうどいいところに――」

 

 

 

 

「とにかくそのスライムみたいなやつ殴りまくって!」〖そのつもりだ!〗

 

 

 

 

 ―― CUP LADY ――

 

 

 

 クヴァレも向かったならしばらく持つな……さて、この形態になるのは二回目。

 

 

 

 ―― PUDDING CRUSH ――

 

 

 

 ゴチゾウを信じるなら最大威力を出すのに離れた距離から勢いをつける必要がある。

 

 

 

 

 蓄積された衝撃を殺さずにぶつけるなら止まってはいけない。

 

 

 

 

 だが小回りが利かない、加速するこの形態で狙った方向に技をぶつけて敵を吹き飛ばす。

 

 

 

〖このッ……グラニュート如きがッ!〗「ちょっと!大人しく――いや、そのまま?えっと」

 

 

 

 

「あのまま炙られると蓄積された衝撃を流せなくなって砕けるのか……興味深いね」

 

 

 

 

「ニエルブさんなんでこんな時でも楽しんでるだろ……」〖お前も戦えニエルブッ!〗

 

 

 やたらと面倒くさいことを何でいつもこう……まあいい。

 

 

 

 やるだけ、やってやる――壁が見えた距離も十分……あとはどうやって曲がる?

 

 

 

「切れてないけど効いてるのこれ?」「なんか手応えはあるけど刃が……」

 

 

 

『俺達も切られて切れないときあるけど、痛いから多分効いてるぜ!』

 

 

 

 

 地面を蹴る。

 

 

 

 一歩目で身体が前へ持っていかれた。二歩目で速度が乗る。三歩目、もう止まれない。

 

 

 

 止まった瞬間、ここまで積んだ加速も、上がった出力も全部抜ける。

 

 

 

 

 なら足を止める選択肢はない――が……本当にどうする。

 

 

 

 

 無理に身体を傾ける。進路を変えようとして、足裏が床を削った。

 

 だが曲がらない。小回りが利かないどころじゃない。

 

 

 

 

 身体の重さと速度が、意思を置き去りにして正面へ押し出してくる。

 

 

 

 

 視界の端で壁が膨れ上がった。

 

 

 

 

 まずい、ぶつかる――そう思った瞬間反射で足を出した。

 

 

 

 

 壁面に靴底が叩きつけられる。衝撃が膝まで跳ね返ったが、身体は止まらなかった。

 

 

 

 

 止まるどころか、前へ逃げるはずだった勢いが壁に沿って上へ流れる。

 

 

 

 

 もう片方の足が勝手に次の位置を探す。

 

 

 左足が壁を踏む。右足がさらに上を蹴る。

 

 

 

 

 床が横に滑り、配管が近づき、身体が壁を駆け上がっていく。

 

 

 

 

 考えてる暇はない――落ちる前に次の足。剥がれる前に次の一歩。

 

 

 

 

 壁を走っているというより、加速に引きずられながら壁面を踏み抜いている。

 

 

 

 

 今度は天井にぶつかる――そして次は自分の意思で壁を強く蹴った。

 

 

 

 

 身体が壁から剥がれ、宙へ放り出された。勢いは死んでいない。

 

 

 

 

 むしろ、壁を駆け上がった分だけ軌道が跳ねてそのまま前転する。

 

 

 

 

 視界がひっくり返る。床、天井、壁。ぐるりと流れる中で、足を延ばし、肩を捻った。

 

 

 

 

 回転を止めるんじゃない。勢いを殺さず、身体の向きだけをずらす。

 

 

 

 

 落下に合わせて床を踏む。着地の衝撃を受け止めずそのまま前へ逃がす。

 

 

 

 

 足元が砕け、身体が再び走り出し……結果として、方向は変わった。

 

 

 

 

 速度も落ちてない……落ちるどころかまた更に加速する。

 

 

 

〖もう、十分だな?〗〔ちょわ!〕〖じゃあ、ぶちかますぞ〗

 

 

 

 さあ、走れ。もっと先へ更に向こうへ、その先へ――なんか、そうだな。

 

 

 

 

 たまにはこうやって、全力で走るのも……帰ったら、そうだ。帰って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〖―――のトレーニングに付き合ってやるのも、良いかもな〗

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この足音……ッ!?多分ヴァレンさんが来ますッ!みさな――」

 

 

 

 

 

「えっ?!」〖待て何を――〗『えなんて?』『なんかすげえ音が……てか揺れ――』

 

 

 

 

 

 

 

―― BEYOND THE STRIKE !!! ――

 

 

 

 

 

―― DART CHOCO ――

 

 

 

 

 

 

 

〖ッ……必ずッ……お前だけはッ!!!〗〖あばよ黴菌!二度と面見せんなッ』

 

 

 

 

 

――???

 

 

 

 

 また負けた。二度……いや、三度も――何故だ。

 

 

 

 

 データでは、奴よりも確かに俺の方が優れている。

 

 

 筋力も、再生能力も、肉体の適応速度も、ガヴとの融合率も。

 

 

 俺は自らに適応するガヴを得た。

 

 

 恐怖も知った。怒りも覚えた。

 

 

 死にたくないという衝動も、奴を超えたいという欲求も、奴への敬意すら取り込んだ。

 

 

 俺は進化した……なのに——なのに、何故だ

 

 

 何故あいつは、また俺を超えた。

 

 

 扉の向こうへ叩き込まれた瞬間、視界が白く弾けた。

 

 

 衝撃。衝撃。衝撃。

 

 

 身体の表面ではない。

 

 

 肉の内側……骨の奥……ガヴの根元。

 

 

 再生したはずの神経の隙間。

 

 

 そこに、奴の一撃がまだ残っている。

 

 

 ぶつけられたのは一度のはずだ。

 

 

 だが、違う……一撃ではない。

 

 

 奴が走り続けた分……壁を蹴った分……床を砕いた分。

 

 

 身体を回し、速度を殺さず、全てを繋げた分。

 

 

 その全部が、俺の中に置き去りにされている。

 

 

 抜けない——散らせない。

 

 

 再生しても、形を変えても、液状に崩しても、内側の震えだけが残る。

 

 

〖ク……ッ、何だ……これは……!〗

 

 床に膝をつく——違う……膝をついたつもりだった。

 

 

 脚が勝手に弾けるように跳ね、金属床を叩き割った。

 

 

 周囲に警報が走る、赤い光が、白い壁を舐める。

 

 

 透明な管の中で、黒い液体が波打つ。

 

 

 吊られた培養槽が震え、中に浮かぶ未完成の肉塊が泡を吐いた。

 

 

 施設……研究区画か、いや貯蔵庫だったか?——どちらでもいい。

 

 

 とにかく、俺は”倒された”——あの若きグラニュートに”ミューター”が。

 

「Jr.」

 

 硬い靴音、苛立ちを隠そうともしない声。

 

 焼けた薬品と消毒液の匂い。

「貴方はまた勝手なことを……あれ程、彼方へ行くなと何度も言いつけましたはず……!」

 

〖ク、クラー……プ〗

 

 声がうまく出ない。

 

 喉が震えている。

 

 いや、喉だけではない。

 

 胸が。腹が。背骨が。ガヴが。

 

 全部、別々の速度で震えている。

「他の世界とも戦いが始まっていると言うのに、貴重な兵士を勝手にッ——」

 

 

 クラープの声が途切れた、俺の腕が勝手に伸びたからだ。

 

 

 伸ばそうとしたわけではない……もうとしたわけでもない。

 

 

 

 

 ただ、身体の内側で暴れる衝撃が逃げ場を探して、腕の形を変えた。

 

 

 黒い肉が鞭のようにしなり、横の培養槽を叩き割る。

 

 

 ガラスが弾け液体が床にぶちまけられた。

 

 

 中にいた未完成の何かが、濡れた袋のように潰れて動かなくなる。

 

「Jr!?何をしているのですッ。落ち着きなさい、ここで暴れてしまってはサンプルがッ」

 

 

〖違う……俺は……俺は暴れてなど……!〗

 

 

 

 違う——俺の意思ではない……身体が止まらない。

 

 

 奴の力が、俺の中でまだ走っている。

 

 

 何故だ。何故、こんなことが出来る。

 

 

 奴は俺と同じはずだ。同じ遺伝子。

 

 

 同じ根。同じ怪物。俺の方が完成している。

 

 

 俺の方が合理的だ。

 

 

 俺の方が強い。

 

 

 なのに——何故、奴には俺にないものがある?

 

 

 あの加速は何だ。

 

 

 あの出力は何だ。

 

 

 あの白い小さな個体は何だ。

 

 

 何故、奴は不完全なまま、俺の完成を踏み越える。

 

〖俺は……オリジナルを……超えたはず……〗

 

「Jr.、聞きなさい。今すぐ変身を解きなさい」

 

〖解け——ない……〗「……何ですって?」

 

〖ガヴが……俺の身体が……言うことを……〗

 

 

 腹部が軋む——ガヴが開こうとして、開かない。

 

 

 閉じようとして、閉じない。

 

 

 内側から何かが叩き続けている。

 

 

 どん……どん……どん。

 

 

 まるで、俺の身体の中で誰かが走っている。

 

 

 あの足音が身体の内側から聞こえる。

 

 

 扉の向こうから迫ってきた、あの足音。

 

 

 床を砕き、空気を震わせ、警告すら追い越してきた足音。

 

 

 音が消えない――むしろ奴の足音が、俺の中でまだ響いている。

 

〖やめろ……止まれ……止まれッ……!〗

 

 

「再生を止めなさい!不定形化で衝撃を逃がすのです!」

 

 

〖やっているッ!〗

 

 だが、逃げられない…… 衝撃が俺の形に合わせて逃げ場を変える。

 

 

 俺が崩れれば、崩れた形の中で跳ねる。俺が固めれば、固めた内側で反響する。

 

 

「……まさか、衝撃を固定された?」

 

 俺が再生すれば、再生した肉の奥にまた入り込む。

 

「身体を媒体にして、内部に運動エネルギーを蓄積……いえ、違う。これは循環……?」

 

 

 無理だ、身体が勝手に跳ねる。

 

 

 右足が床を踏み抜く、左肩が壁に叩きつけられる。

 

 

 反動で背中から管の束へ突っ込み、複数のケーブルが引き千切れた。

 

「Jr.!そこから離れなさい!その区画は——」

 

 俺の視界が歪んでいるのか、施設そのものが揺れているのか、もう分からない。

 

 

 ただ、見えた……正面、厳重な隔壁の向こう。

 

 

 巨大な円筒槽。何本もの管が刺さり、黒と金の液体が満たされ、中心に何かが沈んでいる。

 

 

 兵士の素体か――いや違う、俺はあれを知っている、知らぬはずがない。

 

「駄目です、Jr.!そこだけはッ——!」〖俺は——止まれない……!〗

 

 蓄積した衝撃が、ついに俺の意思を完全に押し潰す。

 

 

 身体が前へ飛ぶ——円筒槽へ。クラープが何かを叫ぶ。

 

 

 俺の身体が防壁に触れた瞬間、内側の衝撃が一斉に出口を見つけた——。

 

 

 何故、俺ではない。何故、あいつだけが。あいつは何を持っている。

 

 

 

 

 

 俺にない何を。記憶か?味か?仲間か?帰る場所か?

 

 

 

 

 そんなものが……そんなものが、データを超えるというのか。

 

 

 

 

 

 

 

〖酸賀……絆斗……!――俺とお前で、一体……何が〗

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とお前で、何が違った?

 

 

 

 

 

 

ーー人食い都市アストラル

 

 

 

 

 ……終わったのか?ああ、終わった。俺たちは勝った。

 

 

  

 勝ってることにしよう、今はそうじゃないともう、だめだ。

 

 

 

 

 ダートチョコは二回目だがやはり代償はずいぶんと大きい……特に吐きそうだ。

 

 

 

 

 全身が激しい振動に72時間全力疾走で走ったような体力の消耗。

 

  

 ”PHASE3”……こいつは土壇場の土壇場でも使うかぎりぎりまで考えるな。

 

 

 

 

 翔馬となんでこんなに差があるんだよ……これならストロングプリンが良い。

 

 

 

「……なんか、ほかの化け物たちも倒れていったみたい……勝ったんだね」

 

 

「さすがだね、酸賀の坊や?あいつらの主力に勝っちゃうなんて」

 

 

『仲間じゃねえのに手を差し出してくんな』「仲間なら手を差し出していいんだ?」

 

 

 立つだけでもやっとだ、次はさっさとロドスと連絡してこの都市について――。

 

〖ニエルブ、都市のエンジンは稼働していまは動き出してる……でも、問題がある〗

 

 

「何?」〖まだ推測でしかないが……今のペースだと大規模な源石の塊を避けられるかどうか〗

 

 

〖ここまで戦ったが、もう都市を捨てて逃げるほうが望みは高いかもしれない〗

 

 

「ちょっと待ってください……!天災の中ならどのみち危険です、だったらこの都市でーー」

 

 

「……いや、どっちを選んでも大きな被害が出る。万事休すってところかな。」

 

 ……ざけんな、クッソ忘れてた――その天災から逃れるための戦いだった。

 

 

 そもそも俺はまともに研究を進められるところが欲しくて戦ってたんだ。

 

 

 帰るためだ、帰らないとダメなんだよ……だったら別にこんなところから。

 

『……くそ、クヴァレッ!俺を外に連れ出せ……時間を稼ぐ』〖は?〗

 

 

『急げ、ここから逃げようが都市に籠ろうがどうせ天災は平等に降り注ぐ、だったらだ』

 

 今のリミットが外れたヴァレンシステムなら……限界を超えた出力を発揮できる。

 

 

 今の状況を打開できる可能性があるとすれば、マジックザストーンチョコ。

 

 

 ゴロゾウのヒナたちの力を終決すればすくなくとも天災を防げるかもしれない。

 

 

 問題は今の俺が何分持つかだが、まあなるようになるだろう。

 

〔ぴゃぁ……ぴぃ〕『大丈夫だ……俺がやらないと、ニエルブ』

 

 俺が死ねばこの都市を維持する理由がニエルブにはなくなる。

 

 

 ミューターとは戦うかもしれない、いや寝返って都市の皆を闇菓子にするかもな。

 

 

 それでも、ここまで築いてきたものを何も思わないはずがないんだ。

 

 

『俺が二度と目を覚まさなくなったら、あとは頼むぞ』『……それ僕に言うの?』

 

 

『俺だっておかしいと思う、でもお前しかいないんだ』『……そうだね。』

 

 

『確かに?この世界じゃ僕が残したデータを扱えるのは酸賀さんの坊やくらいだし』

 

 

「ねえ、君――」『ブレイズ、なるべくみんなを安全な場所に連れて行ってくれ』

 

 

「そんなことできないよ……だって、もう限界なはずでしょ?」『……ああ』

 

 

『でも気にすんな、落ちる石ころ適当に払ってくるだけだ』

 

 

『空から飯が降ってくるなんて俺たちからすりゃ恵みの雨だ』『押しつぶされたらもともこめねぇけどな?』

 

 

 

 

「……生きて帰ってくるんだよ、隊長命令だから」『ああ、帰るために生きてる』

 

 

 

――人食い都市アストラル:都市部

 

 

 

 

 酷い風だ、ふらついてちゃすぐ吹っ飛ばされちまうなこりゃ。

 

 

 

『……クヴァレ、このあたりでいい。ここでも十分”あれ”が見える。』

 

 

〖絆斗、俺は到底……あれを止めるなんて正気とは思えない……あのサイズは、もう〗

 

 

 都市の区画一つレベルじゃない、質量だけなら都市の半分はありそうだ。

 

 

 ここは地獄か?まさか元の世界で同族狩りする以上に馬鹿みてえなことがあんのか。

 

 

『……さあ行くぞ、俺を誰だと思ってる、俺はどこにいたって変わらない。』

 

 

 

 俺は酸賀の子だ、グラニュートハンターだ、仮面ライダーだ。

 

『あんな石ころ受け止めるくらいマシュマロキャッチより楽勝だ。』

 

 

〖……お菓子とあれを同列に扱う奴を、俺は初めて見た〗

 

 

『俺も初めてやるから同じだ。下がってろ、巻き込まれても知らねえぞ』

 

 

 クヴァレが何か言い返すより先にヴァレンバスターを引き抜く。

 

 

 吹き荒れる風に砂礫が混じり、頬を叩くたびに細い痛みが走った。

 

 

 空を見上げれば、雲の奥が不自然な橙色に焼けている。

 

 

 雷光とは違う。

 

 

 あまりにも巨大な源石塊が大気を押し退けながら落ちている。

 

 

 その周囲で摩擦熱を帯びた空気そのものが光っている……地獄だ。

 

 

 あれを全部止める必要はない。都市へ直撃する軌道だけずらす。

 

 

 それでも質量差を考えれば笑えてくるほど無茶だが、今さらだ。

 

 

 ポケットへ手を入れると、小さな石チョコのようなゴチゾウが指へよじ登ってきた。

 

 

 さっきまで怯えていたくせに、今は俺より先に空を睨んでいる。

 

〔ぴゃあ!〕『頼むぞ。お前一匹じゃないけどな』

 

 ヴァレンバスターのセッターコフィンへ押し込む。

 

――STONE CHOCO――

 

〔ゲットレディ!!!〕

 

――SET STONE CHOCO SET STONE CHOCO――

 

 

〔IT'S SHOWTIME!!〕

 

 

〔 Yay! Yay!! WAO WAO WAO!!! 〕

 

 

 

〔 Yay! Yay!! WAO WAO WAO!!! 〕

 

『……変身』

 

 クラックジャッキを噛み合わせた瞬間、足元の路面が盛り上がった。

 

――MAGIC THE CHOCO GOROGORO――

 

 

〔PLUS ULTRA!!!〕

 

 舗装を突き破った岩塊が大小に砕けながら宙へ浮かび、俺の周囲を高速で旋回する。

 

 

 石と石が擦れる乾いた音が風の唸りへ混じり、肩、胸へ次々と食いつくように結合した。

 

 

 顔面を覆ったところで視界が暗転し、次に開いた時には空中へ浮かぶ岩の位置まで分かる。

 

 

 同時に、もう一つの意識が頭の中へ滑り込んできた。

 

 

 右上の瓦礫。左後方の街灯。飛んできた鉄板。クヴァレの位置。

 

 

 上空の源石塊。風向き。落下速度。

 

 

 俺が考えるより一瞬早く、ゴチゾウが危険な破片を弾き飛ばす。

 

〖……やっぱ頭ん中に直接来るの、慣れねえな〗

 

 

〔ぴゃ~♪〕〖褒めてねえよ〗

 

 いつもならここまででいい。

 

 

 だが今日は、これじゃ足りない。

 

 

 左腰のヴァレンエンゲージへ手を伸ばす。

 

 

 そこへ控えていたのは二匹のマジック・ザ・ストーンゴチゾウ。

 

 

 何をするつもりなのか察しているのか、互いに顔を見合わせた。

 

〔ぴゃ……?〕

 

 

〖悪い。今日は三匹まとめて付き合え〗

 

 

〔ぴゃあっ!〕〔ぴぃ!〕

 

 一匹目を上段のスロットへ押し込む。

 

 

 硬いクリック音が鳴った途端、頭蓋骨の内側を針でなぞられたような痛みが走った。

 

―― CHOCO SECOND DECORATION GOROGORO ――

 

 

〖ッ……まだだ〗

 

 二匹目を、下段へ。

 

 

 カチリ。

 

 

 それだけだった。

 

―― CHOCO THIRD DECORATION GOROGORO ――

 

 次の瞬間、頭の中で何かが弾けた。

 

〖――ぐ、ッ……!〗

 

 

 額の奥へ熱した太い螺子を突き刺され、そのまま力任せに回されているような痛みだった。

 

 

 目の裏側が脈を打つたび白く明滅し、奥歯を噛み締めても吐き気が喉までせり上がってくる。

 

 

 三つ――意識が三方向から一度に繋がってくる。

 

 

 本体へ装填した一匹が、俺自身の視覚と動きを共有している。

 

 

 エンゲージの一匹が上空の岩石群を拾う。もう一匹が都市全体へ散らばる瓦礫と源石片を追う。

 

 

 見えているんじゃない……分かる。

 

 

 何万と存在する石の重さ、速度、互いの距離が、情報になって脳の中へ雪崩れ込んでくる。

 

〖……ぉ、あ……クソ、これは……ッ〗〖ハント!〗〖来るなッ!〗

 

 クヴァレへ腕を伸ばしたつもりが、周囲に浮いていた岩が一斉にそちらへ向いた。

 

 

 咄嗟に意識を切り替えると、岩片がぴたりと止まり、次の瞬間にはまた風の中へ散開する。

 

 

 少しでも考えを間違えれば、人一人くらい簡単に潰す。

 

 

 頭痛くらいで気を抜いていい力じゃない。

 

〖……お前ら、細かいのは任せる。俺はデカいのだけ見る〗

 

 

〔ぴゃあ!〕〔ぴぃっ!〕〔ぴゃ~!〕

 

 三つの返事が、耳からではなく頭の奥で重なった。

 

 

 それだけで処理が少し軽くなる。俺が落下してくる巨大源石塊の軌道だけを掴む。

 

 

 三匹がその周囲で飛散する破片、風圧、衝突の危険を勝手に整理していく。

 

 

 MAGIC TIME。

 

 

 普段なら戦場に転がる岩を操るため、守るため、捕まえるために動かすだけの力。

 

 

 だが今はその範囲を無理やり空まで広げる。

 

 

 両手を上げた。

 

 

 何も触れていないはずなのに、掌へ途方もない重さが乗った。

 

〖――ッッ!〗

 

 

 足元が陥没する……まだ源石塊には触れていない。

 

 

 念動力がその質量を捉えただけで、俺の身体が反作用を錯覚している。

 

 

 肩の装甲が軋み、指が勝手に震えた……空が、近い。

 

 

 いや違う。落ちてきている。

 

 

 巨大な黒い塊が雲を割り、無数の橙色の結晶面を晒した。

 

 

 焼けた鉱物特有の臭いが風へ混じり始め、離れているはずなのに肌が熱い。

 

 

 周囲には小さな源石片が雨みたいに散り、都市の外縁へ突き刺さって土煙を吹き上げている。

 

〖……止まれッ!〗

 

 浮遊していた岩石が一斉に上空へ飛んだ。

 

 

 一つでは意味がない。百でも足りない。砕く。細かくする。数を増やす。

 

 

 周囲の岩塊が互いに衝突して弾け、拳大、指先大、砂粒ほどの破片にまで分かれていく。

 

 

 それら一つ一つが白い軌跡を引きながら空へ昇り、巨大な源石塊の下面へ張り付いた。

 

 

 押す。正面から止めるな。

 

 

 落下エネルギーを全部受け止めたら、俺の頭より先に都市が潰れる。

 

 

 右へ。ほんの少しでいい。都市の中心を外せ。

〖そっちじゃねえ……もっと……右だッ!〗

 頭の奥で、ぶち、と嫌な感触がした。

 

 

 鼻の中へ鉄臭さが広がり、マスクの内側を熱いものが伝う。

 

 

 視界の右半分が一瞬だけ消えた。

 

 

 それでも意識を切らさない。

 

 

 BEYOND-VITALISが容赦なく動いている。

 

 

 処理できないなら処理できるようにしろ。

 

 

 できることなら脳へ流れ込む情報量をさらに増やし、その負荷へ適応させろ。

 

 

 頭が割れる――なら、割れる前に終わらせる。

 

 

 神経が悲鳴を上げる――なら、叫ばせておけ。

 

 

 痛みで思考が途切れるたび、三匹のゴチゾウが抜け落ちた部分を拾い上げていく。

 

 

 右側の破片群を押し、左側をが抑え、俺の意識を巨大源石塊から逸らさない。

 

 

 俺一人じゃない。

 

 

 だからまだやれる。

 

 

 両腕を振り抜いた、空を覆う無数の岩片が同じ方向へ流れる。

 

 

 その全てが見えない巨大な掌になって源石塊の側面へ食らいつく。

 

 

 鈍い音が、遅れて都市まで届いた。

 

 

 ごぉん、と……鐘なんてもんじゃない。

 

 

 空そのものを殴ったような低音に建物の窓が震え、足元の道路へ細かな亀裂が走る。

 

 

 巨大源石塊の軌道が、ほんの僅かに傾いた。

 

〖……動いた〗

 

 でも足りない。

 

 

 このままだと都市の外縁を削る。そこに何人残ってるかも分からない。

 

 

 もう一度。

 

 

 脳裏へ位置情報を叩き込む。高度、速度、風向き、都市の移動方向。

 

 

 数字として考えた瞬間に頭痛が増したから、途中から考えるのをやめた。

 

 

 もっと右……さらに右、それだけでいい。

 

〖お前ら……もう一発だ〗

 

 

〔ぴゃあっ!〕〔ぴゃあ!〕〔ぴぃ――!〕

 

 返事と同時に、頭蓋の奥を締め付けていた痛みがさらに強くなる。

 

 

 視界の端に黒い染みが浮かび、音が遠くなった。風の音さえ水の底みたいに歪んで聞こえる。

 

 

 それでも、空にある石だけは鮮明だった。

 

 

 巨大な一つ。その周りを覆う数万の小さな一つ一つ。

 

 

 全部、俺たちの手の中にある。

 

〖……舐めんなよ〗

 

 膝が折れかけ、ロックされた岩装甲が地面へ食い込んで支える。腕を下ろせば楽になる。

 

 

 意識を切れば、この痛みも少しは消える。

 

 

 その代わり――あれが落ちる……だったら選ぶまでもないさ。

 

〖俺は……帰るんだよッ!こんなところで、石ころ一個に帰り道潰されてたまるかッ!!!〗

 

 ヴァレンエンゲージが甲高く震えた。

 

 

 三匹の意識が重なる。

 

 

 俺が押す。

 

 

 こいつらが支える。

 

 

 砕けた岩片が次々と巨大源石塊の周囲へ回り込み、今度は正面から受け止めはしない。

 

 

 落下方向へ斜めに力を掛け続ける。

 

 

 一度で動かせないなら、何度でも。

 

 

 一メートル。

 

 二メートル。

 

 十メートル。

 

 

 あまりにも巨大だから、見た目にはほとんど変わっていない。

 

 

 それでも雲の裂け方が変わり、燃える尾が少しずつ横へ流れていく。

 

 

 都市を真っ直ぐ狙っていた影が、ずれる。

 

〖……そのまま……そのまま行け……ッ〗

 

 仮面の中で鼻血が顎まで伝う。

 

 

 耳の奥でも湿った音がして、次の瞬間には自分の呼吸すら片側からしか聞こえなくなった。

 

 

 頭の中心を左右から捻じ切られているみたいな痛みに吐き気が込み上げる。

 

 

 最後のひと押し――腕を振る力なんてもう残っていない。

 

 

 だから、指だけを動かした。

 

〖――行け〗

 

 空一面の岩石が、流星群みたいに横へ走った。

 

 

 巨大源石塊が都市の上空を掠める。

 

 

 熱風が叩きつけ、建物の屋根や看板を次々と剥ぎ取っていく。

 

 

 腹の底まで震える轟音の中、それは都市中心部から外れ、遥か彼方の荒野へ落ちていった。

 

 

 数秒後地平線が白く光った。

 

 

 遅れて届いた衝撃波がアストラル全体を殴り、俺の身体も後ろへ持っていかれる。

 

 

 踏ん張ろうとしたが、もう脚に力が入らなかった。

 

〖……ほら――マシュマロより……簡単……〗

 

 自分でも酷い嘘だと乾いた笑いがでてしまう。

 

 

 空中に浮かんでいた岩が一つ、また一つと落ち始めた。

 

 

 意識接続が切れかけている。頭の中にいた三匹の気配も急に遠くなった。

 

〔ぴゃあ!ぴゃあっ!〕〖……うるせえ……聞こえてる……〗

 

 

 

 変身を維持しようとしたところで、ヴァレンバスターから乾いた警告音が響いた。

 

 

 限界らしい……俺もだ。

 

 

 でも、さっきまで都市を押し潰そうとしていた巨大な影は、もうない。

 

〖これで……本当に終わった――だろ……?』

 

 膝から力が抜ける。

 

 

 岩装甲が崩れ落ちるより先に、誰かがこちらへ駆けてくる足音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 少なくとも、自分以外は救えたはずだ、そう思って俺は目を閉じた。




【ゴチゾウ図鑑:チトセアメゴチゾウ】

 七五三のお祝いに食べる、細長くて甘い千歳飴から生まれた縁起の良いゴチゾウ。

 紅白のめでたい色をした身体に、鶴と亀を思わせる小さな模様がついている。

 見た目は細長くて少し頼りないけど、身体はとても丈夫で、引っ張ってもなかなか千切れない。びよーんと伸びて、離すと元の姿に戻る。

 性格はとても明るくて人懐っこい。特に小さな子供や生まれたばかりのゴチゾウが大好きで、よく一緒に遊んでいる。

 長寿を願うお菓子から生まれたためか、他のゴチゾウよりも長生きで、ちょっとやそっとのことでは消えないほど生命力が強い。

 さらに不思議なことに、身体を伸ばして誰かに巻きつくと、その相手の怪我の治りが少しだけ早くなるらしい。

 お祝い事があると嬉しそうに飛び跳ね、紅白の身体をくるくる回して踊り始める。どうやら本人なりのお祝いの舞らしい。

 千歳飴は長く健やかに生きられるよう願いを込めたお菓子だそうだ。

 生まれては消えていくゴチゾウたちにとって、こいつが持って生まれた願いは少し特別なのかもしれない。

 ちなみに長い身体を利用して他のゴチゾウを抱きしめるのが得意だけど、たまに勢い余って自分まで絡まってしまう。

 縁起物なのに、そこだけは少し不器用。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。