スコープアーカイブ(完結)   作:ハヤモ

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脱走

 

 

「我が社は君のような聡明な開発者を望んでいる。 どうだろう、今からでも中退して我が社に……」

 

「抜け駆けは駄目ですなぁ。 まだ学生気分を、青春を楽しみたい学生を無理矢理にだなんて。 どうだろう、特許を我々に売ってくれるだけで良い。 そうしたら君は自由のままだ」

 

「おいコラ、我が社を忘れて貰っては困る。 ATの発想は素晴らしい、更なる機種や装備を開発していく事になるなら、資材や資金が潤沢な場所にお連れするべきでは?」

 

 

醜い争いが起きた。

酷評されてきたATの販売、開発の権利を高速掌返しで本人を迎え入れようと大人達……企業が詰め寄ってきたのだ

 

ゲヘナでの稼働実績は3大校とした学徒だけでなく、ロボやアニマルな大人も注目。

安価で学生にも手が出せるとなれば、ここ学園都市でも利益が見込めそうだからだ

 

仮にもミレニアム製でありながら、複雑な構造やコスト度外視な計器類、意味不明な設備、整備性の悪さが無いのも素晴らしい

 

その内にゲヘナ外でも使われたところをパクっても良かったが、マッスルシリンダーとPR液の仕組みがどうしても理解できなかったので、こうして開発者にスリスリしているのである

 

あとは契約書にサインさせて、使える技術だけパクって本人はヤリ捨てにすれば良い

そんな汚い大人の思惑だけは、この言い争いの裏で共通していた

 

だが当人は首を横に振って拒否

いつものように銃をチラつかせて帰らせる

 

 

「ではでは、気が向きましたらご連絡を」

 

「ご希望でしたら我が社のパンフを送ります」

 

「お金が欲しくなったら電話をくださいね」

 

 

開発者は溜息を吐いた。

人気になったのは良いが、治安の悪化まで考えていなかった

 

発明品を平和利用するか否かは購入者の勝手である。 説明書や契約に注意の文言を添えたところで守る奴はいない

 

だがまともな科学者がいるものか?

倫理観の欠如云々で責め立てるなら、争いを引き起こしている利用者に言って欲しい

 

まだ大半はゲヘナで起きているものの、いつ他の自治区へ飛び火してもおかしくない

 

そしてATはキヴォトス中に拡散、爆発する

そう遠くない未来に思えた

 

まぁ人気になったのは仕方ないね!

開発者は開き直る事にした!

 

最悪、起業や転校で逃げる気すらある

 

ミレニアムでは粗雑なATは我が校の恥だとまで言う者までいるし、逆に金儲けやATの有用性を評価はしつつも、もっと良い方法があると自論を展開する者が後を経たないし

企業は先程のように目先の権利や金ばかりだ

 

エンジニア部や警備部、エージェント組織でメイドなC&Cからは庇う慰めの言葉をかけられるも、渇いた心を全て癒すには足らない

 

もっと生産を。 もっと武器を。 新型を。

 

良くも悪くもミレニアム生

モブな彼女は図面を引き続ける

 

役立つか否かではない

やりたいからやる、それもまたミレニアム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナ! 空崎ヒナだ! に、逃げろぉ!!」

 

「棺桶に乗るな、火葬されちまう!?」

 

「苦労して揃えたATがあああ!!?」

 

 

一方、ゲヘナ学園自治区は阿鼻叫喚。

風紀委員会が廃刀令の如くAT禁止令を発令。

 

同時にキヴォトス最強格の悪魔、空崎ヒナが漆黒の翼を広げて飛び回りながら、空から大地からATを次々と撃ちまくり蜂の巣に。

 

爆発。 爆発。 ひたすら爆発。

 

市街地は業火に照らされた。

夜空は明るく、ここは煉獄。

 

アコのせいで拡散したニコイチな不良ATは、奇しくも同組織のトップにボコられデストロイされていく

 

紙装甲では最強悪魔に敵わない───

 

そんなの分かっている

けれど死にたくないという本能がトリガーを引かせてしまう

 

基本兵装のヘビィマシンガンから30ミリの雨が夜空にばら撒かれていくサマは無様でもあり儚く美しく

 

 

「そこね」

 

 

そして自分の居場所を相手に教え火葬逝き。

ヒナは坦々と撃ち返しては爆破処理。

 

それでも30ミリという大口径の雨は堪える

狙撃銃のヘッドショットを受けても、無傷無表情で起立するバケモノのヒナだが、流石にこの弾幕には押し流され、よろけてしまう

 

だがそれだけ。

それだけに気を良くした能無し不良が舐め腐り寄ってくる。 飛んで火に入る夏の虫

 

無情にもそうした者は返り討ちに遭い、棺桶の中で火葬されてしまう

 

あいや、黒焦げになって気絶するだけだが。

ヘイローに守られたキヴォトス人でなければ死んでいるところである

 

 

「はぁ……この短期間でここまでのATが普及するなんて。 安さの分、防御力が皆無だけど大口径で威力のある武器を携行可能、それにローラーで高速移動ができる。 厄介なのが流行ったわね」

 

 

開発元のミレニアムと購入した万魔殿にはアコを通じて抗議させるも、ここまで利用しておいて今更過ぎる

 

 

「……ふぅ」

 

 

燃え盛る夜の街、月明かりの屋根の上。

ヒナは上下に照らされながら一息ついていると、ふと、こそこそしているヘルメット集団を見つけた

 

ラブたちジャブジャブヘルメット団だった

 

この騒ぎに乗じて脱走したらしい

逃走に改造AT、ターボカスタムに乗り込んだ

 

 

「……あの子達は十分過ぎるほど服役したわ」

 

 

ヒナは見て見ぬふり。 見逃した

 

悪魔にも涙。 慈悲はある。

多くの者は知らない話であるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全速力!! 逃げろォ!!!」

 

 

烈火の地獄、紅蓮の炎の中をATがひた走る。

悪魔の奴隷なんてもう無理、耐えられない!

 

そう牢獄から脱走したラブ達はこのAT、ターボカスタムに乗り、ゲヘナ自治区からの脱出を図った

 

 

「そこのAT止まりなさい! と、止まれぇ!?」

 

「止まるかバーカ!」

 

「もうこんなトコに居られるか!」

 

 

入り組み燃える市街地の中、通常より遥かに速い速度を出すATを咄嗟に止められる歩兵や戦車はおらず、その勢いのまま自治区境の橋まで走り抜ける!

 

 

「団長! 橋を封鎖する部隊がいます!」

 

「接触まで秒読み! 如何しましょう?」

 

「自由になるには渡るしかないんだ! 死ぬ気で突っ込め、弾を連中にくれてやれ!」

 

 

言い終わるより早く、団員たちが撃ちまくる

橋の道路や装甲に命中した弾丸や、それらが抉り取った破片が拡散

随伴歩兵は蹴散らされ、土嚢や柵といった簡易なバリケードは吹き飛んでしまう

 

 

「あばよ悪魔共! 恨むならお偉いさんを恨みな!」

 

 

そうしてラブ達は脱走。

漸く彼女達は悪魔から解放、自由になったのである

 

 

「行政官……」

 

 

ボロボロのモブが通信を入れる

 

 

「申し訳ありません……例の懲罰部隊を逃しました……」

 

「……この混乱では仕方ありません。 追跡させるのに戦力を割く訳にも参りません。 救護班を向かわせますので待機してください」

 

「はっ……」

 

 

その言葉に安堵したように、モブは意識を手放した

 

だがこれは予定通り……決められていた事。

それを知っているのは行政官のみである

 

 

「……シャーレの先生から割と本気で怒られましたからね。 風紀委員会の、ヒナ委員長の格をこれ以上下げる訳には。 あの違反者達が勝手に脱走した事にすれば、後は私たちゲヘナの責任ではありません。 ATが拡散するのも、ここから先は不良達の勝手、という事です」

 

 

結局、ラブ達は良いように使われたのだった

 

ゲヘナを脱出したラブ達。

これを機にするようにキヴォトスに拡散するAT

 

1つの地獄は広がりを見せるのか、或いは。

そしてラブの運命は如何に……。




後書き
《次回予告風》
人の運命を司るのは時か神秘か
それはキヴォトスを巡る永遠の謎掛け
だがラブの運命を変えたのはATと呼ばれた、あの兵器
懲罰地獄の闇の中で忘れていた恋心が今、自由の中で蘇る
次回「慈愛」
30mmの雨の向こうで少女が微笑む
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