朝のニュース番組は、一様に昨夜の爆発事故を取り上げていた。
「山間部で大規模な爆発が発生しましたが、人的被害は確認されていません。専門家は地中ガスの自然発火の可能性を示唆しており――」
画面の向こうで淡々と伝えられる言葉に、真田梨央はリモコンを押してテレビを消した。
「……また“事故”として片付けられるのね」
真実は違う。あの夜、彼女の目は確かに見た。怪獣の存在。そして光の戦士。
けれど、世間にそれを語る者はいない。ニュースは事実を隠蔽し、冷静に整理された説明で人々を安心させている。
梨央の心はざわめいていた。
もしこれが一度きりの異変ではなく、再び起こることだとしたら――。
自分は、優を、そして人々をどう守ればいいのか。
彼女の胸に、夜空を飛び去ったゼロの姿がよみがえる。
光は、再び現れるのだろうか。
昼下がり。梨央は会社の研究室にいた。
昨夜の戦闘現場周辺で採取したサンプルを独自ルートで入手し、分析を進めていたのだ。燃え残った土壌には、通常の火災では説明できない成分が含まれていた。高濃度の未知のエネルギー結晶体。
「これは……」
彼女は震える手でデータを保存しようとした。
だが次の瞬間、モニターが一瞬ノイズを発したかと思うと、記録が自動的に消去された。
「え……?」
操作した覚えはない。
それどころか、システムそのものに侵入された痕跡が残っていた。
――誰かが意図的に消した。
梨央の背筋に冷たいものが走る。
「……消された。何者かに」
そのとき、彼女の携帯が震えた。
表示された名前に、梨央は目を見開いた。
――宮崎大輝。かつて自分と優を救おうと奔走した刑事。
「もしもし」
『梨央、今すぐ会えないか? 昨夜の現場の件で……お前に見せたいものがある』
夕暮れの街。
梨央は指定された喫茶店へと足を運んだ。懐かしいベルの音が鳴り響き、ドアを開けると、奥の席に大輝が座っていた。彼は以前より少し痩せ、無精髭を残しているが、眼差しは相変わらず鋭い。
「来てくれたか」
「ええ。……それで、見せたいものって?」
大輝は小さなUSBを机に置いた。
「昨夜の現場近くに設置されていた監視カメラの映像だ。公式には“自然発火”ってことになってるが……どう考えても説明がつかない」
梨央はノートPCを開き、映像を再生した。
次の瞬間、息をのむ。
画面には、巨大な怪獣の影。そして、その前に立つ光の戦士――ゼロの姿がはっきりと映っていた。
「……やっぱり、私の目は間違ってなかった」
「梨央、これは一体……? あの光の巨人、そして怪物。お前、何か知ってるのか?」
梨央は言葉を詰まらせる。
自分がどこまで話していいのか分からなかった。けれど――。
「……私にも、全部は分からない。ただ、優が……あの夜、何かを見たって」
そのときだった。喫茶店の扉が開き、息を切らした優が飛び込んできた。
「姉ちゃん!」
梨央は驚いて振り向く。
「優? どうしてここに――」
「……俺、黙ってられなかった。あの夜のこと……全部話す」
大輝の視線が優に向けられる。
「お前、見たんだな? あの戦いを」
優は小さくうなずき、震える声で語り始めた。
「……あの怪物が襲ってきたとき、俺は確かに絶望した。だけど、光の巨人が現れて……俺を守ってくれたんだ。あの人は……ゼロって名乗ってた」
その名を口にした瞬間、梨央の心臓が大きく跳ねた。
やはり、ゼロ。
彼女が夢のように見た光景は、幻ではなかったのだ。
大輝は腕を組み、険しい表情を浮かべた。
「ゼロ……。だが、そんな存在を警察に報告したところで、相手にされるはずがない。むしろ俺たちが危険視される」
「じゃあ、どうすれば……」梨央が問う。
「俺はまだ刑事だ。表向きは“事故”として処理しつつ、裏で調べを続ける。ただ……お前たちも覚悟しろ。何者かが、この真実を隠そうとしてる。昨夜のデータが消されたのも、その一環だろう」
梨央は思わず息を呑んだ。
――やはり、自分だけじゃなかった。背後にもっと大きな力が動いている。
優は拳を握りしめ、震える声で言った。
「でも……俺、もう逃げない。あの光を、この目で見たから。俺は……ゼロを信じる」
夜の街。
ネオンが瞬き、人々が行き交う繁華街の上空に、異様な震動が走った。ビルの窓ガラスが微かに揺れ、電線が不吉に鳴り響く。
「まただ……」
大輝が空を見上げ、唇を噛む。
次の瞬間、漆黒の裂け目が夜空に走った。そこから姿を現したのは、巨大な異形の怪物。鋭い牙と棘を持ち、黒い霧をまとったその影――。
「……リヴィオン」
優が震える声で呟いた。
街は一瞬にしてパニックに陥った。人々が逃げ惑い、車のクラクションと悲鳴が入り乱れる。
「優、梨央! ここから離れろ!」大輝が叫ぶ。
だが優は立ち尽くしていた。
――胸の奥が焼け付くように熱い。
「……ゼロ」
その名を呼んだ瞬間、彼の視界に眩い光が差し込んだ。
空の彼方、閃光とともに赤と銀の戦士が降臨する。
「――遅れて悪かったな!」
ウルトラマンゼロ。
彼が地上に着地すると同時に、爆風が街を包み込む。
リヴィオンは低く唸り声をあげ、ゼロを挑発するように咆哮した。
「優!」梨央が弟を抱き寄せる。
「姉ちゃん、俺……わかるんだ。ゼロが戦ってる気持ち……。俺の中に、声が届いてる」
ゼロと優の意識が、微かにシンクロする。
「お前の強さ……借りるぞ!」
ゼロの声が優の心に響き渡った。
戦いが始まった。
ゼロはリヴィオンの鋭い腕を掴み、力任せに投げ飛ばす。だが怪物はすぐに起き上がり、黒い霧を吐き出す。その瘴気はビルの外壁を一瞬で腐食させ、火花を散らした。
「ゼロ……負けるな!」優が叫ぶ。
ゼロは彼の声に応えるように立ち上がり、両腕を交差させて光を練り上げる。
「ワイドゼロショット!」
光線がリヴィオンを直撃し、爆炎が夜空を裂いた。
しかし怪物はまだ倒れない。むしろその身に黒い瘴気を纏い、さらに巨大化していく。
「……まだ終わってない」
梨央は弟の手を強く握った。
街を破壊しながら進むリヴィオン。
ゼロの目が一瞬だけ光を失いかける――その時。
優の心から強い声が響いた。
「ゼロ! 俺がいる! 一緒に戦おう!」
次の瞬間、ゼロの身体が輝きを取り戻した。
リヴィオンに向けて再び構えを取る。
リヴィオンの黒い瘴気が夜空を覆い尽くす。
ビル群の明かりが消え、街全体が闇に沈み込んだ。
「くそっ……」大輝が拳を握る。
「ゼロ、大丈夫なの……?」梨央の声が震える。
ゼロは一瞬膝をつきかけたが、その胸に再び優の声が響いた。
「立って! ゼロは俺を守ってくれた……だから今度は俺が、ゼロを信じる!」
その想いに呼応するように、ゼロの全身がまばゆい光に包まれる。
「これが……シンクロの力か!」
ゼロは両腕を大きく広げ、全身のエネルギーを集約する。
眩い閃光が形成され、彼の最大必殺技が解き放たれた。
「ゼロツインシュートォッ!」
光と光が交差し、巨大な十字の閃光がリヴィオンを貫いた。
怪物は断末魔の咆哮をあげ、闇の霧を撒き散らしながら崩れ落ちていく。
爆炎とともに、リヴィオンの巨体は夜空へと消滅した。
街に、再び灯りが戻る。
逃げ惑っていた人々が、恐る恐る顔を上げた。
そこに立つ光の戦士を、ただ呆然と見上げる。
ゼロは優にだけ届く声で言った。
「よくやったな、優。お前の想いが、この街を守ったんだ」
「……俺なんかで、本当に役に立てたの?」
「当たり前だ。お前が信じたから、俺は立ち上がれた」
ゼロは大きくうなずき、やがて光となって夜空へ消えていった。
戦いの後。
廃墟と化した通りを、梨央、大輝、そして優が歩いていた。
「まるで……夢みたい」梨央が呟く。
「夢じゃないさ」大輝は険しい表情を崩さずに答える。「だが、これで終わりじゃない。あの怪物……そしてゼロとやら。背後には必ず何者かがいる」
優は拳を握りしめる。
「姉ちゃん、俺……もう逃げない。ゼロと一緒に、この街を守る」
「……優」
梨央は弟を抱きしめた。だが心の奥には、言葉にできない恐怖が渦巻いていた。
ゼロが味方であることは信じたい。けれど、あの光もまた、優を危険に巻き込むものではないのか――。
一方その頃。
遠く離れた地下施設のモニターに、リヴィオンの戦闘映像が映し出されていた。
漆黒のローブを纏う謎の男が、冷たい笑みを浮かべる。
「ゼロ……そして、少年か。面白い。計画は予定通り進む。闇は、まだ始まったばかりだ」
画面に赤い瞳が光り、暗転する。
今後もリヴィオンが登場する可能性があるかもしれません。
お楽しみに!