最愛 ―ウルトラマンゼロ―   作:湯帝

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第3話です!
新怪獣登場⁉︎


第3話 罪の影 ―ゼロアイの光―

――暗闇。

湿った空気が肺を圧迫し、どこからともなく水滴の音が響く。

 

真田優は、夢の中で再びあの夜を彷徨っていた。

 

足元に赤黒い染みが広がっている。指先を見れば、べっとりと血が付いている。

誰の血なのか分からない。ただひとつ確かなのは、自分の手が汚れているという事実だった。

 

「やめて……優!」

振り返れば、小さな頃の梨央が涙を浮かべてこちらを見ている。

震える声が耳を裂く。

 

「俺は……俺が……」

優は言葉を絞り出すが、その先を言えない。喉の奥で罪悪感が凝固し、声にならない。

 

その時。

闇の奥から力強い声が響いた。

 

――立て、優。

 

「……!」

聞き覚えのある声。だが、現実の人間のものではない。

銀河のように遠く、同時に胸の奥に直接響く声。

 

――お前はまだ終わっていない。

――逃げるか、立ち向かうか。選ぶのはお前だ。

 

光の閃光が闇を裂く。

優の視界に、銀色の巨人の輪郭が浮かび上がる。赤と青の鎧をまとい、額には鋭い角を輝かせている。

 

「ゼロ……」

優がその名を呟いた瞬間、視界が弾け、彼は目を覚ました。

 

――――

 

「優!」

聞き慣れた声がすぐそばから響く。

目を開ければ、そこには真田梨央がいた。薄暗いホテルの一室。夜明け前の街を見下ろす窓から、かすかな光が差し込んでいた。

 

「大丈夫? うなされてた……」

梨央の手が優の頬に触れる。その温もりが、夢の中の冷たい闇をかき消していく。

 

優は息を整えながら、苦しげに首を振った。

「……大丈夫じゃない。俺は……俺は、人を……」

 

「そんなことない!」

梨央の声が鋭く遮った。

「優は……私の弟だよ。どんな過去があっても、私の大事な弟なんだよ!」

 

その言葉に、優は胸を抉られるような痛みを覚えた。

彼女のまっすぐな瞳。決して揺らがない想い。

だが、それに甘える資格が自分にあるのか――優は自問せずにはいられなかった。

 

「姉ちゃん……俺は、あの夜からずっと……自分が何をしたのか、分からないんだ」

「……」

「もし、俺が……人を殺してたら……どうするんだ?」

 

梨央の瞳が揺れる。それでも彼女は震える唇をかみしめ、言い切った。

 

「それでも、優は優だよ。……私は、信じたい」

 

優は息を詰まらせた。喉が焼け付くように熱い。

彼の心の中に、夢で見たゼロの声が再び木霊する。

 

――立て、優。罪から目を逸らすな。

 

優は拳を握りしめた。しかし、その拳にはまだ迷いが残っていた。

 

 

 

 

夜が明け、警視庁捜査一課の会議室。

蛍光灯の冷たい光が机に並んだ事件ファイルを照らしている。

 

宮崎大輝は、眠気を押し殺すように資料をめくっていた。

指先に触れる紙のざらつき。そこに記されているのは、十数年前――あの夜の未解決事件の記録だ。

 

「……また、それか」

同僚刑事の一人が声をかけてきた。

「真田家の事件はもう時効だろ。今さら何をほじくり返すんだ?」

 

大輝は顔を上げず、資料に目を落としたまま答える。

「時効はある。けど……まだ終わっていない気がするんだ」

 

「終わってない?」

同僚が眉をひそめる。

 

大輝は書類を閉じ、深く息を吐いた。

「怪獣の出現と……関係があるかもしれない」

 

室内に一瞬、沈黙が走った。

「おいおい、大輝。刑事がそんなオカルトじみたこと言うなよ」

「オカルトじゃない。俺はこの目で見た。あの夜、街を破壊した怪物を」

 

彼の脳裏に、ガルベロスの三つの頭が咆哮する姿が蘇る。

そして、光の巨人が現れ、街を守るように戦った光景も。

 

「……あれを見てしまったら、ただの事件だとは思えない」

 

大輝の声は揺らがなかった。

それでも同僚たちは困惑し、何も言えなくなる。

 

彼は立ち上がり、資料を小脇に抱えて会議室を出た。

廊下を歩きながら、胸の奥で独り言のように呟く。

 

「梨央……優……お前たちは、何を背負ってるんだ」

 

 

 

 

数時間後。

大輝は地下鉄の駅に足を運んでいた。

 

ここ数日、街で「黒い霧を見た」という通報が相次いでいた。

その発生地点は、いずれも十数年前の事件現場に近い。

 

「偶然にしては……出来すぎている」

 

コートのポケットに手を突っ込み、大輝はホームを歩く。

朝の通勤ラッシュを終え、人影のまばらな時間帯。

しかし、駅の奥にはどこか不気味な静けさが漂っていた。

 

――その時だった。

 

ホームの照明が一斉に揺らめき、光が何度も点滅する。

地下の空気が重くなり、黒い霧が足元から立ち上ってきた。

 

「……来たか」

大輝は拳銃に手をかける。しかし次の瞬間、視界を覆うほどの黒煙が渦を巻き、人々の悲鳴が響いた。

 

「うわああっ!」

「な、なんだこれ!」

 

霧の中心に、巨大な影がうごめく。

闇そのものから形を得たかのように、怪獣の輪郭が現れた。

 

「……ドゥナミス」

大輝は無意識に、その名を呟いた。

リヴィオンの残滓から生まれた、新たな闇の化身――罪を喰らう怪獣。

 

怪獣の眼孔が光を放ち、乗客たちの恐怖を吸い上げるように咆哮した。

 

「逃げろっ!」

大輝は人々を避難させようと叫び、走り回る。

だが、霧が濃くなるにつれ、体が鉛のように重くなり、視界も霞んでいく。

 

「くそっ……!」

必死に拳銃を構えたその瞬間、闇の触手のようなものが伸び、大輝の体を絡め取った。

 

「ぐああっ……!」

体が締め付けられ、視界が黒く染まっていく。

最後に思い浮かんだのは――梨央の姿だった。

 

 

 

 

薄暗い地下鉄の通路。

優は足早に歩いていた。

 

「ここにいてはいけない……俺がいると、また誰かが傷つく」

そう自分に言い聞かせるように、視線を落として改札を通り抜けた。

 

しかし、ホームに降り立った瞬間――。

空気が急に冷たくなり、胸の奥を締め付けるような圧迫感に襲われた。

 

「……これは……!」

黒い霧が床から立ち上り、ホーム全体を包み込む。

人々のざわめきが恐怖の叫びに変わる。

 

「な、なんだこれ!」

「息が……できない!」

 

霧の中心で、巨大な影がうごめいていた。

闇の塊が触手を広げ、形を変えながら乗客に迫る。

ドゥナミス――罪を喰らう怪獣が、その姿を露わにした。

 

「うわああっ!」

逃げ惑う人々。ホームに転んだ子供が泣き叫び、母親が必死に抱き寄せる。

だが、霧は逃げ場を塞ぎ、恐怖を糧に怪獣はますます巨大化していく。

 

優は息を呑んだ。

「……俺が……呼んだのか……?」

 

心臓が早鐘のように打ち、手のひらに冷たい汗が滲む。

あの夜の記憶――血塗られた自分の手。泣き叫ぶ梨央。

罪の影が、再び彼を飲み込もうとしていた。

 

「おい……早く逃げろ!」

叫ぶ声に振り返ると、そこには大輝がいた。

闇の触手に絡め取られ、必死にもがきながらも人々を守ろうとしている。

 

「大ちゃん……!」

優の胸に、熱いものが込み上げた。

刑事である彼は、自分のことより市民を救おうと必死だった。

――それなのに、自分は?

 

「俺は……逃げてばかりだ」

「罪からも……姉からも……自分自身からも……」

 

その時。

ポケットの奥で、冷たい金属の感触が指に触れた。

 

「これは……」

 

取り出したのは、長年肌身離さず持ち歩いていた小さな銀色の装置。

子供の頃、瓦礫の中で光りながら落ちていた“お守り”のようなもの。

優にとっては過去の記憶の欠片にすぎなかった。

 

だが今――それは眩い光を放ち、形を変えていく。

両眼のような赤いレンズを持ち、額には鋭い角を模した意匠。

 

――ウルトラゼロアイ。

 

「これが……」

優の脳裏に、あの声が響いた。

 

――立て、優。

――お前の力で、人を守れ。

 

「……俺なんかに、そんな資格……!」

 

涙が滲む。だが、耳に届いたのは別の声だった。

 

「優っ!」

ホームの奥から、梨央が叫んでいた。

瓦礫の隙間をすり抜け、必死にこちらへ走ってくる。

その瞳には恐怖ではなく、ただひとつ――弟を信じる強い光が宿っていた。

 

「優……お願い! もう逃げないで!」

 

その一言が、優の心を突き破った。

罪から、逃げてはいけない。

姉を、そして誰かを守るために――。

 

「俺は……もう逃げない!」

 

優は震える手でゼロアイを目元に掲げた。

装置が光を放ち、顔に吸い付くように装着される。

 

「ウルトラマン……ゼロォォォッ!」

 

光が弾け、全身を駆け抜けた。

その瞬間、優の体は光に包まれ、地下鉄の天井を突き破るほどの巨体へと変貌していく。

 

轟音と共に、光の巨人――ウルトラマンゼロが立ち上がった。

 

轟く咆哮が地下鉄の闇を引き裂いた。

光に包まれた巨影が立ち上がり、ホームを覆っていた黒い瘴気を一気に吹き飛ばす。

 

――ウルトラマンゼロ。

 

その登場に、人々は一瞬声を失った。

そして、恐怖の中にあったはずの乗客たちは、どこか安堵の色を浮かべる。

 

「光の……巨人……!」

「助かった……!」

 

だが、ドゥナミスもまたただの怪獣ではなかった。

罪と恐怖を糧に進化するその影は、ゼロの出現に怒り狂い、全身から黒い触手を無数に放つ。

 

「グォォォオオオ!」

 

ゼロは両腕を広げ、迫り来る触手を素早くかわした。

その動きは鋭く、光の戦士としての本能が優の体を導いているようだった。

 

「くっ……速い……!」

ゼロの内部、優の意識が揺れる。

巨人の視界、鼓動、筋肉の一挙手一投足が、自分のもののように伝わってくる。

まるで――一心同体。

 

「優! 力を合わせろ!」

脳内に、鋭い声が響いた。

それはゼロ自身の声。

長き戦いを潜り抜けてきた戦士の声だった。

 

「俺が力を貸す。だが戦うのはお前だ!」

 

「……わかった!」

優は恐怖を振り払い、ゼロと呼吸を合わせた。

 

 

ドゥナミスの黒い触手がゼロの胴を絡め取る。

「ぐっ……!」

体を締め付けられ、動きが鈍る。

 

「まだだ!」

ゼロの右腕が光を帯び、鋭いエルボーブレードが展開される。

一閃――!

蒼い光刃が触手を斬り裂き、黒い霧を散らした。

 

解放されたゼロはすぐさま距離を詰め、ドゥナミスの胸へと強烈なドロップキックを叩き込む。

轟音と共に怪獣が後方の壁を突き破り、地上の道路へと吹き飛ばされる。

 

「みんな! 今のうちに避難を!」

大輝が叫び、人々は一斉に出口へと走り出した。

その中で梨央は振り返り、戦う弟の姿を必死に目で追っていた。

 

「優……!」

 

 

地上。

夜の街に怪獣の咆哮が響き渡り、ビルの窓ガラスが次々と砕け散る。

ゼロはその巨体を翻し、地面を蹴って一気に飛び上がる。

舞い上がった瓦礫の中で、二体の巨影が正面から激突した。

 

拳と拳がぶつかり合う。

ゼロの鋭い蹴りがドゥナミスを押し込み、しかし闇の塊はすぐに再生し、逆にゼロを押し返す。

 

「こいつ……再生力が!」

優が焦りを覚える。

その時、ゼロが静かに告げた。

 

「優……罪は消えない。

だが――立ち向かうことで、人はそれを越えられる!」

 

「……!」

 

ゼロの額が光り、ツインアイが蒼く輝く。

腕を交差し、エネルギーを集中させていく。

優の胸の奥でも、熱い力が溢れていた。

 

「行くぞ――!」

 

ゼロは大地を踏みしめ、渾身の力を解き放つ。

 

「エメリウムスラッシュッ!」

 

蒼白の光刃が夜空を切り裂き、ドゥナミスの胸を貫いた。

怪獣は断末魔の咆哮をあげ、全身を霧散させていく。

黒い瘴気が霧のように薄れ、やがて街は静寂を取り戻した。

 

戦いの余韻の中。

ゼロの巨体は光の粒子となって溶け、優の姿が再び現れる。

瓦礫の中に倒れ込むが、すぐに梨央が駆け寄った。

 

「優っ! 大丈夫!?」

 

「姉ちゃん……俺……」

言葉が途切れ、涙が零れる。

 

「守れた……今度は……逃げなかった……」

 

梨央は弟を強く抱きしめた。

「そう……それでいいの。ありがとう、優……」

 

その様子を遠くから見つめるだいき。

彼の目は驚きと、そして新たな決意に満ちていた。

 

「ウルトラマンゼロ……いや、優。

お前の力は――まだ始まったばかりだな」

 

夜空に、静かに星が瞬いていた。

 

 

――そして。

 

都心から少し離れた高層ビルの屋上。

夜風を受けながら、ひとりの男が戦いの結末を眺めていた。

 

黒いコートに身を包み、口元に不敵な笑みを浮かべている。

その手には、不気味に光る“黒い結晶”が握られていた。

 

「フッ……さすがゼロ。

だが――人間と一体化しているとは、面白い」

 

男の目が妖しく輝く。

まるでゼロと優の戦いを、すべて計算に入れていたかのように。

 

「罪を背負う者……その弱さこそ、最大の隙。

光の戦士よ――必ず堕としてみせる」

 

低く響く声とともに、黒い霧が男の背後から広がり、やがて夜空に溶けて消えた。

 

街は静けさを取り戻したが、その闇の底で確実に、新たな陰謀が蠢いていた。

 

――第3話・完。




ついに優がゼロと一体化!

次回、謎の男の正体が少し明らかになります!
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