最愛 ―ウルトラマンゼロ―   作:湯帝

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第4話、スタート!


第4話 揺らぐ日常 ―三重の脅威―

《#怪獣東京襲撃》

《あれは政府の実験失敗だろ》

《映像見たけどCGだって。ガチなら俺ら全員死んでる》

《ウルトラマン?誰だよそれw 昭和特撮の見過ぎ》

《現場にいたって奴の写真、これマジ? #真田優》

 

タブレットを開けば、SNSのタイムラインは混乱の嵐だった。

街を蹂躙した巨大怪獣と、突如現れた光の巨人。ニュース番組は繰り返し映像を流すが、解説者の言葉は定まらない。

 

「正体不明の巨大生物」

「未確認兵器」

「宇宙からの侵略者」

 

そして、戦う巨人――「ウルトラマン」。

 

だが、多くの人間にとってそれは夢物語に過ぎなかった。

加工映像だ、やらせだ、陰謀だ……SNSでは罵声と嘲笑、信じる者と疑う者の論争が絶えない。

 

その中に、ひときわ拡散された投稿があった。

粗い写真。戦闘の後方に写り込む、一人の青年の姿。

 

《この人間、事件の現場で毎回目撃されてる》

《名前は……真田優?》

《マジでウルトラマンの仲間じゃね?》

 

 

 

 

優は、朝の通学路を歩きながら、ポケットのスマホを何度も開いては閉じていた。

どの画面を見ても、怪獣、ウルトラマン、そして自分の名前。

心臓の奥が冷たくなる。

 

(俺の顔……流出してる。……姉ちゃんや大ちゃんまで巻き込まれたら……)

 

制服の襟を正し、歩調を少し早める。

数年ぶりの「登校」。

かつての事件の影で社会から隔絶されていた自分が、今さら教室に戻る意味があるのか。

それでも――ゼロと一体化した今、日常を取り戻したいという気持ちがあった。

 

(ゼロが言ってた……“人間としての時間を大切にしろ”って。

 俺が人間でいることに、意味があるって……)

 

だが足取りは重い。

道端のコンビニ前で、学生らしき二人組がタバコをふかしながら話しているのが聞こえた。

 

「昨日のニュース見た? 光の巨人だってよ」

「バカバカしい。あれはCGだって。俺らが騙されてんだよ」

 

優はうつむき、足を速めた。

耳の奥で、ゼロの低い声が響く。

 

ゼロ《……気にするな、優。真実はお前が一番知っている》

優《……でも、俺の顔まで出てるんだ。どうすればいい》

ゼロ《お前は人間として生き、人間として戦えばいい。それが今の答えだ》

 

 

「本当に……真田優くんを受け入れるのですか?」

職員室の一角で、担任の佐伯が声を上げた。五十代半ば、眼鏡の奥の目が険しい。

 

「彼が過去に関わった“事件”は、まだ地域の人々の記憶に残っています。しかも今度は、怪獣騒ぎに名前まで出ている……学校に不安が広がるのは当然です!」

 

校長は静かに頷き、資料を机に置いた。

「しかし、市の教育委員会から正式に要請があった。彼には社会復帰の機会が必要だ。特別な配慮を行いつつ受け入れるのが我々の役目だ」

 

別の若い教師が不安げに口を挟む。

「でも……もし本当に、彼がニュースに出ていた“巨人”と関係していたら……?」

 

沈黙が落ちる。

その問いには誰も答えられなかった。

 

 

 

チャイムが鳴る前、教室の空気はざわめきに満ちていた。

「なあ、真田ってやつ戻ってくるって本当?」

「ニュースの人? やばくね?」

「てかヒーローならカッコいいじゃん」

「いやいや、逆に危険だろ。怪獣呼ぶんじゃね?」

 

扉が開き、優が現れた瞬間、空気が凍る。

クラス全員の視線が彼に突き刺さった。

ざわめきは一気に沈黙へ。

 

優は息を呑み、机へ向かう。

椅子を引く音が、やけに大きく響いた。

 

そんな中、一人だけ、明るい声が飛ぶ。

「おはよう、真田くん!」

 

声の主は香坂美咲。

柔らかく結んだ髪、少し快活な雰囲気の少女。

彼女は机越しに微笑みかけてきた。

 

優は戸惑いながら小さく会釈する。

「……おはよう」

 

周囲からは小さなざわめき。

「香坂って、あんな普通に話しかけるんだ……」

「すげぇな……」

 

香坂はクスクス笑い、ノートを広げながら囁く。

「大丈夫だよ、気にしなくて。みんな怖がってるだけ。……でも私は、あなたが“ウルトラマン”の仲間だって思ってる」

 

優は息を呑んだ。

彼女の瞳は真っ直ぐで、嘘がなかった。

 

(……俺のこと、信じて……?)

授業が終わり、教室にはざわめきが残っていた。

ほとんどの生徒は目を合わせようとせず、机を寄せ合ってひそひそ話を続けている。

 

「やっぱ怖くない? なんか普通じゃないよね」

「でも香坂と話してるし……」

「もしかしてヒーローとつき合ってんのかも」

 

優は荷物をまとめ、誰よりも早く出て行こうとした。

だが、その腕を軽く引き留める手があった。

 

「ちょっと待って」

振り向けば、香坂美咲が立っていた。

放課後の光に照らされ、彼女の瞳は真剣そのものだった。

 

「……なに?」

「今日、初日でしょ。いきなり帰るのは、ちょっと逃げてるみたいだよ」

「逃げてる……?」

 

香坂は机に腰を預け、声を落とした。

「みんな怖がってる。あなたのことを“化け物を呼ぶ人間”だとか、“ウルトラマンの仲間”だとか。ネットでもそう言われてる」

 

優は顔を歪め、黙り込む。

それはまさに、自分が恐れていたことだった。

 

「でも私は違う」

香坂はきっぱりと言った。

「だって、あの日……あの巨大な怪獣に立ち向かって、逃げなかった人がいた。その姿を見た人は、きっと忘れない」

 

「……俺は……ただ、目の前に人がいたから」

「それができる人なんて、ほとんどいないよ」

 

香坂の言葉に、優は一瞬だけ心が軽くなるのを感じた。

彼女の笑顔は、どこか姉の梨央を思わせる温かさがあった。

 

 

 

その頃、東京のビジネス街。

警察庁からの派遣で大輝は情報収集に追われ、梨央は製薬会社の社長としてメディア対応に追われていた。

 

記者が声を荒げる。

「社長の弟である真田優さんについて、一部で“ウルトラマンと関係がある”との噂がありますが?」

梨央の胸がざわついた。

だが彼女は冷静に、笑みを保ったまま答える。

「事実無根です。弟はただの一市民です」

 

隣で、大輝が横目で彼女を見た。

(嘘だよな、梨央……でも、それが優を守ることになるなら……)

 

その後、の警察庁でも会議が開かれていた。

「光の巨人の正体は不明。だが、真田優という青年が複数の現場にいたのは事実だ」

「監視対象とすべきでは?」

 

大輝は拳を握り締めた。

「彼はそんな人間じゃない! ……俺が保証する」

 

会議室に沈黙が落ちる。

梨央もまた、別の場所で同じように弟を守るために言葉を選んでいた。

 

 

夜の廃工場。

鉄骨の隙間から月光が差し込む。

その中に、一人の男が立っていた。黒いコートに、鋭い眼差し。

 

――如月。

かつて刑事だったはずの男。だが今は、影のように暗躍する存在。

 

彼はスマートデバイスを操作し、画面に映るネットニュースを眺めていた。

《ウルトラマンは救世主か、破壊者か》

《真田優、怪獣騒動の中心人物?》

 

「人間は愚かだな……情報ひとつで群がり、恐怖に溺れる」

低く呟き、口元に不敵な笑みを浮かべる。

 

そこに、通信機から不気味な声が響いた。

重く、地の底から這い出るような声。

 

「如月……準備は整ったか」

 

如月は片膝をつき、恭しく応じた。

「はい、ベリアル様。次の実験体は三体。奴らに同時に絶望を与えます」

 

通信の向こうで、低い笑い声が響いた。

 

「フフフ……よい。ゼロの光を削ぎ落とせ……あの小僧ごときが、無限の力を使いこなせるはずもない」

 

如月の瞳が、怪しく赤く光った。

 

 

 

翌日の夕方。

優は一人で帰路を歩いていた。

街は平穏そのものに見える。だが、人々の視線が自分に突き刺さっているようで落ち着かない。

 

(……みんな、俺を疑ってるんだろ)

 

ポケットの中で、ウルトラゼロアイが微かに脈打った。

青白い光が、まるで心臓の鼓動とシンクロしているかのように。

 

その時――街頭ビジョンに緊急ニュースが映し出された。

『3体の怪獣が同時出現』

である。

 

まず現れたのは甲殻怪獣〈クラブロス〉。鋭い鋏でビルを切り裂き、人々を恐怖に陥れる。

続いて蛇怪獣〈スネイガス〉が下水道から這い出し、道路を埋め尽くした。

そして最後に、岩石怪獣〈グランストン〉が地面を割って姿を現した。

 

三体同時出現。

人々は逃げ惑い、SNSは爆発的に更新された。

 

《嘘だろ!? 三体同時!?》

《ウルトラマン早く来てくれ!》

《もう日本終わった》

 

 

 

優は人混みの中で立ち止まる。

右手に握られたゼロアイが輝きを放つ。

 

「ゼロ……力を貸してくれ!」

光が優を包み、巨人の姿が現れる。

 

――ウルトラマンゼロ。

 

群衆から歓声と悲鳴が同時に上がった。

「ウルトラマンだ!」

「頼む、助けてくれ!」

 

ゼロは三体の怪獣を前に、深く息を吸った。

(……行くぞ!)

 

 

クラブロスが鋏を振り下ろす。

ゼロはかわしてゼロスラッガーを投げ放ち、甲殻を切り裂いた。

鋏を失ったクラブロスに、ゼロは光線〈ワイドゼロショット〉を叩き込む。

 

「グオォォォォ!」

爆炎に包まれ、クラブロスは沈んだ。

 

次にスネイガスが身体を巻きつける。

ゼロは苦悶しながらも両腕で締め付けをこじ開け、スラッガーを喉元へ突き立てた。

怪獣は絶叫し、その巨体を地に崩した。

 

「よし……!」

 

――だが。

 

――ピコン……ピコン……

 

カラータイマーが赤く点滅する。

通常ならブレスレットから供給されるエネルギーが途絶えていた。

 

(……何故だ!? この世界そのものが……俺を拒んでいる……?)

 

最後に残ったグランストンが地響きを立てて迫る。

巨岩の拳がゼロを殴り飛ばし、ビルに激突させる。

 

「ゼロォォ!」

優の意識が揺らぐ。

(負けられない……ここで終わらせるわけには……!)

 

ゼロは最後の力を振り絞り、両腕を交差させた。

必殺光線〈ワイドゼロショット〉。

青と赤の光線が放たれ、グランストンの身体を貫いた。

 

「グオォォォ……!」

岩の巨体が崩れ落ち、炎と煙に包まれた。

 

街に静寂が戻る。

だがゼロの胸のカラータイマーは、なお赤いまま激しく点滅していた。

 

(……エネルギーが……限界を超えている……)

優の身体に強い負荷がかかり、意識が途切れそうになる。

 

それでもゼロは姿を解き、光となって消えた。

優は人目のない路地に倒れ込み、荒い息をついた。

 

「ゼロ……俺は……まだ戦えるのか……?」

 

 

 

その夜、SNSは炎上していた。

 

《ウルトラマンが怪獣を全部倒した!》

《街の被害はどうするんだよ! 誰が責任取るんだ!》

《ウルトラマン、前より弱ってない?》

《もしかしてアイツも限界近いんじゃ……?》

 

テレビのコメンテーターは語る。

「ウルトラマンの存在は心強いが、彼に依存することは危険です。国家として対応を――」

 

街には安堵と不安が入り混じった空気が漂っていた。

 

 

 

 

一方その頃。

廃ビルの屋上で、黒いコートの男――如月が夜空を見上げていた。

 

「三体を倒すか……やはり只者ではないな、ゼロ」

彼の瞳は冷たい光を宿す。

 

そして、誰もいない闇に向かって呟いた。

「……我が主。計画は順調です」

 

風が吹き抜ける。

その声に答えるかのように、低く禍々しい笑い声が響いた。

 

――ベリアルの影。

 

如月は不敵に笑い、夜の闇に消えていった。

 

 

 

翌朝の教室。

生徒たちは怪獣の話題で持ちきりだった。

 

「昨日のウルトラマン、やばかったよな」

「でも……胸が赤く光ってたよね」

「……あれ、どういう意味なんだろ」

 

優は机に突っ伏しながら、心の中で呟いた。

(ゼロ……この先、俺たちはどうなるんだ……?)

 

その問いに答える者はいなかった。

 

 




黒幕はベリアル⁉︎

次回もお楽しみに!
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