最愛 ―ウルトラマンゼロ―   作:湯帝

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第5話、スタート!


第5話 影を喰らうもの

夜の街を裂いた三体の怪獣との死闘から数日――。

世間の熱は冷めるどころか、ますます加熱していた。

 

「#怪獣」「#光の巨人」「#ゼロ」

SNSのトレンドには連日その言葉が並び、街の電光掲示板にはニュース番組が垂れ流される。怪獣が街を踏み荒らす映像と、銀色に輝く巨人が戦う姿。だが、その論調は決して一様ではない。

 

「助けてくれたのは事実だ。でも、あの巨人が来なければ怪獣も現れなかったんじゃないか?」

「政府は何を隠してる?あの巨人は人類の味方か、それとも別の脅威か?」

 

――疑念と感謝。崇拝と恐怖。

人々の声は分裂し、渦巻き、優の耳に重くのしかかる。

 

教室の窓際。優はノートを開いたまま、ペンを動かせずにいた。

ざわざわとした教室の空気。前の席で笑い合うクラスメイトたち。だがその笑い声が途端に遠くに感じられる。

 

「……真田くん?」

控えめな声が肩を叩いた。香坂美咲。優の数少ない理解者。

彼女の瞳には、優が置かれている立場への憂慮と、それを支えようとする温かさがあった。

 

「また……考え込んでた?」

「……ああ。どうしても、頭から離れなくて」

「昨日のニュース?」

「……あのとき、もし僕が……」

 

言葉を濁す優に、美咲は少しだけ強い口調で返した。

「真田くんは間違ってない。あの夜、街は救われたんだよ。光があらわれたから」

 

その言葉は優の胸を温めたが、同時に突き刺さる。

彼女が信じてくれるからこそ――自分は逃げられない。

ゼロと一体化した運命から。戦わざるを得ない宿命から。

 

昼休み、廊下を歩けば小声が飛ぶ。

「この前の……巨人のときも近くにいたらしいぞ」

「やっぱり関係あるんじゃ……?」

 

視線。囁き。距離を置かれる空気。

怪獣も巨人も、この街で実際に起こった現実だ。

だからこそ人々は恐れる。すぐ隣に、その原因がいるのではないかと。

 

放課後。帰り道。

美咲が並んで歩きながら、ぽつりとつぶやいた。

「……ねえ、真田くん。つらくなったら、無理して学校に来なくてもいいんだよ」

「……でも、来なきゃダメなんだ。普通に、ここで生きたいから」

「……」

 

彼の声は弱々しかったが、その奥には必死の決意があった。

ゼロとして戦い続けるだけじゃない。

人として、優として生きることを諦めたら、もう戻れなくなる。

そう信じていた。

 

 

 

 

夜。関東沿岸部の自衛隊基地。

レーダー室が慌ただしいアラーム音に包まれた。

「反応あり!距離25キロ、海上に大型反応!」

「映像、入ります!」

 

モニターに映し出されたのは、漆黒の海を割って現れる巨大な影。

背中に無数の棘を生やし、甲殻に覆われたその姿。

――新たな怪獣《バザルド》。

エネルギーを吸収し、外部からの攻撃を取り込み増幅する特性を持つ。

 

「対艦ミサイル、発射準備!」

「戦車部隊、前線へ展開!」

 

轟音とともにミサイルが夜空を裂いた。炎の尾を引き、怪獣の胴体へと命中する。

だが次の瞬間、怪獣の体表が赤く脈動し、炸裂音を吸い込むようにかき消した。

「……効いていない!? 吸収してるのか!」

 

続く榴弾も、バザルドの甲殻に飲み込まれ、逆に赤黒い光となって弾き返された。

爆発炎に包まれる陣地。悲鳴と怒号。

兵士たちは必死に立ち向かうが、敵は常識外の存在だった。

 

「くそっ……これ以上は……!」

指揮官が撤退を指示しかけたその瞬間――。

 

夜空を裂き、青白い光が降り立つ。

ウルトラマンゼロ。

 

彼の姿に、混乱の中でも歓声が漏れた。

「光の巨人だ!」

「助かった……!」

 

だが、ゼロの戦いは、ここから本当の試練へと踏み込む。

 

 

 

 

ゼロはウルトラマンレオから貰ったゼロマントを翻すように夜空から滑空し、基地と怪獣との間に着地した。

地響きが走り、砂塵が舞い上がる。

 

「バザルド……エネルギーを喰らうタイプか」

ゼロの声が、優の胸に響く。

(気をつけろよ、優。こいつはただの怪獣じゃねえ)

 

バザルドが甲殻を震わせ、赤黒い光を脈動させた。

咆哮が海岸を揺るがし、空気そのものが震える。

ゼロは両腕を広げ、身構えた。

 

「さあ来い!」

 

――衝突。

 

バザルドの巨大な前肢が振り下ろされ、ゼロは交差した腕で受け止める。

重圧。甲殻に走る棘が火花を散らし、腕を痺れさせた。

ゼロは力を込め、怪獣を押し返す。

だがその瞬間、棘の隙間から放たれた光弾が至近距離で炸裂した。

 

「ぐっ……!」

ゼロの身体が海岸の防波堤へ叩きつけられ、コンクリートが砕け散る。

 

「ゼロォ!」

優の叫びが意識の奥で木霊する。

だがゼロは立ち上がり、額のクリスタルを光らせた。

 

――エメリウムスラッシュ!

腕を交差させ、青白い光輪を放つ。

刃のような光がバザルドの甲殻に突き刺さった。

 

だが――。

「なっ……!」

 

バザルドの体表がうねり、光輪を吸収してしまう。

次の瞬間、その光が怪獣の口腔から放たれ、ゼロの胸へ直撃した。

 

「ぐああっ!!」

炎に包まれ、ゼロの身体が大きくのけぞる。

カラータイマーが赤く点滅を始めた。

 

(……おかしい。ブレスレットからのエネルギーが……補給されてねえ……!?)

ゼロの思考が揺らぐ。

いつもなら無尽蔵に供給されるはずの光が、何かに阻害されている。

「ゼロ、どうしたんだ!?」「動きが鈍いぞ!」

優の焦りと恐怖が共鳴する。

 

その隙を逃さず、バザルドが巨体を揺らし突進してきた。

棘の前肢がゼロの腹部をえぐり、彼は砂浜を転がる。

兵士たちの悲鳴。

「もうダメだ……!」

 

――否。

 

ゼロはゆらりと立ち上がった。

赤い点滅が速まり、鼓動のように夜を刻む。

(まだだ……こいつを止めなきゃ、この街も、優も守れねえ!)

 

両腕を掲げ、スラッガーを頭部から引き抜く。

二振りの光刃が青白く煌めく。

「ゼロスラッガー・ストーム!!」

新たな光線である。

 

ゼロは疾走した。

棘の雨をスラッガーで切り払い、腹部に突き立てる。

バザルドが咆哮を上げ、甲殻が砕け散る。

さらにゼロはエネルギーを集中させた。

 

「これで終わりだぁぁぁっ!!」

――エメリウムスラッガー!

スラッガーを投げ放ち、光輪を纏った刃がバザルドの胸を縦に裂いた。

 

爆裂。

赤黒い光が空へ散り、バザルドの巨体が海岸に崩れ落ちた。

波が荒れ、静寂が戻る。

 

だがゼロはその場に膝をついた。

カラータイマーの点滅はなお赤く、息が荒い。

 

(おかしい……どうしてここまで消耗する……!?)

 

優の意識の中で、不安が広がった。

ゼロは立ち上がれたが、その背に漂う疲弊は隠せなかった。

 

 

 

自衛隊基地を襲った怪獣との死闘は終わった。

戦場に立つのは、肩で息をするウルトラマンゼロ。カラータイマーは赤いまま、不規則な点滅を繰り返している。

 

ゼロは膝をつきそうになりながらも周囲を見渡した。基地の一部は炎上し、兵士たちが消火活動や負傷者の救護に走り回っている。その光景を見ながら、彼の視線はふと一点に吸い寄せられた。

 

煙の向こうから、ゆっくりと歩いてくる人影。

その何とも言えない雰囲気に思わず背筋に悪寒が走る。

 

――そこに立っていたのは、黒いコートを纏った男。

仮面のように無表情なその顔は、見覚えのある輪郭をしていた。

 

「……如月、さん……?」

 

優の声は震えていた。

10数年前の事件で真田家の事件を担当した刑事。事件の捜査に一区切りがついた直後、警察を辞め、突然失踪したという男がなぜか今、この惨状のただ中にいる。

 

如月は口の端をわずかに吊り上げた。

「やっと……本性を隠す必要もなくなってきたようだな」

 

その声音には人間離れした冷たさがあった。

 

ゼロの額のビームランプが淡く点滅する。

「……やはりか。お前の身体から……いや、魂から漏れ出しているその波長。間違いねえ……“レイブラッド星人”の因子だ」

 

優は驚きに目を見開いた。

「レイブラッド……? 何それ……? 人間じゃないってこと?」

 

ゼロは短く頷く。

「奴は宇宙の災厄を撒き散らす宇宙人だった。数多の星を血に染め、闇に沈めた……。そして、その因子を最も強く継いだのが――ウルトラマンベリアル」

 

「ベリアル……?」

 

優は耳慣れない名を繰り返した。

ゼロは拳を握りしめ、如月を睨み据える。

 

「俺の宿敵にして、宇宙最大の裏切り者。あいつの闇が……お前から漂っている。だが、ベリアルはジードに倒されたはずだ。」

 

ゼロの脳裏にかつての死闘が浮かぶ。

ベリアルによって宇宙ごと滅ぼされかけたサイドスペースの地球。

ベリアルの因子を受け継ぐ人造ウルトラマンであるジード➖ベリアルの遺伝子学上の息子によって倒された光の国が産んだ最凶最悪そして闇に堕ちた最初のウルトラ戦士。

 

如月は愉快そうに小さく笑った。

「ふふ……その通りだ、ウルトラマンゼロ。だが俺はベリアルではない。まだな」

 

「まだ……?」優が思わず問い返す。

 

如月は一歩、二歩と優に近づいた。彼の歩みに合わせ、優の心臓は嫌な鼓動を早める。

 

「選ばれし者よ。お前はまだ知らないだろう、自分がどんな運命の渦に立たされているのかを。ゼロと共に戦うことで、お前は避けられぬ闇の宿命に近づいていくのだ」

 

ゼロが咆哮するように声を上げた。

「やめろ、如月! 優を巻き込むな!」

 

だが如月は薄笑いを浮かべたまま、炎と煙の中へと身を溶かすように姿を消した。

 

残された優は、震える声でゼロに尋ねた。

「ゼロ……今の言葉、本当なの? 俺は……何か、関わってるって……?」

 

ゼロは赤い点滅を続けるカラータイマーに手を当てながら、苦しげに答えた。

「……分からねえ。だが一つだけ確かなのは、如月の背後にベリアルの影があるってことだ。お前を狙っている理由も……まだ分からねえがな」

 

優の胸に、言いようのない不安が広がっていく。

自分はただの人間のはずだ。ウルトラマンゼロの力を借りて戦う、偶然選ばれただけの存在のはず。

だが、如月の言葉とゼロの警告は、その前提を揺さぶり始めていた。

 

そして夜空に、警戒を促すようにサイレンが再び鳴り響く――

 

 

 

 

 

怪獣との戦闘、そして如月との邂逅――すべてが過ぎ去った後の自衛隊基地は、戦火の残り香と焦げた鉄の匂いに包まれていた。

夜空にはまだ黒煙が立ち上り、赤く染まった月が静かにそれを見下ろしている。

 

優は救護活動に加わろうとしたが、その身体がふらついた。気づけば、いつの間にか変身が解除されており、ゼロの意識だけが心の奥底でかすかに響いていた。

 

「……ゼロ、大丈夫か?」

 

優は胸を押さえながら問いかけた。自分の中から伝わってくるゼロの気配は弱々しく、息をするのも苦しそうに感じられる。

 

『……ああ、なんとか、な。だが……今の戦いで……エネルギーが底を尽きかけた』

 

ゼロの声は掠れていた。

優の脳裏には、戦闘の最中に赤く点滅し続けていたカラータイマーの光景が浮かぶ。

 

「ウルティメイトブレスレットから無限に供給されるはずの力……それが切れかけるなんて……。ゼロ、いったいどうして……?」

 

ゼロはしばし沈黙した。やがて、低く苦い声で答える。

『……原因はまだ分からねえ。だが、ただのエネルギー不足じゃねえはずだ。何者かが……俺たちの力を蝕んでやがる。』

 

「如月……いや、その背後にいる“ベリアル”ってやつの仕業……?」

 

ゼロの声に怒気が混じった。

『ああ……あいつならやりかねねえ。かつて宇宙警備隊を裏切り、仲間を平然と切り捨てた男だ。俺が許せねえ唯一の存在……!それが再び復活しようとしている』

 

優は唇を噛んだ。

「でも……正直、俺にはまだ何も分からない。レイブラッド星人も、ベリアルも……そして、俺自身がどうして狙われているのかも」

 

拳を握りしめながら、彼は夜空を見上げた。

燃え残る炎の向こうに瞬く星々。その光はあまりにも遠く、手を伸ばしても届かない。

 

ゼロが優の心に語りかける。

『優……分からないままでいい。だが、忘れるな。お前は俺を選んだ。そして、俺もお前を選んだ。二人で戦うって決めたんだ。』

 

「ゼロ……」

 

『お前が迷う時は、俺が支える。俺が苦しい時は、お前が俺を支えろ。それでいい。互いに補い合えば、どんな闇にだって立ち向かえる』

 

優の胸に温かいものが広がった。

それは恐怖でも絶望でもなく、不思議な確信――自分は一人ではない、という実感だった。

 

彼は両手を強く握りしめ、静かに誓う。

「分かった。俺は逃げない。たとえ運命がどうだろうと、如月が何を企んでいようと……俺は、お前と一緒に戦う。ゼロ」

 

ゼロの声が、力強く応えた。

『ああ、それでこそ俺のパートナーだ。……ありがとな、優』

 

ふと、夜空を覆っていた煙がわずかに晴れ、星の輝きが露わになった。

その光景を見ながら優は、確かに感じた。

――次なる戦いが、もうすぐそこに迫っていることを。

 

そして炎に照らされた瓦礫の上で、二人の誓いは静かに、しかし確かに結ばれた。




ついに如月がゼロたちの前に姿を現しましたね。
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