最愛 ―ウルトラマンゼロ―   作:湯帝

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第6話、スタート!


第6話 地底からの咆哮

灰色の厚いカーテンが引かれた会議室に、重苦しい沈黙が満ちていた。

東京・丸の内にそびえる真田グループホールディングス本社ビル。

その最上階にある真田ウェルネスの本社は、定例役員会議のはずだったが、今日は違った。

 

卓上に並ぶ資料の最上段には、しゅうかんしの見出しが踊っている。

《真田ウェルネス社長・真田梨央の弟、怪獣騒動の渦中に》

《企業イメージ失墜の危機か?》

 

梨央の前に座る役員たちの視線は冷ややかだった。

 

「……以上が、昨日までの広報部に寄せられた問い合わせ件数です」

秘書室から派遣された若手社員が震える声で読み上げる。

「一日平均で千件以上。株価は先週末比で一五パーセント下落……」

 

その言葉にすかさず声を上げたのは、真田政信だった。

真田ビジネスサービスの社長であり、梨央の従兄。

「これ以上、放置はできない! 梨央、君が社長でいる限り、我々は市場から信用を失う!」

 

梨央はまっすぐ政信を見据える。

「政信兄さん、優はまだ高校生です。彼を理由に会社の未来まで否定するのは――」

 

「感情論だ!」

机を叩いたのは後藤信介、ウェルネス本部の常務であり財務を掌握する男だった。

「数字を見ろ! 株主総会も近い。出資者の信頼をどう回復するつもりだ? あなたは経営者だろう!」

 

会議室の空気が張りつめる。

 

その時、低い声が割って入った。

「……政信、信介。二人とも落ち着きなさい」

 

発言したのは、真田梓――真田グループホールディングスの社長であり、梨央と優の叔母、政信の母そして三人を育て上げた人物だった。

「梨央は感情で動いていない。だが、君たちが指摘するリスクも事実だ。だからこそ、冷静な議論が必要なのよ」

 

弁護士の加瀬賢一郎が頷く。

「法務的には、現時点で社長の解任に足る瑕疵は認められません。むしろ、過剰に家族問題を理由にするのは、社外から不当な支配とみなされる危険があります」

 

海野こずえが補足した。

「創薬ラボも現場は士気を保っています。私たちの使命は新薬の開発であり、梨央社長のもとで研究を続けたいという声が大半です」

 

梨央を擁護する言葉が続くが、政信は一歩も退かない。

「叔母上、現場の士気など株価の前では無力です! グループ全体の利益を守るのが私の務めだ!」

 

その瞬間――。

机上のスマートフォンが一斉に震え出した。

秘書の児嶋彩夏が画面を確認し、息を呑む。

「……ニュース速報です。神奈川県西部で、原因不明の大規模地盤沈下が発生。住民の避難が始まっています」

 

会議室にざわめきが広がる。

梨央の心に、冷たい予感が走った。

 

――また、何かが起きようとしている。

 

 

 

 

神奈川県西部。

住宅地の外れに広がる山間部で、大地が呻くように揺れていた。

 

「ゴゴゴゴゴ……」

 

地表が波打ち、亀裂が走る。電柱が傾き、アスファルトが陥没していく。

避難を誘導する警察や消防隊員の叫び声が、地響きにかき消されていった。

 

その現場に、自衛隊の装甲車両が次々と到着する。

「第12普通科連隊、展開完了!」

「被災地住民の避難誘導を最優先とせよ!」

 

だが、その直後だった。

地中から何かが突き破るように現れた。

 

「ドゴォォォォンッ!」

 

土煙を巻き上げ、現れたのは灰褐色の巨体――。

背中に隆起した岩のような突起、獰猛な顎、鈍重だが力強い腕。

古代の影を宿した獣。

 

「な、なに……あれは……」

避難する人々が悲鳴を上げる。

 

自衛隊員の一人が震える声でつぶやいた。

「……怪獣……ゴメスだ……!」

 

轟音とともに、ゴメスは咆哮した。

「グオォォォォォォンッ!!」

 

空気が震え、鳥たちが一斉に飛び立つ。

その巨体は、地表の文明を嘲笑うかのように暴れ出した。

 

砲撃班が一斉に火を吹く。

「対戦車砲、発射!」

「榴弾、撃て!」

 

轟音が山谷に反響するが、怪獣の皮膚は分厚く、爆炎を浴びてもびくともしない。

「効果なし!? 嘘だろ……」

 

その頃――。

 

横浜市内、真田家の自宅で。

優はテレビの速報を見つめ、固く拳を握っていた。

画面には、自衛隊と怪獣の交戦の様子が映し出されている。

 

「……また、怪獣か」

ゼロの声が頭の奥で響く。

「優、行くぞ。やつはただの地底怪獣じゃない……古代から眠っていた個体だ。人間の兵器じゃ止められん」

 

優は深呼吸し、決意を込めてうなずいた。

「分かってる。……僕が行く」

 

ポケットからゼロアイを取り出す。

その瞬間――玄関のチャイムが鳴った。

 

優は一瞬、動きを止めた。

ドアを開けると、そこに立っていたのは――。

 

「……如月」

 

如月は微笑みを浮かべていた。だが、その瞳の奥には冷たい光が潜んでいた。

 

「ウルトラマンゼロ。お前が行こうとしている場所、もう分かっている。あれはただの怪獣じゃない」

「どういう意味ですか」

「真実を知りたいか?」

 

如月の言葉は甘く、しかし底知れぬ闇を帯びていた。

優は思わず言葉を失う。

 

「……時間がない。選びなさい。ゼロと共に戦うのか、それとも――」

如月は小さく笑い、姿を消すように去っていった。

 

玄関先に残されたのは、ただ揺さぶられた優の心だけだった。

 

ゼロの声が割って入る。

「惑わされるな、優! あいつの狙いはお前を揺さぶることだ!」

「分かってる……でも……」

 

優は目を閉じ、迷いを断ち切るようにゼロアイを掲げた。

「ゼロ――行こう!」

 

青い光が彼を包み込み、光の戦士の姿が夜空に出現する。

 

ウルトラマンゼロ、降臨。

 

 

 

 

基地周辺はすでに戦場と化していた。

自衛隊の榴弾砲やミサイルが火を吹き、空を戦闘ヘリが旋回する。

しかし、ゴメスは怯むどころかさらに暴れ、装甲車を爪で薙ぎ払った。

 

「ぐわぁぁぁっ!」

兵士たちの悲鳴が夜に響く。

 

その時――。

「シュワァァァァァッ!!」

 

青白い閃光が大地を裂き、巨人が舞い降りた。

ウルトラマンゼロの登場に、避難中の住民たちが歓声を上げる。

「ウルトラマンだ!」

「助かった……!」

 

ゼロはゴメスに飛びかかり、渾身の拳を叩き込む。

「ドガァァンッ!」

だがゴメスは厚い外殻で衝撃を吸収し、逆にゼロを弾き飛ばした。

 

「ぐっ……! 硬いな、こいつ!」

 

ゼロは再び構えを取り、ゴメスと取っ組み合いになる。

爪と拳、咆哮と叫びがぶつかり合い、夜空に火花が散った。

 

 

 

 

ゼロはゴメスに組み付き、膝蹴りを叩き込む。

「ドゴォォッ!」

巨体がわずかに揺れるが、次の瞬間ゴメスが口を大きく開き、耳障りな咆哮と共に強烈な振動波を放った。

 

「グワァァァァァァンッ!!」

 

ゼロの巨体が弾かれ、背後の山肌に叩きつけられる。

岩が砕け、大地が割れた。

 

(くっ……ただの怪獣じゃない。地底で進化し続けたのか……!)

ゼロがそう思うのも無理はない。

如月の持つ謎の結晶体によって、ゴメスそのものが強化されていたからである。

 

その隙を突き、ゴメスは太い腕を振り下ろした。

「ズガァァァァァンッ!」

土煙が上がり、基地の兵士たちが悲鳴を上げる。

 

「ウルトラマンが……!」

「やられたのか!?」

 

しかし、土煙を切り裂いてゼロが立ち上がった。

胸のカラータイマーが点滅を始めている。

「……チッ、もう限界か……」

 

ウルティメイトブレスレットからは本来無限に近いエネルギーが供給されるはず。

だが、なぜか供給が滞り、力が尽きかけていた。

 

(如月の妨害……? それとも、この世界そのものの歪みが影響しているのか……!)

 

ゼロは踏ん張り、ゴメスに向かって突進する。

「ハァァァァァッ!!」

 

両者がぶつかり合い、夜空に轟音が響く。

拳と爪が交錯し、地面が揺れる。

 

だがゴメスの力は凄まじく、徐々にゼロは押されていく。

ついには顎に噛みつかれ、首元に深い痛みが走った。

 

「ぐっ……!」

 

(このままじゃ……押し切られる……!)

 

ゼロは苦悶しながらも腕をねじ込み、渾身の力でゴメスを押し返す。

「うおおおおおおッ!!」

 

隙を突き、ウルトラゼロランスを展開。

青い槍が閃き、ゴメスの肩口を深々と貫いた。

 

「ギャオォォォォンッ!!」

怒り狂ったゴメスが暴れ、地面を引き裂く。

 

ゼロは槍を捨て、両腕を交差させた。

「……ここで決める!」

 

光が収束し、ワイドゼロショットが形成される。

だが、カラータイマーは赤く点滅を続け、限界が迫っていた。

 

「耐えろ……優!」

(分かってる! 絶対に負けられない!)

 

二つの意思が重なり、眩い光線が放たれる。

「ワイドゼロショットォォォォォッ!!」

 

光線が一直線にゴメスを貫き、轟音と爆炎が夜空を覆った。

 

「グオォォォォォォォンッ!!」

 

断末魔を上げ、ゴメスは炎に包まれ、巨体を崩れ落とした。

地響きと共に、その姿は動かなくなる。

 

戦いは終わった。

 

だがゼロは片膝をつき、肩で荒い呼吸を繰り返していた。

「はぁ……はぁ……まだ……力が戻らない……」

 

カラータイマーは赤いまま、不吉に点滅していた。

 

 

 

戦場に静寂が戻った頃。

避難民が安堵の声を上げ、自衛隊員たちが無線で確認を取り合う。

 

その背後に――一人の男の影が現れた。

 

「……お疲れさま、ウルトラマンゼロ」

 

ゼロの視界に、如月の姿が映った。

如月は瓦礫の上に立ち、月明かりを背に微笑んでいた。

 

「如月……!」

ゼロの目が細められる。

 

「お前のの戦いを見ていた。素晴らしかった……でも同時に、恐ろしいほど脆い」

「何が言いたい」

「お前のの力は、この世界では削られていく。無限ではない……むしろ有限。いずれ尽き果てる運命よ」

 

如月の言葉は、優の心を鋭く抉った。

ゼロは低く唸る。

「優、惑わされるな」

 

だが如月はさらに畳みかけた。

「お前はいつまで戦えるのか? この人間の命を削ってまで。

 その時、誰が彼を守る? 真田梨央? 宮崎大輝? それとも――香坂美咲?」

 

優の心臓が跳ねた。

如月はすべてを見透かしているように、彼の大切な人たちの名を口にした。

 

「黙れ!」

ゼロが声を荒げる。

 

しかし如月は微笑んだまま、背を向けた。

「選びなさい、ウルトラマンゼロ。お前が守りたいものは何だ? そして……その代償に何を失うのか?」

 

夜風に髪を揺らし、如月は闇の中へと消えていった。

 

残されたのは、瓦礫の上で膝をつくゼロ――そして、その胸に押し寄せる迷いだけだった。

 

光が収束し、ゼロの姿は消え、優が膝をついて現れた。

肩で荒く息をし、震える手で大地を支える。

 

「ゼロ……」

「……すまない、優。俺もこの世界の歪みを甘く見ていた。力が制限されている……」

 

優は苦笑し、空を仰いだ。

「……でも、僕らは勝った。守れた」

 

ゼロは沈黙した後、低く誓うように言った。

「この世界に何が潜んでいるのか、必ず突き止める。ベリアルがもうすぐ接触してきそうな予感もする。」

 

優は頷き、胸の奥で決意を固めた。

「僕も逃げない。ゼロと一緒に戦う。……みんなを守るために」

 

夜空には月が浮かんでいた。

だが、その光の裏に、次なる闇が忍び寄っていること、ベリアルが完全な復活を遂げようとしていることを二人はまだ知らなかった。




第7話もお楽しみに!
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