東京都内、雑居ビルの七階。
駅前の華やかな大通りから一本入った路地に、その出版社はあった。
株式会社東都プレス。
かつては数々の社会派記事で名を馳せたこともあるが、現在では週刊誌『週刊トゥルース』の過激な見出しばかりが世間の注目を集めるようになっていた。
編集部の壁には、過去に発売された号の表紙が所狭しと貼られている。
芸能人の不倫疑惑、政治家の金銭問題、財界人のスキャンダル、スポーツ選手の私生活――。
そのどれもが、読者の興味を引くために大きな文字で煽り立てられていた。
しかし、その華々しい表紙の裏側にあるのは、決して順風満帆とはいえない経営状況だった。
編集部の奥にある編集長室。
デスクの上には、法律事務所から届いた封筒が何通も積み上がっていた。
その一つを手に取り、眉間にしわを寄せている男がいた。
『週刊トゥルース』編集長、黒崎修一。
四十代後半。業界経験は長く、数々の修羅場をくぐり抜けてきた男だったが、近年は記事の内容をめぐる訴訟対応に追われていた。
ドアがノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは、フリージャーナリストの橘しおりだった。
黒崎は顔を上げた。
「橘君か。例の件、何か進展はあったか?」
「ええ。真田ウェルネスの専務、後藤信介の逮捕については、まだいろいろと調べる余地があります。それに、真田家そのものにも、まだ表に出ていない事情があるかもしれません」
「真田ウェルネス……」
黒崎は椅子の背もたれに身体を預けた。
「確かに、今、世間の注目を集めている会社だ。社長の真田梨央は連日テレビに出ているし、グループ全体の動向にも注目が集まっている。専務が逮捕されたとなれば、読者だって知りたいことは多い」
「でしたら、取材を進めさせてください」
「もちろん、売れる記事になるなら歓迎だ」
黒崎は、机の上に置かれた最新号を指で叩いた。
「ただし、橘君。君も分かっていると思うが、売れる記事と、出せる記事は別だ」
しおりは黙って編集長の顔を見た。
「証拠はあるのか。証言は取れているのか。裏付けはあるのか。相手が訴訟を起こした場合、こちらは何をもって記事の正当性を説明するのか。そこまで考えて取材してもらわないと困る」
「私は、事実を追いかけているだけです」
「そう言う記者は多い」
黒崎は苦笑した。
「だが、事実を追いかけているつもりでも、いつの間にか自分の推測を事実だと思い込むことがある。情報提供者が嘘をついている可能性もある。写真の一部分だけを見れば、まったく違う意味に見えることだってある」
「……編集長は、私の取材を止めたいんですか?」
「まさか。私は編集長だぞ。売れる記事は欲しい」
黒崎は即答した。
「ただ、会社を潰したくないだけだ」
しおりの視線が、デスクの上の封筒に向いた。
封筒には、複数の法律事務所の名前が記されていた。
「また訴訟ですか?」
「また、だよ」
黒崎は封筒を開き、中から書類を一枚取り出した。
「以前、うちが掲載した著名人の記事を覚えているか? 交際相手がいるだの、裏で不正をしているだの、あれこれ書いたやつだ」
「覚えています」
「あれで何人もの有名人から訴えられた。名誉毀損、虚偽情報の掲載、誹謗中傷。中には、掲載前に十分な確認をしていなかったことが問題になった案件もある」
黒崎は書類を机に戻した。
「もちろん、こちらにも言い分はある。取材源を明かせない事情もある。報道の自由というものもある。だが、裁判になれば、それだけでは済まない」
「賠償金ですか」
「そうだ。確定した賠償金の支払いが終わっていない案件もある。和解交渉中のものもあれば、今も係争中のものもある。弁護士費用もかかる。広告主だって、いつまでも我慢してくれるわけじゃない」
黒崎は窓の外に目をやった。
「もし真田ウェルネスのような大企業が本気で訴えてきたら、どうなると思う?」
「……記事に自信があれば、問題ないはずです」
「その自信を裏付けるものが必要なんだ。裁判に負ければ賠償金が発生する。仮に敗訴が重なり、支払いができなくなれば、会社そのものが立ち行かなくなる可能性だってある」
編集長の言葉に、しおりは一瞬だけ表情を変えた。
東都プレスの経営が厳しいことは知っていた。
だが、会社が本当に潰れるかもしれないという危機感を、編集長自身がここまで露骨に口にするとは思っていなかった。
「……ずいぶん慎重なんですね」
「慎重にならざるを得ないんだよ。記者の正義感だけで会社は維持できない」
「でも、だからといって、何も書かないわけにはいかないでしょう?」
「何も書くなとは言っていない。裏を取れと言っているんだ」
黒崎はしおりを見据えた。
「真田家に関して、確かな証拠があるなら持ってきてくれ。後藤の逮捕に別の事情があるなら、それを示す資料を探してくれ。真田ウェルネスの創薬事業に問題があるなら、具体的な記録や証言を確保してくれ。そういうものがあれば、私だって記事にする」
「分かりました」
しおりはうなずいた。
だが、その返事とは裏腹に、彼女の胸中には別の思いが渦巻いていた。
編集長は、証拠が必要だと言った。
それは正論だった。
しかし、彼女が欲しいのは、単に後藤の逮捕をめぐる記事ではない。
真田家の内側にある、もっと大きな秘密。
梨央と優、二人の姉弟を取り巻く不可解な出来事。
そして、何よりも――。
ウルトラマンの正体。
先日、目撃した光景が、しおりの脳裏に鮮明によみがえった。
四体の怪獣。
四人のウルトラマン。
その中にいた、真田優。
あの少年が、本当にウルトラマンゼロなのだとしたら。
それは単なる芸能スキャンダルでも、企業不祥事でもない。
世界中の人々が知りたがる、歴史を変えるほどのスクープになるかもしれない。
もちろん、正体を公表することが何を意味するのか、しおりには分からない。
だが、分からないからこそ、知りたかった。
「編集長」
「何だ?」
「真田ウェルネスに、業界取材という名目で入ってみます。創薬事業の現状、企業としての危機管理、今回の不祥事に対する対応。そのあたりを中心に、話を聞いてきます」
「アポイントは取れるのか?」
「まずは申し込んでみます。断られても、会社の周辺から分かることはあるはずです」
「橘君」
黒崎の声が、少しだけ低くなった。
「くれぐれも、証拠のないことを事実のように書くなよ。君自身のためにも、会社のためにもだ」
「承知しています」
しおりは頭を下げた。
編集長室を出る直前、彼女は一度だけ振り返った。
黒崎は再び訴訟関係の書類に目を落としていた。
その背中には、以前のような自信がない。
会社を守るために慎重になっているのか。
それとも、会社が潰れることを恐れて、真実に踏み込むのをためらっているのか。
しおりには判断できなかった。
だが、一つだけ確かなことがあった。
東都プレスには、今、大きな記事が必要なのだ。
そして彼女は、その記事を自分の手で生み出したいと思っていた。
「真田家……」
廊下に出たしおりは、スマートフォンに保存された写真を開いた。
画面には、戦いの後に人間の姿へ戻った優と、彼を囲む三人の青年の姿が写っていた。
遠くから撮影したため、表情までは鮮明ではない。
それでも、優が戦いの中心にいたことは見て取れた。
「あなたは、一体何者なの?」
しおりは小さくつぶやいた。
その疑問が、やがて自分自身を危険な場所へ導くことになるとは、この時の彼女はまだ知らなかった。
同じころ。
地球から遠く離れた宇宙の暗黒域では、別の者たちが、地球を内側から崩壊させるための準備を進めていた。
人間の社会を壊すのに、必ずしも巨大な怪獣を送り込む必要はない。
権力を利用する者。
恐怖を煽る者。
事実を歪める者。
互いを疑わせる者。
そして、人々が信じるべきものを見失わせる者。
そうした存在が社会の内部に入り込めば、都市を破壊するよりもはるかに静かに、統治機構そのものを麻痺させることができる。
その計画を実行するため、ベリアルの忠実な配下たちが動き始めていた。
ダークネスファイブ。
彼らの地球侵攻は、すでに始まっていたのである。
地球の衛星軌道からはるかに離れた空間。
星々の光が届かない暗黒の裂け目に、五つの光が次々と姿を現した。
それぞれの光は、地球の大気圏に接近すると同時に、周囲の空間に溶け込むように形を変えていく。
人間の姿。
スーツを着た政治家
高級な腕時計を身につけた財界人と実業家
厳格な制服をまとった防衛関係者
そして、穏やかな笑みを浮かべた宗教指導者
地球人が日常の中で見慣れている姿ばかりだった。
しかし、その内側に宿るものは、人間とはまったく異なる。
彼らこそ、ウルトラマンベリアルに仕える精鋭――ダークネスファイブである。
最初に地上へ降り立ったのは、魔導のスライことメフィラス星人だった。
彼は長身の人間の姿を取り、濃紺のスーツに身を包んでいた。髪にはわずかに白いものが混じり、顔には知性と経験を感じさせる穏やかな表情が浮かんでいる。
彼が用意した身分は、国会議員。
政策研究会を主宰し、複数の議員連盟に影響力を持つ政治家として、すでに人間社会の内部に足場を築いていた。
もちろん、その経歴の大部分は偽造されたものだ。
しかし、彼の恐ろしさは、単に身分を偽装する技術にあるのではなかった。
相手の欲望を読み取り、利益と不安を巧みに利用し、本人に自らの意思で動いていると思わせる。
それこそが、魔導のスライの本領だった。
「地球という星は、実に興味深い」
議員会館の一室。
スライは窓の外を眺めながら、秘書に扮した配下から報告を受けていた。
「人間は、自分たちの社会を守るために複雑な制度を作り上げる。だが、その制度を動かしているのは、結局のところ個々人の欲望と恐怖だ」
彼は机の上に置かれた資料を一枚めくった。
政治資金
企業献金
官僚組織の人事
災害対応の予算
防衛関連の調達
それらは、彼にとって単なる書類ではなかった。
社会のどこに圧力をかければ、人々の判断が揺らぐのかを示す地図だった。
「すべてを破壊する必要はない。必要なのは、誰もが自分の責任を恐れ、誰もが他人を疑い、誰もが決断を先送りする状況を作ることだ」
スライは薄く笑った。
「その時、地球は我らの手に落ちる」
彼は携帯端末を取り出し、暗号化された通信回線を開いた。
「こちらスライ。地球社会への潜入を完了した。政治部門への接触も進んでいる。今後は、地球側の意思決定が遅れるよう、各方面に働きかける」
通信の向こうから、伏井出ケイの声が返ってきた。
『承知しました。人間の制度は、強固に見えても、内部に矛盾を抱えています。その矛盾を増幅させれば、彼らは自分たちの手で自分たちを追い詰めるでしょう』
「期待しているぞ、ストルム星人」
『陛下のご期待に応えてみせます』
スライは通信を切った。
「さて……最初に崩れるのは、どの部分かな」
その声には、戦場で剣を振るう戦士とは異なる種類の冷酷さがあった。
彼にとって地球侵攻とは、怪獣を送り込むだけの戦いではない。
人間という種族の思考そのものを、戦場に変えることだった。
同じころ、東京の高層ビル群を見下ろす会員制クラブでは、別の男が到着していた。
地獄のジャタール。
ヒッポリト星人である彼は、人間体になると、恰幅のよい財界人の姿を取った。
高級ブランドのスーツ。落ち着いた声。人を値踏みするような視線。
彼の表向きの肩書は、大手投資会社の会長。
その会社は、複数の企業に出資し、医療、エネルギー、情報通信、物流などの分野に広く投資していた。
もっとも、その資金の出所には、複雑な経路が設けられている。
実体の乏しい企業をいくつも経由させ、資金の流れを分かりにくくする。
ジャタールは人間社会の仕組みを利用しながら、自分の目的に都合のよい企業同士を結びつけていた。
「人間は、金さえ動けば世界が動くと思っている」
彼は会議室のテーブルに並んだ資料を見ながら言った。
「実際には、金が動く前に、人間の心が動いているのだがな」
目の前には、複数の企業関係者が座っていた。
彼らは、ジャタールが異星人であることなど知らない。
彼らが知っているのは、ジャタールが巨額の資金を動かすことのできる投資家であり、彼との関係を築けば、自分たちの会社にも利益がもたらされるということだけだった。
「医療関連への投資を増やす。とりわけ、世間の不安が高まっている分野だ」
ジャタールは、真田ウェルネスに関する報道資料を指先で押さえた。
「企業への不信感が広がれば、競合企業にも影響が出る。市場が揺らげば、資金の流れも変わる。人々は、どの企業を信じてよいのか分からなくなる」
彼は口元を歪めた。
「真田ウェルネスは、そのための格好の実験場になる」
ただし、ジャタールの目的は、真田ウェルネスという一企業を倒すことだけではない。
同社をめぐる混乱を利用し、医療業界全体に不信感を広げる。
その不信感を利用して、医療政策や研究開発の判断を遅らせる。
さらに、資金の流れを操作し、社会が危機に直面した際に必要な物資やサービスが届きにくい状況を作る。
彼の計画は、企業の不祥事を利用した、より大きな社会工作の一部だった。
「後藤信介の逮捕は、まだ終わっていない」
ジャタールはつぶやいた。
「人間どもが勝手に疑いを膨らませてくれるなら、こちらが手を下す必要もない。だが、疑いを確信に変えるための材料は必要だな」
彼は通信端末を操作した。
「如月。例の情報発信は順調か?」
『問題ありません。真田ウェルネスを疑う声は、少しずつ増えています』
「ならば、その流れを止めるな。疑念は疑念を呼ぶ。やがて人々は、何が本当なのかを考えることさえ諦める」
ジャタールは通信を切り、窓の外を見た。
「その時こそ、我らの出番だ」
一方、電力会社の本社ビルでは、極悪のヴィラニアスが新たな役割を演じていた。
テンペラー星人である彼が選んだのは、大手電力会社の経営幹部という立場だった。
人間体のヴィラニアスは、鋭い目つきの中年男性。
口数は少ないが、決断が早く、危機管理に精通した実務家として知られる人物を装っていた。
彼の手元には、電力供給網に関する資料が並んでいる。
発電所の配置
送電線の経路
変電設備の保守計画
災害発生時の復旧手順。
どれも、都市生活を支えるために欠かせない情報だった。
「人間は、電気が当たり前に使えると思っている」
ヴィラニアスは、会議に出席していた部下たちに向かって語った。
「照明が消えれば不便を感じる。通信が止まれば不安になる。交通機関が止まれば怒り出す。だが、社会がどれほど多くの仕組みに依存しているかを、本当に理解している者は少ない」
彼は資料を閉じた。
「我々が狙うのは、単純な停電ではない。人間が、自分たちの社会を維持できないと感じる瞬間だ」
もちろん、彼が企てているのは、実際に電力供給を担う人々を無差別に傷つけることではない。
彼の狙いは、危機が起きた際の判断を混乱させ、情報共有を遅らせ、復旧の責任を互いに押しつけ合う状況を生み出すことだった。
そのために、彼は組織内の情報経路を調べ、意思決定に時間がかかる部分を洗い出していた。
「社会は、一つの巨大な機械のようなものだ。部品が一つ壊れただけで止まるとは限らない。だが、部品同士が互いに連絡を取れなくなれば、正常な判断ができなくなる」
ヴィラニアスは、通信端末を操作した。
『こちらヴィラニアス。エネルギー関連の潜入を開始した。必要な情報は、順次ケイに送る』
『了解しました』
伏井出ケイの声が返る。
『ただし、まだ大規模な混乱を起こす段階ではありません。陛下が地球に降臨される時、その力を最大限に示すためにも、今は基盤を整えることが重要です』
「分かっている。獲物を仕留める前に、逃げ道を塞ぐ。それが戦いの基本だ」
ヴィラニアスは、鋭い笑みを浮かべた。
防衛関連の施設では、氷結のグロッケンが人間社会への潜入を進めていた。
グローザ星系人である彼は、地球人の男性に姿を変え、防衛政策や危機管理に関わる人物として活動していた。
冷静で、感情を表に出さない。
質問には簡潔に答え、必要な資料だけを求める。
人間たちにとって、彼は有能で隙のない実務家に見えた。
グロッケンが関心を寄せていたのは、地球外生命体への対応体制だった。
怪獣が現れた場合、どの機関が情報を収集するのか。
どの組織が避難指示を出すのか。
軍事組織と警察、消防、自治体は、どのように連携するのか。
そして、未知の存在が現れた場合、誰がその脅威を判断するのか。
彼は、これまでの怪獣出現事例とウルトラマンの活動記録を調べていた。
「ウルトラマン……」
グロッケンは資料の中のゼロの姿を見つめた。
「地球人が、あの存在をどのように認識しているか。それを知ることが重要だ」
人間にとって、ウルトラマンは救世主かもしれない。
しかし、圧倒的な力を持つ存在である以上、恐怖や疑念を抱く者もいる。
その感情の違いを利用すれば、人々の間に亀裂を生じさせることができる。
ウルトラマンを信じる者と、危険視する者。
怪獣災害への備えを優先する者と、通常の社会生活を守ろうとする者。
異なる立場の人々が互いに不信感を募らせれば、危機への対応は難しくなる。
「敵を倒すためには、敵の強さを知る必要がある」
グロッケンは報告書を閉じた。
「そして、敵を支える者たちの心を知ることもな」
最後に、地上へ姿を現したのは、炎上のデスローグだった。
デスレ星雲人である彼は、穏やかな表情の宗教指導者に姿を変えていた。
彼が人間社会で築こうとしていたのは、政治や企業とは異なる種類の影響力だった。
人々の不安に寄り添う言葉。
苦しんでいる者を救うという約束。
世界が混乱している時こそ、自分たちの教えに従えば救われるという主張。
デスローグは、そうした言葉が人間の心にどのように届くのかを理解していた。
「人は、恐怖を感じた時、答えを求める」
彼は小さな礼拝堂の一室で、集まった信徒たちを前に話していた。
「自分ではどうすることもできない出来事が起きた時、誰かに導いてほしいと願う。だが、導く者が必ずしも正しい道を示すとは限らない」
彼は柔らかく微笑んだ。
「だからこそ、導く者には力が必要なのです」
その言葉を聞いた人々は、静かにうなずいていた。
彼らは、目の前の男が異星人であることも、その目的が地球の支配にあることも知らない。
デスローグは、人々の不安を直接煽るだけでなく、他の組織や情報発信者と連携することで、社会全体に不信感を広げようとしていた。
彼にとって、真田ウェルネスをめぐる騒動も、そのための材料の一つだった。
企業不祥事への怒り。
創薬研究への不安。
怪獣とウルトラマンへの恐怖。
それらを結びつけ、根拠のない物語を信じる人々を増やす。
そして、社会が冷静な判断を失った時、彼は自分たちこそが救済者であると名乗り出るつもりだった。
五人の潜入は、それぞれ異なる場所で進んでいた。
だが、彼らが目指すものは一つだった。
政治、経済、エネルギー、防衛、そして人々の精神。
地球を支える複数の領域に同時に入り込み、互いの工作を連動させる。
どこか一つの領域で異変が起きても、それが偶然なのか、事故なのか、誰かの陰謀なのか、地球側には判断しにくい。
混乱は混乱を呼び、対応は後手に回る。
その間に、ベリアルの軍勢は侵攻の準備を整える。
それが、ダークネスファイブの描いた地球侵攻計画だった。
暗黒の空間で、伏井出ケイが五人からの報告を確認していた。
「素晴らしい。地球の内部に、これほど多くの足場を築けるとは」
ケイは端末を閉じ、黒い結晶を見つめた。
「陛下。地球は、間もなくあなた様を迎える準備を整えます」
結晶の表面に、赤黒い光が走った。
まるで、その言葉に応えるかのように。
別の宇宙。
無数の星々が輝くその宇宙の中心には、光の国が存在していた。
人工太陽プラズマスパークタワーから放たれる光は、国全体を包み込み、そこに暮らすウルトラ戦士たちを照らしている。
しかし、この日の光の国には、普段とは異なる緊張が漂っていた。
宇宙警備隊本部。
司令室の大型モニターには、複数の宇宙空間で観測された異常なエネルギー反応が表示されていた。
その中心にあるのは、ベリアルの復活を示す反応だった。
ウルトラマンタロウは、モニターを見つめながら腕を組んでいた。
ベリアル。
かつて光の国を裏切り、圧倒的な力で宇宙を支配しようとした暗黒の戦士。
その復活は、単なる一人の敵の再出現ではない。
かつてベリアルが引き起こした戦争の記憶を呼び起こし、宇宙全体を再び大きな危機へと導く可能性があった。
「間違いないのか?」
タロウが尋ねると、分析担当のウルトラ戦士がうなずいた。
「はい。怪獣墓場で確認されていたエネルギー反応と一致します。さらに、ギガバトルナイザーの反応も確認されました」
「闇の結晶だけではなく、ギガバトルナイザーまで……」
タロウは目を閉じた。
ベリアルは、再び戦うための力を取り戻したのだ。
しかも、その背後にはダークネスファイブがいる。
さらに、ストルム星人伏井出ケイも活動を続けている。
ゼロがいる地球の状況を考えれば、事態は一刻を争った。
「ゼロは、まだ地球にいるのだな?」
「はい。現在も同じ次元宇宙に滞在しています。先日、ウルトラマンジード、オーブ、ゼットが合流したことも確認されています」
「そうか……」
タロウは、安堵と不安が入り交じった表情を浮かべた。
ゼロには仲間がいる。
しかし、ベリアルが復活した以上、敵の戦力はこれまでとは比較にならない規模へ膨れ上がる可能性があった。
「各宇宙に連絡を。ゼロのいる地球へ向かえる戦士たちを、できる限り集めるんだ」
「了解しました」
「ただし、無理にすべての戦力を一か所へ集中させてはならない。ベリアルがほかの宇宙にも手を伸ばしている可能性がある。各宇宙の防衛体制を維持した上で、派遣できる戦士を選ぶんだ」
タロウの指示を受け、司令室が一斉に動き始めた。
各宇宙への通信回線が開かれ、応援要請の情報が送られる。
ゼロと共に戦ったことのある者。
別の宇宙で独自に活動する者。
そして、ベリアルの脅威を知り、再び立ち上がろうとする者。
彼らに向けて、光の国から援軍要請が発せられた。
やがて、司令室の上空にウルトラサインが浮かび上がった。
光の国の文字が、宇宙空間へと広がっていく。
その内容は、ゼロのいる次元宇宙に迫る危機と、応援を求める緊急の知らせだった。
「ゼロ……」
タロウは、遠い宇宙の向こうにいる若き戦士へ思いを馳せた。
「もう少しだけ、持ちこたえてくれ。必ず援軍を送る」
ウルトラサインは、光の国から遠く離れた宇宙へと飛んでいった。
その光を受け取る者たちが、次々と動き始める。
だが、タロウが援軍派遣の準備を進めていた、その時だった。
司令室に警報が鳴り響いた。
『緊急警報! 光の国周辺宙域に、複数の敵性反応!』
「何だと?」
モニターが切り替わる。
そこに映し出されたのは、光の国へ向かって接近する多数の宇宙船と、異形の怪獣たちだった。
その中には、かつて光の国と戦ったことのある宇宙人の姿も確認できた。
バルタン星人
ナックル星人
そして、複数の怪獣兵器。
それらが、光の国の防衛線へ一斉に押し寄せていた。
「ベリアル軍の残党か……!」
タロウの表情が険しくなる。
ベリアルが復活したことで、これまで潜伏していた勢力が再び動き出したのだ。
しかも、襲撃のタイミングは、援軍派遣の準備が進められている最中だった。
偶然とは考えにくい。
ゼロのいる地球へ戦士たちを送り出す動きを察知し、その戦力を分散させようとしている可能性がある。
「防衛部隊を展開! 宇宙警備隊は迎撃に出ろ!」
タロウの命令が響き渡った。
司令室の扉が開き、ウルトラ兄弟たちが次々と出撃準備を整える。
ゾフィー
ウルトラマン
ウルトラセブン
ウルトラマンジャック
ウルトラマンエース
彼らはそれぞれの持ち場へ向かい、迫り来る敵に備えた。
タロウ自身も、腕を交差させて光を放ち、戦闘態勢へと移行した。
「ベリアル……。お前は、どこまで宇宙を混乱させるつもりだ!」
光の国の外縁宙域。
防衛部隊とベリアル軍の残存勢力が激突した。
バルタン星人の分身が宇宙空間を埋め尽くし、ナックル星人が編成した部隊が防衛線の隙間を狙って突撃する。
怪獣たちは、光の国の防衛シールドへ向けて破壊光線を放っていた。
その中には、ベムスターの姿もあった。
腹部の吸収器官を開き、エネルギーを吸い込もうとするベムスターに対し、ウルトラマンジャックが立ちはだかった。
「同じ手は通用しないぞ!」
ジャックは空中で体勢を整えると、スペシウム光線を放った。
ベムスターはそれを吸収しようとしたが、ジャックは攻撃の軌道を変え、別の角度から連続して光線を放つ。
吸収の動作がわずかに遅れた瞬間、ジャックは距離を詰め、流星キックを叩き込んだ。
ベムスターが後方へ吹き飛ばされる。
そこへ、ウルトラマンエースが合流した。
「ジャック兄さん、こちらは任せてください!」
「頼むぞ、エース!」
エースは両腕を交差させ、メタリウム光線を放った。
光線はベムスターを捉え、怪獣の巨体が爆発する。
一方、別の宙域では、ウルトラセブンがアイスラッガーを投擲し、バルタン星人の分身を次々と切り裂いていた。
だが、敵の数は多い。
倒しても倒しても、新たな敵が防衛線へ押し寄せる。
「この数……単なる陽動か!」
セブンは戦況を見渡した。
敵は光の国を占領するつもりなのか。
それとも、援軍派遣を妨害するために時間を稼いでいるのか。
どちらにせよ、敵の狙いを見誤るわけにはいかなかった。
セブンはテレパシーで呼びかける。
『ゾフィー、敵の動きに注意しろ。これは単純な侵攻ではない可能性がある』
『分かっている。各部隊に警戒を指示する』
ゾフィーの声が返る。
その時、複数のバルタン星人が一斉にセブンへ襲いかかった。
セブンはアイスラッガーを呼び戻し、敵の攻撃をかわしながら応戦した。
宇宙空間に光が走る。
ウルトラ兄弟の連携によって、敵の隊列は徐々に崩れていった。
最後にはタロウが戦線へ加わり、ストリウム光線を放つ。
圧倒的な光が敵の残存部隊を包み込み、宇宙船の一部が次々と爆発した。
やがて、敵は退却を始めた。
宇宙警備隊は追撃を試みたが、タロウはそれを制止した。
「深追いするな! 防衛線を維持し、負傷者の救護と被害の確認を優先するんだ!」
敵の姿が遠ざかっていく。
光の国は守られた。
しかし、戦いが終わったわけではなかった。
タロウは、遠い地球のある宇宙を見つめる。
「これは前哨戦にすぎない……」
彼は拳を握り締めた。
「ベリアルは、地球だけを狙っているのではない。すべての宇宙を巻き込むつもりなのか」
セブンが戻ってきた。
「タロウ。ゼロへの援軍はどうする?」
「予定を変更するつもりはない。敵の襲撃で遅れは出たが、各宇宙からの応援は引き続き派遣する」
「分かった」
セブンは静かにうなずいた。
タロウは再びウルトラサインを放った。
その光は、先ほどよりも強い輝きを帯びていた。
『ゼロ、そして地球の戦士たちへ。ベリアルの復活を確認した。こちらも敵の襲撃を受けているが、援軍派遣は続ける。もう少しだけ持ちこたえてくれ。君たちを決して見捨てはしない』
ウルトラサインは、幾重もの宇宙の壁を越えて飛んでいった。
地球にいるゼロが、その光を受け取る時は近づいていた。
しかし、地球では別の戦いが始まろうとしていた。
怪獣との戦闘だけではない。
人間社会そのものを舞台にした、目に見えない戦いが。
真田ウェルネス本社。
午前九時を過ぎても、代表電話の呼び出し音は途切れることがなかった。
「ですから、現在、事実関係を確認している段階でして……」
電話を受けた社員が、何度目か分からない説明を繰り返す。
相手は納得しなかった。
『会社として責任を取るつもりがあるんですか!』
「ご指摘は、担当部署に申し伝えます」
『そんな返事で済ませるな! 後藤専務の件もそうだが、ほかにも何か隠しているんじゃないのか!』
電話は一方的に切られた。
社員は受話器を置き、深く息を吐いた。
隣の席でも、別の社員が同じような対応に追われている。
会社の出入り口には、朝から複数の報道関係者が集まっていた。
カメラを構える者
通行人に声をかける者
会社から出てくる社員を見つけるたびに、マイクを向けようとする者
警備員が動線を確保していたが、報道陣の数は減る気配がなかった。
後藤信介の逮捕
真田梨央の謝罪
会社の再発防止策
連日報道される話題は、同じ内容を繰り返しながらも、少しずつ新しい憶測を付け加えていった。
そして、そこに新たな問題が重なっていた。
SNS上で、真田ウェルネスの創薬事業に関する根拠のない情報が拡散され始めていたのである。
最初の投稿は、匿名アカウントによる短い文章だった。
『真田ウェルネスの創薬事業、怪獣出現と関係しているって話、本当なのか?』
投稿には、怪獣が街を破壊する映像と、真田ウェルネスの研究施設の外観写真が添付されていた。
両者の間に直接的な関係を示す証拠はなかった。
それでも、投稿は瞬く間に拡散された。
『そういえば、怪獣が出現した地域の近くに研究施設があるって聞いた』
『新薬の人体実験をしているという噂もある』
『人間を怪獣に変化させる薬を開発しているんじゃないか?』
『ウルトラマンも、実は研究の失敗で生まれた存在なのかもしれない』
どれも、裏付けのない憶測だった。
中には、真田ウェルネスが人間に新薬を投与し、怪獣やウルトラマンへ変化させ、その被験者たちに街を破壊させていると断言する投稿まで現れた。
研究内容を確認したわけでも、関係者から証言を得たわけでもない。
投稿者たちは、映像や写真を組み合わせ、あたかも一連の出来事に関連があるかのように見せていた。
それでも、刺激的な内容は人々の関心を引いた。
拡散された投稿には、数万件の反応がつき、関連する動画が次々と作られていく。
ワイドショーも、SNS上の話題を取り上げ始めた。
『真田ウェルネスの創薬事業に新たな疑惑?』
『怪獣出現との関係はあるのか』
『ウルトラマンの正体と製薬企業を結びつける投稿が拡散』
番組内では、専門家と称する出演者が、限られた情報をもとに意見を述べていた。
中には、事実関係が確認されていないと注意を促す者もいた。
だが、番組の見出しや短く切り取られた映像は、必ずしも慎重な発言をそのまま伝えてはいなかった。
疑惑を否定するための説明は長くなる。
疑惑を煽る言葉は、短くても人々の記憶に残る。
その差が、真田ウェルネスを追い詰めていた。
社長室。
真田梨央は、机の上に置かれた資料を見つめていた。
資料には、問い合わせ件数の推移、報道各社からの質問、SNS上で拡散された投稿の一覧がまとめられている。
どれも、彼女が目を背けることのできない現実だった。
「社長、お食事をお持ちしました」
秘書の児嶋彩夏が、控えめに声をかけた。
「ありがとう。そこに置いておいて」
「ですが、朝から何も召し上がっていませんよね」
「あとで食べるわ」
「社長……」
彩夏は心配そうに梨央を見た。
以前から、梨央が仕事を優先し、自分のことを後回しにする傾向があるのは知っていた。
しかし、今の彼女は、いつも以上に自分を追い詰めているように見えた。
「後藤さんの件だけでも大変なのに、今度は創薬事業まで……」
梨央は、資料から目を離さなかった。
「会社が説明しなければならないことは、きちんと説明する。でも、事実ではないことまで、すべて否定して回るわけにはいかない」
「はい」
「一つ否定したら、次の疑惑が出てくる。根拠を示して説明しても、今度はその説明自体が隠蔽だと言われるかもしれない」
彼女は小さく息を吐いた。
「それでも、私たちが黙っていたら、何も知らない人たちまで不安になってしまう」
「社長は、十分に頑張っていらっしゃいます」
彩夏の言葉に、梨央はようやく顔を上げた。
「ありがとう。でも、私が頑張っているかどうかは関係ないの。会社を信頼してくれている人たちがいる以上、その信頼を裏切るわけにはいかない」
その時、社長室のドアがノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは、創薬ラボ所長の海野こずえだった。
彼女は手に研究開発部門の報告書を持っていた。
「梨央さん、少しお時間をいただけるかしら?」
ええ。どうしたの?」
「研究施設への問い合わせが増えているの。外部からの取材申し込みもそうですが、研究員の家族にまで連絡が来ているようよ」
梨央の表情が曇った。
「家族にまで?」
「はい。SNSに名前を出された研究員もいる。本人が怪獣を生み出したというような、根拠のない書き込みまであった」
こずえは、報告書を机に置いた。
「研究員たちは、自分たちの研究が何を目指しているのか、よく分かっているわ。新薬の開発は、患者さんの命を救うために行うもの。人間を怪獣に変えるためではない」
「分かっているわ」
「ただ、研究員たちも人間。家族を心配させたり、身の危険を感じたりすれば、研究に集中することが難しくなる」
こずえの声には、研究所を預かる者としての責任がにじんでいた。
「私たちの研究は、正規の手続きに従って行っている。試験の記録も、審査資料も、必要なものはそろっているわ。確認していただければ、誤解を解くための説明はできるのよ」
「ええ。必要な資料は、法務部と相談して公開範囲を決めましょう。患者さんの個人情報や、研究上の機密を守ることも必要だから」
梨央は報告書を手に取った。
「ただし、説明できることは説明する。第三者の確認が必要なら、その仕組みも検討するわ」
こずえは、わずかに表情を和らげた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。現場を守れなくて、ごめんなさい」
「謝らないで。今は、みんなで乗り越える時だから」
こずえはそう言って、梨央の向かいに座った。
「それと、もう一つ。研究員たちの中には、社長が一人で責任を背負いすぎているのではないかと心配している者もいるの」
「私が?」
「はい。社長が会社の前に立ってくださっていることは、みんな分かっている。でも、社長一人で全部を解決できるわけではないの」
梨央は、返す言葉を見つけられなかった。
自分が責任を取らなければならない。
会社を守らなければならない。
研究員たちを守らなければならない。
優を守らなければならない。
そう考えるたびに、彼女の肩には新たな重荷が積み重なっていった。
しかし、こずえの言うとおり、すべてを一人で背負うことが正しいとは限らない。
「……そうね」
梨央は、少しだけ微笑んだ。
「児島さん、海野先生。午後の予定を見直してくれる? まずは研究員たちへの説明と、問い合わせへの対応方針を整理したい」
「承知しました」
彩夏がうなずく。
「私も研究所側の資料をまとめておくわ」
こずえも立ち上がった。
二人が社長室を出ていくと、梨央は窓の外を見つめた。
遠くに見える街は、いつもと変わらない姿をしていた。
人々は働き、電車は走り、街の灯りは消えることなく輝いている。
その日常を守るために、どれほど多くの人が努力しているのだろう。
そして、その日常を壊そうとしている者たちは、どこまで人間社会に入り込んでいるのだろうか。
梨央は、まだその答えを知らなかった。
同じ日の午後。
真田グループホールディングス本社ビルの最上階では、三人の人物が向かい合っていた。
真田梓。
真田グループホールディングスの社長であり、梨央と優の叔母。
真田政信。
真田ビジネスサービスの社長であり、グループ各社の管理体制を統括する立場にある人物そして梓の息子。
そして、真田ウェルネス法務部の加瀬賢一郎。
三人が集まったのは、真田ウェルネスをめぐる一連の問題について、グループ全体で対応を確認するためだった。
梓は、机の上に置かれた資料を一通り確認してから口を開いた。
「後藤さんの件は、司法の手続きに委ねるしかありません。会社としては、事実関係を確認し、必要な責任を果たす。それが基本です」
政信がうなずいた。
「異論はありません。ただ、今問題になっているのは、後藤さんの件とは無関係な情報まで広がっていることです」
「創薬事業に関するデマですね」
加瀬が資料を開いた。
「人間に新薬を投与して怪獣に変化させている、ウルトラマンの出現にも関係している、研究施設が怪獣を意図的に発生させている。そうした内容が、複数のSNSアカウントから発信されています」
梓の表情が険しくなる。
「事実無根なのですね?」
「現時点で、その主張を裏付ける証拠は確認できていません。少なくとも、当社の研究記録や承認手続きから、そのような事実は認められません」
加瀬は慎重に言葉を選んだ。
「ただし、すべての投稿を一括して訴訟の対象にすることは適切ではありません。個々の投稿について、発信者、内容、拡散状況、被害を確認する必要があります。批判と虚偽情報は区別しなければなりません」
「当然です」
梓は即座に答えた。
「会社に対する批判を封じるために、法務部を使うつもりはありません。正当な批判には、説明を尽くすべきです。しかし、社員や家族を傷つけるために、事実ではない情報を広めることは別問題です」
「その方針で進めます」
政信が口を開いた。
「グループ各社の情報管理体制を確認します。社員の個人情報が流出していないか、研究施設の安全が確保されているか、外部からの不審な接触がないか。必要な確認を行います」
「梨央のことも、お願いします」
梓の声が、わずかに柔らかくなった。
「会社の責任者として、あの子が前に立つ必要はあります。でも、あの子だけに矢面に立たせるつもりはありません」
加瀬は静かにうなずいた。
「社長ご自身も、かなり疲弊しているように見えました」
「梨央は昔から、責任を自分一人で抱え込むところがあるんです」
梓は目を伏せた。
「後藤さんの件で、あの子がどれほど悩んでいるか、私にも分かります。会社のことだけではありません。優のことも心配しているでしょう」
政信が口を開いた。
「優君の周囲にも、報道関係者が接触する可能性がありますね」
「ええ」
梓はうなずいた。
「優はまだ高校生です。家族が会社を経営しているからといって、何をされても仕方がないということにはなりません」
加瀬は資料を閉じた。
「優君本人だけでなく、香坂さんをはじめとする友人たちの個人情報にも注意が必要です。学校への無断接触や、自宅周辺での執拗な取材があれば、記録を取り、必要に応じて警察や学校と連携します」
「お願いします」
梓は深く頭を下げた。
それは、グループの社長としてではなく、家族を守りたい一人の人間としての言葉だった。
政信も姿勢を正した。
「真田家の問題だからといって、家族や友人に責任を押しつけることはさせません。会社として対応できることは、こちらで対応します」
「私も同意します」
加瀬は、二人を見据えた。
「ただし、感情的な反論は避けましょう。事実を確認し、記録を残し、適切な手続きで対処する。こちらが冷静さを失えば、それこそ相手の思うつぼです」
梓は、ゆっくりとうなずいた。
「分かりました」
三人の間で、方針が確認された。
真田ウェルネスに対する根拠のない情報については、事実関係を調査し、必要な対応を取る。
梨央と優、そして優の友人たちの身辺の安全を確保する。
会社への批判と虚偽情報を区別し、説明すべきことは説明する。
そして、後藤の逮捕をめぐる問題については、司法手続きを尊重しながら真相究明と再発防止を進める。
会議室の窓から、東京の街並みが見えた。
その街のどこかに、優がいる。
そして、その優を見つめる目が、すでに動き始めていた。
翌日の放課後。
優は、香坂美咲たちと並んで学校を出た。
数日前まで、彼は教室の中で周囲の視線を気にしていた。
真田家の問題。
後藤信介の逮捕。
家族に向けられる批判。
自分が抱えている秘密。
それらが重なり、誰かと普通に話すことさえ難しく感じられる時期があった。
だが、美咲や一部のクラスメイトたちは、そんな優を避けることなく接してくれた。
今日も、彼らは学校で起きた出来事や、授業の課題について話しながら歩いていた。
「そういえば優、今日の数学の課題、ちゃんとできた?」
美咲が尋ねた。
「一応な。最後の問題は、ちょっと怪しいけど」
「えっ、優でも怪しい問題があるんだ」
「どういう意味だよ」
優が苦笑すると、クラスメイトたちから笑い声が上がった。
「いや、だって、もっと何でもできる人かと思ってたから」
「俺だって普通の高校生だぞ」
優はそう言いながら、心の中で小さくつぶやいた。
――普通、か。
ウルトラマンゼロと一体になった自分が、本当に普通の高校生と言えるのか。
怪獣が出現すれば、戦わなければならない。
ベリアルが復活した今、その戦いはさらに激しくなるだろう。
それでも、学校で友人たちと話している時だけは、自分が一人の人間としてここにいることを実感できた。
その時間を、優は大切にしたかった。
しかし、その穏やかな帰り道に、別の視線が注がれていた。
数十メートル後方。
人混みに紛れながら、黒いコートを着た女性が歩いていた。
橘しおりだった。
彼女はカメラを首から下げ、時折スマートフォンを操作しながら、優たちの姿を追っていた。
学校から出てきた優を見つけたのは、偶然ではない。
前日に調べた情報と、自分が撮影した写真をもとに、優の行動範囲を探っていたのだ。
「やっぱり、いた……」
しおりは、歩調を合わせた。
優が友人たちと話している。
美咲が笑い、優も笑い返している。
その姿は、ごく普通の高校生にしか見えなかった。
だが、しおりは知っている。
この少年が、怪獣と戦うウルトラマンゼロの人間体だということを。
彼が変身する瞬間を、彼女はまだ直接見ていない。
それでも、先日の戦闘後に撮影した写真は、彼女にとって十分に興味深いものだった。
「真田ウェルネスの社長の弟が、ウルトラマンの正体……」
しおりは小さく笑った。
「これが本当なら、企業不祥事どころの話じゃないわ」
彼女は、優たちとの距離を少しずつ縮めた。
その時だった。
『優。後ろだ』
ゼロの声が、優の意識に響いた。
優は、表情を変えずに歩き続けた。
『何だよ、ゼロ』
『誰かが、こちらを追っている。偶然同じ方向へ歩いているという距離じゃねえ。お前たちが進路を変えても、向こうは同じようについてきている』
優の背筋に緊張が走った。
『敵か?』
『まだ分からねえ。だが、警戒するに越したことはない』
優は、さりげなくガラス張りの店舗に目を向けた。
そこに映る後方の景色。
人混みの中に、黒いコートの女性がいた。
彼女はスマートフォンを手にしながら、こちらを見ているようだった。
優は、心の中で息をのんだ。
「……誰だ?」
「優?」
美咲が不思議そうに顔を向けた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
優は平静を装った。
ここで突然走り出せば、友人たちまで巻き込むことになる。
しかも、相手が誰なのか分からない。
優はゼロに意識を向けた。
『どうすればいい?』
『まずは、あいつが何者なのか確認する。だが、ここで正体を見せるわけにはいかねえ』
『分かった』
優は歩きながら、美咲たちに声をかけた。
「悪い。ちょっと寄りたいところがあるんだ」
「寄りたいところ?」
「ああ。みんなは先に帰っててくれ」
「一人で大丈夫?」
「大丈夫だよ。すぐに帰るから」
美咲は、優の顔をじっと見た。
彼が何かを隠していることに気づいたのかもしれない。
だが、彼女は無理に問いたださなかった。
「分かった。でも、何かあったら連絡してね」
「ありがとう」
優は短く答えた。
そして、友人たちと別れるように見せかけて、別の道へと進んだ。
しおりは、すぐにその動きを追った。
優は歩く速度を上げる。
しおりも速度を上げた。
優が角を曲がる。
しおりも曲がた。
その瞬間、優は走り出した。
「えっ……!」
しおりは慌てて後を追った。
優は、人通りの少ない路地を全速力で駆け抜けた。
建物の角を曲がり、細い通路を抜け、再び大通りへ出る。
しかし、変身能力を使うわけにはいかない。
今は人間の姿のまま、相手を振り切る必要があった。
『優、右だ!』
ゼロの声に従い、優は右手の路地へ飛び込んだ。
そこには、建物と建物の間にできた小さな空間があった。
優は壁際に身を寄せ、呼吸を整えながら、スマートフォンのカメラを起動した。
数秒後。
路地の入口に、しおりが姿を現した。
「……どこに行ったの?」
彼女は周囲を見回した。
優の姿はない。
左右の道を確認しても、見つからない。
しおりは、悔しそうに唇をかんだ。
「まさか、気づかれた?」
彼女はカメラを構え、周囲を撮影しながら、もう一度通りを見渡した。
その時、優は壁の陰からスマートフォンを向けていた。
シャッター音を消し、しおりの顔が分かる写真を数枚撮影する。
しおりが反対側へ歩き出したのを確認してから、優はようやく息を吐いた。
『何とか振り切ったな』
『ああ。でも、あの人……』
『ただの通行人じゃねえな。お前のことを調べている可能性がある』
優はスマートフォンの画面を確認した。
そこには、黒いコートを着た女性の顔が写っていた。
『これだけ写っていれば、調べられるかもしれない』
『警察に相談しろ。相手が何者で、何を目的にしているのか分からねえ以上、独断で動くべきじゃない』
「分かった」
優は美咲たちに連絡を入れた。
心配をかけないよう、伝え、先に帰るように頼む。
そして、写真を保存すると、警察署へ向かった。
警察署の刑事課。
宮崎大輝は、机の上に積まれた書類を確認していた。
後藤信介の逮捕に関連する捜査だけでなく、真田ウェルネスに関する報道や、関係者への問い合わせも増えている。
警察が企業の広報活動を代わりに行うわけにはいかない。
また、SNSで批判が起きているからといって、それだけで犯罪が成立するわけでもない。
大輝は、事実と憶測を分けながら、必要な情報を整理していた。
そこへ、刑事課の入口から優が入ってきた。
「大ちゃん」
「おう、優。どうした?」
大輝は顔を上げた。
優の表情が、いつもより硬い。
「何かあったのか?」
「実は……帰り道で、誰かに尾行されたんだ」
「尾行?」
大輝は椅子から立ち上がった。
「詳しく聞かせてくれ」
優は、学校を出てからの出来事を順番に説明した。
後ろから同じ人物がついてきたこと。
道を変えても追ってきたこと。
距離を取ろうとしたら、相手も速度を上げたこと。
そして、路地に逃げ込んで振り切ったこと。
最後に、優はスマートフォンを取り出した。
「この人です」
大輝は画面をのぞき込んだ。
数秒間、何も言わなかった。
そして、眉をひそめた。
「……橘しおりか」
「知っているんですか?」
「ああ。フリージャーナリストだ。週刊誌やネットメディアに記事を書いている。過去にも、企業や著名人のスキャンダルを取材していた」
大輝は写真をもう一度確認した。
「最近、真田家の件を調べているという話も聞いている」
「やっぱり、姉ちゃんや会社のことを調べているのか」
「その可能性はある」
大輝は、慎重に答えた。
「ただ、今の段階で、あの人が何を目的にしていたのかまでは断定できない。取材のために追っていたのか、別の目的があったのか。そこは確認が必要だ」
「でも、僕を追いかけていたのは間違いありません」
「そうだな」
大輝はうなずいた。
「優、よく写真を撮ってくれた。相手を問い詰めたり、無理に捕まえようとしたりしなかったのも正解だ」
優は少しだけ肩の力を抜いた。
「ゼロにも、警察に相談した方がいいと言われた」
「ゼロが?」
「はい。相手が誰なのか分からないまま、自分で何とかしようとするのは危険だって」
大輝は、苦笑した。
「なるほど。ゼロの言うとおりだ」
彼は写真を確認しながら、記録を取った。
「ただし、これからも注意してくれ。相手がまた接触してくる可能性もある。学校や自宅の周辺で不審な人物を見かけたら、無理に対応せず、まず安全な場所へ移動するんだ」
「分かった」
「美咲ちゃんたちにも、必要以上に心配させる必要はないが、帰り道はできるだけ一緒に行動するよう伝えておくといい」
「はい」
大輝は優の顔を見た。
「……梨央には?」
「まだ話していません」
「そうか」
大輝は少し考えた。
「今回のことは、俺からも確認しておく。ただし、相手がジャーナリストだからといって、取材そのものを違法だと決めつけるわけにはいかない。問題は、どんな方法で接触し、何をしようとしていたかだ」
「分かってる」
優はうなずいた。
「でも、もし僕の正体を記事にされたら……」
その言葉に、大輝の表情が変わった。
優は、自分がゼロであることを公にしていない。
それは、単に秘密を守りたいからではない。
正体が知られれば、優自身だけでなく、梨央や美咲たちまで危険にさらされる可能性がある。
怪獣と戦う力を持つことは、必ずしも自由を意味しない。
その力を利用しようとする者が現れれば、優は戦い以外の場所でも追い詰められることになる。
「……そうならないよう、できることを考える」
大輝は静かに言った。
「優、お前はまだ高校生だ。自分一人で全部を解決する必要はない。何かあったら、俺たちを頼れ」
優は、その言葉に小さくうなずいた。
「ありがとう、大輝ちゃん」
警察署を出るころには、外は夕方の色に染まり始めていた。
優は、スマートフォンに保存された写真をもう一度見た。
橘しおり。
彼女が何を知っているのか。
どこまで調べているのか。
そして、何を記事にしようとしているのか。
その答えは、まだ分からない。
しかし、優には一つだけ確信があった。
自分の周囲で起きていることは、偶然ではないのかもしれない。
ベリアルが復活した。
如月が動いている。
そして、社会の内部では、真田ウェルネスをめぐる根拠のない情報が拡散されている。
それらがすべて無関係だと、今は言い切れなかった。
一方、橘しおりは、真田ウェルネス本社の周辺を歩いていた。
優を見失ったことは痛手だった。
尾行に気づかれた可能性がある以上、同じ方法で接近するのは難しい。
しかし、しおりには、まだ別の取材対象がいた。
真田梨央。
そして、会社そのものだ。
「まずは、社長に話を聞くことね」
しおりは、取材用の名刺を確認した。
彼女は、あくまで業界取材の名目で訪問するつもりだった。
後藤信介の逮捕後、企業がどのように危機管理を行っているのか。
創薬事業に関する説明責任をどう考えているのか。
社会からの批判に対して、どのような対応を取るのか。
それらは、報道機関が企業に尋ねることのできる質問だった。
問題は、その先に何を見つけるかだ。
しおりは、正面玄関へ向かった。
だが、入口付近には警備員が立っていた。
「失礼ですが、どちら様でしょうか」
「フリージャーナリストの橘と申します。真田ウェルネスの広報担当の方に、お話を伺いたいのですが」
「アポイントメントはお取りでしょうか」
「いえ、これからお願いしようと思っていました」
「申し訳ありませんが、事前のお約束がない取材はお受けできません。広報窓口をご案内しますので、そちらからお問い合わせください」
警備員の対応は丁寧だった。
しかし、しおりを社内へ通すつもりはないようだった。
「そうですか……。では、広報の方に名刺だけでも」
「名刺をお預かりすることはできますが、社長への直接のお取り次ぎはできません」
しおりは、わずかに口元を引き締めた。
その時、正面玄関の自動ドアが開いた。
数人の社員とともに、梨央が姿を現した。
「社長!」
しおりは、すぐに声を上げた。
警備員が制止するよりも早く、梨央の方へ近づこうとする。
「週刊トゥルースの取材を担当している橘しおりと申します。後藤専務の逮捕や創薬事業について、お話を伺えませんか?」
梨央は足を止めた。
突然の呼びかけに、周囲の社員が警戒する。
「申し訳ありませんが、取材については広報窓口を通していただけますか」
「今回の件について、世間ではさまざまな疑惑が出ています。創薬事業と怪獣の出現に関係があるという話まであります。社長ご自身の言葉で説明していただくことはできませんか?」
梨央の表情がわずかに曇った。
「そのような情報については、事実関係を確認した上で、会社として必要な説明を行っています。ですが、確認されていない情報について、ここで一つ一つお答えすることはできません」
「つまり、否定はしないということでしょうか?」
「そういう意味ではありません」
梨央は、はっきりと答えた。
「根拠のない情報を、事実であるかのように扱うことはできないということです。私たちは、研究記録や必要な資料に基づいて説明を行います」
しおりは、すかさず質問を重ねた。
「では、後藤専務の逮捕によって、会社の経営方針に変更はあるのでしょうか?」
「会社として、必要な確認と対応を進めています。詳細については、広報窓口を通じてお問い合わせください」
「社長、もう一つだけ――」
「橘さん」
背後から、落ち着いた声が響いた。
振り返ると、加瀬賢一郎が立っていた。
真田グループホールディングス本社での会議を終え、真田ウェルネスへ戻ってきたところだった。
加瀬は、梨央の前に出るようにして、しおりと向き合った。
「アポイントのない取材は受け入れられません。取材のお申し込みは、広報窓口を通して正式に行ってください」
「私は、社長に直接お話を伺っているだけです」
「そのこと自体を否定しているわけではありません。ただし、会社として回答する必要のある質問については、正式な手続きに従って対応します」
加瀬の口調は丁寧だったが、譲歩する様子はなかった。
「それに、現在は社員の安全確保や業務への影響も考慮する必要があります。突然の接触や、社員を取り囲むような取材はお控えください」
しおりは、加瀬の顔をじっと見た。
この男は、単に取材を拒否しているのではない。
質問の内容を確認し、回答の範囲を管理し、会社側に不利益が生じないようにしている。
法務担当者としては、当然の対応なのかもしれない。
しかし、しおりには、彼が何かを警戒しているようにも見えた。
「分かりました。では、後日、正式に取材を申し込みます」
「お待ちしております」
加瀬は短く答えた。
しおりは梨央に向き直った。
「社長。世間は、真田ウェルネスが何をしているのか知りたがっています。説明する機会は、ぜひ設けてください」
「必要な説明は、適切な方法で行います」
梨央はそう答えると、社員たちとともに歩き出した。
しおりは、その後ろ姿を見つめた。
「……簡単には、いかないわね」
彼女は名刺をしまった。
会社側が慎重になるのは当然だ。
だが、慎重であることと、何も隠していないことは同じではない。
そう考える自分を、しおりは止められなかった。
彼女は、優の写真が保存されたスマートフォンを取り出しかけた。
しかし、すぐに思い直して画面を閉じた。
今、優の正体を追及すれば、取材そのものが警戒される。
まずは、会社の動きを見極める。
そして、決定的な情報をつかむ。
「真田家……。あなたたちは、一体何を抱えているの?」
しおりの視線の先で、真田ウェルネスの看板が夕日に照らされていた。
その背後には、彼女がまだ知らない、さらに大きな闇が広がっていた。
翌日の正午。
都心の空は、雲一つない青空だった。
昼休みを迎えた人々が街へ繰り出し、飲食店には会社員が列を作っていた。
駅前の広場では、学生たちがスマートフォンを見ながら談笑している。
誰もが、いつもと変わらない日常を過ごしていた。
しかし、その平穏は突然破られた。
空の一角が、音もなく歪んだ。
最初に異変に気づいたのは、広場のベンチに座っていた男性だった。
「……何だ、あれ?」
彼が空を指さす。
青空の中に、黒い円形の亀裂が広がっていた。
その中心で、赤い光が明滅する。
次の瞬間。
空間が裂けた。
轟音が街を揺らし、上空から巨大な影が降り立った。
全身を黒い装甲に覆われた怪獣。
胸部には、赤く光る発光器官。
長い腕と、鋭い爪。
その姿を見た人々の顔から、血の気が引いていった。
「怪獣だ!」
「逃げろ!」
悲鳴が広場を包み込む。
現れたのは、宇宙恐竜ゼットンだった。
しかし、それだけではなかった。
ゼットンの背後から、さらに二つの影が出現する。
一体は、通常のゼットンを大きく上回る戦闘能力を持つEXゼットン。
もう一体は、異様なまでに発達した身体と、禍々しいエネルギーをまとったハイパーゼットンだった。
それぞれが異なる咆哮を上げ、街を見下ろす。
そして、三体の怪獣の背後に、黒い光が集まった。
その光の中から、一人の男が姿を現す。
魔導のスライ。
人間の姿を取っていた彼は、周囲の建物を見下ろしながら、ゆっくりと手を掲げた。
「さて、地球の戦士たちよ。お前たちは、どこまでこの星を守れるかな?」
彼の指先に、黒い結晶が浮かび上がった。
結晶から放たれた光が、三体のゼットンを包み込む。
通常のゼットンの身体に、異様なエネルギーが流れ込む。
EXゼットンの装甲が赤黒く輝き、ハイパーゼットンの輪郭が揺らめいた。
「ベリアル陛下の復活を祝う、ささやかな余興だ」
スライは笑った。
「もっとも、余興で終わるとは限らぬがな」
ゼットンたちは、一斉に攻撃を開始した。
通常のゼットンが両腕を広げ、火球を放つ。
火球は道路をえぐり、駐車していた車両を吹き飛ばした。
EXゼットンは両腕から強力なエネルギー弾を連射し、周囲のビルの外壁を破壊する。
ハイパーゼットンは瞬間移動を繰り返し、逃げ遅れた人々の前に姿を現しては、建物を破壊していった。
街は、瞬く間に混乱へと陥った。
消防車のサイレン。
避難を呼びかける警察官の声。
崩れ落ちる建物から立ち上る粉塵。
人々は、目の前で起きていることを理解する間もなく、必死に逃げ惑った。
SNSには、怪獣の映像が次々と投稿される。
『都心にゼットン出現!』
『三体いる! しかも一体は、前に出た怪獣より明らかに強い!』
『ウルトラマン、早く来てくれ!』
投稿された動画は、瞬く間に世界中へ拡散された。
そして、映像を見た人々は、あることに気づき始めていた。
今回の怪獣は、これまでの出現とは何かが違う。
単に強いだけではない。
連携している。
こちらの反撃を予測するかのように、攻撃の順番を変えている。
まるで、明確な指揮官の下で動いているかのようだった。
その頃、学校では、優が窓の外を見つめていた。
最初に聞こえたのは、遠くから響く轟音だった。
次に、校内放送が鳴った。
『生徒の皆さんに連絡します。現在、校外で大規模な災害が発生している可能性があります。先生の指示に従い、落ち着いて行動してください』
教室がざわめく。
「また怪獣か?」
「嘘だろ……」
「スマホ見てみろよ! ゼットンが出たって!」
生徒たちは、一斉にスマートフォンを取り出した。
画面には、黒い巨体が街を破壊する映像が流れていた。
優は、映像を見つめたまま、拳を握り締めた。
『優』
ゼロの声が響いた。
『分かってる』
優は、心の中で答えた。
『あいつら……今までの怪獣とは違う』
『ああ。しかも、ただ召喚されただけじゃねえ。何者かがエネルギーを送り込み、戦闘能力を引き上げている』
ゼロの声には、明らかな警戒がにじんでいた。
『この戦い方は、偶然じゃない。俺たちの動きを分析した上で、対策を組み立てている可能性がある』
『ということは……』
『ダークネスファイブだ』
優は、息をのんだ。
ベリアルの復活。
如月の暗躍。
そして、地球社会の内部へ潜入したダークネスファイブ。
ゼットン軍団の出現は、その計画が新たな段階へ進んだことを意味していた。
『今までとは違う相手だ。油断するな、優』
『分かってる』
優は立ち上がった。
美咲が、その様子に気づいた。
「優……」
彼女は、何も尋ねなかった。
ただ、優の目を見て、静かにうなずいた。
「行って」
その一言に、優は短く答えた。
「ありがとう、美咲」
優は教室を出ると、校舎の陰へ向かった。
誰もいないことを確認し、ウルトラゼロアイを手に取る。
その瞬間、優の意識にゼロの意志が重なった。
「行くぜ、優!」
「うん!」
ウルトラゼロアイが展開する。
光が優の身体を包み込み、青い閃光が校舎の陰から空へと駆け上がった。
その光は、街を覆う黒い影へ向かって一直線に飛んでいった。
街の中心部。
ゼットンの火球が道路に着弾し、爆発が起きた。
その爆煙を切り裂き、青い巨人が姿を現した。
ウルトラマンゼロ。
彼は着地と同時に、周囲の状況を確認した。
倒壊した建物。
避難する人々。
燃え上がる車両。
そして、三体のゼットン。
「おいおい……いきなり大盤振る舞いじゃねえか」
ゼロは拳を握り締めた。
「三体まとめて相手にしろってか?」
ゼットンたちが、一斉にゼロへ向き直る。
通常のゼットンが、低い唸り声を上げた。
ゼロは両腕を構えた。
「来いよ。まとめて相手してやる!」
通常のゼットンが、火球を放つ。
ゼロは横へ飛び、攻撃を回避した。
そのまま空中で身体をひねり、ゼロスラッガーを投擲する。
二枚のスラッガーが高速回転しながら飛び、ゼットンの肩口を切り裂いた。
だが、ゼットンは倒れなかった。
傷口から黒い光があふれ、損傷した装甲が急速に再生していく。
「何っ?」
ゼロが驚いた瞬間、EXゼットンが背後から襲いかかった。
強烈な体当たり。
ゼロは吹き飛ばされ、ビルの壁面へ叩きつけられた。
建物が大きく揺れ、外壁の一部が崩れ落ちる。
「ぐっ……!」
ゼロはすぐに立ち上がった。
しかし、体勢を整える前に、ハイパーゼットンが目の前から姿を消した。
「どこだ!」
次の瞬間、背後に現れたハイパーゼットンが、ゼロの背中へ強烈な一撃を叩き込んだ。
ゼロは地面に転がり、道路を数十メートル滑った。
三体が同時に攻撃を仕掛けてくる。
ゼロが通常のゼットンへ反撃しようとすれば、EXゼットンがその隙を突く。
EXゼットンへ向き直れば、ハイパーゼットンが瞬間移動で死角へ回り込む。
一体を引き離そうとすれば、残る二体が避難区域へ向けて攻撃を放つ。
ゼロは、怪獣を倒すことだけに集中できなかった。
市民を守る。
建物の倒壊を防ぐ。
避難経路を確保する。
そして、三体の攻撃をかわす。
そのすべてを同時にこなさなければならなかった。
「くそっ……!」
ゼロは両腕を交差させ、飛来するエネルギー弾を受け止めた。
しかし、EXゼットンの攻撃は想像以上に強力だった。
光の衝撃がゼロの身体を貫き、彼は膝をついた。
カラータイマーが、青い光を弱め始める。
『優、無理をするな!』
「でも、あいつらを止めなきゃ……!」
『分かってる! だが、今のままじゃ押し切られるぞ!』
ゼロの言葉どおり、戦況は明らかに不利だった。
通常のゼットンでさえ、以前よりもはるかに強い。
EXゼットンは防御力と火力を兼ね備え、ハイパーゼットンは瞬間移動を織り交ぜた攻撃で、ゼロの反撃を許さない。
そして、三体の攻撃には、統率された意志が感じられた。
まるで、ゼロの行動を見透かしているかのように。
ゼロは、遠くに見える高層ビルの屋上へ目を向けた。
そこには、スライの人間体が立っていた。
彼は戦闘を見下ろし、静かに笑っていた。
「なるほど……」
ゼロは、歯を食いしばった。
「てめえが、こいつらを操っているのか!」
スライは答えなかった。
ただ、手にした黒い結晶を掲げた。
結晶から放たれた光が、三体のゼットンへ流れ込む。
怪獣たちの身体が、さらに強く輝いた。
「これまでの戦いを参考にさせてもらったぞ、ゼロ」
スライは、聞こえるはずのない距離から、あざ笑うようにつぶやいた。
「お前は、守るべきものが多すぎる。だからこそ、その優しさが弱点になる」
ゼロは立ち上がろうとした。
しかし、三体が同時に動いた。
通常のゼットンが正面から迫る。
EXゼットンが上空からエネルギー弾を放つ。
ハイパーゼットンが背後へ瞬間移動する。
ゼロは、なすすべもなく三方向からの攻撃を受けた。
爆発が起こり、青い巨体が粉塵の中へ沈んだ。
カラータイマーが、赤く点滅し始める。
その光を見た人々から、悲鳴が上がった。
「ウルトラマンが……!」
「負けるな! 頑張れ!」
避難所へ向かう人々が、振り返って空を見上げていた。
誰もが、ゼロの戦いを見守っていた。
しかし、ゼロの身体は限界に近づいていた。
『くそっ……。このままじゃ……』
優は、ゼロの意識の中で歯を食いしばった。
怪獣を倒さなければならない。
だが、力が足りない。
ベリアルの復活によって、地球を取り巻く状況は確実に変わっていた。
今までのように、ゼロ一人の力で解決できる戦いばかりではない。
その現実が、目の前に突きつけられていた。
その時だった。
『ゼロ!』
聞き覚えのある声が、空から響いた。
ゼロが顔を上げる。
次の瞬間、巨大な鏡のような光が戦場へ差し込んだ。
光の中から、一人の巨人が姿を現した。
銀色の身体に、青い光をまとった戦士。
ミラーナイトだった。
「まったく……。相変わらず、無茶をするね、ゼロ」
ミラーナイトはゼロの前に立つと、右腕を掲げた。
その腕から放たれた鏡の光が、EXゼットンの攻撃を反射する。
続いて、炎のような赤い光が上空から飛び込んできた。
「おーい、ゼロ! 助けに来たぜ!」
グレンファイヤーだった。
彼は勢いよく着地すると、拳を鳴らした。
「三体相手に苦戦してるなんて、らしくねえじゃねえか!」
「うるせえ! 遅えんだよ、お前ら!」
ゼロは、苦しげながらも笑った。
「待たせたな、ゼロ」
宇宙から、重厚な機械音声が響く。
巨大な宇宙船が変形し、戦士の姿を取った。
ジャンボット。
そして、その隣には、ジャンナインが降り立った。
「戦闘支援を開始します」
ジャンナインが冷静に告げる。
「ゼロ、あなたのエネルギー状態は危険域にあります。これ以上の単独戦闘は推奨できません」
「分かってるっての!」
ゼロは、ゆっくりと立ち上がった。
「けど、来てくれて助かったぜ……みんな!」
ウルティメイトフォースゼロ。
かつて、別の宇宙でカイザーベリアルと戦い、宇宙を救った仲間たちが、再びゼロのもとへ集結したのである。
ミラーナイトがゼロの隣に立つ。
グレンファイヤーが拳を構える。
ジャンボットとジャンナインが、それぞれの武器を展開した。
「さて……」
グレンファイヤーは、三体のゼットンを見据えた。
「どいつからぶっ飛ばしてやろうか?」
「相手は三体だ。油断するな」
ミラーナイトが冷静に答えた。
「分かってるって。だからこそ、面白いんじゃねえか!」
グレンファイヤーが笑った。
ジャンボットは、戦場全体を分析していた。
「敵の攻撃パターンを確認。通常のゼットンは火球による中距離攻撃、EXゼットンは高出力のエネルギー弾と装甲防御、ハイパーゼットンは瞬間移動を主体とした奇襲を行っています」
ジャンナインが続ける。
「三体は相互に連携しており、単独での撃破は困難と推定されます」
「つまり、連携を崩せばいいんだな?」
ゼロが尋ねた。
「そのとおりです」
ジャンボットが答えた。
ゼロは、仲間たちを見渡した。
胸の奥に、力が戻ってくるような感覚があった。
一人ではない。
自分には、共に戦う仲間がいる。
その事実が、再び立ち上がる力を与えてくれた。
「よし……行くぜ!」
ゼロが叫んだ。
「ウルティメイトフォースゼロ、反撃開始だ!」
最初に動いたのは、ミラーナイトだった。
彼は腕を広げ、周囲に鏡のような光の障壁を展開した。
「ゼロ、君はエネルギーを温存してくれ。まずは敵の連携を崩す」
「分かった。頼むぜ、ミラーナイト!」
ミラーナイトが前方へ飛び出した。
通常のゼットンが火球を放つ。
だが、ミラーナイトは鏡の障壁を傾け、火球の軌道を変えた。
攻撃はそのまま上空へ逸れ、無人の空域で爆発する。
続けて、ミラーナイトは鏡の光を複数展開した。
ゼットンが次の攻撃を放つと、光はその一部を反射し、怪獣自身の足元へと叩き返した。
爆発によってゼットンの体勢が崩れる。
「今だ!」
ゼロが叫んだ。
グレンファイヤーが炎をまとい、猛然と突進した。
「おらあああっ!」
燃え盛る拳がゼットンの腹部へ叩き込まれる。
続けて回し蹴りを放ち、巨体を後方へ吹き飛ばした。
通常のゼットンは道路に倒れ込み、建物の外壁を巻き込んで地面を滑った。
だが、EXゼットンがすぐさま反撃した。
両腕から放たれた高出力のエネルギー弾が、グレンファイヤーを襲う。
「うおっ、危ねえ!」
グレンファイヤーは横へ飛び、攻撃を回避した。
しかし、EXゼットンの狙いはグレンファイヤーだけではなかった。
攻撃の軌道が途中で分かれ、避難区域の方向へ伸びていく。
「しまった!」
ゼロが飛び出そうとした瞬間、ジャンボットが前に出た。
「させません!」
ジャンボットは腕部の防御機構を展開し、エネルギー弾を正面から受け止めた。
激しい火花が散る。
機体に衝撃が走ったが、ジャンボットは一歩も退かなかった。
「ジャンボット!」
「ゼロ、あなたは敵の撃破に集中してください。市民の安全確保は、私たちが引き受けます」
その言葉に、ゼロは力強くうなずいた。
「……ああ! 任せたぜ!」
ジャンナインも動いていた。
彼は戦場の外縁を高速移動し、ハイパーゼットンの瞬間移動に対抗するため、周囲のエネルギー反応を逐次解析していた。
「対象の空間転移には、短時間ながらエネルギーの集中が発生しています。転移直前の反応を捕捉すれば、出現位置を予測できます」
「やれるのか?」
ゼロが尋ねた。
「可能です。ゼロ、私の指示に従ってください」
ジャンナインの目が光った。
「ハイパーゼットン、転移反応を検知。出現予測位置、ゼロの右後方!」
「そこか!」
ゼロは振り返ると同時に身体をひねった。
ハイパーゼットンが姿を現す。
その瞬間、ゼロの拳が怪獣の顔面を捉えた。
強烈な一撃が炸裂し、ハイパーゼットンは空中へ吹き飛ばされた。
「へっ! 見え見えなんだよ!」
ゼロは着地し、再び構えを取った。
しかし、ハイパーゼットンはすぐに体勢を立て直した。
瞬間移動を繰り返しながら、複数の方向からゼロへ攻撃を仕掛ける。
ゼロはそのすべてに対応しようとしたが、エネルギーの消耗が激しい。
カラータイマーの赤い点滅は、まだ止まっていなかった。
『優、焦るな。相手の動きを見ろ!』
「分かってる!」
優は、ゼロの意識の中で必死に戦況を分析した。
相手は強い。
しかも、こちらの動きを読んでいる。
だが、敵の動きには必ず規則性がある。
ゼロがそう考えた時、ミラーナイトの声が響いた。
「ゼロ! 敵の連携は、エネルギーの供給源によって維持されているようだ!」
ミラーナイトは、遠くのビルの屋上を見つめていた。
そこには、黒い結晶を手にしたスライの姿がある。
「怪獣たちのエネルギー反応が、あの結晶と連動している。結晶からの供給が弱まれば、連携にも乱れが生じるはずだ!」
「なるほどな……!」
ゼロはスライを見据えた。
「つまり、あいつが司令塔ってわけか!」
その瞬間、スライは黒い結晶を強く握り締めた。
「余計なことに気づいたようだな」
結晶から、これまで以上に強い光が放たれる。
ゼットンたちの身体が、再び黒い光に包まれた。
「ならば、ここでまとめて葬ってくれる!」
三体が一斉に攻撃態勢へ入った。
通常のゼットンが火球を連射する。
EXゼットンが巨大なエネルギー弾を生成する。
ハイパーゼットンが空間転移を開始する。
それぞれの攻撃が、ウルティメイトフォースゼロへ向かって放たれた。
「全員、回避!」
ジャンボットが叫んだ。
ミラーナイトは鏡の障壁を展開し、グレンファイヤーは炎をまとって攻撃をかいくぐる。
ジャンボットは防御機構を展開し、ジャンナインは高速移動で射線から離脱した。
だが、敵の攻撃は止まらない。
EXゼットンのエネルギー弾が地面に着弾し、巨大な爆発が起きた。
爆風が街を揺らす。
ゼロは腕を交差させて爆風を受け止めたが、再び膝をついた。
カラータイマーが激しく点滅する。
「くっ……!」
優の意識が揺らいだ。
ゼロの身体を維持するエネルギーが、限界に近づいていた。
それでも、彼は立ち上がろうとした。
街を守るため。
逃げ遅れた人々を守るため。
そして、ここで倒れるわけにはいかないから。
その時、グレンファイヤーがゼロの前へ出た。
「おい、ゼロ!」
「何だよ……!」
「一人で背負い込むな!」
グレンファイヤーは、振り返らずに言った。
「お前が守ろうとしているものは、俺たちだって守りたいんだ! 仲間ってのは、そういうもんだろうが!」
ミラーナイトも、静かにうなずいた。
「君が一人で戦い続ける必要はない。私たちがいる」
ジャンボットが続ける。
「戦闘状況を再分析しました。敵の攻撃は強力ですが、三体のエネルギー供給には共通の周期が存在します」
ジャンナインが、解析結果を共有した。
「攻撃の直後、三体のエネルギー反応が一瞬だけ低下します。その時間を利用すれば、同時に攻撃を加えることが可能です」
ゼロは、ゆっくりと顔を上げた。
仲間たちの姿が、目に映る。
かつて、別の宇宙で共に戦った仲間たち。
自分が苦しい時、何度も手を差し伸べてくれた仲間たち。
その存在が、今も変わらずここにある。
「……そうだったな」
ゼロは立ち上がった。
「一人で戦う必要なんて、ねえんだ」
彼は拳を握り締めた。
「みんな! 俺に力を貸してくれ!」
「もちろんだ!」
グレンファイヤーが叫ぶ。
「喜んで!」
ミラーナイトが答える。
「戦闘支援、最大出力!」
ジャンボットが告げる。
「敵の攻撃周期を共有します。全員、タイミングを合わせてください!」
ジャンナインが続けた。
四人の仲間たちが、それぞれの位置についた。
ゼロは中央で構える。
ミラーナイトが鏡の障壁を展開し、敵の攻撃経路を制限する。
グレンファイヤーが通常のゼットンを引きつける。
ジャンボットがEXゼットンの射線を遮り、ジャンナインがハイパーゼットンの転移位置を予測する。
それぞれが、自分にできることを全力で行う。
そして、三体のゼットンが一斉に攻撃を放った。
「今だ!」
ジャンナインの声が響いた。
ミラーナイトが鏡の障壁を一斉に傾け、通常のゼットンの火球を反射させる。
グレンファイヤーは炎をまとい、ゼットンの懐へ飛び込んだ。
「ファイヤー・ダッシュ!」
炎の一撃が怪獣を捉える。
通常のゼットンは体勢を崩し、攻撃を中断した。
同時に、ジャンボットがEXゼットンのエネルギー弾を受け流した。
ジャンナインは、転移直後のハイパーゼットンへ攻撃を仕掛け、その動きを封じる。
三体の連携が、一瞬だけ途切れた。
「今だ、ゼロ!」
ミラーナイトが叫ぶ。
ゼロは、残された力を両腕に集中させた。
青い光が全身を包み込む。
「みんな、ありがとう!」
ゼロは空中へ飛び上がった。
「ここで決めるぜ!」
彼の身体が、まばゆい光を放つ。
その光は、かつて幾多の戦いを共にした仲間たちとの絆を象徴するかのように、強く輝いていた。
「ファイナル……!」
ゼロは、両腕を大きく広げた。
「ウルティメイトゼロォォォッ!」
次の瞬間、巨大な光の奔流が放たれた。
光は三体のゼットンを包み込み、逃げ道を塞ぐように広がっていく。
通常のゼットンが、最後の抵抗として火球を放った。
しかし、光はその攻撃を飲み込み、怪獣の身体を包み込んだ。
EXゼットンは強力な防御障壁を展開したが、光の圧力に耐えきれず、障壁が砕け散った。
ハイパーゼットンは瞬間移動で逃れようとした。
だが、ジャンナインがその転移を妨害し、ミラーナイトが鏡の障壁で逃走経路を封じていた。
三体は、光の奔流の中心へと飲み込まれた。
そして――。
大爆発が起きた。
まばゆい光が街を照らし、黒い煙が空へと立ち上る。
爆発の中心から、怪獣たちの姿が消えていった。
通常のゼットン。
EXゼットン。
ハイパーゼットン。
三体の怪獣は、ファイナルウルティメイトゼロによって撃破された。
街に、静寂が戻った。
やがて、避難していた人々の間から、歓声が上がった。
「ウルトラマンが勝った!」
「ありがとう!」
「助かった……!」
人々は、空を見上げながら、ゼロと仲間たちに感謝の声を上げた。
ゼロは、ゆっくりと着地した。
カラータイマーは、まだ赤く点滅している。
しかし、その身体は確かに立っていた。
彼は仲間たちを振り返った。
「みんな……本当に、ありがとう」
その言葉に、グレンファイヤーが豪快に笑った。
「何言ってんだよ! 仲間を助けるのは当たり前だろ!」
「そうだね。君が困っている時に駆けつけることができて、私たちも嬉しいよ」
ミラーナイトが微笑んだ。
「ゼロ、あなたが一人で戦い続ける必要はありません。今後も必要に応じて、連携を取ることを推奨します」
ジャンナインの言葉に、ゼロは苦笑した。
「お前は相変わらず堅いなあ」
「合理的な判断です」
「はいはい、分かったよ」
ジャンボットが、静かに戦場を見渡した。
「まだ救助を必要としている人々がいます。私たちも、可能な範囲で支援を行いましょう」
「ああ、そうだな」
ゼロはうなずいた。
怪獣を倒したからといって、すべてが終わったわけではない。
破壊された建物。
負傷した人々。
避難を続ける市民。
彼らが日常を取り戻すまで、戦士たちにできることは残されていた。
四人は、それぞれの方法で救助活動を支援した。
ミラーナイトは鏡の力を使い、崩落しかけた建物の破片を安全な場所へ誘導する。
グレンファイヤーは、炎の力を制御しながら、火災が広がらないように消火活動を補助した。
ジャンボットは、重い瓦礫を持ち上げ、消防隊が救助活動を行えるように道を開いた。
ジャンナインは、周囲の状況を分析し、救助隊に必要な情報を提供した。
ゼロもまた、最後まで人々の避難を見届けた。
そして、ようやく戦闘が終わったことを確認すると、彼は仲間たちとともに街を離れた。
戦いの痕跡が残る街の上空には、再び青空が広がり始めていた。
しかし、その空の向こうでは、次なる脅威が静かに動き始めていた。
人目につかない郊外の空き地。
ゼロは、仲間たちとともに着地した。
周囲に人影がないことを確認すると、彼の身体を包んでいた光がゆっくりと消えていく。
そこに立っていたのは、真田優だった。
「……はあ」
優は、大きく息を吐いた。
戦いの緊張が解けた途端、全身に疲労が押し寄せてくる。
「さすがに、今回はきつかったな……」
優がつぶやくと、すぐそばに光が集まった。
ミラーナイト、グレンファイヤー、ジャンボット、ジャンナインも、それぞれ人間の姿や小型ロボットの姿へと変わり、優の前に並んだ。
優は、仲間たちの顔を見渡した。
懐かしさと、感謝の気持ちが込み上げてくる。
「みんな……本当にありがとう。来てくれなかったら、どうなっていたか分からない」
「水くせえこと言うなって!」
グレンファイヤーが優の肩を叩いた。
「お前がピンチなら、俺たちが助けに来る。それだけの話だ!」
「そうだね」
ミラーナイトも、穏やかな表情でうなずいた。
「君がどの宇宙にいようと、私たちは君の仲間だ。そのことに変わりはないよ」
優は、思わず笑みを浮かべた。
「……ありがとう」
その時、ジャンボットが一歩前へ出た。
「ゼロ、報告があります」
「何だ?」
「私たちが拠点としている宇宙でも、新たな異変が発生しています」
優の表情が変わった。
「カイザーベリアルが倒れた、あの宇宙か?」
「はい」
ジャンボットは、慎重に言葉を選んだ。
「惑星エスメラルダ周辺を含む複数の宙域で、怪獣の出現が確認されています。さらに、各地で不審なエネルギー反応が観測されており、原因の調査が必要です」
「まさか、ベリアルの復活と関係があるのか?」
「現時点では断定できません。ただし、無関係と判断することもできません」
優は、うつむいた。
地球を守らなければならない。
しかし、かつて共に戦った仲間たちも、別の宇宙で危機に直面している。
彼らが再び離れなければならない理由は、理解できた。
「……そっか」
優は、ゆっくりと顔を上げた。
「みんなも、大変なんだな」
「ゼロ」
ミラーナイトが優を見つめた。
「君の状況も、決して楽ではないことは分かっている。だからこそ、私たちも本当は、もう少しここに残りたい」
「でも、そういうわけにはいかないんだろ?」
優が尋ねると、グレンファイヤーは苦笑した。
「まあな。俺たちが守らなきゃならない場所もある。誰かに任せきりにするわけにはいかねえ」
「分かってるよ」
優はうなずいた。
「俺だって、同じだから」
彼は空を見上げた。
ベリアルが復活した。
ダークネスファイブが地球に潜入している。
如月も、伏井出ケイと連携して動いている。
今後、どれほどの戦いが待ち受けているのか分からない。
それでも、優には守りたいものがあった。
梨央。
家族。
美咲やクラスメイトたち。
そして、この地球で暮らす人々。
自分がこの星にいる意味を、優は少しずつ理解し始めていた。
「みんなは、自分たちの宇宙を守ってくれ。こっちは、俺が何とかする」
「一人で抱え込むなよ」
グレンファイヤーが言った。
「危なくなったら、必ず誰かを頼れ。俺たちがいなくても、他の戦士たちが来てくれるはずだ」
「そうだな」
優は笑った。
「次に会う時は、もっと余裕のある状態で会いたいもんだ」
「それは、こちらの台詞だよ」
ミラーナイトが微笑んだ。
ジャンボットは、少しだけ声を和らげた。
「惑星エスメラルダの第二王女、エメラナ殿下にも、あなたの近況をお伝えしておきます」
「エメラナにも?」
「ああ。炎の海賊たちにもな!」
グレンファイヤーが胸を張った。
「鏡の星の住人たちにも、ゼロが元気にやってるって伝えておくよ」
ミラーナイトも続けた。
「皆、君のことを気にかけているはずだ。安心してほしい」
ゼロは、胸が熱くなるのを感じた。
自分が地球に来てから、まだそれほど時間は経っていない。
それでも、宇宙のどこかには、自分のことを気にかけてくれる仲間たちがいる。
そのことが、何よりも心強かった。
「……ありがとう、みんな」
優は深く頭を下げた。
「エメラナにも、みんなにも、よろしく伝えてくれ」
「任せとけ!」
グレンファイヤーが笑った。
ジャンボットとジャンナインが、それぞれ出発の準備を整える。
ミラーナイトは、最後に優へ向き直った。
「ゼロ。君が守ろうとしているものを、私たちも忘れない。どうか、無理だけはしないでくれ」
「ああ。約束する」
優は、力強くうなずいた。
四人は、光をまといながら空へと舞い上がった。
グレンファイヤーが最後に振り返り、大きく手を振った。
「またな、ゼロ!」
「おう! 次は俺が助けに行く番だな!」
優も手を振り返した。
四つの光は、やがて空の彼方へ消えていった。
優は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
再会の喜びと、別れの寂しさ。
そして、これから自分が背負うことになる戦いへの覚悟。
それらが胸の中で交錯していた。
『優』
ゼロの声が響いた。
『寂しいか?』
「……少しだけな」
優は、正直に答えた。
『けど、みんなが守らなきゃいけない場所があるのは、俺も同じだ。俺たちも、この地球を守らなきゃな』
『ああ。そのとおりだ』
ゼロの声は、いつもより穏やかだった。
『だが、忘れるな。お前は一人じゃない。俺がいる。そして、お前を信じてくれる人間たちもいる』
「……そうだな」
優は、小さく笑った。
その時だった。
「感動的な再会だったわね」
背後から、女性の声が響いた。
優は、すぐに振り返った。
そこに立っていたのは、黒いコートを着た女性。
橘しおりだった。
しおりは、少し離れた場所から優を見つめていた。
手にはカメラ。
首から下げたバッグには、取材用の機材が入っている。
彼女の顔には、興奮と緊張が入り交じっていた。
「……橘さん」
優は、警戒しながら名前を口にした。
「覚えていてくれたのね。昨日は、ずいぶん逃げ足が速かったじゃない」
「どうして、ここに?」
「取材よ。ジャーナリストだからね」
しおりは、悪びれる様子もなく答えた。
「昨日は、あなたに話を聞けなかった。だから、今日は改めて来たの」
「僕に、何の話を聞きたいんですか?」
「決まっているでしょう」
しおりは、カメラを持ち上げた。
「あなたの正体についてよ」
優の表情が、わずかに硬くなった。
「あなたがウルトラマンゼロであること。さっきまで一緒にいた四人が、別のウルトラマンや、その仲間たちだったこと。そして、彼らがあなたを中心に動いていること」
しおりは、言葉を続けた。
「私は、あなたが変身するところをまだ直接見ていない。でも、昨日撮影した写真と、今日の状況を合わせれば、かなりのことが分かる」
「……それを記事にするつもりですか?」
「もちろん」
しおりは、迷いなく答えた。
「真田家に関する記事を取材していたら、とんでもない事実に行き当たった。あなたがウルトラマンゼロなら、真田ウェルネスと怪獣の関係についても、何か知っているかもしれない」
「待ってください」
優は、思わず声を強めた。
「僕がゼロであることと、姉の会社は関係ありません。創薬事業についても、根拠のない情報を広めないでください」
「関係がないかどうかは、調べてみなければ分からないでしょう?」
しおりは、一歩近づいた。
「あなたがウルトラマンであることを隠している理由は何? どうして真田家の人間が、宇宙から来た戦士と関わっているの? あなたの力は、どこから来ているの?」
「それは……」
優は言葉に詰まった。
すべてを説明するわけにはいかない。
ゼロの存在を公表すれば、地球を守るための活動にも影響が出る。
ベリアルやダークネスファイブが、優の正体を利用しようとする可能性もある。
そして何より、家族や友人たちが危険にさらされる。
「答えられない、ということね」
しおりは、優の反応を見て、カメラを構えた。
「それなら、私が見たことを記事にするだけよ。あなたが何者なのか、世間の人たちにも知ってもらうわ」
「やめてください!」
優は、一歩前に出た。
「僕のことを記事にするのは、構いません。でも、姉や美咲たちを巻き込まないでください」
「それは、記事の内容次第ね」
しおりは、冷静に答えた。
「私は、事実を報道するだけ。読者が何を考えるかまでは、私には決められない」
「事実を報道するなら、事実を確かめてください。僕の正体を勝手に決めつけたり、関係のない人まで疑ったりするのは、違うと思います」
しおりの表情が、一瞬だけ揺らいだ。
しかし、すぐに元へ戻った。
「……あなた、ずいぶん大人びたことを言うのね」
「そういう問題じゃありません」
優は、真っすぐにしおりを見つめた。
「僕は、みんなを守りたいだけです」
その言葉に、しおりは何も答えなかった。
彼女は、カメラを下ろした。
「いいわ。今日のところは、ここまでにしておく」
しおりは、バッグから名刺を取り出した。
「でも、取材は続けるわ。あなたが何を隠していようと、私は真実を知りたいの」
彼女が名刺を差し出そうとした、その時だった。
「優!」
聞き覚えのある声が響いた。
優が振り返る。
そこには、宮崎大輝が立っていた。
その隣には、真田梨央と加瀬賢一郎の姿もあった。
「大ちゃん……。姉ちゃんまで」
梨央は、優の顔を確認すると、ほっとしたように息を吐いた。
「優、無事なのね?」
「うん。大丈夫だよ、姉ちゃん」
梨央は、すぐにしおりへ視線を向けた。
「あなたが、橘しおりさんですね」
「はい。そうですが」
「弟に、これ以上近づかないでください」
梨央の声は、静かだった。
しかし、その言葉には強い意志が込められていた。
「優は高校生です。あなたが何を取材したいのかは知りませんが、本人の意思を無視して追い回すようなことはやめてください」
「私は、ジャーナリストとして取材をしているだけです」
「取材そのものを否定しているわけではありません」
梨央は、しおりを見据えた。
「ですが、弟を尾行し、恐怖を感じさせるような方法で接触することは、正当な取材という言葉だけで済ませられることではありません」
しおりは、口を開きかけた。
だが、加瀬が一歩前へ出た。
「橘さん。私は、真田ウェルネス法務部の加瀬です」
「……存じています」
「優君に関する取材については、すでに宮崎さんから話を聞いています。本人が尾行されたと感じ、実際に追跡を振り切るために走って逃げた。その経緯も確認しています」
加瀬は、冷静に言葉を続けた。
「取材活動には、当然ながら法的な限界があります。記事の内容によっては、プライバシーの侵害や名誉毀損などが問題になる可能性もあります。特に、事実確認が不十分な情報を掲載した場合には、重大な責任が生じることがあります」
「脅しているんですか?」
しおりの声が鋭くなった。
「いいえ。法的なリスクについて説明しているだけです」
加瀬は、表情を変えなかった。
「あなたが、優君の正体について何らかの情報を得たとしても、それを記事にすることが、直ちに正当化されるわけではありません。誰のどのような情報を、どのような目的で公表するのか。その必要性と影響を、慎重に検討する必要があります」
「でも、彼はウルトラマンなんですよ!」
しおりは、思わず声を上げた。
「世界中の人々が知りたがっていることです。怪獣と戦う存在が、実は普通の高校生だった。しかも、真田家の人間だった。これほど大きなニュースはありません!」
「だからといって、何をしてもいいわけではありません」
加瀬の声は、わずかに低くなった。
「優君は、あなたの所有物ではありません。記事の材料でもありません。一人の人間です」
その言葉に、しおりは一瞬だけ黙った。
大輝が、静かに口を開いた。
「橘さん。取材をすること自体を、俺たちが止めるつもりはありません。ただし、優に対して不必要な接触を繰り返したり、周囲の人間まで巻き込んだりすることはやめてください」
「警察まで、私の取材を妨害するつもりですか?」
「違います」
大輝は、はっきりと答えた。
「警察として確認するのは、具体的な行為と、その結果です。取材だからという理由だけで、何をしても許されるわけではありません。一方で、気に入らない記事だからという理由だけで、取材を犯罪扱いするつもりもありません」
彼は、しおりを見据えた。
「だからこそ、事実に基づいて行動してください」
しおりは、三人の顔を見渡した。
梨央は、弟を守ろうとしている。
加瀬は、法的な問題を指摘している。
大輝は、警察として冷静に対応しようとしている。
誰も、彼女を無理やり排除しようとはしていなかった。
それが、かえってしおりを苛立たせた。
彼女は、自分が追い詰められているように感じていた。
「……分かりました」
しおりは、名刺をバッグにしまった。
「今日のところは、帰ります」
そう言ってから、彼女は優を見た。
「でも、あなたが何者なのかという問題は、これで終わりじゃない。あなたがどれだけ隠そうとしても、いずれ世間は知ることになるかもしれないわ」
優は、何も答えなかった。
しおりは、さらに加瀬へ視線を向けた。
「加瀬さん。あなたも、ずいぶん強気ですね。記事を出せば、出版社ごと潰すとでも言いたいんですか?」
加瀬は、静かに答えた。
「記事の内容が事実に基づくものであれば、私たちはそれを尊重します。しかし、虚偽の情報や、根拠のない憶測によって人を傷つける記事が掲載された場合は、必要な法的措置を検討します」
「……なるほど」
しおりは、冷笑した。
「結局、真田家に都合の悪いことは書かせないというわけね」
「そうは言っていません」
「同じことよ」
しおりは、踵を返した。
「覚えておきなさい。私は、必ず記事にする。あなたたちが何を隠していようと、私は真実を追いかけるわ」
そう言い残し、彼女は歩き去っていった。
その背中を、三人は黙って見送った。
しばらくして、優が口を開いた。
「……ごめん、姉ちゃん。僕のせいで」
「優」
梨央は、弟の言葉を遮った。
「あなたが謝る必要はないわ」
「でも……」
「あなたが誰かを守ろうとしていることを、私は知っている。だからこそ、自分を責めないで」
梨央は、優の肩に手を置いた。
「ただし、これからは一人で抱え込まないで。何かあったら、必ず相談して」
優は、ゆっくりとうなずいた。
「……うん」
加瀬も、穏やかな口調で続けた。
「優君。今回の件については、こちらでも記録を整理しておきます。今後、同じようなことが起きた場合は、無理に相手を振り切ろうとせず、安全な場所へ移動してください」
「分かりました」
「それから、あなたの秘密を守ることと、必要な情報を誰にも伝えないことは同じではありません。危険が迫っている時は、信頼できる人に相談することも大切です」
優は、少しだけ笑った。
「ありがとうございます、加瀬さん」
大輝は、優の頭を軽くたたいた。
「まったく……。お前は本当に、いろいろなことに巻き込まれるな」
「自分でも、そう思います」
「だったら、少しは自分の身も守れよ」
「はい」
優は、素直にうなずいた。
しかし、彼の胸の奥には、まだ不安が残っていた。
橘しおりが、どこまで真実に近づいているのか。
そして、彼女が手に入れた情報を、誰が利用しようとしているのか。
それは、まだ分からなかった。
地球のどこか。
地下深くに造られた、巨大な施設。
外部からの通信は遮断され、周囲には特殊なエネルギー障壁が張り巡らされていた。
施設の中央には、巨大な黒い結晶が浮かんでいた。
その表面には、赤黒い光が脈打つように走っている。
まるで、生き物の心臓のように。
結晶を囲むように、複数のコンピューターが設置されていた。
大型モニターには、地球各地の映像が表示されている。
政治関連のニュース。
企業の報道。
防衛関連の情報。
電力供給の状況。
SNSの投稿。
そして、真田ウェルネスに関する数多くの情報。
そのすべてが、一つの場所へ集約されていた。
施設の奥から、複数の人影が姿を現した。
ダークネスファイブ。
そして、ストルム星人伏井出ケイ。
さらに、如月の姿もあった。
五人のダークネスファイブは、すでに地球人の姿から本来の姿へ戻っていた。
魔導のスライ。
地獄のジャタール。
極悪のヴィラニアス。
氷結のグロッケン。
炎上のデスローグ。
彼らは、中央の黒い結晶を見つめた。
「結晶の反応が、さらに強くなっているな」
スライが口を開いた。
「地球の各地に設置したエネルギー中継点との接続も、順調に進んでいます」
グロッケンが報告した。
「政治、経済、エネルギー、防衛、そして情報。地球社会の各領域への潜入は、ほぼ完了しました」
「人間どもは、まだ自分たちが何をされているのか理解していない」
ジャタールが笑った。
「企業の不祥事に怒り、根拠のない情報を信じ、互いに疑い合っている。こちらが直接手を下さなくても、自分たちで混乱を広げてくれるのだから、実に扱いやすい」
「真田ウェルネスをめぐる情報も、効果を上げています」
デスローグが続けた。
「怪獣と創薬事業を結びつける投稿は、予想以上の反応を得ています。もちろん、内容に確かな根拠はありません。しかし、人間は、自分が恐れていることを裏付ける情報を信じやすい」
ヴィラニアスが、モニターの一つを指さした。
「しかも、真偽を確認しようとする者たちと、すでに信じ込んでいる者たちの間で、対立が生まれている。今後、別の事件が起きれば、この対立はさらに拡大するだろう」
「見事だ」
スライは、満足げにうなずいた。
「地球の統治機構は、まだ完全には麻痺していない。だが、必要な時に必要な判断ができなくなる状況は、着実に近づいている」
彼は、伏井出ケイへ視線を向けた。
「ストルム星人。地上での準備はどうなっている?」
「順調です」
ケイは、丁寧に頭を下げた。
「陛下のご命令に従い、地球侵攻に必要な準備を進めています。地上の混乱を利用し、ダークロプス軍団を投入するための経路も確保しつつあります」
「ダークロプス……」
ジャタールが、楽しげに笑った。
「ゼロの偽物たちか。あの戦士も、自分と同じ姿をした軍団に襲われることになるとは、思ってもいないだろうな」
「偽物という表現は、正確ではありません」
ケイが答えた。
「ダークロプスは、単なる模倣品ではない。戦闘能力を持ち、命令に従い、必要に応じて大量に投入できる兵器です。ゼロ一人では、すべてを相手にすることはできないでしょう」
スライは、ゆっくりとうなずいた。
「そのとおりだ。ゼロは強い。だが、強いというだけで、すべての敵を倒せるわけではない」
彼は黒い結晶を見つめた。
「ベリアル陛下は、そのことをよく理解しておられる」
結晶の光が、一段と強くなった。
その輝きに呼応するように、施設全体が低く唸り始める。
そして、中央のモニターに、新たな映像が表示された。
宇宙空間。
巨大な軍勢。
その中心に、黒い装甲をまとった無数の機械兵器が並んでいる。
ダークロプス軍団だった。
ゼロと同じ姿を持つ機械兵器たちが、整然と隊列を組んでいる。
赤く光る目。
無機質な装甲。
そして、命令を待つかのように静止した姿。
その光景を見て、ヴィラニアスが笑った。
「いよいよ、か」
「ええ」
ケイは、うなずいた。
「地球側の防衛体制が整う前に投入すれば、十分な効果が期待できます」
グロッケンが、冷静に分析する。
「ただし、ウルトラマンゼロ以外にも、複数のウルトラ戦士が地球へ来ています。ジード、オーブ、ゼット。そして、先ほどの戦闘ではウルティメイトフォースゼロも確認されました」
「問題ありません」
ケイは、即答した。
「彼らが地球にいることは、すでに把握しています。だからこそ、ダークロプス軍団を使う価値がある」
スライが、薄く笑った。
「なるほど。敵が集まったところを、まとめて叩くというわけか」
「そのとおりです」
ケイは、黒い結晶へ向き直った。
「ただし、陛下の地球降臨に先立ち、まずはダークロプス軍団によって地球側の戦力を消耗させる必要があります」
ジャタールが、大きく腕を広げた。
「ならば、決まりだ!」
彼は高らかに笑った。
「ダークロプス軍団の使役を開始する! これが、ベリアル陛下の地球降臨を祝う前夜祭だ!」
「前夜祭、か……」
スライは、楽しげに言った。
「そうだな。人間どもが何を信じ、何にすがろうと、最後に残るのは圧倒的な力だ」
デスローグが、静かにうなずいた。
「人々が恐怖に震え、救いを求める時こそ、陛下の威光が最も強く輝くでしょう」
「地球は、やがて我らのものになる」
ヴィラニアスが宣言した。
その声に、五人の戦士たちが一斉に笑った。
だが、その時。
施設の隅にあるモニターの一つに、新たな通知が表示された。
真田ウェルネスの社長室。
梨央が、研究員たちと話し合っている映像だった。
別の画面には、優が学校を出る姿。
さらに別の画面には、橘しおりが出版社で編集長と話している様子が映し出されていた。
それらの映像は、いずれも別々の場所から取得されたものだった。
しかし、同じ施設に集められ、同じ目的のために分析されていた。
如月は、コンピューターの前に立っていた。
彼の指先が、キーボードを操作する。
画面には、SNSの投稿一覧が表示されていた。
そこには、真田ウェルネスを批判する投稿が並んでいる。
さらに、その投稿に賛同するコメント。
創薬事業と怪獣の関係を断定する動画。
ウルトラマンを危険視する文章。
真田家が何かを隠していると主張する記事。
それらは、自然発生的に広がったものではなかった。
如月が、複数の匿名アカウントを使って発信したもの。
あるいは、彼が用意した情報をもとに、ダークネスファイブや伏井出ケイが拡散を後押ししたものだった。
如月は、画面を見つめながら、静かに笑った。
「人間というのは、本当に面白いものですね」
その声に、スライが振り返った。
「何がだ?」
「事実を知らなくても、自分が信じたいことを信じる。誰かが疑いを投げかければ、その疑いを補強する情報を探し始める。そして、一度信じ込んだことを否定されると、今度は否定した相手を疑う」
如月は、画面の一つを指さした。
「真田ウェルネスに関する情報も、同じです。最初は、後藤信介の逮捕という実際の出来事がありました。そこへ、創薬事業に関する根拠のない疑惑を結びつけた。すると、人々は自分たちで情報を広げ始めたのです」
「お前が、あのデマを流したのか?」
ジャタールが尋ねた。
「ええ。最初の疑惑を投稿したのも、関連する情報を発信したのも、私です」
如月は、淡々と答えた。
「もちろん、私一人ではありません。複数のアカウントを使い、異なる立場の人間が発信しているように見せかけました。企業を批判する者、怪獣を恐れる者、医療研究に不信感を持つ者。それぞれの感情に合わせた情報を用意したのです」
ケイが、満足げに目を細めた。
「見事な手腕です。如月さん。人間社会の情報流通を利用することで、真田ウェルネスへの疑念を、あたかも自然に発生した世論のように見せている」
「それだけではありません」
如月は、別の画面を開いた。
「こちらは、疑惑を補強するための賛同コメントです。ダークネスファイブの皆さんが用意した情報や、伏井出ケイ様から提供された資料をもとに、複数のアカウントから投稿しました」
画面には、同じような内容の文章が並んでいた。
投稿時刻はばらばら。
使用されている言葉も、少しずつ違う。
しかし、主張の中心は同じだった。
真田ウェルネスは何かを隠している。
創薬事業には、怪獣出現に関係する秘密がある。
ウルトラマンの正体も、真田家が関わる研究によって生まれたものではないか。
根拠のない主張が、複数の人間の意見であるかのように並べられていた。
「人間たちは、これを見て、同じ考えを持つ人が大勢いると思うでしょう」
如月は笑った。
「そして、自分の考えが多数派だと感じた人々は、さらに強い言葉を使うようになります。疑惑は断定へ変わり、断定は攻撃へ変わる」
デスローグが、満足げにうなずいた。
「恐怖と怒りを利用する……。まさに、我らが望む状況です」
「ええ」
如月は、画面を切り替えた。
「しかも、真田ウェルネスは、後藤信介の逮捕によって、すでに社会から厳しい目を向けられています。そこへ新たな疑惑を加えれば、会社は対応に追われ、研究や事業の判断も難しくなるでしょう」
ジャタールが笑った。
「企業を倒すために、怪獣を送り込む必要もないというわけか」
「場合によっては、そうです」
如月は答えた。
「ただし、最終的な目的は、真田ウェルネスを潰すことだけではありません」
彼は、巨大なモニターに表示された地球の地図を見つめた。
「真田家は、ゼロに近い位置にあります。真田優の正体が公になれば、ゼロの周囲にいる人間たちも注目されることになる。真田梨央、香坂美咲、そして真田優の友人たち。彼らを取り巻く環境が変われば、ゼロの行動にも影響が出るでしょう」
「なるほど……」
スライが、ゆっくりとうなずいた。
「ゼロを倒すために、ゼロの守ろうとするものを利用する。実に合理的だ」
「もちろん、真田優本人の正体を公表するかどうかは、状況を見て判断します」
如月は、慎重に言った。
「橘しおりというジャーナリストが、真田優に接近しています。彼女がどこまで情報を得ているのかを確認し、必要であれば、さらに情報を与えることもできます」
ケイは、如月を見つめた。
「橘しおり……。彼女を利用するつもりですか?」
「利用できるなら、利用します。ただし、彼女がどのような記事を書くかまでは、完全には制御できません。こちらにとって都合の悪い情報を記事にする可能性もあります」
「ならば、慎重に扱うべきですね」
ケイはうなずいた。
「陛下の計画に支障が出るような行動は、避けなければなりません」
スライは、中央の黒い結晶を見上げた。
結晶は、先ほどよりも強い光を放っていた。
その光は、地球のあらゆる場所に張り巡らされた暗黒のエネルギーと共鳴しているかのようだった。
「さて……」
スライは、ゆっくりと腕を広げた。
「準備は整いつつある。政治、経済、防衛、情報。地球の社会を支える仕組みは、少しずつ我らの手の内に入ってきた」
ジャタールが続けた。
「真田ウェルネスへの疑念も広がっている。企業の信頼は揺らぎ、人々は互いを疑い始めている」
ヴィラニアスが言った。
「必要な時に、必要な判断ができない状況を作る。それが我らの役目だ」
グロッケンが、冷静に補足した。
「そして、ダークロプス軍団が投入されれば、地球側の戦力は大きく消耗するでしょう」
デスローグは、両腕を広げた。
「人々が恐怖に震え、救いを求める時、陛下が降臨される。これほどふさわしい舞台はありません」
伏井出ケイは、黒い結晶の前にひざまずいた。
「陛下……。すべては、あなた様のために」
如月も、深く頭を下げた。
「地球は、間もなく闇に包まれるでしょう」
その時、黒い結晶の中心から、低い声が響いた。
『……よくやった』
その声を聞いた瞬間、施設にいた全員が動きを止めた。
声は、結晶の奥から聞こえていた。
重く、冷たく、圧倒的な威圧感を伴っている。
『我が軍は、再び力を取り戻しつつある。地球の内部に足場を築き、ゼロの周囲を揺さぶり、光の国の戦士たちを分散させる……』
結晶が赤黒く輝いた。
『すべては、我が復讐のためだ』
ベリアルの声だった。
復活を果たした暗黒の戦士は、まだ地球へ姿を現してはいない。
しかし、その意志は、すでに地球の内部へと浸透し始めていた。
『ゼロ……。貴様には、まだ理解できていないだろう』
ベリアルは、低く笑った。
『守るべきものが多いということが、どれほどの重荷になるのか。仲間がいるということが、どれほどの弱点になるのか。そして、人間という種族が、どれほど簡単に互いを裏切るのか……』
結晶から放たれた光が、施設全体を照らした。
『貴様が守ろうとする地球を、我が手で支配してやる。そして、その後は光の国だ。かつて我を追放した者たちに、今度こそ絶望を味わわせてやる!』
ベリアルの笑い声が、暗闇に響き渡った。
ダークネスファイブが、一斉に頭を下げた。
「陛下のご命令のままに!」
ケイも、深く頭を垂れた。
「地球侵攻の準備は、最終段階へ移行します」
如月は、コンピューターの前で最後の操作を行った。
画面に、新たな指令が表示される。
ダークロプス軍団、起動準備。
黒い結晶のエネルギー反応、上昇。
地球侵攻計画、第二段階へ移行。
そして、真田ウェルネスに関する新たな情報発信の予約が、次々と登録されていった。
その内容は、これまで以上に刺激的なものだった。
創薬事業への新たな疑惑。
ウルトラマンの正体に関する憶測。
真田家と怪獣出現を結びつける根拠のない主張。
それらが、今後どのような形で拡散されるのか。
それを知る者は、ここにいる者たちだけだった。
如月は、最後に画面を閉じた。
「これで、準備は整いました」
彼は、黒い結晶を見つめた。
「ベリアル様の地球降臨まで、あと少しです」
スライが、満足げに笑った。
「ならば、前夜祭を始めよう」
ダークネスファイブが、ゆっくりと前へ進み出た。
彼らの背後では、ダークロプス軍団が起動の時を待っている。
地球の各地では、人間社会への潜入が続いている。
そして、光の国では、ウルトラ兄弟が次なる戦いに備えていた。
それぞれの宇宙で、誰もが迫り来る危機を感じ取っていた。
しかし、まだ誰も、その全貌を知ってはいなかった。
同じころ。
真田ウェルネス本社の社長室では、梨央が一人、窓の外を見つめていた。
机の上には、創薬事業に関する報告書と、SNS上の情報を整理した資料が並んでいる。
彼女は、今日も多くの人から説明を求められた。
後藤信介の逮捕。
会社の責任。
研究開発の安全性。
そして、怪獣とウルトラマンに関する根拠のない疑惑。
そのすべてに、誠実に向き合おうとしていた。
だが、どれだけ説明を重ねても、疑念が完全に消えるわけではない。
それでも、彼女は諦めるつもりはなかった。
「……負けるわけにはいかない」
梨央は、小さくつぶやいた。
その言葉は、会社を守るためだけのものではなかった。
優を守るため。
研究員たちを守るため。
そして、真実を知ろうとしている人々のため。
彼女は、もう一度資料を手に取った。
同じころ、優は自宅でスマートフォンを見つめていた。
ウルティメイトフォースゼロの仲間たちが去っていった空。
その光景を、まだ心の中で思い返していた。
「……みんな、無事でいてくれよ」
優は、窓の外を見た。
ゼロの声が、静かに響く。
『優。これから、もっと厳しい戦いになる』
「分かってる」
『ベリアルは復活した。ダークネスファイブも地球に来ている。さっきのゼットン軍団も、その始まりにすぎねえ』
「……ああ」
優は、拳を握り締めた。
「それでも、俺はこの地球を守る」
『そうだな』
ゼロは、力強く答えた。
『俺たちなら、きっと守れる』
優は、静かにうなずいた。
しかし、その時。
スマートフォンの画面に、新しい通知が表示された。
真田ウェルネスの創薬事業に関する、根拠のない疑惑をまとめた記事だった。
その記事は、数分前に公開されたばかりにもかかわらず、すでに多くの反応を集めていた。
優は、画面を見つめた。
「……またか」
ゼロの声が、低く響いた。
『優。これは、単なる噂じゃねえかもしれない』
「どういうことだ?」
『怪獣との戦いだけじゃない。誰かが、人間社会の内部から俺たちを追い詰めようとしている』
優は、画面を閉じた。
窓の外には、いつもと変わらない街の灯りが広がっていた。
だが、その平穏の裏側では、確実に何かが動いている。
ベリアルの復活。
ダークネスファイブの潜入。
ダークロプス軍団の起動準備。
そして、真田家をめぐる情報の操作。
それらは、やがて一つの大きな戦いへとつながっていく。
その戦いは、怪獣を倒すだけでは終わらない。
人々の信頼を守り、社会の混乱を食い止め、闇に覆われようとする地球そのものを救う戦いになるだろう。
優は、もう一度、拳を握り締めた。
「……絶対に、守ってみせる」
その言葉に、ゼロは静かに応えた。
『ああ。行くぜ、優』
遠い宇宙の暗闇では、ベリアルが笑っていた。
そして、地球の各地に潜む五つの影は、次なる命令を待っていた。
闇の胎動は、すでに始まっている。
次回予告 第10話「機械の軍勢」
地球社会の内部へ潜入したダークネスファイブ。
その工作活動は、ついに次の段階へと進む。
黒い結晶から放たれるエネルギーが高まり、ダークロプス軍団が起動。
ゼロと優を待ち受けるのは、自分と同じ姿を持つ無数の機械兵器だった。
一方、真田ウェルネスをめぐる偽情報は、さらに拡散を続ける。
橘しおりは、優の正体に関する情報を記事にするべきか、葛藤を深めていく。
そして、伏井出ケイと如月の前に、ついにベリアルの影が現れる。
地球侵攻の第二段階が、幕を開けようとしていた。
今回は長くなりました。