誅暦989年。瓦紅京を結成して一年が経った。
切り立った崖の上にそびえ立つ巨大な屋敷。天候は悪く雨が打ちつけ、時折雷鳴が聞こえる。にも関わらず屋敷の中は薄暗く、電気も点灯していない。その方が落ち着くのだ…。
まさしく今日は瓦紅京のメンバー、リコルたちにとっては過ごしやすい良い天気だった。
「いい天気ですわ〜」
リコルの最初の仲間にして親友のレヴルがニコニコしながら屋敷の廊下で窓に打ちつける雨を眺めていた。黒髪ショートヘアが風もないのにわずかになびき、背中には黒い触手が複数本うねっている。
「落ち着くね…」
リコルがすぐそばの自室から顔を出す。銀髪を切り揃え、黒いドレスを纏っている。個人部屋は狭いものの安心感が強いので気に入っていた。レヴルはリコルに向けて少し微笑み、屋上に向かう階段を駆け上って行った…触手で。
「じゃ私も…」
リコルはレヴルの後に続いて屋敷の木製の階段を登っていく。
レヴルは屋上の隅の柵に寄りかかって雨と冷たい風を浴びていた。リコルは自身の異形ポイントでもあるコウモリの翼を伸ばしてレヴルに向かって飛んでいく。レヴルがリコルにうっすら光る赤い目を向けた。
「リコルちゃん!風が最高ですわ〜!」
レヴルがきゃはっと嬉しそうに笑った。触手さえなければチヤホヤされそうなくらい可愛い。そしてその触手は風をたくさん浴びようと横に大きく広げられている。
「久しぶりの雨ではしゃいでるね…」
リコルはレヴルに歩み寄りながら言った。レヴルは頷いて再び柵の方へ目線を戻す。その瞬間レヴルの表情が緊迫に変わる。リコルは咄嗟にその方向を見る。
2人の目線の先、200メートルほど遠くの空中に黒い何かが浮いていた。直方体のような形状の頭部と、細長く伸びた尾が確認できる。
「死霊…!?」
リコルが小声で言う。安全地帯として手に入れた屋敷を襲撃されるわけにはいかない。レヴルも同じ考えに至ったらしい。
「隠れますわよ…!」
レヴルは真剣な表情でリコルに言った。リコルは頷くと、2人はほぼ同時に屋内へ入る階段へ走りこんで扉を閉めた。
2人は少しの安心感から階段の下に座り込んで窓から様子を伺う。窓から見える死霊のようなそれは2人に気づいた様子はなく、地面の方を凝視しているように見える。
「なんなんですの!こんないい日に!」
レヴルが触手で壁をペシペシ叩いてキレている。
「どーかしたのー?」
2人の背後から瓦紅京のメンバーで霊魂を扱う少女のスペシャーがふわふわ寄ってきた。
「すぺちゃん…窓の外見て…」
「死霊ってことね…」
スペシャーは即座に理解した。片目が髪で隠れてるのに視力いいなぁ…
「…あの死霊どこ見てるんですの…?」
レヴルが不意に口を開いた。死霊は変わらず地面の方に首を曲げて下を見たまま浮いているように見える。
「目線の先に何かあるのかな?」
「…確認しに行っちゃう?」
スペちゃんがとんでもないことを言い出す。
「賛成ですわ!」
レヴルも即座に賛同した。
「えぇ…」
3人は恐る恐る一回の玄関へ向かって階段を降りて行った。