瓦紅京の付近に突如出現した死霊。その目線はずっと下に向けられている。スペシャーの提案で、リコルたちはその目線の先に何があるのかを確認しに行くこととなった。
「静かにね…気づかれたら館ごと吹っ飛ばされちゃうかもしれない」
リコルが極力静かに正面玄関の扉を開きながら言った。スペシャーがふわふわと漂いながら頷いた。ドアが開かれ、激しい雨風が吹き荒れた。レヴルの触手が風に靡いている。
「…なんですの?あそこに何かありますわ」
レヴルが地面を触手で指しながら小声で言った。リコルもその方を向くが、確かに地面に何かがある。いや、いる。
死霊の目線の先には、地面にうずくまる1人の少女がいた。怪我をしているらしい。
「あ…!死霊に狙われてるっぽい!?」
スペシャーが声を上げる。死霊が少女に向かって四角く黒光りする両腕を向けたのだ。こうなってはもはや迷っている時間はない。
「行くしかない!」
リコルが即座に玄関から飛び出し、少女の元へ近づいた。少女はセーラー服のような服に身を包み、顔は目鼻の印刷が剥がれた無地のキツネの面で隠されている。
「は…誰」
「逃げよ!」
リコルが少女の声をほぼ遮るようにして言う。レヴルとスペシャーも既に駆けつけていた。少女は力なく頷く。
「危ないですわ!」
レヴルがスペシャー、リコル、少女を触手で巻き取って手繰り寄せる。次の瞬間、死霊の腕から赤い光が地面に向けて放射され、その直後にドコオンと大きく音を立てて地面が爆散した。
「うわっ!」
リコルたちは爆風で吹っ飛ばされ、地面に投げ出された。死霊に狙撃された地面は大きく抉れて、黒い煙が立ち昇っている。そしてその被害を出した死霊は、既に手から照準のような赤い光をリコルたちに向けて放射している。
「来るよ!」
リコルがふわりと飛び上がってレヴルや他の仲間にできるだけ近づく。再び爆音が響き、リコルがたった今までいた場所が瓦礫をぶちまけて砕け散った。
「なんなのあれ…絶対勝てないよ!」
「今は逃げたほうがいいよ〜!」
レヴルはスペシャーの意見に頷くと、力尽きかけている少女を触手で持ち上げて素早く駆け出した。リコルとスペシャーもすぐに後を追う。死霊が空を滑るように移動して銃のような腕を構えている。
「どこに逃げる…?!」
「とりあえずアレから逃げ切るんですわ…!そしたら館に戻ってこの子の治療!」
レヴルが少女を見ながら叫んだ。少女は既に意識を失いかけているらしい。リコルはその時初めて、少女が両腕から大量に出血していることに気づいた。
「とりあえず逃げ切るって…」
リコルたちのいる地面が赤く照らし出された。その光はもちろん、死霊が手の上部から放射した照準だ。
リコルとレヴルは咄嗟に二手に分かれ、スペシャーはリコルの側へ寄った。次の瞬間には地面に死霊の攻撃が撃ち込まれ、大量の瓦礫と煙が巻き上がった。
「リコルちゃ…」
レヴルの立つ岩場がぐらりと揺れた。死霊の攻撃がレヴルのいる場所を崖から切り離したようだ。
「崩れる…!」
リコルが駆け寄ろうとしたがすぐに岩場は粉々になり、凄まじい音を立てながら崩落し始めた。
レヴルと少女の姿は、岩石や瓦礫と共に谷底の闇に吸い込まれるように消えていった。