かつて至高の現落伍者 作:九耀の翁
国立異能者教導学園、国中どころか海外からも異能者がやってくる国内最大規模の全寮制学園。
僕たち異能者にとって、ここは楽園だなどと言われているが、僕にとってはそうではなかった。
ただそれだけの話だ。
「お断りします!」
「おいおい、俺たちのクランに入らねえってか?」
今日は入学式、国中から集められた新たな異能者たちがこの学園にやってくる。
ただ、そうなると起こるのが新入生の争奪戦だ。
つまりは今起きてるようなことなわけだけど、それを机に突っ伏しながら横目で眺めている男子生徒が僕。
「私はクランに入るつもりはありません!放っておいてください」
「おい待てよ!」
クラン、学園内で異能者同士が気の合う者同士で作る、いわば異能者版の部活のようなものだ。
この学園では定期的にランクマッチと呼ばれる催しがあるのだが、ここでクラン同士の対抗戦もあるからなるべく人数を揃えておきたいというのが各クランの共通認識だ。
だが、今回のような少々強引な勧誘は、流石にまずいだろう。
「やぁ君たち、その辺にしといてあげなよ」
「あん?なんだてめぇかよ落伍者、てめぇに用はねぇからさっさと失せろ!」
あらら、逆に怒らせちゃったか。
「でもねぇ、嫌がってる新入生を無理矢理クランに入れても戦力にはならないと思うよぉ?最悪ペナルティも発生するからやめたほうが良いと思うなぁ」
「うるせぇ!そこの新入生は今回の首席合格者だ!早めに確保しとかねぇと他のクランに取られて戦力的に不利になるだろうが!」
あぁ、この子今回の首席合格者だったんだね。
気になったので、言い寄られていた新入生のほうを見てみた。
年は16~7歳くらいだろうか?、多分女の子かな?長い黒髪を後ろで結んでて、ちょっときつめの目付きをしている。
でも、顔はかなり整ってて10人に聞いたら8人は可愛いと答えるだろう。
う~ん、これは声をかけたくなるのもわからなくはない、でもそろそろやばいかなぁ。
「あんまり大きな声を出さないほうが良いよぉ?ほら、後ろ後ろ」
「あん?」
強引な勧誘をしていた生徒が振り替えると、そこにいたのは顔を真っ赤にしてブチキレた女子生徒が立っていた。
腕には特徴的なとある腕章が巻かれている。
「何をしとるか貴様らぁ!!!新入生に強引な勧誘をするとは何事か!!!」
風紀委員、主に学園内の争い事などのトラブルを解決するために作られた生徒だけで構成される組織だ。
生徒に対する処罰は全て彼らに一任されてるから捕まると面倒なんだよね。
「おぉ怖い怖い、それじゃ僕は退散させて貰うよ」
「おい待ちやがれ!あぁもう畜生覚えてろよ!」
手早く風紀委員と男子生徒の間を通り抜けてその場を去ろうとしたその時、風紀委員が僕の耳元で囁いた。
「夏彦いつまで好きなように言わせているつもりだ?」
「...どうでも良いじゃないかそんなこと」
そう言葉を返し、僕はその場を去った。
ふぅ~危ない危ない、風紀委員は喧嘩両成敗だからあのままあそこにいたら僕までお叱りを受けちゃうところだったよ。
「...あの」
「おや?さっきの新入生の子かい、どうかしたかな?」
「さっきはありがとうございます、おかげで助かりました」
おやおや礼儀正しい子だねぇ、こういう子は好感を持てるなぁ。
しかし何か僕に用かな?
「あの、貴方はどこのクラン所属なんですか?もし良ければ貴方と同じクランに入りたいんですが」
あぁ、それはちょっと困っちゃうなぁ。
「う~ん、せっかくのところ悪いんだけど、僕ってクランに所属してないし作ってもいないんだよ」
「えっ?」
あっ、そういう反応になるよね、わかる...すんごい良くわかるよ。
「僕はどこのクランにも所属していない万年ランク圏外の落伍者でね、だから学園中からバカにされてるんだ。
そう、僕のランクは最下位のFランク帯、どこのクランからも門前払いされて所属できないほんとの落伍者だ。
入学したての新入生でさえちゃんと入学試験の際に点数を取ってればDランクからスタートできるっていうのにね。
「僕はかなり前からFランク帯で停滞しててね、誰も相手にしてくれないんだよ、寂しいことにね」
「それじゃ、私と一緒にクラン作りませんか?」
えっ、なにそれ、なんでいきなりそういう展開になるわけ?
とりあえず僕は、新入生ちゃん?に話を聞いてみた。
まず新入生ちゃんは女の子であっていたらしい。
ただ最初からそうだったわけではなく、異能に目覚めた影響で後天的に体が女性のものになってしまったそうだ。
ごく稀にあることだけど、まさか実例を見ることになるとはね。
それで、周りの人間は変わってしまった自分を見て奇異の目で見てきたり気色悪い視線を向けてくるばかりで嫌な思いばかりしてきたそうだ。
この学園への入学で、ようやくそういうのがなくなると思ったらさっきの強引な勧誘でほとほと参ってしまったと。
そんな時に助けてくれたのが僕だから同じクランに入ろうと思ったらしい。
けど...
「僕はクランにもランクマッチにも興味ないんだけどなぁ」
「そう言わずにクラン組みましょうよ、私も流石にソロでランクマッチに挑むほど自信はないんです」
「う~ん、そもそも僕はランクを上げたくないんだよね、ランクって上がれば上がるほど良いように見えて実はそんなに都合の良いものじゃなくて、高ランク帯にはそれなりのリスクと責任が伴うんだ」
「リスクと責任?」
「君が高ランク帯になれば嫌でもわかるよ、それじゃ僕はこの辺でおいとまさせて貰うから」
「あっ!ちょっと待ってくださいよ!」
ふぅ~、撒けたみたいだね。
熱意のある新入生が入ってきたのは喜ばしいことなんだろうけど、それに巻き込まれるのはごめんだね。
さて、僕は屋上で昼寝でも...
『全校生徒の皆さん、至急アリーナに集まってください。これよりランクマッチを開始します。繰り返します、生徒の皆さんは至急アリーナに集まってください」
あちゃ~、次のランクマッチはもう少し先だと思ってたのになぁ、新入生が入ってきたから歓迎会を兼ねて予定を早めたのかな?
でもこれ強制参加だから僕も行くしかないねぇ。
【国立異能者教導学園 アリーナ】
「うわぁ、新入生が入った分めちゃくちゃ人が多い、嫌だなぁ」
僕が憂鬱な気分になりながらアリーナを歩いていると、先ほど撒いた新入生ちゃんが手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。
「見つけました!私と一緒にランクマッチに挑みませんか?」
「いきなりどしたの?」
「さっき他の人に聞いたらクランを組んでなくても2人一組で参加することも可能と言われたので、どうせなら貴方と一緒に参加したいと思いまして」
あぁ、それ多分。
「それは無所属の生徒に対する救済処置の1つだね、僕みたいな誰とも組んでないソロの生徒やクランから追い出されちゃった生徒限定でクランを組まずにチーム参加を許可するってやつ」
「そうそれです!あの、一緒に参加してくれますか?」
さてどうしよう?確かにそのお誘いは魅力的なんだけど周りの目がねぇ。
「おいおい、あの新入生落伍者のところに行ったぞ」
「あの子って確か今年の首席入学者じゃなかだたっけ?なんでそんな子があの落伍者なんかのところに」
はぁ、自覚していても人から言われるのはくるものがあるねぇ。
「あの先輩」
「先輩って僕のこと?」
「そうです、なんか皆落伍者落伍者ってうるさいので私なりに呼び方を考えてみました...あの、一応聞くんですけど先輩であってますよね?」
あぁ、まぁ僕ちょっと童顔だから歳がわかりにくいのか。
「そうだね...一応先輩であってるよ、ただランクは一年にも劣るEランクだけどね」
「それじゃこれからは先輩と呼ばせてもらいますね」
なんか周りからの視線がなおさらキツいものになってきたんだけど...どうしよこれ。
「とにかく、今回だけでも良いですから一緒に参加しましょう!良いですね?」
うわぁ、すっごい強引だけど流れ的に断れないやつだこれ。
まぁいっか、どうせ今回だけだし。
アリーナ内部に入ると、今回のルール形式が発表された。
『それではランクマッチの前に今回適用されるルール"デスマッチ"について説明します』
デスマッチ?それは上位ランク帯でしか適用されないはずなんだけど。
『アリーナ内の皆さんには、これから全員でバトルロワイヤルをして貰います。勿論棄権しても構いませんが、その代わりランクは強制ダウンとなりますのでご注意ください』
「先輩、これって」
「新入生ちゃん...絶対に僕から離れないでね、入学早々大怪我したくないでしょ?」
「あの、デスマッチってなんなんですか?」
「デスマッチルールは本来上位ランク帯のみに適用されるもので、下位ランク帯の場合、アリーナ内に限っては絶対致命傷にはならない程度に体を守ってくれる生命保証障壁が生徒全員に付与されるんだけど、デスマッチルールの場合その障壁がOFFになるんだ」
「え?じゃあ今攻撃を受けたら」
「めっちゃ痛いし最悪死ぬよ」
僕の発言に新入生ちゃんは顔を青くして震えている。
無理もない、ほんの少し前までただの一般人として暮らしていたんだから。
しかし、何故よりによってEからDランク帯のランクマッチでデスマッチルールを適用したんだろう?
新入生の選別をするため?それなら入学試験の時点で絞れば良いだけの話だ。
なのに、何故今なのか?もしかして、これは学校側じゃなく生徒側の提案なのか?ということはやっぱり。
はぁ...そういうことね、良いよ乗ってあげる。
せっかく大人しくしてあげてたのに、何でそんなことしちゃうかなぁ。
「新入生ちゃん、取り敢えず今は身を守ることだけを考えて」
「どういう...ことですか?」
「今回の件はおそらく生徒会が関わってる、あいつらは物凄く悪辣だし残忍で狡猾だから、生徒が傷つこうが自分たちが楽しめるならそれで良いってタイプの愉快犯みたいな連中だよ」
「あの、なんで学園側はそんなことを許しているんです?」
あぁ、新入生だから知らないのか。
「この学校において最も強い権限を持っているのは生徒会なんだよ、なんなら彼らはこの学校が設立された時から存在し、卒業してもなお残り続けてるいわゆるOBでね、その権限を使って学校トップの座にずっと居座り続けてる」
だからこそ厄介なんだ。
「なんで先輩はそんなに生徒会について詳しいんですか?」
「昔ちょっとね?今はランクマッチに集中しないと...」
僕が言いきる前にそれは起こった。
「先輩!」
「あらら、やっちゃったねぇ」
僕の腕には、何処からか飛んできた炎の槍が突き刺さっていた。