かつて至高の現落伍者 作:九耀の翁
「危ないなぁ、いきなりこんな物騒なものを人に投げるなんて悪い子だ」
「先輩!大丈夫ですか!?」
新入生ちゃんが慌てた様子で僕に駆け寄ってくる。
まぁ、腕に矢が突き刺さってるの見たら誰でも慌てるか。
「平気平気、これそんなに深く刺さってないからね、それに...ほら!」
新入生ちゃんに矢が刺さったところを見せると、既に傷は存在していなかった。
「あれ?炎の槍が刺さってたはずなのに傷も火傷もない?」
「実はこれ袖貫通してるだけだから」
新入生ちゃんは狐に鼻をつままれたような顔をしてこちらを見ている。
実際の理由は他にあるんだけど、それを話すのはまた今度かな。
「しかしこの槍、多分今朝の彼だねぇ」
「朝のしつこい勧誘の人ですか?」
「大方今朝の報復ってところかな?多分すぐ近くでお仲間諸君と一緒に隠れてるんだと思うけど」
さて、確か彼らの戦闘スタイルは『各々の適性に応じた武器を異能で出力してゲリラ戦を行う』だったかな?
あっ、また槍が飛んできた。
「新入生ちゃん、今から相手するクランの情報を教えておくからよく聞いてね」
「わかりまし...た!」
おぉ、新入生ちゃんの能力聞いてなかったけど素手で炎の槍を弾いちゃったよ。
あっ、ちゃんと情報出さないと。
「リーダー格のうるさい勧誘君は炎の槍を出力して射出できる異能持ち、他のメンバーは3人で1人目は高圧水流をナイフ状にするゴーグルの子、2人目は岩石を固めてハンマーにする巨体君、後最後の1人は硝子を針状にして飛ばして来るから要注意」
「さっきから槍に紛れて飛んできてる針はそれだったんですね」
わぁすっごい、全部指で挟み取ってるじゃん。
「あの先輩、凄く言い辛いんですけど」
あっ、そこから先聞きたくな~い。
「なんだい新入生ちゃん」
「その、体中に針と槍が刺さってます」
うん知ってた。
なんかグサグサ刺さってる感触あるもん。
「先輩、それ痛くないんです?」
「う~ん、歯医者で口の中に麻酔用の注射した時くらいの痛みかな」
「なんでそれで済んでるんです?」
「慣れ」
あっその顔やめて、ドン引きされるとわりと悲しい。
「でもいい加減面倒かなぁ、条件も整ってきたから、そろそろおいたが過ぎる悪い子たちを炙り出しちゃおっか」
僕の異能の発動条件、全部クリアしたし。
一方その頃。
「へへへ、落伍者のやつハリネズミみてぇになってやがる」
「なぁ大丈夫か?今回は上位ランク帯と同じデスマッチルールなんだぜ?」
「関係ねぇよ、先に邪魔したのはあいつじゃんか」
「...」
少し離れた場所から落伍者と呼ばれる彼と新入生を見ていたのは、件の迷惑勧誘男の率いるクラン「炎熱奏」の面々であった。
「むしろあのむかつく落伍者に引導を渡してやれるチャンスだろうよ、あんなやついなくなったところで誰も困りやしねえさ」
そんな面々をよそに、メンバーの1人がじっと辺りを見渡していた。
「...」
「ん?どうした剛」
「何か...来る」
「あん?別に何も見えねえぞ」
尚も辺りをじっと見つめるクランメンバーを冷たい目で見ながらリーダー格たる男がクランの面々に声をかける。
「良いか?これから俺たち『炎熱奏』はもっともっと上を目指す、上位ランク帯になったら相手が死ぬことなんざ気にしてる余裕はないって言うじゃねぇか。
だから今のうちに落伍者ぶっ殺して慣れとこうってわけよ」
「...来た」
「しつけぇぞ剛!」
「リ、リーダー、後ろ!」
「あっ?」
直後、クラン『炎熱奏』のいた場所に何か無数の小さい物体が降り注いだ。
「何だこりゃあ!?」
その物体の正体は鈍く光る銀色の液体、それらが先の凹んだ弾丸のように個体化し、大量に飛来しているのである。
それらが弾け接触する度、触れた箇所が少しずつ酷い裂傷を負っていく。
さらに言うならば、着弾した場所が広範囲で抉り取られている。
「リーダー!剛が岩で防壁を作ってくれてる!」
「クソ!なんなんだよこれ!!!」
「うーん、もう少し角度をつけて撃ったほうが良いかな?」
「先輩?さっきからいったい何を撃っているんです?」
「あぁごめんごめん、集中し過ぎて説明するの忘れてたよ、これは僕の異能で血中の水銀を弾にして射出してるんだよ」
「はっ?」
あっまたドン引きしてる。
「正確には血中の鉄分を水銀に変換して、その後ダムダム弾にしてる。でもまぁ...発動するのにいちいち血液を体外に排出する必要があるから使い勝手は悪いかな」
要は血液操作に該当するタイプの異能である。
「つまり先輩は、血液が尽きない限り無限に水銀弾を射出できる異能者ってことですか?」
「うん」
水銀弾とはフィクション作品によく登場するめっちゃ物騒な弾丸で、弾の中に入った水銀が着弾時に軽い爆発を起こしてえらいことになる弾である。
※エグいのでインターネットで検索をかけるのはやめたほうが良いです。
※主人公はこれをさらにダムダム弾にして打ち出していますが、現実でやると確実に条約違反です。
「準備して新入生ちゃん、そろそろ遮蔽物が尽きるから出てくるよ」
「朝の分もガッツリお灸を据えてやります!」
うんうん、良い意気込みだね。
「さ~て、お出ましみたいだよ」
「ふざけんなてめえ、こんなもん隠し持ってやがったのか落伍者ァ!」
「おやおや、ひっどい姿になったねぇ」
酷い状態になったのは炎熱奏の面々だけではない、アリーナもまた酷い状態になっている。
「このエリアは比較的遮蔽物が多いから、手持ちの血液パックだけじゃ心もとなかったんだよね、君たちがしつこく攻撃しまくってくれたお陰で自傷して血液を体外に出す手間が省けたよ」
アリーナの面積はこの学園内でもトップクラスだ。
なにせ、全生徒を収容しても尚スペースが有り余るほどに広いのだから。
「しかしまぁよく防ぎきったね、君たちあれ初見でしょ?」
「うるせぇ!!!」
しかしほんとに酷い状態、全員ボロボロだ。
「撃ちまくったやつが言うことじゃないと思うけど、その傷放置したらまずいことになるから早く棄権して医務室に行ったほうが良いよ?」
「リーダー、落伍者の言うことを聞くのは癪だけどほんとにまずいっすよ、俺らもボロボロっすけど、剛とリーダーは俺ら庇ったせいでもっと酷い状態になっちゃってます」
「その子の言うとおりにしたほうが良いよ?僕が撃ち込んだ弾、放っておくとさらに傷口が広がるようになってるから」
「...チッ、棄権用のゲートに向かうぞお前ら」
クラン『炎熱奏』の面々は周囲を警戒したがら去っていった。
「素直に退いてくれて助かったよ、新入生ちゃんのほうは大丈夫そう?」
「私は問題ありません、むしろ先輩のほうこそ全身ハリネズミみたいにされてたんですから早く手当てをしたほうが...はっ?なんで傷がなくなってるんです?」
「あぁこれ?血液操作系統の異能者には良くあることだよ」
僕は傷の治りが早い、一般的には致命傷に相当するような怪我を負ってもすぐに回復できるのが僕の長所だ。
でもそんな特性を持っていると厄介なことになる。
「傷が治りやすいってところに目をつけられてサンドバッグにされてたんだよね僕」
「あの~、先輩の異能的にやろうと思えばいつでも仕返し出来たんじゃ」
「しないよ、だって怪我させちゃうじゃん」
「でも!」
「僕の傷は勝手に治るから良いけど、他の人はちゃんと治療しないと治らないんだよ?それなら僕が我慢すればそれで済むじゃないか」
今までだって、ずっとそうしてきたんだから。