半分世界とかわいい魔王とヒューマンピーポー   作:黒烟

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ヴェスタカンテン 下

 先程まで歩いていた長い通りを抜け、中央に噴水が設置された広場に出た。

 広場は人で溢れるほどではなかったが、通りではあった流れがなくなり噴水周辺で滞りを見せている。噴水の動きに足を止める者、小さな屋台の人形劇に目を奪われる者、国の為政を嘆き演説を行う声に耳を傾ける者等、皆それぞれの琴線に触れた催しに心を惹かれているようだ。

 

 探知された残り2人はここにいるようだが……

 魔術が示す方向に目を向けると、そこでは一段と人だかりが出来ていた。

 

「さあさあ皆さんお立ち合ァい! 今からこちらでふしぎなふしぎな人体の切断ショーを披露いたしましょう! そこの麗しきお嬢さんも、そこの逞しきダンナさんも! ァこぞりこぞってご覧あれっ!」

 

 そこでは、道化師の格好をした女性と燕尾服に身を包んだ男性が、何やらパフォーマンスをしている。

 

「ピッピ、サーカスに用があったの?」

「たぶん、そうなる」

「??」

 

 探知の先があの2人を示している。魔瞳で視てみると……強い。魔力だけでは測れない闘気が立ち昇っている。誰だあんまり強くないとか抜かした奴は。

 私だった。

 

「あ〜らビックリ! 上半身と下半身がサヨナラお別れしてしまいましたァ! 今日のご飯はお腹にたまってくれるのでしょうかァ?」

 

 道化師の入った上半身の箱を燕尾服の男が持ち上げている。そのまま下半身の入った箱がトコトコと歩き出し、踊りを披露した。

 ミコトが横で拍手を送っている。

 あれは……魔術か。となると魔術師か魔術も使える戦士で間違いないだろう。しかし座標移動だろうか、それならかなり高度な魔術だ。あの魔力で軽々と使用できる秘訣があるのだろうか。それとも箱に秘密が? まさか魔法か? 箱の内側だと魔瞳も解析してくれない。

 

「本日の演目はァこれまでっ! 皆さんご覧いただきありがとうございましたァ〜」

 

 魔術の原理を推測していたらパフォーマンスが終わった。観客が歓声と共に温かい拍手を送る。芸を終えた2人は恭しく観客へ向かいお辞儀を繰り返した。

 

「あ、おひねりはァ〜こちらへ。ささっどうぞこちらへぜひぜひ〜」

 

 道化師が燕尾服の長筒状の帽子をひったくり、そこへ向けた金銭を催促している。観客達はそれぞれ小銭を入れその場から離れていく。

 人間界の道化は貴族以外にも商売をするんだな。魔界で謙り戯けられるのはあまり好きではなかったが……うん、こちらの道化の方は好きになれそうだ。

 

「すごっなにアレ。あれももしかして魔術?」

「そうだと思う」

「ふーんそれでピッピが来たわけか、あーし達も行く?」

「最後になったらね」

「あーい」

 

 人影がまばらになった頃を見計らい近づいていく。

 最後の1人が小銭を入れ終えた後に硬貨を帽子の中へ落とした。

 

「ややっ金貨とはこれまた豪勢な! あァりがとうございますっ! お坊ちゃん!」

 

 道化に私の性別を一発で見抜かれて驚く。隠しているわけではないが、一目で言い当ててきたのはマイカ以来だ。

 

「姉さん、この方お嬢さんじゃないの?」

 

 横の燕尾服の男が指摘してくる。やはりそちらの感性が普通なのだろう。

 そして姉弟だったのか。似てないな。人のこと言えないけど。

 

「いや、男です」

「おーうやはりワタクシの勘に狂いは無かったァ〜!」

 

 道化が嬉しそうに燕尾服の背中をバシバシと叩く。

 そして前に向き直り、こちらが口を開くより先に質問をしてきた。

 

「ふむ、アナタ方見たところ旅人ですかなァ?」

「えっ、はい」

 

 言い当てられてまた驚く。

 私の隣に立っている奴を見てもとても旅人には見えないだろう。恐ろしく目立つし素肌晒しまくってるし、旅などしていれば是非襲ってくださいと言わんばかりの格好だ。だというのに何故わかったのだろうか。

 

「ではここへ来るまでに南にある集落を通りませんでしたァ?」

 

 さらに驚く。こちらの道程を把握されているのか? そんなバカな。または単に質問しているだけか。意図がわからない。

 道化は目をかっ開きこちらを凝視している。少々怖い。

 

「あーし通ってないかな。ピッピは?」

「……通りました」

 

 正直に答えておく。嘘も吐けるが、私は咄嗟に弱いので”ではどこから? ”と聞かれると吃ってしまうだろう。しかし集落方面の話か、嫌な予感がするな。

 私の答えに道化が目を輝かせた

 

「ではでは! そこから東の集落について……何かご存知のことございませんか?」

 

 嫌な予感が的中した、あの集団に関係する者か。

 道化は期待した眼差しでこちらを見ている。

 彼らの敵か味方かまではわからないが、結果的に私が滅ぼしたことは伏せないといけなそうだ。だが、”旅人”として何かを見かけたのであれば、その情報は伝えるべきだろう。変に誤魔化すと逆に怪しまれる要因となる。

 

「5日前……南の集落から出る日に、燃えているのを見ました。詳細は分かりませんが……」

 

 どうなる。表面上平静を装うよう努めたが内心で冷や汗をかいていた。

 少し間が空いた後、道化が頭を抱えて苦しそうな表情をした。

 

「ぐあ〜やっぱりかァ」

「日付的にも丁度連絡が途絶えた日ですね」

 

 よかった。単なる質問だったらしい。

 道化が私の肩を掴んで詰め寄ってきた。顔が近い。

 

「その他っその他に何か知りませんかァ!?」

「詳細は知らないって言ってたでしょ姉さん。ご情報ありがとうございます」

 

 燕尾服が道化を引き剥がす。同時に私もミコトに引き剥がされた。顔がむくれている。何故。

 

「うえぇ〜引き返すのかァ〜めんどいなァ〜もうここの国民んなっちゃう?」

「冗談やめてよ姉さん……」

 

 道化が肩を落として燕尾服と相談している。

 そろそろこちらの質問をしても良いだろうか。

 

「ふむ、改めて見るとアナタ方……」

 

 またしても先手を取られた。だいぶ相手のペースに飲まれている。

 そして道化がジロジロこちらを見てきている。何が見えているのだろうか。まさか魔王の証? 魔族にしか見えないはずだが……

 

「強いですなァ、ワタクシ達の仲間になる気はございませんかァ?」

 

 杞憂だったようだ。しかし並外れた感覚だ、誰かを思い出す。

 

「どうする? ピッピ」

 

 ミコトがこちらの顔を覗く。

 考えるまでもない。

 

「お断りします」

「ダメですかァ!? そちらのお嬢さんだけでも!」

「ね……姉さん、押しが強いです」

 

 羽交い締めで燕尾服が道化の暴走を止めている。

 私はオマケの扱いだったか。まぁ持ち前の魔力と闘気ではそんなものだろう。

 

「あーしピッピが行かないとこには行かないんでぇ♡」

 

 ご主人様なんでぇ♡と付け加えて腕を組んでくる。

 なんと言うか……随分懐いたものだ。嬉しくはある。

 

「そっかァ……」

 

 道化が悄気て肩を落とす。

 悪いが、いい加減こちらの質問をさせてもらおう。

 

「あの、身体の見た目……構造を変える魔術をご存知ではありませんか?」

「ふむ? 幻覚魔術とは異なるのですかァ?」

 

 道化が顔を上げて不思議そうにこちらを見てくる。

 コクリと頷いて返した。

 

「なるほどなるほど、もし帝国へ来ていただければ……」

「姉さん!」

「おっと、今のはァお忘れを」

 

 道化はうっかり、といった形で自身の口を押さえる。

 帝国? 聞いてもピンとこない。彼女達はそこから派遣されてきたということか? 

 

「えーもしワタクシ達のお仲間になっていただければァ、お教えできるかも知れませんよ? またはお嬢さんだけでもこちらにいかがです? ご主人様ァ?」

 

 道化がニタニタと薄気味悪く笑いを浮かべた。横を見上げるとミコトは少し不安げな顔をしている。

 まだ諦めていなかったか、よほどミコトが魅力的らしい。確実性のない賭けになるが、もしそこで魔術が獲得出来るならば悪い話ではないのかもしれない。

 

 が、断らせてもらおう。彼女を渡す気はない。

 というか魔王がどこかの組織の配下につくわけないだろう。そして私の配下を譲りもしない。

 

「お断りします」

「ぐあァ」

「ピッピぃ〜♡」

 

 道化が断末魔をあげて後ろに倒れていく。燕尾服は支えもせず呆れている。

 

「いやァ〜残念ですがァ仕方ありませんね。では、またお会いすることがあれば!」

「幾久しくお健やかに」

 

 2人が手を振り別れを告げてくる。いつの間にか荷物をまとめ終えてどこかへ向かうようだ。”帝国”という場所に帰るのかもしれない。

 

「ミコトは帝国ってどこか知ってる?」

 

 私の腕に頭を擦り付けているミコトに聞いてみた。

 

「ん〜ん? 知らなーい」

 

 知らないらしい。彼女自体今までどこで何をしてきたかも、よく考えると私は知らない。今度話を聞いてみるか。

 

 それにしても帝国か……

 いつか向かう日も来るのだろうか。

 

「てゆうかピッピ、見た目変えたいってことはその姿が素なんだ」

「あ」

 

 バレてしまった。

 迂闊。

 

 

 

 この国の魔術師を探し終えてしまった。今の所、成果は0だ。明日には一度帰らないといけないというのに。

 魔術以外で見つけるとなるとあとは……そう、父上の痕跡だ。

 この国を目的地に提案したのはサイだ、だとすればきっと何かはある。歴史館や博物館のようなものはないだろうか。

 

 街の住人に聞いたところ歴史館というものは無いようだが、城の近くに大きな石碑が建てられているという話を聞いた。まだ日も高い、向かってみよう。

 

 噴水の広場を抜け、城の城門近くまで歩いていくと、徐々に先の尖った岩が見えて来る。更に近づいて行くと、四角錐の形をした碑が姿を表した。

 

「おーデッカいねぇ〜」

 

 ミコトが額に手をかざして見上げている。

 これが例の石碑か。何やら文字が書いてあるが……高い場所で見えない。ミコトに持ち上げてもらうか。

 

「おや、お若い方々がこのような場所に訪れるとは珍しい。歴史に興味がおありで?」

 

 老人が石碑の裏から姿を現した。背筋をピンと伸ばし、柔らかく微笑む彼はコツコツと足音を立てて近づいて来る。どこか気品を漂わせる立ち振る舞いだ。

 頭を下げて挨拶をすると、礼儀正しくお辞儀を返してくれた。

 

「この石碑はなんでしょうか?」

 

 それを指差して老人に問いかけてみる。

 老人は目を細めて私の指先が指す方へ目を向けた。

 

「これはですね、戒めです」

「戒め?」

「ええ、驕った人間達の戒めです」

 

 老人はしばらくそのまま眺めたあと、こちらへ向き直った。

 

「少し御伽話をしましょうか」

 

 ニッコリと笑う老人に促され、近くに設置されていたベンチへ腰をかける。

 私とミコトを慈しんだ表情で見つめ、石碑に顔を向けると、ゆっくり口を開いた。

 

「昔々、世界には人間族と魔族、2つの生命がそれぞれの土地で生きておりました。これは今も変わりはありませんね」

 

 黙って頷き、真摯に耳を傾ける。

 老人は節々で間を取りつつ、話を続けた。

 

「しかし、数を増やし力を蓄えた人間達は、やがて限られた資源を求め仲間同士で争いを始めてしまいます。そしてついにそれは魔族が生きる土地にも及びました」

 

「次々と魔族の土地を侵略して行く人間達でしたが、その勢いは人間のある国が滅ぶと共に急激に衰えることとなります。魔族の王を怒らせてしまったのです」

 

「その怒りは凄まじく、人間の土地となる大地を切り裂き、数多の国々を焼き尽くし、人間達を彼方の地まで追いやり、わずか一年足らずで、人間の総数を当時の1割ほどになるまで破壊を続けました」

 

「その魔族の王が最初に滅ぼした国がここ、ヴェスタカンテンなのです」

 

 聞き入っていたが一度我に返る。

 なるほど、それでサイがここを最初の場所に指定したのか。

 合点がいった。

 

「ほら、この国窪んでるでしょう? これは魔族の王の一撃の跡と言われていますね。あまりの所業に、あれは神だったのではないか、と疑う者もいたとか」

 

 老人が遠く外壁の方を指差し、窪みの底に近いここと比較をする。

 言われてみれば入国時から変わった地形だとは思っていた。流石父上、凄まじい。

 老人は話を再開する。

 

「ある日パタリと魔族の王は攻撃を止め、一切姿を表さなくなりました。そこから人間達は争いを止め、手を取り合い、800年近くに及ぶ長い時をかけ、ようやくここまで復興ができたのです」

 

「この石碑には、再びこの国が蘇った記念の他に、慰霊の意が込められています」

 

「そして、二度と魔族の地を荒らさないといった戒めも」

 

 老人がさらに目を細め石碑を眺める。その瞳には寂寥が含まれているようだった。

 

「でも私は、いつか魔族の方々とも仲良くなれないかな? と考えています」

 

 最後に一言を付け加え、また、私たちへ笑顔を見せてきた。

 話が終わったのか老人が立ち上がる。つられて私たちも立ち上がった。

 

「老人の長話にお付き合い頂きありがとうございます」

「いえ、こちらこそ」

「いいハナシだったよおじーちゃん」

 

 お互いに礼をし別れを告げる。

 老人は石碑の陰に消える直前、何か思い立ったようにこちらへ振り返った。

 

「ああ申し遅れました。私この国の王、ドウゲンといいます。では」

 

 口をあんぐりと開けたままミコトと顔を見合わせた。彼女も同じ表情をしている。

 

「お……」

「王様だったんだ……」

 

 気品も漂うわけだ。しかしそんな簡単に王族が外に出ても問題ないのだろうか。

 人のことは言えなかった。

 

 

 

 宿に戻った後に気づいたが、古書店で歴史書を貰っていた。

 内容は今日ドウゲンから聞いたものと大方同じで、人間の戦争の歴史、猛威を振るった父上による大虐殺、復興の道程について記されていた。

 

 見上げていた本を閉じ、横で寝ろというミコトの意見を聞き入れ寝転がっていたベッドの上でため息を吐く。

 

 知らなかった。

 父上が人間界を攻めたことについてはサイからある程度聞いていた。しかし理由や経緯を聞いてもはぐらかされるので諦めていたのだ。ここまで人間に対し激しい怒りを持っていたとは。私が知る、感情の起伏が少なく基本的に冷淡な父上からは想像がつかない。しかしやりすぎではないだろうか。

 

 隠れ里のことも含め、父上に対するイメージがどんどん塗り替えられていく。

 だがそれにつれて”父上”という人物について気になってきた。

 

 これは明日戻ってサイを問い詰める必要がある。

 ラヴィがそんな時間を許してくれればだが。

 

「明日はどうすん? ピッピ」

 

 横で後ろ足をパタパタさせていたミコトがこちらへ質問してきた。

 そういえば明日は一度帰ることを伝えていなかった。

 

「明日は一度帰らないといけない」

「おっ、帰郷すんの? じゃああーしも付いて……」

「ごめん、私1人で」

 

 連れて行けないし、連れて行かない。魔界だもの。

 

「ええー! あーしピッピの行くとこに行くって言ったじゃ〜んん〜!」

 

 ミコトに肩を揺らされ頭が宙を混ぜる。

 仕方ないので説明をしよう。

 

「連れて行きたいけどこれは1人しか運べないの」

「なにソレ」

「転送石って言って2つの場所を一瞬で移動できる道具」

「へー便利。いくらすんの?」

 

 目が硬貨の形になっている。いない間に売り飛ばされないだろうか。

 

「これがここに置いてあれば戻って来れる。だから1日したらすぐ帰って来るよ」

「ええー」

 

 不満なようなのでミコトの頭を撫でる。

 一瞬肩をビクッとさせた後、力が抜けたように受け入れてもらえた。そういえば彼女の頭を撫でるのは初めてか。

 

「またすぐ旅出来るから。待ってて」

「ぶぅー」

 

 頬を膨らませて不機嫌を表明しているが、承諾はしてくれたようだ。

 ラヴィよりは聞き分けがいいかもしれない。

 

 さあ、朝の一番に戻らないといけない。

 今日はもう寝よう。

 

 明日は家に帰って1ヶ月間相手できなかったラビィの相手をしてサイに苦言を言ってその間ミコトはここで自由に過ごすのか。

 

 ああ、

 

 不安だ。

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