半分世界とかわいい魔王とヒューマンピーポー   作:黒烟

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ポルトマ 上

 スプーニャ行きの船が出港するのは明後日らしく、それまでポルトマで待機となった。

 

 空き時間が出来たのでこの国の魔術・魔術師を探しに出たが、なぜか全員ついて来る。

 暇なのか? まあ、暇か。同じ船を待つ者だし。

 

 以前同様、国全体へ探知魔術を使ったところ、なんと魔術師は20人もいた。ヴェスタカンテンとはえらい違いだ。

 まだ日も高いので片っ端から当たっていく。が、あっさり全滅した。誰に聞いてもそんな魔術は聞いたことがないとか。うーん、前途多難、暗雲が立ち込めている。

 あと全員が旅人でスプーニャを目指しているという妙な共通点があったが……国お抱えの魔術師などはいないのだろうか。

 

 日が暮れてきたので宿を探す。ところが、どこもすでに満室だと返されてしまった。ポルトマでは出航日が近い時期は混むのだそうだ。

 またか。どうもタイミングが悪いようで宿には恵まれない。

 野宿を検討していたところ、マイカから『今取っている部屋が広いから相部屋しようぜ』と提案された。

 ミコトだけ預けて野宿すると返したが押し切られた。我ながら押しに弱くて嫌になる。

 

「へへーん、ここが我々の住まいである!」

「借りた部屋だがな」

「そしてピンコとの愛の巣か」

「およしなさい」

 

 本当によしてくれ。マイカが何かを喋る度、ミコトの額の青筋が増えている気がする。

 今日はあれ以降、彼女と2人きりになれず事情を聞けていない。腰を据えて話をしたいところだけど……

 荷物を下ろして膝を抱えるミコトへ近づき、隣にしゃがむ。

 

「ごめんミコト」

「……なにが」

「今日、しっかり話聞けてなくて」

「……ぶぅ」

 

 頬を膨らませてむくれるミコトがなんだか可愛くて頭を撫でる。

 

「……ホントズルい」

「ごめんね」

 

 少しだけ機嫌を直してくれたようで微笑んでくれた。が、一瞬にしてまた険しい顔になる。不思議に思って視線の先を辿ると……目の前に中腰のマイカがいた。

 

「ミコト。今日はごめんね、はしゃぎすぎちゃった」

 

 意外と殊勝な態度で謝ってきたことに驚く。いい加減怒ろうかと思っていたのに。

 彼女は好き放題やっているようで、意外と周りが見えているのかもしれない。だからこそ困っている人にも気付けるのだろうか。少し見直す。

 ミコトはしばらくマイカを睨んだ後、ぷいっとそっぽを向いた。

 

「ありゃ」

 

 それはそうだろう。初対面であれだけ馴れ馴れしく接して来たのだから。

 

「なんだよぉ、冷たいじゃねぇのぉ〜」

 

 マイカは負けじとさらに馴れ馴れしくミコトへ引っ付く。

 うん、久しぶりの鬱陶しさだ。

 

「ぎにゃーっ! ウザっ、あーしアンタ嫌いーっ!」

 

 嫌悪丸出しでそう言い放つと身を捩って振り払った。

 

「うーっピンコぉ〜ジャケンに扱われたぁ〜」

 

 マイカはわざとらしくよろめき、しゃがんだ私の膝と腹の間に頭を滑り込ませて来た。

 うん、鬱陶しい。全くどうしようもない奴だ。溜めた息を鼻から漏らして彼女の頭を撫でる。

 

「ああーっ! それダメっ! ふざけんなっ!」

 

 投げ飛ばされた枕をマイカが避けたので私の胸に直撃する。柔らかい枕のクセにまあまあの衝撃だ。

 

「んもう、ピンコ愛好家同士仲良くしようぜぃ」

「フシャーッ!!」

 

 再び近づかれて牙を剥き威嚇するミコト。このやりとりはいつまで続くのか。

 

「もう寝ようよ」

 

 私の声はどこにも届くことなく、夜は更けていく。

 

 

 夜中、何かの物音で目が覚める。

 朧げな意識の中薄目を開けると、立ち上がる人影が見えた。それはのっそり、のっそりと私の居る方向に移動してくる。

 正体が何か、目的が何かを考えようとするが、眠い。きっと誰かがトイレへ行こうとしているのだろうと結論づけた。

 人影は私の横を通り過ぎ、入り口を開け何処かへ去っていく。

 やはりトイレか。用心の必要がなくなり、再び意識を沈めた。

 

 微睡み始め眠りの底に落ちかけた頃、ドアが開く音がした。戻って来たか。

 足音は少しずつ私のいる方向へ近づくと、遠ざかることなく真横で止まる。そして背後で小さな布擦れの音を立てると、完全に沈黙した。

 いや、よく聞くと寝息が聞こえる。寝ぼけて私の布団に潜り込んだか。マイカかミコトかな。

 移動するのも面倒なので、そのままにさせることにした。もう眠いんだ。

 

 

 

「あらっ」

 

 カスミの驚いた声で目が覚めた。夜が明けたのか。妙にいい匂いがするな。

 身体を起こそうとするが何かが巻き付いて起き上がることができない。

 後ろの誰かが寝てる間に抱きついたのか……肩から上を後ろに回して拘束した犯人を確認したところ、

 そこにはトビウメがいた。驚愕で完全に醒める。

 彼女も起きたようでゆっくり目を開けた。

 

「わあっ……かわいい妖精さんだぁ……」

 

 薄目でこちらを見て呟く。魔王だ。

 半分合ってるけども。

 

「ま……まぁ……いつの間にそれほど仲良く……昨晩一体何が……」

 

 私が聞きたい。というかこの状況大丈夫か? 今は意識が混濁しているが、もし彼女が覚醒しきったら……

 脱出を試みるが、なぜか逆に拘束が強くなった。色々まずい気がする。

 柔らかく微笑んでいたトビウメだったが、はたと何かに気づき、みるみるうちに顔から血の気が引いていく。

 懸念通りになりそうだ。

 

「いやあああああああああっ!!!」

「ふやあっ?」

「なにごと!?」

 

 壁まで後退り後頭部をぶつける彼女の絶叫に、マイカとミコトが叩き起こされた。

 

「ど……どうして一緒の布団に!? まさか私も毒牙にかけるつもりですか!? はっ! それとももう寝ている間に……! いやあっ! 傷モノにされましたああああっ!」

「そんな……嘘でしょピッピ……」

「トビウメは痛みやすい果物だったのか……」

「何をおっしゃってますの?」

 

 阿鼻叫喚だ。勘弁してくれ、私が何をした。

 トビウメを宥めるか周囲の誤解を解くか、目を白黒させていたところ、

 

「がくっ」

 

 トビウメは気絶した。散々場をかき乱しておいて……

 しかし、どうしたものか。

 

「ピッピ……」

 

 ただならぬ気配を感じた。

 寝汗とは異なる冷たいものが背中を伝っている。後ろを向くのが怖い。

 し……しかし、身の潔白を示す必要があるだろう。私は無実だ。

 恐る恐る後ろを振り向いた。

 

「どういうこと……? 説明して」

「おうおう頼むぜピンコちゃんや」

 

 苦笑いのカスミ、笑いを堪えて煽るマイカ、あと鬼。

 立ち上る闘気が、さながら蜃気楼のようにミコトの周りの空気を歪ませる。

 回答を間違えると死ぬかもしれない。

 

 

 その後は詰問の時間となった。実際はひたすら自己弁護だったけど。

 慌てて答えるより、冷静に順を追って伝えれば相手に理解はしてもらえる。と、理解はしても声は震えるものだな。何も悪いことはしていないのに。

 

 ちなみにカスミはトビウメの生態を理解しているためかフォローしてくれた。

 ありがとうカスミ……! いつか恩を返そう。

 マイカについてはミコトの横で口に手を当てひたすらニヤニヤしていた。

 覚えてろマイカ……いつか意趣を返す。

 

 必死な釈明の甲斐あってかミコトは飲み込んでくれた。ただ膨らむ頬から蟠りが残っているのが窺えるが……うん、今日だな、今日どこかで話し合おう。

 しかし、それにしても、

 朝から、疲れた。

 

 

 出港まであと1日、この国で最低限やることは終えているので今日は丸1日フリーになった。

 それなら海だ。波乱があって疲れたが海へ行きたい。まだ間近で見れていないんだ。

 

「今日はどうしようか。いや、どうしてやろうかピンコ」

 

 グヘヘと笑いながら近づくマイカを片手で抑え、身支度をする。

 

「今日は海へ行こうと思う」

 

 高揚した気分を悟られないよう、なるべく淡々とした調子で返……せていただろうか。

 

「じゃあみんなで行こうぜっ! 海水浴じゃ!」

 

 1人で行動は出来ないような気はしていた。

 泳ぐつもりはなかったんだが。

 

「たまには良いですわね、どうします? トビウメ」

 

 カスミが宥め終えたトビウメにも話を持ちかける。

 あれだけの衝撃的な出来事があって出かける気になるだろうか。

 と、思っていたら彼女はコクンと頷いた。

 行くのか。結構寂しがり屋なのかもしれない。

 

「ミコトはどーする?」

 

 マイカがミコトへ確認に伺うが、

 

「行かないっ」

 

 ぷーんと頭を振って返した。

 ミコトが部屋に残るなら2人きりになれるチャンスかもしれない。マイカ達には悪いが、海は彼女達だけで行ってもらおうかな。後で合流も出来るだろうし。

 

「それなら……」

「それならピンコ借りてくねぃ〜。グヘヘ……どんな水着を着せようか……」

「なっ……! じゃあーしも行く!」

 

 マイカが横から口を挟んだことで思惑を打ち砕かれた。どうも思うようにいかないな。

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