半分世界とかわいい魔王とヒューマンピーポー   作:黒烟

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スプーニャ 一

 結果から言うと、ミコトさんは大犯罪者だったようだ。

 

「ええーもう過ぎた話じゃん?許して♡」

「ふっ…ふざけんな!お前がどれだけこの国で暴れたと思ってんだ!」

「あーしは自分の身を守っただけだしぃ」

「だからって金品巻き上げるのは違うだろ!」

「そこはミコトちゃんとのおしゃべり代金ってことで♡」

「お前に潰された街もまだ復興中なんだぞ!」

「べつにいーじゃん、あの街ゴロツキばっかりだったし」

 

 怒涛に浴びせられる怒号をのらりくらりと躱わすミコト。

 会話に挟まる隙がなく、私含めた3人は黙って剣幕を眺めることしかできない。

 マイカはあの喧騒の中でもミコトの背でぐったりしたままだ。

 

 ミコトへスプーニャ行きを告げた時、微妙な反応をした理由が今ハッキリとわかった。さては国内に相当の遺恨を残しているな。

 

 これは入国前に門前払いだろうか。私とミコトだけ残して、この国に用のあるカスミ達だけでも通してもらった方がいいかもしれない。

 しかし、ここでお別れか……うーん……

 

 窓口の男はフーッフーッと荒い息遣いで何とか怒りを抑えようとしている。

 そしてギロッとこちらを睨んだ。

 

「おいあんたら、コイツの仲間か」

「はい、そうです」

 

 若干気圧されつつ応える。

 目が血走っていて怖い。

 

「悪いことは言わねぇ、コイツ連れて引き返せ」

 

 やはり歓迎されていない。相当嫌われているな、ミコト。

 だが、引き返せ?ということは……

 

「……入国拒否という訳ではないんですか?」

 

 私がそう尋ねると、男は後頭部を荒く掻いて吐き捨てるように答えた。

 

「コイツは前回のコロシアムで優勝したからな。恩赦で罪を消しやがったから今コイツは一般人だ。入国拒否すると俺がしょっぴかれちまう……クソッ!」

 

 罵倒と共に手元の机を勢いよく叩く。雇い主としては申し訳ない限りだ。

 それにしても、なるほど考えたな。優勝して罪を消していたのか。

 消す前には一体どれだけの罪が科さられていたのだろう。怖くて聞けない。

 

「申し訳ないですけど……入国でお願いします」

「いいのか?相当恨み買ってるぜコイツ。巻き添え喰らうぞ?」

 

 男は理解出来ないとばかりに片手で頭を抱える。

 確かに、罪を消そうが、それで被害を受けた人物が溜飲を下げる訳ではないだろう。その恨みで研がれた刃の切先が、私たちの元へ向くこともあるだろう。

 それでも。

 

「いいですよ、仲間なので」

「一蓮托生ですわ」

「フッ、望むところ」

 

 私が宣言すると、他2人も賛同してくれた。国内では別れて行動した方がいいかと考えつつあったが、助かる。もう少し同行出来そうだ。

 いざとなれば、私が守ろう。仲間として。

 私の言葉を聞いたミコトが、んふふっと嬉しそうに笑いながら私へ抱きつき、頬擦りしてきた。

 背中のマイカの頭がグラグラ揺れて眉を顰めている。哀れだ。

 

「そ、あーしら病める時も健やかなる時も一緒なの。だからさっさと通して♡」

 

 彼女はその体勢のまま、片手で男を急かした。

 男からギリッと奥歯を噛む音が聞こえてくる。

 本当に、申し訳ない。

 

「知らねぇからな……おらよ、許可証だ。とっとと行け!」

 

 ダアンと叩きつけるように判を押した男が紙を寄越してきた。

 

 こちらとしても早いところこの場から去りたいが……

 チラッとマイカを確認した。彼女は青い顔のまま、震えた手でサムズアップして見せる。

 ダメそうだ。

 

「つかぬことをお聞きしますが……医者はどちらでしょうか」

 

 低姿勢で尋ねていく。これ以上彼の逆鱗に触れたくはない。

 

「ああん?……ここ出たら大通りを左側に進むと見えてくるはずだ。わかったらもう行け」

 

 知らん、と突っ返されると思っていたが……素はいい人なのかもしれない。

 何をしたら彼をここまで怒らせることが出来るのだろうか。

 当の本人は素知らぬ顔で鼻歌を奏でている。

 

 ……国に入った途端後ろから刺されるかもしれない。

 警戒して挑もう。

 

 

 

「……船酔い、ですな」

「フナヨイ?」

 

 マイカを診た医者がそんな単語を発した。

 聞いたことがない。酔い?船に乗ると酔うのか?

 

「ポルトマから来たならカトリクス海域を通ったでしょう?あそこは大昔、魔王が大地を裂き、いくつかの島へと変えた際に出来たと言い伝えられてましてな。その残滓が、感覚の優れた人間の意識をかき乱すとか」

 

 医者が解説を始める。

 どうやらマイカ不調の原因は父上のようだった。

 

「ま、最近は海底から巻き上げられた高濃度のニアが原因といった説も唱えられております。大地を分裂させるなんてあまりに荒唐無稽な神話ですからな」

 

 確かに荒唐無稽だが、実行犯が父上となれば話は別だ。

 大地を裂いたというのはヴェスタカンテンの歴史で聞いたので、大した驚きはないものの……あの海域、丸ごと父上の影響か。改めて凄まじい。

 

「いずれにしろ、今日明日ゆっくり休んでいれば治りますよ。お大事に」

 

 医者はそう告げると退室を促した。

 

「うおお……私が魔王なんぞに……負け…るかぁ……」

 

 部屋を出ながらマイカがそう呻く。

 彼女へ危害を加えているのが父上と知り、私としては複雑な心境のまま、項垂れたその背中を軽く叩いた。

 

 既に亡くなっているにもかかわらず、800年前の活動による影響が未だに残っている。相手はそんな魔王だ、勝てる生物を探す方が難しい。

 少なくともその不調に打ち勝つまでは、現魔王が側で見ていてやろう。

 

 

 さて、目的を一つ達成した。

 次は何をしようか。魔術師でも探そうか。

 

「私、コロシアムの受付済ませてきますわ」

 

 カスミがそう言ってトビウメと離脱しようとするので引き留めた。

 

「待って、まとまって行動した方がいいと思う」

「あー……そうでしたわね」

 

 目線がミコトに集中する。

 彼女は額に拳を当てて恥ずかしそうに笑うと、

 

「ごめん、スミちゃん」

 

 舌を出して謝罪した。

 以前も見た所作だが、彼女の故郷の文化だろうか。個人的に、この仕草は謝罪に向いていないと思う。

 

 

 コロシアムが開催されるのは、石造りで大きな円錐状の建物だった。

 ”コロシアム”と言う名は、この建物なのか、大会の名前なのかと考えていたところ、カスミが入り口の関係者の元へ走って行った。

 我々は近くで休ませてもらおう。病人もいるし。

 

 休憩がてら参加者らしき集団を眺めていると、見たことのある顔がチラホラ目についた。

 もしやと思い探知魔術をかけたところ、なんと魔術師32名、かなりの数だが、全員この場にいる。

 なるほど、ポルトマにいた魔術師はほとんどがコロシアム目当てだったか。同じ場所にいるなら尋ねやすくていいな。

 ポルトマで既に尋ねた人物は除外して、それから質問タイムだ。ただ、大体はもう建物内に入ってしまっている。部外者でも入れるか聞いてみよう。ちょうどカスミがこちらに戻ってきているし。

 彼女は急足でこちらへ駆けつけ、何やら難しい顔のまま口を開く。

 

「今回は参加条件が男女混合ペアらしいですわ」

 

 参加条件なんてものがあるのか。

 

「毎回違うの?」

 

 知ってそうなミコトに問いかける。

 

「んーそうなんじゃない?あーしの時は1対1でルール無しだったよー」

 

 ルール無用と言うことだろうか。良く勝ち抜けたな。

 ともあれ、男女混合。必然的に私が参戦となるだろう。

 

「カスミは……勝ちたいよね」

「勿論ですわ」

 

 それなら勝率が高い相手と組むのが得策だ。

 

 マイカ……はとても今動けそうに見えない。

 トビウメ……は無理だろう。まだ私と背を合わせられそうにない。

 ミコト……ならうってつけじゃないだろうか。前回優勝者だし。

 ならば、とミコトへ視線を向ける。

 

「ごめん、無理」

 

 こちらの意図を汲んだミコトが先んじて拒否してきた。

 

「いやーなんか優勝したことあるヤツはもう出られんらしくて〜」

 

 言われて納得する。毎回優勝なんてされたら国が滅茶苦茶になりそうだ。こんな催しをして、国を存続出来ていること自体感嘆ものだけど。

 

 となると、カスミだな。

 以前視たから知っているが、彼女も決して弱くはない。

 比較対象が異常に強すぎるだけだ。

 

「じゃあ私とカスミで参加しよっか」

「……いいんですの?」

 

 不安げに彼女が尋ねてくる。

 あまり戦いが好きではないのかもしれない。

 

「ごめん、この組み合わせ以外ないかなって」

「逆ですわ!貴方がここまでする……理由がないでしょうに」

 

 その言葉を聞いてハッとする。

 完全に参加する気になっていたが、カスミからすると私はほぼ部外者だ。

 ここまで協力的だと訝しむのも当然だろう。

 それに私自身もなんのメリットもない。

 でも……まあ、そうだな。

 

「今まで同行してて、ここで手を貸さない理由のが、ない。かな」

 

 情が移った、というか。これも仲間意識の一種だろうか。

 私の気持ち的には妹が増えた、に近いかもしれない。

 

「……貴方変なところマイカに似てますのね」

「えっ」

 

 なんだか……度を越したお人好しと一緒にされると複雑な気分だ。

 こちとら魔王だぞ。

 咳払いをして話を続ける。

 

「まあ、とにかく。どうする?」

「いえ……覚悟は出来ております。お願い致しますわピンコ様」

 

 ここに新たなコンビが結成された。

 頼られたからには応じる。王の務めだ。

 

 カスミと共に受付へと向かう。

 が、受付は建物の中か。そうするとこの場を離れないといけない。

 

「トビウメ」

「はひっ!なんでしょ……なんだ?」

 

 ビクーッとした後スンッとなる。なかなか見ていて面白い。

 

「マイカに渡した結晶、まだ残ってる?」

「ああアレか?確かいくつか使って……」

 

 横でくたばるマイカの代わりに彼女の荷物を漁ると、結晶を取り出した。

 

「あと、1つです。……だな」

 

 そこまで減っていることに戦慄する。4個はどのタイミングで使われたのだろうか。

 多めに渡しておいて良かった……

 

 トビウメから結晶を受け取り、これを触媒にして、と。

 魔術陣を1つ、2つ、3つ、ミコト中心に開いて……念のためもう1つ。よし、これだけあれば大丈夫だろう。

 ここまで意外と襲ってくる輩もいなかったし、心配し過ぎかもしれないけど。

 

「じゃあちょっとだけ行ってくる」

「いてらー」

 

 良く考えたらこれで建物の中にも入れる。好都合だ。

 いざ、目指すは優勝。

 

 

 入り口を進むと、3人の男が待ち構えていた。受付の者か。

 彼らは私達のコンビを見て苦笑する。

 

「いやいや、男女混合ペアですぜお嬢さん方」

「随分ちいせぇな、ここは子供の遊び場じゃないぜ」

「まぁ未成年でも参加できゃするけどな。死んじまうぞ?」

 

 失礼だな、気持ちはわかるけど。

 私もカスミも小柄で華奢な見た目だ。とても戦える様には見えない。

 だが参加できないのは困る。きちんと説明しておこう。

 

「私が男で、あと成人してます」

 

 カスミの歳は知らないが、話し方や対応を見る限り、成人しているのではないだろうか。他の仲間3人より精神的に成熟している様に感じる。

 ……全員に失礼かも。

 

 私の言葉を聞いて、男達は吹き出して笑う。

 

「いやいや、無理があるだろ」

「なんか事情があんのかもしんねぇけど、決まりだからな」

「そういうこった。ま、チンポでも出しゃ信じてやるよ」

 

 予想通りの反応だ。

 別に女性と勘違いされても、その場限りの関係なら誤解を解く必要はないと考えていた。面倒だから。

 それに、状況によってはこの容姿が利用出来るかも……と思ってはいたが、今回は逆に、”自分は男である”という主張が必要となる。どうしたものか。

 

 ふと、先ほどの男のセリフを思い出す。

 性器。

 性器か、確かに男性と一目でわかる。

 しかし、彼らの前で曝け出す想像をするだけで相当恥ずかしい。

 うーん……どうしよう。

 

 …………ま、いいか。同性だし。

 集落には男女で分かれた共同浴場があったくらいだし、人間は同性の裸に抵抗がないのだろう。

 そう自分に言い聞かせることにした。

 

「えーと、こんな感じです」

 

 衣服をペロンと捲って見せる。

 外套を遮蔽物とし、男達以外からは見えない様に気を配っているが、自身のセクシャルな部分が外気に晒される感覚はなんとも形容し難い。

 とりあえず眉間に力を込めて耐えることにした。

 

「はあっ!?」

「つ……付いてる!?」

「お……俺よりデカ……」

 

 彼らも確認できた様なのでそそくさと仕舞う。

 

「これで大丈夫でしょうか」

 

 なるべく恥じらいを悟られない様、胸を張り、凛然とした態度で声を絞り出す。

 

「へ?あ、ああ……」

「女の子にアレ……アレが……」

「嘘……え…俺、俺のは……嘘だろ……」

 

 大丈夫ではなさそうだ。

 辛うじて正気そうな受付の男が許可をくれたみたいなので、足早にその場を後にする。

 少し遅れてカスミが後に続く。今は直接顔を合わせられないので背中越しに彼女を覗くと、目を逸らされた。顔はトマトの様に赤く染まっている。

 

「その……申し訳ありません」

 

 謝らないでくれ。

 

 

 なんとか自分を落ち着け、冷え切らない頭のまま残りの受付を済ませた。少し上の空になりながら説明を聞き流したが、大会自体は明日に実施される様で、今日は待機日となるそうだ。

 なら、今すぐ宿にでも行って寝て忘れたい。こういう時ばかりは酒に酔えればいいなと思う。

 けど、ここが踏ん張りどころだ。参加者に魔術を聞いて回らないと……

 

 

 駄目でした。

 いっそここで見つかっていれば、恥じらいも全て人間界に置いて去ることができたのに……

 大会の約束があるのですぐには去れないだろうけども……

 

 とりあえず仲間の元へ戻ることにした。

 肩を落として歩いていると、カスミからは憐れみの視線を浴びせられているような気がする。振り向く元気もないけど。

 

「あ、おかえりピッピ〜。スゴイねこれ」

 

 こちらの気配に気づいたミコトが手を振っている。

 周りには数多の死体が転がっていた。いや、殺してはないから気絶体?

 なんであれ死屍累々。人数が減ったのを見計らって襲ってきていたか。

 

「なっ……なんですのこれは……?」

 

 カスミが上擦った声を上げる。

 

「ミコト殿が言うにはピッピ……いやピンコ殿の魔術らしい。飛んできた矢は弾かれ、襲いかかる刃は折れ、目前に迫る人間は全て手前で倒れた」

「んふふ〜。さすがはあーしのピッピ」

 

 なぜかミコトが自慢げにしている。自分が狙われたという危機感はないのだろうか。

 ただ実際、彼女自身は1人で対処できるのだろう。余計なお世話だったかもしれないが、そこで横たわる病人もいることだ。万全は期した方がいい。

 

「何をどうしたらこうなりますの?」

「えーと、魔術無効と電撃と斥力、あと感知魔術かな」

 

 言いながら術を解除していく。

 1つの魔術の処理にまた別の魔術を組み込んでいるため実際はもっと複雑だが、詳細は省いて最終的な結果から得られる名称で答える。

 仕組みを懇切丁寧に語っても、他者が聞くと退屈だろう。

 

 続く言葉がなかったのでカスミの方を伺うと、彼女は目を輝かせてこちらを見ていた。

 

「凄いですわピンコ様!なんだか明日勝てる気がしてきましたわ……!」

 

 両手を取って私を褒めるカスミ。

 こう正面切って褒められると……正直嬉しい。

 少しだけ自尊心を取り戻すことが出来た。

 

「うぐぅ……すごいぞぉ……ピン…コ……」

 

 横たわる死体にも褒めてもらえた。

 寝てなさい。

 

 

 

 まだ日も高いが宿へ向かうことにした。

 私のメンタルがすり減っているのもあるが、これ以上外にいて目立つのは避けたい。

 回避できる戦いは回避した方が良いのだ。

 

 しかし、この国は敵しかいない陸の孤島。泊めてくれる宿があればいいが。

 

「帰れ」

 

 荒々しい外装の建物が並ぶスプーニャの中で、佇まいの良い宿を探して入ったところ、店主の一言目がそれだった。

 ここで引き下がって別の宿を探すのも手だが、今の気分的に面倒だ。

 強引な手を使わせてもらうとしよう。

 

「では、これでどうでしょう」

 

 荷物から金貨一枚を取り出し、店主前の台上に転がす。

 

「っ!?」

 

 前回ミコトを買った時に気づいた。人間は金銭に弱い。

 無論誰しもそうと言うわけではないだろうが、相手が商売をする人間なら効果は絶大な様だ。

 机の上の金貨を穴が開くほど見つめ、店主は動きを止めてしまった。

 もう一枚転がす。

 

「わかった!もういい!」

 

 店主は他の客から隠す様に2枚の金貨を抱えると、早々に懐へと仕舞う。

 

「……2階奥の部屋。一室だけ貸してやる」

 

 小声でそう呟くと片手で追い払う仕草をした。

 交渉が成立した様だ。もっと要求してくる可能性も視野に入れていたが、意外と謙虚なのかもしれない。

 

 

 部屋は5人いても問題ない広さで、街の荒々しさからは想像出来ないほど洗練された作りだった。掃除も良く行き届いている。

 かなり良い宿じゃないか?よほど丁寧な仕事ぶりが伺えると共に、ミコトへの恨みの根の深さがわかる。

 本当に、何故彼女は国中から蛇蝎の如く嫌われているのだろう。

 以前、商人がミコトを”傾国の美女”と評していたのを、なんとなく思い出した。

 

 荷物を下ろし、ぐったりしたままのマイカをベッドに寝かしつける。

 ここまで面倒見てくれたミコトには感謝だ。お礼は国を出てからになりそうだけど。

 ひとまず彼女の頭を撫でて礼を伝えると、満面の笑みを浮かべた後、マイカの横で昼寝を始めた。豪胆だな。

 先ほど同様、この部屋全体にも防御魔術をかけていく。この宿に入ったところは誰かに見られているだろう。火を放たれるのも嫌だし、防火も追加しておくか。

 

「ピンコ様」

 

 カスミが声をかけてきた。

 何か用だろうか。

 

「その……ですわね……」

 

 何かを言い辛そうに躊躇している彼女の肩を、トビウメが優しく叩く。

 

「カスミ、ピンコ殿になら、話しても構わない」

 

 少しの間の後、トビウメと目を合わせていたカスミが小さく頷き、真剣な面持ちで私へ向き直った。

 こちらも思わず姿勢を正す。

 

「……貴方を巻き込んでおいて、此方の話をしないのは義理が通りませんものね」

 

 そう告げると、彼女は身の上話を始めた。

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