半分世界とかわいい魔王とヒューマンピーポー   作:黒烟

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スプーニャ 四

 Aブロックの決勝戦が始まる。

 

 これでブロックごとの優勝者が決まり、そこから2戦勝ち上がれば優勝となる。

 心機一転、気合を入れて挑もう。

 

 先程目を覚ましたカスミは、三回戦の前より更に浮かない顔になっていた。

 前回の試合の影響がまだ残っているのだろうか。

 これは私が頑張らないと。

 もう先ほどのような失態は御免だ。

 

 勇を鼓してステージへ上がる。

 

「あ」

 

 相手側に現れた2人を目にして思わず声を上げてしまった。

 

「まさかこんなところでまた会うとはねー」

「ホント……悲しいことにね」

 

 砕けた物腰の男性と、肝の据わった女性のコンビ。間違いない。

 船上でカスミの帽子をキャッチした夫婦だ。

 いや、確かこれから夫婦になるんだった。

 

「こんなことならあの帽子は見捨てとけば良かったわ」

「マリちゃんには無理だよ、いい子だもん」

「うるさいっ」

「あたたっ」

 

 ”マリちゃん”と呼ばれた女性が男性の耳を引っ張っている、以前も見たやりとりだ。彼女達もここまで勝ち抜いて来たのか。

 

 ……どう声をかけたものだろうか。

 この催しで優勝することを応援しておきながら、敵として立ちはだかっているのだ。

 誹られても文句は言えない。

 

「その……」

 

 正直に説明して謝ろうとすると、女性は困ったように笑い、私の言葉を遮った。

 

「謝ろうとしなくていいわ、貴方にも何か事情があるんでしょ?」

「そうだよ、ボクらはただ、お互いの目的の為に闘うだけ」

 

 2人はそう告げると剣を構えた。

 

 その姿勢に心から感謝し、頷いてからこちらも杖を構える。

 

 男性。闘気、なかなか。魔力、そこそこ。

 女性。闘気、なかなか。魔力、そこそこ。

 

 どちらも同じタイプのようだ。この感じだと魔術もある程度使えるだろう。

 複合両立型の魔術剣士、それも2人。かなり厄介だ。

 

 だけど調子の悪いカスミの為にも、私が頑張らなければ……!

 

「それではAブロック決勝戦……」

「カスミ!」

 

 誰かの張り上げた声が、審判員の宣言を止めた。

 声の元を辿ると、トビウメが控え席から身を乗り出している。

 

「棄権して……いいよ!」

 

 彼女のその言葉を聞き、私の横で俯いていたカスミがようやく顔を上げる。

 そしてぎゅっと目を瞑り、拳を固めると、大きく息を吸った。

 

「私たち、ら……らぶりー…ぴかちんチーム……?は、棄権しますっ!」

 

 カスミは声を大にし、形式に則って棄権の宣言をした。

 汗顔無地確実の名前を叫んだのが余程恥ずかしかったのか、顔が赤い。

 

「……申し訳ございません、ピンコ様」

 

 カスミは流し目でこちらを窺い謝罪を述べた。

 コロシアムへの参加自体彼女の意思なので問題はない。

 だがトビウメとの目的は大丈夫なのだろうか。

 

「私は構わないけど……いいの?」

「たとえこれで優勝したとしても、私は胸を張ってこの国に住めませんわ」

 

 カスミは自嘲気味に笑って答えた。

 そうか、彼女が浮かない顔だったのは、自身が拳を振るうこともなく勝利を重ねた所為で後ろめたくなっていたからか。

 どうやら私が出しゃばり過ぎたみたいだ。反省。

 

 決着の合図が響き渡ると、控え室から仲間の3人が飛び出して来た。

 

「頑張ったね、お二人さん」

 

 マイカがそう言って私とカスミの頭を撫でる。

 時折姉っぽくなるな、彼女も妹や弟がいるのだろうか。

 

 カスミは胸の前で拳を握り締め、鼻息を荒くして口を開いた。

 

「私、もっと強くなります」

「ああ、強くなろう、カスミ。私と一緒に」

 

 彼女の横へトビウメが寄り添い、言葉をかける。

 眩しい光景だ。

 

 目を細めて2人を眺めていたら、夫婦……予定の女性がこちらに寄って来た。

 試合後の挨拶だろうか。

 

「そういえば貴方、男の子だったのね」

 

 予想していた言葉とは違った。

 男ですが、どのような要件でしょうか。

 頷いて次の言葉を待つ。

 

「随分可愛い女の子に囲まれてるみたいだけど」

 

 女性は私の周りにいる仲間達を眺めた。

 異論はない。何の偶然かわからないが、私の仲間は見目麗しい女性ばかりだ。

 

「で、本命はどの子なの?」

 

 彼女は顔をグッと近付けて耳打ちして来た。

 口元を吊り上げてとても楽しそうにニタニタしている。

 相当恋愛話がお好きなようだ。

 

 当たり障りのないあしらい方を考えていると、ミコトが私を抱き寄せて胸に頭を突っ込ませた。

 ええと……

 

「あーしに決まってんじゃん、ピッピは未来のダーリンなんだから!」

 

 ミコトは女性に向かって大声で告げる。こちらの会話を聞いていたようだ。

 それにしても未来のダーリンとはまた唐突だ、揶揄っているのだろうか。

 

 ふと、いやに静けさを感じてあたりを見回す。

 先程まで騒がしかった会場が今、火が消えたように白けている。

 

「違うね、それは私さ!」

 

 静まり返った中で、マイカが場違いなほど明るく宣言をした。

 だが続く音も無く、沈黙だけが残り続けた。

 

 何だ、何が起きてる。

 原因を探る為に探知魔術を展開しようとした次の瞬間、

 

『はああああーっ!?』

 

 会場に大勢の怒号が響き渡った。

 

 ざけんな!

 俺のミコトを!

 ブッ殺す!

 と言った類の罵倒と共に観客の約半数が何処かへ消えていく。

 

「あらー、その子大人気みたいね」

「まあ私ほどじゃないけどね」

「何張り合ってるんだ貴様……」

 

 状況が飲み込めないまま、理解していそうな女性へ教えを乞うべく顔を向けた。

 どういうことですか、これ。

 

「逃げた方が良いんじゃない?」

 

 よくわからないままアドバイスだけいただいた。

 まあ、棄権してるしここにもう用はない。従っておこう。

 

「じゃあ今度こそ、応援してます」

 

 私から再び応援を送った。

 この2人ならきっと、優勝を掴み取れるだろう。

 確証などないが、そうであって欲しい。

 

「ありがとね」

「次はウチへ遊びに来てね!」

 

 手を振る夫婦へ別れを告げ、仲間を呼び集める。

 

「じゃ、逃げよっか」

 

 全員で頷いたあと、ミコトは私とカスミを小脇に抱えて立ち上がった。

 

「ひゃっ」

「マイカはトビウメをよろしく!」

「がってん!」

「えっ、私もあっちに混ざりた……離せ貴様っ!」

 

 マイカはトビウメの股の間から頭を通し、そのまま肩車の状態になった。

 2人合わさると物凄い等身だ、私の2倍はある。

 

 横に広い生物と縦に長い生物2体で入り口へ向かう。

 

「先に荷物ね」

「あーい」

 

 逃げる前に、まずは預けていた荷物を取りに行かないと。

 転送石も荷物の中だ。

 

 会場から入り口へ向かう回廊の途中、1人の男に行手を阻まれた。

 もう観客がここまで来たのか。

 

「こっちはやめとけ、直に会場の奴らが来る」

 

 そう言いながら何かを渡してくる。

 疑り深く観察すると、黄白色の外套と見慣れた衣服、そして鞄。私達の荷物だ。

 

 コロシアムの関係者だろうか。

 感謝して男から荷物を受け取る。

 うん、全て揃っている。助かった。

 

 男はこちらが荷物の点検を終えたのを確認すると、眉を顰めて口を開いた。

 

「お前さんのせいで、同僚が2人イカれちまった」

 

 薄暗い回廊でよく見えていなかったが、改めて目を凝らすと、彼は初日に入り口で受付していた男の1人だった。こんなところで再会するとは。

 だが”私の所為でイカれた”とは……?

 あの日の私の行動を思い返す。開始して早々に、浅く埋めたばかりのトラウマが顔を見せた。

 アレだ……

 思わず顔が熱くなる。

 

「ごめんなさい……」

「気にすんな、お前さんは恥を忍んで自分を主張しただけだ。俺もあん時は疑って悪かった」

 

 逆に謝られてしまった。

 しかし、今日その2人がいないところを見るに、深い心の傷を負ってしまった可能性がある。

 時間はないが、何かで償えないだろうか。

 その思いを察したのか、男が一つ提案をして来た。

 

「なぁ、写真だけ撮って良いか?アイツらのリハビリに使えるかもしれねぇ」

「えっ……」

「あー違う違う、服着た状態で。そのままで良い」

 

 動揺が顔に出ていたようだ。

 一瞬またアレを見せる想像をしてしまった。

 確かにこの状態なら問題はないが、私の写真が人間界に残ってしまって良いものだろうか。

 それに撮影は写真を一枚撮るだけでも時間がかかると、サイから聞いたことがある。

 

「でも直に来ると先程……」

「安心しな、このカメラなら一瞬で終わる。見ろ、最新型だ」

 

 男が懐からカメラを取り出した。

 以前魔界で見たものより小型で、片手で持てる程度の重さのようだ。

 今日のことがあったので、少しだけ警戒してカメラを視る。

 魔術的な細工はない、と、いうことは単なる絡繰技術か。人間界も侮れないな。

 今度同じものを見かけたらサイに買ってやっても良いかもしれない。

 興味深く眺めていたら閃光が迸った。

 

「裏口はあっちだ。じゃあな」

 

 そう言って男は去って行った。

 いつの間にか撮影が終わったらしい。

 

「なになに、どったん?あの人と何かあったん?」

 

 口を挟まず黙っていたミコトが問いかけて来た。

 そういえばあの場にいたのは私とカスミだけだ。

 

「まあ、受付の時に、色々と……」

「???」

 

 歯切れ悪く濁して返す。

 反対側でミコトに抱えられたカスミへ目をやると、気まずそうに頷いてくれた。

 

 このことは2人だけの秘密にさせてくれ。

 

 

 裏口から逃げ出したもののあっさり発見され、激昂した大勢の人間から逃げる中、ミコトは以前この国にいた時の経緯を教えてくれた。

 

「前にこの国来た時にさぁ、飲み屋で”あーしに勝ったやつをダーリンにしてあげる”って言った日からいろんなところで勝負挑まれちゃってさ。誰があーしに挑むかで揉めて街巻き込んだ抗争になったみたいだし。最終的にここの王子まで出て来てさぁ。ま、弱かったんだけど」

 

 美しさって罪だよねー、とミコトが得意げに呟く。

 

 スプーニャにおける彼女の嫌われぶりの理由が判明した。

 求愛行動でミコトに挑むのは百歩譲って良いとしても、それに巻き込まれる一般市民はたまったものではない。

 国の和を乱し、間接的に街を壊滅させ、あまつさえ王族の求婚を文字通り蹴った上で無罪放免。納得できない人間の方が多いだろう。

 恨みも買うし、羨望の眼差しも集める訳だ。

 傾国の美女は、ここに存在した。

 しかし手癖の悪さはなんとかならないものだろうか。

 

 そして今気づいたが、怒りの矛先が私に変わってないか?

 後ろの猛り狂う群衆を見、このまま捕まった時のことを想像して身震いする。

 どれもこれもあの時のミコトの冗談のせいだろう。

 全く困ったものだ。

 

 流れ去るスプーニャの街並みを眺め、この国での軌跡に思いを馳せる。

 大きな恥も感じたし、背筋の凍るような危機もあった。

 だけど、仲間の過去を知って、思いを知ることが出来て、協力して。実りある旅の一頁になったことは間違いないだろう。

 まあ、私自身の旅の目的に進展がないのは置いといて。

 

 そういえばカスミたちはまた本懐を遂げることはできなかったが、今後はどうしていくのだろうか。

 

「カスミとトビウメはこの後どうするの?」

 

 目を閉じて風を顔に受けるカスミへ、直接聞いてみることにした。

 

「そうですわね、無くなっちゃいましたわね。アテ」

 

 彼女は半目でため息を漏らして呟いた。

 それなら、

 

「その、良かったら一緒に旅しない?行った先で住める場所が見つかるかもしれないし……あとホラ、またミコトに格闘術教えてもらえるかもしれないし」

「あ〜ピッピがあーしをダシにナンパしてるぅ〜」

「ぬぐぅ……」

 

 口を尖らせて抗議するミコト。

 ダシにしたのは事実だし、確かに少々必死になってしまった感じは拭えない。

 

 そんな私たちのやりとりを見て、カスミは柔らかく笑った。

 

「是非、ご同行させてください。きっとトビウメも同じ気持ちですわ」

 

 思わずこちらも笑顔で返すと、ミコトが抱えた手を頬まで伸ばしてブニブニと摘んできた。

 やめなさい、危ないでしょ。

 

「私、いつかトビウメと、そしてピンコ様すら守れるくらい、強くなりますわ!」

 

 カスミは自分に言い聞かせるように、まっすぐ前を向き、再び決意を表明した。

 いい表情だ。頑張れ。

 

「んふふ〜そしたらまずあーしを倒せるくらいにならないとね」

「そっ…れは……気が遠くなりますわ……」

「あははっ」

 

 ミコトの言葉に表情を曇らせたカスミを見て、つい笑ってしまった。

 合わせて笑うミコトと頬を膨らませるカスミ。

 

「なに〜?なんか楽しそうじゃないのぉ」

「我々も混ぜろ。仲間外れは……ダメですよ……」

 

 マイカとトビウメが横に並び不満を投げかけて来た。

 

 肩を並べて国を脱出しようと目論む一行。

 いつしか、全員に笑いが伝播していた。

 

 楽しい。

 こんな旅を、いつまでも続けていたい。

 

 私はいつか魔界に帰らないといけないし、他の仲間もいつかは、それぞれの目的で何処かへ行ってしまうだろう。

 

 それでも私は、

 出来るだけ長い間、この5人でいたいと思うようになっていた。

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