半分世界とかわいい魔王とヒューマンピーポー   作:黒烟

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東の集落

 寝床で横になり、天井を見つめながら東の集落の話を思い出す。

 

 やはり”魔族”というのがどうしても引っかかる。

 そう遠くない、行ってみるか。本当に魔族なら軍法会議ものだ。

 

「へーい一人で行こうってのかい」

 

 マイカがいつの間にか宿入り口にいた。

 さっきまで部屋にいなかったか? 

 

「東のトコに行くんでしょ? 私も同行するぜぃ」

 

 何で知ってる? と思ったがそうか、あの場にいたな。

 しかし、もし魔族が絡むなら巻き込みたくはない。だが彼女の場合、話し合いで引いてくれないだろう。眠らすなりして撒くか? 

 

「背中に乗りな」

 

 マイカが自身の背中を指す。……確かに彼女の足ならすぐ辿り着けるだろう。

 魅力的すぎる誘いに意思がグラつく。

 まあ、乗せてもらって向こうに着いたら考えるか。戦いにならないとも言い切れないし、戦力になるかも。

 

「……じゃあお邪魔します」

 

 しゃがむマイカの背中によじ登る。

 人に背負われるのも何年ぶりだろう。そう言えば父上に背負ってもらったような気がする。

 コイツといると大昔のことばかり思い出すな。

 

「よし! じゃあ……」

 

 速度に備えしっかり彼女に掴まる。

 

「どっちに行けばいいの?」

 

 危うくずり落ちるところだった。

 

 

 

「ここ?」

「たぶん……」

 

 元いた集落が高台だったので東の集落も遠くに小さく見えてはいたが……あの距離を本当に一瞬で辿り着いた。一人だと数刻を消費していただろう。今後も移動手段として雇いたいところだ。

 

 周囲を見渡す。倒壊した家屋、何かが焼けた後……争いがあったのは間違いない。

 しかし……妙だ。

 もはや廃村と化している筈が奥の方で天幕がいくつも張られている。

 まさかと思い目を凝らして視ると……多数の何者かが天幕の中で待機していた。しかもあの感じは……人間だ。

 

「どしたん? 見に行かんの?」

 

 マイカを片手で静止する。

 

「魔族じゃなくて人間がいる。それも大量に」

 

 軽く説明をする。

 流石のマイカも困惑の表情を浮かべた。

 

「なんで?」

「わからない」

 

 恐らくここ集落を滅ぼしたのも天幕内の人間たちだろう。

 しかし何故魔族という話で吹聴されているんだ? 

 

「念の為、集落全体に睡眠魔術かけてから様子見てくる」

 

 集落を丸ごと術の範囲に収め陣を開く。

 

「じゃあ行ってくるね」

「うん」

 

 彼女は承諾した割に後ろから着いてくる。

 

「えーと、全体に魔術陣張ってるから入れるの私だけだよ?」

「ええっ」

 

 どうやら中まで着いてくるつもりだったらしい。

 この術は相手を指定して眠らせている訳ではないので無差別だ。直接相手の状態を弄る術を使えないのでどうしても間接的になってしまう。私自身は魔王の守りのお陰で無効化できているが。

 

 杖で地面に線を引く。

 

「いい? この線より前で待機してて」

「うん」

「くれぐれも線は越えないでね、寝ちゃうから」

「うん」

 

 まるで幼子に言い聞かせるようだ。まあこれだけ言えば理解してくれるだろう。

 よし、じゃあ行ってこよう。

 天幕を目指し集落に入ると、後ろで何かが倒れる音がした。

 

 敵か? と構えたが。

 マイカが寝ている。幼子以下か。

 

 仕方がないので頑張って範囲外に連れ出し木の根本に寝かす。錯視魔術陣を張って周囲から隠しておいた。

 

 ふう……手の掛かる。

 

 改めて元凶と思わしき場所へ向かう。天幕の中にはかなりの数の人間がいた。

 しかしこれは……

 甲冑? そして何かの模様が描かれた旗が置いてある。注意深く観察すると寝ている人間の服や徽章に同じ模様が施されている。

 この感じからすると、何かの組織……国かそれに準じた集団だろう。となると東の集落はその集団の目的のために滅ぼされたということになる。

 目的の内容まではわからないが、都合よく魔族の名を騙って集落を攻め落としているのだろう。どれだけ残虐の限りを尽くそうと、悪評は全て魔族に向かうという算段だ。

 あちらの集落に来たあの旅人も噂を広めている手先かもしれない。ならば次に矛先が向くのはあの集落だ。

 

 正直言って私に助ける義理はあまりない。

 だが魔族の名を利用されているのは気持ちが良いものではない。

 ここで見過ごすのは魔王の名が恥じるだろう。

 

 集落内の人間まとめて……

 

『私が助ける人がいなくなったら困るからかな!』

 

 マイカの顔が思い浮かんだ。

 うむぅ……

 このまま彼らを生かしておけば確実にあちらへ進んでしまうだろう。

 

 本当に、参るなあの子は……

 ならばということで、一つ試すことにした。

 

 

「おーい、起きろ」

 

 マイカの肩を揺らす。

 陣の上にいたのは数秒なので眠りも浅いはずだ。

 

「……うーん、もっと食べたい」

 

 強欲だな。

 

「……あれっ私どうして……まさかピンコが……! きゃーっ」

 

 何かほざいているので頬に指を食い込ませる。

 

「へ? あおあほほうあっあお?」

 

 そのまま喋るので意味がわからない言葉を吐く。

 指を外してやった。

 

「で? あのあとどうなったの?」

 

 言い直すのか。

 懐から人間から取り上げた徽章を取り出す。

 

「この模様知ってる?」

 

 マイカは首を傾げる。

 

「これを掲げる集団が占拠してた。滅ぼしたのも多分彼ら」

「そっか……」

 

 少し悲しそうな表情をしている。

 

「それで? 多分何かしてきたでしょ?」

 

 変なところ察しがいいというか鋭いというか……

 

「一応ね、多分無力化出来たんじゃないかな」

「殺さなかったんだ」

 

 不思議そうにマイカがこちらの顔を覗いてくる。

 どこか嬉しそうだ。

 

「とりあえず戻って寝よう……ちょっと疲れた……」

 

 説明は……明日でいいか。

 マイカの背中にもたれた途端意識が底に沈んでいった。

 

 

 

 外の騒がしさに叩き起こされた。

 周りを見ると、横で布団を蹴飛ばして寝ているマイカ以外誰も居なくなっている。

 マイカを起こし宿の入り口へ向かうと人だかりが出来ていた。

 

「あらっピンコ様」

「これは一体どうしたの?」

 

 カスミがいたので状況を聞く。

 

「東の集落で火の手が上がってまして……先ほどトビウメが確認へ行きましたの」

「え」

 

 人混みを掻き分けて目に入って来たのは、黒煙を上げる東の集落だった。

 

 ちょうどトビウメがこちらへ向かっているのも見える。

 トビウメは人だかり、の恐らく男性達に怖気付き私とカスミを手招いて来た。

 

「手遅れだった」

 

 開口一番彼女はそう言った。

 

「ほどんど焼けていて状況はわからなかったが……どうやら仲間同士で争ったようだ。その跡があった」

 

 原因はわかっている。私だ。

 あわよくば撤退してくれないものかと考えていたが、そうか駄目だったか……

 

「やいピンコ」

 

 気落ちしていたらマイカに肩を組まれた。

 非難されるだろうか。

 

「……なんかダメだった感じ?」

 

 小声で語りかけてくる。

 こちらの懸念とは裏腹にその瞳は憐憫に染まっていた。

 少しだけ救われた気持ちになるが、肩を落として頷く。

 

「それぞれの記憶をそれぞれに読ませたけど……ダメだった。記憶が入り混じると混乱するから、それで撤退してくれないかなって……」

 

 直接人格を書き換えれば良かったが私には出来ない。なので、その場にいる他者の記憶を拾い上げ、各々に読ませ続けた。無理やり他人の半生を映像で見させ続けられるようなものだ。上手くいけば、一時的に記憶が混濁し戦意を削げるかと考えたのだが……

 正直この結果を予想しなかったわけではない。

 集落を出るまでの間、私にも記憶が流れ込んできた。そこでは同じ国の中での生活や営みの中で得られる幸福や喜びの他に、諍い、企み、欺き、瞞着……

 結果的に、組織内の闇も共有させてしまった。

 

「んーよくわかんないけど」

 

 そう言ってマイカは私を抱きしめてきた。

 

「ピンコは私のためにやってくれたんでしょ? ありがとね」

 

 優しく誰かの温もりに包まれるというのも、本当に久しぶりだった。

 

 

 

「それじゃあ」

 

 道の分岐点で挨拶をする。

 彼女たちとは行き先が異なるためここでお別れだ。

 

「ええ、ご機嫌よう。短い間ですが楽しかったですわ」

「助けていただいた御恩、忘れない。次邂逅した時はまた、可愛い仕草を……お願いします」

 

 それは二度とやらない。

 カスミとトビウメに手を振り別れを告げる。

 が、

 

「ううーピンコ本当にそっち行くのかぁ。こっち行きにならんかぁ」

 

 挨拶をしたのにマイカが腰に腕を回し離してくれない。

 いや、もう本当に誰かを思い出す。

 

「別にピンコ様の方へ行っても問題ありませんのに」

「うむ、面倒が減る」

「うぐぐ、薄情なやつらめ」

 

 渋々腰から腕を離した。

 確かに契約も交わしていない護衛なら途中で離脱しても問題はなさそうだが、一度決めたことは通すのが彼女なのだろう。

 

「こっちの用事が終わったらすぐそっちいくから。覚悟してて」

 

 まだ恩返せてないし、と彼女は続ける。

 どうやって探し出すのだと苦笑したが、彼女なら出来そうだ。

 

 それにしても人間と関係を持ちたくないと考えていた私が、これほどまでに別れを惜しんでいる。

 せいぜい数日しか共に過ごしていないが、誰かと共に旅をするというのも悪くないと、そう思える期間だった。それほどまでに、彼女たちは心の中に居着いてしまっていた。

 だからこそ心配だ。

 

「……ちょっと待って」

 

 小さな荷物入れから結晶を取り出す。

 

「これ渡しとく、危なくなったら使って」

 

 魔術無効を込めた即席の魔術アイテムだ。

 魔力を込めるなり物理的に砕くなりすれば発動するはず、と説明する。

 6個保持していた内5個ほど手渡した。

 

「ほー便利アイテム。ありがとー」

 

 またマイカが腰に抱きついた。

 

「非常に有用な道具だ。また恩が出来てしまったな」

「思えば私たち近接しかおりませんものね」

 

 本当に心配だ。

 

 

 

 そういえばトビウメに徽章を見せた時の反応が気になった。

 

『どこかで……見たような?』

 

 単なる思い違いであればいいが、他国の人間の記憶に僅かでも残る模様ということは轟いているのだろう。

 

 その国の、名声か、悪評が。

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