半分世界とかわいい魔王とヒューマンピーポー   作:黒烟

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ある国の執務室にて

 黒い軍服を身に纏う者が窓際に立っていた。胸にはいくつもの徽章が規則正しく縫い付けれらている。凍てつくような瞳が、窓の外で規律正しく行進する兵と、煤けた煙を吐き出す街の煙突を眺めていた。

 

 部屋の扉が叩かれ、乾いた音を響かせる。

 

「入れ」

 

 黒の者は身動きせず、若々しい声で言葉を発した。

 

「失礼します」

 

 扉を開けた男が敬礼をした。黒の者とは異なる色の軍服を着ており、その顔には皺が刻まれている。

 

「報告がございます」

「話せ」

「ヴェスタカンテンを目指す小隊が壊滅した模様です」

 

 黒の者は背後に目線のみを送った。

 

「経緯は?」

「第三地点の集落を攻めた後、内部抗争の跡があったと……」

 

 その言葉を聞き黒の者が振り返る。

 

「跡だと?」

 

 皺の男は一歩下がり深く頭を下げた。

 

「それが……後方を見張っていた当番の者が戻った時には全滅していたと……痕跡から内部抗争と判断したようです。その為、原因等何一つわかっておりません」

「ふむ……無理な山越えで物資が尽きたか……?」

 

 黒の者が窓へ向き直り、腕を組む。

 

「確か本侵攻の指揮に立候補した少尉がいたな。奴の作戦は?」

「確認したところ……各地点の集落を攻め落とし、物資を補給し続けるものだとか」

「粗末な作戦だな、出世を急いだか。帝国が集落を攻めたとなればヴェスタカンテンも黙っていないだろう」

 

 皺の男は顔を上げ声を低くして語る。

 

「それが……”魔族による侵攻”といった噂を先に回していたようで。集落の人払いにも多少は役に立ったとか」

「なるほど……”魔族であれば境界線から離れてヴェスタカンテンまでは来ない”と思わせるつもりだったか」

 

 黒の者は鼻で笑った。

 

「稚拙だな、あそこは大昔の戦争で魔族が最初に滅ぼした歴史のある国だぞ。警戒しないわけがない」

 

 黒の者は溜息を吐く。

 暫し沈黙が続いた。

 

「追加の兵を向かわせますか」

「いや……いい」

 

 黒の者は前で組んでいた腕を解き、後ろで組み直す。

 

「元々望みの薄い土地への侵攻だ。あの山脈を再び越えさせるだけの資源が無駄だろう」

「承知致しました」

 

 黒の者はふと思いついたように首を上げる。

 

「此度の作戦許可をした者は?」

「カドマ中将でございます」

「奴は降格だ。その空席には貴様を入れてやろう」

「有り難きお言葉」

 

 黒の者は身体を皺の男へ向け、口を開いた。

 

「ではウトウ少将改め中将、初仕事だ」

「はっ」

 

 ウトウと呼ばれた男が姿勢を正し敬礼をする。

 

「少尉の首を刎ねろ」

「御意に」

「下がれ」

 

 ウトウが下がり、部屋には黒の者だけが残される。

 黒の者は窓の外の空を見上げ呟く。

 

「魔族……か」

 

 切れ間ひとつない曇天が、空を覆い尽くしていた。

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