……この世は残酷である。
才のある者は頑張るないしは本気で取り組まなくとも結果を残せるのに。
裕福な家庭と貧困な家庭もそうだ。
前者は親のコネを使えたり様々な可能性があるのに対し、後者にはその道すらない。
合ったとしても灯りも何もない道なき道をただ途方も無く歩くだけだったら———。
「…はぁ」
化粧用具を新調したかった彼女であったが最早それどころでは無かった。
何とか家に辿りつけたAve Mujicaの祐天寺
レイの無事が気になるところであるが自分の無事を確保しなければ……死ねば人生はそこで終わりなのである。
2週目なんてない。
———今日だけで色んな事起きすぎでしょ……脳がバグるわ。
部屋着に着替え自室の椅子に座ったにゃむはスマホで映像を通した東京の被災状況と自宅の窓から直接視認できる被災状況を交互に見る。
「本当に……現実なのこれ?」
徒党を組んだ人間達が他の人間を惨たらしく痛めつける映像が流れたかと思いきや、白眼を向き理性の欠片もない人間が同じく他の人間の首に噛み付いたりする映像など……異常をきたしている人間は同じ様子ではない事はにゃむにも見て取れた。
「………っ!」
喉奥が熱くなる。
耐えれずにゃむはその場で戻してしまう。
「……はぁはぁ。やっば。こげんな姿人に見せられんわ」
とにかく今は自分の命を護る事が最優先。
にゃむの家に外敵が侵入して来るとなれば玄関と外に面したガラス戸だ。
内、玄関は鍵を掛けているから大丈夫だから問題はガラス戸だ。
耐久性は期待出来ない。
しかしそのガラス戸に至るまでの道のりは苛烈を極める。
崖肌のようにほぼ90度の形になるように外に面したガラス戸に侵入するなど至難の技だ。
映画などでよく軍隊や警察の特殊部隊がロープにぶら下がり勢いよくガラスを破り侵入するシーンはあるが、にゃむはそんな警察機構や公安に目をつけられる覚えはないしそもそもあれは映画の世界。
まず安全だ。
———落ちつけ私。
確実に出来る事をこなすんだ……私の身を護る為に。
落ち着いたら急に「動画回そうかな」などと考えたが流石にしないことにした。
バズり目的と見られるのは勿論、その軽率な行いのせいで犠牲になる人が出たらどうしようかと考えたからだ。
「嵐が過ぎ去るのを待つように……自宅待機が最適解かな」
にゃむが導き出した最良の
缶詰やら保存食品の在庫を確認しようとキッチンに行った時だった。
複数の足音が玄関の前で響く。
『探せ!まだプラーガを身に宿していない者がいる筈だ!』
『奴等は悍ましき反逆者!悪魔共だ!』
———物騒な会話……。
ってかプラーガってなに?。
声音からして男性達なのだろうが聞いた事のない単語が飛び出した。
プラーガとは一体なんなのか?。
1つ確実に言えるのはその男達に見つかったらにゃむはヤバい目に合わされるのはなんとなく理解出来た。
……声を漏らさずにゃむはジッとリビングで身を屈め立ち止まる。
『この階に反逆者がいないか調べろ!』
複数の人間がその声に返事を返した。
左右両隣の奥の住まいのドアが叩かれてるのが聞こえる……。
虱潰しに一件ずつ回ってるようだ。
『なんだテメェら!ドア叩いてんじゃねぇよ!うるせぇな!』
『捉えろ!反逆者だ!教育してやれ!』
『ひっ……なんだよそのデカい虫みたいなのはぁぁぁ!?。うわぁぁぁぁぁ……おげぇ、ゲホッ…オエッ!』
住まい越しに聞こえる生々しいやり取りがにゃむの頭に響く。
『いやぁぁぁぁぁ!やめてぇぇぇ………!ゴホ、ゲホッ!ガホッ!オエッ!』
『き、貴様らワシみたいな老人を……ゲェッ!』
———絶対!音出さないようにしなきゃ!。
次第にその音はにゃむの部屋に近づいてくる。
右隣のレイの部屋と左隣の部屋が叩かれた……こちらに来る。
ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン!。
『この階はあとこの部屋だけだ!』
『誰もいないのか!』
ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン!。
叩くドアの音に混じり心臓が脈打つ音が耳を支配する。
恐怖で心臓が飛び出そうだ。
『誰も居ないみたいだな』
10分近くに渡りにゃむの部屋を叩いた男はそう呟いた。
『……チッ!。我らと同じく使者になれば最上の幸福が待ち受けてると言うのに』
『落ちつけ。まだまだ救わねばならない奴等はいっぱいいる』
『……うむ』
大勢の足音が動く音が聞こえる。
———やった……行ったんだ!。
正しく浮足立ちながら立ち上がった瞬間。
『いたぞ!』と言う大声が響いた。
にゃむは悟った……。
大勢の足音がしたので皆移動したかと思ったが罠だったのだ。
安心し、動かさせる為の。
ドゴォン!ドゴォン!。
先程と異なりドアを叩く音が大きくなった。
奴等に叩かれたドアがへこんで来ている。
このままでは……。
「いやぁ……まだ死にたくないぃぃぃ……。サキコ……助けて」
神にもすがる思いでにゃむが口にしていたのはAve Mujicaの神の名であった。
当然、祥子がどうこう出来るわけではないがにゃむにとってこの危機的な状況の中で一番に浮かんだのは彼女だった。
なけなしの包丁を構えにゃむはブルブルとキッチンに立ちながら固まる。
『見てらんないなぁー。アンタもクソ爺の使者共も』
明らかに玄関に屯してる人間達とは違う声音。
声がした方を見るとガラスに垂直に立った少女が思いっきり足をガラスに叩きつけんとするばかりだった。
「なっ、やめ———」
『るわけないじゃん。アンタ死にたいの?祐天寺にゃむ」
少女が言い終わる前にガラスは粉々に砕け、少女は中に侵入してきた。
よくよく見ると金髪ポニーテールで、美しいエメラルドグリーンのツリ目である。
身長は160ぐらいあるだろうか。
「あ、あんた!あんなダイナミックな方法で来客して!何のつもりたい!」
「はぁ?。アンタを助けたいだけだけど?。何、もしかして奴等の仲間になりたかった?」
少女はそう言うと玄関を指差した。
「……なりたくない」
「なら話しは早い。私さぁある人間にムカついてんの。勝手に産み出して駒にしようとしてるクソ人間に。アンタも協力してにゃむ……ってかしなければ血肉を求め活発的なオジサマ方とパーティを———」
「する!。だから助けて!」
「交渉成立ね」
割りに合わない取引だとか言ってられない状況下なのでにゃむは思わず少女の条件を呑んだ。
少女はにゃむの手を引くと割って入ってきたガラス戸から外に飛び出した。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
「うるさい。大丈夫ちゃんと着陸するから」
「何者なの……貴女。そう言えば誰かに顔が似てるような……」
「そりゃ似てるよクローンだから」
「え……?」
「自己紹介がまだだったね。私の名前は豊川
手を彼女に引かれ暫く状況を飲めないままににゃむは羅無の言葉を反芻していた。
後ろから見える羅無の顔に怒りが見えた。
Ave Mujicaのknightverの描き下ろし皆可愛くて好き。