Ave Mujica―――。
嘗て全てを失った豊川祥子が全てを忘れる為に立ち上げたガールズバンドグループである……。
メンバーはキーボードの豊川祥子(オブリビオニス)、ドラムの祐天寺にゃむ(アモーリス)、ギターの若葉睦(モーティス)、ベースの八幡海鈴(ティモリス)、ギターボーカルの三角初華(ドロリス)の五人。
一度解散したりと紆余曲折あったが前よりも硬い絆で結ばれている自覚はメンバー五人全員が共有していた。
「いやぁ~。今日のライブも大成功だったねぇ!。マジ私ら敵無しって感じかな〜?」
にゃむは件の発起人の祥子の肩に手を回した。
「ふふふ。そうかも知れませんね」
祥子は優しく笑う。
初期はギスギスした雰囲気だったが今ではその雰囲気も無くなった。
Ave Mujicaは最初解散する時までは祥子が一人で裏方や演出等も交渉、調整していたが今では助け舟を出してもらっている。
自身が産まれた豊川家に。
何故この体制になったかと言うと実の祖父である豊川定治が「お前も今回の件で自分の限界を知ったろうが、自分の世界に捕らわれ周りが見えなくなり、結果的に恩を売ったつもりでも仇となる事があるのだ」と言われ半ば強制的にスタッフとの調整やら事務所への仕事等を分業されたのだ。
別に祖父と敵対的な状況でも無いし、確かに祖父の言う通りタスクが分けられ祥子は時間的にも精神的にもかなりの余裕を持つことが出来ていた。
そこは祖父に感謝すべきだろう。
「さきちゃん。私この後sumimiの仕事があるから先に帰ってて」
「分かりましたわ初華。あら?」
「どうしたのさきちゃん?」
「……初華。貴女少し顔色が悪いんじゃ」
「あぁ。大丈夫だよ。最近頑張ってたからちょっと疲れただけ!。元気だから安心して!じゃあねさきちゃん」
「ええ。お待ちしていますわ」
ヒラヒラと手を振る初華……否、初音に対し祥子は品の良さを感じさせるようにペコリと礼をした。
―――初音の事はMujicaのメンバーにも秘密で良いですわね……。
下手に荒波を立てる必要も、
「か〜、華のアイドル羨ましい〜。私にもドカンと仕事があれば……」
「今のお給料で不満なんですか?。祐天寺さん?」
「ウミコそう言う事じゃないよ。もっともっと上を目指したいって事ぉ〜。Ave Mujicaと一緒にね」
にゃむが祥子に向かってウインクすると、祥子は照れ臭そうに笑った。
「あぁ。銭ゲバですか」
「元鞘みたいに言わないでくれる!?」
「結果的に収入が増えると言う点では変わらないのでは?」
「過程とマインドが違うから!」
Ave Mujicaの衣装で言い合う二人に祥子は「お先に失礼しますわ」と言い残し楽屋を後にした。
「祥。待って」
愛称で呼ばれた祥子は足を止め、自分を止めた主の方を振り返る。
長い髪を揺らし、無表情なその少女は少し肩を揺らしながら呼吸を整えていた。
「どうしましたの睦?」
「久しぶりに祥と帰りたくなった」
「構いませんわよ一緒に帰りましょう」
「ありがと」
若葉睦……父はお笑い芸人の若葉で母は女優の森みなみだ。
祥子とは幼馴染みでもある。
二人は暫く歩くと幼い頃、よく遊んだ公園が見えてきた。
「ブランコに乗りませんか?。睦」
「いいよ祥」
二人はブランコに乗る。
幼い頃は立ちこぎしたものだが……最早実行に移そうとする行動力よりも羞恥が勝ってしまう。
このまま大人になってくのだろうか、等とふと考えた。
睦はと言うと地べたを見つめながら「ねぇ」と口を開く。
「……あの子達が迷惑掛けてごめんね祥」
「あの子達?」
「睦とモーティス」
「……あぁ」
祥子が大好きだった
二人は若葉睦の中に眠る人格として独立していた。
「やはり、あの子達は死んでしまったのですね」
「うん。人格だから生命的な終焉とは当然違うけれど、二人共死んだ……いや、正確には元の
「そうですか……」
「私じゃ役不足かな?」
「クスッ……。何を言ってるのですか睦は睦ですわよ。前の
「祥……」
「そもそも。睦を死なせてしまったのは私達Mujicaにも原因がありました。タスク管理とマネジメントも禄に出来ず、二人を失ったのですから……。ごめんなさい睦……」
祥子は涙を流しながら睦を抱きしめる。
睦もまた祥子を抱き締め、頭を撫でた。
「…ありがとう祥。私を受け入れてくれて」
睦は暫く泣く祥子を抱きしめていた。
……祥子が落ち着くまで。
「すみません、私ったら……泣いてしまいましたわ」
「謝らなくていいよ。きっと二人も感謝してる」
「だといいんですけどね」
「うん。きっと大丈夫。そう言えば明日月ノ森でワクチン接種の注射だ。痛いの嫌だなぁ……」
「え?。月ノ森も明日注射を射つのですか?。羽丘でも明日ワクチン接種の注射があるのです」
「すごい偶然。政府の指示で一律で明日注射するのかな?」
「かも知れませんわ。また流行り病でも出たのでしょうか?」
話題は完全に注射の話になり、途中別れるまで二人はその話題で盛り上がった。