『睦ちゃん……。何だか東京の各地で暴動が起きてるみたい。ママは今日たあくんと一緒に局の近くのホテルに泊まるわ。貴女も一人は危険だからどうかAve Mujicaの皆さんと一緒に行動して。じゃあね』
留守電に録音された自身の母、森みなみの声を再び聞き終えると睦はタクシーの窓から夜の東京を眺めた。
その日はヤケにタクシーの窓から射し込む街灯が眩く感じた。
非日常に身を置いたからなのか……胸騒ぎなのか……。
少女達に知る由はない。
「睦ちゃん……。本当に家に帰らなくていいの?」
「うん。初華。みなみちゃんがAve Mujicaの皆と一緒にって言ったからみなみちゃんの言葉を信じる……にゃむや海鈴はいないけど」
この日Ave Mujicaの面々は午後から1時間程雑誌の取材を受けすぐ帰る予定だったのだが異様な道の混雑やら治安の悪化で5人は中々帰れずにいた。
やっとの事で睦、初音、祥子の三人がタクシーを拾ったのは実に3時間後。
にゃむと海鈴は仕事が終わると同時に帰宅の路に着いた……連絡がないので無事に家に着いたと願いたい。
睦のスマホにみなみからの留守電が入ったのも丁度仕事が終わった頃だった。
実の母からの留守電に睦は驚き、今日は初音と祥子の世話になろうと決めたのだ。
祥子は快諾してくれたが、家の主の初音は渋々と言った感じで承諾した。
―――やっぱり少し申し訳ないな。
「ごめん初華。突然押し掛ける事になって」
「ううん。気にしないで睦ちゃん」
「初華、睦。困った時は助け合いですわ。二人は私の大切な幼馴染みでありAve Mujicaのメンバー。共に危機を乗り越えましょう」
「「祥(さきちゃん)……」」
落ち込んでいた二人の心はAve Mujicaの神の声で再び元気になった。
「そうだね祥」
「うん……皆で困難を乗り切ろう……」
弱々しく笑いながら初音は言う。
何とも歯切りが悪い。
最初はこのような非日常に恐怖してるからかと思ったがどうも違う。
彼女は、一人で時折涙をこぼしながら「ごめんなさい……ごめんなさい……」と謝っているのだ。
「初華……何かありましたの?。最近よく咳もしていましたし」
「体調はもう大丈夫なの……。びっくりするくらい快調だよ。ただこの現実がね、悲しいんだ……」
「初華……」
「祥……。今はそっとしておこう」
「はい……」
彼女の悲壮に生じる違和感が掴めないまま、睦と祥子はタクシーに揺られ……初音の家に着いた。
―――――
「お嬢さん達……。今日の東京は本当に不気味だ。ちゃんと戸締まりして寝たほうがいいだろう」
「はい」
「心配してくれてありがとうございます」
運転手は三人に注意するとゆっくりと車を走らせて行った。
「……わぁ。ビルが燃えてる」
「早めに家に入り、不足の事態に備えた方が良さそうですわね。初華……鍵をお願いします………?」
初音は地べたに体育座りをし、作った拳でスカートを強く掴み泣いていた。
「う、いか……本当に何がありましたの?」
「……言えない!。言えないよ!。だけど私はとんでもない過ちを犯したの!。もう
咆える初音の目には、大量の涙が浮かぶ。
悲壮と絶望に支配された目はぼんやりとしていて……まるで儚く消え去りそうであった。
「いたっ!?」
そんな初音の頭をコツンと睦が叩く。
「何するの!?睦ちゃん!」
「興奮してそんな大声で叫んでたら健康に良くない」
初音の前で睦は指でバツ印を作る。
口調や表情こそ睦だがどこかかつてのモーティスを彷彿とさせた。
「あと……祥にそんな大声で怒鳴ったのも許さない。祥の事だけじゃない。自分を大切にしない初華も許さない」
「……睦ちゃん」
「初華。私達は運命共同体……。どうか貴女の秘密を私達に話してください。貴女のまだ知らない秘密をこのAve Mujicaの神である私が受け止めましょう」
「……さきちゃん」
「何それ。二人だけで共有する秘密ずるい。私も祥と共有したい」
「睦…貴女だって秘密がいっぱいあるでしょう。例えば小さい頃の貴女は……」
こんな状況なのに眼前の2人は自分を心配してくれて更には元気付けようと戯けた様子で話し合っている。
彼女らだって半端ない恐怖に震えている筈なのに。
―――本当に皆に会えて良かったなぁ……私。
「あはははは……!。もうお腹いっぱいだよ。さきちゃんも睦ちゃんも幼馴染み漫才は今日は一旦やめてね?。決めた……2人にいや、皆に伝えるよ私の秘密を……。さ、家に入ろうか。Ave Mujicaの5人皆が生き残って他にも沢山の人を助ける作戦会議をしよう」
「初音……」
「初音って誰?」
―――――
初音の家の屋根裏で3人の少女は話し合いをしていた。
「……初華の本名は初音で、祥の叔母……!!」
「驚いてますね」
「うん。分かりやすく驚いてるね睦ちゃん」
「同い年の姪と叔母とか映画や小説の世界だと思ってたから。でも何が合っても私は運命共同体として初音を信じるよ」
「…睦ちゃん。ありがとね」
久しぶりに嬉し涙を浮かべ、初音は睦に礼を言った。
「初音。間違っても初音おばさんなんて言わな―――」
睦が台詞を言い終わる前に、初音は自身のマグカップを粉砕していた。
「何か言ったかなぁ?。睦ちゃん」
顔は笑っているが手はカタカタと小刻みに震えている。
「……なんでもありません」
「宜しい♪」
「……初音。そう言えばさっき貴女は人じゃなくなったと言ってましたが……。ええと……その……今披露した力も貴女が人間ではない証左なのでしょうか?」
「ごめんなさいついカッとなっちゃった。まぁそうだね……。私が見せたこの少女じゃ有り得ない力も……私が人間じゃなくなった事によるものだよ。聞いて2人共……私の罪の話を」
力無き目でテーブルを見つめながら初音は話し始めた。