決壊する箱庭   作:獄華

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新世界を夢見る者

 

 一ヶ月前豊川家―――。

 豊川家の盟主である豊川定治の部屋に……三角初音は居た。

 

 「……なんのようですか?。私を呼び出して」

 

 「まぁ、そう訝しがるな。麗しき親娘再会ではないか」

 

 どの口がと心の中で吐き捨てる。

 祥子の祖父であり、初音の実の父であるこの男は初音とその母を邪険にして豊川家に近付かなくさせてきた。

 そんな父に呼び出されたら怪しむのは当然だ。

 

 「単刀直入に言うとお前に頼みがあるのだ」

 

 「頼み?。それを私が安々と認めると思いますか?」

 

 「お前はきっと認める。無論お前にも報酬は払う。現金で1億円。その他最強の肉体と新たな世界の市民権をお前は得られるのだ」

 

 「……お父さん。もうボケてるんですか?。そんな空想的な話に私は付き合ってはいられません。では」

 

 踵を返し帰ろうとした初音に定治は「いいのか?」と冷たく暗い声音で言う。

 

 「お前が駒にならんなら。お前の愛しい姪を駒にする」

 

 「なっ……!。さきちゃんは貴女の孫で豊川の正統な血筋じゃないですか!?」

 

 「喚くな。既に祥子の変わりはいくらでもいる(・・・・・・・)……変わりがいくらでもいればオリジナルである祥子の価値も下がるのだ」

 

 「分からない事を……」

 

 「お前にそこまで知る由はない。で、私の頼みを聞くのかどうか答えるのだな」

 

 「……貴方と実の親娘である事に私は改めて後悔しています」

 

 愛する姪の名を出され、脅迫されては首を縦に振る以外に答えは無かった。

 定治は特に表情も変えずに手元の電子端末を操作し終えると「私に付いてこい」と実の娘に向ける目とは思えぬ冷たい目で初音を豊川家の地下へと案内する。

 

 

 

 

 

 —————

 

 

 

 

 

 

 「なんなの……この場所は?」

 

 鉄格子の中には、涎を垂らし変色した肌でこちらを見つめる者がいたり、怪物としか形容出来ない姿をした者などたくさんの生物が鳴いている。

 一見すると制服を着た普通そうな少年も居たが目は血走り初音を睨んでいた。

 

 「お前仲間じゃないな!。あぁ!このクソ野郎!。こんな檻が無ければお前のその首をへし折れるのに!」

 

 「ひっ……!」

 

 突然声を荒げた少年は、初音に向かい罵詈雑言を次々と浴びせる。

 鉄格子をガンガンと叩きながら少年のボルテージは上がっているようだ。

 

 「中々粋が良い若造だろう。プラーガタイプ2を投入されたこいつは私の兵士だ。だが……」

 

 「かひゅ……!」

 

 定治が睨みつけると少年は事切れたように地べたに倒れた。

 

 「……所詮。自我がない虫けら。統率者には敵わん」

 

 「………ハァッ…ハァッ、ハァ………ッ!」

 

 余りの情報量に初音の呼吸が乱れる。

 頭の中を覆うのは恐怖……。

 

 ———怖い……。

 早くここから出たい……。

 こんな光景を現実と思いたくない。

 

 「初音。お前は栄えある統率者になってもらう。安心しろ、虫けらとは違い支配種プラーガは原産地の物だ。断っておくが……お前や祥子の変わりはいくらでもいる。当然お前が拒めばその者達に向かう可能性も考慮すべきだろう」

  

 「……私のお父さんは人間じゃなくて悪魔だったんだね」

 

 「褒め言葉として受け取ろう。で、やるのか?」

 

 「……やります。だからさきちゃんには手を出さないで!」

 

 返事をせず不気味な笑みを浮かべたまま定治は地上へと消えて行った。

 初音は豊川家の使用人達に一つの部屋へ連行され、椅子に座らせられた。

 

 「良かったわね。初音ちゃん」

 

 「何がですか……」

 

 向かい側に座り、自身に話しかけて来た女性に無表情で聞き返す。

 明らかに最悪な事に担ぎ込まれようとしてるのに「良かった」と聞いてくるこの女性の真意が分からない。

 

 「まぁ。まだ分からないのも無理はないわね。だけど貴方はきっと自分の父に感謝する事になる……人智を超えし力、新世界の市民権。正しく強者として君臨出来るのだから羨ましいわ」

 

 女性はそう言うと初音の腕に注射した。

 注射器の中に入った丸い卵のような物が初音の身体に入る。

 

 「おめでとう。適合まで一ヶ月は掛かるかしら……それまで、この浮き世を楽しみなさいな。大丈夫その後には天国が待ってるわ」

 

 「……意味がわかりません」

 

 「貴女のお父さんには私から報告しておくわ。帰っていいわよ」

 

 返事する気力もなく初音は帰った。

 そこから一ヶ月の間、初音はプラーガに関する情報を学び……秘密裏にプラーガ(主にタイプ2を軸に)を東京都民に拡散させて行ったのだ。

 豊川定治()の計画の為に……。

 定治は血の繋がりのある実の娘を駒としてしか見ていなかった。

 

 

 

 

 

 —————

 

 

 

 

 

 現在、三角家ロフト———。

 

 「……お祖父様は一体何を考えて!?」

 

 祥子は怒りと憎しみと悲しみでどうにかなりそうだった。

 祖父がそこまで狂気的な事を考えていたとは……。

 

 「分らないよ。でもこの一ヶ月間お父さんの近くに居て感じたのはある人物を信奉してる事……。アルバート・ウェスカーを」

 

 「アルバート・ウェスカー?。聞いた事もありませんが……、いい歳こいて中二病を発生させ他者を巻き込む老人の暴走を止めないといけませんわ!」

 

 ご尤もだ。

 

 「この騒ぎは初音のお父さんの仕業……。私達が今日した予防接種もそのプラーガの注射?」

 

 初音の口から恐ろしい事を聞かされたのに睦はあまり表情に変化が無かった。

 

 「その注射は用途が違うよ。T‐ウィルスの予防接種とか言ってたかな。お父さん曰く感染しなかった者達から選ばれし者を創る為だとか……」 

 

 「意味が分かりませんわ!。あのクソ爺!。耄碌したのかしら!?」

 

 「祥怒っても事態は好転しない。一先ず安全圏を目指そう。だよね、初音?」

 

 「そうだね睦ちゃん。武器も必要だよ。取っておきの場所がある。先ずはそこを目指そう」

 

 「分かった」「分かりましたわ」

 

 三人は取り敢えず今必要な物を準備し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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