豊川家に仕える少年、喜山彰人は豊川祥子のクローンである豊川炎茉と共に東京某所に潜伏していた。
———俺には確かに両親がいた……。
母はいつも元気で優しく微笑み、父はあまり喋らない人だったが俺が泣いた時は頭を撫で、笑った時は一緒に笑ってくれる人だった。
衝撃的な記憶は消えないってのは本当らしい。
忘れもしない4歳の頃、父の隣に座った母に抱っこされながらテレビを見ていた俺の家にあの男が訪れた。
ピンポーンと鳴るインターホン。
「俺が出るよ」
「ありがとうあなた」
何故だか知らないがその時は不思議に嫌な予感がした。
子供ながらに何か感じ取ったのかもしれない。
「どちら様でしょうか?」
「豊川定治と言うものだ……喜山和哉君だな。妻の喜山奈津芽さんと息子の喜山彰人君の三人暮らし……」
『単刀直入に言う。彰人君を渡せ』
あいつはいきなり俺の家に押しかけた挙句対応した父にこんな事を言ったのだ。
母は俺を強く抱きしめ、ふざけるなと激昂した父が出ていけと定治に声を荒げるが定治は「では強硬手段だな」と俺と母が見ている前で父の頭を拳で殴った。
パチャンと気の抜けそうな音とは裏腹に父の顔面は定治の拳により破砕していた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!和哉君!」
目の前で何が起きているか理解が追いつかなかった俺は最後に母の叫びを聞き、気を失った。
目覚めた時、俺は自分の家にいなかった。
「目を覚ましたか。喜山彰人」
「……おじさん誰?」
「私の名は豊川定治。新世界創世の為に準備をしている者だよ。君の両親は
不幸な出来事と言う一言で奴は片付けたのだ。
俺から両親を奪い、以来ずっと配下にしこき使ってきたクソ爺。
豊川定治の権力の前に幼い俺は抵抗のしようがなかった。
同時に否が応にも学んだ。
あの爺の計画を初めて知った時は馬鹿げていると思ったが、日本政府やアメリカ政府等の他国政府、果てはアジアやヨーロッパや他の地域のほぼ全ての国に根回しを行っているらしく、今の東京は実質的に豊川の勢力が支配してるようなものだ。
協力企業には日米の名だたる企業が参加、そしてかつて大事件を起こしたアンブレラの残党やら、バイオテロに抵抗する筈のBSAAですら金の力で今回の意図的に起こされたバイオテロを黙認する立場にある。
この12年の中で嫌って程理解した……力には力だ。
「ふん。御大層な御託や理論も金には勝てねぇか」
彰人は上裸でベッドに寝転がりながら、弾の入っていないハンドガンをクルクルと回していた。
「急にどうしたの?」
「デケェ独り言。お前にゃ関係ないよ
ふ~ん。と炎茉と呼ばれた少女は鏡を見ながらお色直ししていた。
「私さ彰人君に関するデータ少し見たことあるよ。悲惨だね……幼い時に両親を殺されたなんて」
「まぁな。後から俺も調べたんだが母は昔感染力が強く死ぬ可能性の高い病気に掛かったんだが軽症で死なず、父は学生時代陸上やってて全国大会で優勝した事もあるらしい」
「凄い……だからこそお祖父様は彰人君を……」
「かもな……。うんざりだ!あんな爺の操り人形のまま過ごすなんて!幸い俺はウイルスに完全適合し自分の力に変える事が出来る人間だ……博打に出るか」
「無理はしちゃ駄目だよ」
化粧を終えた炎茉は、彰人の前に立つとキスを交える。
「お前のツリ目とこの赤いショートヘアー可愛くて好き」
「ふふ。なにそれ」
「事実だよ。お前が創られた存在とか関係なく俺は一人の男としてお前を愛している」
「……本当に?。お姉様や叔母様も好きなんじゃないの?」
「バーカ。俺は三股掛けられる程器用じゃねぇしお前しか興味ねぇ。初音とはそりゃ仕事で何回か顔合わせた事あるがそれくらいだよ。祥子とはそもそもないしな」
「嬉しいけどなんか複雑」
「はぁ?。俺に言わしといてそりゃねぇだろ」
炎茉と彰人は顔を見合わせながら笑い合う。
「ごめんね。で、今からお姉様と叔母様がここに来るんだっけ?」
「そうだよ。Ave Mujicaの若葉睦も一緒のようだ。流石お前の叔母様だよ。俺の潜伏場所なら武器があると見ている。実際その通りだ」
「……私バレないかなぁ」
「大丈夫だよ。俺の彼女で貫き通せばいけるって」
「でも……」
「心配性だな炎茉は、まぁそこも含めて大好きなんだけどよ。いてっ」
彰人は炎茉にデコピンされた。
「調子に乗らないの彰人君。でも勇気付けてくれてありがとう。私もこの目でお姉様と叔母様を見たい」
「決まりだな」
「うん……!」
期待と不安を感じながら、炎茉は一行を彰人と待つ事にした。