無名のリンクス 先生になる   作:雨垂れ石

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企業ってんのは…どこの世界でも…


この世界でも『企業』は…

 

 

「あっ先生……って…なんでそんなに疲れ切った顔をしているの…」

 

「あ…あぁ…昨日、風紀委員長のヒナの手伝いでゲヘナで大暴れしたらリンに大目玉を食らったわ…」

 

「それは……お疲れ様というか…ドンマイ…」

 

昨日…リンにめちゃくちゃ説教された疲れがまだ残ってる…

……今までに感じた中でも1番怖かったな…

 

「それで…何か確認をしてたらしいけど…何かあったか?」

 

「はい、実はアビドス自治区の土地関連書類を探してきました詳細は後でお話ししますね」

 

「先輩たちはもう教室にいるみたいだよ」

 

そんな風に合流した俺たちは教室へと入っていったが…

 

「うへ~……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……な、何、この雰囲気?」

 

「何かあったんですか……?」

 

すごくピリピリとした空気…喧嘩でもしたのか…?

いや…みんな仲良いからそれは無いとは思いたいが…

 

「何かあったのか知らんが…とりあえず…会議を始めるぞ…」

 

このままでは何も進まない為…無理やりだが会議を始める…

ノノミ、シロコ、ホシノの三人に何があったのかは後で聞くとして…

俺はひとまずアヤネとセリカが探し出した書類を机の上に広げ、ホワイトボードにこれまでの情報を記していく

アビドスの借金状況、ヘルメット団及びカイザーの動き、ブラックマーケット、風紀委員会、そして…アビドス自治区の土地

 

「3日前…風紀委員とやりあった日に、柴大将からの情報と俺が調べた情報によると……彼の店を含む、アビドス自治区の土地と建物ほぼ全てが、カイザーコンストラクションの所有になっていることが判明した」

 

二人が探し出した書類…直近までの取引が記録されているアビドス自治区の土地の『地籍図』を指し示す

最新の記録は二年前だが…

 

「アビドス自治区は既に、土地の大半を失っている」

 

以前、アヤネが砂漠化の現状を説明するために塗り潰した資料を更に書き足していく

 

「既に砂漠に飲み込まれてしまった、本来のアビドス高校本館と、その周辺数千万坪の荒れ地…そしてまだ砂漠化が進んでない、市内の建物や土地までカイザーが所有している」

 

現状このアビドス高等学校が所有している土地は…この広大なアビドス自治区でも、ほんの一握りの範囲である

割合で例えるなら1:9の割合だろう…

皮肉にも五人でも管理できそうなほどの著しく狭い範囲だった

 

「所有権がまだ残っているのは、今は本館として使っているこの校舎と、周辺の一部の地域だけだ」

 

「…………」

 

「……学校の資産の議決権は、生徒会にある…つまりアビドス前生徒会が、この取引を行っていた…そうだな?」

 

「……はい…ですので、生徒会がなくなってからは、取引は行われていません」

 

「そっか、二年前……」

 

ホシノには思うところがあるのだろう…

二年前…

 

アビドスの生徒会が……消えるまで

「何をやってんのよ、その生徒会のやつらは!! 学校の土地を売る? それもカイザーコーポレーションなんかに!? 学校の主体は生徒でしょ!? どうしてそんなこと……っ!」

 

「こんな大ごとに、ずっと私たちは気付かないまま……」

 

「……それぞれの学校の自治区は、学校のもの…あまりにも当たり前の常識です…当たり前すぎて、借金の方にばかり気を取られて、気付くことが出来ませんでした」

 

「私が、もう少し早く気付いていたら……」

 

「この結果はお前たちが選んだものではない…そんなに思い詰めるな…」

 

フォローになるか分からんが…何も言わないよりかはマシだと思う…

 

「……うん、それはアヤネちゃんが気にすることじゃないよ…これはアヤネちゃんが入学するよりも前の……いや、対策委員会ができるよりも前のことなんだから」

 

「……ホシノ先輩、何か知ってるの?」

 

「あ、そうです! ホシノ先輩も、アビドスの生徒会でしたよね?」

 

「え? そ、そうだったの!?」

 

「それに……最後の生徒会の、副会長だったと聞きました」

 

「うへ~、まあそんなこともあったねえ…二年も前のことだし、そもそも私もその辺の生徒会の先輩たちとは、実際に関わりは無くってさー、私が生徒会に入った時には、もう生徒会の人たちはほとんど辞めちゃってたから」

 

全員からの質問に、ホシノは躊躇いもなく答えた…これらの言葉に嘘はないだろう…

土地の取引について知らなかったくらいだ、これについて誤魔化す理由はない…

知らないのだ…

知らないまま、負の遺産を受け継いでいる

 

「その時はもう在校生も二桁になってたし、教職員もいない…授業なんてものは、もうとっくの昔に途絶えてた」

 

「生徒会室も、そうと言われなければただの倉庫にしか見えないところだったし、引継書類なんて立派なものは一枚も無かった…ちょうど砂漠化を避けようとして、学校の建物を何度も移してた時期だったってこともあってね」

 

「そもそも最後の生徒会って言ったって、新任の生徒会長と私の二人だけだったし……その生徒会長は無鉄砲で、会長なのに校内でも随一のバカで……私の方だって、嫌な性格の新入生でさ…いや~、何もかもめちゃくちゃだったよ」

 

「校内随一のバカが生徒会長……? 何それ、どんな生徒会よ……」

 

「成績と役回りは別だよ、セリカ」

 

「そもそも、セリカちゃんも成績はそんなに……」

 

「わ、分かってるってば! どうして急に私の成績の話になるわけ!? 一応ツッコんでおいただけじゃん!?」

 

「うへ~、いやいや、正にその通りだよ…生徒会なんて肩書だけで、おバカさん二人が集まっただけだったからね…何の間違いだか、生徒会なんかに入っちゃって……いや~、あの時はあちこちに行ったり来たりだったねえ」

 

ホシノがそう淡々と喋るが…その表情は…

楽しそうで……哀しそうだった

 

「ほんっとバカみたいに、なんにも知らないままでさ……」

 

「……ホシノ先輩が責任を感じることじゃない…昔の事情は知らないけど、実際に生徒会が解散になった後……アビドスに対策委員会ができたのは、間違いなくホシノ先輩のおかげ」

 

「う、うん……?」

 

シロコの唐突な称賛に目を瞬き、珍しく表情に出して驚くホシノは、本当に困惑しているような曖昧な相槌を打った…

珍しい表情だ…

 

「……ホシノ先輩は怠け者だし、色々とはぐらかしてばっかりだけど、大事な瞬間には絶対に誰よりも前に立ってる」

 

「そうです…セリカちゃんを助けに行く時、真っ先に先頭に立ったのは先生ですが…その後すぐに行動したのはホシノ先輩でしたし……」

 

「……うへ~、そうだっけ?」

 

「よく覚えて…」

 

「お前はすぐに前に立つ…誰かを守るために…」

 

「うん…ホシノ先輩は色々とダメなところもあるけど、尊敬はしてる」

 

「ど、どうしたのシロコちゃん!? 急にそんな青春っぽい台詞を……! おじさんこういう雰囲気、ちょっと苦手なんだけど!?」

 

「……や、なんとなく、言っておこうかなって思って」

 

………シロコの言葉には含みがあった…

アビドス廃校対策委員会

彼女たちの居場所

……これが、ホシノを繋ぎ止めるのかもしれない…

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「これは…仮説になるんだが…そもそも、何故アビドスの前生徒会は、カイザーコーポレーションにアビドスの土地を売却したのか…これは単純に借金返済のためだと思う…当時の生徒会には借金を返済する手段がそれしかなかったのだろう」

 

「借金のために、土地を……」

 

「はい、私もそう思います…当時すでに学校の借金はかなり膨れ上がった状態でした」

 

「そうだね~私もしっかり関わってないからただの推測だけど……ちゃんと学校のためを思って、色々と頑張ってた人たちなんじゃないかなーって思ってる」

 

ホシノの同意を得た事を確認して、俺はホワイトボードに描いた簡易的な地図を塗り潰す…

同時に、当時の借金額を推測で書き出していく

 

「しかし、それではまるで足らなかった…砂漠化が進むアビドスの土地に高値が付くはずもなく、少なくとも借金自体を減らすには至らない」

 

「それで、繰り返し土地を売ってしまう負の循環に……ということでしょうか」

 

「何それ、なんかおかしくない? 最初からどうしようもないっていうか……」

 

どうしようもない…

セリカの言葉は的を得ている…

 

「つまり……これは最初からカイザーコーポレーションの罠だったということ………考えれば考えるほど…随分と悠長で大掛かりな手口だがな」

 

「え? え……どういうこと?」

 

「あ〜……なるほど、そっか」

 

流石に聡いホシノは気づいた…短いとはいえ、過去のアビドスと関わりがあったのなら答えに辿り着いたとしてもおかしくはない…

 

「……アビドスにお金を貸したのも、カイザーコーポレーション」

 

「……!」

 

「ということは……」

 

「カイザーローンが、学校の手に負えないぐらいのお金を貸して、利子だけでも払ってもらうために土地を売るよう仕向けた」

 

「そう…最初は重要性の低い砂漠や荒廃した土地を売るように誘導し…それを断る術を持たない当時のアビドスはこれを了承した…だが、重要性が低いとは価値が低いということ…借金返済のために、より価値の高い土地を売っていく…次第に、アビドス自治区そのものがカイザーコーポレーションのものになっていった」

 

「そして今現在も…ジワジワとカイザーがアビドス自治区を飲み込んでいる…」

 

「……きっと、先生の言う通りでしょう」

 

「元々、そういう計算だったのかもしれない」

 

「アビドスにお金を貸した時点で、こうなるように全てを……」

 

「だいぶ前から計画していた罠だったのかもね…それこそ何十年も前から……それくらい、規模の大きな計画だったのかも……」

 

規模の大きい、何十年単位の計画。

 

言葉にすれば単純だが、普通に考えれば、砂漠化の一途にある土地にそこまでの投資をする価値があるとは思えない…

だが…今現在もこのような事が起こっているのは…カイザーコーポレーションはその投資に見合うだけの何らかの価値をアビドスの土地に見出しているということになるのだが…

 

「何それ!? ただただカイザーコーポレーションのやつらに弄ばれてるだけじゃん!」 

 

「生徒会のやつ、どんだけ無能なわけ!? こんな詐欺みたいなやり方に騙されてなければ……!」

 

「1回落ち着け、セリカ」

 

「っ……先生」

 

「……お前の気持ちも分かる…だがかつてアビドスを守ろうとした先人達を罵倒するのは間違っている…当事者にしか分からない事情もあるだろう……」

 

「……わ、私だって分かってるわよ! た、たまにゲルマニウムのブレスレットとか買ったりするし、下手したらここの誰よりも分かってる! 悪いのは騙した方だってことは! でも!」

 

涙を堪えながら、セリカは胸を押さえて吐き出すように嘆く

 

「っ、でも……悔しいよ、先生……ただでさえ苦しんでるアビドスに、どうしてこんな酷いこと……」

 

あぁ…酷いもんさ…自分の利益しか考えず…むしり取る事しか考えてない…

かつて…俺も経験した事だ…

 

「…学校の借金…このアビドスが陥っている状況、そして私たちが先生と一緒に見つけ出してきた幾つかの糸口…全てが少しずつ、繋がり始めています」

 

重苦しくしてしまった空気を変えるために、それに乗る形で言葉を繋いだアヤネ

 

「……カイザーコーポレーションはアビドス生徒会が消えたことにより、合法的に土地を手に入れることができなくなった…だが、それでは足りていないのかもな…目的は定かではないが、最後の土地であるアビドス高校を奪うために、ヘルメット団を雇っていた」

 

「そうなると……カイザーコーポレーションの目的はお金ではなく土地だった、という結論になります…でも……アビドス自治区は、もうほとんどが荒地と砂漠、砂まみれの廃墟になっているのに……」

 

「確かに……土地を奪ったところで、何か大きな利益があるとは思えませんが……」

 

傍から見ればそう思うのが妥当…

だが…ある情報を見れば…見方も変わってくる…

 

「…………3日前…空崎ヒナ…ゲヘナの風紀委員長から聞いた話だがアビドスの捨てられた砂漠で、カイザーコーポレーションが何かを企んでいると言っていた」

 

「そこで提案…というより…シャーレとしての依頼だな…」

 

「カイザーが何を企んでいるのか見定める為に…アビドス砂漠を調査をするのはどうだ?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここまでは列車で来ることが出来ましたが、ここからの移動手段は徒歩しかありません…もう少し進めばアビドス砂漠……このアビドスにおける、砂漠化が進む前から元々砂漠だった場所です」

 

あれからしばらくして…

対策委員会は、ヒナに『捨てられた砂漠』と評されたアビドス砂漠を目指し、四人で移動していた…

 

「こっから先はアビドス高等学校の土地ではない…それにいくらシャーレとしての仕事はいえ…下手にネクストは動かしてカイザーに目を付けられたくない…だから何かあったら助けには行けない…それも考えて少しでも危険だと思ったら即撤退だ」

 

『りょ〜かい〜』

 

『ん…先生が動けないとなると無駄な戦闘は避けた方懸命…』

 

『慎重に行きましょう…』

 

「普段から壊れたドローンや警備ロボット、オートマタなどが徘徊してるので、危険な場所なのですが……今は強行突破するしかありません。皆さん、今一度火器の動作チェックをお願いします…アビドス砂漠で、カイザーコーポレーションが一体何を企んでいるのか……実際に行って、確かめることにしましょう」

 

『けどさ、アヤネちゃん…よく考えると、その情報をくれたのってゲヘナの風紀委員長でしょ…それってなんかおかしくない? いくら風紀委員長とはいえ、どうして他の学園の生徒が、うちの自治区のことをそこまで知ってるわけ?』

 

「うーん、あくまで推測に過ぎないけど……ゲヘナの風紀委員会はかなり情報収集能力に秀でてるって聞いたことが……だから、アビドスみたいな小規模な学校では考えられないような情報網を持ってる、とか……?」

 

『ま、そういうこともあるのかもね~』

 

「委員長という立場でしたら…風紀委員会が把握している情報は全部集約されているはずですから…それにあの時、行政官がたしか……」

 

──だってここの土地はアビドスのものじゃないでしょう!

 

──カイザーが保有している、いわば立退済みの無人地帯のはずです!

 

「アコは…アビドスが既に土地を失っている事を知っていた……あの時はてっきり苦しい言い訳かと思ったが、実際には不法侵入の意図は無かったのだろう…」

 

ただその手段だけは未だに許さんがな

 

『もしかしたらそうかもしれない…けど、あの時の風紀委員会には、明らかに侵犯行為だと行動が多々あった…あそこがアビドスの所持している自治区だったかどうかは、そんなに重要じゃない』

 

『それに、あのアコの行動は明確な敵対行為…それだけで十分…あの時の先生の判断は間違ってない』

 

……どうも銀行強盗発案のイメージがあるせいで、シロコの人となりを掴むのが難しい…しかし彼女は比較的理論的かつ理性的な部分が見受けられる時がある…

警備ルートや監視カメラの位置を覚えていたり、カイザーの思惑に辿り着いたりと、想像以上に考えている印象だ…

 

『ま、行ってみたらそれも含めて、きっと色々分かるでしょ…先生が言ってた通り、直接この目で確かめれば早いんだしさ…んじゃ、引き続き進むとしよっか〜』

 

ホシノの掛け声に、再び進み始める四人のマーカーを確認する…

どうやら目標地点までもうしばらくかかるようだ

………俺は目を休めるために瞼を閉じて…思い出す…

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数十分前

 

「先生…出発する前に、ちょっと時間が欲しい……相談したいことがあって」

 

アビドス砂漠の調査を行う為に各々準備をはじめている時…

誰もいない教室でシロコに呼び止められる

 

「…………これ…ホシノ先輩のバッグの中から見つけたの」

 

と…一枚の紙を俺に差し出して来た…

シロコ自身はどうやら後ろめたさのようなものを感じているらしい…

一枚の紙を受け取って確認すれば…それは、シロコの悩みの原因が、コジマに脳を焼かれている人間であろうと理解できるような、そんな物だった…

 

退会・退部届

 

アビドス廃校対策委員会、小鳥遊ホシノ

 

「これは…」

 

「ん…紙に書いてある通りの意味だと思う…」

 

「先生以外にはこれを誰にも見せてないし、言ってもないけど……バッグを漁ったこと自体は、ホシノ先輩にはバレてる気がする」

 

「……どうして…これを探そうと思ったんだ?」

 

シロコは思い出すように目を瞑ってから言う

 

「……ホシノ先輩があそこまで長い時間席を外すなんてこと、今までに無かった…それに、風紀委員会からあんなに追い詰められるまで先輩が来ないなんて」

 

………ホシノ先輩は怠け者だし、色々とはぐらかしてばっかりだけど。

 

………大事な瞬間には絶対に誰よりも前に立ってる。

 

「それがどうしても引っかかって……先輩のバッグを漁ってみたら出てきたの」

 

シロコの言葉には、一切の嘘は無かった…

だからこそ、彼女はホシノの行動を不審に思い…その予想は的中した

 

「……ごめん、悪いことなのは分かってる…ホシノ先輩からはもちろん、生徒として、先生にも怒られても仕方ない」

 

しゅんとするシロコ

 

どうやら大分反省しているらしい…銀行強盗の発案時とは別人のようだ…

俺が叱る必要もないな…

自分の罪を反省し、それを理解しているならそれでいい…

 

「……これは預かっておく…勝手に人のバッグを漁るのは宜しくないが…まぁ状況が状況だからな…目をつぶっておくよ…」

 

「……うん、ありがとう…先生も分かってると思うけど……ホシノ先輩、何か隠し事をしてる」

 

何か…か

確かにホシノは何かしら隠し事をしている感じかする…誰一人とも喋りたくないんだろう…俺と同じように

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『ここから先が、捨てられた砂漠……』

 

 砂嵐の影響で若干ノイズがかった音声を聞き、どうやら彼女たちは『捨てられた砂漠』に辿り着いたようだった

 

『砂だらけの市街地に行ったことはありましたが、ここから先は私も初めてです……』

 

『いや~、久しぶりだねえこの景色も』

 

『先輩は、ここに来たことあるの?』

 

『うん、前に生徒会の仕事で何度かね~もう少し進めばそこにはなんと、かつてアビドスの砂祭りが開かれていたオアシスが!』

 

『え、オアシス? こんなところに?』

 

 セリカの問いに答えるようにびしっとホシノは砂漠の先を指差している…が、当然そこにオアシスは無く、一面砂だらけ

まるであっちの世界の事を思い出す…コジマによって環境が汚染され砂漠化が進んでいる所がかなりある…このアビドスにも似たような事が怒っているのだろうか…

 

『うん、まあ今はもう全部干上がっちゃったんだけどね〜元々はそんじょそこらの湖より広くって、船を浮かべられるくらいだったとか…ま、私も実際に見たことはないんだけど』

 

『砂祭り……私も聞いたことある…アビドスでは有名なお祭りで、すごい数の人が集まるって』

 

『そうそう、別の学校からもそのお祭り見たさに人が来るくらいだったからね。ま、砂漠化が進み始めるより何十年も前のことだけど』

 

『へえ、今となってはこんな光景になっちゃってるけど、ここでそんなすごいお祭りが……?』

 

『前までは、この辺りも結構住みやすい場所だったらしいよ~その時はこんな砂埃もなかったし』

 

『ところで先生、まだ目的地は遠そう?』

 

「…………いやここだ」

 

砂嵐と砂埃で彼女たちの肉眼には見えていないのだろうが、既にそこにある

 

「レーダーの反応からして、恐らくステルス機能を有した人工建造物だ」

 

「皆さん、前方に何かあります! 急にレーダーに反応が……!? 巨大な町……いえ工場、或いは駐屯地……? と、とにかく、ものすごい大きな施設のようなものが……!」

 

若干の時間差で、アヤネが詳細を伝える

やはりと言うべきか、この施設はステルス性能も兼ね備えているようで、複数の計器、あるいは一定の距離内に近付かなければ反応しないようになっているようだ

 

「……アロナ」

 

『いえ、ダメです、先生…あの施設もオフライン、ローカル管理されていて侵入する事が出来ません』

 

「…………」

 

ここまでやるとは…かなり用意周到だな…

 

『……こんなところに施設? 何かの見間違いじゃなくて? 今のところ、こっちからは干からびたオアシスしか見えてないけど……』

 

「反応からして、恐らく間違いではないと思うのですが……とりあえず、肉眼で確認できるところまで進んでみてください!」

 

そうしてホシノ達はその先へ進むと…

 

『…………』

 

『何、これ……』

 

砂嵐が晴れた視界には…巨大な施設が、この荒廃した広大な土地に建設されていた…

 

流石にクレイドルほどじゃないが…キヴォトスにおいて、これほどの規模の物は現状見た事がない

 

『この張り巡らされてる有刺鉄線、優に数㎞先までありそう……』

 

『工場……? 石油ボーリング施設、ではなさそうな……一体何なのでしょう、この建物は……?』

 

『こんなの、昔は無かった……』

 

ホシノの言う昔…つまり二年以上前にはなく…ここ二年の間に建てられたもののようで、実際に目新しいのだろう…

確かに、砂漠に建設されている割には傷や損傷が少ない…

 

「先生! 施設に、何らかのマークを発見しました!」

 

『これって……』

 

砂の舞う中、施設に刻まれたそのロゴは、カイザー系列のものである

ただし、今までの金融ローンや建設管理コンストラクションのような一般的な企業ではない

このマークは…

 

『──カイザーPMC』

 

俺が言い出す前にホシノが先に言った

 

「……はい…ホシノ先輩の仰る通り、カイザーPMCのようです」

 

『カイザー……? こいつらもカイザーコーポレーションってこと!?』

 

「はい、カイザーコーポレーションの系列会社です」

 

『もうどこに行ってもカイザー、カイザー、カイザー! 一体何なの!?』

 

『それに、「PMC」ということは……』

 

『え、何かマズい言葉なの?』

 

「Private Military Company……つまり、民間軍事会社だ」

 

『ぐ、軍事……!?』

 

「簡単に言えば…軍隊のようなものだ」

 

『軍隊ぃ!?』

 

しかし、捨てられた砂漠にPMCの施設を置いた理由が分からない…

街中や多少の郊外ならまだ理解できるが、列車も走っていないような場所に軍事力を集結させる意味は…

何をしようとしている?

お前達『企業』は何を企んでいる?

 

『退学した生徒や不良の生徒たちを集めて、企業が私設兵として雇っているという噂がありましたが、まさか……』

 

その瞬間

 

ノノミの言葉が終わる前に、けたたましい警報が鳴り響いた

通信機越しでも、施設中に鳴り響いた事が分かるような大音量である。

 

『け、警報音……!?』

 

「まさか……!全員撤退!全速力で逃げろ!」

 

『って言われても──!』

 

何がトリガーになったのか知らんが…

普通の生徒で民間軍事会社の兵士を相手するのは分が悪い

 

『これ……何だか大ごとにな……そう……んだけど……』

 

『……は……ヘリ……?』

 

『それに、こ……面の揺れ……恐……戦……』

 

「先生! 大規模な兵力が接近中! 包囲しに来ています! 装甲車以外にも戦車やヘリまで……! ものすごい数です! ですが……!」

 

『何……聞こ……い……』

 

「──っ」

 

警報音が鳴り響いたあと突如として通信機能が悪化した…

こうなると向こうの状況も把握できないしこちらの指示を届けることもできない…

しかも下手にネクストも動かすこともリスクがある…

ネクストを動かさずにどうにかするしかない…

 

「アロナ…!ネクストを経由して通信機能を上げろ!」

 

『りょ…了解です!』

 

シッテムの箱とネクストを経由して通信機能をあげる…

数秒もすると砂嵐のノイズは消えたが…

 

『…………侵入者……聞いていたが……とは』

 

『な、何よこいつ……』

 

『まさかここに来……は……まあ良い』

 

何かしら機械音声のような男の声が聞こえた…

 

『……私は、カイザーコーポレーションの理事を務めている者だ…そして君たち、アビドス高等学校が借金をしている相手でもある』

 

『……嘘っ!?』

 

『では、古くから続くこの借金について、話し合いでもするとしようか』

 

全ての元凶であろう男は、不遜な態度でそう言った

通信が回復して映像が見えた先には…

およそ二メートルはあるであろう図体の、いかにも高級なスーツを着こなしている男性型のロボット……あるいはサイボーグと言うべきか…

いや…頭部、そしてスーツから覗いているパーツ全てが機械である…

身体そのものが機械だ。

およそ人間ではない身体を駆動させながら、奴はホシノたちの前に立っている…

 

『アビドスが、借金をしている相手……』

 

「か、カイザーコーポレーションの……」

 

『正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ…今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている』

 

……………お手本のようなThe企業の上のヤツと思わせる風格だな…

気に入らない

 

「……挨拶が遅れて済まないな…この作戦の責任者、連邦捜査部シャーレの顧問、リンクスだ…カイザーPMC理事…知己を得て光栄だ」

 

『ふん……白々しいな…なるほど、貴様が例のゲマトリアが言っていたシャーレか』

 

お互いに高圧的な態度をとる…

 

ん?ゲマトリア…?

他にも裏で手引きしているやつがいるのか…

 

「今回の作戦はアビドス砂漠の調査だ…シャーレとして捜索を行っている最中だったが…」

 

『ほう…………では、これらの行為は違法ではないそう主張したいのか』

 

「そう…シャーレにおいて、これらの調査は不法行為ではない」

 

シャーレの権限

それは、あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる超法規的機関である唯一無二の存在

 

『ふん…………なるほどな…シャーレの権力を使用して、私たちのことを調べようとした…そんなところか』

 

理事は不愉快そうに鼻を鳴らす

 

『浅ましい努力だな』

 

…………どうにも気に障る…ぶっ殺してやろうか?

 

『……要はあなたがアビドス高校を騙して土地を奪って、搾取した張本人ってことで良い?』

 

『……ほう』

 

『そうよ! ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私たちをずっと苦しませてきた犯人があんたってことなんでしょ!? あんたのせいで私たちは……アビドスは……!』

 

「落ち着けセリカ…今は、連邦捜査部シャーレだ」

 

『…………』

 

『やれやれ……最初に出てくる言葉がそれか…勝手に私有地へと侵入し、善良なる我がPMC職員たちを攻撃しておいて……だが、口の利き方には気を付けた方が良い…ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所…まず君たちは今、企業の私有地に対し不法侵入しているのだということを理解するべきだ』

 

と、釘を刺してきた。

抜かりない

大企業の理事であり、アビドスへ行ってきた所業を計画した人物であることは間違いないようだ…

 

『…………』

 

『さて、話を戻そう……アビドス自治区の土地だったか、確かに買ったとも』

 

くく、と笑いながら

嘲笑いながら、理事は言う…

 

『だからどうした? 全ては合法的な取引、記録も全てしっかりと存在している。まるで、私たちが不法な行為でもしているかのような言い方は止めてもらおうか。わざわざ挑発をしに来たわけではないのだろう?』

 

『…………っ!』

 

『ここに来たのは、私たちがここで何をしているのか気になったからか? どうしてアビドスの土地を買ったのか、その理由が知りたいのか?』

 

『それならば教えてやろう、私たちはアビドスのどこかに埋められているという、宝物を探しているのだ』

 

嘘………では、ないだろうな…

 

『そんなでまかせ、信じるわけないでしょ!』

 

『それはそう…もしそうだとすると、このPMCの兵力について説明がつかない…この兵力は、私たちの自治区を武力で占拠するため。違う?』

 

「……違う…それではあまりに過剰戦力すぎる…そもそも、その為であればアビドスはとうに壊滅している」

 

『…………』

 

『ほう……流石に先生と呼ばれるだけあって頭は回るようだ。その通り。数百両もの戦車、数百名もの選ばれし兵士たち。数百トンもの火薬に弾薬。たった五人しかいない学校のために、これほどの用意をするはずがない……冗談じゃない』

 

ほとほと呆れ果てたと言っているように首を振る…

 

『あくまでこれは、どこかの集団に宝探しを妨害された時のためのもの。ただそれだけだ、君たちのために用意したものではない』

 

どこかの集団…宝探し…

集団って言うのはおそらくアビドスの事…だが宝とは何なのか…

 

『君たち程度、いつでも、どうとでもできるのだよ……例えばそう、こういう風にな』

 

奴は懐から端末を取り出して通話を始めた。

 

『……私だ……ああ、そうだ、進めろ』

 

『な、何……? 急に電話……それに「進めろ」って……』

 

『残念なお知らせだ…どうやら、君たちの学校の信用が落ちてしまったそうだよ』

 

奴がそう言った瞬間…教室内にスマホの音が鳴り響いた…

 

『こちらカイザーローンです…現時点を以ちまして、アビドスの信用評価を最低ランクに下げさせていただきます』

 

すると電話口の相手は、なんの前置きも無く、無慈悲なまでに言い切った

 

「なっ……!?」

 

「は?」

 

『変動金利を3000%上昇させる形で調整…それらを諸々適用した上で、来月以降の利子の金額は9130万円でございます…それでは引き続き、期限までにお支払いをお願いいたします』

 

「はい!? ちょ、ちょっとそんな急にどうして!?」

 

「…………」

 

『きゅ、九千万円!?』

 

『……くっくっくっ…これで分かったかな…君たちの首にかけられた紐が今、誰の手にあるのか』

 

『ちょっ、嘘でしょ!? 本気で言ってんの!?』

 

『ああ、本気だとも…しかしこれだけでは面白みに欠けるか……』

 

なおも満足せず、理事は顎に手を当てながら、

 

『そうだな、九億円の借金に対する保証金でも貰っておくとしよう…一週間以内に、我がカイザーローンに三億円を預託してもらおうか…この利率でも借金返済ができるということを、証明してもらわねばな』

 

やりやがった…

法外、などというレベルではない

明らかに一線を越えた…

 

「そんな……! そんなお金、用意できるはずが……今、利子だけでも精一杯なのに……」

 

『……ならば、学校を諦めて去ったらどうだ?』

 

彼女たちの努力を…踏み躙るようにそういう

 

『自主退学して、転校でもすれば良い…それで全て解決するだろう、そもそも君たち個人の借金ではない…学校が責任を取るべきお金だ…何も君たちが進んで背負う必要は無いのではないか?』

 

『そ、そんなこと、できるわけないじゃないですか!』

 

『そうよ、私たちの学校なんだから! 見捨てられるわけないでしょ!』

 

『アビドスは私たちの学校で、私たちの街』

 

『ならばどうする? 他に何か、良い手でも?』

 

「……随分と横暴だな…この調査はシャーレとしての依頼だと言ったはずだ…それなのにその仕打ちとは…明らかに度が過ぎてるぞ」

 

『……口を出さないで貰おうか、シャーレの先生…貴様が何と言おうと、この借金は過去に一切の不正なく行われた取引だそして彼女たちは、アビドスとしての信用を下げた、それだけの話だ』

 

「…………」

 

『確かに今回の調査はシャーレの権限内の行いだろう…これは自治区に申請を出していなかった我々の責任とも言える…その罪は──まあ、責められるものではない。だが……借金について、シャーレは無関係だ。これは我々の……アビドスとカイザーローンとの間に取り交わされた正規の借金なのだから』

 

お前には無関係だと言うように…見下した態度を理事は取る

 

『わかるか、シャーレの先生…アビドスがシャーレに依頼した……それは良い…好きにすると良い…ただし、彼女たちが妙な動きを見せたのであれば……企業としては、アビドスは正規に借金を返す気がないと捉えても仕方がないとは思わないか?』

 

……………この世界でも『企業』といったら…

 

『そんな不当な理由、通用するわけないでしょ!』

 

『不当だと? そもそも、三百年のローンに正当性があると思っているのか、君たちは…むしろ我々が今まで三百九年ものローンを許容していた時点で、温情があったのだとは思わないか? それに、不当だと言うのなら、別の銀行に借り替えすればいいだろう…もっとも、廃校寸前の学校に九億も貸す奇特な銀行があればの話だがな』

 

『…………っ!』

 

『シャーレ…今回の仕事は、お互いの行き違いがあった事故ということで、不問にしようではないか…』

 

『ただし弁えることだ、シャーレ…確かに貴様の組織はあらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる超法規的機関であり、自治区を自由に動く権限がある…しかし、それまでだ…今までは随分と好き勝手に動いてくれたようだが……今回の件は、貴様には何も関係ない……何も関われない…貴様が借金を返せるわけでもなければ、土地を取り返せるわけでもない』

 

『アビドスの責任は、貴様に背負えるものではない。それら全て、私の一存で決まるのだから』

 

「…………」

 

『……みんな、帰ろう……これ以上ここで言い争っても意味が無い、弄ばれるだけ』

 

『ほう……副生徒会長、さすがに君は賢そうだな…ああ、思い出したよ…賢そうな君と一緒にいた、あの全くもってバカな生徒会長のこともな』

 

『…………』

 

そんなホシノに対して、わざわざ顔を向けて煽り、理事は笑う…

 

『では、保証金と来月以降の返済についてはよろしく頼むよ…お客様…ふふっ、ふはははは…………!』

 

『存外悪くない時間だった…さあ、お客様を入り口まで案内してさしあげろ』

 

誰も………言える言葉はなかった

 

「……全員………戻って、休め」

 

だが全員生きて帰れたことを、今は喜ぶしかない

 

「「………………」」

 

静まり返った教室…アヤネも俺も…何も喋らない…喋れない…

 

このキツイ空気から逃げるように…教室を後にする

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

誰一人も居なく…辺りには外から入ってきた砂だらけの廊下

 

「……………」

 

手が震えている…

これは恐怖ではない…怒りだ…カイザーに対する怒りでも…あのカス(理事)に対する怒りでもない…

自分自身だ…

俺が…アビドス砂漠を調査するなんて言わなければ…こんな事にはなってはいなかった…今でさえ返済に苦しいって言うのにさらに首を絞めるような事になってしまった…

全部……俺のせいだ…

だが…この怒りをどこにぶつければいい…

掃除用ロッカーの前で立ち止まる…

アビドスの備品を壊す様な事になるが…もうそんなのはどうでもいい…

 

拳を思いっきり握りしめ…ロッカーに向けて大きく振りかぶる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カイザー理事…お手本の様なグズやな…
どうしてこのキヴォトスでは大人って言うのは大部分がグズなんだ?
どれもリンクス先生がキレそうな奴ばっか…
さて…多分もうそろそろアビドス編は完結するはず…

次回は………まぁ気長に待ってください

リンクス先生の大切な人『ステラ・エリン』をどのような登場させるか

  • 幻覚や幻聴として登場
  • 転生して『生徒』として先生と行動
  • 転生して『人間』として先生と行動
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