「…………」
「……うへ」
俺の疑惑の視線から、気まずそうに目を逸らすホシノだった。
小鳥遊ホシノ
趣味、昼寝
彼女の好きなものを、俺はそれ以外知らなかった
より正確に言えば、俺はホシノのことを何も知らない
それが分かったのは、アビドスの一件が解決し、事後処理に追われていた頃の話である
所用あって深夜にアビドス自治区内を出歩いたことがあったのだが、その時、ホシノとばったり遭遇した
出会ったこと自体は偶然ではあったものの、俺たちが丁度その日だけ深夜に出掛けていた訳じゃない
当初ホシノは「偶然だね〜」といつもの調子で言っていたが、その嘘を看破したのは、俺ではなく、その後ろから走って来たアビドスの住民だった
事情を聞いたところ、不良に襲われているところをホシノが助けてくれたが、急に立ち去ったので追いかけて来た、とのこと
昼寝が好きな理由も納得がいく……
いや昼寝が好きと言うよりも、昼寝をしないと持たないのだろう
毎晩夜警をしていればな……
「……眠れないのか」
「うへー……」
そう聞くが、依然としてホシノは目を逸らしている
「毎晩アビドスを夜警しているところは感心するが、だが健康には気おつけろよホシノ」
思いのほか素直に俺の言葉を肯定して、しかしホシノは、でもさ、と。
目を伏せながら、呟くように続けた
「夜に一人だと、眠れないんだよね」
「お昼は暖かいし、明るいし、誰かがいるから、安心して眠れるんだ」
「…………」
「うへぇ〜、先生、この事はみんなには内緒にしてね〜」
「じゃ、おじさんは帰るよ、またね〜」
逃げたな……
まぁいい、ホシノが選んでやっている事だ、それに文句もいう義理もない
だが、休んで欲しいのである
ポケットからあるものを取り出す
それは二人分のアクアリウムのチケット
確かホシノは、昼寝以外にも、こういった海の生物とか好きだったと聞いたことがある
「……っと言うことで、ホシノに休んで貰うために、アクアリウムチケットを送る」
「いや待って待って待って……!」
「話が急すぎて、おじさんついていけてないよ!?」
翌日のアビドス高校にて、ホシノにそう言う
ホシノは困惑を隠せない、こんな唐突に言ったからな、無理もない
「他の子に渡してあげなよ」
と、一切の躊躇なく言った
前にホシノはアクアリウムの抽選券を外した時、あれほど落胆していた
だが、自分の感情を押し殺して、我慢してしまう
子供らしからぬ、大人らしさ
立派だと褒めるべきかと思うが、今回ばかりは違う
「これはホシノのだ、要らないって言うなら処分するしかないな」
「む……」
「じゃぁ、貰うよ……」
少々おとなげない気がするが、とりあえずホシノにこのチケットを渡すことができた
「ノノミとかを誘って楽しんでくるといい」
「……」
ホシノは、チケットをジッと見つめ何かを考えている様子
「ねえ、先生……少しお願いをしてもいいかな」
「?」
「一緒に、行かない?」
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休日
アビドスから離れた場所にあるアクアリウムに、訪れていた
このアクアリウム自体が開場したばかりの施設であるため、人の出入りはそれなりである
「うへー、ここがアクアリウムかあ、おじさんは田舎者だから、こういうところは見慣れないなあ」
いつも通りの調子を装いながら、しかし隠し切れない弾んだ声で言うホシノだった
やはり相当に楽しみにしていたらしい、いつも眠そうにしているホシノの動きと比べて、明らかに素早いものがある
「これ見て、パンフレットも貰ったよ、熱帯魚館に深海魚館、エサやりの体験館もあるみたい! へえ、イルカショーもあるし……ペンギン館もある。ここはきっと寒いんだよね?」
いつの間にか貰ってきたというパンフレットを広げて、地図を指差しながら矢継ぎ早に言葉を繰り出すホシノは、目を輝かせながら楽しそうに笑う
「これ見て、先生! 海のトンネルだって! ジンベイザメもいるんだって! 鯨みたいなものかな……?」
「……まあ、似たような生態では、あるのかな?」
あの世界は海の生物おろか、人がまともに生活できない環境だからな
なんとも言えない
昔、ステラに見せてもらった生き物の図鑑で見た事があるぐらいだ
「今日一日で全部見れるのかな……うーん、頑張らないと」
「……あまり時間を気にするなよ、楽しめなくては本末転倒だからな」
「……それもそうだね。よーし、楽しもう〜!」
今までにないハイテンションのホシノに連れられて、俺はアクアリウムに入った
熱帯魚館で色とりどりの魚を観た、深海魚館でおどろおどろしい独特な魚を観た
キヴォトスでの海の生態系を見つつ、俺たちはそして、このアクアリウムの目玉である、海のトンネルに到着した
「へえ〜すごい。こんなところ初めて」
トンネル型の水槽
周囲全てをアクリルにすることで、海の中に潜り込んだかのような景色になっている……海の底を歩いている感覚だ
あっちの世界では絶対に味わえない光景だ……
……ステラと来たかったな
彼女が、この景色を見たら
どう思っていたのかな
しかし、青いな……
そう、初めて感じる感覚を楽しんでいる時
『わぁ!見て見て!初めて見たね!』
「……ッ!?」
今のは、なんだ……幻聴?
ステラの声がした……
ここにいないはずなのに
『海ってこんな青く透き通ってたんだね』
「……っ」
トンネルの水槽の通路に、ステラがいる
金髪のロングヘアーに、落ち着いた色の服装をしている女性の姿が……
「ステ……」
「先生?」
「……ッ!」
ホシノに呼ばれ我に返る
ステラがいた所には、ホシノがいた
……なんだ、俺はホシノの事をステラと見間違えたのか?
いや、それはない……
髪色も……背丈も……
多分、俺がステラとこうしてアクアリウムに行きたかったという気持ちが生み出したものだろう……
ステラとホシノでは、全く違う……
「……」
「……ステラさん、だっけ」
「……ッ!」
「シロコちゃんから聞いたよ、先生にも大切な人がいたんだね」
「…………」
「もしかして、『見えた』?」
「それは……」
ホシノの言っていることは、おそらくだが、この場にいないはずの人物が見えている事だろう……
さっきの俺がステラを見た事のように……
「うんうん、気にしないで先生」
「それよりさ、見て見て!」
「お魚! あははは、カワイイ!」
側を泳ぐ魚を見て、無邪気に笑うホシノだった
子供らしい、屈託の無い笑みだった……
もしかしたら、こちらの方が素なのかもしれない。
微笑ましい、光景だ……
ステラも、あんな表情をしていた気がする……
「あ!あれが、鯨ってやつなの?」
ここにいる色々な海の生き物達が……
俺たちよりも高い位置を泰然と泳いでいた。
力強く
まるで羽ばたくように
「……」
青く透き通った色、生き物達が、動いているのを
俺は、圧倒されながら見ている
「……」
「うへぇ、先生があんなに見とれるなんてね〜」
「先生は『青』が好きなの?」
「特別好きな事は無い……だが」
「この透き通った色が、珍しくてな……」
「珍しい?」
「俺のいた世界では、ある物質よって環境が汚染され、地上や海では生物がまともに過ごせない環境だった」
「あの世界は青空はあったが……透き通ったてはなかった……」
「だけど、今見ているこの景色は、美しいと思う」
青
透き通るような、青
そういえば、ステラの瞳の色も、透き通った青だったな……
「そっか……」
その後、エサやり体験館、クラゲ館、ウミガメ館、グッズショップまで
アクアリウムのほぼ全てを歩き回り、アクアリウムを出た頃には日が沈み始めていた
「……楽しかった」
ホシノは心の底から溢したかのような言葉を言った
「記念品もこんなにたくさん買っちゃったし、うへへへ」
手首にグッズが入った袋を下げながら、愛おしそうに、ジンベイザメのぬいぐるみを抱いているホシノ
この姿は……俺が初めて守れたもの、なのかもしれない。
「ヘトヘトになるまで遊んだから、もう家に帰ったらそのまま倒れて二十四時間は寝れちゃいそう」
「……そうだな、ゆっくり休むといい……いや、むしろホシノはもっと休んだ方が良い」
「……うへへ……ありがとうね、先生。でも、大丈夫だよ」
「さて、じゃあそろそろ帰る? 一日歩き回ったのにまだ見てないところがあるなんて、なんだか残念だけど……まあ、頑張ってまた次も来たらいいし。ね?」
次……か……
確かに、あの景色を見ることができるのであれば個人的に来ても良いと思えるほどだ
「うへ、次はおじさんが招待するから、期待しててもいいよ、先生!」
「……あぁ、楽しみに待っている」
そうして、夕日の光が差し込む中、俺とホシノはアビドスへと帰って行った
「……」
(先生は、私と”同じ”)
(私は、ステラさんの用に、先生を支えることはできるのかな)
(……ユメ先輩)
はい、ホシノの絆ストーリーでした
リンクスとホシノは似ていて違う
これも偶然か……?
リンクス先生の大切な人『ステラ・エリン』をどのような登場させるか
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幻覚や幻聴として登場
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転生して『生徒』として先生と行動
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転生して『人間』として先生と行動