無名のリンクス 先生になる   作:雨垂れ石

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私はこの景色を……


絆ストーリー ヒナ

 

 

『先生、委員長への借りを返してください』

 

「…………」

 

厚かましい奴だ、と俺は天雨アコに対して感じた。

まぁ自分で作ったんだ、なんとも言えない

 

『まさか忘れたとは言いませんよね?』

 

「……忘れていない、だがお前にそれを言われる筋合いも無いだろう」

 

『チッ……』

 

「……明日、ヒナの所に行く、時間を作ってくれ」

 

『それなんですが、ヒナ委員長には言いません』

 

「なぜ……いや、理解した」

 

俺は既にヒナの仕事状況を調べて知っているが、それらの情報を踏まえて考えると、時間を作るという彼女の行動も、かなり無理のある仕事のこなし方をする必要があるのだろう

俺が明日来ると知れば、ヒナは無理をしてでも仕事を終わらせようとするだろう

俺も、アコもそれは理解している

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、ゲヘナの風紀委員を訪れる

ホワイト・グリントで来たため、すぐに出迎えが来てくれた

出迎え以外の風紀委員はホワイト・グリントに群がっているがな……

まぁどうやら、他の風紀委員には俺が来ることは伝えられているらしい

 

案内人に連れられ、ヒナがいる執務室へとたどり着く

扉を開けると、書類を捌いているヒナと、それを補佐するアコがいる

 

「な……せ、先生!?」

 

俺が前触れなくゲヘナに来たという事実は、意外なことにヒナを驚かせるには十分な内容だったようだ

書類からこちらを見た時、思わず椅子から転げ落ちそうだった

 

あの様子からして、アコは本当に伝えていないらしい

 

ちなみにそのアコは現在、無反応である

逆に不自然じゃないのか?

 

「ど、どうして先生がここに……!?」

 

「何って、前にヒナが言ってた事だよ」

 

「私が……あっ」

 

どうやら思い出したらしい

ホシノを救出為にヒナにお願いした時、その条件として俺の事を教えるというと、そう約束した

 

「先に言ってくれれば、準備もできたのに……」

 

「そうしたら、お前は無理をしてでも仕事を終わらそうとするだろ……」

 

「それは……」

 

図星だな

普通に疑問である

なぜそこまでヒナは自分の身体を労らないのか

ゲヘナ風紀委員長だから、っと言えばそれで通ると思っているのだろう

悪いが通らんよ、それはな

 

「今日の仕事は終わりだ、しばらく休め」

 

「いやでも、私は大丈夫だから……」

 

「その黒い膜で言えることか?」

 

「……」

 

「ヒナ、お前の我慢強さはさすがだが、疲労は誤魔化すべきではない、過労は身を滅ぼすぞ」

 

「……それは……分かっているつもり」

 

「そう……『つもり』だ、本当の意味では分かっていない」

 

「ヒナがなんと言おうが、今日は休まるせぞ」

 

そうして、ヒナを抱え、仮眠室へと連れていく

 

「えっ!?ちょ……先生!?」

 

「アコ、重要な書類はまとめておいてくれ、後で俺がやる」

 

執務室から出て、足場に仮眠室へと運んで行く

 

「せ、先生!自分で歩けるから!」

 

「ダメだ、今日は一切身体を動かすな」

 

「でも、この姿は……!」

 

「過労でぶっ倒れるより幾分かマシだろ」

 

「風紀委員長としての威厳が……」

 

「過労でぶっ倒れる風紀委員長がどこにいる」

 

「……むう」

 

仮眠室へとヒナを送り、執務室へと戻って行く

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日

昨日は残った書類を捌き、風紀委員会の指揮も行った

改めて、このゲヘナの治安を認識できた

そりゃヒナそうなる訳だ……

度重なる不良生徒の暴動、美食研究部の爆発事件、温泉開発部の暴走

これらをほぼヒナが片付けていたと聞く

よく今まで、この治安を保てていたな

まぁ、今日はそんなことは考える必要ない

朝早く、ホワイト・グリントに乗り

不良生徒を片っ端からぶっ飛ばした

(一応、リンには許可済み)

 

なので、今日のヒナは仕事は一切しない

だがら俺との約束も果たせる

そうして、約束の事を話そうかと思っていたが……

 

「そういうのは他所でやってきてください!!」

 

「先生、ショッピングにでも連れて行ってあげてください! 男でしょう!?」

 

アコの謎の暴論と有無を言わさぬその剣幕に、ヒナでさえも押し切られてしまい、あれよあれよとソファから出口まで引っ張られて、俺たちは執務室から叩き出された

ガシャン!

わざとらしく音を立てて鍵を施錠される有様である

帰ってくるなと言わんばかりだった

 

「…………」

 

「…………」

 

締め出された俺たちは、二人して扉の前で佇んで、しばらく沈黙する

 

「その……先生。せっかくだし、出掛ける?」

 

「……そうだな」

 

まあ、俺が悪いのだろうな、恐らく……

こうして、アコの『気遣い』により、図らずもヒナの二日目の休日が始まったのだった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「えっと……」

 

しかしヒナは、逆に困惑した様子で考え込んでしまった。

どうにも、ヒナにこれと言って行きたい場所がある訳ではないようで、結局俺たちは、アコの衝動的な発案だと思われるショッピングモールに、そのまま足を運んだのだった

 

「……それじゃあ……その、どうする?」

 

到着した先でも、やはり戸惑った様子で俺に訊くヒナ

ゲヘナ郊外のショッピングモールに来たものの、当然と言えば当然なのか、ヒナのやりたいことが見つかる訳もなく、目的を見失ってしまった

 

「……一通り、回ってみるか」

 

「…………そうね」

 

そうして、アクセサリーショップやゲームセンター、アパレルショップなど、目についた場所を軽く巡ってはみたものの、ヒナの琴線に触れるような場所はなかったようで、特に一定の場所に留まることなく再び最初の場所に戻って来た

 

「ごめんなさい、先生……」

 

「いや、俺の配慮が足りなかった……謝るのは俺だ……」

 

「あまり自分を卑下するような事を言うな、それに……分かったこともある」

 

「え……?」

 

「ついて来い少し歩く」

 

「どこに?」

 

「行けば分かる」

 

そうして、ヒナを連れてショッピングモールから出る

ヒナを引っ張るように連れて来た場所は、川沿いの道だった

ショッピングモールまでの経路で通り過ぎただけの、ただの道である

 

「ここが、先生の言ってた場所?」

 

「いや、目的地はここではない」

 

「?」

 

そうして、先生が上を見上げる

私もそれにつられ上を見上げると……

 

「……ッ!?」

 

白い機体

先生の乗ってる兵器 ネクスト『ホワイト・グリント』がこちらに降りてくる

ズンッっと着地し、頭部がスライドする

 

「乗るぞ」

 

「えっ?」

 

先生に抱えられ、ホワイト・グリントに乗る

私は先生の膝に乗るように座っている

 

上部のハッチが閉まり、モニターがつく

そのまま先生は機体を操作し、ゆっくりと上昇する

 

「ヒナ、掴まってろ、少し飛ばす」

 

OBを起動し、空高くへと飛んでいく

 

 

「……ッ…!」

 

体に凄まじいGがかかる

先生はいつもこれを感じているの?

 

そうして、雲を抜け

見えた景色は……

 

「……」

 

青空が広がる、景色だった……

私はその景色を見て……

 

「ヒナ」

 

「……目の前の景色をどう思う」

 

俺は訊く

問いとしてはあまりにも抽象的ではあったが、しかしヒナは、それでも大人しく目の前へと視線を向けた。

 

目の前の青空は、透き通って

太陽の光が、コックピット内を照らし出す

真っ白な雲の上で

 

「…………綺麗、だと、思う」

 

「……そうか」

 

「これは人によっては何でもない景色だ、よく見る太陽、青空、言葉にしてしまえばそれだけだが、それでもヒナはこの景色を綺麗だと言った」

 

「…………」

 

「その感性を大切にしろ、それが、ヒナの『個性』だ」

 

俺は、膝の上にいるヒナに語りかける。

目線は青空へと向けたまま。

 

「ヒナは騒がしい場所が苦手なだけだ、静かな場所、穏やかな時間を好むだけだ、その感性はお前だけのものであり、お前だけが大切にできるものだ」

 

この青空を綺麗だと思う心は貴重だ

 

「ありがとう、先生……」

 

しばらくの沈黙の後、彼女は言った、優しい、柔らかい声で

ヒナへ視線を向ければ、彼女は先程よりは穏やかな表情で青空を眺め、太陽の光の温かさを感じている

どうやらショッピングモールにいた時よりは、落ち着けたらしい

この様子なら、話してもいいかもな

 

「……俺について聞きたかったな、何から聞きたい?」

 

「うんん、言わなくていい」

 

しかし、ヒナは首を振って、それを否定した

交換条件にするほど知りたがっていたはずの情報を、気を遣って、という風でもなく、ただ穏やかな声音で拒否したのだ

それから彼女もまた、青空を見つめたまま言う

 

「まだ、言わなくていい」

 

「もっと、『今』の先生を知ってから、『昔』の先生を知りたい」

 

「だから先生、これからもよろしくね」

 

ヒナは笑った

それはきっと、初めて見ることのできた、彼女の年相応の笑顔で

浮かべることのなかった、屈託のない笑みで

空崎ヒナの、笑顔だった

 

「あぁ、よろしく」

 

俺もそれに応える

 

 

 




ヒナの絆ストーリーでした
リンクス先生って何かしら生徒と似ているところがあるような気がしなくもないですよね?
なんやかんやでヒナと気が合うかもしれない

はい、ということで絆ストーリー 第一部はこれにて終了です
次回からは、『パヴァーヌ編』です
お楽しみ

リンクス先生の大切な人『ステラ・エリン』をどのような登場させるか

  • 幻覚や幻聴として登場
  • 転生して『生徒』として先生と行動
  • 転生して『人間』として先生と行動
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